●リプレイ本文
●英雄を目指して
「ULTタウンを大いに盛り上げるための戦隊ヒーローということで、みなさんとも仲良くできたら嬉しいのです」
要(
ga8365)は大いにやる気を見せていた。
「戦隊ヒーローはちびっこと大きなお友達の永遠の憧れの的! 正義のためにがんばります!」
彼女に続いて、ユーリア・パヴロヴナ(
gc0484)も皆へ挨拶する。
「ん〜。こういうのは初めてだからちょっと照れくさいわね。やるからにはちゃんとやるけどさ‥‥。みなさん宜しくお願いしますね」
「さて、今回はヒーロー物の初めっすからね! 皆で良い物にして次回に繋げましょうっす!」
虎牙 こうき(
ga8763)が発案者であるマルコ・ヴィスコンティ(gz0279)の元へやってくる。
「ってことで、今回からお世話になるっす! よろしくっすね、マルコの兄貴!」
「あ、ああ、盛り上げていこうか」
聞き慣れない呼び名にマルコが戸惑いを見せた。
これから長いつきあいになることを期待して、そこかしこで挨拶が交わされていた。
「シャーミィ・マクシミリ(
gb5241)です、よろしくお願いします」
「よ‥‥よろしく」
人見知りによるのか、希崎 十夜(
gb9800)が緊張を見せていた。
(「ヒーロー‥‥ですか。あまり、柄じゃない気もしますが」)
消極的な態度だったが、彼は覚醒すれば性格も変わるため、撮影上の不安はないと思われた。
「参加者も集まったことだし、それぞれにスーツの色を振り分けておくか」
マルコが話を切り出すと、それぞれが希望を述べていく。
「生粋の大阪人やし、私はギャグメーカー希望! 黄色い人みたいなっ!」
カレー好きの元祖を目標に、三島玲奈(
ga3848)が名乗りを上げた。ULTタウンの為にも、ギャグのためなら体も張ろうという意気込みだった。
「要はスカイブルーを希望なのです。覚醒時の髪と目の色からですが、スーツ着たら見えないんですよね。仕方ない。正義のヒーローは素性を明かしてはいけないのです‥‥」
「アタシはローズピンク。リーダー役を希望するわ」
シェリー・ローズ(
ga3501)の意欲的な性格は、リーダーに向いていると言えるだろう。
そして、こうきがカーマイン、十夜がシルバーグレイ、ユーリアがビリジアン、シャーミィがアンバーと、順調に決定されていく。
役回りにもこだわりがあるのか、ユーリアはネガティブなキャラを望み、こうきはリーダーの補佐を引き受けた。
入念に準備運動や発声練習を行うあたり、こうきはもともと苦労人のようだ。ヒーローショーに参加した経験が現れているのかもしれない。
撮影に取りかかろうとした一同に対し、シェリーは宣言する。
「アタシはこの作品を、只のお子様ドラマにしたくないのよ」
そこまで高い目標を掲げていた人間は一人もおらず、皆が驚いて彼女を見返した。
「いつかはハリウッド映画に‥‥。皆、力を貸して!」
シェリーのぶちあげた構想に戸惑う聴衆だったが、ポツリポツリとつぶやきが漏れた。
「まあ、関わる以上は、いい作品にしたいよな‥‥」
「夢が大きい方がいいじゃん。できる限り頑張るって事だろ」
シェリーの熱意は、少しだけスタッフをその気にさせたようだ。
●居合わせた者達
チャカチャリン♪ デデン♪
人混みの中に響いた落語のお囃子。着信音を聞いた玲奈が、携帯電話を耳に当て、先ほど後にしたカレー屋の感想を告げる。
身体の空いている日には、こうして食べ歩くのが彼女の過ごし方だ。手にしている包みもカレー煎餅なので、よっぽどカレー好きなのだろう。
彼女だけではない。この後、知り合うことになる6人も、傭兵家業における束の間の休日を満喫していた。
昼下がりの午後。
喧噪に満ちたこの街で、行き交う人々は平穏な日常を謳歌していた。
事件の発生を告げたのは、幾つもの悲鳴であった。白い煙を吹き出す怪物から逃げ惑う多くの人々。
「キメラかっ! こんな街中にまで現れやがって!」
傭兵と思われる男が、数名と共にキメラへ向かった。
連れだってこの街へ来ていたシャーミィとシェリーもこの場面に遭遇した。
「きゃ〜、クモ嫌い〜!」
キメラの外見から生理的嫌悪感をかきたてられ、青ざめたシャーミィが足を止める。
「其れはクモじゃない。キメラだ!」
「ああそうか、キメラだね〜」
シェリーの言葉一つで、シャーミィは認識を改めた。どうも彼女には天然ボケの素養があるようだ。
傭兵達に加勢しようとした二人は、老人の悲痛な叫びを耳にする。
「どんな能力者であっても、かなうはずがないっ! やめるんじゃ!」
本心からの忠告だったが、傭兵達はそれを受け入れなかった。
白いガスへ飛び込んだ傭兵は、1分も保たずに路上に倒れ伏した。
「今のはどういう意味かしら?」
「それよりも、あのキメラから逃げるんじゃ。ここにいてはすぐに追いつかれてしまう!」
問いかけたシェリーに、白衣の老人は切迫した声色で訴えた。
「ひとまずこの場を離れて、詳しい話を聞くことにしましょう」
シャーミィの言葉を受けて、シェリーが老人を担いで走り出した。先ほどの言葉を聞きつけたのか、この場に居合わせた数名が彼女等の後を追う。
距離を稼いだ彼らに老人は高見沢博士と名乗った。バグアに脅されて、これまで新種キメラの開発に携わっていたのだと言う。監視が薄くなったため、研究所から逃げ出して来たのだ。
「あのガスは特殊なウィルスで、吸い込んだ人間はすぐに動けなくなる。生身で対抗するのは不可能じゃ」
博士の言葉に傭兵達も事態の深刻さを理解する。
「‥‥KV以外に戦う方法はないんですか?」
「心配はいらん。救いはこの中にある」
険しい表情で尋ねた要に、博士はアタッシュケースを叩いてみせる。
「このスーツを着ればウィルスを完全に遮断できるんじゃ」
『スターター』と呼ばれる機械を動かすと、ナノマシンが身体を覆って防刃防弾防爆スーツを構成するのだと言う。また、生体電流を感知して動くため、起動した人間でなければ使用できず、薄着であるほどスムーズに動くらしい。
「体操着とブルマでもあかんか?」
玲奈質問にも、博士は真面目に回答する。
「下着ならまだいいが、それ以上は生体電流の感知精度が下がるため‥‥」
シュルシュルと漂ってきた糸が、博士の身体に絡みつき、言葉を中断させる。
話に気を取られていた傭兵達は、いつの間にか接近してきた小型キメラに気づかなかったのだ。
「すでに感染したというなら、せめてこいつだけでも!」
覚醒した十夜は果断な決断を下し、博士を捕らえたキメラへ挑みかかる。
「こんな特殊なキメラ‥‥。なんて運が悪いのかしら。次に生まれてくる時は、もっと明るい性格と明るい星に生まれたい‥‥」
ユーリアは非常に後ろ向きな感想を漏らしたが、戦いそのものは傭兵の圧勝である。
だが、致命傷を受けた小型キメラは、道連れにすべく博士の身体を爪で貫いていた。
「博士さん、死なないでください!」
血を吐いて倒れた博士に駆け寄ったこうきが、必死で練成治療を繰り返す。
「小型キメラは単体で‥‥ウィルスを出さん。君らは大丈夫じゃ‥‥」
博士はできる限り彼らに情報を伝えようと、喘ぎながらも声を絞り出す。
小型キメラはデガスキメラの生み出すウィルスを中継することしかできないらしい。
「デガスキメラを‥‥倒せば、細胞片からワクチンを精製できる‥‥。このスーツを使って‥‥」
博士の手から力が失われ、ケースが路上に転がった。中に入っていたのは、個別に塗り分けられた携帯電話サイズの機械だ。
「‥‥貴方に託されたこのスーツ、使わせてもらいます」
「爺さん安心しな‥‥。アンタの命はアタシが無駄にさせない」
こうきが、シェリーが、残る傭兵達もまた、目についた色の『スターター』を手に取り、散っていく。
この場に残ったのはユーリアただ一人だ。
「でもこんなのがあっても、どうせ‥‥、どうせ、一月末日に発見される餅のように、固まって逝くんだわ」
死んだ魚のような目でブツブツとつぶやいていた。
この日、この場に居合わせた傭兵達は、一つの選択をしたのである。
●誕生、七色の戦士!
いつも、露出過多な衣装を来ているシェリーは変身の場所を選ばなかった。
彼女は花屋が飾っていた花束を頭上へ放り投げる。小銃「S−01」で撃ち抜かれ、彼女の周囲で薔薇の花弁が舞い散っていく。
「ミラクルチェーンジ!」
上着を脱ぎ捨てた彼女の身体をナノマシンが覆い尽くし、ローズピンクのスーツを構成する。
要は手っ取り早く物陰に身を隠した。自分の身体では、見たいと思う人間もいないだろう‥‥と、少しばかり自虐的に思いつつ。
「見られても減るもんじゃないですが、一応嫁入り前なので恥じらいは捨てないのですよ!」
下着姿の要が、ほんの数秒でスカイブルーのスーツ姿へ変貌した。
ブルーシートで覆われたたこ焼き屋台に飛び込んだのは玲奈だ。『営業中』の木札をひっくり返すと、『支度中』の文字が現れた。
腰まである髪を黄色いリボンで纏め、体操着とブルマも脱ぎ捨ててビキニ姿となる。
『横着!』
かけ声と共に彼女はカーキーに塗りつぶされていった。
迅雷を使用して十夜は公衆トイレへ駆け込んだ。変身して飛び出した彼はシルバーグレイのスーツ姿だ。
やや遅れてトイレから飛び出したのは、アンバー色のスーツを着込んだシャーミィだ。
「木曜日に逆立ちする虫はなーんだ? 答はクモじゃ!」
「違います! アレはあくまでもキメラです!」
玲奈の口にしたナゾナゾをシャーミィが慌てて訂正する。
「新たな伝説を紡ぐ閃剣の騎士! 『シルバーグレイ』、参上!」
覚醒状態の十夜が堂々と名乗りを上げる。
「さぁて、たっぷりとお仕置きしてあげようじゃないか」
シェリーの言葉をきっかけに、彼らはクモデガスキメラがまき散らすウィルスへ突入していった。
偶然居合わせただけの彼らは互いの名も知らず、相手をスーツの色で呼び合っていた。この習慣は、これ以降も続けられるようになる。
慣れないスーツでの戦いに挑む6人の姿を眺めていたユーリアが、倉庫の中へと姿を消した。
「大丈夫、あたしにだってやれるわ。えーと‥‥なんとかー」
下着姿となった彼女は、適当なかけ声と共にナノマシンを起動させる。
次に倉庫から現れたのは『ビリジアン』の名を持つ戦士であった。
搦め捕られないよう、糸を巨大な刃で防ぎながら、要が宣言する。
「街の平和を乱す輩は、この『スカイブルー』が許しません!」
糸を警戒しつつも、要は小型キメラに向けてグラッドンアックスを振り下ろす。
それ以上の攻撃を恐れ、身を引く小型キメラ。だが、その程度で彼女の間合いを外すことはできない。
「スカイブルー☆ソニックブーム!」
ナノマシンの効果によって、スキルの効果は青白い輝きを生み出した。放たれたスカイブルーの衝撃波が、小型キメラの身体を断ち割った。
「黄ーセル!」
ノコギリアックスで戦っていた玲奈が、かけ声と共に取り出したのは煙管刀だ。
「道、レ、ミファ、頓、堀♪」
玲奈は一打毎に攻撃を加えていく。
「皆さんもご一緒に! 大阪名物急所突き♪」
と言いつつ、急所突きを装備していないのだから、意図的なのか天然なのか疑問の湧くところだ。
「わては六甲山や! 怒ればでっかい吹き降ろしや! カーキー・颪影撃ち」
持ち替えた小銃「シエルクライン」の銃撃は、黄土色の光弾となって小型キメラを撃ちすえた。
「博士の仇‥‥取らせて貰おうか」
十夜の居合い抜きで振り抜かれた日本刀「滝峰」は、グリップの仕掛けによって刀身が伸びると同時に翻った。
彼の攻撃はそれだけでは終わらず、迅雷と円閃を組み合わせた必殺技が炸裂する。
「全力全開ッ、シルバーグレイ・雷幻閃!」
銀色の電撃とともにその一撃が繰り出された。
耐えきったかに見えた小型キメラをさらなる追撃が襲う。
「ビリジアン・ネガティブマグナムッ!」
ユーリアのガトリングシールドから緑色の弾丸が降り注いだ。
「這いつくばりなさい‥‥あの日、あの時、それ以外の選択肢がなかったあたしのように」
彼女の自虐的な言葉に従い、小型キメラは二度と立ちあがることはなかった。
性格によるものか、こうきは、超機械「クロッカス」で赤い電撃を放ち、援護に徹していた。
同じく、シャーミィも小銃「S−01」を手に援護射撃を繰り返している。
「アンバーショット〜!」
彼女が撃ち出しているのは、琥珀色の銃弾だ。
小型キメラを葬った3名もこちらに加わる。
ムキになるシャーミィがいじりやすいのか、攻撃の合間を見て、玲奈が楽しげに問いかけていた。
「浪費家でいつもお金に困ってる虫ってなーんだ? 答えは、足らんチュラ」
「あれはキメラなんですっ!」
ユーリアの制圧射撃がキメラの行動を封じ込めたのを見て、シェリーが動く。
「我が剣に貫けぬ物なし! 必殺、ローズピンク・シャイニングハート!」
豪破斬撃と急所突きを併用したシェリーの剣技。ハート型をした桃色の閃光が弾けた。
チャンスと見たこうきが、知覚大剣「ウラノス」を担いでそれに続く。
「暁に染まれ‥‥、クリムゾン・スラッシャー!」
こうきの生み出した赤い軌跡が、シェリーの斬撃を正確になぞって、クモデガスキメラの身体を両断した。
「アタシに逆らうなんざ百万年早いのさ」
腕組みをして勝利を誇っていたシェリーの身体から、エネルギーの切れたスーツが分解されていく。
当人は表情を変えることもなく、落とし物らしい布をサリーの様に身体へ巻き付けた。
同じくスーツを着用していた仲間達は、慌てて脱ぎ捨てた服を取りに戻って行った。
「勝てない敵に、強くなって勝てば、また次の敵のループ。そして、あたしだけ取り残されるのね‥‥戦力的に」
ユーリアだけはネガティブ思考に陥っていたが、他の面子には笑顔が浮かんでいた。
「これで抗体を精製できれば無事終了ってわけだ」
つぶやいたシェリーが、傍らのこうきへ視線を向ける。
「そうそう。始末書とか面倒な雑用が必要なら、アンタお願いね」
「ふぅ‥‥。わかりました。俺がやっておきますよ」
ため息を漏らしながらこうきが応じる。
こうして事件は解決した‥‥はずだった。
●次回予告
七人の傭兵達はバグア陣営の科学者と接触したことにより、事件の首謀者という疑いをかけられてしまう。
ワクチンの精製が進まないこともあって、七人はUPC軍基地内で厳しい取り調べを受けていた。
そこへ届いたのが、デガスキメラ出現の報告である。デガスキメラの前に、為す術もなく倒されていくUPC軍兵士達。
果たして、彼らは再び危機を乗り越えることができるのか?
次回、『結成、七色戦隊』。