タイトル:砂の下で待ちわびてマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/30 01:30

●オープニング本文


「こいつの話、詳しく教えてもらえるかい?」
 エリザベスが示した依頼を確認して、しのぶが苦笑する。
「やっぱり、これを選ぶのね」
「わかってるだろ?」
「ええ。わかってるわ」
 エリザベスが大型虫キメラ退治を好むのは、彼女もよく知っている。
「キメラが出没するのは砂漠に点在するオアシス周辺よ。砂漠に潜んでいる虫キメラを倒すのが目的。肝心の虫キメラについて、一応、写真はあるんだけど‥‥」
 歯切れの悪いセリフと共に提示されたのは、風景写真というべきだろうか。
「‥‥キメラ?」
「中心に少しだけ見えてるでしょ? これよ」
 彼女が指さしたのは、すり鉢状のくぼみの中央に生えている一対の角――ハサミである。
「アリジゴク?」
「そういうこと。足下が砂地のうえ、アリジゴクということを考えると、穴に踏み込んだら引きずり込まれるでしょうね。罠のように事前に仕掛けておくようなものじゃなく、身体を震動させてその場で作ることが可能みたいね」
 オアシスの周辺にある13カ所の印も、現在残っている穴の位置であって、キメラの所在地ではないらしい。
「こちらからしかけるのは無理だから、向こうから襲ってくるのを待つしかなさそうよ」

●参加者一覧

高嶋・瑞希(ga0259
18歳・♀・SN
姫堂 麻由希(ga3227
24歳・♀・ST
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
メデュリエイル(gb1506
21歳・♀・DF
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
相賀琥珀(gc3214
21歳・♂・PN
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD

●リプレイ本文

●集合

「お久しぶりです。今回も宜しくお願いしますね」
「セミん時以来だね。よろしく頼むよ、瑞希」
 挨拶を交わす高嶋・瑞希(ga0259)とエリザベス・ゴードン(gz0295)。
「メデュリエイル(gb1506)。‥‥久々に一緒のお仕事ですね」
 そう声をかけると、同じ小隊に属する妹分が親しげに応じた。
「アリエイル(ga8923)お姉様‥‥。ふふ‥‥、今回もよろしくねぇ」
「アリジゴクキメラ‥‥なかなか厄介そうです」
「‥‥ま、私達にとってはKVジゴク‥‥かしらねぇ」
 ふたりの会話が耳に届き、榊 刑部(ga7524)もキメラに言及してみた。
「それにしても、次々と新たなる昆虫型のキメラを繰り出してくるものですね。しかも、本来の昆虫の生態をかなり忠実になぞっている。バグアのキメラ制作者達にとっての何かの実験の一環なのでしょうか? エリザベスさんはどう思われます?」
「人間サイズの昆虫がいたら、人とは比較できないほど運動能力が高いって聞くしね。虫だけに増やしやすいってのもあるだろうし、兵器に向いているんじゃないか?」
 実務的に返すエリザベス。
 彼女と顔を合わせる機会は少ないのに、潤いに欠けた依頼関連の話題しかできず、刑部は自身の不器用さを実感してしまう。その点では彼女も同じ傾向と言えるだろう。
 刑部はそれで引き下がらずに、積極的に彼女へ話題を振ろうと頑張っていた。
 顔見知り同士が言葉を交わしているところへ、傭兵となって初めての任務となるヘイル(gc4085)が声をかける。
「先輩方、よろしく頼む」
 しがない独立傭兵としては、結果を出すためにも仲間との連帯を図ろうというわけだ。
「砂漠を根城にするアリジゴクキメラですか。アースクエイクより奇襲能力が高くなってそうで厄介ね。野放しにする訳にもいかないから、さっさと退治しちゃいましょう」
 瑞希は取り出した周辺地図や写真に視線を落とす。
「足場になりそうな岩でも有れば良いんだけど」
「狙うのが厄介な相手ですね」
 苦笑を浮かべる相賀琥珀(gc3214)。
「身体を震動させる以上、効果範囲が際限無いってことは無いだろうし‥‥」
 姫堂 麻由希(ga3227)が今までに作られた穴の位置やサイズを地図に書き込んでみる。
「最大と最小の深度が解れば、位置情報と合わせてカウンターを取れるかもしれないわ。‥‥その深さが、敵さんの間合いってことだからね」
「砂漠。あり地獄。そしてナナハン‥‥。なんと素敵な戦場だろうねぃ」
 感涙しつつあるゼンラー(gb8572)に一同はいささかヒキ気味だった。
「命を奪わねばならないのは、嫌だがねぃ‥‥」
「さて、アウトドアヒッキーを潰しに行きますか」
 長谷川京一(gb5804)もまた陸戦用KVの出番と考え、非常に楽しそうに見えた。

●A班

「さぁて‥‥逆十字の魔天使メデュリエイルが本当の地獄に送ってあげるわ!」
 現場に到着したメデュリエイルが、早くも戦意を高ぶらせる。
「レーダー正常作動中〜。では測定器の設置をお願いしますね〜」
 戦闘管制を行う八尾師 命(gb9785)が、最初に地殻変化計測器を設置した場所を中心に、索敵範囲を広げるように設置位置を指定していく。
「能力限定‥‥解除‥‥。さて、参りましょうか。数は持ってきていませんが‥‥総数で多いに越した事はないですね」
 アリエイルのアンジェリカもそうだが、計測器を持ち込んではいても1台という機体が多い。
 中でも、刑部の所有する3台は多い方だ。
「計測器は沢山持ってきたし、改良もしてあるわねぇ」
 それをさらにメデュリエイルは上回る。最多の4機である上に、幾度も改良を重ねた自慢の品だ。
「‥‥え?」
 瑞希を驚かせたデータがシュテルンを経由して、即座に命のウーフーにも届けられた。
「管制機より各機、目標が蟻を求めて出てきましたよ〜」
 アリジゴクキメラの目撃地点で開始した設置作業そのものが、地中で休眠中だったキメラを覚醒させたらしい。
 瑞希と琥珀の機体が振動する。砂地を揺らす振動は半径30mにも達し、その中心部が徐々に深く沈みはじめた。砂地に足を取られ、傾斜にそって引きずり込まれていくシュテルンとペインブラッド。
 しかし、瑞希のシュテルンは垂直離着陸能力を活用して、すぐさまアリジゴクからの脱出を果たす。ついでに至近距離からの攻撃もしたいところだが、ほぼ真下の敵を相手に射角がとれず、巣穴の外縁で変形してから反撃を開始した。
「援護射撃‥‥任せてもらおうかしらねぇ」
「まずは効くかどうか‥‥、試します!」
 巣穴の外縁からは、メデュリエイルのホールディングミサイルと、アリエイルの帯電粒子加速砲弾が、中心にそびえる2本の角を目標に撃ち込まれた。
 琥珀への影響がないと見極めた刑部は、グレネードランチャーの引き金を引いた。穴の底を爆炎が埋め尽くすが、アリジゴクのハサミは未だ健在であった。
「出来れば、また潜られる前に仕留めたいけど‥‥」
 麻由希はスピリットゴーストのファルコン・スナイプを稼働させて、照準精度を引き上げる。
「弾道計算‥‥OK。でかいのぶっ放すから頭下げなさい!」
 警告を発すると同時に、彼女の構えた200mm4連キャノン砲が火を噴いた。

●B班

 命を除いても、2機のKVが戦闘に不参加だったのは、もちろん理由があった。
「二つ目の振動を感知しました〜」
 A班として1体目と交戦中だった刑部の計測器が検知し、それを知った命が管制担当として通信機で呼びかける。こちらは、離れたところにいたようで、地上の戦闘に反応して接近中だ。
 命から距離や方角を告げられて、タイヤで砂を巻き上げながら向かったのは、磨き上げられた黄金色のKV。高速2輪モードのヘルヘブン750だ。
「ゼンラー、気をつけてくれ」
 忠告するヘイルに対し、脳天気とも言える言葉が返ってきた。
「はっはー。みんながんばってねぃ、拙僧もアリ地獄を満喫しつつがんばるのでねぃ!」
 敵を引きつけるという理由もあって、彼は高らかにエンジンを鳴らして自身の高ぶりをアピールする。
「すぐそこですよ〜」
 命の言葉のすぐ後に、限定された範囲で砂が揺れた。
「‥‥ぬはっ、これがアリ地獄‥‥! たまらんねぃ‥‥!」
 巣穴が形成され、機体が傾いていくのを楽しんでいる。車輪駆動の機体は砂による拘束を受けることなく、4つ脚で機体の安定を保ちながら、敵の鼻先をかすめて走り抜けた。
「隠れてないで出てきてもらうよ」
 エリザベスのバイパーが90mm連装機関砲をぶっ放す。
 穴を中心に、エリザベスから90度ずらした位置へ移動したヘイル機は、80mm輪胴式火砲を撃ち込んで文字通りの十字砲火を演出する。
「エリザベス。敵が囮に噛み付こうとしたら重機関砲で集中射撃。攻撃を逸らすぞ」
「了解した」
「タイミングは合わせる。存分にやってくれ」
 2体目の登場を知らされたメデュリエイルは、ヘイルの要請を受け入れて彼の対面側に陣取った。
「ふふ‥‥、罠ごとその身体‥‥吹き飛ばしてあげる!」
 ディアブロの構えた試作型リニア砲が火を噴いて、射出された弾丸は砂の障壁を越えてキメラにまで到達する。砂上に見えていたハサミが痛みに震えた。
 A班の到来を待つゼンラーは、敵をこの場に釘付けしておくために、振動攻撃を一身に浴びて耐え続けていた。

●総力戦

「やはり‥‥直接叩き込むしかないようですね!」
 効果が低いと察したアリエイルがあえて突撃に踏み切るものの、両脚が砂に沈んで動きの自由を奪われ、逆に振動攻撃を受けてしまう。
 巣穴に足を取られたアンジェリカとペインブラッドを、京一の駆るゼカリアが発砲しながら追い抜いていく。
「さぁ、ほぼ0距離でこいつをぶち込まれて平気でいられるか!」
 砂の下に存在するキメラの頭部めがけて、420mm大口径滑腔砲弾を叩き込んだ。
 キメラのハサミがゼカリアを捕らえ、地中へ引きずりもうとする。
「‥‥隠れていないで出てきなさい!」
 とうとう中心部まで滑り落ちた琥珀は、逆に敵を地上へ引き上げようとする。電流を流さないままスパークワイヤーを巻き付けようとするが、そのような使用目的で開発されていないため、思い通りの成果は得られなかった。
「さぁ、こいつで持ち上がるか?!」
 代わりに、京一は土木作業用のドーザーブレードで、砂ごとすくい上げようとする。
「我慢比べはさすがに勘弁なんだがな。そうも言っちゃいられねえか!」
 引っこ抜こうとするゼカリアと、引きずり込もうとするキメラの力が拮抗した。
 琥珀は露出しているキメラの頭部めがけて、『ブラックハーツ』で強化した高収束レーザーを何発も撃ち込んでいく。
 徐々に、徐々にドーザーブレードが上がりはじめ、ついにキメラの身体が白日の下にさらされた。
「柔らかい腹を曝したな、さぁお仕置きの時間だ!」

 2体目は自分の意志で再び地中へと姿を消していた。
「南西へ向かってます〜。麻由希様は気をつけてくださいね〜」
 命によるせっかくの警告も、待避よりも早く襲撃されては回避できない。ゼンラーの陽動に応じようとせず、A班の1機を射程に捕らえていた。
「っ、ホントにきた!? こう予想通りだとむしろ腹立つわ‥‥」
 震動によって地上の獲物を補足していると推測していた麻由希は、重量級の自機が狙われる事も推測のうちにあった。そのため、八つ当たりに近い感情をキメラへ向ける。
「相手の体の大部分は砂の下。なら、砂ごと抉るしかないわね」
 乱入者に向けて、瑞希がスラスターライフルを発砲する。
 先ほどの攻撃は効果が薄かったと判断し、メデュリエイルは巣穴へと飛び込んだ。敵の狙いを分散させるべく、ヘイルもまた同じ行動を取った。
 震動攻撃を受けるだけでなく、引きずり込まれながらも彼等は銃弾やミサイルやレーザーで反撃を試みる。
 巣穴の外側からも、刑部の150mm対戦車砲弾や、エリザベスの90mm連装機関砲弾が、巣穴の中心に向けて撃ち込まれた。

●決戦

 計測器の情報を確認した琥珀は、2体目は仲間達に任せて眼前の敵に集中する。
「京一さん、離れてください」
 ゼカリアを一時的に下がらせて、ペインブラッドは単機で敵と退治する。
「威力を試させてもらいます!」
 フォトニック・クラスターの放つ高熱量のフラッシュがアリジゴクキメラを飲み込んだ。
 巣穴を流れ落ちる流砂が止まり、残りの距離をアリエイルは駆け下りてきた。後の戦闘管制を不要と判断した命も同様だ。
「まて、逃げんなこのウス○バカゲロウ!」
 重傷を負って、砂中に逃げ込もうとするキメラの脚を、ゼカリアがむんずと捕まえる。
「食らえ、無限軌道奥義! その場百八十度ターン!」
 左右のキャタピラーを逆に回転させ、京一は地面に半分潜り込んだキメラを引っこ抜く。
「蒼電の聖天使の由縁‥‥教えてあげます! SESエンハンサー起動!」
 アリエイルの突き出した練剣「白雪」が、キメラの身体を大きく切り裂いた。
「まだです‥‥追撃の一手を。‥‥カートリッジロード!」
 続くF・I・ナックルが、アリジゴクキメラの腹部をえぐる。
 ビームコーティングアクスを振り上げた命が、一撃でキメラの首を跳ね飛ばした。

 麻由希をハサミで捕らえようとしたアリジゴクキメラに、一歩先んじて瑞希の銃弾が撃ち込まれた。
「嘗めんじゃ‥‥ないわよっ!」
 躊躇しているキメラのハサミへ、麻由希はナックル・フットコートγで強化された手を伸ばす。
「掴んだ! この距離なら外さない‥‥」
 彼女を振り払おうとするキメラへ向けて、零距離から200mm4連キャノン砲弾が叩きつけられた。
「舞台は整った、として‥‥いくよーぅ!」
 身悶えするキメラに向けて、疾駆するヘルヘブン。巣穴を横断するように駆け抜けて、すれ違いざまに釈迦掌を用いたキャバリーチャージを繰り出した。
「‥‥すまん!」
 攻撃結果を確認したゼンラーは、苦しませずに命を奪えなかった事を後悔する。
(「‥‥早く、楽になってくれたら」)
 その期待を担うのは2機のディアブロだった。アリジゴクキメラに肉迫する2機は、ともにパニッシュメント・フォースを稼働させる。
「さて、俺に使いこなせるかな? 『セリア』、サポート頼む」
 機体のAIに語りかけ、ヘイルは機槍「アルカトル」を構え直した。
「くたばれ、蟲野郎」
「蒸し焼きならぬ‥‥虫焼きにしてあげるわぁ! カートリッジロード!」
 ヘイル機の「アルカトル」と、メデュリエイル機のヒートディフェンダーが、両サイドからアリジゴクキメラに突き込まれる。
 周囲に降り注いだ血は砂の中へ染み、倒れたキメラは二度と立ちあがることがなかった。

●砂漠で一服

「さてさて、帰る前にハサミを取りに行きますよ〜」
 命のウーフーがウキウキした様子で、キメラの遺骸へ歩み寄る。
 一同はそれを眺めるように、思い思いに過ごしていた。
「やーれやれ、どうにか終わったわね。しっかし、前受けた依頼といい今回といい‥‥、地中に潜るのと縁あるわねぇ‥‥」
 愛機の肩に腰を下ろし、麻由希が煙草をふかしている。太陽に照らされた装甲はいささか熱かったが。
「後で整備の人は大変だろうねぇ‥‥。差し入れでも持ってくか」
 同じく煙草をくわえた京一が、自機の関節部に気遣わしげな視線を向けている。
「アリジゴクキメラ‥‥。成長するとウスバカゲロウキメラとかになるのでしょうか?」
 戦闘中の京一が怒鳴ったように、アリエイルもその点に興味を示した。
 ジュースをかざして見せた刑部が、そのうちの一本をエリザベスに投げ渡す。
「‥‥依頼お疲れ様です。いつか妖蜂に辿り着けると良いですね」
「その時には‥‥、またあんたの手を貸りることになるかもね」
 傍らへ腰を下ろした相手に、彼女は微笑しながら告げていた。
「周囲に敵の反応はないようです。メデュリエイルさん、ありがとうございました」
 瑞希から感謝の言葉を受けて、メデュリエイルは稼働させていた計測器を回収する。
「任務完了‥‥ですね。お疲れ様です」
 労う琥珀の言葉に、瑞希が応じた。
「お疲れ様でした。それじゃあ基地に戻りましょう」