タイトル:【DR】オペ子の憂鬱マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/25 18:21

●オープニング本文


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●魔女の婆さんの鍋の中
 廊下に響く靴音。一歩一歩進む毎に、ロングコートの裾がなびく。
 上層部において決した作戦の概要を思い出し、ミハイル中佐は思わず顎鬚に手をやった。諜報部が真面目に仕事をしている、という事なら歓迎すべき自体だ。だが、これまで思うような成果のあがらなかった情報戦で、突然優位に立ったとは考え辛い。
 ――とはいえ。
「考えても詮無い事だな」
 その裏に何らかの意図があろうと、無かろうと、そんな事はどうでも良い。
 彼自身、軍人は政治に口を差し挟むべきではないと考えている。それに、この偵察作戦そのものが、この情報の真偽を確かめる為のものだ。要は、作戦を成功させればそれで良い。権限以上の事に思いを馳せるべきではない。
(余計な事は忘れろ。まずは、この作戦に集中しなければ‥‥)
 ドアを開く。
「総員起立!」
 副官の鋭い言葉が飛んだ。
「敬礼!」
「構わん、楽にしてくれ」
「ハ‥‥着席!」
 作戦に集まった傭兵達を前にして、ミハイルは小さく敬礼を返した。
 彼等は、この偵察作戦を成功させる為にかき集められた。その数、数十名にも及ぶ。
「志願戴き、感謝する。それでは、さっそく作戦の概要を説明させてもらう」
 彼がそう切り出すと、副官が部屋の明かりを落とし、映写機の電源を入れた。
 画面に映し出されたのはシベリア、サハ共和国首都ヤクーツクを中心とした地図。北部からヤクーツクまではレナ川が流れており、南東にはオホーツク海が広がっている。南西のバイカル湖はバグアの勢力圏内に、南方のハバロフスクから北東のコリマ鉱山周辺は人類の勢力圏だ。
 そして、ヤクーツク北西、ウダーチヌイが地図上に表示された。
「作戦目標、ウダーチヌイ」
 ミハイルの言葉に、作戦室が静まり返る。
 ウダーチヌイにはウダーチナヤ・パイプと呼ばれる、直径1km、深さ600mにも及ぶ露天掘り鉱山があり、この鉱山施設を中心に複合軍事施設の建設が進んでいる――諜報部の得た情報を元とし、上層部が出したこの予測が正しければ、バグアは、このシベリアを中心に侵攻作戦を企てている事となる。
 問題は、その情報が果たして正しいのかどうかだ。
 これがもしブラフで、人類が大戦力を投じた結果何も無かった等と言うお粗末な結果に終わった場合、戦力が引き抜かれて手薄になった戦線に対し、バグアは嬉々として攻撃を開始するだろう。
「確証が必要なのだ。でなければ、貴重な戦力を振り向ける事はできない」
 事実であれば、敵の迎撃は苛烈を極めるであろう。
 まさしく、魔女の婆さんの鍋の中へ自ら飛び込む事になる。副官が作戦計画書を取り出し、ミハイルへと手渡す。
「では、各種作戦の説明に移る。まずは――」
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 ラストホープ、UPC本部――
 オペレーターのクラヴィーア・櫻野(gz0209)は切り揃えられた黒髪を揺らしながら廊下を歩いていた。
 上司からの緊急の呼び出しである。なんだか嫌な予感がする‥‥。
 そんなことを考えていると、上司の執務室の前に到着。コンコンとドアをノックする。
「入って」
 上司の声を確認するとガチャリとドアを開け、中へ入るクラヴィーア。ちゃんとドアは閉めます。
「用件というのは何でしょうか」
 とりあえず聞いてみる他ない。
「ロシアのバグアに動きがあったのは聞いているわね」
 はい、と答えるクラヴィーア。
「ウダーチヌイへの偵察が決まったの。この結果によっては大規模作戦が決行されるわ」
 はあ、と相槌を打つクラヴィーア。しかし大規模作戦となれば気を引き締めなければならない。
「当然、偵察だけなく補助となる様々な作戦が展開される。‥‥それで本題、その一環としてウランバートル方面への陽動攻撃が行われるわ。貴女にはそれに参加してもらいたいの」
 ウランバートルにはバグア軍の一大基地があり、ここからの援軍がウダーチヌイ偵察隊の退路を断ってしまう可能性や、帰投すべきヤクーツク基地へ奇襲してくるとも考えられる。陽動は必要不可欠だ。
「ええっ!?」
 クラヴィーアは思わず声を上げてしまう。
「攻撃は傭兵に行ってもらうけど、現地のオペレーターが不足しているのよ。ね? お願いできないかしら」
 わざとらしくウィンクする上司。
「で、でも‥‥ちょ、ちょっと待ってください! その‥‥私は覚醒すると‥‥その‥‥」
「それは私もよく知っているわ。だって貴女をオペレーターに推薦したのは、この私だもの」
 そうだったんだ‥‥と納得してしまうクラヴィーア。今更だけど。
「私は貴女の能力を高く評価しているの。だたちょっと戦闘適正がアレだっただけでね。今回は我慢して引き受けてもらえない? この通りよ」
 頭を下げる上司。
「わわわっ!? やめてください! わかりました! やりますから!」
 一応だが尊敬している上司に頭を下げられたらたまらない。
「助かるわー♪ 貴女専用のパイロットスーツも用意してあるから安心してね。あと、この作戦が成功した暁には特別休暇も出しちゃう!」
「特別休暇‥‥!」
「それじゃ、がんばってね。無事に帰ってくるのよー」
 退室。バタンと閉まるドア。
 ‥‥考え直してみると、上手く口車に乗せられてしまった気がする‥‥。
 これからのことを考えると憂鬱な気分になる。
「私、KVって苦手なんだけどなあ‥‥」

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
憐(gb0172
12歳・♀・DF
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG

●リプレイ本文

●気になるお年頃
 バグア軍ウランバートル基地から南南東に800km。
 黄河の麓、包頭から北に50km。
 ゴビ砂漠に建設されたUPC軍の航空基地の地下格納庫でのこと――
「自身のミスですから。迷惑はかけられません‥」
 身体中に包帯が巻かれた姿の狭霧 雷(ga6900)が呟いた。
 彼は今回、負傷を押しての参加である。
「不束者ですが、宜しくお願いしますね。精一杯頑張りますから。‥‥雷さん、お怪我のほうはどうですか? ご無理はなさらないでください」
 エメラルド色のおさげ髪を揺らし、ノエル・アレノア(ga0237)がぺこりとお辞儀をした。そして万全ではない雷を気遣う。優しい心の持ち主だ。
「なんとか出撃はできそうです。ありがとうございます。本当に申し訳ない」
 雷も頭を下げた。
「大規模作戦にも影響するこの作戦、失敗するわけにはいきません。全力でいきますよ」
 一際やる気まんまんなのは糸目の青年‥ソード(ga6675)である。今も愛機、シュテルン『フレイア』のコクピットでFCS――火器管制装置のチェック中だ。
「本命の偵察を成功させる為の陽動攻撃、確実に成功させないといけませんね」
 淑やかに心情を語る少女、澄野・絣(gb3855)。
「極東ロシアにおける鉱山坑を巡る大規模作戦‥それを確認するに当って色々な依頼が連動しつつあり複雑怪奇では有るけども必ずや成功してみせないといけないわよね」
 アンジェラ・ディック(gb3967)も今回の作戦の重要性について考えながら、意気込みを見せる。
 そのとき――格納庫に今回オペレーターとして参加する、クラヴィーア・櫻野(gz0209)がおずおずと姿を現した。
「‥‥憐は‥子供なので‥男性の生理‥現象が‥どんなものかは知りませんが‥戦闘中に、男性陣の気が散る事の無いよう、お手柔らかにお願いします」
 憐(gb0172)が真剣な表情で言った。その瞳はまじまじとクラヴィーアを見つめている。
 クラヴィーアは「どういうことでしょう?」とはてなマークを頭の上に浮かべた。
 彼女が身に着けているパイロットスーツは、簡単に説明すると黒のハイレグのレオタードで、実にセクシーなのである。何故そんな格好なのかというと――これにはちゃんとした理由があるのだが――長くなるので割愛させていただこう。
(「しかし‥一体どんな魔法を使えば…あんな風になるのでしょうか‥」)
 憐の視線はクラヴィーアの一点に集中。たわわな二つの果実がこれでもかと自己主張をしているからである。
 ‥‥大丈夫、まだ発展途上なだけさ。そんな声がどこかから聞こえた気がした。
「初めましてクラヴィーア、今回はオペレーティング宜しく。凛頼りにし‥‥りっ、凛、別に赤くなんかなって無いんだからなっ!」
 勇姫 凛(ga5063)が挨拶してきたが急に頬を染め視線を逸らした。
 直視するのが恥ずかしかったらしい。見ればノエルの顔を赤らめて背を向けている。
 どうやら年頃の男の子には刺激が強かったようだ。そんなピュアな美少年二人の様子を、特殊な趣味を持ったごく一部の女性が見たならば鼻血ものだろう。
 ――ふう、と溜息をつくクラヴィーア。
 この衣装が恥ずかしいこと、覚醒状態でなにが起きるか解らないこと(アレな意味で)、そして‥初の実戦。不安は募る一方である。
「‥どうした櫻野。浮かない顔だが、何か問題でも?」
 腕を組んだ剛毅な雰囲気の女性、リュイン・カミーユ(ga3871)が話しかけてくる。
「い、いえ。なんでもないです」
 もうやるしかないと覚悟を決め、ヘルメットを手にウーフーのコクピットへ滑り込むクラヴィーア。
 リュインはやれやれと思いつつ愛機雷電に搭乗。そろそろ出撃時刻だ。他の傭兵達もKVに乗り込む。
 ‥‥エレベーターで滑走路に上がり、轟音と共に次々と離陸していく9機のKV。ゴビ砂漠の空は、黄砂に霞んでいた。

●エンゲージ
 ウランバートル周辺上空――
 傭兵達はABCDの4班に分かれて編隊飛行していた。
 A:リュイン、アンジェラ
 B:ソード、絣
 C:凛、憐
 D:ノエル、雷、クラヴィーア
 ABC班の後にD班が付く形である。
「天候は快晴ですね。絶好のフライト日和‥!! って日本では言うのでしょうか」
「うむ。日本でどう言うかは知らんが‥モンゴルの蒼い空‥飛ぶだけならさぞや気分爽快だったろう」
 キャノピー越しの景色に、はしゃぐノエルと頷くリュイン。
 しかし今は‥重要な任務で飛んでいるのだ。気を引き締めねばならない。
「まもなく敵防空圏内に到達します。警戒してください」
 クラヴィーアからの通信。全機「了解」と返した。
「んっ‥はぁ‥はぁ‥」
 すると――無線から荒く‥艶っぽい息遣いが聞こえてくる。
「あぁん! 熱いぃ!!」
 直後、甲高い嬌声。男性陣に動揺が走る。
(「‥今、無線から聞こえちゃいけないような音が聞こえてきた気がするけど‥凛、何にも聞こえてないんだからなっ」)
 顔を真っ赤にしている凛。とりあえず聞かなかったことにしておいた。
「‥櫻野、よく分からんが‥大丈夫か?」
 リュインからの通信。
「し、失礼しました。大丈夫ですっ」
 やってしまった! と思うクラヴィーア。
 そのとき――
 レーダーに反応。敵を示す赤い光点が12個。
「敵機接近! 小型HW、数12!」
 恐らく迎撃に出てきたのだろう。
 全機兵装を起動。パネルに「RDY」と表示される。問題なし。
「出てきましたね‥」
 操縦桿を握り締めるソード。こちらより数が多いが‥予想の範囲内だ。
「久しぶりの機体運用だけど、改めて装備一新なのだから慣らしついでに頑張るしかないわよね。コールサイン『Dame Angel』、目標殲滅よ」
 アンジェラも臨戦態勢に入る。
 全機増速。接敵に備える。

 先手を取ったのは、やはり射程に勝るバグアのほうだった。ミサイルキャリアータイプのHWから無数の小型ミサイルが放たれる。K−02Hミサイルのコピーだろうか。クラヴィーアから警告。7本のプロトン砲の光が走る。
 遅れてリュイン機がHWを射程に捕らえる。敵は横一列に並んでいた。
「Chardon、エンゲージ。さぁ、とっておきの1発だ。光栄に思え」
 ミサイルレリーズを押し込むリュイン。
 「ドゥオーモ」を発射。100発ものミサイルが一斉に射出される。
 凛機もSRD−02で牽制射撃。
「ロックオン完了。PRM起動! レギオンバスター発射します!!」
 ソード機がPRMシステムを最大まで使用し、本家の力を見せつけるかのように二つのK−02Hミサイルを一斉発射。
「さあって、派手に狩りの時間と行くにゃーーっ!」
 続いて憐のロングボウがミサイル誘導システムを起動。赤いリーダー機っぽいHWに向けてD−01Hミサイルを発射。
 ――数え切れないほどのミサイル、そして数条の光が交差する。敵味方ともに回避運動を取り、それを追うミサイルが網の目のような白煙を描く。
 リュイン機の放ったドゥオーモが1機のHWを執拗に追尾。バグア式ファランクスが起動し迎撃を行うもミサイルの波に呑み込まれ爆散。
 凛機の射撃は距離があったため命中せず。
 ソード機のレギオンバスターが5機のHWに追い縋り、喰らいつく。1機につき200発のミサイルである。ファランクスなど焼け石に水であった。爆炎の中に消えていく5機のHW。
 憐機のミサイルはリーダー機と思われるHWの複雑怪奇な機動により全て回避されてしまった。
 味方の損害は――
(「無理が利かないとは言え、できる限りの事はやっていかないと‥!」)
 最後尾に位置していた雷が確認を行う。
 リュイン機、多数のミサイルが被弾するも入念に改造を施された彼女の雷電は多少装甲をすり減らしたのみ。
 凛機、ミサイル被弾。小破。
 ソード機、損害はごく軽微。
 憐機、プロトン砲を受け小破。
 初撃に参加しなかった絣機とアンジェラ機も20%ほど損傷していた。
 D班は後方にいたため損害は無い。
 そして、一息つく間もなく乱戦に突入。直前にノエル機が前に出てグレネードを撃つがHWは易々と突破してきた。

●ドッグ・ファイト
 残りのHWは有人機と思われるリーダー機とアタッカータイプ4機。
 初撃でミサイルキャリアータイプは全滅しており傭兵側に断然有利な状況だ。
 しかし油断は出来ない。ドッグ・ファイトは慣性性御を持つHWのほうに分があるのだ‥。

 ソード機と絣機は連携しリーダー機を追う。しかしリーダー機は慣性制御を最大限に利用した機動でそれをかわす。
 初撃でミサイルを撃ち尽くしたソード機はロケットに切り替え攻撃を行い、絣機もAAMを放つがファランクスによる迎撃で有効打を与えられない。
「このHW‥やるっ‥有人機かもしれないわね‥」
 絣が呟く。が、こちらもロックオンキャンセラーの効果か、それほど損害は受けていない。一進一退の攻防が続く。
 どうにかしなければ‥絣は迫るHWをバルカンで牽制した後、速度を上げ旋回しつつ兵装をSR−Rに切り替えた。

 凛憐チーム――
 二機は息の合った動きでHWを追いつめる。
 ミサイル誘導システムを使用した憐機がAAMを発射。しかしやはりファランクスが邪魔になる。
「‥行こう憐、凛達のデュエット開始だ! 今日は空中のステージで凛憐チームのファーストコンサートなんだからっ♪」
「了解にゃー♪」
 並んで飛行していた二機はYの字を描いて分かれる。凛機はそのまま上昇。憐機は増速。HWの後ろに付き、ヘビーガトリングをばら撒く。HWは被弾しつつも急旋回して回避運動後、すかさずプロトン砲を放つ。憐機の表面装甲が焼け焦げる。
「凛!」
「OK!」
 凛機は急降下。すれ違い様にAFを付加した必殺のリニア砲を叩き込む。
 爆発。
「やった! 凛憐チームに敵はいないんだからなっ!」
「グッドキルにゃー!」
 喜ぶ二人。
 ――コンサートの閉めが、汚い花火だったのは残念だ。

 リュイン機とアンジェラ機は2機のHWと空中戦を繰り広げていた。
 ジグザグな機動を取るHWに減速と加速を繰り返し張り付くリュイン機。ヘッドアップディスプレイに表示された円がHWを捉える。ロックオン。
「もらった!」
 リュイン機、AAM3発を射出。――着弾。だがファランクスの迎撃を受けて威力を半減されてしまう。煩わしい‥ミサイルやロケットでは効果が薄いと判断したリュインはヘビーガトリングに切り替え弾幕を張る。HWは被弾し揺らぐ。そこへアンジェラ機のロケットによる援護が入る。ナイスタイミングだ。SRD−02に切り替え、被弾部位を狙撃。HWは火を噴き、爆散。
「蒼い空に汝らは似合わん」
 しかし直後、もう一機のHWに背後を取られてしまう。リュイン機は超伝導アクチュエータを起動。機体をロールさせプロトン砲を回避。
「ただで撃たれる気は、さらさら無い‥!」
 尚も飛んでくるプロトン砲の火線が機体を掠める。リュイン機はループ機動を取り逆にHWの背後に付く。ヘビーガトリングを掃射。敵の装甲を削るも、HWは慣性制御を使用し急停止。リュイン機はオーバーシュートしてしまう。
「なにっ!?」
 プロトン砲がリュイン機を狙う。だが――後方にいたアンジェラ機がSESエンハンサーを起動。狙撃手の瞳が‥HWを確実に捉える。
「やらせないわ、堕ちなさい」
 スナイパーレーザーを発射。それは‥綺麗にHWを貫いた。爆炎が上がる。
「グッドキル。助かったぞ、汝と組んで正解だった」
 不敵な笑みを浮かべるリュイン。

 会戦時は後方にいたD班も、乱戦になってしまえば戦闘に参加せざるを得ない――
「くぅ‥!」
 HWが執拗に雷機を狙う。プロトン砲が掠め過ぎる。必至に回避するが負傷している身体にGが堪える。やらせまいとノエル機がAAMを放ってそれを引き剥がす。AAMは例によってバグア式ファランクスの迎撃により威力が半減するが少ないながらもダメージを与えることは出来る。
「すみません‥」
「いえ、今は集中をしましょう!」
 ノエル機は旋回しHWを追う。雷機も同様に旋回しHWをロックオン。長距離バルカンで牽制した後、AAM発射。クラヴィーア機もG−01ミサイルを発射。
 敵ファランクスの迎撃。だが隙は出来た。ノエル機がHWに追いつく。高分子レーザーの雨を浴びせ、撃墜。
「見つけた‥!」
 丁度良い位置にもう一機のHWが居る。雷機は荷電粒子砲を射撃。が、当たらない。
 HWは回転するような旋回で雷機の後に付いた。
「しまっ‥!?」
 プロトン砲が雷機を襲う。
「雷さん! ‥よくもぉー!!」
 ノエル機はブーストを点火。一気に距離を詰める。クラヴィーア機が放電装置でHWの動きを鈍らせ‥そこへノエル機がAF付加の高分子レーザーを浴びせる。爆散。
「雷さん! 応答してください!」
「‥なんとか、大丈夫‥です」
 損傷率70%。機体の損傷は酷かったが、生きている。

 残るはリーダー機のみ――
 ABC班は集中攻撃を行う。リュイン機のヘビーガトリングが装甲を削り、絣機のSR−Rが穴を開ける。
 そして‥‥ソード機がソードウィングを煌かせ、突撃。
「終わりです!」
 交差する瞬間にHWを斬り裂いた。
 機体をぱっくり割られたHWは力なく墜落していき‥地表に激突して大爆発を起こした。
「HW、全機撃墜を確認。任務完了です。増援が来る前に帰投しましょう」
 クラヴィーアからの通信に全員が「了解」と答えた。

●決意の瞳
 ゴビ砂漠航空基地に帰還した傭兵達。損傷はあるものの、KVは全機健在だ。
 ――地下格納庫、雷がストレッチャーで運ばれていく。元々負傷していたが、被弾した際にキャノピーの破片を受けたらしい。
 皆は心配しながら見送る。けれども、とりあえず任務の成功を喜んだ。
「ふう‥‥」
 コクピットから降り、タオルで汗を拭いているクラヴィーアを見つめる一つの影。
 ――憐であった。彼女は持参した瓶牛乳をコクコクと飲む。
「‥いつか‥必ず‥」
 その瞳は、固い決意を秘めていた。何のことかは察してあげて欲しい。口の周りに白いおヒゲが出来ているのはご愛嬌。

 今回の、傭兵達の戦果は小型HW12機撃墜。戦略的に見れば微々たるものかもしれないが、少なからず人類側にとって良い方向に影響を与えることだろう。