タイトル:【BD】戦場外の殲滅戦マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 4 人
リプレイ完成日時:
2010/10/29 01:51

●オープニング本文


 ギガワームとの決戦のために、整備や補給を終えたKV部隊が離陸していく。
 ボリビア防衛作戦の最終段階において、ここに配置された補給部隊の仕事はすでに終わったため、一足先にこの場を撤収する予定となっていた。
「‥‥大丈夫ですよね?」
「わからん。俺達は自分の仕事を果たした、あとはあいつ等次第だ」
 むすっとしたまま応じる上官が、その口元をわずかに緩める。
「俺は信じる。お前はどうなんだ?」
「しっ、信じますよ。決まってるじゃないですか」
 パイロット達の顔を思い浮かべて青年が強く訴えた。
 整備や補給の仕事は華々しい戦果と無縁の仕事だ。
 それでも、自分達の仕事には仲間の命がかかっていることを自覚しており、神経や体力をすり減らしながら仕事に従事している。
「基地に戻って皆を出迎えるのが、俺達の次の仕事だ。撤収するぞ」
「了解!」
 勝敗の帰趨はすでに彼等の手から離れており、もはや、彼等がこの戦いに関わることはない。
 そう思っていたのだが‥‥。
『レーダーの異常を感知! 敵機が接近している模様!』
 通信機が告げた状況はのっぴきならぬものだ。
 もはやこの部隊に、満足な戦力は残っていない。
「なんだって俺達を襲う? 何が目的だ?」
 せっぱ詰まったその問いかけは、敵の耳に届かなかった。

 緑色のHWの中で、ピョートルはただほくそ笑んでいる。
「まあ、俺も仕事はしておかないとな」
 補給部隊を威圧するような超低空に機体を浮かばせて、カメラが捉えた地上の映像を眺めている。
 今回、彼が従えてきたのは巨大なカメレオンキメラだった。その体表は常に色が揺らぎ、視認を困難にしていた。
「楽をして成果を出すのが俺のポリシーなんだ。どうせ、用済みのお前等に助けなんて来やしねぇよ。さっさと全滅するんだな」
 補給を断つというような目的ではなく、補給部隊を殲滅させるためにピョートルは攻撃を開始した。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
カーラ・ルデリア(ga7022
20歳・♀・PN
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
ザイン・ハイルング(gc4957
23歳・♂・ST

●リプレイ本文

●補給部隊の窮地

「被害を出させる訳にはいかないわねー。急ぎましょう」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)のアンジェリカを含め、現場へ向かうKVの数は十機を越えていた。
「しかし‥‥。補給部隊を叩くとはある意味、常套手段だな」
 漸 王零(ga2930)の言葉に頷く、カーラ・ルデリア(ga7022)。
「見事な奇襲‥‥、なかなかやるようやね‥‥」
 補給部隊『ハニービー』の隊長である彼女は、その有効性から敵を高く評価した。この時点では‥‥。
「錬力は余裕、弾薬も問題無し‥‥。よし、もう一戦は十分イケる!」
 急行した彼等が目にしたのは、宙に浮かぶ一機のHWと、その直下で攻撃に晒されている補給部隊だ。
「騎兵隊の参上、っと言った所か。間に合ったようだな」
 堺・清四郎(gb3564)が安堵する。一方的に蹂躙されているという事実は、全滅に至っていないということでもあった。
「あの緑のHW‥‥まだ生きてたワケ? しぶといったらありゃしない」
 不機嫌さを露わにする鷹代 由稀(ga1601)。
 清四郎は作業を終わらせた後の補給部隊を狙う意義は低いと見て、その行動から一人の敵を連想していた。
「また奴か‥‥。矜持の欠片もない下衆が‥‥!」
 由稀と清四郎が共に交戦した緑のHWは、ピョートル・ペドロスキ(gz0307)という人物の乗機だった。
「戦略的な意味もなくなった部隊に攻撃をかけるだなんて、本当にバグアは恥知らずで卑怯者ですわね」
「弱い補給線を狙うのは、パルチザンの見本みたいな手で結構だが、‥‥援軍を視野に入れてないようだな」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)やキリル・シューキン(gb2765)の評価を耳にして、カーラは敵を過大評価していたように感じていた。
(「‥‥ひょっとして、ただのバカだった?」)
「悪いがこれ以上はさせん!」
 水円・一(gb0495)の宣言と重なるように、由稀が通信機で訴えた。
「全員無事ね? 直衛でそっちに何機か回るからもう少し待ってて」
「派手にいくぞ! ブレイド、FOX1!」
 清四郎の意思に応じて、乗機のミカガミは抱えているK−02ミサイルを撃ち出した。250発ものミサイルが、戦域上空を横断するようにHWへと殺到する。
「『ハニービー』の名にかけて、補給部隊を潰させはしないよん」
 明るかったカーラの口調が一変する。
「せいぜい、覚悟なさい」
 イビルアイズのAAMミサイルが噴煙を曳きながら空を舞った。
「ともかく、速やかに敵の排除に当たる事としましょうか」
 クラリッサのシュテルンもG放電装置を稼働させて攻撃に加わる。
「ちっ。どっから湧いて出やがった!?」
 振動に見舞われたHW内では、ピョートルがいらだたしげに吐き捨てた。
「俺が注意を引くから、奴を狙撃してくれ。‥‥行くぞ!」
 清四郎のミカガミが空中戦を挑みかかった。

●陸上における砲火

 実際に依頼を受けた人員に対し、機体数はそれを上回っていた。
 夫である王零から事情を聞いた王 憐華(ga4039)のように、事態を知った参加者達の肉親や知人が参戦していたからだ。
「こちらは任せなさい。キッチリ守り抜いてみせるわ」
 アズメリア・カンス(ga8233)が請け負う。
 不測の事態に備え、守りは彼女等に任せて陸戦班の六機がキメラの前に立ちはだかる。

「リンクスの性能を引き出せれるよう頑張るぞっと」
 獣人を思わせるザイン・ハイルング(gc4957)機の傍らには、奉丈・遮那(ga0352)が乗る獣然とした四足歩行型KVが陣取っている。
「補給部隊に近づかせないことが最優先ですね。ピヨ吉の撃破は対HW組に任せましょうか」
「キーメラさんっと、姿隠すなんて恥ずかしがり屋だなっと」
 ザインが口にしたとおり、カメレオンキメラの保護色は地表に紛れ、視認性の低下に役立っている。
 当たりにくいのを前提として、遮那は牽制を目的に重機関砲の弾丸をばらまきはじめた。
「当たればラッキーというところですね」

「では鷹代、よろしくな」
 一のディスタンと由稀のシラヌイは、キメラBとの交戦を予定したチームだった。
「さて‥‥、後々も復旧に困るため、補給部隊への被害は最小限に抑えようか」
 むしろ、今からが働きどころだと判断して、一はキメラと対峙する。
「ペイント弾が使えれば良かったのだが‥‥」
 彼は作戦用に大量のペイント弾を所持していたが、KV戦において使用効果は得られそうもない。
「当てにくいんならさ‥‥、乱れ撃つまでよっ!」
 由稀は外部音声の集音マイクの感度を最大にし、自身の耳と目、そしてAIでの解析データを頼りに、敵の位置を予測して発砲する。

「‥‥狙いがつけ辛いな。だが、グローム! お前の力なら突破できなくてどうする!」
 キメラCに向けてキリルは強引に機体を突撃させる。
 それに追随するように、フローラのアンジェリカもブーストを噴かして、キメラとの間合いを縮めようとした。
 キメラの舌が伸びて砲弾のようにグロームに炸裂する。幸いにも、身構えていた盾が攻撃を受け止め、前進が一歩遅れた程度に留まった。
 間合いに捉えたアンジェリカは、ドラゴンスタッフを叩きつけてキメラとの肉弾戦へ突入する。
 わずかに遅れて、グロームがこれに加わった。熱せられたディフェンダーの刀身が、体表を削って傷を負わせていく。

●火と鉄塊の降る空

 ミカガミの発砲をかわしたHWへ、回避軌道を予測していた王零がエネルギー集積砲を叩き込んだ。
 フローラ機やクラリッサ機からも攻撃を受けながら、ピョートルの反撃は極めて少ない。
 卑怯と言われがちなピョートルだが、その根本は合理性‥‥、どれだけ楽にこなすかという点に集約される。より効果的な反撃のタイミングを狙っているのだ。
 高い空間認識能力を持つピョートルは、二機を同時に射線に捉えられるタイミングを見計らって、プロトン砲を照射する。
 語源通りの一石二鳥を狙った攻撃を、もっとも多く受けたミカガミが未だ健在なのは、高い回避能力と操縦技術に寄るところが大きい。
 敵の注意を引きつけようと考えていた清四郎だが、迎え撃つかに見えたHWがその傍らを通過する。
「巣を守る為なら、女王蜂も戦わなきゃね。この毒針、貴方にかわせるかにゃ?」
 自ら接近してきたHWに向けて、カーラがガトリング砲を発砲する。
 大量に被弾しながら、ピョートルは交戦に応じずKVの間をすり抜ける。
 反転に手間取ったKVを尻目に、ピョートルはキメラとKVが陸上戦を繰り広げる戦域へと迫った。
「‥‥敵が接近、なのです」
『賢者の千里眼』として憐(gb0172)が誇るワイズマンのセンサー類が、HWの接近を検知して皆に伝達する。
 対キメラ戦のさなか、由稀は戦場を突っ切ろうとするピョートルへの攻撃を優先した。
「兄貴、時間差! 5秒後に2時!」
 短い言葉ながら、双子の兄である鷹代 朋(ga1602)は意図を察する。
「行かせるかっての! ラジエル、目標を狙い撃つっ!」
 超伝導アクチュエータを稼働させた機体をブーストジャンプさせる。腰の主翼とシールドを展開して空力と姿勢の制御を行い、低空からの狙撃を敢行する。
 しかし、慣性制御を所有するHWは、横にスライドするようにしてその射撃を回避した。
 至近に迫っていた由稀の目は一瞬見失ったものの、離れた場所で射撃タイミングを計っていた朋は、回避し終えたHWに向けて銃弾を叩き込んだ。
 追撃を狙う空戦班へは、キメラ勢が舌を伸ばす。
 あるいは進路を変え、あるいは舌の林をくぐり抜け、彼等はHWを追った。
 ピョートルが求めたのは自分が優位に立ち回れる状況である。地上に補給部隊が展開している場所ならば、KVも無数に弾丸をばらまくような戦い方をできない。
 補給部隊の頭上へ接するような低空に陣取ったHWへ、地上から砲口が向けられる。
 直衛四機からの攻撃は当然のことながら、カーラのイビルアイズはブーストを使用し、クラリッサのシュテルンは垂直離着陸能力を駆使し、いち早く着陸変形して地対空攻撃に加わっていた。
「シュテルンの展開能力はこのような時の為にあるのですから、存分に活用させて頂きますわよ」
 クラリッサのスラスターライフルが火を噴いて、銃弾を敵機に命中させる。
「‥‥敵の増援を確認なのです」
 再び告げられた憐の警告。
 新たに出現したHWは二機。同方向からではなく、左右から挟み込むような形に配置されていたようだ。
 当初から援軍を想定していた清四郎は、残存するK−02を全て吐き出した。
 傭兵達の意識がそちらへ向いたのを見澄ましたように、緑のHWが戦場からの離脱を計る。
「この三下がぁ!」
 清四郎が怒気も露わに追いすがろうとするも、ピョートルの方が一歩早かった。
 しかし‥‥。
「Пошел на хуй мудак!(くたばれろくでなしが!)」
 ロシア語での罵倒とともに、キリルのスナイパーライフルの銃弾が命中する。
 彼は、戦況の打破などといった目的も無しに、ただ虐殺するしような相手に腹を立てていたのだ。
 それでも、ピョートルは逃走に成功し、傭兵達は残存戦力との交戦を押しつけられた。
 憐は直衛班を集結させると、タクティカル・プレディレクションAを稼働させて、友軍機の行動力を一時的に高めた。
 銃口を空に向けるKVへ、浮遊するHWからミサイルが降り注ぐ。
 しかし、アズメリアの雷電は盾で身構え、朋のサイファーはフィールド・コーティングで回避した。
 憐華は王零からの指示を受けて、ある意図の元、スナイパーライフルを発砲してHWを追い立てようとする。
「ちぃ‥‥。いい加減うんざりだ‥‥一気にいく」
 王零はブーストと超伝導アクチュエータを併用し、二機のHWに向けてK−02を射出する。
「BulletAssault‥‥Ver.Storm!」
 雷電そのものを弾丸のように回転させながら、すれ違いざまに一機のHWをソードウィングで両断した。
 もう一機には、再び離陸したクラリッサと清四郎が当たっていた。
 十分に装甲を削ったクラリッサは、満を持して撃ち出した螺旋弾頭ミサイルでHWを穴だらけにして粉砕する。

●血と残骸を残して

 予想外なことに、カメレオンキメラはその重装甲で未だKV相手に抗していた。
 ザインがアテナイを撃ち込んで牽制したところへ、ブーストを点火したワイバーンがキメラAへの接近を果たす。
 舌の鞭をかわしつつ、練機刀「白桜舞」で斬りつけるワイバーン。
 同じく間合いを詰めたザインが、確実な命中を期してハード・ディフェンダーを突き込んだ。
「こっちの弱い所を突こうとしたのは見事だね。それじゃ、ご褒美に死天使の舞でも見せてあげようかな?」
 手の空いたカーラが、機鎌「クレスケンス・ルナ」を構えてキメラAへ強引に接近する。
「地獄へ落ちなさい!」
 稼働させていた対バグアロックオンキャンセラーのおかげか、狙いを外した舌を鎌で切断し、返しの一撃でキメラの首筋を狙う。
 断ち切れなかった傷へ、ザインのハード・ディフェンダーが潜り込み、その首を跳ね飛ばした。

「大きかろうが、絡めてしまえば」
 一のディスタンがスパークワイヤーで縛り付けようとするが、抗うカメレオンの力で千切れそうになり断念する。
 体を振ったキメラは、くるくると丸まった尻尾を鈍器替わりにディスタンへ叩きつけた。
 由稀は飛んできた舌を、マント状の盾で受け流しながら、次の一撃を狙う。
「余程の事が無きゃ使わないんだから‥‥感謝しなさいよっ!」
 引き抜いた練剣「メアリオン」をキメラへ突き込んだ。
「挟み撃ちにしようっ!」
 由稀に促された一は、ヒートディフェンダーを反対側から差し込んで、キメラの重要器官を灼くことに成功した。
「残るは一体‥‥」
 手伝いに向かおうとした一だったが、どうやら一歩遅れたらしい。

 舌で打ち払われながらも、フローラは絶対に離れまいと食らいつく。
 キリルと組んで、挟み撃ちや波状攻撃など、連携攻撃を試みているが、決定打に欠けて戦いが長引いている状態だった。
 ここで王零の雷電が参戦した。武器は、両手に握るジャイレイトフィアーとゼロ・ディフェンダーの二刀流だ。
 繰り出されるジャイレイトフィアーに恐れを成したのか、王零機を最大の敵と定めて応戦に専念する。
「こっちの相手をしてもらいましょうか」
 フローラと共に、不満に感じたらしいキリルが激しく攻め込んだ。
 盾を掲げたキリルが、キメラの頭部を下方から突き上げて押しとどめる。
「動きが止まれば、ねー」
 フローラの振り下ろしたドラゴン・スタッフは、キメラの頭部をキリルの盾と挟み込んで粉砕してしまった。
 横倒しになり、ピクピクと痙攣する巨体へ、王零の剣がずぶりと突き刺さりとどめを刺す。

 敵の撃退に成功したものの、それまでに生じた犠牲が戻ることはない。
「これで大丈夫だろう」
 後の復旧に限らず、より多くを助けるために一つは救出などにも手を貸していた。
 他にも、ザインは事後処理として、今回のキメラに関する情報を上げるつもりでいる。
「‥‥『蜥蜴座』ですか」
 クラリッサはピョートルの飛び去った北の空へと視線を向けた。
「卑劣漢の名など覚えておくのは癪に障りますけど‥‥次まで命は預けておきますわ」