タイトル:白き氷と青い海マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/19 00:41

●オープニング本文


「やれやれ、救出がくるのは当分先か‥‥」
 操舵室でぼやいた船長へ、傍らにいた副長も頷き返す。
「砕氷船は数が少ない上に、船足も遅いですからね。仕方がありませんよ」
 彼らの指揮していた貨物船は、北極圏を航海中に流氷に進路をふさがれて立ち往生していたのだ。
「無理に出港したのがまずかったか‥‥」
「納期も迫ってますしねぇ」
 反対しなかったという点では、副長も同罪なので彼を責めるつもりにはなれなかった。
「食糧の心配が不要なだけ幸運じゃないでしょうか」
 どちらかと言えばのんびりしていた彼らが、真にせっぱ詰まるのはほんの数時間後のことだ。

 一人の船員が双眼鏡を手に操舵室に駆け込んでくる。
「セイウチが来ます!」
「そりゃあ、セイウチぐらいいるだろう」
「でかいんですよ!」
「でかいことだってあるだろう」
「とにかく見てください!」
 船員がデッキに連れ出して、セイウチのいる方向を指さした。
 双眼鏡で確認して、裸眼で眺め、距離を察すると、船長も青くなる。
「でかいぞ!」
「そう言いました!」
 距離が離れているためわかりづらかったが、目測で15mはあるだろう。
 巨大なセイウチがこちらへ向かって這い進んでいる。
「ULTに連絡するんだ!」
「しかし、KVだってこんな氷の上に降りられないですよ!」
 副長もせっぱ詰まっているのか、荒い口調で言い返した。
「そんなのは向こうに考えさせろ! こっちは逃げる事もできないんだ! あんなのに襲われたら、ひとたまりもないぞ!」

 依頼の説明を行うのは榊しのぶだった。
「貨物船に迫っているセイウチキメラは全部で7体いるわ。北東から2体、北西から5体よ。
 とにかく氷の強度が不明なため、KVの重量に耐えられるかどうかもわからないの。だから、飛行形態での着陸は考えから外しておいて。再離陸が不可能だった場合、KVを放棄しなきゃならなくなるわ。
 そこで、今回は氷の下、つまり海中を進んで現場に急行してほしいの。水中用KVはそれ以外の機体をワイヤーで牽引して。
 戦い方はおおまかにわけて、2種類。魚雷で開けた穴から氷上へあがって、地上戦を挑むか、キメラの下の氷を割って、水中戦に引き込むか。
 海中からでは氷上の様子がわからないだろうし、最低でも1機は上陸する必要があると思うわ」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文


●能力者、北へ

「ボクはグラップラーの荒巻 美琴(ga4863)。ヨロシクね〜♪」
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェスト(ga0241)だ〜」
 美琴の挨拶にあわせて、ウェストもまたいつものセリフを口にする。
 初顔合わせのメンバーは互いに挨拶を交わし、すぐに依頼内容の検討を始めた。
「キメラで氷りゃ熊った‥‥、と思ったらセイウチか! なめとる」
 シャレを口にして、流れるようなノリツッコミを見せる三島玲奈(ga3848)。
「アイスキャンデー旨いけどな。‥‥キメラは舐めれませんというか、なぶり殺す!」
「哺乳綱ネコ目セイウチ科セイウチ属。‥‥前もこんなキメラいたなあ」
 赤崎羽矢子(gb2140)が記憶にある過去の依頼を振り返った。
「氷上で立ち往生中に敵に襲われて大ピンチか‥‥」
 呆れた口調でつぶやいた感想を抱いたアーク・ウイング(gb4432)も、さすがにその先は声を潜める。
「緊急事態には違いないから、こんなことを言ったら不謹慎だろうけど、何とも間抜けな状況に陥ったものだね」
「現地が晴れているのはありがたいけど、氷の厚さが不明なのは困るよね。氷上戦闘に備えて装備は積んでいるけど‥‥」
 情報を集めてきた美琴だが、肝心の氷の厚さまではわからなかった。立ち往生している船の乗員も調べようがないのだ。
「陸の方が対処し易そうだけど、氷の状態が不明なら、‥‥水中戦しか無いかな」
 そう判断して、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)も依頼に臨む。

 貨物船に接近するキメラ集団に対し、KVも二手に分かれた。
「北東側のキメラは2体なので、速やかに片付けて北西側の援軍に向かいたいところです」
 旭(ga6764)が口にしたとおり、戦力比を考慮すると、北東班の方が有利に戦えるはずだった。
 北東のキメラ2体に対しKVは4機。
 しかし、北西のキメラ5体へ挑むのは、同数の5機であった。
「現場まではよろしく頼むよ〜」
 ワイバーンの機内にいるウェストは、移動を仲間に任せて呑気なものだ。
 彼と玲奈の雷電は空戦用機体であるため、それぞれが僚機によって北西へ向かい海中を曳航されている。
「さて、久しぶりの水中戦闘か。腕が鳴るな。精々皆の脚を引っ張らぬように精進しなくてはな」
 榊兵衛(ga0388)に限らず、乗機のリヴァイアサンが初陣となる遠石 一千風(ga3970)もまた、自然とやる気をみなぎらせていた。

●北東にて

「氷を砕きます。注意してください」
 警告を発すると、旭は頭上の氷めがけてホーミングミサイルを射出し、地上への出口をこじ開けた。
 氷上へ姿を見せたのは、美琴のビーストソウルだ。改めて足下を確認すると、機体重量を支える強度はありそうだが、氷の起伏が障害となるし小さすぎる氷だと平衡が取りづらい。
 セイウチキメラを補足したビーストソウルから位置情報を受けて、海面下の仲間が攻撃体勢に移る。
 ミサイルを温存したいと考えたアークは、水中用ガウスガンで氷を銃撃した。弾丸は氷を貫通したが、砕くことには向いていない。
 代わりに放った対潜ミサイルR3−0がセイウチキメラの足場を粉砕し、キメラの姿が海中へ飲み込まれた。
 ユーリのリヴァイアサンがガウスガンで銃撃を加えつつ、間合いを詰める。これに応じて、セイウチの口からも牙が撃ち出され、彼の装甲を削り取った。
 旭のホーミングミサイルが再び氷を破壊して、残りの一体も海中へ引きずり込む。
「体長15メートルのセイウチ。‥‥なるほど、大きいですね」
 感嘆しつつも、旭は敵より上の位置を取るべくビーストソウルを操った。
「セイウチは牙を振り下ろすようにして攻撃する動物だったはず‥‥」
 狙いは良かったが、彼はある条件を失念していた。
 水中にあるセイウチキメラに行動の制限は少なく、上下逆さまになってビーストソウルへ応戦する。海面の氷に押しつけるようにして、牙の先端を突き立ててきた。
 先手を打たれはしたが、旭にとっても接近戦は望むところだった。無防備な腹をレーザークローで引き裂こうとする。
 別方向からガトリング砲で銃撃するのは、もう一機のビーストソウルだった。美琴もまた海戦に加わったのだ。
「うーん、寒い所の生き物を基にしているから、脂肪の層が装甲の代わりになってるのかな?」
 彼女の推測が正しいならば、より強く、より多くの攻撃を加える必要がある。
 旭機に噛みついているのを好機として、狙いやすい胴体を水中用ディフェンダーで切り裂いた。
 キメラが痛みに悶えると、流れ出る血が海水を赤く染めていく。
 旭はキメラの牙を握りしめて、力ずくで機体から引きはがす。そのまま、牙を支点に体勢を入れ替えることで、ビーストソウルはキメラの背後を取ることに成功した。
「サベージクロー、出力全開! 切り裂けぇっ!」
 旭はサーベイジを稼働させると同時に、セイウチキメラの喉元をレーザークローで掻き切った。
 力の失われた巨体が、深く深く海の底へと沈んでいく。
 セイウチの背後へ回り込もうとしていたユーリだったが、敵もそれをむざむざと許しはしない。牙を撃ち出して彼が回り込むのを牽制していた。
 エンヴィー・クロックで出力をあげて、回避すると同時にユーリは銃弾で応戦する。
 氷を狙う必要がなくなったアークは、残存しているR3−0をキメラめがけて全弾射出した。エンヴィー・クロックに支えられ、全てが命中する。
 3重の爆発によって視覚と聴覚を奪われたセイウチキメラは、下方から突き上げるように接近したユーリのリヴァイアサンに気づかない。
 スクリュードライバーの先端がセイウチの背中を深々と貫いた。

●北西にて

 北東班とほぼ同時に、北西班でも氷を破ってKVが浮上していた。
「貨物船聞こえるか! 正義の傭兵到来! 渡りに船だぜ!」
 不安を抱いているであろう要救助者に、玲奈が高らかに到着を告げる。
「という事で大船気分で待ってろ」
 本来ならば氷上担当はウェスト一人のはずだったが、水中用の装備を搭載していなかった雷電もこちらへ加わっていた。
 牙を吐き出すセイウチキメラに対し、雷電は回り込んだ氷塊を即席の盾に仕立る。
「北海のスナイパーとして暗躍するでぇ」
 わずかに顔を覗かせた雷電のスナイパーライフルD−02が火を噴いた。
 ウェストからの位置情報で、羽矢子はアルバトロスを浮上させていく。
 キメラの進行方向に先回りして、氷の下面をソードフィンでえぐる。確実に破壊するため、厚い氷を少しでも削ろうというわけだ。
「お願い、兵衛」
 潜航形態を取って離脱した羽矢子が合図すると、待ちかねていた兵衛がホールディングミサイルを命中させて氷を割った。
 音を立てて海中に没する大型キメラ。
 敵が動揺を見せるこの一瞬を狙い澄ましていた人間が二人いる。羽矢子と兵衛はこのチャンスに戦況を有利にすべく、2挺のガウスガンで銃撃を集中させていく。
「出し惜しみはなしだ」
 兵衛は初手からエンヴィー・クロックを稼働させ、羽矢子の攻撃を回避しようと動いたキメラを、ガウスガンで狙い撃つ。
 徐々に包囲を狭める2機が接近戦へ踏み切る寸前に、セイウチキメラは長大な牙で襲いかかった。
 泡の尾を引きながら急接近した熱源感知型ホーミングミサイルが、セイウチキメラに命中して出鼻をくじく。一千風による援護射撃だ。
 キメラの傍らを通過した羽矢子は、すれ違いざまにソードフィンを一閃させた。後詰めとなった兵衛は、キメラの直前で機体を変形させると、ディフェンダーを深々と突き刺してキメラの息の根を止める。
「そいつは任せたよ〜」
 間延びしたウェストの言葉と共に、氷に大穴が開いて外光が差し込んだ。氷上にある彼が、キメラの足下をH12ミサイルポッドで砕いて、海中へ叩き込んだのだ。
「さあ、次のお客さんだ。あのデカい図体でも満足できるよう、思いっきりご馳走してあげようじゃない?」
 羽矢子が促すと、3機のKVが新たな敵に群がっていった。

 玲奈の銃撃でフォースフィールドが生じるのを、ウェストが興味深そうに眺めている。彼にとって、依頼への参加はキメラ研究の一環でもあるのだ。
 キメラが連続して射出する牙の銃弾を、ワイバーンはマイクロブーストを使って回避する。
「遅い、遅いね〜」
 4足歩行のワイバーンは氷上においても十分な安定度を保ち、スパイクフレームが氷を噛んで操縦性をさらに高めていた。機体選別の妙と言うべきだろう。
 氷上の2機で3体を支えるのは難しいため、再びミサイルを射出してウェストが3体目を海中へ送り出す。
 踏んでいる氷を下から突き上げられて、ワイバーンがバランスを崩した。海中のキメラによる体当たりだった。
 顔を出したキメラの牙がワイバーンを引っかけて、逆に海中へ引きずり込んでしまった。
 氷上には雷電1機が取り残された。

●白き氷と青い海

 没したと同時に、キメラの体当たりを喰らうワイバーン。ウェストは至近距離から水中用ガトリング砲を叩き込んだ。
 キメラを追い払おうと、兵衛機がホールディングミサイルを射出する。
 一千風のガウスガンは幾度目かの失敗の果てに、牙を打ち出そうとした口内へ銃弾を命中させた。
「まだまだ! リヴァイアサンはこんなものじゃ無い」
 ヒット&アウェイを仕掛けた一千風の機体が、変形して高分子レーザークローを突き出す。それを受け止めようとしたキメラは、破壊力に負けて長大な牙を折られてしまった。
 攻撃手段を奪われ傷を負ったキメラが、背を向けて逃走に移る。
「逃すか〜!」
 ウェストの放ったR3−0は、キメラに追いついたと同時に爆発に飲み込んだ。
「これで2匹。残りは‥‥」
 一千風は羽矢子が応戦している1体へと機首を向けた。

 氷上では銃弾と牙が交錯しており、手数の差はおよそ1対2。数の違いがそのまま出ていた。
 2体のキメラがのっそりと這い進んでくるのを、移動しながら応戦していた雷電は、足場の傾きで氷を踏み外してしまう。
「くっ‥‥」
 海に落ちた右足を氷塊に挟まれ、玲奈はその場での銃撃戦を覚悟する。
 じわじわと接近してくるキメラに、玲奈は効率的な狙撃を繰り返して、敵の足を少しでも遅らせようと試みた。
 キメラ付近の氷が、裏面に発生した爆発で大きく割れる。海中からホールディングミサイルを命中させたのは、玲奈からの通信を受けて駆けつけた兵衛だった。
 姿を見せたリヴァイアサンは、強化型ショルダーキャノンで一番近いキメラに向けて砲弾をぶつけていく。
「バグアの野望を氷ごと砕くぜ!」
 玲奈は超伝導アクチュエータを稼働させた、キメラの頭部に着弾を集中させて頭蓋骨を粉砕する。

 海中で3機のKVに追い立てられたキメラが、東へ向かって逃走を開始する。もしかしたら、味方との合流を計ったのかも知れないが、その期待がかなうことはなかった。
 キメラを出迎えたのは、一仕事終えた4機のKVである。
 ユーリやアークのガウスガンを受けたキメラは、逃走を諦めたのか敵への反撃を試みた。
 接近したキメラに対し、システム・インヴィディアを稼働させたアークは、レーザークローで応戦した。
 キメラの注意が彼女に向いているうちに、3機のKVがキメラを取り囲む。
 美琴のツインドリル、ユーリのスクリュードライバー、旭のレーザークローが3種の傷を与えて、キメラを絶命させる。

 玲奈と兵衛の銃撃にさらされて、セイウチキメラは氷を割って海面下へと逃れた。だが、それで安全圏へ逃れたとはとても言えない。
 ウェストの水中用ガトリング砲や、羽矢子と一千風のガウスガンが、三方から銃撃を加えてキメラの生命力を奪っていく。動きが鈍るのを待って、彼らは仕上げにかかった。
 これまで一千風は練力を温存していたが、ラスト1体ともなればもはや節約の意味はない。なにより、彼女自身が新しく手に入れた機体の機能を存分に使ってみたかった。
「システム・インヴィディア、エンヴィー・クロック発動! この一撃で!」
 接近したリヴァイアサンがその勢いを殺さずに、レーザークローを腹部に突き刺した。
 その後を追った羽矢子も、同じくレーザークローでキメラの体を切り裂く。
 間合いを取ったアルバトロスの機内で、敵を振り返った羽矢子は口元に笑みを浮かべる。
「おかわり‥‥は無理みたいだね」
 敵対行動を取るどころか生命活動すら失ったセイウチキメラに、追撃など不要であった。

 戦いを終えた氷上に再びウェストが這い上がる。研究用にキメラの細胞片を採取するのが目的だった。彼にしてみれば、依頼ごとに行っている恒例の作業だ。
「船には深刻な損害や、負傷者はいませんか?」
 心配した一千風が貨物船の状況を問いかける。
『ああ。あんた達のおかげで、キメラに触られてもいないからな』
 動けなくなった原因はあくまでも氷によるものなので、船への被害はほとんどなかった。もちろん、KVの活躍がなければ、これでは済まなかっただろう。
「できれば氷の除去を手伝いたかったけど‥‥」
 羽矢子もまた一千風と同じ考えを持っていたようだが、さすがにそれは不可能だった。
 船の進路を確保できるほど装備は持ち合わせていないし、作業を終えるまで練力も続かない。さすがに諦めるしかなかった。
「何事もあせっちゃダメということだね」
 船の動けなくなった原因を思い返して、アークがつぶやきを漏らした。
「基地へ到着したら、みんなに暖かい飲み物を用意するね」
 同じ依頼に参加した仲間達を労うべく、美琴が約束する。
 それを楽しみに、9機のKVは帰路についた。