タイトル:橘薫の頼もしき先輩達6マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/26 12:26

●オープニング本文


「しのぶに聞きたいことがあるんだ」
 橘薫の方から、こうして彼女へ話を持ち込できたのは初めてのことかもしれない。
「‥‥どうしたの?」
「この前センターでKVのシミュレーター施設を見かけたんだけど、戦う相手って選べるの?」
「戦いたい相手がいるってこと?」
「戦いたいって言うか、KVの事を知りたいだけなんだけどね」
 話を聞くと、薫が現在使用している機体はノーマルなS−01であり、初期機体からの交換を検討中だという。
 彼はシミュレーターにS−01で参加して、交換対象の機体性能を事前に知っておきたいのだという。
「どういう形で使われてるのかも見てみたいしね」
「つまり、バイパー、ディスタン、ディアブロ、ヘルヘブン250を所有している傭兵に声をかけて、シミュレーターで模擬戦を行いたいということでいいのね?」
「そういうこと」
「でも、ベテラン勢はすでに乗り換えているだろうし、思い通りに集まらない可能性が高いと思うわよ」
「その機体限定ってわけじゃないよ。乗り換えたのは仕方ないとしても、乗った経験があれば使用感ぐらいは聞けるだろうしね」
「そういうことなら、私の方で声をかけてみるわ」
 今回は橘薫が依頼人となって、参加者を募ることとなった。
 対象の4機が集まるかどうかは、いささか不安ではあるのだが‥‥。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
榊 那岐(gb9138
17歳・♂・FC
ネージュ(gb9408
12歳・♀・HG
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC

●リプレイ本文


●開戦

「機体変更の為にKVシュミレーターを使用する考えは悪くないね」
 と錦織・長郎(ga8268)は評する。
「対象の四機が揃っている事だし、それぞれの特性を見せ付けて、自分に何が合うかを考慮させてみようではないかね」
「薫君、今日も宜しくね」
 榊 那岐(gb9138)を筆頭に、今回もまた橘薫(gz0294)の見知った人間が多く参加していた。
「その意気やよし。シスターズ一の攻撃的傭兵である、美紅・ラングがKV戦のなんたるかを教育してやるのである」
 美紅・ラング(gb9880)はいつものごとくやる気に満ちていた。
「ペガサス分隊隊長の白鐘剣一郎(ga0184)だ。宜しく頼むな」
 薫と初顔合わせとなるメンバーも声をかけていく。
「初めまして。緑川 めぐみ(ga8223)よ。従兄弟と兄様からお話をうかがって、ディアブロの魅力を教えに来ましたわ」
 彼女は戦闘に向かないであろう、ドレスにロングブーツという出で立ちだった。
 今回の参加メンバー中、一番経験が浅いのはリュティア・アマリリス(gc0778)であった。
「宜しく御願い致します」
 指導を請う立場であるため、彼女は一人一人丁寧に挨拶して回っていた。薫より遙かに礼儀正しい‥‥と言うか、薫と比較するのは彼女に失礼だろう。
「えーと、お前の使ってる機体はなんだったかな? S−01ねぇ‥‥。昔の初期機体だっけ?」
「そうだよ」
 綾河 零音(gb9784)の問いかけに、薫が頷きを返す。
 S−01でも改造の余地はあると彼女は考えていたが、ここでは触れないことにした。
「まぁ‥‥、強いて言うなら‥‥機体は慎重に選べよ。うん」
「今回の模擬戦でヘルヘブンの良さを教えてやるのである」
 美紅は言葉ではなく行動で機体性能を示すつもりのようだ。
 最初に宣言した通り、めぐみがディアブロの説明を始める。
「ディアブロは現行の初期支給機では最高の攻撃力を持っています。でも代わりに装備力も少し問題あるし、打たれ弱く、錬力の関係で継続戦闘能力に若干の問題がありますわ」
 彼女と同じディアブロ乗りとして、那岐も思うところを披露した。
「以前乗っていたナイチンゲールとの比較ですが、攻撃力、積載量共に初期交換機の中ではバランスがいいと思う。命中と回避が弱く、ナイチンゲールのハイマニューバが欲しくなる時が多々ありますね」
「ディスタンについては私がご説明します」
 あくまでも自分なりの評価だと前置きして、リュティアが説明する。
「長所は厚い装甲と高い運動性を両立させた点にあります。スキル使用時には最高クラスの防御性能を発揮するため、耐久性に優れています。短所としては、同クラスの機体に比べて積載力と火力‥‥特に知覚系が低いですね。運動性を追求した為に最高速度は劣ってますが、改修すれば速度の問題は緩和されるはずです」
「あとはバイパーだが‥‥」
 剣一郎が実機を所有している長郎へ視線を向ける。当人には言葉で説明する意志がないと見て、代わって剣一郎が口を開いた。
「おそらくS−01からほぼ違和感なく乗り換え出来る機体だろう。搭載力に優れ、装備次第で様々な性格付けが出来る事と、ドロームの十八番である空戦スタビライザーも今尚価値の色褪せない特殊能力だな」
●陸戦

「『アグレッサー作戦』が何のことやらわからないので、まあ、好きなように戦わせてもらうのである」
 ヘルヘブンのコクピットで、美紅は自慢にならないセリフを口にしていた。
 ちなみに、アグレッサーとは仮想敵機を演じる側を指し、基本的に技量の高いパイロットが選抜される。A班として適役を引き受けたのは、長郎、剣一郎、堺・清四郎(gb3564)の3名だった。
「しかし命中・回避は自分の腕頼みとはね、くっくっくっ‥‥」
 長郎が苦笑する。薫が口にした『機体の短所は自分の操縦技能でカバーする』という発言が原因だ。
「成長したと思っていたが‥‥。ちと甘かったか‥‥」
 こちらは清四郎だ。
 KVを選ぶために相談するのはいいとしても、操縦技能を過信する点は矯正しておく必要があると感じていた。

「戦場の厳しさを教えるのもいいけれど、そろそろ厳しいばかりでないことを見せてやるのである。機体の特性を知るのもいいが、それだけでは足りない。自分の戦いたいように戦えるってことも見せてやるのである」
 美紅がヘルヘブン250をB班から突出させた。反面教師を希望する点にも言えるが、彼女は薫にやり方を強要する方法を拒むところがある。それを大義名分として好き勝手にしているという見方もできるのだが‥‥。
 高速二輪モードのヘルヘブンは、仲間から借り受けた試作型機槍「アテナ」を構えて、剣一郎のシュテルンに突撃を仕掛けた。
「すぅ‥‥はぁ‥‥参ります!」
 落ち着くために深呼吸を繰り返したリュティアが、シールドガンで牽制しながらディスタンを前進させる。
 敵側の連携を立つために、零音のアンジェリカと那岐のディアブロも、同時にミカガミへ襲いかかった。
「戦場の一番槍は、この美紅がいただいたー!」
 ヘルヘブンがチャージをシュテルンに炸裂させるも、機槍「ロンゴミニアト」の反撃を受けて、あっさりと転倒した。
 追撃をさせまいと、ディスタンが3.2cm高分子レーザー砲で牽制する。
「やはり陸戦用が一番楽です。慣れてますから」
 20ミリガトリングで銃撃しためぐみのディアブロは、持ち替えた試作型機槍「ドミネイター」をシュテルンに向けた。
 剣一郎の機槍「ロンゴミニアト」が打ち合うのは、同じく槍の「ドミネイター」と「アテナ」。そして、ディスタンの握る双機刀「臥竜鳳雛」。
 近接戦闘を身体に教え込むべく、リュティアが果敢に攻め込んでいると、手にした機盾「シャーウッド」が衝撃を受けて強く弾かれた。スラスターライフルを発砲したのは、A班後衛担当のバイパーだった。
 高速二輪モードでタイヤを軋ませたヘルヘブンが、後方のバイパーへと向かう。美紅のチャージは、構えた機盾「シャーウッド」越しにバイパーへぶつけられた。
 一撃のみで駆け抜けたヘルヘブンは、スラスターライフルの銃弾にも振り返ることなく、そのまま走り去る。
 清四郎は薫の性根をたたき直してやろうと考えていたのだが、残念ながら彼が向かったのはシュテルンだった。
 替わりと言ってはななんだが、ディアブロとアンジェリカめがけて、機刀「建御雷」と機体内蔵『雪村』を叩きつける。
「白兵戦をやるならばビビるな! 恐怖に負け無謀な踏み込みをするな! 『大切なのは間合い、そして退かない心』だ!」
 叱咤する清四郎に対し、大きく回り込んできたヘルヘブンがチャージによって突貫する。
「このように250の突進力と機動力は、戦場を足で稼ぐにはもってこいなのである。ドノーマルなのにこの性能。はっきり言って悪魔も蛇もディスタンも目じゃないのである」
 シミュレーション開始前に、バイパーをお薦めしていたことを忘れたかのような美紅のセリフ。
「反撃、開始ぃっ!」
 零音はアンジェリカのSESエンハンサーを起動させると、興味の対象であるミカガミの「雪村」に向けて、練剣「白雪」を叩きつけた。
 那岐は身体をねじ込むようにしながら、ミカガミの「建御雷」をストライクシールドで受け止めた。ディアブロのアグレッシブ・フォースでSAMURAIソードを強化しつつ反撃に転じる。
 対シュテルングループが不利だったため、ヘルヘブンも駆けつけたがすでに遅かった。
 ディアブロとディスタンの戦いぶりを眺めていた薫は、戦闘への関与が極めて少なく、さらにバイパーが注意を分散させるために弾幕を張っていた。
 めぐみとリュティアはヘルヘブンのチャージを糸口に反撃を試みるも、うなりを上げるシュテルンの「ロンゴミニアト」にねじ伏せられる結果となった。
 長郎は薫のS−01を狙い打ちにし、清四郎の方でも相手にした2機を行動不能に追い込んでいた。

●空戦

「‥‥僕は機体の動きが見られればいいんだけどね」
 いささか不満げな薫を、剣一郎が微笑を浮かべながらなだめている。
「希望通りでなくて済まないが、やっておいて損はないと思うぞ。機体が万全とは限らないし、むしろ、劣勢に立った状況でどれだけ動けるか見た方が有意義だろう」
 シミュレーターによる模擬戦は、続いて空へと舞台を移す。

 先ほどと同じく、A班は清四郎と剣一郎が前衛を務めていた。
「堺が怒る理由を察して欲しいものだが‥‥」
 根拠のない自信を見せる橘を危うく感じている剣一郎は、S−01がミカガミに向かうのを見て、薫を清四郎に任せることにする。
「ミカガミは装甲が薄いからお前の言っていた戦い方が専門なんだが‥‥。それがどれだけ難しいか身をもって教えてやる」
 応戦しようとミカガミの機首を翻した清四郎だったが、薫も単機で挑むほど無謀ではなかった。
 高分子レーザーライフルを受けながらも、3機が相対距離を縮めていた。
 ディアブロの特徴を見せるべく、めぐみは果敢にディアブロで前に出ようとする。
「目標補足! パニッシュメント・フォース発動! ロックオン!」
 強化したホーミングミサイルG−01で牽制してさらに機体を寄せる。
「知覚特化型KV、PM−J8アンジェリカ‥‥参る!」
 零音は薫が希望する機体を所有していなかった替わりに、非物理攻撃に関して実演してみせる心づもりだった。
「見ろ、橘薫‥‥これが知覚攻撃だ!」
 SESエンハンサーで強化された試作型G放電装置で電撃を放つ。
 A班の連携を断つために、B班もそれぞれが行動を起こしていた。
 美紅と那岐は剣一郎と空戦に突入している。実力的に劣っていても、時間を稼げればB班全体のメリットとなる。
 那岐はパニッシュメント・フォースを稼働させた状態で、短距離高速型AAMを発射して剣一郎に迫る。
 リュティアは、後方から支援攻撃を行っているバイパーを標的と定めた。
 前衛の7機が演じている空中戦をすり抜けようとしたディスタンは、それを予測していた長郎の発射したミサイル群に飛び込んでしまう。咲き乱れる爆炎の中から、イクシード・コーティングで防御力を引き上げていたディスタンが飛び出した。
 ディスタンによるシールドガン発砲に対し、バイパーは空戦スタビライザーで回避機動を行う。
 自慢できるだけの腕前が薫にあっても、技能だけで命中や回避をこなせないことを、長郎は見せつけるつもりだった。
「腕でカバーするなんて言うならば俺に一撃当てて見せろ!」
 清四郎が薫を挑発する。
「はいはーい、自分の手腕だけで回避できたことなんて一回もない私が通りまーす」
 薫に対して直接的に嫌味を口にしたのは零音だ。空戦スタビライザーを使ってヒット&アウェイを繰り返す。
 入れ替わりに接近したディアブロが、ガトリング砲の銃撃とブレードウィングによる斬撃を試みた。
「空戦用ですからこれぐらいしか出来ないですけどね」
 2機がミカガミの飛行に制約を加えている中、照準を覗き込んでいた薫の機体が衝撃を受ける。
「‥‥隙有り、だ」
 ミカガミに意識を向いていたS−01を、シュテルンのスナイパーライフルD−02で撃たれたのだ。
「己の実力さえ正確に把握出来ないのでは、英雄どころか生き残る事さえ叶わないぞ」
 剣一郎はすでに自分が交戦した一機を撃墜していた。煙を噴いて墜落していくのはヘルヘブンだ。
 気を取り直して、薫が127mm2連装ロケット弾ランチャーを撃ち出すが、これが全てかわされてしまう。
 めぐみが命中を確信して放ったホーミングミサイルG−01も、ミカガミの装甲に阻まれて与えられたダメージも低かった。
 清四郎が口にしたとおり、操縦技能で能力差を覆すのは難しい。
 ある意味で機体性能や強化改造が圧倒的な優位を確定してしまうということだ。
「‥‥結局、乗ってる機体次第か」
 薫が口にしたのは極論に過ぎないものの、一面の真実を含んでいた。

 そして、B班はA班に及ばないまま、陸上戦と同じ結果に終わった。

●終戦

 シミュレーションによる模擬戦を終えた一行を出迎えたのは、リュティアが準備していたサンドイッチやドリンク類だ。
「皆様、ありがとうございました。本日の模擬戦、大変勉強になりました」
 彼女の心づくしを、一同はありがたく受け取ることにした。
「物理特化でお勧めの機体は汎用性の高いバイパーね。装備力があるから改造次第で重爆撃から砲撃、白兵、なんでもできるわ。知覚武装とかは知覚特化型のロビン、シラヌイクラスじゃないと使いこなせないわ。それに重いし、割高よ」
 めぐみと薫の会話を聞いて、皆も口々に意見を述べていく。
「僕もバイパーを薦めるね。君が見た様に無骨では有るが、拡張性も高くて色々装備し易いしね」
 長郎は自身も搭乗しているバイパーを押した。
「それと、自分の腕は過信しない方が良いね。自ら省みなかった彼女を撃退して得た称号がこれだね」
 彼は『牡羊座撃墜者』となった戦いをそのような形で記憶にとどめている。
「確固とした戦い方がイメージできていないのならばバイパーがいいだろう。何より生存率が高い。攻撃特化型の機体や高級機はKVに慣れるまではやめておいた方が良い」
 清四郎もまた、長郎と同意見のようだ。
「自分の攻撃スタイルを踏まえた上で、乗り換えを検討するのがいいと思いますよ。S−01をそのまま愛機にしている強い人もいますしね」
 那岐が口にした言葉に、零音も頷いて見せた。
「KVは使えば使うほど力を発揮してくれるからね。どんな機種でも大事に使ってあげなよ? たとえ旧式でも、さ」
『古いから』というだけでは、乗り換える理由として薄いと彼女は感じていたようだ。
「まずは自分の戦い方をきちんと省みる事だ。空陸のいずれを主眼に置くか、装備と搭載量の兼ね合い、更に機体そのものへの改造をどの程度まで行うかも重要な要素となるので、後悔のないようにな」
 剣一郎は機体そのものではなく、選択のための指針に言及した。すぐには身につかなくとも、そのような視点をもてれば、いずれ役に立つはずだ。