●リプレイ本文
●撮影前
「前回は参加できなかった分、今回は頑張りますっ!」
久しぶりに顔を合わせるスタッフ達や共演者相手に、意気込みを語るシャーミィ・マクシミリ(
gb5241)。
「おかえりシャーミィ嬢、久々だからって容赦しないからね」
シェリー・ローズ(
ga3501)は彼女の不参加理由を知っているだけに、元気そうな様子を見て笑みがこぼれた。
「今回はよろしくお願いしますねー♪」
自身が休んだ回に加わった空に、シャーミィが明るく声をかける。
「こちらこそ」
応じた辰巳 空(
ga4698)は、空飛ぶ敵に備えて早くもワイヤーアクションや殺陣のリハーサルを開始してた。
今回はさらわれ役でもあるため大忙しだ。内容については『キメラにも間違われそうなビーストマンですが、裏切ったりはしないはず』と口にしている。
「正義の、味方か‥‥。私には慣れぬ言葉だな」
戸惑っているUNKNOWN(
ga4276)にも、初顔合わせということでシャーミィが挨拶に向かう。
「今回から正式技を披露するで! 幼児誌向けの設定資料つきや!」
趣味に妥協しない三島玲奈(
ga3848)が、持ち込んだ自作資料をマルコ・ヴィスコンティ(gz0279)に手渡した。
彼女以外からも設定や物語への要望が出ているものの、導入部にあたる第一期では扱いづらい提案があって彼は頭を抱えていた。
「なに!? 今日は他のエキストラ役が不参加だと! バ、バカな! マルちんは、マルちんはおいでかぁー!?」
さらに悩ませるのは、一人騒がしい火絵 楓(gb0095)である。
「楓ひとりに数役こなせとは言わないから、騒ぐな。何かやりたい役でもあるか?」
「今回はナナレンジャーに加わりたいにゃ〜」
すがるようにマルコへ頼み込む楓。
「まあ‥‥、仮採用としてな」
「色はスカーレットを希望!」
「‥‥空いているからいいか」
押し切られる形でマルコが頷いている。
「私の希望はロイヤルブラックなのだが?」
「その色は対象外だな」
「それなら‥‥」
UNKNOWNが残念そうに代案を口にする。
「マルコが運転する兵員輸送車やけど、『ビフロスト』いう名はどうやろ?」
玲奈の解説によると、北欧神話に登場する虹の橋を指すらしい。
「カーキーさんの意見にもう一票です」
玲奈の案に賛同する希崎 十夜(
gb9800)。コードネームの方が気楽と感じる辺り、彼はだいぶナナレンジャーに馴染んでいるようだ。
「ふむ。語源もいいし、語感も強そうだな‥‥」
●和気藹々
「どうやって着るんだ、これ?」
事前に聞かされた説明を忘れている楓に、先輩として十夜が説明していた。お礼にメンマをという申し出は、謹んで辞退している。
一方で、今回からナナレンジャーに加わったはずのUNKNOWNは、戸惑うことなくスーツを装着していた。まるで装着経験でもあるかのように‥‥。
「体力テストか? 任せときや!」
体操着にブルマ姿で整地ローラーを引っ張る玲奈。その雄々しい姿には、整地ローラーという名称よりは、『重いコンダラ』という俗称がふさわしい。
「またそうやって試す‥‥。ああ、違うのか、試しているのは、私じゃなくてスーツか‥‥」
深いため息を漏らすユーリア・パヴロヴナ(
gc0484)。生気の失せた目は死んだ魚のようだ。
「じゃあ、別に私じゃなくても良いってわけね。‥‥そんなものよね」
念を押すまでもないが、彼女への嫌がらせなどではなく、スーツの性能把握が目的で実験は行われていた。
この場に存在する唯一のAU−KVを脱ぎ捨てて、シャーミィが首を傾げている。
「どうしたの、アンバー?」
「リンドヴルムを重ね着していると、違和感が多きくて戦いづらいんですよね‥‥」
戸惑い気味にシェリーへ訴えていた。
「装着は難しくても、バイクなら問題ないのよね?」
その指摘を受けたシャーミィは、シェリーの協力を得てバイク形態での戦闘法を検討し始めた。
「カーキー・タイガーブランチ!」
必殺技を編み出すべく、玲奈は試行錯誤を繰り返していた。
「‥‥く。隠密潜行中に遮蔽物に隠れて擬似分身をしたり、高速移動によって瞬間移動ができると思ったのに‥‥」
両手と両膝を地面につき、がっくりとうなだれる。
「カーキー・ファンカンシャディで、巨大ハリセンを振り回して、ウイルス撃退に使おうと思ったのに‥‥」
何事にも限界というものは存在するのだ。しかし、彼女の挑戦はその境界を知るのに役立っていた。
シェリーはシャーミィにつきあっているうちに、あらたな可能性に気づく。
「この力‥‥そうか! 二人同時に攻撃を繰り出したら、干渉し合って威力が跳ね上がるのかも‥‥」
至近距離にいる二人が同時に技を使うと、増幅された生体電流がそれぞれのスーツに干渉して、効果を増大させる合体攻撃が可能となることが判明したのだ。
「これから同じ『ナナレンジャー』なんだし、頑張っていこうね〜」
赤いスーツの人が、特定の単語を強調して話しかける。
「仲間? ええ、仲間ならいるわ。ずっと一緒なの、ガトリングシールド」
「仲間とか友達は多い方が楽しいよ」
「‥‥私と友達に? ‥‥え、ええ!? ‥‥ああ。ドッキリ?」
ネガティブ思考のユーリアを、楓は持ち前の積極性で手を引き、合体技の練習に誘うのだった。
様子を見に来ていた空は、再び瞑想に戻る。
チャクラを練り上げる方法によって、生体電流を制御できないか試みているのだ。戦闘力を引き上げられると信じて。
彼等に加わろうとせず、離れたところからUNKNOWNは眺めている。
「お前たちが正義と名乗るなら、私は悪でいい。悪として人を守ろう」
実験を中断させたのは、街中に出現したキメラの報告だった。
「な! 肝心な時にエネルギー切れなんて!」
悔しそうな楓をおいてけぼりにして、8名が兵員輸送車に乗り込んだ。
「イロナシ! 装甲強襲車両『ビヴロス』を出すよ!」
「なんか未熟者みたいな呼び名はよせ。それにこいつは『ビフロスト』だ」
シェリーの呼び名に不平を漏らしつつ、マルコはアクセルを踏み込んだ。
●喧々囂々
ウィルスに冒されて路上に倒れる人々。
急停車したビフロストには、彼等の救世主が乗り込んでいた。
覚醒によって目を赤く光らせた空が、スターターを起動させると、青く輝くナノマシンが渦巻くようにして彼の全身を包み込む。
真っ先にビフロストを飛び出しプルシャンブルーを追って、次々とナナレンジャーが姿を見せる。
「七色戦隊隊長シェリー、又の名を薔薇色の夜叉姫ローズピンク」
腕組みしながら挑発的な名乗りを上げる。
「新たな伝説を紡ぐ閃剣の騎士! シルバーグレイ、参上!」
十夜も覚醒中なので高いテンションで名乗っていた。
「ヘヴィダウナー、ビリジアン!」
名乗りと共に見せた小さなピースサインは、ユーリアにとって精一杯の決めポーズであった。
活火山の底でたぎる灼熱のマグマのように、熱く生きたいと彼女自身は願っている。しかし、彼女は現状を、流れのままに奈落の底へ向けて転がり落ちているようだと感じていた。
いつかは変われるかもしれない、という期待と不安を抱きながら‥‥。
早くも玲奈に必殺技お披露目の機会が訪れた。
玲奈は小銃「シエルクライン」とノコギリアックスを手に、小型キメラへ迫る。
至近距離へ踏み込んだ彼女は、鋸斧による急所突きと、小銃による影撃ちを交互に連発していく。
それは、両手を猛獣の歯に見立てて、敵を噛み砕こうとする連続攻撃だった。
「カーキー・ファングバイツ!」
ユーリアは『仲間』であるガトリングシールドに弾丸を装填し、小型キメラに向けて叩きつけていく。
敵をその場に縫い止めている隙に、迅雷を使った十夜がキメラの眼前に踏み込んだ。
「シルバーグレイ・スレイブ!」
円閃によって銀色の輝きが円形に広がり、小型キメラを切り裂いた。
十夜を援護するために、後方からユーリアが援護射撃として弾丸をばらまいている。
「やっぱり、ガトリングガンは良い。トリガーを引いている時が、わたしが、輝ける唯一の時」
そんな言葉に、常の十夜であれば戸惑いそうなものだが、覚醒中の彼に気弱な態度は見られない。覚醒によって戦闘向きの性格になるあたり、似たもの同士と言えるかもしれない。
「ふふふふふ、ふははははは! 歌でも歌ってみようかしら。らんら〜ら〜♪」
歌いながら彼女は十夜の傍らに並ぶ。
なにも、戦いの昂奮を抑えられないからではなく、これは楓と行った練習通りの行動なのだ。この距離なら合体攻撃が可能となる。
緑色に輝く銃弾が羽根をむしり取り、銀色に光った刃が胴体を切り裂いた。
二人の合体攻撃の名は――。
「必殺! ‥‥名前は、貴方のお好きなように」
「技名はお任せしてもよろしいですか?」
ユーリアと十夜はそれぞれが任せあい、結局名前は決まらなかった。‥‥このあたりも似ているかも知れない。
●プルシャンブルー堕つ
「日が沈む、か。墨で塗りつぶされていく様だな」
オフィスビルの屋上に立つミッドナイトブルーの影。
UNKNOWNは眼下に存在する敵へ向けて、スコーピオンによる物理弾と、エネルギーガンによる知覚弾を撃ち込んでいく。
現在、武器が修理中のため、空は予備武器であるグローブをつけて交戦中だ。
空を『蝶』のように舞う小型キメラへ、彼はリーチの短いストライク・アームズで殴りかかる。
彼の間合いから逃れたかに見えた小型キメラに向けて、空の右腕に宿った蒼い衝撃波が放たれる。
「プルシャンブルー・アークウェイブ!」
紅蓮衝撃で威力を底上げした真音獣斬が、空を飛ぶ小型キメラを撃墜してのける。
とどめを刺そうとした空の前に、別な小型キメラが立ちはだかった。さらにもう一体が加わり、彼の前には3体の敵が存在していた。
「鱗粉によるダメージが少ないのは不幸中の幸いか‥‥。小型キメラだからなのか?」
わずかな疑念を感じながら、応戦する空。
そこへ、彼を救おうとする銃撃が二方向から届いた。ひとつは上から、ひとつは右手から。
「夜の闇に帰るといい‥‥、ミッドナイトブルー・パニッシュメント」
青い一条の光が、落雷となって小型キメラを撃ち抜いた。
「カーキー・ガンザード!」
玲奈は影撃ちを使って、遠い間合いから銃撃を加える。それは、荒天時のごとく横殴りに叩きつける銃弾の雨だ。
「いくで! ツー・プラトーンギガデスや!」
玲奈は空の隣に並び、二人がかりの連続攻撃を促した。
‥‥しかし、空による攻撃が途中で止まっため、玲奈の煙管刀だけがリズミカルに急所突きを撃ち込んでいく。これでは、『カーキー・ヒットーン』止まりである。
玲奈が振り向くと、空はその場に倒れて動かずにいた。
「なんだ、これは!?」
体は無事だし、スーツにも損傷はない。空本人ですら理由を把握できなかった。
親玉たるガデガスキメラを、シェリーとシャーミィが共に小銃「S−01」で狙い撃つ。
ナナレンジャーが知る由もないことだが、敵のばらまく鱗粉にはスーツへ接触することで、生体電流の感知性能を低下させる機能がある。すなわち、ナノマシンが反応しなくなるため、装着者の身動きを封じてしまうのだ。
効果にばらつきがあって確実性に欠けるのだが、空とは相性が良かったようだ。敵の目的はナナレンジャーの誰かを捕らえることだったのだ。
小型キメラが空を拉致したことを知り、ガデガスキメラは空へ舞い上がり逃走を始めた。
「アンバー! アンタの力を貸して!」
言うなり、シェリーはリンドヴルムの後部シートに腰を下ろす。
「アレを使うわ!」
「アレ!?」
「アレよ」
一度は驚きを見せたものの、決意したシャーミィは言われるままにアクセルを噴かした。歩道に乗り上げてUターンすると、一度停車する。
歩道橋の階段を、いや、その先にいるガデガスキメラをにらみ、シャーミィはリンドヴルムのエンジンを吼えさせる。
二人乗りのリンドヴルムは、階段を発射台に見立てて駆け上り、空中へと躍り出た。
「届かない‥‥?」
唇を噛むシャーミィの前で、ガクンとキメラの高度が下がった。ビル上にいるUNKNOWNから銃撃を受けたのだ。
それでも10mは高い敵を見据え、シェリーの声は喜色に染まる。
「これなら、届くっ!」
機械剣αを振りかぶった彼女は、真上に浮かぶガデガスキメラに向けてソニックブームを放つ。
「Wカラー・疾風剣!」
琥珀色と桃色が混在する2色の輝きは、長大な刃となって敵を両断した。
仲間をさらわれたナナレンジャーに、敵を撃破した喜びなどない。
小型キメラに阻まれたとはいえ、目の前でさらわれた玲奈などは痛恨時である。
「フェアプレイしろや!」
憤りを抑えられずに叫び声を漏らしていた。
「そんな、こういうのは、私の役目だとばかり‥‥」
ユーリアはピントのずれた嘆きを口にしている。
そんな彼等を、ビフロストに残っていたマルコが大声で呼んでいた。情報部員から緊急連絡が入ったためだ。
『空に限らず、全員のスーツには発信器を仕掛けているから、信号を追えば敵の拠点を発見できる』
ヤマダから告げられた内容に、シェリーの目がきつく細められた。
「ほう、発信器ねえ‥‥。まさかお偉いさんはアタシ達が迷子になるとでも思ったのかい?」
口調からでも彼女の怒りは伝わるはずだが、ヤマダは平然と皮肉を返した。
『実際になったのだろう? これは、スーツの重要性に対する必要な処置だと我々は考えている』
装着者の中に、バグア側の科学者と接触経験のある人間が増えたのだから、なおさらであった。
『スーツのエネルギー補充が終わり次第、君らには仲間の救出に向かってもらう。まさか、反対とは言わないだろうな?』
ヤマダに対する反感はあるにしても、彼等に選択の余地などなかった。
●次回予告
プルシャンブルーが運ばれたバグアの拠点とは、意外なことに都市部にあるテナントビルであった。
都市占領を目的に開発されたデガスキメラは、この大阪の地を占拠することすら想定していたのだ。
ナナレンジャーは、仲間を救うために敵アジトへの潜入を決行する。