●リプレイ本文
●毛虫百匹
「エリザベス君か、久しいな。‥‥傭兵になったと聞いたが、なるほどな」
夜十字・信人(
ga8235)が久しぶりに顔を合わせたエリザベス・ゴードン(gz0295)は、乗機もバイパーへと乗り換えていた。
「‥‥新しい道に踏み込んだのか。大したものだな」
別な生き方を選んだ彼女の決断を信人が評価する。
バイパーは搭載兵装からストライクシールドを外し、榊 刑部(
ga7524)の持ち込んだガトリング砲に換装していた。
「地上を担当する仲間が多いようですし、我々は空からの攻撃を担当する事としましょう」
と提案した刑部が、対地攻撃用にはリロード可能な武器が向いているとして、彼女に勧めたのだ。
「あれだね‥‥」
巨大な虫型キメラの存在を嫌っているエリザベスは、眉間にしわを寄せてキメラを睨みつけた。
茂みそのものが移動しているかのような、荒野を進軍する毛虫の群れ。モソモソウゾウゾと蠢く光景は、見るだけで不快感を抱かせる。
「たしかに春先はこういう光景を良く見まけど、規模が凄いですね」
望月 美汐(
gb6693)も眼下の光景に呆れている。
「よくもまぁこんなに集まったものです。此処までくるといっそ清々しいですね。」
そんな感想を抱くのは、鹿内 靖(
gb9110)ぐらいのようで、他のメンバーは嫌悪感の方が強いらしい。
「全長8メートルの毛虫が100匹なんて‥‥視覚の暴力です‥‥」
事前の想像を上回るインパクトを受けて、憐(
gb0172)は意図せず視線を遠くへ向けていた。
「‥‥毛虫の時期にはまだ‥‥早いと思うのですが。‥‥ともかく‥‥毛虫は消毒だー‥‥なのです」
とりあえず、「一匹も逃すもんかー」と決意を固めていた。
「毛虫の大行進ですねー。でっかいなぁ。多いなぁ。‥‥好きにはなれそうもありませんけれど」
旭(
ga6764)もまた、顔をしかめつつ感想を漏らす。
「依頼でKV乗るのは初めてだから上手く出来るかな‥‥」
わずかばかりの不安を見せる月明里 光輝(
gb8936)。
「ううん、KVで戦うのは初めてじゃない。出来ることを一生懸命やろう、私と『フォトン』なら‥‥きっと出来る!」
ミカガミの操縦桿を握り、彼女は自分を奮い立たせる。
五十嵐 八九十(
gb7911)はバージョンアップしたアヌビス(真)の性能を確かめるべく、この依頼に参加していた。変更した機体愛称は、イタリア語からとった『エクイリブリオ・ベオーネ(大酒飲みの天秤)』。
「丁度良い相手ですし、しっかりこなして美味い酒をあおるとしますか」
「俺を抜いても、一人辺り10匹か。この面子ならば問題ないな」
岩龍に乗る信人のみが、直接戦闘から外れるのだ。
「夜十字さんナビゲートをお願いします」
旭だけでなく、他のメンバーも岩龍とデータリンクを行う。
「‥‥戦況ナビは、皆のお耳の隣人、夜十字が任された」
と、今回の彼は後方支援に徹する予定である。
「まずは空爆で打撃を与え、その後は空戦班と陸戦班で連携を取りつつ殲滅だな」
皇 流叶(
gb6275)は皆への確認の意図も込めて、作戦概要を口にした。
「100体とは放置しておけない数だな。手早く、効率よく片付けよう」
レティ・クリムゾン(
ga8679)のつぶやきをきっかけに、キメラへの攻撃が開始された。
●空陸挟撃
「無駄弾が出ないよう、できるだけキメラをまとめておかないとな」
「‥‥賛成なのです」
流叶の言葉に憐も同意した。
「フレア弾の投下前に頭を抑える。タイミングを合わせよう」
レティがカウントを委ねたが、無口な憐は応じそうにないため、流叶がそれを行った。
「3、2、1、発射!」
3機が同時に撃ち出したK−02小型ホーミングミサイルが、縦長になった群れの先頭に炸裂して、キメラ達の行軍に混乱を生じさせる。
「護衛は任せてくれ」
奇襲を警戒したレティは、皆に先立ってディアブロを降下させ、キメラの攻撃や伏兵がないことを明らかにした。
「まだこの機体に十分慣れているとは言えないが‥‥。よし、GO!」
彼女に続く形で、靖の雷電と、同じくフレア弾を搭載する3機がそれに並ぶ。
「機を逃さず焼き払うとしよう」
基本的に虫が嫌いなため、流叶も気合いを込めてスイッチを入れた。
刑部のロジーナが、旭のフェイルノートが、流叶のシュテルンが、靖の雷電が、合計4発のフレア弾を投下する。
威力が高いだけに投下地点を離したつもりだったが、空対地における命中精度の低下があって、効果範囲は重なったり粗かったりものの、許容できる誤差に収まった。
フレア弾は着弾と同時に地上を広範囲に焼き尽くし、多数のキメラを炎で包み込んだ。
この攻撃で、キメラはすでに3割ほど数を減じてしまった。
「失速‥‥するんじゃないぞ‥‥」
雷電は靖の信頼に応え、再び高空へと舞い上がった。
憐は陸戦班を引き受けているため、地上では使用できなくなるK−02を、キメラの外周部へ全段発射してから、降下を開始した。
毛虫キメラに対し多大なダメージを与えたからこそ、キメラの軍勢にはそれこそ虫食い穴のような空白が生み出された。陸戦班の役目は、爆撃が十分な降下を得られるように、キメラ達を押し包み一点に集中させることだった。
「虫は地面に潜るものなので‥‥、一応保険です‥‥」
憐の破曉が、着陸した東側に地殻変化計測器を設置する。
同様に、南側では美汐が、西側では八九十が作業を行った。
「‥‥まぁ、潜らないならそれに越したことはないけどね☆」
応えた光輝が最後の装置を起動させた。
「これで地中の対策はバッチリかな?」
4機の探査範囲が無形の網となって、キメラを捕らえた。
「は〜い、一箇所に集まってくださいね〜」
美汐の破曉が、構えている90mm連装機関砲でキメラを追い立てていく。
「散らないようにね〜。‥‥そのままそのまま、逃げたら当てちゃうよ!」
こちらは光輝だ。20mmガトリング砲やレーザーバルカンで威嚇してキメラを誘導する。
高度を下げながら哨戒している岩龍は、レーダーで敵の分散箇所や残数の把握に務め、クロムライフル搭載・光学スコープからの情報も索敵に流用していた。入手した情報は、できる限り味方機へ送信していく。
「西側に向かって、数匹が外れつつある。一番近いのは、八九十君だな。‥‥向かえるか?」
信人の指示に応じて回り込んだ八九十のアヌビス(真)が、R−P1マシンガンで広範囲に鉛玉を散布する。
しかし、数匹が並んで併走している状態では、アヌビス一機で押しとどめることは難しい。
「手伝うよ」
言葉と同時にレティがディアブロを着陸させる。
「進化した『天秤』の力、試させて貰うッ!」
アヌビスを愛称で呼んだ八九十は、ラージフレア『幻魔炎』を射出し、隠し兵装のニードルショット「サトゥルヌス」を稼働させた。重力波と鋼針で二重の壁を形成して、さらに吼える。
「爆ぜろ黒点! 近づくと火傷で済むと思うなッ!」
双機刀「臥竜鳳雛」を両手に装備したアヌビスがキメラへ斬りかかった。
一方のディアブロが装備しているのは、2丁拳銃のダブルリボルバーだ。アグレッシブ・フォースを稼働させて銃弾を浴びせていく。
ガスによる反撃を受けたため無傷とはいかなかったが、向かってきたキメラを押し返すどころか、3体を始末してしまった。
死骸が壁となり、ルートを変えた残りのキメラは仲間と合流していた。
群れの密度が薄かったために、四方から攻撃を受けたキメラ達は、空いているスペースを再び埋めるように動いていた。
「上から差し入れが落ちるぞ。陸戦班は一端距離を取るんだ」
信人の警告が発せられ、過密状態に陥ったキメラの群れに対し、再び空爆が実行された。
●毛虫殲滅
キメラの上空を飛び交うKVが次々と地上攻撃を開始する。
初撃を飾ったK−02が、シュテルンとディアブロから再び降り注ぐ。
単独で群れから離れた敵を見かけたレティは、ロングレンジライフルにアグレッシブフォースを活用して狙い撃つ。空対地攻撃のため、ずいぶんと手間取ったが仕留めることに成功した。
「これから、ロケットを打ち込みますので、一時退避を!」
信人の言葉も届いていたはずだが、巻き込むことを恐れて靖は念を押す。口にしたとおり、地上へ向けて84mm8連装ロケット弾ランチャーを立て続けに撃ち込んでいく。
「いかん。やはり全弾命中とはいかないですね。無駄弾ばら撒か無い様にしないと周りに被害及ぼしそうだ」
速度と高度を落とし、旭が慎重に狙いを定める。キメラの固まっている箇所へ向けて、フェイルノートの84mm8連装ロケット弾ランチャーがミサイルを吐き出した。
「いきましょうか、エリザベスさん」
「ああ」
刑部のロジーナがバイパーと並んで、低空飛行でのロケット弾ランチャーによる対地攻撃と、機関砲などによる機銃掃射で駆除を行う。
「‥‥あんな大型で大量の毛虫がわらわらと‥‥正直早く片付けて酒飲んで忘れたい映像ですね」
こぼしながらも地上で銃撃を行う八九十。
「う〜、近づくと流石に見た目が嫌ですね」
美汐も自身に迫ってくるキメラの外観に嫌悪感をかき立てられた。かと言って、彼女が退いてしまえば、キメラの逃走を許すことになるため、そんな選択肢がないことは承知していた。
「おっと、逃がしませんよ?」
覚悟を決めた彼女は、傷つきながらも迫り来るキメラに向けて、焔刃「鳳」で迎撃する。
敵の層が厚い部分へG−44グレネードランチャーを撃ち込んでいた憐は、いきなりの警報音に驚かされた。
地表を大量のキメラが徘徊しているために、地殻変化計測器の探知精度は低かった。つまり、探知できたという時点で、確実に補足できる距離まで接近を許していたのだ。
盛り上がった地面の下から噴き出したガスが、破曉の装甲を焼いた。続けて、身をよじるようしてキメラが這いだしてくる。
踏み込んだ憐は、肩部の焔刃「鳳」を駆動させてキメラの外殻を切り裂いてやった。
どうやら、地上が危険だと理解したキメラは、別な逃げ道を選んだらしい。各所に設置した地殻変化計測器もあちこちで騒ぎ始めていた。
モソモソと地表へ出現したキメラを見た光輝は、ガスを出さないであろう腹部側へ機体を回り込ませた。
「もらうよっ‥‥、てやあああッ!」
ミカガミを懐に飛び込ませて、Highナックル・フットコートで柔らかそうな腹部を突き破った。
距離を開いて垂直離着陸を行ったシュテルンが、M−181大型榴弾砲を構えた。
「榴弾砲を使いたい。夜十字殿、指示を頼む」
「少し待ってくれ。うまく囲めば、丁度敵を袋のネズミに出来る」
信人からの指示を受けて、ロジーナとバイパーが着陸して陸戦に加わった。
KVによって追い立てられているキメラの速度と方向を補足し、信人は着弾までのタイムラグを計算する。
「このあたりに打ち込むと、吉だと思われるな」
流叶はその指示に従って榴弾を打ち上げていく。扱いは難しくとも、空対地に比べて誤差が出にくく、降下範囲も広い。彼女は300mm榴弾砲を続けざまに撃ち込んで、キメラ達を多くのキメラを葬っていった。
撃ち尽くしたところで、シュテルンも重機関砲を手にキメラへ迫る。
上空で警戒に当たっていた旭のフェイルノートが、単体で抜け出したキメラを見かけ、127mm2連装ロケット弾ランチャーでキメラの進路を妨害する。
「そちらにまだいましたか!」
近くにいた八九十がスナイパーライフルRを向けて狙い撃つ。
取りこぼしたのはそのキメラぐらいで、残りは陸戦班が包囲を狭めていき、掃討することに成功した。
「地殻変化計測器に反応はあるか?」
信人に問いかけられて、八九十が確認する。
「なさそうですね。静かなものです」
「‥‥ナイス・キル。全滅だ。お疲れ様」
信人の言葉が戦いを締めくくった。
一仕事終えると、エリザベスはバイパーに搭載していた借用品を持ち主に返還した。
「ありがとよ」
「‥‥私は器用な性格ではありませんから、戦いに臨んでは常に真剣でありたいと思っています。
「まあ、戦いに私事を持ち込むのはまずいしね」
刑部に対してエリザベスが軽く応えた。
「そんな訳ですから、あなたを失望させているようならば申し訳ないと思っています。‥‥返事は急ぎませんから」
「その調子で頼むよ」
そんな会話をする二人の態度は、親しそうと表現して差し支えないものだったろう。