タイトル:ジャングルジムで遊ぼうマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/30 14:03

●オープニング本文


「しのぶさん。面白そうな依頼ってない?」
 アリスの言葉を聞いて、しのぶが面白そうに笑った。
「‥‥あら? 珍しくテンションが高いみたいね」
 手伝いのために参加するのとは違い、彼女が自ら依頼を物色するのは珍しい。
「そういう気分なの。で、どう? 特別面白そうでなくても、キメラを倒せればなんでもいいよ」
 心境の変化や差し迫った事情があるわけでなく、彼女は突発的にやる気を見せる。まさに彼女の気分次第だ。
「そうねぇ。それなりの制限はあるけど、こういうのは?」
 どこかの街中に侵入した猿型キメラを退治するという内容だった。キメラが根城にしているのは、建設中のビルだという。
「ビルはどの程度できてるの?」
「全然よ。6階まで鉄骨を組んであるだけなの」
「大きなジャングルジムってわけだ」
「そういうことね」
 浮かた笑みを消して、しのぶは真剣な表情で彼女に告げる。
「それはつまり、ビル上で戦うにはキメラの方が優位ってことになるわ。鉄骨の間を飛び回るのは、どう考えても人間よりも猿の方が得意でしょ?」
「そうだね‥‥」
「それと、手癖が悪くて、工事現場にあった道具を持ち帰ったりしてるのよ。危険性は低いだろうから、頭の片隅にでもとめておいて」
「この仕事引き受けるよ」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
優(ga8480
23歳・♀・DF
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
諌山詠(gb7651
20歳・♂・FT
美村沙紀(gc0276
17歳・♀・ER
カルミア(gc0278
16歳・♀・PN
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC

●リプレイ本文

●人とキメラの遊び場へ

 月明かりの中で、建設途中のビルを見上げる11名の傭兵達。
「ジャングルジムですか‥‥。小さい頃に遊んだ記憶はありますけど、よく頭をぶつけましたね。今回は流石にぶつける程狭くはないみたいですけど」
 諌山詠(gb7651)が苦笑を浮かべる。
 このビルで遊んでいるのは、無邪気な子供ではなく粗暴な猿キメラだと彼らは聞いていた。
「‥‥建設の邪魔だな。工期遅延の悪影響は多岐に渡る。迅速に退去させないとな」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)のつぶやきに、白鐘剣一郎(ga0184)も同意する。
「猿キメラには良い遊び場かもしれないが、早々に引き取って貰うとしよう」
 一方で、一般人への被害を心配しているのは、木場・純平(ga3277)とリュティア・アマリリス(gc0778)だ。
「面倒なキメラが現れたものだな。さして危険ではないようだが、いつ一般人に被害がでるかもしれない。今のうちに退治しておくに越したことはあるまい」
「はい。市街地にキメラが入り込んでいるのは見過ごす訳には参りません、早々に御掃除してしまわなければ」
 彼らの倍近い猿キメラの鳴き声が、彼らの上に降り注いでいた。
「アリスさんは生気が漲っていますね。とても頼もしいです」
 ビルの構造を把握するために、一回りしてきた優(ga8480)が話しかけた。
「まーねー。やる気はだけなら負けないよー♪」
 たまたまテンションが高いだけのアリス・ターンオーバー(gz0311)が笑って返した。やる気だけというのは非常に微妙だが、やる気がないよりはマシである。
「有名なエースの方々と一緒に戦えるのは光栄でもありつつ、緊張しますねぇ‥‥」
 気弱とも聞こえる詠の発言だったが、この後に意欲的な言葉が続いた。
「余り足を引っ張らないように頑張りますか」

 中央部D・E・Fの柱に、美村沙紀(gc0276)・優・リュティアがそれぞれ張りついた。
 優は誰よりも先行して、ビル全体の中央に位置するE柱を1階分だけ上った。個人の力で揺らせるほど弱くはなかったため、彼女は強く蹴りつけることで、音と振動を生み出した。
 キィキィと鳴いていた猿の声が、一瞬で静まりかえる。彼女に向けられる猿達の視線。
 優に向けて、6体ほどの猿キメラが殺到した。
 沙紀とリュティアも、猿キメラの注意を散らすべく、D柱とF柱を叩いて音を立てる。
 リュティアはこちらを向いている猿キメラに気づき、ブレイクロッドを振っていた両手を止めた。彼女は持ち込んだバスケットを開いて、中にあるベーグルサンドを猿へ見せつける。
 猿キメラはプイっと顔を背けて、優へと向かった。
 果物の方が嗅覚へ訴えたのかも知れないし、食欲よりも闘争本能が勝っただけかも知れない。
「‥‥それでも、これは傷つきますね」
 悔しげにつぶやくリュティア。
 群がる猿キメラを相手に優の流し斬りが炸裂し、何体ものキメラが地上へと転落していた。その一方で、彼女の手からも月詠や機械刀「凄皇」が奪われ、地上へ散らばっていた。
「絶対に逃さない」
 地上で待ち受けていた沙紀が、落ちたキメラに「トマレ」を叩きつける。
 リュティアもまた、先ほどの屈辱を猿キメラへぶつけていた。

 優達が陽動としてキメラの注意を引きつけている間に、ビルの四隅の柱を傭兵達は登り始めていた。具体的には、北側のA柱とC柱、南側のG柱とH柱だ。
「さて、迅速確実に行きたいところだが‥‥」
 できるだけ目立たないようにしながら剣一郎はG柱を上り、その後に詠も続いていた。
 3Fまで進むと、感づいた猿キメラがこちらにも向かってくる。
「如何に素早かろうと一度に殺到出来る数には自ずと限界がある‥‥ならば」
 剣一郎が声を張り上げたのは、自ら囮を引き受けるためだ。
「連中はこちらで受け持つ。今の内に上がってくれ!」
 カルミア(gc0278)も同じ考えらしい。
「ははは、おっ猿さん〜おっさるさん。わったとのほうがうまいのよん〜♪」
 彼女は鉄骨上での体術勝負を挑んだが、これはいささか分が悪かった。尻尾も含めて五肢とも言える猿は、樹上での生活に適合した種なのだから。
 上階の鉄骨にぶら下がるキメラの爪に追い立てられ、カルミアもその事実を否応なく理解させられた。

●晴れときどき、武器とキメラ

 反撃もそこそこに、C柱の芹佳(gc0928)は登攀を優先した。その甲斐もあって、真っ先に登頂を成し遂げたのも彼女であった。
 最上階に着いた彼女は、抜刀・瞬で刀と蛍火に持ち替える。
 奇襲を望んでいたものの、キメラの巣へ乗り込んだ形であり、むしろ彼女がキメラから攻撃を受ける立場となっていた。
「落ちないように気をつけないとね‥‥」
 5Fから先は工事が中断しており、垂直に立った柱が見あたらないため、ひどく心細い印象を与える。彼女が踏みしめる足場だけが頼りだ。
 戦闘中に彼女の握る蛍火がスルッと奪われてしまい、猿の手で無造作に投げ捨てられた。
 再び刀を取り出した彼女は、自ら挑んできたボスキメラに殴られ、階下へと落とされてしまう。
 芹佳の後続だった純平は、ボスキメラが陣取っているため、5Fへ登り切れない状態だ。
 彼の代わりに5Fへ到達したのは、参加者中最大の体躯の持ち主。AU−KVを装着している狐月 銀子(gb2552)だった。
 あえてのんびり登ったつもりが、結果的に登頂を成功させてしまったようだ。
 邪魔な柱の無い最上層で、パイドロスを走輪走行させて接近すると、虎の子のエナジーガンで狙い撃つ。
 ボスキメラが芹佳に応戦している隙に身体を引き上げた純平は、バランスを保ちながら十三手の構えを取た。近距離での格闘戦に備えて、純平の拳を覆うのはクラッチャーだ。
「できれば、人数をそろえてあたりたかったが‥‥」
 二人での挑むことを覚悟し、純平は先手必勝で初撃を叩き込む。
「吼えろバハム‥‥じゃない、今日はパイドロス!」
 ファルクローによる銀子の一撃が、ボスキメラの身体を浮かせた。ボスキメラの足は鉄骨を踏み外し、銀子のファルクローを握ったまま、4Fへと転落していた。
「あっ、ボスに逃げられた」
 5Fへ上ったアリスが愚痴をこぼす。
 彼女は気づかなかったが、銀子に続いたアリスの背後へ、さらに猿キメラが迫っていた。
 後背から襲いかかろうとしたキメラに向けて銃弾が飛ぶ。
「後ろにも気を付けないと危ないですよ」
 詠の構えた拳銃「バラキエル」が硝煙をたなびかせていた。
「ありがと。助かった」
 ボスキメラと入れ替わるように5Fへ上がった二人は、取り残されたキメラを相手に攻撃を加えていく。
 詠は直刀の壱式に持ち替えて、猿の爪と斬り結ぶ。アリスは先ほどのおかえしに、小銃「S−01」を手に彼の援護に回った。
 この場でキメラを倒すよりも、この階から追い落とすのを目的とした戦いであった。

 ボスが落ちたのを見て、ホアキンは4Fで足を止めていた。
「俺は竣工したビルを見たいんだ」
 ボスキメラの間に立ちはだかる群れを、彼は超機械「雷光鞭」の電磁波で掃討していく。間近に迫ったキメラへは、紅炎の連続突きで応戦する。
 その大太刀が捻られて彼の手から抜き取られると、中空へと投げ捨てられてしまった。
 さらに、尻尾でぶら下がった個体に真上から襲われ、警戒していたホアキンはなんとか回避を成功させる。
「数が多いな」
 倒しきる前に武器を奪われたり、四方どころか上下への警戒まで必要なのは、非常に厄介と言えた。

「危険だと感じれば、逃走する可能性もあります。逃がさないように下に来た敵は素早く排除しないといけませんね」
 優はあいかわらず2Fで敵と対峙していた。
 上階への侵攻は外周登攀班に任せて、優はこの場でキメラ退治を続けている。
「後ろに降りてきましたよ」
 地上の沙紀から警告された彼女は、鉄骨にぶら下がったキメラに向けて、振り返りざまに月詠と機械刀「凄皇」を二段撃で繰り出した。下層であることを活かし、彼女はすでに武器の回収を終えていたのだ。
 斬り捨てられたキメラは、鉄骨を踏み外して地上へと落下する。
 降ってくるのは、キメラばかりではない。
 反射的に向けようとした切っ先を、優が慌てて止める。相手は3Fから落とされたカルミアだった。
 猿と間違えそうになったと言ったなら、彼女はきっと怒りだすことだろう。
「痛ててて。でもすぐ復帰〜」
 バネ仕掛けのようにぴょこんと跳ね起きると、瞬天速を使用して柱へ向かい、彼女は戦場へと駆け戻った。

「さて、御掃除と参りましょうか」
 リュティアの円閃により大きな円を描いたブレイクロッドが、墜落したキメラを弾き飛ばす。確実にダメージを与えるため、一撃必殺を念頭に置いた攻撃だった。
 ブレイクロッドを奪われた彼女は、抜刀・瞬を用いて二刀小太刀「松風水月」に持ち帰る。
 キメラにとどめを刺した後で、彼女はすかさず武器の回収へ向かう。これが地上で戦うことのメリットだろう。
 倒すことよりも落とすことを優先している傭兵が多いため、彼女等は大わらわであった。当然、上へ武器を届ける余裕はない。
 芹佳がしびれを切らして降りてき来たのを見て、気づいたリュティアは迅雷を使い、彼女の蛍火と刀をC柱の元へ届ける。
 ついでに救急セットを手にした沙紀も駆け寄った。
「はい、治療終わり。がんばってね」
 励まされた芹佳は、再びボスキメラに挑むべく登攀を開始する。

●よく暴れ、よく食べる

 5Fを一掃した‥‥正確にはキメラを階下へ叩き落とした傭兵達は、敵を追いかけて1つ下に戦場を移していた。
「人の知恵と獣の力の結晶‥‥。それがあたし、ドラグーンよ!」
 機械剣βを手に力を振るっていた銀子だったが、好事魔多し。
「知恵の分で勝‥‥っとと‥‥ぉぉっ!?」
 頭上の鉄骨にぶら下がった猿キメラが、分銅のように身体を振って彼女を突き飛ばす。足場の鉄骨に指をかけて、階下へと姿を消すパイドロス。
 ぶら下がっている尻尾を、詠の壱式が切断してキメラの身体が落下していく。
 行く手が開かれたことで、彼はボスキメラめがけて駆けだした。
 彼の握る壱式に込められたのは、急所突きと、豪破斬撃と、紅蓮衝撃。温存していた練力をここへ注ぎ込んだ。
 爪による反撃を受けた詠は、そのまま身を引いて以降は援護射撃に徹する。スナイパーであるアリスも、牽制など後方支援で仲間をフォローする。
 純平も相手取ったキメラを階下へ投げ落とすと、ボスキメラに向けてクルメタルP−38を向けた。
 ボスキメラに向けて3方から銃弾が浴びせられる。
 超機械「雷光鞭」まで奪われたホアキンは、持ち替えた小銃「スノードロップ」とイアリスを手にボスキメラへ挑む。銃撃の合間に接近し、スキルを重ねがけしてイアリス彼は突きを見舞った。
 それは奇しくも詠と同じものだ。急所突きも、豪破斬撃も、紅蓮衝撃も。違う点は、彼の練力に余裕があったこと。ホアキンは全く同じ攻撃をもう一度叩き込んだ。
 傷を負ったボスキメラは、階下へと逃亡する。

 そして、3F。
「相手の得意としてる所で戦うのは辛いね‥‥。でも、負けるわけにはいかない!」
 柱に向かって飛んだ芹佳は、柱を蹴ることで方向を変えると、三角跳びの要領で相手の死角に回り込んでキメラを斬り伏せる。
 その彼女を驚かせたのは、頭上から降ってきたボスキメラの出現だ。敵は下肢で彼女を蹴り落とした。
 タイヤを軋ませた急接近した銀子は、機械剣βで竜の咆哮を叩き込んで、ボスキメラの身体を弾き飛ばす。
 その先に、別な能力者が待ちかまえていた。
「お山の大将気取りもここまでだ」
 月詠を失いながらも、機械剣「ウリエル」を構える剣一郎。
「天都神影流・斬鋼閃っ!」
 急所突きを活用した鋼を断つほどの剣閃は、それだけでは終わらず二の太刀を狙う。
 追撃は、3重にスキルを使用した、如何なる物をも両断する紅の一閃。
「‥‥天都神影流『奥義』白怒火」

 まるで、だるま落としのように、ボスキメラは次々と傭兵達の攻撃にさらされていく。
 2Fではカルミアが挑みかかった。敵のお株を奪うように頭上の鉄骨に両手でぶら下がると、靴に取り付けたステュムの爪でボスキメラの身体をえぐった。
 月詠を手に、優の流し斬りが袈裟懸けに走る。
 頭上からはキメラの死体に混じり、純平が降りてきてボスキメラへと銃弾を叩き込んだ。
 カルミアは別なキメラに落とされた仕返しに、今度はボスキメラを蹴り落としてやった。

「きたぁ〜」
 一回り大きなキメラを見て沙紀が声を漏らす。
 ボス猿はこれまで、攻撃を受けながらも、バランスを崩したり、下へ逃げることで、勢いを殺すことができた。
 しかし、終点に達した今、背中から地表に叩きつけられて痛みにうめいていた。もちろん、積み重ねられた傷の痛みも大きいだろう。
 動きの鈍っているボスキメラに、迅雷で接近したリュティアが円閃でブレイクロッドを叩きつける。
 続いて、沙紀の振り下ろすトマレが、両断剣でボスキメラの頭部を粉砕してのけた。
 ボスキメラの死を目の当たりにし、残存する猿キメラが悲鳴を上げる。
 リュティアと沙紀の周囲に、逃亡を望むキメラがバラバラと降り立った。しかし、さらにその外側を、キメラの掃討を望む傭兵達が取り囲んだ。
 もはやキメラの数は5体しか残っておらず、どの個体も負傷している。
 地上に降りて武器も回収した傭兵にとって、残りの作業は『ただ倒すだけ』であった。

「皆、お疲れ様だ」
 最後の一体が倒れると、剣一郎が皆に労いの言葉をかける。
 リュティアは鍵を借りていたのか、工事現場の事務所らしいプレハブ小屋の中へ入った。彼女が持ち出したのは、ベーグルサンドや珈琲である。
「皆様、お疲れ様でした」
 聞けば、参加した一同を労うために彼女が持参した品らしい。猿に見せたのも、その余剰分であった。
 一暴れした彼らは、ベーグルサンドに手を伸ばす。
 詠はお気に入りのブランドでもあるのか、自前のコーヒーに口を付けてまったりと過ごしていた。
「事後になってしまったが、改めて。白鐘剣一郎だ」
 名乗っていない事に気づき、いまさらながら彼はアリスに声をかけた。
「そう言えば、今回は何故この依頼を受ける気に?」
 問われた当人が首を捻る。
「んー? ‥‥依頼があったから?」
 実は芹佳と同じで、気分的な問題のために理由らしい理由が存在しない。
 溢れ出るやる気を消化できれば、この際、どんな内容であっても構わなかった。
 それこそ、そこに依頼があったから引き受けたのである。