タイトル:バレンタイン決行の通達マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/25 11:54

●オープニング本文


「依頼のテーマは読んで字のごとく‥‥って、本来なら依頼のタイトルを『お知らせ』にしたかったけど、字数制限に引っかかったんだ」
 依頼を持ち込んだのは、ULT広報部のマルコ・ヴィスコンティだ。
「名前から連想するようなお祭りイベントじゃなく、まじめな内容だから、そのつもりで聞いてくれ」
 彼が取り出したのは一枚の地図だった。描かれているのは競合地域に含まれる一区画で、名前を告げれば誰もが知っている激戦地域である。
「ここでボランティアとして医療活動を行っているグループがいる。この仕事の発起人は現地で働いている医者の奥さんで、知り合いに呼びかけて希望者を募ったらしい。目的は、現地で奮闘している旦那達の元へ、思いを届けることだ」
 もともと、現地で不足している支援物資の搬送する必要があって、家族の準備したチョコレートやメッセージカードを一緒に送り届けることになったのだ。
「戦場も一進一退という状況のため、医療班も移動する可能性がある。今を逃すと、次に合流できる機会がいつになるかわからないんだ。そこで今回は戦場をかすめる形で物資を届けに向かう」
 そのためにはいくつかの条件があり、それが依頼達成の障害となるのだ。
「まず、物資は小型のコンテナに積み込んでKVに搭載するんだが、そのとき、コンテナ一つで兵装ラックが一つ占有されてしまう。つまり、コンテナの分だけ兵装が積めなくなるんだ。今回、搬送するのは1ダースあって、うち2つは俺の機体に積む予定だ」
 条件はまだある。
「その状態のまま戦闘へ突入すると、コンテナを破損させる可能性があるため、搬送班は戦闘の前に着陸して医療班の元でコンテナをおろさねばならない。はずすのはすぐに終わるが、残りのKVは戦力が低下したまま戦闘を続けることになるだろうな」
 傭兵の果たすべき役割は、端的に言えば物資の輸送のみだった。
「広報部としては、民間で医療活動を行っている彼らやその家族に助力することで、ULTの名前を高めておきたいんだ。華々しい活躍とはいかないだろうが、大事な仕事だと思わないか?」

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ニア・ブロッサム(gb3555
20歳・♀・SN
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
正木・らいむ(gb6252
12歳・♀・FC
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
ライフェット・エモンツ(gc0545
13歳・♀・FC
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

●発送

「愛する旦那様がたへの贈り物となれば、是が非にでも届けて差し上げなくてはなりませんわね。責任重大ですわ」
 話を持ち込んだマルコ・ヴィスコンティ(gz0279)を怯ませるほどの意気込みを見せるクラリッサ・メディスン(ga0853)。彼女自身が人妻であり、傭兵の良人ともすれ違いの日々が多いため、依頼者へ対する共感が非常に強いようだ。
「‥‥ん。チョコとか。チョコとか。チョコを。護りに来た」
 最上 憐 (gb0002)は一点にひどくこだわっているようだが、思いは変わらないと思われる。
「コンテナを割り振るから、輸送班は集まってくれ」
 マルコの言葉に反応したのは意外と少なく、担当者は3名だけだった。
 まず、3個を搭載したのは、ライフェット・エモンツ(gc0545)のバイパーだ。
「‥‥ちゃんと届けなきゃね」
 依頼者に思いを馳せてライフェットは改めて気合いを入れる。
「わらわはコンテナを三つ積んでいくぞえ。‥‥しかし、荷物運びなど、わらわには似合わぬのう」
 などと不安を招くような発言をする正木・らいむ(gb6252)。
「私はコンテナを4個装備するわ」
 積み込みが最多となるのは、ニア・ブロッサム(gb3555)が搭乗するロングボウとなった。
「大事な届け物、しっかり届けてあげないといけないわね」
 こうして、マルコのR−01を含めた4機がコンテナを取り付け、彼らの護衛を行う7機が航空基地を飛び立った。

「おおおっ。わらわは今、空を飛んでおるのじゃ‥‥!? 凄いのう、景色がすっ飛んでいくのじゃ!」
 初めてフェニックスを飛行させたらいむが、コクピットではしゃいでいる。
「初の空戦か‥‥。まぁ、適切で妥当に処理しようか」
 ジャック・ジェリア(gc0672)も似たような条件なのだが、態度は対照的だった。
「‥‥戦場のバレンタイン、か。思いの篭った品々を託されたのだから、その信頼に応えねばな。地味な仕事ほど大切だろう」
 僚機の積んでいるコンテナに視線を向けて、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)がつぶやいた。
「‥‥‥‥」
 口にこそ出さなかったが、ロビン機内では奏歌 アルブレヒト(gb9003)も頷いている。
「頑丈な雷電で護衛班の楯となるの〜。輸送機付近で恋の用心棒するの〜」
 妙な節回しで話す三島玲奈(ga3848)。バレンタインに浮かれているのか、自棄になっているのか判別が難しい。
「チョコを無事に届けて私も現地の人と恋仲になるの〜♪」
 とは口にしているが、今日会ったばかりでつきあっていくのは非常に困難だろう。
「家族や恋人、そんな人たちの心を詰め込んだコンテナ。ひとつだって落とさせはしない。‥‥だけど、家族や恋人がいるってどんな感じなんだろう」
 仕事の意義を自覚しつつも、幼い頃から記憶を失い家族の温もりを知らないソーニャ(gb5824)は、どうしても実感が伴わないようだ。
「黄金のコンドルをエンブレムに頂く身としては、見過ごせない敵だな」
 敵の目撃情報から推測される特徴を、ホアキンが無線機越しに忠告し始めた。
「コンドルは滑空が得意な猛禽のため、キメラ化しても長所は残っている可能性が高い。高空からの奇襲は特に警戒しておこう」
「そろそろ、敵の縄張りね。私たちは少し距離を取って後方へ回りましょう」
 敵との接触は護衛班に任せるべく、ニア達輸送班は機体を後ろに下げることにした。

●空輸

 敵影は10時方向に出現した。
「輸送班を敵の射程に捕らえられるのは避けねばな」
 ホアキンの言葉は皆にとっても共通の認識であり、できるだけ遠い地点で敵を迎え撃つのが基本方針となっている。
「‥‥ん。迅速に。全力で。接近して。足止めする」
 憐のナイチンゲール等、護衛班の機体がそろってキメラへ向かいエンジンを噴かせた。
 コンドルキメラ7体に対し、こちらで応戦可能なのも7機。コンテナの搭載を4機に絞ったことがプラスに働いたのだ。
 相対距離が600mを切る。敵の射程に踏み込むのと同時に、幾人かは機体スキルを稼働させて敵の攻撃に備えた。
「‥‥敵機の‥‥予想射程圏内に突入しました。‥‥回避行動を取りつつ‥‥接近します」
「ソーニャ、吶喊します。いけー、『エルシアン』!」
 奏歌とソーニャのロビンは、共にアリスシステムとマイクロブースターを稼働させた。重複する効果は多いものの、移動力を底上げして敵との間合いを詰めていく。
 敵のレーザーに対し、クラリッサはPRMシステムによってシュテルンの抵抗値を高めている。
「しばらく、わたくしの機体とダンスに興じて頂きますわ。もっともあなたにとっては黄泉へと到る死の舞踏になるでしょうけれど」
 玲奈の雷電は、敵進路上をナイフで切刻む様な軌道を取っていた。超伝導アクチェータを駆使して、難しい機動からスナイパーライフルD−02を発砲する。狙うのは足や翼で、姿勢制御能力を奪うのを目的としていた。
 ソーニャも派手な機動を行って注意を引こうと試みる。螺旋の軌道を描くバレルロールで敵を誘い、間合いにあわせて搭載兵器を変更して次々と攻撃を繰り出す。
「大事な荷物が詰まってるんだ、一つたりとも落とさせるわけには行かないんだよ」
 初めての空戦であるため、ジャックは自分の実力を過信していない。攻撃する手数を増やし、輸送班から引き離すべく時間稼ぎに徹する。
「荷物に近づけなきゃ良いだけだ、動き回ってりゃ死にはしないさ」

「輸送チームはなるべく一塊となって行動したいのう。バイパーの速度がやや遅いので、それに合わせた速度を出すのじゃ」
 らいむが口にしたとおり、4機は相互距離を縮めることで護衛班がこちらを認識しやすいように努める。
「みんな、頑張ってる‥‥ボクも、役に立ちたい。でも‥‥まだ、分からない事が多くて、弱くて‥‥悔しい」
 僚機へ空戦を任せている現状に、ライフェットが歯がみする。しかし、彼女はなすべき仕事を自覚しており、合流地点へ向かうのを優先した。
 護衛班の間をすり抜けて、2体のキメラがこちらへ接近する。
「ブーストによる突破を試みるのじゃ。突破第一、敵はその次じゃ」
 らいむが号令をかけ、輸送班は一丸となって先へと進む。
「悪いけれど、当たってあげるわけにはいかないの」
 ニアが回避行動を取りつつ護衛を要請するものの、すでに一手遅れた状態だ。
 護衛班が対応するよりも早く、キメラはレーザーを吐き出した。輸送班をかすめて飛び交う数条の光。
 ロングボウに向けて放たれたレーザーを受けたのは、マルコの操るR−01だった。
「くっ‥‥。1つ破損したか」
 左翼側のコンテナの蓋が吹き飛んで、こぼれ落ちる搬送品が風に散っていく。それでも、ニア機が被弾して4つのコンテナを失うという最悪の事態よりは、まだ軽微だと彼は思い直す。
「人の恋路を邪魔する奴は地獄へいくの〜♪」
 追いついた玲奈が側面からキメラに銃撃を加え、輸送班とキメラの間に雷電を滑り込ませた。
「見えた‥‥、発煙筒」
 ライフェットが合流地点の合図を発見した。

●荷卸し

 4機のKVが煙の発火点に向けて降下を開始していく。
「‥‥ん。爆弾は。落とさせない。断固。阻止する」
 ツインブレイドを装備することで上昇させた行動力を活かし、憐のナイチンゲールはキメラへまとわりつく。
 奏歌のロビンはアリスシステム稼働の弊害として、ショルダー・レーザーキャノンの威力が低下していた。回避を優先する代償なので、ある程度は割り切るしかない。時間稼ぎを目的としてキメラへの攻撃を繰り返していた。
 ジャックは特定の箇所を狙うのではなく広角に銃弾を散らしていた。
「どれかがどこかに当たればいい‥‥!」
 贅沢かもしれないが、本体か爆弾、次いでレーザー発射口である嘴に命中することを期待していた。
 爆弾を撃ち抜いたのは憐の攻撃だった。至近距離の爆破によって、もう一つも誘爆する。
「‥‥ん。今が。チャンス。一気に。行く」
 負傷したキメラへ憐が追撃を激しくしていった。

 着陸を終えたKVは順次変形を行いコンテナの取り外し作業を行っていたが、上空の戦況に注意を払っていたニアとらいむが同時に警告を発する。
「上空にキメラが接近しているわ。爆弾の投下を阻止して」
「わらわ達の近くに集まるのじゃ。守りきってみせるからのう」
 仲間に呼びかけるニアと、スピーカーで指示を飛ばすらいむ。
 彼女たちの頭上へ到達したのは、一番高空に達したコンドルキメラだった。

 両脚の爪が開かれて、積んでいる爆弾が投下される。
 護衛班にとって何よりも優先すべきは、搬送班や医療チームの保護だ。
 ホアキンの雷電が、いち早くブーストを点火させてパワーダイブを敢行し、自由落下中の爆弾を追う。
 皆の意識がそちらに向いた隙を突いて、雪崩を打つように次々と爆弾が投下されていく。
 ソーニャがM−112煙幕装置を使用していたのは僥倖だったが、その煙を貫いて爆弾は降り注いだ。
 その数は合計8個。
 クラリッサの射出したUK−10AAMが2発の撃破に成功する。
 一つ一つの落下地点を検証していては、とても処理が追いつかない。
 ホアキンは超伝導アクチュエータを稼働させて、爆弾を高分子レーザーで撃ち抜いた。
 彼の他にも降下を行った人間が存在する。
 ジャックは温存していたブースト空戦スタビライザーを稼働させ、シールドガンで爆弾を狙い撃つ。
 ブーストを使用した憐のナイチンゲールもそれに並び、残りの爆弾に向けて試作型「スラスターライフル」を発砲した。射軸のずれた爆弾には、自機への損害も覚悟してソードウィングで斬りつける。
 5発を処理した3人であっても、残りの爆弾には間に合わない。だが、これは処理する必要のない代物だった。
 ソーニャの煙幕装置による効果か、狙いを外した爆弾は誰一人巻き込むことなく終わった。

●到着

「玲奈さん。後ろに気をつけて!」
 クラリッサの言葉を受けて、玲奈は反射的に雷電を失速させると、意図的に高度を下げた。
 追おうとするコンドルの虚を突き、急上昇を行ってD−02の照準に捕らえた。翼を撃ち抜くことで行動の自由を奪ったものの、彼女に追撃を仕掛ける余裕は無い。
 皆の注意が爆弾へ向いたことで、一時的にキメラが数的優位を手にしており、数羽がかりでKVへ襲いかかったのだ。
 クラリッサはG放電装置で敵を怯ませて、手近な敵との距離を詰めるとドックファイトへ持ち込んでいく。
 輸送班が再び離陸するまで、奏歌はアリスシステムを連続使用して回避に専念するつもりだった。交戦中の彼女は、別な個体がこちらへ首を向けたのに気づき、脚爪のブースターを点火して緊急回避に成功した。
 空戦中の彼女等の元へ駆けつけるKVの数は6。
 爆弾の撃破に向かった3機だけでなく、輸送班だった3機も仕事を終えて加わっていた。医療チームを護衛するためマルコだけが地上へ居残りである。

 補助ブースターを駆使したロビンが、インメルマンターンにてキメラの上方へ位置取った。
「ソーニャサーカス。思いっきり行くよ」
 ソーニャはキメラの頭上からG放電装置とUK−10の連携で追い落とそうとする。
 飛行能力を削られたキメラは、上昇してきたニアとソーニャから挟撃を受けた形となり、空に散った。
「皆の‥‥足を引っ張らないように、しないとね‥‥。KVを使った依頼は、初めてだけど‥‥きっと大丈夫」
 ライフェットは不安を抱きながらも、ブースト空戦スタビライザーを駆使してキメラのレーザーから逃れることに成功する。
 そのキメラめがけてシュテルンがミサイルを撃ち込んだ。クラリッサとしてはこの攻撃が外れたとしても、ライフェットに攻撃のチャンスを与えられるとの読みだった。
 呼吸を合わせたバイパーとシュテルンの連携が、銃撃を集中させてコンドルキメラを撃ち落とす。
 キメラに背後を取られたソーニャは、僚機の射角へと逃げ込んだ。
「わらわみさいる、発射じゃー!」
 誘い込まれた形のキメラに対し、らいむの放つUK−10が命中して傷を深める。
 そのまま接近したフェニックスは速度を保ちながら変形を行い、近接武器のリッターシュピースでとどめを刺した。
 まだ3体を撃破したにすぎないのだが、コンドルキメラは過半数を残しながらすでに怯みを感じさせていた。
「‥‥ん。ブースト発動。ハイニマニューバ展開。突撃」
 チャンスと見た憐はナイチンゲールの機体性能を一時的に上昇させ、ソードウィングによって羽ばたいている右の翼を切断することに成功する。
 もはやキメラ達に戦闘続行の意志などなく、敗走を開始する。
 玲奈のD−02の撃ち出した銃弾が、背を向けたキメラの胴体を貫通して撃ち落とした。
 これが最後なので、ホアキンも残っているK−02小型ミサイルを全弾射出し、残っている2体を爆発に飲み込む。黒こげになって落下したのは1体のみだ。
 残り1体だけがKVの射程外への逃走を果たす。
「‥‥競合地域だから、ここまでだろうな」
 深追いの危険性を考慮して、ホアキンが機首を翻した。
「‥‥ん。お腹。空いた」
 憐のセリフが仕事の終了を告げる。
 全滅にまでは至らなかったが、依頼目的から考えればこれで十分なのだ。

「初陣の素人の割には頑張った方か‥‥。しかし地面に足付けてた方が戦いやすいな」
 バイパーから降りて地を踏んだジャックが改めて実感する。
「‥‥任務完了です。‥‥形ある想いは‥‥届いたでしょうか?」
 届けた補給物資の確認をしている彼らの様子を奏歌が眺めている。
 チェックを終えた医師達は、ようやく個人的な荷物を開ける余裕ができた。家族達からの贈り物を手に、喜びの声を上げている彼らの姿に、傭兵達も仕事の達成を実感する。
「奥様達からの想い、大切になさって、頑張って下さいね」
 もともと共感しているクラリッサが、感情を込めて医療チームへ言葉を添えた。
「わらわも頑張るゆえ、そなたらも頑張ってほしいのじゃ!」
 こう励ましたのはらいむである。
 出発時にも感じたわずかな疎外感を蘇らせていたソーニャは、同じように所在なさげにしていた一人の少年に気づいた。
 負傷した避難民なのだろうと推測して、ソーニャはハート型のチョコを差し出す。
「ねぇ、食べる?」
 こんな状況で女の子にもらうとは予想外だったのかきょとんとした表情でソーニャを見返す。
「‥‥ありがとう」
 少年と並んで腰を下ろし、ソーニャもチョコレートを口に含む。
「普通のチョコの味だね。‥‥でも、一人より二人の方がおいしいかな」