タイトル:【MN】千一匹目の猿マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/07 10:19

●オープニング本文


 猿禍島(さるまがじま)。
 かつて、何らかの病気が原因で島の木が枯れてしまった時、猿同士で共食いしたため数が激減したという不気味な伝説を持つ島だ。
 時を経て、個体数の増えた猿が、いままた減少を始めていた。
 しかし、今、この地を必死で逃げまどっているのは、猿ではない。
「‥‥そ、そんなバカなっ!? なんでこんなことが‥‥?」
 左手を斬り落とされた彼は、いまや一般人に過ぎなかった。
 小さな影がその後を追う。
 樹上で梢を鳴らす敵は、明らかに余裕を持って追撃していた。
 敵にとって、男はもはや狩りの対象でしかないからだ。

 しばらくして、一つの死体が見つかった。
 身元を確認したところ、どうやら能力者らしく、一仕事終えた彼は、世間の喧噪を忘れて自然に親しもうと無人島へ向けて出発したと判明した。
 そこで、ULTでは傭兵に調査を依頼。
 候補地は何カ所か在り、各チームが手分けして幾つかの島に上陸する予定となっていた。
 この漁船に乗せてもらった一行が目指す先は、猿禍島だ。
「雲が出てきたようだな‥‥」
 空を見上げた船長の表情が陰った。
「数日は天気が荒れるという話だし、迎えに来るのは3日後ぐらいになるかもしれん」
 傭兵暮らしをしている彼等にとっては、無人島で数日暮らすことなど苦ではない。
 この時点では誰もがそう考えていた。
 彼等を待ち受けていたのは、島を埋め尽くすような大量の猿の死体と、忍び寄る小さな敵。
 暗雲たなびく猿禍島に、ごく少数の傭兵達が上陸しようとしていた。
「カカカカカ。アレがまだ生きているとはなぁ」
 ひとつの不協和音を内に抱え込んだまま‥‥。

 ※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
紫電(gb9545
19歳・♂・FT
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
布野 あすみ(gc0588
19歳・♀・DF
信貴乃 阿朱(gc3015
19歳・♂・EP
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP

●リプレイ本文

●1日目

「‥‥何か嫌な予感がします」
 島に上陸してからというもの、紫電(gb9545)はまとわりつくような視線を感じていた。
 ソウマ(gc0505)も頷く。
「ええ。いわく付きの島だけ有って薄気味悪い所ですね。さっさと調査を終わらせてしまいましょう」
「ふむ、謎の島とは面白い。何が起こるのかわくわく致す」
 好奇心を刺激されて、ネイ・ジュピター(gc4209)はむしろ表情を緩ませた。
 林の中を歩き回ることを想定し、紫電は迷彩服を着込んでいる。装備は2丁拳銃だが、思い入れのあるPeaceMakerもお守りとして持ってきていた。
「さて、捜索といきましょうか」
「薄暗いなぁ‥‥。お化けとか、出ない、よね?」
 鬱蒼と茂る木々を前に、布野 あすみ(gc0588)は心細そうだった。
「今回は未成年者や老人もいます。‥‥私が守らなければ」
 セレスタ・レネンティア(gb1731)はあらためて責任を感じていた。

 林に足を踏み入れてすぐ、彼等は異変に気づいた。
「猿の死体‥‥何か嫌な予感がしますね」
 何度目になるか、今度はセレスタが不吉なつぶやきを漏らす。
 転がっている死体は1つでは収まらず、先へ進むたびに数を増していく。
 ある猿は目や鼻から血をこぼし、ある者は足が内側から破裂している。
「この死体の量‥‥、とても自然死には見えん」
 しゃがみ込んだホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、疫病の可能性も考慮して、拾った木の枝で猿の死骸をひっくり返す。
「‥‥この左手の傷は‥‥?」
 唯一の共通点である左手の甲の裂傷を、ホアキンがピンセットで開く。
(「例の能力者の死体も左手が切断されていたな‥‥」)
 自分の左手に視線を向けながら、ホアキンはより警戒を強める必要性を感じていた。
「つーか‥‥何なんだよ何なんだよこの島は! 何でこんなに猿が死んでんだ?」
 不安に怯え、信貴乃 阿朱(gc3015)は抑えられない苛立ちをぶちまける。
「くそっ! 薄気味悪い‥‥金に釣られて調査に志願なんてするんじゃなかったぜ‥‥」
「猿というと‥‥、人の代わりとして実験に使っても、ラットより良い精度が得られるそうだのぉ。孤島で猿を使って生物実験など、よくありそうだが、実際にはないのかな?」
「普通はないだろう。普通は‥‥な。カカカカカ」
 ネイの呈した疑問に、暗黒寺天善(仮名)が高笑いを交えて締めくくった。
 さらに足を進める一行を、阿朱が慌てて追いかける。
「‥‥っておい! お前ら待てよ。俺を置いて先に行くんじゃねぇよ。調査だろ調査、俺もちゃんとやるってだから置いていくなよ」

「川‥‥か。水が使えるのはありがたいな。この辺りを拠点にするか」
 ホアキンの提案を受けて、一同はテントを張り始めた。
 無人島で迎える夜は真の闇だ。日没を前に準備は終えておきたい。
「薪を集めてきます。野営のためにも焚き火は在った方がいいでしょう」
 セレスタが山へ薪拾いに、あすみは川へ水くみに向かう。
 聞こえてきた悲鳴はあすみのものだ。
「あれっ、あれ見て!」
 彼女が指さしたのは、河原に転がっていた平たい石のテーブルだった。
 すでに乾いているものの、大量の血がこびりついている様は、まるで心臓をえぐり出す生け贄の祭壇に思えた。
「う〜む。どれだけ見ても何にも分からぬなぁ。いやはや、ここに潜んでおるのはいったい何なのやら」
 ネイのつぶやきには、相変わらず好奇心が滲んでいる。
「そういえば、皆は『百匹目の猿』という話を聞いたことがあるか?」
 暗黒寺が口にしたのは次のような話題だった。
 ある猿が、芋を海水で洗って食べると美味しいということを発見し、同じ島に生息する多くの猿がその行為を模倣したとする。その猿が一定数に達すると、離れた場所で生息する猿にまで、その行動が伝播すると言われる現象だ。
「‥‥まあ、都市伝説に過ぎんがな」
「それが今回の事件に関わっていると言うんですか?」
 引っかかるものを感じて、紫電が問いただす。
「なに、大量の猿ということで思い出しただけが。カカカカカ」

●2日目

 一夜明けると、彼等の人数は7名に減っていた。
 見張り番を交替で受け持っていたのだが、朝方の担当者である暗黒寺が消えていたのだ。
「まさか‥‥、お化けに食べられたんじゃ‥‥」
「争いが生じた気配はありませんでしたし、何かを調べに行った可能性もありますよ」
 発想を飛躍させるあすみを、紫電がなだめる。
「ふふふ、これは面白い状況になってきた」
 あすみが怯える傍らで‥‥、いや、怯えているからこそ、次に起こる『何か』を期待してネイは笑みをこぼす。

 猿の死体で溢れる林の中で、あすみは地面に落ちていたパスケースを発見した。中に入っていたのは、犠牲者である傭兵の写真だった。
「家族写真‥‥。こんなところにいたら、恋しくなるんだろうなぁ」
「バカンスに来て殺されてしまうとは可哀想に‥‥」
 嘆くように頭上を仰いだネイは、天へと伸びる大木に目をとめた。
 この大木は島で一番の大きいもののようだ。
 木登りをしたネイが島の全景を見渡す。‥‥逆に言えば、島のどこからでもこの樹上を見ることができるだろう。
 木から下りたネイは、幾つかの情報を皆にもたらした。
 まず、一番上の枝には大きな鞄がぶら下がっていた。おそらく犠牲者が持参したもので、パスケースはここからこぼれ落ちたのだろう。
 そして‥‥。
「島の南部に灰色の建造物があった」

 たどり着いてみると、飾り気のない無骨なビルは病院のような印象を与えた。
「だが‥‥、無人島に病院を作る意味はないな」
「何かの研究所と言うところでしょうか? 何か見つかるかも知れませんね」
 探索を提案するホアキンとセレスタに、ネイが別行動を申し出た。
「屍を打ち捨てておくわけにもいかぬからな」
 全ての猿を埋めるのは無理だが、小猿ぐらいは埋めてやりたいと言うのだ。
「建物は小さいですし、調査にそれほど人では必要ないでしょう」
「そうしようぜ。はぐれることもねえだろうしな」
 ソウマや阿朱が言葉を添えて、この場は手分けすることになった。

 一人で部屋へ入ると、阿朱は熱心に漁り始めた。
「暗黒寺の奴、何かいい物を見つけて俺達を出し抜いたに違いねぇ」
 そう思い込み、彼は金目の物があると踏んだのだ。
 同行者にとがめられるのを嫌い、単独で動きたがったのも同じ理由だった。
「ちっ、ガラクタばっかりじゃねぇか」
 彼以外は、何らかの情報をえようと、真面目に探索を行っている。
「このメモは一体‥‥」
 机の引き出しの奥から、セレスタは敗れた紙片を見つけ出した。

「猿‥‥? これが『敵』‥‥か」
 ネイが対峙していたのは、剣を引きずった猿だ。
 埋葬作業をしていたネイは、奇襲を受け大きい傷を負わされていた。
 彼女は知らない。監視しやすい場所に保管していた、自分の戦利品に手を出されたため、彼女を最初の標的に選んだということを。
 天照と月詠の二刀流で猿を牽制しながら、ネイは交戦を切り上げてすぐさま踵を返した。
「申し訳ないが逃げさせて頂こう」
 失血により意識も体調も鈍くなっており、泥沼を歩くような疲労感を押して、彼女は建物へ向かう。
 せめて、猿のことを仲間に告げようとして。
 側面から撃ち込まれた銃弾が、彼女の足を止めさせる。
 ネイが知り得た事実は、仲間に知らせる機会を奪われてしまった。
 死を覚悟した彼女は、恐怖もなく、悔いもなく、それをあるがままに受け入れる。
「ははははは。ただ我が弱かったそれだけだ‥‥」

 傭兵達が見つけた時、彼女はすでに事切れていた。
 彼女が持っていたはずの剣は失われ、左手の甲が切り裂かれたいる。
 ホアキンが眉根を寄せて苛立ちを露わにする。
「まさか、暗黒寺の奴もやられてちまってる‥‥のか?」
 その想像に行き着いたとき、阿朱は自らに迫る危機に気づいた。
(「もしかしたらこの中に犯人がいるかも知れねぇ。いや、いる絶対にいる! だってこの島には俺達しか居ないはずだ。
くそっくそっ! 誰だ‥‥犯人は誰だ」)
 別行動をとったうちの誰かが犯人だと、彼は短絡的に考えてしまった。
「もう、お前らなんかと一緒に居られるか! お前等の中に犯人がいるんだろう!」
 あからさまに警戒を向けて、一同と距離を取る。
「馬鹿! 一人でいるのがどれだけ危険か分かってるの!? ネイさんだってそうじゃない!」
「単独行動は許しません。‥‥一人では危険です」
 訴えたあすみに、セレスタも言葉を添える。
「いや、こん中に犯人がいるんだ! 間違いねぇ!」
 阿朱は他者の接近を拒むように、隼風の穂先を向けてくた。
「絶対に俺を追ってくるんじゃねぇぞ!」
 そう言い残して、彼は一人林の中へと姿を消してしまった。

●3日目

 阿朱の捜索も兼ねて林を歩いていた彼等を、何者かが襲撃する。
 銃撃戦の中、ホアキンは木陰を動いた影の存在に気づいた。
「あれは、暗黒寺か?」
「皆は暗黒寺さんを追ってください」
 追跡を優先させるよう紫電が促した。
 自身は2丁拳銃を手にしんがりを務める。
 一人残った彼は、敵をあぶり出すべく発砲を繰り返す。
 紫電は見た。銃を構えた敵の姿を。
 弾切れを起こして空撃ちする2丁拳銃。
 リロードするより早く、彼の前に銃を構えた猿が近づいた。
 自然界では食べるために獲物を襲う。
 だが、彼の眼前に迫る猿は、ライフルを手にし、狩ることを目的に銃口を向けていた。
 鳴り響いた銃声は2発。
 紫電は2丁を捨てて、お守りのPeaceMakerの引き金を引いていた。
 弾倉が空になるまで銃弾を浴び、猿は逃走する。
「後は‥‥任せました」

「暗黒寺さんが犯人だったんですか?」
「突然、取り囲まれれば反撃しても仕方なかろう。カカカカカ」
 ソウマの追及を、取り押さえられた暗黒寺が笑い飛ばす。
「信貴乃さんがどうなったか知りませんか?」
「わしが見つけたときはすでに死んでおったな」
「あなたが殺したのか? それとも、‥‥アダムか?」
 ホアキンがズバリと斬り込んだ。
「わしにもわからん。‥‥どこでその名を知った?」
「セレスタが見つけたメモに書かれていた。実験動物の名前だろう?」
 昨夜の相談で、彼等はそのように結論づけていた。
 暗黒寺は観念し、自身が加わった実験について告白する。
「ある軍事企業が、能力者に代わる戦力として、猿の手にエミタを埋め込んで覚醒させようとしたのだ。実に人道的だろう? うまくいかなかったため、計画そのものが頓挫してこの島を放棄したがな」
 だが、失敗作と思われた『能力猿』は、この島で生き延びたのだろう。

 縛り上げた暗黒寺を連れた彼等は、死体となった紫電と対面する事になる。
 数メートル離れたところにある大量の血痕をセレスタが指さした。
「重傷を負っているなら、仕留めるチャンスかもしれませんね‥‥」
「そううまく行くかのう?」
 挑発する暗黒寺を残し、4人が血痕を追いかける。
 林の中を駆け抜けた彼等を、後方から銃弾が襲った。
「がはっ!」
 背中から撃たれて、血を吐いたのはソウマだった。
 血痕を残した猿は、途中で後ずさりして、追跡者が行きすぎるのを待ちかまえていたのだ。
 死を覚悟しているのか、猿は逃げようとせず、ただただ荒れ狂う。
「できれば倒しておきたいが」
 怯まずに肉迫したホアキンが、紅炎と超機械「雷光鞭」で、猿の腹部を貫いた。
 余命は数分。
 いまにも消え去ろうとした命が、逆襲の牙を剥いた。ホアキンの首筋に噛みついたアダムは、肉をえぐり、大量の血が噴き出させる。
 一人の傭兵を道連れに、アダムは絶命した。

「全部‥‥終わったんだよね?」
 そんなあすみの願いはかなえられなかった。
 縛られていた暗黒寺の胸が、奪われたネイの月詠で貫かれていたからだ。
 そして、暗黒寺と紫電の左手は切り裂かれ、エミタまでも取り出されていた。
「えぐっ。こんなとこ、もう、ヤダよ‥‥。帰りたい。もう、帰りたい」
 耐えきれなくなったあすみが、感情を爆発させて泣き出してしまう。
「心配しなくても、布野さんは助かります」
「な、なんでそう言えるの?」
「僕の直感、結構当たるんですよ」
 根拠とも言えない根拠を、ソウマは平然と口にした。

 到着予定の漁船に乗るため、3人は砂浜を目指して歩いているところだった。
「あの猿が犯人じゃなかったの‥‥?」
 あすみの疑問にセレスタが答えた。
「アダムが実験内容を理解していて、同族を増やそうとしたのかも知れませんね。‥‥千匹目の猿、ですか」
 暗黒寺の言葉を思い返してセレスタがつぶやく。
 人間であっても、エミタの適合率は千分の一。
 まさに『猿まね』で行われたエミタの移植手術は、成功確率がさらに大きく下がるだろう。
 二人の会話を中断させたのは、ソウマの苦悶の声だった。
 振り向いた彼女たちは、いつの間にか遅れていたソウマが倒れた場面を目撃する。
 ソウマはアダムに受けた傷で、自分が助からないことを悟っていた。
 だからこそ、二人と距離を取って自ら囮を引き受けたのだ。
「これでも僕は男ですしね。意地ぐらい張らないと‥‥」
 彼の持つキョウ運は、その命を代償にして、あすみへの慰めを真実に変えてくれたようだ。
 膝立ちとなったセレスタが、スナイパーライフルで猿の足を撃ち抜く。
 敏捷さを失った猿へ、セレスタがコンバットナイフで斬りかかり、あすみはステュムの爪で蹴りつけた。
 この戦いは、決着まで数分ほど要した。

 到着した漁船の船長は、約束より人数が減っていることに首を捻る。
 泳いできたのは女性二人のみ。
「残りはどうしたんだ?」
「あの‥‥、帰れなくなって‥‥」
 表情を歪ませてあすみが答えた。
「‥‥あれはなんでしょうか?」
 甲板のセレスタが指摘したのは、海面に突き出た異形の枝だ。
 何者かの両脚が、海中からにょっきりと生えている。
 苦労して船に引き上げた彼女等は、意外な再開を果たした。足の主は、恐怖に表情を歪ませた阿朱の死体だったのだ。
「守りきれませんでした‥‥」
 セレスタが歯がみする。
 島へ上陸した傭兵は8人。
 しかし、島からの脱出を果たしたのは2名の生者と、一つの死体だけだった。
 そして‥‥。

 彼女等が死体の積み込みで苦労していた時、海を泳いだ猿が反対側から船に乗り込んでいた。
 皆がずぶぬれだったため、船内に海水がこぼれていても気づかれなかったようだ。
 船倉に潜り込んだ猿の頬袋は大きく膨らんでいる。
 コロコロと舌先で転がしているのは、金属の塊――それは、エミタと呼ばれている代物だった。
 天文学的な確率をくぐり抜けたもう1匹の猿を乗せて、漁船は本州を目指して出航した‥‥。