●リプレイ本文
●空港到着
南米の空港に降り立った佐藤さん一家‥‥とはあくまで仮の姿。その正体は11名の能力者達であった。
関係性が複雑なので順番に追っていきたいと思う。なお、年齢は実年齢ではなく外見年齢なのを明記しておこう。
佐藤家当主は安国寺天善(gz0322)77歳。
「わしの一つ下の世代が欠けておるな」
40〜50歳を飛び越えて30歳未満ばかりなのだ。
「ダーリン♪」
妻役を務めるラサ・ジェネシス(
gc2273)15歳が彼に抱きついた。親子どころか、祖父とひ孫ほどに年が離れている。
「ダーリンのう‥‥」
「敵の注意を引きつける為に、我が輩は全力でラヴラヴを演じるよ‥‥」
誰に渡されたのか手書きの指示書にノリノリで彼女は従っている。
「ミンナのママだヨー♪」
次のハグ相手は、息子とその嫁だ。
「まぁっ、家族ごっこも悪くねぇーかもな。久々にゆっくり出来そうだぜ。あーでも演技は苦手かも‥‥」
「初めての依頼が家族ごっことはね。傭兵の仕事って色々あるんだわ」
ともに似たような事を考える悠夜(
gc2930)18歳と愛染(
gc4053)17歳。
「それにしてもカオスな家族だな」
「だけど‥‥怪しすぎる家族ね‥‥」
感想を漏れ聞くに、ふたりはお似合いだと思われた。
「お父さんも元気してた? って元気に決まってるか」
こちらは天善の愛人の子、海原環(
gc3865)25歳。
「ラサちゃん久しぶりー」
「環お姉サマーママデスヨー。立派に育って嬉しいネ。我輩より色々立派ネ♪」
「‥‥マジマジ見ないでよう」
年下で義理の母にあたるラサに見つめられ、環が赤くなっている。
「良いお日和ですねぇ」
のんびりつぶやくのは、天善の養子である神代 咲耶(
gc3655)17歳。
(「初依頼だね、なんだか色々と凄まじいけど目的は忘れないようにしないと。‥‥まぁ、皆さんはっちゃけるようですし。楽しみましょうかね」)
「まさか姉妹そろって佐藤家の人が好きになるなんてね‥‥思ってもなかったよ」
咲耶の妻である妻の和泉 澪(
gc2284)17歳が視線を向けたのは、同じ名字を持つことから姉妹設定となっている和泉譜琶(
gc1967)13歳だ。
彼女は天善の孫である諷(
gc3235)25歳の恋人という設定なのだから、こっちはこっちで年齢差に疑問が浮かんでしまう。
「よろしくな! 譜琶!」
「諷さんっ! 今日は楽しみましょうね!」
譜琶が笑顔で抱きついている。
「あら‥‥あらあら、素敵ナお嬢様でスネ。ウチの息子達を宜しくデス」
ラサのハグの手が和泉姉妹にも及ぶ。
義理の妹を見て可愛く感じたのか、咲耶は微笑みながら譜琶の頭を撫ではじめた。
最後に触れるのは、天善の甥となる赤木・総一郎(
gc0803)24歳。そして、その妻である白藤(
gb7879)18歳だ。
「‥‥夫婦役? ‥‥わかった、善処する」
妻を亡くしている総一郎だが、今回は囮役ということで自分を納得させる。感情の切り替えは得意なため、妻への思いを彼女に重ね合わせれば十分に演じられると考えていた。
「うん‥‥総一郎さんとやったら、上手に出来そうやな♪」
白藤が抱く自信の根拠は、旦那役が自分の彼氏に似ている事に由来する。
以上が『佐藤家』の陣容である。
荷物を預けるためにホテルを訪れた彼等が、非常に怪しまれたのは言うまでもない。
●前半戦
「じゃあ行こ? 咲耶さん」
「‥‥あ、はい。行きましょうか澪さん」
並んで歩く二人を見て、白藤がおずおずと総一郎を見上げる。
「んー‥‥腕組むか、手‥‥繋いでもえぇやろか‥‥?」
どの程度まで触れあうかは白藤に任させるつもりなので、総一郎は頷いてそれを受け入れた。
「城塞跡かぁ。観光地、って感じでワクワクしちゃう!」
愛染もまた伴侶と見られるべく、悠夜に寄り添おうとしていた。
(「恋人らしく‥‥恋人らしく‥‥!」)
初めての経験となるため、内心では自分自信に言い聞かせ続けていた。
担いでいるギターケースが非常に場違いだったが、ライフルをむき出しで持ち歩くわけにもいかず、これは諦めるしかない。
「うわぁ〜大きい城壁。凄い迫力だね」
「こういう城塞跡や廃墟って、味があって好きなんですよね」
感嘆する澪に、咲耶が感想を漏らす。
「わーぁ! 上まで上ってみましょうよ!」
はしゃいで走り回る譜琶を、咲耶夫婦がたしなめようとするが、
「譜琶? あんまりはしゃぐと‥‥危ないよ?」
「足元にお気をつけて‥‥ってあぁ、遅かったかな」
「‥‥あ、こけた」
決定的瞬間を眺めていた諷が、我に返って慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫かー!?」
譜琶の手を取って立たせると、服についた埃を払ってやる。
「うぅ〜、諷さーん‥‥」
涙目の彼女を見た諷に、握った手を振り払うことなどできはしない。
「そうだな‥‥じゃあこのままで!」
諷が耳を真っ赤にさせているように、譜琶の胸でも鼓動が激しくなっていた。
「ふふ、皆楽しそうやなぁ‥‥」
総一郎と手をつなぎ、白藤が幸せそうに笑顔を浮かべる。
「白藤も、総一郎さんと一緒やから楽しいで?」
「堪忍、な? どうしても苦手で‥‥」
嫌いなパプリカをスプーンですくった白藤が、『あーん』と口を開けるように総一郎へ迫った。
「あーん」
もぐもぐとパプリカを噛みしめる総一郎が、気恥ずかしくなったのかなぜか謝罪する。
「‥‥すまん。似合わないな」
「夫婦なら、気にする必要ないやろ?」
彼女は笑って応じてくれた。
「ダーリン♪ あーん」
ラサと天善のむつまじさにを眺め、環は父が父でなくなったように感じてかすかに寂しさを見せる‥‥演技をする。
「お姉サマもあーん」
「えぇ? 私はいいよー邪魔しちゃ悪いしさ」
スプーンを自分に向けられて、戸惑いを見せながらも環は嬉しそうにくわえてしまった。
「はい、食べさせあいっこしましょ! あーん」
まわりに負けじと、譜琶は諷に迫っている。
「おいしそ〜♪ いただきます!」
「おや澪さん、口元にお米粒が。あ、動かないで下さいね」
「ふ? あ、ありがと‥‥」
咲耶に米粒をつままれて、澪が頬を染めている。
「‥‥申し訳ない、家族が騒々しく‥‥」
皆を代表してか、総一郎がまたしても謝罪する。今回は店員相手だった。
●後半戦
「総一郎さん? あっち見て‥‥ほら♪」
通りがかりに珍しい物を見つけては、白藤は足を止めて声をかける。総一郎の方でも不満を漏らすことなく、彼女につきあって露天を覗き込んでいた。
「あ、ダーリンにこれにあうカモ、お姉サマどうかなコレ」
「どれどれ〜? んん? 焼肉定食に亭主関白、酒池肉林〜!?」
ラサの掲げたTシャツは、日本語としてチョイスがおかしい代物だった。
直接的な指摘をためらった環は、別案で乗り切ろうとする。
「こ、こっちのが良いんじゃない? ここの遺跡みたいなのが描いてあるし」
若干引きつった顔で。
「何か欲しい物はあるか? もし良かったら買ってやるぞ。今の俺は結構、金があるからよ」
「お土産に可愛い携帯ストラップが欲しいの。ハンドメイドのお店、ないかしらね?」
愛染が見つけたのは、数珠のような民芸品のストラップだ。
「そんなでいいのか? まぁお前がそれでいいなら、いくらでも買ってやるぜ」
「咲耶さん、コレなんか良いんじゃない?」
「似合いますか? ふふ、ありがとうございます」
咲耶と澪は銀細工のネックレスを眺めている。
「これなんて澪さんに似合うと思いますよ。少し後ろを向いていただけますか?」
「‥‥わぁ。綺麗‥‥」
お返しにとつけられたペンダントを澪が喜んでいる。
「これ、どうかなぁ‥‥」
「ん? ‥‥うお!? 譜琶かわいすぎ!」
暖色系のポンチョを被った彼女に、諷が素直な感想を口にする。
「もうっ、諷さんったら! だーい好き!」
抱きつく譜琶の頭を、いとおしそうに諷が撫でている。
チェックインした佐藤家の面々は、離れた3部屋に振り分けられた。
301号室ではラサが天善にべったりと寄り添っている。
「偽装とは言え、こうも見せ付けられると娘役としては複雑だわ」
ポツリとつぶやく環を見て、ラサが誘いかけた。
「お姉サマお風呂イコー! ダーリンも一緒に入ル?」
さすがに天善は自粛して、バスルームへ向かう二人を見送った。
湯上がりの環が酔っぱらって天善に説教を始めることになるが、この時点で彼はそのことを知らないのであった。
304号室に入るなり、部屋を通り抜けてベランダへ直行した悠夜は、『あ〜、煙草ウメェ〜♪』と堪能してようやく室内に戻ってきた。観光中に喫煙を我慢していたが、同室者に気づかって外へ出ていたようだ。
「なぁ愛染。そろそろ大人の遊びヤッてみるか? 安心しな俺がリードしてやるよ」
「大人の遊び? あ、解った。さては賭けポーカーね!?」
「‥‥なんつってな、冗談だよ♪」
などと冗談を応酬する悠夜に愛染。
同室者からはなんの邪魔も入らない。
白藤ははしゃいだ疲れでも出たのか、総一郎にあたまをあずけてまどろみの中だ。
総一郎は感情の切り分けに長けているためか、ちょっとばかり無茶な事態も平然と受け入れてしまうので、やっぱり苦情はでなかったことだろう。
そして309号室。
心密かに女風呂の覗きを計画していた諷だったが、大浴場など存在せず企画倒れに終わったようだ。
覗きの被害を免れた和泉姉妹に、咲耶が就寝を促した。
「私はあまり眠くありませんので、万が一の為に見張りでもしてますね。眠くなったら寝ますので、お気になさらず」
「では、みなさん、すみませんがおやすみなさーい‥‥」
「さて、そろそろ休むかな。明日もあるし‥‥」
ベッドに潜り込む譜琶は枕元に無線機を置き、毛布一枚で壁際に腰を下ろす澪は刀を抱えている。どちらも緊急時に備えてのことだ。
寝ずの番をするのは、咲耶と諷だ。
咲耶は窓際の壁に背中を預け、仮の家族として過ごした今日一日を思い返す。
このままでいいのかという疑問が胸にわき上がる。祖父が亡くなってから追い出されるように能力者となり、空っぽのまま過ごしてきた今のままの自分で‥‥。
●家族の終わる時
「どうやら、来たようですね」
咲耶がつぶやくと同時に、309号室の扉が長い牙で貫かれた。扉を噛み破ったのは長大な蛇キメラ。
「奇襲か! いい度胸だ」
覚醒した諷が先手必勝で十手刀を打ち込んだ。
毛布を払いのけた澪が、直刀『天照』を引き抜く。
「鳴隼一刀流、隼烈斬!」
刹那とともに下から上に斬り上げた刀身が、蛇キメラの皮膚を切り裂いた。
「うぅ‥‥夜中に攻めてくるとか、ねむいよー」
眠い目をこする譜琶がベッドの隙間に転げ落ちると、その頭上を太い胴体が巨大な鞭のようにうねった。
無線機に手を伸ばした譜琶に迫る蛇の牙は、諷の十手刀が受け止める。
「最後まで守ってやるよ。大丈夫さ、無駄に頑丈だ」
守りを彼に委ねて、譜琶は通信機で仲間へ呼びかけた。返答がないのは、彼等も戦闘中だからと信じるしかない。
前衛を務めるのは、咲耶に練成強化をかけられた諷と澪。
破られた扉から転がり出た譜琶が左右へ視線を走らせる。従業員どころか宿泊客の一人も姿を見せない。
「お客さんは寝てる‥‥かな? ならとっととやっつけちゃいましょう!」
譜琶が室内に向けてマーシナリーボウで狙い撃つと、放たれた矢が激痛と共に蛇キメラを貫いた。
疾風まで使い回避を心がけていた澪だが、狭い室内ではい回る蛇をかわしきれるものではない。跳ね上がった尻尾に張り飛ばされてしまった。
長大な牙に噛みつかれた咲耶が、なんとか蛇の顎から逃れて練成治療を施す。
「首を刎ねれば大人しくなるかね」
機械剣βを構えた諷が、蛇キメラの首めがけて斬りかかった。
「で、か‥‥っ!?」
304号室に潜り込んできた蛇キメラを目にして、怯みつつも白藤は小銃「バロック」を引き抜く。まずは眼前の敵を倒すと思い定め、強弾撃を幾度も撃ち込んでやる。
白藤とあわせてスコーピオンを蛇に向ける総一郎は、残りの手でプロテクトシールドを掲げた。巨体を活かして、彼女が受けるべき攻撃を代わりに受けようというのだ。
日中にはケースに収まっていた愛染のライフルへ、ようやく出番が回ってくる。彼女の強弾撃が蛇キメラ胴体へ幾つもの弾痕を刻んでいった。
彼女へ噛みつこうとした蛇の頭部へ、小銃「ブラッディローズ」を向ける悠夜。
「蛇なら蛇らしくおとなしく狩られろヤァー!」
新人である愛染への攻撃を、彼は許すつもりはなかったのだ。
狭い室内戦であるため、武器の射程はほとんど意味をなさない。
「総一郎さんの手は煩わせんからなっ!」
気迫を見せる白藤が小太刀『白藤』を構えると、総一郎も硬鞭二刀流に持ち替えて彼女の背後を守ろうとする。
白藤を飲み込もうと開かれた口は、彼女の白刃によってさらに切り開かれた。身をよじる蛇の頭部へ硬鞭が叩き込まれ頭蓋骨を複雑に変形させ粉砕した。
3人ということもあり、301号室では戦闘が長引いていた。
天善を背中にかばうようにして、環は小銃「ブラッディローズ」をキメラに向けていた。
蛇を相手に投げ技を挑もうとしたラサが、豪力発現を発動させて組み付くが、小さく軽い身体が壁に叩きつけられる。
噛みつこうとした蛇に向けて、環が銃弾を叩き込む。天善のスパークマシンαも電磁波を放っている。
「神は言われまシタ。スープレックスはへそで投げるデス」
言いつつも、蛇の重心を身体に乗せることなどできるはずもなく、ラサは純然たる力業で蛇の頭部を反り投げに持ち込んだ。蛇の身体で円の軌跡を描き、頭部が床面へ急角度で投げ落とす。
この時、部屋の外へ仲間が駆けつけていた。ライフルを手にプローンポジションをとる愛染と、小銃を構える悠夜だ。
「お父さ、じゃなかった天善さん伏せてっ!」
環が天善を押し倒したタイミングで、室内に降り注ぐ銃弾の雨あられ。
「エイメン!」
ラサの手にした拳銃「スピエガンド」が火を噴き、蛇キメラの眉間を貫いた。
戦闘終了を待って、様子をうかがっていたUPC軍の部隊がホテルを接収する。影で動いていたUPC軍情報部の説明によれば、ホテルそのものがバグア側に与しており、諜報員はキメラの餌になっていたという推測らしい。
『佐藤家』のみなさんは空き部屋の一つに顔をそろえている。
愛染は救急セットを持ち出すと、率先して『家族』の手当を行っていた。
ほんの1日程度の家族ごっこだが、一同にはなんらかの感慨をもたらしたように見える。
「‥‥帰ったら、ちょっと‥‥甘えよ」
彼氏が恋しくなった白藤がぽそりとつぶやいた。
「楽しかっター。ミンナまたネ」
最初と同じように皆をハグしていくラサ。
「ダーリンマタネ!」
天善には頬にキスのおまけつきだ。
笑って眺めていた環が、残っていたビールを掲げてこう口にする。
「家族に乾杯!」