●リプレイ本文
●傭兵到着
駅を挟むようにして、五機のKVが地上に降り立った。
「一人で突撃とは、無茶をするな。‥‥っと、私が言えたことではないか」
シクル・ハーツ(
gc1986)がエリザベス・ゴードン(gz0295)への危惧を見せる。
「恐らく何か動機が有ったのだろうが、今はそれを確認している猶予はない」
リヴァル・クロウ(
gb2337)がすべきことはKVでの警戒だ。突入メンバーにはエースクラスが数名いると、自身を納得させて計器と向き合う。
クノスペを操縦してきたカグヤ(
gc4333)の意図はKV戦にはない。取り残された負傷者がいるようならば、搭載してきたメディカルコンテナが役に立ってくれるはずだった。
「誰も失わせない。すぐにみんなと助けに行くから、がんばって生きていて」
蜂毒へのアレルギー対策のために抗ヒスタミン薬や、アナフィラキシーショク用にアドレナリン注射キットを救急セットへ詰め込むと、カグヤはKVを乗り捨て突入班と合流する。
「因縁のある相手とは言え、一人で先走るって流石に無茶だと思うけど‥‥。熱くなるのも無理ないかな」
事情を聞いたエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)は、彼女が独断専行した事情に理解を示す。
「出来れば本懐を遂げさせて上げたいところね。復讐とか仇討ちって、心情的なマイナスをゼロにする儀式だと思うし」
「‥‥一刻も早く救出しないといけませんね」
榊 刑部(
ga7524)にしてみれば、彼女もまた救助対象の一人である。個人的な感情から焦りを感じながらも、努めて冷静に振る舞おうとしていた。
「よもや巣と間違えた訳でもなかろうが、地下に入り込むとは」
白鐘剣一郎(
ga0184)を先頭に六人の傭兵達がKVの足下を駆け抜けて、駅の下に広がる地下街へ侵入していく。
「情報では単独で動くキメラではない‥‥か。まだ他にも現れる可能性があるな。私は外を見張るから、中の方は頼む。こちら側はレイヴァー殿と一緒か。この作戦中よろしく頼む」
シクル機とレイヴァー(
gb0805)機が西口に陣取った。
カグヤの機体が取り残されたのは東口だ。
「よーしっ絶対に敵を近づけさせない! あんまり機体乗ったことないんだけど‥‥負けないからね!」
相澤 真夜(
gb8203)がコンテナを守り抜こうと心に誓う。
「大事そうなお守りを貸してくれて、ありがと、りりー。‥‥ちゃんと返すからね!」
握りしめるお守りの持ち主は、他ならぬ彼女の相棒だ。兄貴分のリヴァルが同じ東側担当なため、彼女としては非常に心強い。
●戦闘開始
「血の臭いが多すぎる‥‥」
キメラの位置を把握しようとした夜十字・信人(
ga8235)が、表情も変えずにつぶやいた。
取り残されて犠牲となった者達の痕跡が、地下街のあちこちに赤い染みとなって残っている。
「戦闘音も聞こえてこないな。あまり不吉なことは考えたくないんだが‥‥」
「匂いや音がアテにならないなら、目を頼りに探そう」
危惧する剣一郎に、エリアノーラは探査の眼を発動させて周囲を見渡した。
探索を進める中、信人が奇妙な音を耳にする。
「この音は‥‥?」
音の正体は角を曲がったところで明らかになった。これまで要救助者が見つからなかった理由も。
待ち伏せなどとは無関係に、巨大なスズメバチの体が通路を塞いでいる。強靭な顎をガチガチと鳴らし、食事中らしい。
「差し詰め蜜蜂の巣に攻め込む雀蜂といった所か。だが残念ながら返り討ちだ」
「まずは一匹目といこうか」
剣一郎が月詠を抜くと、ローゼ・E・如月(
gb9973)が超機械「ビスクドール」を向けて電磁波を照射した。
襲撃を知ったキメラは振り向こうとするが、通路の狭さに体がつっかえて手間取っている。
そのチャンスを活かして、傭兵達がキメラへ殺到する。
ローゼの練成強化を受けて、淡く光るクルシフィクスを信人が振り下ろす。
窮屈な体勢のままに撃ち出されたスズメバチの針。
すんでのところで、剣一郎はカイキアスの盾で受け流すことに成功し、銛のような針が壁面を貫いた。
後方に控えたカグヤの練成治療に支えられ、五人の傭兵達がようやく向き直ったスズメバチとの死闘を演じる。
傭兵達が正面から挑まざるを得ないのと同様に、スズメバチキメラもまた動きの自由が少ない。なによりも飛行能力を奪われたいたのが不利と言えた。
死角を突いた刑部が、キメラの胸部を蛍火で貫くと、巨大な体が断末魔に悶えてのたうち回る。
「ようやく来てくれたみたいだね」
声に振り向いたメンバーは、店舗の通用口から顔を覗かせたエリザベスを確認した。
●敵軍襲来
「敵影反応を確認致しました。各機、警戒されたし。なお、スズメバチから蜂蜜の採取は不可能である為、悪しからず。え、ああ、聞いてませんか」
計器を覗き込んでいたレイヴァーが、レーダー異常の発生から敵の接近に気づいて警告を発した。
「‥‥敵確認。リリー、みえてるー?」
クノスペ近くに控えていた真夜が、地下への入り口を塞いでいるリヴァルへ問いかける。
「あれだな」
見上げた南の空に浮かぶ13の黒点が、二つの進入路にあわせて東西の二手に分かれた。
「やはり来たか。此処から先は行かせない‥‥!」
意思を込めてキメラをにらみつけるシクル。
「‥‥でかいな。生身でコレを数匹相手に‥‥無事だといいが‥‥」
独断専行したエリザベスへの心配が案じている。
「状況を開始する。迎撃するぞ、真夜」
「いっけー!」
リヴァルが「マルコキアス」を発砲すると、真夜の真スラスターライフルも火を噴いた。
「んー? こっちはどうかなっ?」
キメラへのダメージ具合を計ろうとして、距離を縮めてきたキメラにはレーザーカノンで応射する。
「あまり変わらないかな」
砲火をくぐり抜けるキメラは、入り口の前に陣取っているリヴァルが対処した。
最初に狙うべきは頭。次に胴体。最後に羽根と彼は目標を定めていた。
「昆虫タイプのキメラは軌道が予測しずらいが‥‥そこだ」
何発目かの銃弾が蜂の頭部を粉砕した。
地下への侵入を試みる蜂を相手に、シュテルンは剣とソードウィングで食い止めようとする。
「単体での戦力は高くはない。だが、数が多い」
「地下へはいっちゃだめだよー!」
西口でも同様の戦いが繰り広げられていた。
「そこ! ‥‥もらった!」
間合いに入った蜂の胸を、シクル機の機槍「ユスティティア」が貫いた。動きを封じられた蜂へ、高分子レーザー砲で追撃をかける。
「数が多いな‥‥。こちらの数は少ないし、あまり一匹に時間はかけられそうにないな」
シクルの発言をふまえ、レイヴァーも狙いが重複しないよう別な個体を狙っている。
彼はカウンターを心がけ、骸龍を入り口から離すことなく、スズメバチへ機槍「ドミネイター」を突き立てる。
ドドドッ!
上空から降ってきた数本の針が、骸龍とサイファーの装甲をえぐった。
「針を飛ばすのか‥‥。さすがキメラ、何でもありだな」
呆れを交えてシクルが漏らす。
●地下脱出
「怪我は大丈夫かい?」
エリアノーラだけでなく、剣一郎も気遣わしげにエリザベスの体を観察している。
「あたしの傷はたいしたことないよ。中の人を見てくれ」
その言葉を耳にして、カグヤが急いで店内に足を踏み入れた。中にいた民間人は五人。
針がかすめたのか太股の腫れている負傷者に近づくと、ミネラルウォーターで傷口を洗い流し簡易治療を施して、持ち込んだ薬を飲ませておく。
錬成治療によって、どうにか自力で歩ける程度には回復させる。
「あなたにとっての復讐とは、たかだかキメラ一匹や二匹を巻き添えにしてそれで終わる、そんな軽いものだったのですか?」
詰問するような刑部のセリフに、エリザベスが肩をすくめた。
「スズメバチの前で民間人を救うのも復讐のひとつさ。地下街ですぐみんなと会ってね。脱出が無理そうだから、あんたちを待っていたわけだ。この依頼を受けて来たんだろう?」
「期待には応えなければなりませんね」
応じた刑部は、軽傷のエリザベスにもカグヤの治療を勧めた。
「カグヤも大切な人を皆うしなったから気持ちはわかるの。でも一人で突入は無茶なの。自分が生き残ってこそ、皆が救えるんだよ」
全員の治療を終えると、一行は地上を目指して動き出す。
「よう。気持ちは分かるが、君も無茶をするな」
エリザベスの隣に、剣を担いだ信人が並ぶ。
「‥‥そう言えば、君と生身で戦闘するのは是が初めてか?」
「言われてみればそうだね」
彼等の行く手を遮るようにキメラが出現し、さらに、退路を断つようにもう一体が姿を見せた。血塗られた顎を見るに、それぞれが別の箇所で食事中だったのだろう。
「皆は一般人の脱出を頼む。こっちの一体は俺が抑えよう。‥‥天都神影流・虚空閃!」
剣一郎はソニックブームを放ち、後方のキメラを足止めに専念する。
ガーディアンへと転職した信人は、その本懐を遂げるべく行く手を切り開こうとする。
刑部やローゼも手を貸して、キメラを力ずくで押しのけて道を切り開くと、カグヤが一般人を導いて駆け抜ける。
最後尾に食いつこうとしたキメラを、不壊の盾で防御を固めたエリアノーラが阻む。
「おれのタフさとお前たちの針、どちらが上か、実にシンプルな応酬だ。来い」
一般人と別れたことで、ようやく信人は仁王咆哮が使用できる。カグヤ達を追おうとした蜂が、威圧感を放つ信人に引きつけられた。
彼の持つ武器を強化してローゼが補佐に回る。
体を屈める事ができず、針での攻撃は考慮の必要がない。
噛みつこうとする顎を、刑部は天地撃で床面に叩き落とし、再び襲いかかるよりも早く、スマッシュと流し斬りを叩き込んだ。
要救助者の脱出を確認し、エリザベスは剣一郎のアシストに回る。
「一人じゃきついだろ?」
「体は大丈夫だろうな」
「もちろん」
●地上迎撃
「カグヤがみんなを絶対に守るの」
幼いながらも、自分を頼りにする人々を励まして、自機の元まで案内する。
キメラの舞う下を、六人がクスノペへ向かって駆け出した。
獲物めがけて降下しようとするキメラへ、真夜のサイファーが立ちはだかる。
「きゃーっ! きゃーっ! こっちは攻撃しないで!」
メディカルコンテナに駆け込むカグヤ達をかばって、近づくキメラへ銃弾を叩きつけていく。
「人がはいってるんだよっ!? やめて!」
真夜の叫びをあざ笑うように、撃ち出された針がクスノペにあたって、機体を揺らす。
「大丈夫なの。みんなが守ってくれるはずだから」
メディカルコンテナ内で、皆を力づけながらカグヤが治療を続けている。
「なおれー、なおれー。だれもガクヤの前で死なせない」
錬成治療だけでは難しくとも、彼女はあらゆる手段で皆を助けるつもりだった。
群がるキメラを見て、リヴァルはPRMシステムで攻撃力を増幅させて迎撃に加わった。
「それ以上はやらせん」
要救助者の命を預かり、リヴァルと真夜が降下してくる蜂を撃ち落とす。
「来るか!?」
シクルは機剣と練機刀で二刀流を構え、ヒット&アウェイでキメラを翻弄する。
「落ちろ!」
振り抜いた機剣「白虹」で羽根を切断され、キメラの体が地面に落ちる。逃げる時間を与えず、手数で押してとどめを刺す。
地下にいる仲間のためにも、レイヴァーは西口の封鎖を続けている。
体を屈めて針を撃ち出そうとした蜂を見つけると、ピアッシングキャノンの弾丸で先手を打つ。
東口にはKVの姿が三体見えるためか、西口を手薄と見て蜂の数はこっちの方が多かった。
針の軌道を読んだレイヴァーは、幾つかの回避に成功するも、数頼みの攻撃に被弾を許してしまう。そのうちの一体に狙いを定め、カウンター気味に腹部へ弾丸を打ち込んでやった。
「させるか!」
ブーストを点火させたシクルが、骸龍を囲む一体を、機槍による突進突きで仕留める。
彼女の視線の先、戦いの中心で煙が噴出する。煙幕を目くらましにして、レイヴァーはスズメバチの下をくぐり抜ける。
彼もまた機槍「ドミネイター」を手に、遅れて煙から脱するキメラを一体ずつ掃討していった。
●任務完了
「言い忘れていたが‥‥」
信人がクルシフィクスを楔のように突き立てた。
「俺はガーディアンだが、昔はダークファイターだった」
傷口をこじ開けると、両断剣を付与したフォルトゥナ・マヨールーで零距離射撃を叩きこむ。
「破壊活動も得意でな」
二体目のスズメバチキメラを始末した四人は、戦闘中の仲間の元へ向かう。
「天都神影流、虚空閃・裂破!」
呼気を整えた剣一郎は、猛撃によって威力を底上げしてキメラに抗している。
小銃「S−01」によるエリザベスの援護を受け、蜂の顎をかいくぐった剣一郎が足の一本を斬り飛ばす。
駆けつけた援軍のうち、刑部が羽根を切断し、信人もまた足の一本を断ち切った。
カグヤが不在のため、ローゼが拡張練成治療を用いて、負傷した仲間の回復に当たる。
戦力増強に恐れを成したか、こちらに尻を向けてスズメバチが逃げ出そうとする。
その体勢の意味に気づくのが遅れ、針を撃ち込まれた刑部がその場に片膝を突く。
彼にはエリアノーラが蘇生術を施した。
月詠と盾を構えて追いすがる剣一郎が、猛撃に加えて急所突きを繰り出す。
「天都神影流 斬鋼閃・裂破っ」
鋼をも断つ剣閃が、大きな腹部を切り裂いて中身をぶちまけた。
動きが鈍重になったキメラの体を乗り越え、剣一郎の月詠がスズメバチの頭部を切り落とした。
「いくよっりりー!」
真夜の合図を受け、リヴァルの行った支援射撃がキメラの羽根に幾つもの穴を生じさせた。
速度が落ちただけでなく、機動性まで失いつつある、最後のキメラ。
真夜はサイファーを突撃させて、零距離射撃を敢行する。機体を振動させながら、重機関砲のばらまく弾丸がキメラの体をボロ雑巾にしてしまった。
「これで‥‥おしまいーっ!」
真夜の宣言を耳にして、シクルがつぶやきを漏らす。
「これで‥‥終わりか‥‥?」
静かになった地上で、警戒を続けるシクルへ剣一郎からの通信が入った。
「何とか終わったな。お疲れ様だ」
「そちらも無事みたいだな。よかった」
ようやくシクルも緊張をほぐした。
カグヤのがんばりもあって、救助した人間は無事に回復することだろう。
依頼の成否は別にして、刑部としては言わねばならないことがあった。
「私は怒っているんですよ。全く無茶な事をして‥‥。二度とこんな無謀な真似などしないで下さい」
たしなめる刑部が、エリザベスをそっと抱きしめる。
「‥‥少なくともあなたの身を案じている男がここに一人はいるんですから」
その腕の中で、エリザベスは苦笑を浮かべている。
「子供じゃないんだ。心配のしすぎだよ」
刑部の背中に回した手が、なだめるように優しく叩く。
「雀蜂キメラを生み出したものを見つけ出して、二度と作られないようにしましょう。それで初めて復讐が完了するんだと思います」