タイトル:【MTP】楽園の楼閣1マスター:とりる

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/30 09:20

●オープニング本文


 【MTP】モルディブタワー計画。
 それは銀河重工、奉天北方工業公司、MSI社、アジアのメガコーポレーション三社合同による、民間用軌道エレベータ建設計画である。

 ***

 モルディブ市街地・広場――。
 ここでは現在、モルディブタワー計画の住民説明会が行われていた。
 内容は軌道エレベータの地上側の発着拠点(アース・ポート)の建設について。
 しかし、担当者の話を聞いている住民たちは渋い顔をしており、なにやら不穏な空気が漂っていた‥‥。
 担当者が喋るうちに住民たちの表情は苛立ちを増していき、ついに声が上がる。
「聞いたところによれば、なんでも海底に杭を打つそうじゃないか!」
「自然破壊に繋がる!」
「貴重な観光資源が失われてしまう!」
「絶対に反対!」
「軌道エレベータ建設反対!!」
 抗議の嵐を浴びせられ、若い担当者は戸惑ってしまう。
 ――だが、これは人類の未来を担うとても重要なプロジェクトだ。こんなことで挫けるわけにはいかない。
 担当者の瞳に光が戻る。
「皆さん、話を聞いてください。アース・ポートの建設はメガフロート(大型の人工浮体構造物)方式で行いますので、海底に杭を打つなどということはなく、環境への影響も最小限です」
 必死に説明する担当者だったが、住民たちの興奮は収まらない。当惑する担当者。
 そこへ――
「住民の皆さん! 担当者の説明をちゃんと聞いてあげてください! デマに惑わされてはいけません!」
 清涼かつ甘い成分を含んだ力強い声が、住民説明会の会場に響いた。
 住民たちや建設関係者たちが声の主を探す。
 黒縁のメガネをかけた若い担当者の隣に、ふぁさぁっとサラサラの長い黒髪をなびかせて、純白のワンピース姿の少女がマイクを持って立った。
「あ! あれは!」
 住民席から一人の若者が立ち上がった。
「イカルちゃん! イカルちゃんじゃないか!」
「なんだって!?」
 続々と住民たちが立ち上がり、少女に熱い視線を向ける。
「皆さん、落ち着いてください。この説明会はモルディブタワー計画の内容を、ちゃんと住民の皆さんにお伝えするためのものです。嘘は言いません。ですよね?」
 少女が担当者の顔を見た。
「‥‥あ、ああ。嘘なんて言うわけがない。この資料は全部本物だ」
 担当者は頬を赤くして頷いたが、すぐ我に返り、背後の大型スクリーンに表示されている各種資料を手で指し示す。
 少女はそれを確認すると、再び住民たちのほうを向く。
「と、いうわけです。モルディブタワーの建設関係者はきちんと住民への説明を行いますし、環境への配慮も欠かしません。この美しい、楽園と呼ばれる海を汚しはしません」
 少女はすぅーっと息を吸った。
「ですので! 担当者の話をきちんと聞いてあげてください! よろしくお願いします!」
 声を張り上げて、少女が言った。
 それに住民たちは――
「イカルちゃんが言うなら仕方ないな」
「イカルちゃんが言うなら納得しよう」
「イカルちゃんの顔に免じて今日はこの辺にしてやんよ」
 などと、とりあえずは落ち着いてくれた様子。とりあえず、は‥‥。

 ***

 住民席から少し離れたモルディブタワーの建設関係者の席――。
「君! ちょっと君!」
 モルディブのお偉いさんが秘書のスーツの袖をぐいぐい引っ張った。
「な、なんです、いきなり大声を出して」
 秘書は、ずれたメガネを直しながら言う。
「颯爽と現れて、あっという間に騒ぎを鎮めた、あの黒髪の美少女は何者だね!?」
「‥‥ご存知、ないのですか!? 彼女こそ、数万人規模のオーディションで並み居る美女たちを蹴散らし、モルディブタワー計画のイメージキャラクターの座を掴んだシンデレラ・ガール、月日星・イカルちゃんです!」

 ***

「‥‥どうしてこんなことに」
 数十分後。住民説明会会場裏に設営されたテント。冷房の効いたそこで、イカルはぐったりと机に突っ伏していた。
「見事な働きぶりだったわよ、お疲れ」
 イカルのマネージャーを担当する二十代半ばほどの女性(かなりスタイルの良い美人)が冷えたペットボトルのドリンクをイカルの前に置いた。
「ありがとうございます」
 イカルはペットボトルのキャップを外してスポーツドリンクをこくこくと飲んだ。
 モルディブは暑い。水分補給は怠れない。紫外線対策も大変。
「見事な働きぶりとか言いますけどね? 何度でも言いますよ? バレたらどうするんですか? 僕、男の子ですよ?」
 ずいずいっとマネージャーに詰め寄るイカル。
「それはまあ、別にいいんじゃない?」
「‥‥」
 がくりと項垂れるイカル。
「最終審査員は流石に性別知ってるし。それでもいけると思ったんだろうし。『証拠』を見せなきゃ信じる人なんていないだろうし。バレても余計話題になるだけだろうし。それほどまでにあなたは可愛いってことv」
 マネージャーはイカルのぷにぷにのほっぺに頬擦りしてくる。
「ぐぬぬ‥‥」
 イカルは何も言い返せなかった。
 モルディブタワー計画のイメージキャラクターに決定したイカルの写真がネットや新聞、雑誌などで公開されてからというもの『東洋の妖精』などと呼ばれ、世間の注目の的となっていた。
 CDデビューも決まり、先行で携帯端末向けに配信された曲のダウンロード件数は早くも百万件を超えているらしい。『小鳥のように愛らしく涼やかな歌声』と評判とのこと。
(僕は静かに写真を撮りながら生活したかっただけなのに‥‥)
 と、イカルは涙目になる。
 姉が勝手に履歴書を送ったら受かった。とか、よく聞く話であるが、男の自分が『女の子』としてアイドルデビューするのとは話が全く違う。
 ‥‥まあ、タワーの建設が軌道に乗るまでの話らしいし、旅費も必要だったので、渋々契約書にサインしたのだが‥‥。
(お姉ちゃんのばかぁ‥‥)
 イカルの目尻に涙が浮かぶ。
 ふと、マネージャーが口を開いた。
「そういえば、さっきも住民が騒いでたんで気付いてると思うけど」
「なんですか?」
「建設計画の妨害工作が行われてるみたいなのよね」
「‥‥!」
「既に捜査は始まっていて、どうやらバグアの仕業と判明したみたい。近々、ULTに依頼が出されるらしいわ。一般人じゃ手も足も出ないからね」
「デマを撒いていたのはバグアだったんですか‥‥」
 人間同士の争いでなくて良かった、とイカルは思う。
「あなたにも協力してもらうかもしれないわね」
「えっ?」
「囮として。アイドルだから、目立つし。それにあなた、能力者だし」
「えぇっー!?」

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
高林 楓(gc3068
20歳・♀・CA
秋姫・フローズン(gc5849
16歳・♀・JG
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN

●リプレイ本文

●始動・モルディブタワー計画
 モルディブタワー計画への妨害工作に対処する為、集められた8人の傭兵達――。

「調査開始前に手錠の様な手足を拘束できる物を何個かお借りできれば。洗脳された一般人を捕縛するのに役立つと思うので」
 ULTの現地担当者に必要な物品を申請する浅黄色の髪の少年、ノエル・アレノア(ga0237)。
「犯人を尾行しながら現在位置を把握する為に、街の地図があればお借りしたいです」

「妨害工作‥‥どんな意図があるんだろう。ただ、調査の段階から多少なりとも関わってきた身としては、放ってはおけないですね」
 ノエルと恋人関係にあるティリア=シルフィード(gb4903)は首を捻る。
 犯人の意図‥‥それは単純明快だ。住民感情を悪化させ、煽り、モルディブタワー計画を妨害し、最終的には中止に追い込む事だろう。

「苦労しますね‥‥」
 終夜・無月(ga3084)は苦笑した。
 月日星・イカル(gz0493)がモルディブタワー計画のイメージキャラクターに抜擢された経緯を聞いた為だ。

「さぁて、今回の依頼目的はデマをばら撒いている犯人グループの捕縛、ね」
 クレミア・ストレイカー(gb7450)はきゅっとバンダナを締め直す。

(さーてと、外から【MTP】を眺めてばかりでなくやっと中から協力できる状況になってきたのよねー)
 これまでずっと【MTP】を追って来ていた、樹・籐子(gc0214)‥‥。
(水先案内人はイメージキャラクターのイカルちゃんという事で、お姉ちゃんとしては色々張り切って頑張るわよねー)
 やる気は十分な様子。
「という訳で今回は妨害工作の裏を探ってイケナイ子達を討伐しちゃうのよー」
 ぐっと拳を握って脇を締める。
 豊かなバストがたゆんと揺れた。

 高林 楓(gc3068)はイカルとその関係者と相談し、突発のサイン会等のイベントを開く準備を行う。
「犯人グループの拠点に突入する際、イカルの方でイベントをして一般人を惹き付けておきたいが大丈夫か‥‥?」
 返答は「大丈夫」との事。ただしイカルのスケジュールが詰まっており、あまり待てないので決行するならなるべく早い方が良い、と関係者は言っていた。

「【MTP】の為に‥‥がんばり‥‥ます‥‥!」
 秋姫・フローズン(gc5849)は籐子同様に気合が入っている。

(イカルちゃん可愛いなー、羨ましい‥‥。それは置いておいて、犯人の捕縛頑張ろう‥‥!)
 エリーゼ・アレクシア(gc8446)は打ち合わせを行うイカルを横目で見つつ、今回の依頼内容を確認し、意気込んだ。

●尾行作戦
 さて、打ち合わせを終えた傭兵達は手分けして行動を開始。

「まずは強化人間の潜む拠点調査ですね」
 ノエルはティリアと行動。武器は目立つので、調査中には持ち歩かない。
「行動、開始です」

 傭兵達の大まかな行動・作戦はこうだ。
 街中でビラ配りしている人間を探して尾行し、拠点を突き止める。
 拠点の位置を確認後、張り込み班はその場に残り拠点の監視・犯人が何人いるか確認。
 犯人グループの人数が確認できたら突入班による捕縛作戦へ移行。
 拠点に全員が集まっている所を襲撃し一網打尽にする。
 同時に、捕縛作戦実行と同じ時間帯にイカルに街中でサイン会をやって貰い、街の人の注意をそちらに向けさせる。
 万が一の事を考えて護衛班を用意。
 ‥‥といった感じ。

 人通りの多い場所に出ると、ビラを配っている人物はすぐに発見できた。
「反対運動のビラ配りしてる人は必ず拠点へ戻る筈ですから、勘付かれないようにさり気無く‥‥」
「ええ‥‥」
 普通の恋人同士を装いつつ、小声で話すノエルとティリア‥‥。

 ***

 無月は【隠密潜行】を使用して、ビラ配りをしている人物を張り込み、尾行。

 ***

(あれ‥‥かしらね?)
 クレミアは目元を隠す為にスタイリッシュグラスを着用。
(尾行開始、と)
 尾行中は【隠密潜行】を使用。
 犯人グループの拠点となっている建物を特定後、張り込み役としてその場に残る。
 監視及び出入りする人員の有無、建物の外観、入口の箇所を入念に確認。
 犯人同士の会話にも聞き耳を立てる。

 ***

 籐子と秋姫――。
 二人は街中で買い物をしながら妨害工作をしている人物を探す。

「それじゃ、行こうよ。お姉ちゃん」
 秋姫は籐子の人懐っこい妹になりきり、傍から見れば『年の離れた姉妹が買い物&散歩』をしている風に装う。
「今日はいい天気だし、絶好の買い物日和だね」
 ‥‥ビラ配りをしている犯人を発見。
「見つけました‥‥ね」
 籐子だけに聞える大きさで言う。
 尾行開始。犯人グループの拠点を発見したら、籐子は身を隠しつつ【探査の眼】でトラップなどを探す。
 情報収集後、見つからないようにしてその場を後にし、他の傭兵と合流する。

 ***

 楓は、覚醒はせず観光客のフリをしていた。
 服装はなるべく目立たないように普通の男物の私服。
「さて、目標の相手は‥‥あれか? まずは確認だな‥‥」
 ビラ配りしている人物を見かけたら、まずビラを受け取ってみる。
 ――案の定、モルディブタワー計画に反対する内容だった。
 しかも担当者から説明された物とは全く異なる、デタラメばかり書かれている‥‥。
(‥‥これは、悪質だな‥‥)
 捕縛対象と確認。楓は少し離れ、相手が見える場所で、何か飲み物を買って待機。
 目標が移動を始めたら尾行。拠点を特定する。‥‥その時点で他の傭兵達も拠点を把握していたが。

 ***

「まずは拠点を突き止めないことにはどうしようもないですね」
 エリーゼも行動を開始。
(具体的にはどんな内容なのか気にもなりますし、ビラを配ってる人に少し詳しく聞いてみようかな?)
 彼女は‥‥大胆にもビラを配っている人物に詳しく尋ねた。
「ふむふむ、なるほど」
 犯人と思しき人物は反対派と見たのか、丁寧に説明してくれた。
 ‥‥その内容は、楓が確認したのと同じく、デタラメばかりだったが。
「ご丁寧に、ありがとうございました」
 ぺこりとお辞儀をし、その場を離れるエリーゼ。
 ‥‥しかしやや離れた場所に隠れ、犯人の様子を窺う。
 犯人が移動次第、後を付けた。

●突入作戦
 尾行などの調査を行い、情報を収集した傭兵達は夜に集合し、情報を共有、作戦を練る。
 ‥‥判明したのは犯人は11人である事。犯人グループの拠点は街の外れにある事。
 犯人を捕縛する材料は揃ったと判断。
 敵拠点への突入は明日の夕方、決行する事に決定。
 イカルや関係者にもそのように伝える。

 ***

 翌日。夕方――。
 もしもに備え、イカルの護衛を行う籐子と楓。
 こちらの目的は突入作戦が行われている間、イカルのサイン会を開き、住民の目を引き付け、騒ぎにならないようにする事。
「お姉ちゃんもちゃんと守るから、安心していいのよー」
 人員整理の手伝いする籐子。既に辺りはイカルを一目見ようと、更にサインを貰おうとする人達でごった返していた。
「混乱は鎮めて【MTP】に関する充分なアピールを推進するわよー」
 全てはモルディブタワー計画の為。籐子は汗を流しながら働いた。

 楓は‥‥サイン会の開始前に、会場の裏に控えるイカルの頭に手をぽむっと置き、励ます。
「何かあっても俺が守るから、イカルは自分のやるべき事をしっかりと頼むぞ‥‥」
 イカルは「ありがとうございます。がんばります」と健気に答えた。
 黒服を着てSP代わりにイカルの横に待機して護衛する楓。基本、覚醒はしない。
 周囲にはしっかりと目を光らせ、不測の事態にもすぐに対処できるように。
 突入班と定期的に連絡を取る。
「人の集まりは‥‥凄いな。捕縛が成功してこっちは何事もなく終わればいいのだが‥‥」

 ***

 場所は変わって突入班。
 6人の傭兵達が犯人グループの拠点前で待機中。

 無月が【バイブレーションセンサー】を使用して索敵。
 ‥‥建物内に11人を感知。犯人全員が拠点の中にいるようだ。
 一網打尽にするには今しかない。

 楓からサイン会開始の連絡が来ると‥‥傭兵達は息を合わせ、一斉に建物内に突入!

 ティリアはまず、突然の侵入者に驚く犯人全員にコインを投げつけてフォースフィールドの有無を確認。
 ‥‥本当はエアーバットで確認するつもりだったのだが携帯するのを忘れてしまった。
 しかしFFは本人にダメージを与える物でなければ発生しない為、結果的にはこれで良かった。
 一般人10人と強化人間1人の判別が完了。

 ノエル、秋姫、エリーゼは洗脳された一般人を手加減しつつ、ロープで即座に捕縛していく。
 能力者と一般人では、力の差は歴然だ。気絶させるまでも無い。一般人はあっという間に捕縛された。
 ちなみに秋姫はバトルハリセンを使うつもりだったが、ティリアと同じく携帯し忘れ。
 バトルハリセンは立派なSES搭載武器であり、殺傷能力もあるので、これも結果的には良かった。

 スタイリッシュグラスからゴーグルに変更したクレミア。
 突入直後から犯人の逃走経路を抑える為に先回り。
 逃亡を図った強化人間に、サプレッサー付きの拳銃で威嚇射撃。
「逃げ道は塞いだわよっ!」
 【部位狙い】で足を攻撃。強化人間は呻き声を上げて倒れた。

「貴方だけは絶対に逃がさないから!」
 ノエルも回り込む。

「逃がしません‥‥!」
 秋姫も同じく。

 エリーゼと無月は一般人を確保。
 こうして、モルディブタワー計画へ妨害工作を行っていた犯人グループは文字通り一網打尽となった。

●依頼の後は‥‥
 事件が片付いた日の翌日。傭兵達は海遊びをする。

 恋人同士のノエルとティリアは他の皆とは別行動を取っていた。
 一段落したら、二人で浜辺でゆっくりする約束をしていた為だ。
 二人はヤシの木の下に腰掛け、談笑。その内に――
 ティリアはうつらうつらと、うたた寝をしてしまう。
 日本――九州の地でのキメラプラント攻略作戦、月面基地『崑崙』の防衛戦‥‥等々。
 この所の忙しさから、疲れが溜まっていたらしい。
(‥‥疲れてたのかな?)
 ノエルは愛する人の頬に手を添える。
(こうしてみるとやっぱり美人‥‥)
 ボーイッシュな容姿、それはそれで魅力的なティリアだが‥‥ノエルの目には恋人補正で素晴らしく可憐に見えるのだろう。
 思わず恋人の寝顔に見入って想いに耽ってしまい、ノエルは頬を赤らめる。
「‥‥例え傷ついても、僕がずっと傍にいるから。今はゆっくりと休んで下さい」
 そっと、ティリアのおでこに口付けをするノエルだった。

 ***

 一方。他の傭兵達は――別の浜辺でバーベキューをしていた。
 主に秋姫がバーベキューセットをレンタルショップで借りて、食材を調達し、食事の準備も行う。
 そんな献身的に働く彼女の服装は紫のワンピースとエプロン。
「焼けましたよ」
 こんがり焼けた肉や魚介、野菜を皿に盛る。

「おー、いい匂い。バーベキューを楽しみましょうー!」
 籐子は早速こんがり肉を手に取り、パクつく。

「ふむ、俺も手伝うぞ」
 楓はイカルも浜辺へと誘い、バーベキューへ参加。
 自分も食べつつ、イカルの皿にも食べ物をどんどんと盛る。
 服装は黒服から半袖のシャツ姿になっていた。

 クレミアは秋姫が用意してくれたバーベキューを頬張りつつ、キンキンに冷えた発泡酒をぐいぐい飲み干す。
「ふぱーっ! やっぱり仕事の後の一杯は堪んないわねぇーっ!」

「美味しいですねー。やっぱり開放的な所で食べるバーベキューは最高です」
「ええ‥‥そうですね」
 お肉をぱくぱくと食べるエリーゼと、ソフトドリンクを煽る無月。
 ちなみにエリーゼはちゃっかり、イカルからサインを貰っていた。
 別にイカルのファンという訳ではなく。
『きっとプレミアが付いて値段が上がっていく筈‥‥!』
 といった、打算的な考えだったが。

 ‥‥いい感じに食が進んだ頃、クレミアはイカルに接近。
 イカルの頭をがしっと両手で掴み、自分の豊かな二つの膨らみへと埋める。
「ふごっ!?」
 じたばたと暴れるイカル。
 その頭をニタニタとした笑みを浮かべつつ撫で回すクレミア。‥‥いつもの悪癖らしい。
「どう? いい感触でしょ?」
 だがしかし。
「そこまでにして貰おうか。イカルが困っているじゃないか」
 楓がイカルを救出。自分の背後へと隠す。
 イカルはやっとまともに呼吸ができたのでぜいぜいとしている。
「た、助かりました‥‥」
「いや、気にしなくていい。イカルはアイドルだ。悪いお姉さんからは守らなくてはな」
「‥‥んもう、いい所だったのにぃ!」

 ***

 夜――。
 別の場所でクレミアがモルディブタワーの建設予定地の方角を見ていた。
「綺麗な夜景ね」
 着工を前に(警戒の為)ライトアップされたそこを見て、目を細める‥‥。

 ***

 同じ頃、一人で海辺を歩く秋姫。
「いい風‥‥ですね‥‥」
 夜の海風を肌に感じる。
「希望の柱‥‥貴方の未来が‥‥輝きますように‥‥」
 モルディブタワーの建設予定地の方角を向いて、彼女は穏やかに微笑むのだった。