タイトル:宇宙人襲来マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/10 07:07

●オープニング本文


 星を眺めるのが趣味という星田さん(48歳・男)が第一発見者だった。

 空気が澄んでおり、明かりが乏しい事から、天体観測に向いている山へ向かった彼は、頂上近くにある自然公園の駐車スペースで車を下りた。

 芝生に腰を下ろして、さえぎる雲のない夜空を堪能した彼が、車に戻ろうとした時のことだ。

 第一印象はタコだったという。

 全高2m。肌の色は茹で上がったような赤。50cmほどの頭だか腹部の難しい球形の体から、6本の脚が伸びていた。

 古典とも言える初期のSFに登場する火星人に似た生物に遭遇したのだ。



「‥‥そもそも、バグアだって宇宙人なのよねぇ」

 思わず述懐してしまうのは、オペレーターの榊しのぶ。

 バグアが襲来したのは、すでに20年近く前の事だ。

 もはや、バグアが存在する状況が当たり前であり、宇宙から来たという意識が薄れるのも無理はない。

「きっと、キメラに違いないわ」

 根拠の乏しい主張に、傭兵達は些か懐疑的だ。

「それなら、本当に火星人だと思うの?」

 そう問われると、さすがに彼等も肯定しづらい。

 仮に火星人が存在していたとしても、地球人の想像通りの姿をしているとは限らないのだから。

「その火星人キメラについてわかっている事なんだけど‥‥」

 わかっている事を四つばかり上げていく。

・星田さんが確認したのは3体だけ。

・星田さんを襲おうとしたらしいが、足は遅く追いつけなかった。

・逃げようとしたら、手から光線を出して攻撃してきた。ただし、星田さんが逃亡できた事を考えると威嚇の可能性が高い。

・昼の目撃例がないため、おそらく夜行性。

「依頼したいのはキメラ退治なんだけど、全部で何体いるか不明なのよ。あなた達の手で、見つけ出すことも仕事の内だから」

 そして、最後にもう一つ。と彼女は付け足した。

「星空が綺麗なだけに、デートスポットとして使う人間がいるらしいの。一般人に被害者を出さないように気をつけてね」

●参加者一覧

水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
天羽・夕貴(gb4285
22歳・♀・FC
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
アンナ・グリム(gb6136
15歳・♀・DF
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF
日向江 真輝(gb6538
22歳・♂・EL

●リプレイ本文

●昼の部

「自然公園にですか?」
 窓口の女性に問い返されて、日向江 真輝(gb6538)が頷いた。
「ええ。キメラの被害が出ないように、今夜だけ出入りができないように規制して欲しいんですよ」
「規制はできると思います」
 自然公園への入り口は国道から枝分かれしているため、その三叉路を固めるだけで済むらしい。
「ですが、私達警察ではキメラに対処できないんです」
 女性が申し訳なさそうな口調で告げた。
「そっちは任せてください。俺達はULTから依頼を受けた傭兵ですから」

 その自然公園。
「良い公園ですね。こんなところに火星人が侵略‥‥いえ、キメラがいるなんて」
 浅川 聖次(gb4658)が草地の広場を見てつぶやいた。野球ぐらいなら充分にできる広さだ。
「どんな姿なのかちょっと期待してるんです。幼い頃持っていたイメージ通りの姿だったら、少し感動するかもしれません」
 いつも冷静な彼が、今回ばかりは子供のように目を輝かせている。
「古式ゆかしい火星人といった風情ですか‥‥」
 水無月 春奈(gb4000)が珍しいキメラに戸惑いを見せる。天羽・夕貴(gb4285)も同感のようだ。
「う〜ん。今回の宇宙人騒動はキメラなのかしら。キメラにしてはお粗末な感じがするし」
「夕貴さんは本物だと思います?」
「火星人が実在したとしてもタコ型なんて陳腐な格好はしてないでしょうし。やっぱりキメラ‥‥なんですよね」
 彼女はそう結論づけた。
「それにしても、宇宙人が宇宙人のキメラなんて。バグアはどんな気持ちで作ったのかしら?」
 苦笑を漏らしたアンナ・グリム(gb6136)はひとり日傘を差している。
 彼女の綺麗な白い肌は、こんな気づかいによって保たれているのだろう。
「日のあるうちに見て回らへん? 運が良ければキメラを発見できるかもしれへんし」
 冴木氷狩(gb6236)に促されて、5人は自然公園内を探索し始めた。
 全体的に起伏の少ない平らな土地で、身を潜めるような草むらは近くになさそうだ。
 夕貴が街で耳にした噂によると、日中の目撃事例はないらしい。彼等はその事実を自分たち自身で確認した。
 昼の作業は地形の把握にとどめ、キメラ退治そのものは夜へ持ち越しとなった。

●夜の部

 太陽が傾き沈んでいく黄昏空を、春奈は広場で眺めていた。
 夜のとばりが下りるに従って、少しずつ星の輝きが増えていく。
「今の時期は何が見えるのかしら‥‥」
 楽しげに星を見上げるが、彼女の目的が天体観測のはずもない。
「囮になるとはいえ、どうせ時間までは暇なのですから天体観測を楽しみましょうか‥‥」
 目撃例が少なくキメラの出没条件が不明確なため、彼女はできるだけ襲われやすいように心がけていた。
 この場にいるのは彼女ひとり。その上、ドラグーンでありながら、彼女はバハムートを駐車場に残し生身を晒していた。
 時々、ランタンを灯して、遠目にも自分の存在がわかるように彼女はアピールしている。
「さてさて、敵が出てくるのはいつになることでしょう‥‥」
 こちらが不意打ちを受けて倒されては問題なので、仲間への定期連絡も欠かさず行っておく。
 夕貴との通信中に他の声が割り込んだ。
『こちら、アンナ。どうやら一般人が潜り込んだみたい』

 そのカップルはのほほんと自然公園の入口に姿を見せた。
「‥‥まったく、何のための規制よ」
 ぼやきながらアンナが近づくと、驚いたふたりが身を竦ませる。
「入口は警察が警備していたはずだけど?」
「え? 俺達西側の小径通ってきたから気づかなかったな‥‥。何、事件でもあったの?」
 好奇心を露わに尋ねられて、アンナが正直に告げる。
「キメラが出没しているのよ。あなた達は今のうちに帰りなさい。‥‥気持ちは分からなくも無いけど」
 ボソリと本音がこぼれたが、カップルはそれどころではない。
「キメラが出るのか、ここに?」
「キメラが出るのよ。ここに」
 噂を耳にしていないという事は、彼等はここらに住んでいる人間ではなさそうだ。
(「知っていれば、さすがにここへは来ないでしょうしね」)

 駐車場近辺ではおのおの物陰に身を潜めて、キメラの出現を待ちかねていた。
 とは言え、アスファルト舗装しただけの駐車場には設備らしい物がほとんどない。せいぜい街灯と自動販売機が点在しているぐらいだ。
 聖次と真輝はその自動販売機の裏に潜んでいた。
「真輝さんは、どうして僕と一緒にいるんです?」
「連絡用のトランシーバーを持ってなくてね。囮の春奈も心配だから、状況は把握しておきたいんだ」
 ちなみに、昼の間はその春奈と一緒に行動していた。
 迷子になるのが心配とは言えずに、キメラとの遭遇に備えて単独行動を避けようと説明していたが。
「氷狩も同じ考えじゃないか?」
 彼と同じく自前のトランシーバーを持っていない氷狩は、夕貴と並んで小さな茂みの陰に隠れている。

 かさりと小さな草を踏む音を聞いて、春奈がそちらに視線を向ける。
 星明かりだけでは明確な姿形は判別できないが、事前情報の通り火星人らしい姿だった。
 端的に言えば、人間大のタコである。6本の脚で体を支えているため、いささか不安定に感じられた。
「‥‥少し困りましたね」
 出現したのは1体だけなのだ。
 このまま、他の2体が出現するのを待つか?
 それとも、ここで戦って残りを誘い出すか?
 彼女としても選択に迷うところだ。
 光線による威嚇を受けて、彼女はプリトウェンで体をかばいながら、少しずつ駐車場に向けて移動を始めた。
「運が良ければ、駐車場へつくまでに他のキメラも姿を現すでしょう」
 春奈としては、そこに期待するしかない。
 彼女はトランシーバー越しに仲間への連絡を入れる。
「お客さんを誘導しますから歓迎の準備をお願いします」

「数が足りないですね」
「そうどすなぁ」
 夕貴と氷狩のかすかなつぶやき。
 駐車場へ姿を見せたのは、春奈と、それを追いかける2体のキメラだ。
 新たなキメラを加えて2体がかりで脚を狙われながら、春奈はようやくここまで辿り着いた。辛うじて怪我も軽傷で済んでいる。
 氷狩が戦いに備えて長い髪を後ろで束ねた。
「ほな、気張っていきましょか」
 開始のタイミングを計るために、ふたりが聖次達へ視線を向ける。
 そこへ、アンナから再び通信が入った。
『こっちにも出たわ。誰か応援を頼めるかしら?』

●地球防衛線

 キメラの脚が遅いため、ずいぶんと手間取ったものの、春奈は駐車場までの誘導に成功した。
 ようやく、駐車場の中央まで引きつけた所で、仲間達が動き出した。
 真っ先に飛び出したのは、前衛を任されている氷狩だった。同じく前衛のアンナがいない分、彼の果たすべき責任が重くなっていた。
 キメラの注意を引くために、正面から両断剣で斬りつける。
 光線を喰らいつつも、今度は流し斬り。
 もう1体に関しては、中距離の間合いを保ちながら、真輝が拳銃で牽制していた。
 待ち伏せのためにミカエルのエンジンを切っていた聖次が、遅れて参戦する。
 彼は側面に回り込むと、パイルスピアを振って斬りつけていた。
 キメラが何度か光線を撃ち込むものの、聖次の抵抗力に防がれて非常に効果が薄かった。
 春奈もまた、相棒であるバハムートを起動させて装着する。
 竜の血を発動させると、キメラの誘導中に負った傷が回復し始めた。

 一般人のふたりをかばっているアンナは、ほとんど身動きが取れずにいる。彼等の震える脚では、満足に逃げ切る事はできそうになかった。
「面白い見た目だけど、容赦しないわ」
 キメラの伸ばした腕めがけて、引き抜いた剣で流し斬りする。
 柔らかな体が切れ味を鈍らせ、斬り損ねた2本の腕がアンナにしがみつく。
「くっ‥‥」
 左腕に刺すような痛みを感じ、彼女はキメラに血を吸われた事を知った。このキメラは生き血を好むのだろう。
 そこへ応援に駆けつけたのが夕貴だった。
「アンナさん!」
 獲物へ集中して隙だらけのキメラに、夕貴は側面からショルダータックル。気味の悪いぐんにゃりとした感触があるものの、そこは我慢だ。
 キメラの体勢が崩れているところへ、夕貴は円閃で追撃する。
「この後に予定があるから、時間掛けたくないのよねっ!」
 アンナは両断剣を駆使して、スパイラルレイピアをキメラへ突き刺した。組み込まれている回転機構によって刀身が傷口を抉る。
 キメラの腕が持ち上がったのに気づいて、アンナと夕貴は慌てて身を翻す。寸前で光線の回避に成功した。
 キメラの両側でふたりの女性が同時に舞った。
 アンナの流し斬りが右の腕を、夕貴の円閃が左の腕を、それぞれ切り飛した。
 強力な武器を失ったキメラは、ふたりの攻撃を受けてこの場で絶命する事となる。

「さてさて‥‥逃げるのにも飽きましたし、そろそろ本気でお相手しましょうか」
 春奈は氷狩が一人で抑えていたキメラへ向かった。
 ラジエルの光る刀身が、キメラの頭部に突き立てられる。
 先ほどまでの鬱憤を晴らすかのような春奈の猛攻。
 一気に畳み込むべく、氷狩もヴィアで斬りつける。
 自分に向けられた腕を、氷狩は側面に回り込んでかわし、一連の動作のまま流し斬りに移行する。
 切り裂かれた頭部から血が噴出した。
 春奈は竜の鱗を使用すると、盾で腕を弾くと同時に、至近距離へ踏み込んでいた。
 真っ向から振り下ろした剣が、キメラの頭部を真っ二つに断ち割った。
 残る1体には、真輝の援護射撃の元、聖次が挑んでいる。
 彼は援護を中心に戦う予定だったが、状況がそれを許さなかった。
 ふたりとも傷を受けていたが、キメラの方も大部弱っている。
 一気に間合いを詰めた聖次がとどめの一撃を放つ。
「さようなら、火星人さん」
 パイルスピアに貫かれてキメラは動かなくなった。
 そこへ入った夕貴の連絡が入って、3体目も無事に始末できた事がわかる。
「これで‥‥終わりか?」
 ぞんざいな口調だったが、その声は間違いなく氷狩のものだ。覚醒中は性格が変わるらしい。
「結構、傷を負ってるな。俺が治すよ」
 真輝の申し出に氷狩が頷く。
「悪いな」
 真輝は救急セットを取り出し、傷の手当を始めた。
「危ないっ!」
 警戒していた聖次は真っ先に気づいたが、仲間達まではかばえなかった。
 回避できずに光線を浴びたのは、春奈と真輝だ。
 振り向いた傭兵達は、林の中から新たな2体が出現したのを目にする。
「まだいたなんて‥‥」
 火星人型キメラは3体だけではなかったのだ。
 悔しそうな春奈の声。
 そこへ、銃声と風斬音が聞こえたかと思うと、いきなり1体のキメラが傷を負った。キメラを攻撃したのは、一つがフリージアの射出した弾丸であり、一つはソニックブームによる衝撃波であった。
「遅かったかしら?」
 アンナが余裕の笑みを浮かべて立っていた。傍らには夕貴の姿もある。
「いいえ。ちょうどいいタイミングですよ」
 聖次の歓迎を受けて、夕貴が銃を構え直した。
「それなら、このまま倒してしまいましょう。おそらく、あれが最後だと思いますから」

 3体1という戦力比によって、傭兵達は危なげなくキメラを掃討する事に成功した。

●星空の下

 皆の受けた傷は、真輝が所持していた救急セットで治療した。
 さっきの件もあって治療中も警戒していたが、さらなる新手は出現しなかった。
「さすがに、もう来ないようですね」
「それなら安心やわ」
 聖次の言葉に、氷狩が安堵の息を漏らす。
「これで、静かに星を眺める事ができそうです」
 星空を見上げて嬉しそうな春奈。
「星空が綺麗なデートスポット、ね」
 オペレーターの言っていた情報を、アンナが実感する。
 彼女は依頼ついでに‥‥いや、彼女はデートスポットの下見を目的に今回の依頼を受けたのだ。
 昼の探索時に知ったのだが、ちょっと奥まった所にはボートを浮かべた池もあったし、林の中は静かで雰囲気も良さそうだ。
「本当に綺麗。いつか、あの人と来たいわね」
 脳裏に相手の顔を思い描くと、アンナの顔には自然と微笑みが浮かんでくる。
「あの宇宙人はやはりキメラでしたね」
 夕貴がつぶやいたのは、戦闘中にキメラのフォースフィールドを確認したからだ。
「残念かい?」
 相手の口調から真意を察して真輝が尋ねた。
「‥‥ええ。少しだけ」
「バグアがいるんだから、きっと他にもいるさ」
 その推測に聖次も同調した。
「そうですね。バグアがこれまでにも侵略行為を繰り返してきたのなら、他にも被害を受けた星があったのかもしれません」
 知的生命体と初めて遭遇した時に、コミュニケーションを図ろうともせず、一方的に攻撃するとは考えづらい。多種族に対して攻撃するのがバグアの基本方針と考える方が自然だろう。
「そやったら、バグアを倒せば宇宙は平和になるんやろか?」
 氷狩の口にした小さくて大きな疑問。
「そりゃあ、なるだろ。これ以上悪さができないように叩きのめしてやればな」
 達成できた時の事を考え、思わず真輝が笑顔をこぼした。
 バグアを倒すという事は、地球という星の命運に限らず、未来において『襲われたかも知れない星』を守ることでもあるのだ。
 バグアの渡ってきた星空を見上げて聖次がつぶやく。
「きっと、やり遂げましょう。私達の手で‥‥」