●リプレイ本文
●ブリーフィング
移動中のトラックの中――
傭兵達と、α−01部隊‥通称乙女分隊の面々は作戦の確認や雑談をしていた。
「女の子だけの部隊か、凄く格好いいね。ボク、みんなの事しっかり応援しちゃうから!」
青く澄んだ瞳をキラキラ輝かせているのは潮彩 ろまん(
ga3425)。
「えっとね、話しておきたい事があるんだ。ボク、この前の依頼で宇宙昆虫工場の場所の情報を見つけたんだけど‥ひょっとしたら今回も、あの時戦った強い宇宙昆虫がいるかもしれないし‥後、あの時の嫌な昆虫博士が何か悪巧みしてるかも知れないから、美咲隊長さん、α−01部隊の皆、充分気を付けてね」
ろまんは前回の依頼で見聞きした事を話し、最後にびしっと敬礼して見せた。
「‥あ、ありがとう。ろまんちゃん」
真剣さは伝わってくるのだが‥‥ろまん流の表現が多分に含まれており、非常に解り難い。乙女分隊の隊長、早乙女・美咲(gz0215)は苦笑しながら敬礼を返す。
――ろまんの話を要約というか翻訳すると、タイラントビートルというフォースフィールドを強化され、その上非物理攻撃にまでそこそこの耐性を持つ巨大な虫型キメラと戦った事。そしてそれを造り出し、村人を攫って虫型キメラの研究をしていた親バグア派、もしくは強化人間らしき人物がいたという事の二点であった。
「虫キメラ‥と言えば、種類は違いましたが、去年の末に熊本の辺りで戦いましたね。あの時のキメラも、何処かの培養施設で作られたモノなのでしょうか‥? 何れにせよ、潰せるものはきっちりと潰しておかなければ」
貸与された地図を見ながら最終確認を行っていた遠倉 雨音(
gb0338)が呟いた。
「よう、久しぶりだな」
セージ(
ga3997)が美咲に向かって右手を差し出す。
「うん、今回もよろしくね」
美咲はそれを握り、微笑んだ。セージは昨年末の乙女分隊の救出依頼に参加しており、顔見知りだった。それに美咲はセージに恩義を感じていて、頼れる兄貴分と認識しているようだ。
「弾丸は兎も角、銃はちゃんと返すように。お兄さんは凄い貧乏なんだ。‥‥しっかりな」
軍曹というあだ名が似合いそうな赤髪の青年、夜十字・信人(
ga8235)がフォルトゥナ・マヨールーに貫通弾を込め、乙女分隊のメンバーである舞浜・ちずるに手渡した。彼女はちみっこくか弱そうなため護身用に、だ。
「ありがとうございますっ」
ちずるはニッコリ笑う。仏頂面のまま無言で頭を撫でてやる信人。
「貴女方が『α−01部隊』ですか‥‥凛々しいものですねぇ。全く‥こんな状態で参加してしまうとは、御迷惑をおかけしますよ」
恰幅の良い男性が口を開いた。ヨネモトタケシ(
gb0843)だ。彼は負傷していたが、愛する祖国を守る為の戦いに強い想いを抱き、参加した旨を伝える。
「乙女分隊の実力‥楽しみにしてるよ?」
蒼河 拓人(
gb2873)が不敵に笑う。今回、現地での詳細な作戦を纏めたのは彼である。乙女分隊の成長振りを試すつもりらしい。
(「これを成功させれば名誉挽回ですね。‥それがいいのか悪いのかは判りませんけど‥乙女分隊が優秀だと評価されたら危険な任務も多くなるでしょうし‥」)
そう、考え込んでいる少女はリリィ・スノー(
gb2996)。依頼を達成するのは良いが、それでは乙女分隊が更に危険な戦場へ投入されるのではないかという不安もある。‥しかし彼女はぶんぶんと首を振って「とにかく、頑張りましょう」と言った。
「わかってる。この作戦を成功させないと‥私達は解散させられちゃうかもしれない‥だから、何が何でも‥」
拳を握り締める美咲。他のメンバーも同様に思いつめた表情だ。
「‥名誉挽回だとか、汚名返上だとか。そういった気負いは視野を狭め、己を見失わせます。仲間を信じて、自分に出来ることを過不足なく。そうすれば、自ずと結果はついてきます――ご武運を」
そんな乙女分隊を雨音が諭し、励ました。
「あたしは雪代 蛍よろしく。初めて見たよ、軍にもこんな部隊有ったんだ」
そんな重苦しい空気の中、雪代 蛍(
gb3625)が明るく挨拶した。
「判ってると思うけどお姉ちゃん達さ、しくじらないでよ。あたし達のしたことまで意味なくなっちゃうんだからさ」
生意気な口を利く蛍。美咲は少しむっとした表情を浮かべる。
「だから‥この作戦は絶対に成功させてよ。約束だからね」
しかし、すぐにそれがただの憎まれ口でない事が解る。彼女なりに考えての発言だった。
そのとき――
トラックが停車した。作戦区域に到着したのだ。
「それじゃ、行ってくるね」
先に荷台を降りる蛍。こうして、乙女分隊の命運をかけた戦いが始まった。
●釣り野伏せ
トラックを降りた傭兵達と乙女分隊は直ちに行動を開始。打ち合わせ通り各自配置につく。
傭兵達が考えた作戦は、プラントの入り口から西側の開けた場所に陽動ポイントを設定、ABの二班分れA班が敵を引き付け、B班は陽動ポイントに待機し引き寄せられた敵を挟撃するというものである。ちなみに乙女分隊はプラントの入り口から東側の可能な限り離れた位置で待機中。
A班はろまん、セージ、雨音、リリィ。B班は信人、ヨネモト、拓人、蛍という構成だ。
森の中を駆けるA班。そしてそれに追随する拓人と蛍。
――しばらくして森を抜けると、洞窟の入り口が見えた。茂みに伏せる6人。
「さて、敵さんは‥」
セージは双眼鏡で様子を窺う。
「ちっ、うじゃうじゃ居やがる」
入り口周辺はビートルだらけであった。数を確認するのも面倒なほどに。
「さすがにプラントだけあって数が多いですね‥」
リリィが言う。遠目からでも犇き蠢くものが確認できる。
「それでは、いきます!」
雨音が照明銃を真上に向かって打ち上げる。眩い閃光。
ビートルの群れが一斉にこちらを向いた。
「かかった!」
セージが乙女桜を抜いて躍り出る。
ビートルの群れがそれに反応し大挙して押し寄せてきた。
「せいっ! やあっ!」
手近な一匹を斬りつけ、返しの刃でトドメを刺す。
ろまんも月詠を煌かせる。AU−KVリンドヴルムを装着した蛍もそれに続いた。
蛍は真っ先に飛び出すつもりであったが、薙刀を忘れてきてしまい、仕方なく巨大ぴこぴこハンマーを装備していた。ゆえに牽制程度にとどめておく。
(「くう、失敗したぁ‥でもやれることはやらなきゃ! ‥そういえばあたし、ビートルと戦う事が多い気がする‥何でかな? まぁいいかそんなこと。考えても時間の無駄だし」)
そしてすかさず雨音、リリィ、拓人が前衛三人の援護に入る。
エナジーライフルとエナジーガンの光条がビートルを焼き焦がし、真デヴァステイターの重い銃身から放たれた弾丸がビートルの外殻を貫いていく。
傭兵達は圧倒的な力を発揮し初撃でかなりの数を削った。しかし敵も負けじと次々に増援を呼び寄せる。数は減るどころか増大している。
大体の敵の規模を見積もった拓人は陽動ポイント入口まで全力で後退。察知されない余裕を持った位置を探す。
数分後‥‥
戦闘が続く洞窟入り口。辺りはビートルの死骸で埋め尽くされていた。だが数は衰えず尚も増え続けている。
そのとき――のそりと、今までのビートルとは明らかに違う、太く鋭い角を持った巨大な甲虫が二体、姿を現した。例えるならそれは‥巨大なヘラクレスオオカブト。
「わぁ!? やっぱりあの強いのもいた!」
声を上げるろまん。
「あれがタイラントビートルか‥」
セージはごくりと唾を飲み込んだ。ビートルとは威圧感がまるで違う。
「リリィさん!」
雨音がリリィに目配せする。
「ええ、敵の数が多くなってきました。そろそろ後退しましょう!」
「了解!」
リリィの声でA班と蛍が後退を始めた。
ろまんは簡単な罠を仕掛けようと思っていたが残念ながらそんな余裕は無さそうだ。
「テメーらの相手は俺達だ。よそ見するんじゃねぇぞ?」
セージは呼笛を鳴らしながら走る。
それに引き寄せられるようにTビートル二体を含むビートルの群れは一心不乱にA班の後を追ってくる。沢山の仲間を殺された恨み‥そんな知性がキメラにあるのかは知らないが、憎悪の様なものをピリピリと肌に感じた。
陽動ポイント――
信人は木の上に腰掛け、双眼鏡でA班がビートルの群れを連れてくる様子を悠々と眺めていた。
「虫連中との真っ向勝負。‥ふっ、ガキの頃の夏休みを思い出す」
直後、A班から無線連絡が入る。覚醒。
信人の背後に少女の幻影が浮かぶ。それは何故か麦わら帽子を被り虫取り網持っていた。
――能力者の覚醒には奇妙なものが多いが信人の場合はそれが顕著なようである。
「ヨネモトの旦那、そろそろ出番だ。準備を」
「合点承知ですよぉ」
反対側の茂みに潜んでいるヨネモトに無線連絡を入れる信人。すぐに返答が返って来た。
‥‥包帯の下の傷がしくしくと痛む。だが、逃げるわけにはいかない。いや、むしろ闘志に満ちている。祖国のために戦えるのだ‥ヨネモトは口元を緩めた。
左右に展開し身を潜めているB班の真ん中を駆け抜けていくA班。それを見た拓人は隠密潜行を使用。キメラの動きを確認。それは少し間を置いてやって来た。大群が地を揺らして進んでくる。――今だ! 全員に連絡を入れる拓人。閃光手榴弾のピンを抜き、放り投げる。信人が隠れている木の上からも閃光手榴弾が投下された。
二つの閃光手榴弾はビートルの群れのど真ん中で炸裂。凄まじい閃光が襲う。
「どっせぇええぃ!!」
光が止んだ後、夜色の軍用外套をなびかせ、天剣ラジエルを引っ提げ飛び降りる信人。
落下のエネルギーも合わせて最後尾のビートル1体をぶった斬る。
ヨネモトと拓人も飛び出す。A班も反転。一気に挟撃の態勢に入る。
「さあ、殲滅戦だ。一匹たりとも逃がしはしない」
エナジーライフルでビートルを撃ち抜きながら拓人が笑みを浮かべた。
――敵に情けなどかけない。そんな表情だった。
●漢の意地
傭兵達から陽動成功の連絡を受けた乙女分隊は洞窟に突入しようとしていた。
「皆、いくよ! 傭兵さん達が殆ど引き付けてくれたけど、まだ中には敵がいると思う。気を引き締めて!」
美咲の言葉にメンバー全員が「了解!」と答える。
再び陽動ポイント――
傭兵達とビートルの群れによる激しい戦闘が繰り広げられていた。
閃光手榴弾で怯んでいる隙に大分数を減らしたがそれでもまだ多く残っている。
「お前達の相手は、ボク達だ‥正義の刃受けてみろ、えーいっ! 波斬剣!!」
ろまんは乙女分隊の方には決して行かせまいと必死に月詠を振るう。
離れようとしているものがあれば瞬天速で回り込み、行く手を遮る。
「無神流――『暁』」
わざと隙を見せ攻撃を誘い、先手必勝を用い、カウンターを見舞うセージ。
非物理攻撃に弱いビートルは成す術も無く沈む。
信人はビートルの体当たりを避けながら小銃「ピクシー」の弾をばら撒き挑発する。
「怒ったか? 結構、付き合ってやるから何匹でも来い」
飛び掛ってくるビートル。しかし――
怯むことなく素早い動作で天剣ラジエルを横に薙いだ後、持ち上げ、振り下ろす。
十字に斬りつけられたビートルは綺麗に四分割されてしまった。
セージと信人が周りのビートルを片付けると、その後には‥‥Tビートルが悠然と佇んでいた。
同時に攻撃を仕掛ける二人。が、赤い壁の抵抗を受け、致命傷を与えられない。
角を振り回して反撃してくるTビートル。二人は咄嗟に飛び下がった。
「こいつ‥!」
「硬い‥!」
信人は振り向く。背後には、拓人の姿。
(「俺が正面から当たる。頼むぞ、相棒」)
拓人を見つめる信人の瞳が、そう語っていた。
頷く拓人。信人はセージにも「いけるか?」と問う。「もちろん」と返すセージ。
しばしの静寂――
そして、信人とセージがTビートルに向かって地を蹴った。
「無神流――『寂』」
セージの豪破斬撃による一撃。
「はぁぁぁっ!!」
両断剣による信人の一撃。
二つの攻撃を受けてTビートルの身体が一瞬揺らぐ。
「撃ち抜け、拓人!」
信人が叫んだ。
「ジョーカー‥切らせて貰うぞ」
鋭覚狙撃と影撃ち使用しアラスカ454から放たれる銃弾。
それは‥‥Tビートルの頭部を正確に撃ち抜いた。
崩れ落ちる巨大な甲虫。
「いきますよぉ」
ヨネモトはもう一体のTビートルを相手にしていた。
両手に握り締めた蛍火で甲殻の狭間を狙う。
FFの一点突破を狙った攻撃。
だが、FFは満遍なく身体を覆っているので効果は今ひとつ。
Tビートルの反撃。‥‥元々、回避タイプではない上に負傷していたヨネモトはそれを避けることは叶わなかった。
太く鋭い角が、ヨネモトの腹にめり込む。
「が、はっ!?」
意識が遠退く。しかし――
「このまま‥やられるわけにはいかないんですよ‥!」
意地でも、だ。
片手でTビートルの角を押さえたまま、両断剣を使用し、渾身の力で甲殻に蛍火を突き刺す。
たまらずヨネモトを突き放すTビートル。怒りに震え、尚も攻撃してこようとするが‥‥
「吹っ飛べ!!」
その言葉の通りTビートルの巨体は吹き飛ばされ木に叩きつけられた。
衝撃に耐えられずバキバキっと音を立ててへし折れる木。
それは、蛍が放った竜の咆哮であった。
「大丈夫?!」
呼びかけるが返答は無い。
そこへ、雨音とリリィが駆け寄ってくる。
「よくも! ‥いきますよ、リリィさん!」
「はい!」
二人は真デヴァステイター、ショットガン20にそれぞれ貫通弾を素早く装填。
「「これで、終わりですっ!」」
持てる限りのスキルを使用した全力射撃。
‥それをまともに受けたTビートルは、音を立てて地に伏した。
直後、乙女分隊からプラントの破壊に成功したという無線連絡が入る。
まだ敵は残っていたがヨネモトの状態を考え、傭兵達は撤退するのだった。
●デブリーフィング
基地へ帰還した傭兵達と乙女分隊の面々。
たった今、デブリーフィングを終えたところである。
ヨネモトは医務室に搬送されていた。傷は深いが幸い命に別状は無いという。
‥乙女分隊の処遇は、高ノ宮少佐の話では今回の功績で二線級の部隊から一線級の部隊に昇格するだろう、ということだった。
彼女らはより危険な戦場に赴くことになる。リリィの嫌な予感は的中した。
「たぶんこれから大変になるでしょうけど‥頑張ってくださいね」
不安を隠し、笑顔を作るリリィ。
「うん、絶対に‥絶対に生き残ってみせる。この国を、世界を、バグアから取り戻すまでは」
未だ頼りない美咲だが気持ちだけは確かなようだ。
「グッドジョブだ。乙女諸君。‥さて、俺は一服」
その様子を横目で見つつ、一服しようとする信人。だが――
「煙草が無い」