タイトル:【MN】裸じゃない王様マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/11 10:25

●オープニング本文


 夏の暑い日。
 人で賑わうはずの駅前がしんと静まりかえっている。
 町並みに変わったところはない。
 人影がまったく見あたらないという点を除けば、だ。
 早朝ならばまだわかる。しかし、太陽は中天にさしかかり、本来であれば都市機能が一番活発になる昼過ぎだった。
 建造物はそのままに、人だけが死に絶えたかのような歪な光景。
 だが‥‥、人は存在する。建物の中で息を潜め、決して外へ出ないようにしているだけだ。
 屋外には、それほどまでに人々を恐れさせるモノが存在していた。

 ULTでは一つの映像を入手した。
 問題の街を撮影した監視カメラの映像で、この駅前を行きかう人々がパニックを起こしている映像だ。
 身体を押さえるようにして、駆け出す女達。
 鼻息も荒く、血走った目で周囲を窺う男達。
 音声の入っていない映像からでは、何が起きたのか把握するのは難しい。
 現場に遭遇した人間に問いただしても、真相を明かすことはなかった。
 現場調査と事態の解決は傭兵に委ねられることとなる。

 現場に赴いた傭兵達は、バグアの脅威を思い知らされる事となる。
 敵の名は、ヌーディストキューブという。


 ※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●参加者一覧

遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
フローネ・バルクホルン(gb4744
18歳・♀・ER
加賀 円(gb5429
21歳・♀・DG
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
加賀 環(gb8938
24歳・♀・FT
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC
白鳥沢 優雅(gc1255
18歳・♂・SF
刀足軽(gc4125
18歳・♂・CA

●リプレイ本文

●解放への誘い

「街中でキメラとはな‥‥。被害がないうちに片付ける必要がありそうだな」
 映像を眺めるフローネ・バルクホルン(gb4744)が断言する。
「パニック状態だということ以外、よくわからないですけど‥‥。な、なんだか現場に到着する前から嫌な予感がしますね?」
 加賀 円(gb5429)はいつもとは違う方向性の危険をひしひしと感じていた。
「で、でも、バグアがそこにいる以上。嫌な予感がするからと依頼を今更キャンセルできませんし‥‥」
 同行者に姉が加わっているのは非常にありがたい。
「つーか、問題の映像は‥‥。うん、なんとーなく何があったか想像できるような出来ないような」
 当の加賀 環(gb8938)が明言しないのは、予想が外れて欲しいとの思いからだ。
 白鳥沢 優雅(gc1255)は持ち歩いているティーカップで、自主的にティータイム中だ。マイペースという表現ではまだ足りないため、マイワールドと称するべきか。
 フロックコートを筆頭にほぼ黒一色で固めているのはUNKNOWN(ga4276)だ。白のカフスシャツやシルクロングマフラーなど、ダンディズムを追及したこの服装が、現場ではあまり意味がないことを彼は知らない。
「不明な点も多いけど、バグアの仕業に違いなさそうね。見えない攻撃だし、慎重にいきましょう」
 この時点において、遠石 一千風(ga3970)はまだ冷静でいられたようだ。

 傭兵が出向いたことを聞きつけて、野次馬までが駅前に姿を見せていた。
 UNKNOWNは頼まれていた蝋燭と縄を、メシア・ローザリア(gb6467)に渡す。どういう用途なのかは、触れずにおこう。
 すでに覚醒していた如月 芹佳(gc0928)の赤い瞳が、ある異変を捉えた。
「これは‥‥! まさか‥‥俺は楽園にでも迷い込んだのか!? ‥‥ジーザス!」
 紅月・焔(gb1386)のもともと過剰気味な煩悩が、直面した状況によって枷から外れてしまった。
 彼等は驚愕の表情を浮かべて互いの姿を見直した。同行者がいきなり全裸となっていたら驚くなと言う方が無理である。
「ふむ‥‥。都会でもナチュラリストが許可されたのかね? だが、ナチュラリストには礼儀がある。きちんと、それを忘れない様に、ね」
 唐突に全裸となった皆に、UNKNOWNが平然と指摘する。
 裸に囲まれた状態に、刀足軽(gc4125)は顔を真っ赤にしている。
「ふむ、変な目で見られているようだが‥‥。特に問題のある服装ではないはずだが?」
 自分の身体を見下ろすネイ。
「皆、一体? もしかして、私も!?」
 自分の服の感触を確かめて安堵する一千風。
 傍らから伸びて、彼女の服に触れたのはネイの手だった。
「‥‥服の感覚はあるようだな‥‥。幻覚と言うことか」
 一時的な意識の混乱なのか、自ら脱ごうとする者が現れた。
「あ、あれ? もしかしてここって裸なのが当たり前の場所なの!?」
 自分だけが着衣と思い込んで、芹佳は恥ずかしさを感じつつも慌てて脱ぎ始めた。
「郷に入れば郷に従え。だね♪」
 ノリノリで裸を競おうとするのは、優雅だ。
「例え何も着ていなくても‥‥、僕はエレガントさ♪」
 ふたりの行為は、逆説的に『服を着ている』ことを示していた。
「やめい」
 優雅をはたいたのは、皆がナチュラルに視線をそらしている安国寺天善(gz0322)だ。
「‥‥うーむ。年寄りの裸は嫌いか、おぬしら?」
「え、ウソなの!?」
 裸の原因を察した芹佳が、今度は焦って服を着始める。
 目の当たりにした光景に、表面上の変化はとぼしいものの、環はくわえていた煙草をポロリとこぼす。
「あー、大体想像通りだなー」
 幻の裸を目にして、環が諦めたようなつぶやきを漏らす。
 駄目人間と指摘される環だが、さすがに女の一人として裸を見られるのは恥ずかしい。自分の胸を覆うと同時に、目や精神が汚されないように男は視線を外しておいた。
「‥‥って、この状況。男性恐怖症の円にはキツイものがありそうだが、大丈夫なのか?」
 大丈夫ではなかった。
「あ、あぁぁぁあぅあぅ‥‥ひ、いやぁぁぁぁ!」
 男性陣、特に鼻息荒く血走った目の一般人男性達から、円は涙目になって逃走する。
 背中というか、お尻を向けて逃げ去った彼女は、ミカエルの元へ駆け寄っていた。
 羞恥心で理性が弾け飛び、彼女は覚醒した。その身体が浮いて見えるのは、装着した途端にミカエルが見えなくなったからだ。
「あらあら、幻影で興奮するなんて変態ですね? このサカった発情期の駄犬共はっ」
 態度を激変させた彼女は、見ることも見られることも気にせず仁王立ちしていた。悪いのは円ではなく、覚醒の方だと注釈しておこう。
 一千風の覚醒は全身に文様を浮かび上がらせる。露出部分からでも想像し易いため、他者の目にもそんな姿で映っている事は容易に推測できる。
「見るなぁー!」
 大柄な身体を隠すようにその場にしゃがみ込む。
 見られていると察しても、メシアはまるで動じなかった。
「隠しませんわ、隙のないこの身体」
 身体を維持するために日々努力しているのは伊達ではない。
「ほう‥‥、このボイン具合‥‥10年に一度の逸材。磨けばまさにゴッドの領域になるかもしれない。そんな雰囲気を感じさせる。今日も良い事ありそうだ。」
 自分の趣味に没頭する形で、焔は何故か冷静に解説を始めている。

●羞恥と焦燥と

「CWやMIの亜種と思われますわ」
 無線機を取り出したメシアは、ジャミングの強さから『敵』の位置を割り出そうと試みた。
 名付けるならば、ヌーディストキューブ。略称、NC。
「全く、バグアも飢えてますのね」
 探査の眼も発動させて、NCへの接近を果たす。
「とりあえず、邪魔な一般人にはご退場願いたいところだが‥‥」
 野次馬の前へ進み出たフローネは、見られることもかまわず訴えた。
「これからここは戦場になる。流れ弾で死にたくなければ早く立ち去れ」
「あぅ‥‥みんな、避難しよう‥‥ね? ひんっ! ‥‥何で息荒くして‥‥そんな血走った目でこっちを見るの‥‥?」
 特に女性陣の視線を敏感に感じ取り、足軽は赤面しながら身体を隠している。
 柔和な容姿も相まって、娘と息子の面倒をみる父親だなどと誰が考えるだろうか?
「私‥‥男なのに‥‥。恥ずかしいよ‥‥」
 もじもじとした態度が、余計に男らしさから遠ざかっていると言えよう。
 ちなみに、環の目には、男女のどちらにも含まれない、無性として映っていたりする。
 そんな喧噪をよそに、メシアはNCを発見した。
 NCの体当たりを自身障壁で受け止め、瞬即撃を使った硬鞭でタコ殴りにする。
 とどめとばかりに、脚甲「イキシア」でNCを踏み潰すメシアの口元には、嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

「ゴメン、もう大丈夫」
 気を取り直した一千風は、失態を取り戻すべく、冷静さを保とつことを心に誓う。
 だが、自然と身体を隠そうとしていることには自覚はないようだった。
「一刻も早く、見つけないと」
 あるていど場所を絞ると、一千風は意を決して店の庇の上へよじ登ってまわりを見渡した。
「絶対に見ないでよ!」
 と念押した上でのことだが。
 焔は非難を優先するよう野次馬に注意していたものの、当人がチラチラと視線を向けるので、説得力に欠けることおびただしい。
 ヒール音を鳴らして、彼に接近する一つの裸身。
「想像しました? 美しいかしら?」
 一千風に代わって、メシアが硬鞭でぶん殴り、強制的に視線をそらさせた。
「紅月様も見られているんですのよ?」
「いや、俺何時も気持ちは全裸っすから! 心の殻脱ぎ捨ててますから!」
 ガスマスクの下を見られることよりも、見ることが重要らしい。
「地元警察や自警団などがいましたら、お任せできましたのに‥‥」
 つぶやくメシアは、目の前で頬を撫でている人物が元警官だとは気づいていない。
 一千風は路地裏にNCを発見して飛び降りる。
 彼女は八つ当たり気味に、神斬を叩きつけた。ズタボロにしてやったものの、この程度ではまだまだ怒りは収まらないようだ。

「これからここは戦場になる。流れ弾で死にたくなければ早く立ち去れ。キミ等をかばうだけで苦労してしまうからな」
 困ったことに、勧告するフローネの身体が、野次馬の立ち去らない理由となっている。
 問答していてもきりがないと感じて、彼女は男の手を自分の胸へ押し当てた。
「‥‥服の感覚があるだろう? 所詮見えているのは幻だ。お前が想像しただけに過ぎん。分かったらさっさとここから去れ。死んだら幻すらも見れなくなるんだからな」
 布越しの弾力に思考が止まった相手を、強引に追っ払う。
「くすっ、まったく貧相極りないですね。あぁ、これは幻影でしたっけ? まぁ、どうせ実物は見る価値もないでしょうけど」
 円は嘲笑と共に容赦のない言葉を浴びせ、野次馬を蹴散らしていく。このような手段を選択したのは、避難させる方便などではなく、覚醒時の性格によるものだ。
 忠告を聞き入れない相手には、覚醒を解いたメシアがみぞおちに一発くらわした。手にした縄で縛り上げて、邪魔にならない場所へ転がしていく。
 UNKNOWNも彼女と共に、首筋に手刀を当てて気絶させた輩を手慣れた様子で捕縛する。
 女性への訴求力が高いであろうUNKNOWNの裸も、野次馬の大半は男なので評価価値は低めだった。人より大きいと自負するダンディな逸品も、想像上の姿には反映されないので、残念ながら一回り小さいサイズで認識されている。
 それでも従わない者は、天善が体を張って止めつもりだ。主にビジュアルで。

●解放からの解放

 芹佳が壁によじ登る。
 敵の殲滅を優先と定め、この際、衆目を引きつける事実も後回しだ。
「気にしない。気にしたら負けな気がする‥‥」
 双眼鏡を構えた彼女は、異性の裸からは目の焦点をずらしながら、NCを見つけようと目をこらす。

「あっはっは♪ なんともエレガントさの無いキメラだね♪ でも、例え何も着ていなくても‥‥僕はエレガントさ♪」
 優雅は『もっと見てくれ』とでも主張するように、エレガントポーズを決めている。
 集める視線が、容姿によるものか、行動によるものかは、判別としないところだ。
「ああ‥‥、また一人僕のエレガントさの虜になってしまった‥‥。罪な事だね‥‥」
 溢れ出す優雅の脳内麻薬。
 NCに対し、優雅はエレガント攻撃担当だ。機械巻物「雷遁」から放たれた電磁波は、その名も『エレガントビーム』。命名、優雅。
 NCはエレガントな残骸に成り果てた。

「この程度で負けるかっ」
 魂の叫びを発したのは一千風だった。
 八つ当たりが半分。作成者に失敗作と思い知らせ、次作への研究意欲を叩きつぶすのが半分だ。
 完膚無きまでにNCを叩きつぶすと、すぐさま、次の標的を補足して駆けだしていく。

 片手で最低限に身体を隠し、NCを狙って環がソニックブームを炸裂させた。
 懲りずにこちらの様子を窺う焔の視線を無視して、この場はNC退治に専念する。
「さて‥‥、私も少し働くとしようか。いい加減、裸体も見飽きた」
 フローネは環に練成強化を施すと、指揮棒型と本型の超機械を手にして電磁波を浴びせていく。
 体当たりを狙ってきたNCに対して、環はカウンター気味に大鎌「アズラエル」を振るう。
 ぐしゃりと粉砕されたNCが、破片をまき散らした。

「えっちキューブ‥‥」
 が、足軽の小銃「ドラド」に撃ち抜かれて地に落ちた。
 集中から解き放たれ、足軽は再び周囲の状況に直面する。
「あぅ‥‥、あんまり‥‥じろじろ‥‥見ないでね?」
 身体を隠すと共に、皆を見ないように視線をそらす。
「あぅ‥‥、み‥‥、見てないもん‥‥。見てないよぅ」
 裸を見てしまった事に赤面すると同時に、足軽は相手への罪悪感で青くなる。意外に器用だ。

 余裕がある初めのうちこそ身体を隠していたが、戦闘状態に突入した芹佳は、それを意識から外してしまう。
 理由を問われたならば、彼女はこう答えるだろう。
「何が今一番大事な事なのかと聞かれたら、やっぱり目の前の敵の殲滅だと思うよ」
 と――。
 彼女が組んでいる円は、覚醒によって羞恥心をすでに振り払っているようだ。
 目の前のNCは彼女に任せ、ついたてを乗り越えたもう一体を追い、芹佳はビルの壁面を垂直に駆け上がる。
「この、乙女の敵!」
 敵を真下に捉えて、大太刀の風鳥を真っ向唐竹割りに振り下ろす。地面をまな板に、刀身がNCを両断した。
 円が手にするワールドオブワンの長さは、風鳥をも越えている。
 二人で組んでいては、横薙ぎは避けざるを得なかったが、現在ではその枷もなくなった。
 目線の高さに降りてきたNCめがけて、円は遠心力に乗せて長剣を横一文字に一閃させて、NCを断ち割った。

 有効射程距離ぎりぎりを、からかうように漂う一体のNC。
 優雅の電磁波をかわし、焔の銃弾を防ぐ。
 そこへ、小さく抑えられた銃声が響いた。
 火を噴いたのは、UNKNOWNの握るサプレッサーつきの拳銃「バラキエル」。
 放たれた弾丸は、ゆらゆらと舞っていたNCに命中し、これを最後の花火と化していた。

 NCは全滅した‥‥。
「脅威は去った。なのに‥‥、なのにどうして、こんなにも涙が止まらないんだ‥‥」
 号泣する焔。『なのに』もなにも、理由は分かり切っている。
 彼は気持ちを切り替えて、失ったものを嘆くのではなく、得たものを反芻することにした。
 眼福と言えるいくつもの記憶を蘇らせて、焔は笑顔を取り戻す。
「いやぁ‥‥良いリフレッシュになりましたな! ‥‥あれ? 何? みんな顔が怖いよ? スマイルスマイル!」
 女性陣が、焔のなだめに応じるはずもない。
 彼女等の期待を背負って、メシアが再び焔の前に立った。
「人の方が、苛め甲斐もあると言うもの」
 ぽろりとこぼれたメシアの本音。
「這いつくばり、わたくしの靴底を舐め、許して下さいと愛らしく鳴きなさい」
 本人はちょっとした遊戯で、これを飴だと考えている。割と本気で。
 鞭として使うのは、高いところから垂らす蝋燭だ。
 ますます盛り上がるふたりに、誰からも制止の声はあがらず、他人のように振る舞っている。
 焔のあげる悲鳴は、芹佳の吹くハーモニカの音色がかき消した。彼女自身の記憶を癒すように‥‥。
 一千風は心に固く誓う。
「この一切を記憶から消そう」
 彼等は一様に、これはきっと悪い夢に違いないと、頭の中で繰り返すのだった。