●リプレイ本文
●春日の亡霊
とある依頼で乙女隊駐屯基地を訪れていた8名の傭兵たち。
乙女隊が近いうちに宇宙へ上がることが説明された。
***
KVハンガー(格納庫)。
ノエル・アレノア(
ga0237)は愛機に語り掛ける。
(宇宙か‥‥キミはこのままだと行けないけど、キミの名を継ぐ機体が現れれば喜んで迎えたいかな‥‥)
「‥‥はっ」
恋人のティリア=シルフィード(
gb4903)が近くにいることに気付いた。
(乙女隊の皆さんも宇宙へ上がる‥‥ボクたちもそろそろ本格的に宇宙での戦いを考えなければいけないのかも)
しかしティリアは考え込んでいる様子。そのとき――
突然警報が鳴り響いた。‥‥バグアの襲撃。
出撃準備が整っていないので傭兵達や乙女隊の機体は、すぐには出られない。
基地の即応部隊、8機のシラヌイD型(軍向けの改良型)が出撃をし、足止めにかかる。
「敵の奇襲!? ‥‥僕も、少しでもお力添え出来ればと思います。出撃させてください」
「ボクも出撃させてください! 基地を守りたいんです!」
「もちろんだ。傭兵にも出てもらうよう要請が来ている。少し待ってくれ。今はブリーフィングルームへ行け。状況の説明があるだろう」
整備班長から指示。
***
ブリーフィングルーム。
待機中の傭兵たち。即応部隊から送られてくる映像をモニターする。
映像では多数の陸戦型HW、そして先陣を切るタロス数機と継ぎ接ぎのティターンが、防衛部隊のM1戦車を次々と蹂躙していた。
旧式のS−01改などのKVも同様に圧倒されている。
入室してきた片瀬・歩美少佐より説明。
阿蘇山中より出現したバグア部隊が当基地へ向けて進攻中。
映像を見れば解るように残党とは言え人型の機体は相当の精鋭のようであり、ティターンまで混じっている。
防衛線は次々に突破され、もう基地の手前まで迫っていた。
そこに先ほどのシラヌイ小隊が迎撃へ出る様子が映し出される。
激しい攻撃に晒される中、回避と防御に徹する即応部隊。
それに追いすがり、1機の腕を赤く加熱した長剣で切断する継ぎ接ぎのティターン。
「あの状態のティターンであんな動きをするとは‥‥腕利きが乗っているな‥‥」
風間・夕姫(
ga8525)が言った。
「群青色のティターン‥‥牙城・このえが乗っていた強化型タロスに似ている‥‥」
ティリアは思う。過去に読んだ報告書には、バグア指揮官、牙城・このえは春日基地決戦ではティターンに搭乗していた、と記述されていた覚えがある。
「あのティターンは春日基地で戦った機体‥‥? でも、あの時のパイロットは確かに倒した筈」
「えぇっ!?」
遠倉 雨音(
gb0338)の言葉にティリアが反応。
「まさか、このえが生きていたなんてことは‥‥ううん、今はとにかく迎撃しないと‥‥!」
「落ち着いてください。よく見れば機体も完全な状態ではないようですし‥‥あれに乗っているのは、あの戦いの生き残りかもしれません」
ティリアの肩に手を乗せる雨音。
(――もしそうであるならば。あれの乗り手を倒した場に居合わせた者の一人として、この場で決着をつけなければ。宇宙に赴く乙女隊の方々の為にも)
百瀬 香澄(
ga4089)――
「あの青いティターン‥‥牙城、奴の置き土産か。‥‥ったく。ちょっと戦好きが過ぎるんじゃないのか、あいつら」
(まぁでも、今度こそケリつけないとな)
「美咲達のソラへの旅立ち、宇宙人に邪魔はさせはしないからな」
夏目 リョウ(
gb2267)は美咲と並んで画面を見ていた。
「敵もしつこいな‥‥だが、美咲達にこれ以上のちょっかいは出させないぜ」
ファリス(
gb9339)はα−02部隊の4名に挨拶。
「お久しぶりなの。ファリスも一生懸命頑張るから、姉様達も一緒に頑張ってバグアを追い払うの」
魔津度 狂津輝(
gc0914)――
「奇襲をしたつもりだろうが、そうはいかんぜ。ヒャッハー。しかしまだ出られねぇのか」
そこでリョウが呼び出された。機体にトラブルがあったとのこと。美咲と共にKVハンガーへ。
***
リョウの機体、リヴァイアサン改『蒼炎』に搭載されている兵装4つのうち半分、2つの兵装が宇宙用SES搭載武器であった。
だが――リョウの機体は宇宙用フレーム、あるいは宇宙用キットを装備していなかった。
大気圏内用‥‥すなわち宇宙未対応の機体が宇宙用SES搭載武器を使用するためには、地上であっても宇宙用フレーム(キット)が必要である。
それをリョウは失念していた。このままでも一応戦闘は可能だが、運の悪いことに主力と言える武器2つが宇宙用‥‥。
残り2つの兵装のみでは、とてもあの敵精鋭部隊に対応出来るとは思えない。‥‥リョウは決断をする。
「すみません。俺のミスです。宇宙用フレームを貸してください。そしてアクセサリの換装をお願いします」
リョウは頭を下げる。整備班長は「わかったが時間が必要だ。他の機体よりも出撃が遅れるぞ」と言った。
‥‥表情を歪め、悔しそうに唇を噛むリョウ。この状況‥‥1機でも欠ければ大きな戦力低下になる。自分のミスのせいで‥‥。
「誰だってミスはするよ! この状況だから気にしないでとは言わないけど、今後は気を付けて。‥‥リョウくんが来るまで、持ちこたえてみせるから!」
美咲はその大き目の胸を張る。
「すまない美咲、頼んだ」
***
リョウ機以外の出撃準備が完了。乙女隊と共に出撃。
ノエルの機体はディアブロ改『ゼロ』。
「彼女達にとって、地上で最後の戦いになるかもしれないなら、負けるわけにはいきませんよね」
夕姫の機体はシラヌイS2型『陽炎』。
「さっさと片を付けようか」
雨音の機体は雷電改『黒鋼』。
(群青色の‥‥ティターン‥‥)
ティリアの機体はスピリットゴースト・ファントム『Merkabah』
(春日基地の戦いにボクは立ち会えなかった‥‥あの時のリベンジって訳じゃないけど、これも何かの巡り合わせなのかな‥‥)
ファリスの機体はサイファーE『ジークルーネ』。
「姉様たちのお家を守るの」
狂津輝の機体はラスヴィエート『暁10号』。
「ヒャッハー。ようやく出番だぜぇ」
即応部隊から「あとは任せた」との通信。敵の猛攻を受けたシラヌイD型8機は酷い損傷だった。
「了解。ここは引き受けました」
ノエルが答える。
香澄の機体はロビン改『TomLady』。
「状況開始。乙女隊、露払いは任せたよ」
乙女隊各機から「了解」との返答。
傭兵部隊は予め決めておいた通り、二手に分かれて迎撃開始。
●VSティターンリペア
継ぎ接ぎのティターンに接敵。
(‥‥どうせ向こうは玉砕覚悟だろう。どこか、あるいは最初から捨て身でかかってくると考えたほうがいい)
香澄は警戒しつつ、外部スピーカーをONにする。
「よお。なんか言うこと、あるかい?」
敵に語りかける。雨音も同様。
「ティターンのパイロット、貴女はもしや、白川・桜ではないですか?」
だが返答は無い。
「‥‥貴女が白川・桜だという仮定で話します。‥‥貴女の主に止めの一撃を見舞ったのは私ではありませんが‥‥その時間近にいた者として、お相手をしなければ失礼に当たると言うもの」
沈黙。
「――遠倉 雨音。参ります」
刀を抜き、構える雨音機。交戦開始。
香澄機はレーザーの弾幕を張りつつ、敵の得物の間合外からBCランスの突きを繰り出す。
雨音機は機刀による接近戦を主体に立ち回る。相手の剣は盾で受け流す。暗器――電磁鞭や練剣などへの警戒も怠らない。
‥‥ティターンは実に堅実な戦い方だった。ゆえに、中々致命傷を与えることが出来ない‥‥。
●VSタロス
他の傭兵はタロス5機と接敵。
ノエルはティリアへ通信。
「ティリアさん、気を付けて。もし万が一があれば、すぐに、傍に駆けつけますから」
「了解です。支援は任せてください」
との返答。直後、タロスと交戦開始。
前衛を担当するノエル機。双機刀やキャノン、マシンガンを用いて戦闘を行う。
敵は手強かった。剣捌きで打ち負けてしまう。
(このタロス‥‥有人機? しかもこの動き‥‥相当な手練れ。でも‥‥臆したりしないっ! それに捨て身の攻撃だって考えられるし、絶対油断ならない‥‥)
自爆を警戒しつつ、砲撃と弾幕。そののちに接近し、斬撃を喰らわせる。
夕姫機――
「悪いがこっから先は一方通行だ」
機刀を抜き放つ。敵のブレードと激しく打ち合う。
「なんだ、この後先考えてない様な戦い方は‥‥」
猪突猛進。
「ちっ、こいつら生きて帰る気がないのか」
敵は多少の損傷は気にせずに肉薄してくる。
「死兵になった奴ほど厄介なものは無い‥‥くっ!」
一旦距離を取り、レーザーガンで射撃して牽制。
ティリア機――
(ノエルさんの背中は、ボクが守る‥‥そう簡単にやらせるもんかッ!)
後衛より火力支援を行う。バルカン、キャノン、ライフルによる旺盛な砲火。
特に、他の機体より前へ出て戦うノエル機への支援を重点的に行う。
しかし、敵は同数。1機が肉薄してきた。即座に双機刀に兵装切り替え。
敵の斬撃を受け止める。
「接近戦も、出来ないわけじゃない!」
ファリス機――
ガトリング砲の弾幕より敵機を足止め。
また、弾幕に濃淡を付けることで一部を突出させることを狙い、分断を図る。
距離が狭まれば、チェーンガンに切り替え。集中的に砲撃し、敵機の装甲を削る。
‥‥敵機との距離がじりじりと縮まった。敵機がブレードによる突きを繰り出してきた。
それを盾でいなすファリス機。その隙に間合いを取り、槍での反撃に移る。
「槍を使っての戦闘では負けないの! 槍が近接戦闘で最優の兵装だと言うことを証明するの!」
穂先が敵機の装甲を貫いた。体液のようなものが滴る。
狂津輝機――
左手に盾、右手にライフルを持ち、構える。
「よーく狙って‥‥そらよ」
射撃。次に機関砲に切り替えて砲撃。
「痛てぇか痛てぇか痛てぇかよ。再生する時間なんてやらねぇぜ」
敵機は砲撃を盾で受けつつ距離を縮めてくる。
踏み込みと共にブレードの斬撃が狂津輝機を襲う。モジュール装甲が両断された。
「っ! いいじゃねぇか。戦闘は楽しむことが大事だな。ヒャッハー」
兵装をトマホークに切り替え。盾で敵の斬撃を受けながら、近接戦に移行。
先の砲撃で傷ついた部位を集中的に狙っていく。
●次の戦場へ
白川・桜の駆るティターンに苦戦する香澄と雨音――。
雨音機が蹴り飛ばされ、転倒。
その隙にティターンは香澄機へブレードを向け、突進。
「――!?」
「やらせるかぁ!」
ブーストを噴かしたリョウ機が現れる。
「アクティブアーマー展開! 受け流せっ!!」
香澄機への攻撃、ブレードの切っ先を可動式アーマーで受け流す。
アーマーの表面が高熱によって焼き抉られ、武骨な傷が刻まれた。
「遅れてすまない」
「いや、助かったよ」
一旦距離を取り、レーザーを放つ香澄機。
「ヒーローは遅れて来ると言いますが‥‥っ! とにかく、今は応戦を」
機刀でティターンと打ち合う雨音機。
「了解。本当にすまなかった」
「リョウくん! 大丈夫なの?」
陸戦型HWと交戦中の美咲機より通信。
アクセサリの1つを宇宙用フレームに換装したリョウ機はその負荷により性能が低下している。
「大丈夫、約束しただろ? もう無茶はしないさ。――だがっ、蒼炎と共に限界は超えて見せる!」
雨音機が盾になりつつ、香澄機とリョウ機が側面から攻撃。
「青いティターン、あの時確かにあいつは死んだはず‥‥。お前はいったい、誰なんだっ!」
「呼びかけてみても返答は無かったんだが、オンボロティターンに乗ってるのは恐らく‥‥牙城・このえの部下だった奴だ」
「なんだって!? 生き残りがいたのか!」
「そのようだ。‥‥こいつらは、亡霊だよ」
憂いを秘めた香澄の声。
ライフルとレーザーで牽制しつつ、3機で包囲するようにティターンへ攻撃。
リョウ機、香澄機は遠倉機の堅牢な防御を頼りにしつつ、連携を図る。
飛んでくるプロトン砲。リョウ機は極力回避しようとするが狙いが正確で装甲のあちこちを融解させられてしまう‥‥。
物理攻撃――ブレードによる斬撃や突きは先ほどと同じようにアーマーで受け流す。
敵の攻撃をよく観察し、損害をなるべく減らしつつ、交戦。
ライフルで弾幕を張って牽制したのち、ティターンの機体の継ぎ接ぎ部分を狙い、機剣で斬撃。
「どうして、そこまでして戦うんだっ!」
返答は無い。
「上官の想いを、継いだとでも――言うのか!」
返答は無い。
「答える気は無いか‥‥なら!」
至近状態から、リョウ機が頭部からレーザーを放つ。
予想していなかった部位からの攻撃にティターンは一瞬たじろぐ。
「百瀬、今だっ!」
香澄機は行動でもって答えた。マイクロブースターを使用。試作剣『雪村』で斬撃を放つ。
リョウ機も香澄機の動きに合わせ、エンヴィー・クロックとシステム・インヴィディアを起動。香澄機の太刀筋と交差するように機剣を振るう。
「宇宙へ駆け上がる想いを乗せて、輝け蒼き燐光! スーパーカンパリオン! クロスエンド!」
それと同時に、ティターンは赤く発光。手の甲から練剣を発生させ、一閃させた――。
「生き残ってりゃ‥‥勝ちだ」
敵の練剣により半身を切断された香澄機が跪いている。だがコクピットは無事だった。
数秒間を置き、大きな斬痕が刻まれたティターンは爆散した。跡形もなく。バラバラの破片となって。周辺に散らばる。
今度こそ‥‥パイロットも死亡したはずだ。
傭兵のKV5機と交戦していたタロスも撃破後、自爆を確認。
ほどなく乙女隊が陸戦型HW群を殲滅し、基地は無事防衛された――。
***
基地に帰還後、乙女隊の隊員と話す夕姫。
「ほぅ、宇宙に上がるのか。と、言う事はこれからは気軽に地上の美味いもの食べたり、欲しい物を手に入れたりし辛くなるって事か」
黒のレザーの美女はにやりと笑った。
「はっはっは、その点こっちは傭兵なんでね。地上や宇宙への行き来は自由な方さ」
少女たちから「羨ましいー!」との声が上がる。
――これからソラへ飛翔する乙女たち。そこでは何が待ち受けているのだろうか。