●リプレイ本文
●実在するヒーロー
この日、エシック・ランカスター(
gc4778)は『刺身の上の菊をタンポポに置き換える』という冗談のようなキメラを倒して、L・Hへ帰還したところだった。
「情報が混乱して着陸に手間取っていると思えば‥‥」
ULT事務所を訪れたところで、ようやく詳細を耳にする。
「世界の命運がかかっていますが、やるのはいつも通り。敵を排除し目的を達成することのみ‥‥ですね」
気負った様子無くもなく、ソウマ(
gc0505)が端的にまとめてしまう。
「疫病で鼠というのは、定番といえば定番ですね」
医師らしく辰巳 空(
ga4698)が言及する。
「この程度の鼠キメラなら本当にいてもおかしくはないですが、いかんせん抗体スーツが現実離れしすぎで‥‥」
「細かいことは後回しだよ。あんたもナナレンジャーの一人なんだからね」
「ひとまず、頑張ってみます」
シェリー・ローズ(
ga3501)にたしなめられて、空が苦笑する。
「本格的な参加は初めてですわね、今回はよろしくお願いしますわ」
撮影ではサポート的な登場だったレベッカ・マクシミリ(
gc3090)が、実戦に加わるということであらためて挨拶する。
「飛び入りになってしまったが、宜しく頼む」
こちらは白鐘剣一郎(
ga0184)だ。
「‥‥ナナレンジャーは‥‥ある意味フィクションでは‥‥ありません。‥‥スーツの機能が再現されたとなれば‥‥最早‥‥本物と言っても過言ではないでしょう」
そう奏歌 アルブレヒト(
gb9003)は思い定めた。
「ネズミデガスキメラを生きている状態で捕獲する必要があるんですか?」
確認するエシックに、答えたのは空だ。
「死体からでもワクチンは作れるそうですよ」
「ナナレンジャーと同じというわけか」
UNKNOWN(
ga4276)の指摘に、常連メンバーがかすかに笑みを浮かべて応じる。
「工場内の見取り図があれば、事前にボスの居場所に目星をつけておきたい」
剣一郎の実務的な申し出に、マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)が首を振った。
「役所の人間がダウンしてしまって、古い情報が出てこないんだ。ぶっつけでやるしかないな」
「マルコさん、今回はお世話になりますわね」
「今回はフィクションじゃないけど、よろしく頼むよ」
そうレベッカに返して、『ビフロスト』を発進させる。
目的地へ到着するまでの短い時間に、ナナレンジャー達は車内で打ち合わせをしていた。
「‥‥私達足止め班は‥‥搬入口から侵入。‥‥敵をひきつける」
奏歌が組むのはシェリー、レベッカ、ソウマで合計4名。
「討伐班は裏口から侵入してボス退治だな」
答えた剣一郎に、エシック、空、UNKNOWNが同行する。
「10分しか時間が無いので、出来るだけ速やかに移動した方が良いですわね」
「残り時間は常に確認した方がいいでしょう」
レベッカの指摘にエシックが言葉を添える。
『ビフロスト』が停車すると、一同が車内で着替え始めた。
「あまり、見ないで下さいね?」
男性陣をからかった割に、レベッカは大胆に脱ぎ始めて下着姿を披露する。
UNKNOWNも、フロックコートや兎革の帽子といった黒い衣装、さらには白のカフスシャツも脱ぎ捨てていく。
「ランプは光明・星を意味し、ブッラクは漆黒を意味する。この矛盾がキョウ運の持ち主である僕にはぴったりですね」
マスク内で微笑するソウマは、ランプブラックのスーツにご満悦のようだ。
●ネズミの地
ウィルスの影響圏ギリギリに停車している『ビフロスト』から、色とりどりのスーツ着用者が姿を現した。
工場の表と裏。彼等は二手に分かれて接近する。
マルコへ依頼していた工場への電源供給は再開されたらしく、奏歌がスイッチを押すと電動シャッターが上昇を始めた。
搬入車両が出入りできるほどに拾い工場へ、大量の陽光が降り注ぐ。
光の中に立つ4つのシルエットは、ナナレンジャー達だ。
「薔薇色の覇道を歩む美しき乙女、七色戦隊隊長ローズピンク」
いつものごとく、名乗りを上げるシェリー。
「世界の涙を止める為何の因果か化物退治、七色戦隊ナナレンジャーお呼びとあらば即参上!」
眩さによるものか、敵意を察したからか、ネズミ達が騒ぎ立てる。
床に落ちていた影と思われていたのは、床を埋め尽くすようにネズミがひしめき合っていたからだった。
工場内へ足を踏み入れる四人の戦士。
「陽動するのですから、出来るだけ派手に動いて、小型キメラの注意を引いて置いたほうが良いのかしらねぇ?」
おどけたようにつぶやいて、レベッカは雲隠でネズミキメラを斬り捨てる。
マスクの装着中には呼笛も吹けず、奏歌は残されていた作業機械を狙い撃ち、派手な音でキメラを引きつけようとする。
彼女は後方に陣取って援護主体という方針だったが、そんな思惑などお構いなしに、数にものを言わせたネズミキメラが殺到していた。
群がるネズミキメラ相手に、奏歌は機械爪「ラサータ」で応戦していく。
GooDLuckの加護によるものか、奏歌やソウマの攻撃は撃破数が高い。ソウマの外れた弾丸が、跳弾で成果を上げたのは出来過ぎと言うべだろうか?
「僕の『キョウ運』は凶器、その身に刻み逝くがいい」
破壊音から足止め班の戦闘開始を知った討伐班も行動を起こす。
「敵だけでなく時間とも勝負か。慣れたメンバーとは勝手も違うと思うが、お互い最善を尽くそう」
クロムイエローこと剣一郎が、初参加ということで仲間に微笑かけた。
こちらはさらに二手に分かれ、それぞれが別の扉から侵入を果たす。
裏口の扉を開けた空は、あたりにキメラが存在しないと見て、瞬速縮地で通路を駆け抜ける。
先導する彼が足を止めたのは、探索の目でキメラを捉えたからだ。
「待ち伏せなどではなく、どこへ行ってもキメラで溢れていそうですね」
空はエシックと小声で打ち合わせ、この場での戦いに踏み切った。
「希望を守るそれが使命、ナナレンジャーモーブ!」
灰色がかった紫色のスーツに身を包み、エシックが名乗りを上げる。
「デガスの戦い方、美学が見えん。面白い。相手と、なろう」
「闇を貫く太陽の剣、クロムイエロー、推参!」
UNKNOWNと剣一郎も戦闘に突入していた。
「ボスに相当する個体が大きいとすれば、ある程度以上広さのある場所に陣取っている可能性が高いと見た」
つぶやきながら、剣一郎が一刀のもとにネズミキメラを斬り捨てる。
そんな彼の背中に向けられる一つの銃口。
「くっ、まだだ。まだ暗黒面に囚われるわけには‥‥」
UNKNOWNが黒い情動を押さえつけ、震える銃口が床へと向けた。今は亡き友への思いが、かろうじて彼を光の世界につなぎ止めていた。
ネズミキメラ一匹の攻撃は弱くとも、数が増えれば脅威とならざるを得ない。
レベッカの蘇生術や、奏歌の練成治療が、彼等を支える重要な命綱となっていた。
「‥‥あれは?」
奏歌が目にしたのは、放置された機械の影からこちらを除く瞳だった。
「これもキョウ運かな」
ソウマが嘆息する。
こちらは陽動目的のはずが、本命たるネズミデガスキメラはここにいたのだ。
「私達がすべきは、『敵を排除し目的を達成することのみ』ですわ」
ソウマの言葉を借りてレベッカが告げると、当人が苦笑を浮かべて頷いた。
「まったくですね」
●希望の戦士
「急いで合流しましょう。全員揃えば戦闘自体は一分もかからないでしょうから」
ボス発見の連絡を得て、空がエシックを促した。
二人は標的を目指してその先を急ぐ。
彼等が戦場へ飛び込むための入り口は、ちょうどデガスキメラの後方にあった。
思わぬ奇襲となったが、空は迷うことなく瞬速縮地を使用して懐へ飛び込んでいた。首元を蹴り上げるなり、掌底を頭部へ叩き込む。
遅れまいと駆け寄ったエシックは、回り込んで流し斬りを仕掛ける。
「このままでは文字通り最後の希望が人類から奪われてしまう。例えこの身がどうなろうと‥‥許すわけにはいかない」
気迫を込めてデガスキメラへと挑む。
戦況を知ったソウマが、行く手を遮るキメラ達の一掃を狙う。
「君達にこの美しき漆黒の弾幕、かわせるものならかわして見せろ!」
ランプブラック・スレイヤー。怒気を燃やす瞳から放たれる氷のような冷たい視線に続き、小銃「ルナ」の銃弾が降り注ぐ。
切り開かれた道を駆け抜けるシェリーと奏歌。
エシックへ噛みついたデガスキメラへ、シェリーの機械剣βが振るわれた。
「ローズピンク・ハートブレイク!」
豪破斬撃と両断剣による合わせ技が炸裂した。
「ふん。鼠人間は赤いパンツはいて遊園地で、おとなしく踊ってりゃいいんだよ!」
「‥‥ウィスタリアオーバーウェイブ‥‥ディスチャージ」
自身を強化した奏歌は、超機械「ザフィエル」で電磁波を浴びせ追撃を加えていく。
空は強引に攻め込むことこそ無かったが、眼などの弱点を狙うような効率的、あるいはえげつない戦法を取っていた。
彼の振った右腕から青い光が伸びる。真音獣斬を使ったプルシャンブルー・アークウェイブが、デガスキメラの左目を奪った。
空達と同じタイミングで連絡を受けたはずの剣一郎は、いまだ合流を果たしていない。
なぜなら、相棒が葛藤を抱えており、全力で戦えていないためだ。
再び、剣一郎の背中に向けられた小銃「S−01」が火を噴いた。血しぶきを上げたのは、剣一郎の首筋へ飛びかかったネズミキメラだ。
「行け。デガスキメラはこの奥だ」
UNKNOWNが足を止め、剣一郎ひとりだけを先へと向かわせる。ネズミキメラを全部引き連れていくよりも、この場に半分を引き留めておこうと考えたのだ。
「‥‥後は頼む」
彼の主張を容れて、走り去る剣一郎。
戦場へ到達した剣一郎は、すかさず攻撃に踏み切った。
「クロムイエロー・シャイニングザンバーっ!」
猛撃を発動した状態で、繰り出される両断剣・絶。
これだけには留まらず、猛撃の効果が切れる前に、彼はさらなる連続攻撃を仕掛けていた。
「クロムイエロー・シャイニングライザー!」
懐に飛び込むなり、上に向けた天地撃でデガスキメラを天井へ焚きつける。
それを追うように、すかさず剣一郎が跳躍する。
「アーンド、フォールダウンっ!!」
今度の天地撃は下に向けられ、デガスキメラの体が床面でバウンドする。
「さてと、スーツの残り時間も少ないんだ手っ取り早く行くよ、お前達!」
檄を飛ばしながら、シェリーは皆と共にデガスキメラへの攻撃を激化させる。
UNKNOWNが欠け、奇しくも七人となった彼等の攻撃。
フィクションのような合体技ではなく、縦横に襲いかかる七色の戦士達が繰り出すコンビネーション。
反撃を試みた巨大な歯も、ソウマの自身障壁を使ったランプブラック・ガードに阻まれて届いていない。
「僕を傷つけるには、威力が足りませんね」
警戒するどころか、当人は鼻で笑っている。
攻撃に加わりながら、インスピレーションを受けたシェリーがこの連携技に名前を付けた。
「レインボー・パニッシャー!」
満身創痍となったデガスキメラの首筋を、レベッカの雲隠が走り抜けて大量の血しぶきを上げた。
倒れたネズミデガスキメラが絶命した証拠として、周囲を覆っていたウィルスもまた消滅する。
「これでワクチンも確保出来そうだな」
工場内から死骸を運び出した剣一郎達を、マルコが出迎える。
「お疲れ様。小型のキメラ達だけならスーツ無しでも戦えるし、島のあちこちに散っているネズミ狩りは、他の傭兵達に任せよう」
無数のネズミキメラを彼等だけに任せるのはさすがに無茶だろう。
「終わったようだな‥‥」
どっから取りだしたのか煙草を吹かせながら、UNKNOWNが合流する。
時間切れでスーツが解除されており、彼等は一様に下着姿となっていた。
「疲れているところ悪いが、車内で着替えてくれ。事後報告なんかも残っているしな」
こうして、ナナレンジャー達は『現実』においてもデガスキメラを撃退し、世界の平和を守ったのであった。