●リプレイ本文
●集合
「エイミ・シーン(
gb9420)です。コレから数日よろしくですよー♪」
元気よく名乗ったエイミが、傍らの流叶・デュノフガリオ(
gb6275)も皆へ紹介する。
「ルカちゃんは大親友なんです!」
一同が互いに挨拶を交わしていく。
扼城 七歌(
gc0081)はこれが正式な初依頼だと口にした。
「今回は補佐的な動きが中心になると思うけど、連帯感を学ぶのに良い機会だと思ってるわ」
「流石に‥‥暑いですね‥‥」
結城 有珠(
gb7842)の服装は、長袖デニムシャツとデニムパンツ。髪はポニーテールにして、動きやすさを重視した格好だ。
七歌は上下共にジャージを着込んでいる。
(「ふふ‥‥、またご一緒できて嬉しいです」)
新条 拓那(
ga1294)の姿を目にして、石動 小夜子(
ga0121)は口元に微笑みを浮かべている。
「‥‥けれど、今回は子供達の引率、ですものね。あまり浮ついた気持ちになってはいけませんね。自重しなくては」
小夜子は知らないが、ノルディア・ヒンメル(
gb4110)も似たような事を考えている。
(「アンジェさんと仲良くなりたいです♪」)
当のアンジェロ・アマーティ(
gc4553)はセーラー服にショートパンツという出で立ちだ。
白のワンピースに麦藁帽子、足はサンダルというノルディアと並ぶと、女の子が二人と見られても否定がしづらいところだ。
「うふふふ‥‥、彼と温かい家庭を作るために♪ 子育ての予行演習って感じかな?」
そんな事を考えていた崔 美鈴(
gb3983)は、直に子供達を見て戸惑いを見せる。
「‥‥って、あれ? みんな‥‥結構大きいんだね」
●1日目
島へ到着するなり、マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)は子供達が50人そろっていることを確認する。
「無人島かー。実際に何か眠ってたりするのですかね?」
エイミの言葉を耳にして、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が記憶を辿る。
「‥‥デジャヴ、という奴か‥‥? いつか来た事があるような、不思議な感覚のある島だが‥‥」
最近見た悪夢を思い返すが、今は子供達を楽しませることを優先しようと考える。
「‥‥今日は‥‥サバイバル教室と野外料理ですか‥‥」
有珠はまず基本となる点から説明する。
「まず最初に‥‥暑いかもしれませんけど‥‥長袖と長ズボン‥‥を。肌が出ていると怪我をしやすいですからね」
「どんな時でも、飲料水と食料の確保は基本だ」
ホアキンは高性能多目的ツールのナイフを握り、川釣り用の釣り竿作成から始めた。
「ナイフは大切に‥‥。一本あれば何でもできますから‥‥」
有珠が補足する。
「こんなの触るのやだぁ」
「では私がペットボトルを使って獲る方法を‥‥」
蚯蚓掘りを泣いて嫌がる子には、有珠が助け船を出している。
「初めまして、流叶と言うよ。4日間宜しくな」
流叶がややぶっきらぼうに子供達へ挨拶した。
「基本は食用野草と間違え易い毒草の2種類だな」
「野生の調味料を探して、生で使えるか、使えないかを教えますね」
とエイミ。
散っていった子供達に呼ばれ、流叶やエイミがその都度判定を下していく。
「これは食べれるよ? ‥‥ぁ、そっちは駄目な」
「これはミヤマシキミと言って毒があるんです」
子供達が迷わないようにと、美鈴やノルディアはそんな様子を遠巻きに眺めていた。
「ま、火を確保できれば色々と出来るしな。基本だよ」
拓那は燃えそうなものを集めさせ、それが燃えるかどうか実演していく。
「って、こらそこ! 火遊びしない!」
手を焼いている拓那の視線を受けて、小夜子が心得たように声をかける。
「火傷をしたら、キャンプも楽しめなくなりますよ」
やたらと活発な子をたしなめる姿が、拓那にとっては女神のように思われた。
「そろそろ調理を始めましょうか。自分達で作ったお料理はきっと美味しい、ですよ」
小夜子が付き添って子供達に下ごしらえを任せる。火加減は拓那達にお願いする。
料理はこなせるからと請け負った七歌だが、その説明がいささかズレ始めた。
「まず、飲み水を確保する必要があるわ。森の中で水源を確保するには‥‥」
サバイバル知識へシフトしていくのを、本人は傭兵としての仕様だと言い張っている。
有珠が魚の腹をさばいて内臓を取り出し、ホアキンが木の枝を刺して塩をまぶし、子供達がそれを真似る。
「塩は余裕があれば持ち歩くと良いです。食料を保存するときに良く使いますから。あと‥‥料理の味は、塩加減で決まりますからね」
これは有珠だ。
アンジェロは飯盒を火にかけている間に、大鍋で夏野菜カレーの作成にかかった。
「コレは炒めてから使おうね♪」
エイミも料理は得意なので、わいわいと騒ぎながら鉄板上で作業を進めている。
子供達の賑やかさは、調理中だけでなく食事中にも引き継がれた。
「ふふ‥‥、子供って手が掛かるのですね。私も何時かこんな苦労をするのでしょうか」
照れを見せる小夜子が、美鈴と似たようなことを考えていた。
アンジェロがトマトとパプリカのソルベを振る舞ったことから、子供達の喧噪はさらに大きくなる。
「ノルちゃんも、一緒にどう?」
「ありがと」
キャンプ初日だけに許された氷菓という贅沢を堪能し、野外料理が苦手な分、この後のテント設営を指導を頑張ろうと考えるのだった。
●2日目
「ど、どうでしょ‥‥? 結構、悩んだんですけど‥‥」
恥ずかしげにAラインのワンピース姿を見せて、アンジェロの感想を求めるノルディア。
「ノルちゃん、素敵な水着だね。うん、とっても似合ってるよっ」
彼の方はシンプルなトランクス型の水着だった。
「暑い日には最適の遊び、ですね‥‥。けれど海の事故は怖いですから‥‥」
小夜子は事故が起きないようにと、子供達へ視線を向けている。
「はは、やったなぁ! こっちだって負っけないかんね!」
拓那は子供達に遊ばれながらも、遊びの輪から離れている子にも積極的に絡んでいく。
「ん、行くよー?」
ビーチボールを持ってきた流叶は、エイミの率いるチームと、ビーチバレーで熱戦を繰り広げている。
子供達相手でもあるし、怪我をさせないためにも本気でやるのは厳禁だ。
「よし‥‥、私がミスしたら最終日に御馳走、だ」
そんな約束をしたものだから、子供達がハッスルするのも致し方のないことだった。
「足だけでも水につけたら、涼しいよ」
七歌は黒基調のパレオ付き水着の上にパーカーを羽織って、泳げないためか海に入りたがらない子の相手をしていた。
有珠も似たような姿で格好で、不測の事態に備えて砂浜から皆の様子を眺めている。
「どうしたの、それ?」
ノルディアが目を丸くしたのは、アンジェロがいつの間にかパレオ付きのビキニに着替えていたからだ。
「ち、違うんだよ!? ‥‥何か、女の子がそんな格好したらおかしいって言われて‥‥」
そう反論するも、ビキニを持参している時点でおかしいと言わざるを得ない。
ホアキンはパトロールがてら沖を泳ぎ、ついでに食料調達に勤しんでいた。
海面を割って突き出した水中剣の半ばで、貫かれた魚がピチピチと尻尾を振っていた。
「食材調達、っと」
騒ぎ疲れた子供達が眠りに落ちると、傭兵達にもようやく休みが訪れる。
浴衣を着込んだ有珠は潮騒を聴きながら夕涼み中だ。
「形に残る物だけが宝物じゃないって、子供にも通用する、よね?」
先ほどまで子供達と眺めていた星空を、七歌があらためて見上げている。
砂浜にも一組の男女の姿があった。
「わぁー、綺麗な星だなぁ‥‥。この空も、僕の国に繋がってると思うと少し感慨深いや‥‥」
「南の島の夜の海で星を見る。‥‥綺麗ですよね、アンジェさん」
いつもは快活なノルディアが、騎士に寄り添うお姫様のように振る舞っている。
「でも、綺麗な星だけど、君の方が綺麗かも」
口にしたアンジェロも、耳にしたノルディアも、ともに赤くなっているのが初々しい。
「足元が暗いね。‥‥もし迷惑じゃなければ」
アンジェロの差し出した手を、ノルディアがしっかりと握り返すのだった。
●3日目
廃墟には電気など通っていないため、日の高いうちにノルディアは内部の整備を行った。ガラス片や釘など、散らばっている危険な品を回収していく。
とても全体の掃除をする余裕はないため、アンジェロに頼んでルート以外はロープや廃材で通行禁止にしてもらう。
廃墟の2階に神棚を発見した小夜子は、ここをゴールにしようと考えて、人数分のお守りを設置しておいた。
彼等の行動を隠すために、子供達は離れた森の中を散策中である。
「山で迷ったときは‥‥必ず高いところへ。探している人も見つけやすいですし‥‥降りる道を確実に見つけることができます」
昨日の延長で、有珠は経験をふまえた知識を子供達へ教え込んでいる。
「星や太陽‥‥切り株からも方位は読み取れます」
同行している七歌も、例の調子でサバイバル知識満載の会話を続けている。
傭兵達は廃墟や森で行動中だが、唯一、流叶だけは昨日の約束を果たすべく、食材を求めて素潜り中であった。
『昔ここで大勢の猿が‥‥その怨念から身を守る為のお守りを、廃墟に忘れてきてしまって‥‥』
小夜子に脅かされた状態で、子供達は懐中電灯を手に森の外れへ集まっていた。
流叶は進行役として時間を調整しながら、子供達が出発する度に無線機で仲間へ報告を入れる。
森で迷子にならないよう、ぶら下げた懐中電灯が点在し、ロープを張ってルートの規制も行っていた。
光っている人影が揺れているのを見て、子供達の足が鈍る。
おずおずと近づく子供達の首筋を撫でる、ぐんにゃりとした触感。
「うわっ、なんか触った! 触った!」
子供達に触れたのは蒟蒻で、木に吊してある人影はランタンで作った案山子である。
「へっへー、驚いた? 頑張って作った甲斐があったよ♪」
外套やカツラで扮装した拓那が、誇らしげに種明かしをしてしまう。
アンジェロ自身も恐がりだったが、我慢して暗闇に身を潜めながら、草を揺らして通りがかった子供達の不安を煽る。
着物にたたみ草履を履いたノルディアは、覚醒によって髪をぼんやりと発光させて、赤く光右目を子供達に向けた。
森の暗がりでは、美鈴が通信を聞きながら、子供達の様子を眺めている。
廃墟へたどり着いた子供達を、ホアキンの仕掛けたネズミ花火が歓迎する。
「くくくくくく‥‥」
エコーをかけた彼のボイスレコーダーが不気味な笑い声を響かせる。
白い布を被ったホアキンは、子供の視界をかすめるように走り抜けていった。
宙を蠢く明かりの正体は、張ってあるロープを渡るランタンだ。
「驚く子供たちって可愛いわよね」
7本の尾を揺らす銀狐役の七歌が、悲鳴を上げる子供達を微笑ましげに見送った。
ゴールの部屋近くでは、流叶からの情報を元に小夜子が人数を確認している。
「はい‥‥。肝試しは終わりですから、こちらへ‥‥」
叫び疲れた子供達は、有珠が待機場所へと案内していく。
積極的な参加希望者がゴールまで到着しているのとは逆に、今もスタートでぐずっているのは恐がりな子ばかりだった。
「お姉ちゃんも来てぇ」
「怖い? ‥‥なら私も行こう。大丈夫これでも傭兵だ」
応じた流叶が、すかさずエイミに懇願する。
「‥‥みぃちゃんも来てくれない?」
最終班に傭兵が混じることを知った脅かし役はこう考えた。
『二人が同行するんだし、最後だから派手に行こう』と。
最後の子供達は、フルコースとも言える手厚い歓迎を受けることになった。
「了解、と‥‥あぁ、もう少し待ってくれ」
足を止めた流叶が怯えているのは一目瞭然で、エイミなどはその事実に驚かされた。
「ほら、頑張れ‥‥もう少しで終着だ。‥‥声が震えてる? はは、き、気の所為だろう」
流叶は意地を見せて、子供達を励ましつつ先へ進むのだった。
この夜もまた、抜け出したメンバーがいる。
「‥‥みぃちゃん? 泣いてる‥‥の?」
流叶が声をかけると、海を眺めていたエイミが振り向いた。
「あはは‥‥変なところ見られちゃいましたね」
エイミは子供達の笑顔を見たことで、過去の断片を思い出したのだと言う。
「うん。‥‥それで?」
流叶に促されて、エイミは再び己の後悔を口にする。
「私が‥‥、わたくしが‥‥しっかりしていれば‥‥」
聞き役に徹して耳を傾けていた流叶は、静かにエイミの頭を撫で続けるのだった。
●4日目
「見つかったー?」
「場所が違うんだって。もう一度、地図を見ようよ」
子供達は七歌や拓那が作成して配った地図をもう一度開いて、記入された目印を頼りに話し合っている。
「木に登ったりするときは、下に人がいないか気をつけてねー」
心配した美鈴が声をかけたように、傭兵達は子供達から距離をとって見守っている。
有珠やエイミは早朝から現場を回り、探索範囲の目印として紙テープを巻きつけ、危険な区域へ向かわないように明示しておいたものの、子供達が相手では気を抜いてはいられない。
小夜子や流叶は必要とあらば、スキルを使用してでも助けるつもりでいた。
「‥‥首尾よく見つけてくれると嬉しいが」
ホアキンはマルコに要請して、近々開園予定のULTタウンの無料招待券を島の一角に埋めておいた。
「皆、宝物は見つけられましたか?」
アンジェロが隠しておいたのは、キャンプでも使用した実用品のいくつかだ。
「ふむ、見つかんないか。んー、俺ならあの辺に隠すかも知れないよ?」
焦っている子供に、拓那はあからさまにヒントを与えている。
「えー、化粧品かー」
不満そうな声をあげたのは男の子だ。逆に軍用ワッペンをみつけた女の子がいて、お互いの欲しい物と交換している。
喜んでもらえたなら、自腹を切って購入した拓那も満足である。
有珠が持参した救急セットも、七歌の持ち出した槍も、それぞれ出番がなかったようだが、これは喜ぶべき事だろう。
無事に子供達全員が戻ってくると、アンジェロが笑顔で出迎えた。
「‥‥実は、僕も見つけました、宝物。ここに居る皆さんです」
一行がこれからとる昼食は、この島での最後の食事だ。
2日目にビーチバレーで失敗したお詫びとして、流叶が昨日獲ってきたウニなどを中心に豪勢なメニューが並ぶ。
遠慮無く傭兵達もご相伴にあずかり、島での思い出を語り合っていた。
「皆、楽しそうでよかったですね」
小夜子の言葉に頷きを返す拓那。
「ノルちゃん。僕、しっかり出来たかな? キャンプも、君のエスコートも‥‥」
「うん」
アンジェロの問いかけに、ノルディアが笑顔を返す。
傭兵達が頑張りすぎたため、マルコには出番が無かったものの、これもまあ、喜んでいいのではなかろうか‥‥。
数日のキャンプは、傭兵と子供達の双方に楽しい思い出をもたらしたのだった。