●リプレイ本文
●水辺の傭兵達
いつものメイド服を脱ぎ捨てて、リュティア・アマリリス(
gc0778)が水着に着替えた。
「アリス様、今回もよろしく御願い致します」
「うん。よろしく〜♪」
アリス・ターンオーバー(gz0311)と共に連れ立って更衣室を後にする。
「俺も変わったものだな‥‥愛とは恐ろしい‥‥」
恋人の水着姿を心待ちにしながら、Cerberus(
ga8178)は心境の変化をしみじみと噛みしめていた。
二人に続いて姿を見せた白藤(
gb7879)は、彼に寄り添うように隣に並んだ。彼女はプールに浮かぶカラフルな海月を眺めつつ、恋人の羽織っているコートを引っ張った。
「けーちゃん、白藤あとでアイス食べたい、な‥‥?」
ささやかなおねだりを前に、断るという選択肢が存在するはずもなかった。
「プールかぁ。多分初めて来たのかも‥‥」
過去の記憶が曖昧なため、芹佳(
gc0928)自身では経験の有無を断言できずにいる。
最近熱くなってきたところなので、プールを楽しませてもらうつもりだった。
「水から出てこないとはいえ見物客までいるとはな」
呆れ気味につぶやく堺・清四郎(
gb3564)。
「無様は見せられないな、能力者の評判のためにも、プールの評判のためにもきっちりと退治するか」
入り口付近でひしめいている見物客を目にして、優(
ga8480)は見取り図の看板に視線を向けた。
「見世物にされるのは余り良い気分ではないが‥‥。まぁいい、仕事だしな。」
自分の容姿が特殊だという自覚があるクローネ(
gc3247)だったが、この場は諦めて割り切ることにする。
「民間人は入れない方が、此方も安心して作戦行動を行えますが、‥‥言っても仕方ないですね」
その代り、見物区画を限定して安全対策を取ってもらおうと、優は思考を進めていく。
「初依頼がプール‥‥」
その上、見物客まで存在するため、イメージの違いに相賀琥珀(
gc3214)が戸惑いを見せている。
「先輩、どうですかこの格好! プールにぴったりでしょ?」
誇らしげに海賊ルックに身を包んでいる紫陽花(
gb7372)は大学の後輩にあたる。コスプレ紳士の称号も伊達ではない。
「海賊さんのプール制覇ですか?」
微笑を浮かべる琥珀に、紫陽花が楽しそうに応じる。
「見物客もいるし、パフォーマンスも大事だよね!」
ゴムボートを借りようと職員へ申し出た神名田 少太郎(
gc3155)だったが、渡されたのは彼の体格に見合った子供用ボートだ。
「だから、僕は小学生では‥‥。もういいです‥‥」
容姿への自覚もあるため、少太郎は抗弁を断念する。プール用なのでオールは付属していないものの、かさばるボートを頭の上に被ってプールへ向かった。
「あんな子供も傭兵なの?」
「無理だよ〜。小学生なのにー」
長剣を引きずる姿に、見物客から同情的な声が上がった。
「僕は17歳です! 小学生なんかじゃありません!」
少太郎はムキになって主張するのであった。
「まさかプールとは‥‥。依頼は良く見てから選ぶべきだな」
自嘲気味につぶやいているフローネ・バルクホルン(
gb4744)へ、弟が世話になっている琥珀が話しかけた。
「今日は宜しくお願いしますね」
ため息をつきながらフローネが応じる。
「水の中はお前達に任せるからな」
泳げない彼女は、水場に近寄るまいと心に決めていた。
●水際の攻防
「匠様。こちらを‥‥」
「助かります」
装備が心許ない鹿島 匠(
gc3360)が、リュティアから小銃「S−01」を借り受ける。
二人が担当するのは流れるプールだ。
「‥‥ふむ、武器を強化しておけば当面問題は無かろう。援護は‥‥見える範囲でやっておこうか」
尊大な口調に比べて、ためらいを感じさせる歩調でフローネはプール際に近づいた。
「なんだかんだといいながら結構居るものだな‥‥。とりあえず、浮かんでいるものは攻撃するとしよう」
練成強化を行った両手の超機械で、視界に入るスライムへ攻撃を開始する。
「さて、見世物になる趣味はないんでさっさと退治させてもらうか」
動きを阻害するような防具を外して、清四郎がプールへ飛び込んだ。
「決められた範囲から此方に侵入することは絶対にしないで下さい。皆さんの安全が保障出来なくなります。また、お子様がいる親御様は必ずお子様の御手を取っていて下さい。お願いします」
優は見物客相手にあらためて念を押してから、ウォータースライダーへ向かった。
「水の滑り台か。でも今はスライムが流れてるなぁ、これ」
報酬が主目的ではあるものの、クローネはこのての施設が初めてなため、興味深そうに視線を向ける。
「‥‥誰か先に滑りたいやつ、いるか? 援護はちゃんとするが‥‥」
「はい。はいっ! やりたい!」
クローネが言いくるめるまでもなく、アリスがすぐさま食いついた。
「アリスさん、今回もテンションが高いですね」
呆れ気味な優のコメントも気にせず、アリスは階段を駆け上がっていく。
後を追ったクローネは、途中で足を止めて進路を確保すべく弾幕を張った。
「いくよっ! ‥‥よし、命中! 次、来い! ‥‥ん? むがっ!?」
アリスの騒がしい声は筒状部分で唐突に止まり、わずかに遅れてポンと鳴った。
筒を塞いでいたスライムの群れが、アリスの体当たりを受けて押し出されたのだ。一団がまとめて飛び込んだ事で、下のプールに時ならぬスコールを引き起こした。
プールサイドに立って、水面に浮かぶスライムへ超機械を向けていた芹佳や優がずぶぬれになっている。
同じく被害を受けた少太郎は、これからもスライダー使用者が流れ出てくる事を考慮して、ボートを抱えて流れるプールへ向かうのだった。
上に登ってきたアリスに循環口のスライム退治を依頼し、クローネもスライダーへ身を踊らせる。
足を踏ん張って速度を調整しつつ、へばりついていたスライムを機械剣βで焼き斬っていく。
黄スライムの電撃はディフレクト・ウォールで軽減し、体にへばりついた青スライムにはスパークマシンαの電撃で打ちのめす。
クローネの到達によって、下では再びしぶきが舞い上がった。
「合体されると厄介です。その前に見える相手から‥‥!」
琥珀は波のプールの手前に立ち、黄色いスライムを狙って拳銃「ブリッツェン」の引き金を引く。
「合体を阻止するためにも、黄色の数を減らすのは有効だよね」
先輩の意図を察して、紫陽花も拳銃「バラキエル」を手に銃撃に加わった。
電撃を発しながらも、黄スライムは銃弾を受けて動きを止めていく。
「さぁて‥‥遊ぼうな?」
壱式を刀身を愛おしそうに指で撫でる白藤。
「1匹ずつ確実に倒して行かんとな‥‥」
波を乗り越えて進む彼女は、手近なスライムめがけて切っ先を突き立てる。彼女に並ぶ恋人も同様だ。
グニッという感触と、ジュッという痛みに白藤が表情を歪めた。
「酸を出すスライムか。俺の恋人には手出しさせんぞ」
即座に潜り始めたCerberusが、白藤の足を捕らえた緑色のスライムを試作型水中剣「アロンダイト」で引きはがす。底へ沈むまでの間に、幾度も斬りつけると、流し斬りで両断する。
「底にいるのはやっかいだな。息継ぎしながら闘うしかない」
●水際の決着
「あそこに、居そう‥‥だね?」
芹佳が注視した水面の歪みに向けて、優がビート板を投じる。
フォースフィールドを確認すると、芹佳の超機械「扇嵐」や優の超機械「シャドウオーブ」が狙い撃ちしていった。
「沖のスライムは‥‥」
芹佳は次の行動に備えて、水着の結び目を固く締め直す。
「水切りのような角度で水面を蹴れば、きっと走れる! ‥‥はず?」
迅雷を使用した芹佳が水上へと駆けだした。
一歩、二歩、三歩‥‥、バシャーン!
その試みは失敗に終わり、芹佳は派手な水しぶきをあげて水中に没していた。
そこへ、またして滑り降りたアリスが派手に着水したが、今回の被害者は皆無だ。
優と芹佳はそれぞれ水中剣「アロンダイト」を手に水中戦へ突入していたためだ。
うねりながら捕らえようと体を伸ばすスライムの攻撃をかわし、優の剣が体表を切り裂いていく。彼女の流し斬りがスライムを沈黙させた。
続く雷撃は彼女の頭上、水面からだ。優の振るった両断剣により、水面を切り裂いた切っ先がスライムをまっぷたつに断ち割った。
客への流れ弾を恐れて発砲を躊躇した紫陽花は、青スライムの接近を許してしまう。仮装用だったはずのパイレーツフックを突き立てて引きはがしたスライムに、プールサイドに立つ琥珀から銃弾が撃ち込まれた。
芹佳の顛末を見ていた琥珀は迅雷による水面走破を諦めており、仲間への援護に徹している。
プールから這い出ようとした青スライムを、彼は迅雷で回避した。間をおかずに反撃に転じた琥珀は、夜刀神を手に円閃で斬りつけていた。
「‥やはり刀の方が性に合いますね」
手応えを実感した琥珀は思わずつぶやく。
紫陽花の水鉄砲を受けて存在が確認された青スライムへは、白藤が攻撃を加えていた。
「あぁ‥‥アカン、めっちゃ楽しいなってきたっ♪」
ウズウズしながらも自分を抑えて戦う白藤に、成長の跡を見たCerberusは満足そうだ。
足下に転がってきたスライムを白藤がひらりとかわす。背が低いため、引き込まれるのだけはごめんなのだ。
潜水したCerberusが、彼女を救うべくスマッシュで斬りつけて敵を引きつける。
白藤は水中用拳銃『SPP−1P』に持ち替えると、強弾撃を叩き込んだ。
流れるプールを泳ぐリュティアの傍らで、黄色のスライムが横に弾け飛んだ。
「借りた恩は返しておきませんとね」
彼女から借り受けた小銃「S−01」で、匠はプールサイドから援護する。続けて、リュティアの機械巻物「雷遁」が電磁波を放って敵を撃退していく。
「水面のスライムはお願いします。こっちは任せてください!」
ゴムボートで長大なプールへ漕ぎ出した少太郎が、水底に沈む緑スライムの直上へ到着する。
「剣と盾のキャバルリー、神名田 少太郎。行きます!」
ゴムマリのように跳ね飛んできたスライムをマーシナリーシールドで弾き落とし、水中剣「アロンダイト」で応戦しつつ少太郎はタイミングを計る。
(「切り裂け、アロンダイト!」)
シールドスラムによる一撃が緑スライムを両断した。
匠の投じたビート板で、フォースフィールドと共に青スライムが存在を明らかにすると、見物客が興味深そうに騒いでいる。
「ふう、こっちは命がけなのにショー扱いだな‥‥まあしょうがないか」
騒がしい見物客に辟易しながら、清四郎は次の獲物へ向かって泳ぎ始める。
「やれやれ、これではプールの合間に仕事だな‥‥」
匠の射撃の邪魔をしないように、潜水して水面のスライムを避けた清四郎は、そのまま底のスライムへ向かう。電撃には銃撃で応戦し、蛍火を突き立てる。水中用兵器でない不利を覆すために、手数の差で押し返す。
水面の敵の匠に委ねたリュティアは、抜刀・瞬で持ち替えた水中剣「アロンダイト」で緑キメラへ斬りつける。とどめを刺したのは、特注品のシュトースツァーンで繰り出した円閃だ。
浮上した清四郎やリュティアへ、フローネが練成治療を行う。
足のつかないところでは確実に溺れると信じる彼女は、プールへ足を踏み入れるつもりはない。
だから、彼女がプールに飛び込んだのは、足を滑らせたことによる純然たる事故であった。
全身ずぶぬれになった彼女の目は据わっている。
「フフフ‥‥。よくものこのような醜態を‥‥殲滅してやる‥‥」
人はそれを八つ当たりと言う。
超機械「ザフィエル」と機械本「ダンタリオン」による、局地的な人災が発生した。
●水辺の憩い
「ありがとうございました。リュティアさん」
「お役に立てて良かったです」
戦いを終えて、匠が借用品を返却すると、相手は微笑みを浮かべて受け取った。
今回の依頼で救急セットを持参したのは、Cerberus一人であるため、白藤の協力を得て皆の治療を行っている。少太郎は練力が不足していまったので、蘇生術の使用は断念した。
ビート板を投げ込んだ当人達がそれぞれの場所で回収を行い、リュティア達は撃ち漏らしたキメラがいないか確認を行う。皆を代表して、優が施設管理者へ任務終了の報告を行うことになった。
軽食コーナーには、事前の約束通りデートにいそしむ一組の男女がいた。
「めっちゃおいしー♪ けーちゃんありがとー」
これまた約束通りにおごってもらったアイスを堪能する白藤。
「ほら、けーちゃんも一口だけでも‥‥どない?」
アイスをすくったスプーンを口元に差し出され、Cerberusは観念して口を開いた。
「あ、あーん‥‥。妙に恥ずかしいぞ、これは‥‥」
プールが安全になったことの証明だから‥‥、などと内心で言い訳しつつ、恋人との一時を楽しむのだった。
「プールは20年近くぶりです」
外見のわりに実年齢が三十路前という琥珀は、まったりと過ごしている。リュティアや匠も休憩組だった。
先ほどまで一緒だった紫陽花は、『あちら側』に参加して騒いでいた。
「もし良かったらなんだけど、一緒にまわらない?」
「うん。行こう♪」
「何をやるかはアリスに任せ‥‥」
言い終えるのも待たず、彼女は芹佳の手を引いてウォータースライダーへ向かう。苦笑を浮かべながらアリスと共に芹佳は駆けだして行った。
クローネも海や川を思い起こし、初めてのプールを楽しむことにする。
装備を全て外した少太郎が、買い込んだ水着に着替えて姿を見せた。
「せっかくだから、プールで遊‥‥もとい、取りこぼしが無いか確認しないと」
波のあるプールへ飛び込み、足が届かないと嘆くのも、彼なりの楽しみ方であった。
清四郎は先ほどの活躍を見ていた子供達にせがまれて相手をしていた。
「戦うだけの力だが‥‥こういう使い方も悪くはないな」
ビート板に乗った小さな子を、清四郎は力一杯押して水面を走らせてやった。
海賊姿の紫陽花は、水鉄砲を手にパフォーマンスを繰り広げ、プールサイドを賑わしている。
断固としてプールに入ろうとはしないのはフローネだ。ビール缶を片手にナンパ男をあしらっている。実年齢が30才以上としればさっさと退散していたかもしれないが‥‥。
「ふっ‥‥今日はいささか機嫌が悪い。手荒になるが、運が悪いと思ってあきらめるが良い」
言い捨てるなり、男をプールへと投げ込んでしまった。