タイトル:攻撃指令マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/09 21:55

●オープニング本文


 九州某所――
 旧軍が残した防空壕。その入り口付近。
 ‥‥激しい銃声と、怒号と、悲鳴がこだまする‥‥。
「コイツら何なんだ‥‥コイツら何なんだ!?」
 兵士の前に佇むのは――バッタのような頭部を持った二体の人型キメラ。
 対物ライフルを連続で放つ兵士。
 周りの兵士達も肩に担いだロケットランチャーを撃ち込む。
 ‥‥非能力者の歩兵はFFを持つキメラに対して武器を大口径化せざるを得なかった。
 だがしかし、それも――
 キメラを覆うように発生する赤い壁に阻まれ、まるで効果が見られない。
 そして、キメラが動いた。瞬く間に蹴散らされる兵士達。
 吹き飛ばされる者、四肢を粉砕される者までいた。
 一体は圧倒的なスピードを持ち、蹴りが主体。
 もう一体は圧倒的なパワーを持ち、拳による打撃が主体だった。
 折り重なる兵士の屍。二体のキメラはそれを何の音も発せず‥‥いや、発声器官がないのかもしれないが、ただ、見下ろしていた‥‥。

「本依頼は、九州地方での、虫型キメラの培養プラントの破壊任務になります」
 UPC本部。オペレーターのクラヴィーア・櫻野(gz0209)が集まった傭兵達に説明を始めた。
「培養プラントは、旧軍の防空壕を改造したものです。入り口は広く、侵入は容易かと思われたのですが‥‥」
 UPC軍九州方面隊は完全武装の一個歩兵中隊を投入。だが――
「1時間と持たずに全滅しました。生存者は居ません。ただ、最後の通信によると‥二体の強力なキメラが存在することは確かだそうです」
 その二体のキメラによって一個中隊はあっという間に壊滅させられたのだ。
「しかし、あくまで目的は培養プラントの破壊です。キメラをどうするかは、現場の判断にお任せします。‥‥情報が少なく、非常に危険な任務になります。くれぐれもお気をつけて」
 クラヴィーアはそう、締め括った。

●参加者一覧

勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
セシル シルメリア(gb4275
17歳・♀・ST
アルジェ(gb4812
12歳・♀・FC

●リプレイ本文

●戦いを前に
 移動中の高機動車内――
 荒地を走っているのだろうか、サスペンションで吸収し切れなかった振動が時折身体を揺さぶる。
「中隊を全滅させたのが何かは分からないけど、凛、絶対許せない‥そんな危険なプラントは、壊してやるんだからなっ!」
 勇姫 凛(ga5063)は出発前に渡された防空壕周辺の地図を分析し接近ルートと退路を割り出しながら、散っていった名も無き兵士達のことを思い浮かべる。‥‥ふつふつと湧き上がってくるバグアへの怒りに、奥歯をぎりりと噛み締めた。このような危険なものは放っておけない。住民の安全のためにも、必ず破壊しなければ。そう、固く誓う。
「培養プラント‥この間のオッサンの置き土産か。余裕有りそうなのにわざわざ残して行った辺り半ば廃棄されたっポイ気もするが、厄介な事に変わりは無し、消えてもらおうこの世から」
 気ダルげに言ったのは九条・縁(ga8248)。オッサンというのは以前の依頼で遭遇したプロフェッサー・芳賀という男のことだ。どうもコイツが黒幕っぽい。緑はダルそうな態度を取っているが前回煮え湯を飲まされただけあって戦意は十分。
「案の定‥と言うか、培養プラントはこの前乙女分隊の方々と潰した物だけではなかったのですね。幾つあるのか見当も付きませんが‥虱潰しにしていくしかないようですね‥」
 長い艶やかな黒髪を垂らした、大人びた雰囲気の少女が思案しながら口を開いた。遠倉 雨音(gb0338)だ。乙女分隊というのは九州戦線で戦う能力者だけの部隊のことであり、つい先日培養プラントの破壊任務を共にしたばかりである。プラントの数は判明しているだけでも数十箇所に上るらしい。虱潰しといっても根気の要る作業だ。
「みなさん、よろしくお願いします」
 生真面目に挨拶したのは仮染 勇輝(gb1239)。今回集まった中でも一際引き締まった表情をしている。プラント一つ潰すのに完全武装の歩兵中隊を投入してもどうにもならなかったのだ。今回の任務は‥かなり困難なものになりそうだ、と思う勇輝。
 一方、高機動車の外。AU−KVミカエルのバイク形態で併走しているライダーの姿。嵐 一人(gb1968)である。
(「気分は蜂の巣撤去だな‥」)
 突けば何が出てくるのやら、ミツバチってことはないだろう。スズメバチか? もしくはそれ以上の‥きっとロクでもないものに違いない。
 再び車内――
「ふむ‥」
 考え事をしている様子の、物腰の柔らかそうな青年、鳳覚羅(gb3095)。今回彼は打ち合わせで様々な作戦案を出したが最終的には無難なものに決まった。これが吉と出るか凶と出るか‥それは神にしか分からない。神がいれば、の話だが。
「え、ええと、難しい任務になると思われますが、頑張りましょう」
 セシル シルメリア(gb4275)皆の様子を窺いながら言った。白鳥の翼のような白銀の髪が僅かに開いた窓から入り込む風にそよぐ。
「‥最近、蟲退治多い?」
 そう愚痴をこぼしたのは無表情無愛想な少女。自称ちびっ子SP、アルジェ(gb4812)だ。似たような依頼ばかりでは飽きてしまうが‥SPたるもの、任務に対して文句を言ってはいけないと自らを諭す。
 ‥‥しばらくして、高機動車が停車。目的地手前だ。ここからは敵に襲われる危険性があるため、徒歩での移動になる。
 車を降りる傭兵達。一人も跨っていたバイクを降り、変形させ、AU−KVを装着。その姿は中世騎士の甲冑を思わせる。
「ゆーき、かぐらとがんばってるから‥グッドラック」
「ええ、そちらも気をつけて」
 勇輝に向かって親指を立てるアルジェ。
 そして一行は準備を整えると、駆け出し始めた。

●突入
 防空壕の入り口が確認できる位置まで辿り着いた傭兵達。
 彼らは2班に分かれて展開していた。
 A班:縁、一人、覚羅、アルジェ
 B班:凛、雨音、勇輝、セシル
 という編成。A班が敵を引き付けている間にB班がプラントに突入するというシンプルな陽動作戦だ。キメラの殲滅ではなくプラントの破壊を最優先にした形である。
 防空壕の入り口周辺は無数のビートルが犇き、そして‥バッタのような頭部をした緑色と茶色の、2体の人型キメラの姿も確認できた。やはり‥ハイブリッドバグズだ、緑はそう思った。以前に戦ったものとは若干形や色が違うがまさしくそれであった。‥敵はまだこちらに気付いていない様子。
 緑は手にした閃光手榴弾のピンを抜く、数秒カウントした後、同班の仲間に合図し、放り投げる。数拍おいて、バグズ2体の頭上で炸裂。激しい閃光。‥数秒後、A班に気付いた無数のビートルとバグズ2体が引き寄せられ、襲い掛かってくる。‥かかった!
 その隙にB班が迂回して全力疾走。突入を開始する。
(「なんか昔のヒーローにあんな奴いなかったっけ‥?」)
 勇輝は走りながらバグズの姿を見て、そんなことを考えた。確かにどこかで見たような気がする‥昔のヒーローの姿をバグアが模して悪用したのだろうか。
 ‥B班の突入が成功すると、A班は足止めを開始する。倒すのではなく、あくまで足止めである。
(「この間は8人で2体を潰すのがやっとだった相手、4人で如何にかできるとは思わん」)
 緑は冷静な判断でエネルギーガンを射撃し、迫るバグズSを牽制。しかしバグズSはジグザグに避ける避ける避ける。あっという間に距離を詰められてしまった。
「速っ‥!?」
 この前の奴とは段違いだ。繰り出される蹴りをクロムブレイドで受け止める。‥剣の柄を握る手が、びりびりと痺れた。
 だが、退く訳にはいかない。踏ん張って持ち堪える。
「素材が気に食わねえんだよ!」
 ハイブリッドバグズ‥混合昆虫‥その姿は人型‥すなわち、その材料は人間だった。
「‥これでバイクにでも乗ってたら完璧だったな」
 そんなことを口にする一人。さて、なんのことやら。
「あっちに方が動きが鈍い‥! まずはアイツから片付けるか!!」
 Sに比べるとやや動きの鈍いバグズAの拳をレイシールドで受ける。
 ズドンと重い衝撃。一人は少し後退させられてしまう。
「なんつう馬鹿力だ、このやろう!」
 ショットガン20による至近距離での一撃。まともに食らったバグズAはよろめいた。が、それは甲殻を少し削っただけであった。
「さすが、FFを強化されているだけのことはあるな‥硬さも一級品だ」
 AU−KVのヘルメットの中で苦笑いを浮かべながら汗を垂らす一人。
「‥厄介な事を引き受けたかな? でも‥プラント破壊までの時間‥全身全霊を持って凌ぎ切ってみせるよ‥!」
 流し斬りと二段撃を連続使用し、蛍火と機械剣「莫邪宝剣」でバグズAを交互に斬りつける覚羅。バグズAは両手を交差させて防御する。少量の体液が散った。
「かぐら‥避ける」
 アルジェの声で覚羅は一歩下がる。跳躍してソードを投擲するアルジェ。
 しかしそれは赤い壁に阻まれてしまった。
「くっ‥」
 二人は連携して戦っていたが、どうやら小手先の通じる相手ではなさそうだ。
 アルジェは刀・雲隠と小太刀・夏落で二刀流の構えを取る。
 ‥再び、ぶつかる4人と2体。

●培養プラント
 B班はビートルを蹴散らしながら進む。
 内部が暗かった場合を考慮して懐中電灯を申請した者が多かったが、通路はいたるところに血管のようなパイプが走っており、無機質とも有機質と見て取れる薄気味の悪い作りであり、青白く発光していて照明器具は必要なかった。
「邪魔をするな、何があっても凛達はこの先に進むんだからなっ!」
 大鎌「紫苑」を振るい、獣突で進路上のビートルを突き飛ばす凛。
 虫の足跡など活動の痕跡を探しながら進むが通路は機械化されているのでそのようなものは見当たらない。迷わないように気をつけてもいたが分岐はなく、どうやら一本道らしい。
「この前のタイラントビートル、そして先ほどの2体のキメラ‥向こうの培養技術も向上しているようですね‥急がなければ」
 雨音も邪魔になる敵のみ、的確に狙って真デヴァステイターで射撃してゆく。重い銃身から撃ち出される弾丸に易々と貫かれるビートル。
「ええい、鬱陶しい!」
 イアリスとハンドガンを使い分けて、群がってくるビートルを払う勇輝。さすがに敵の拠点だけあって数が多い。
「はあっ!」
 美しい白磁の槍‥セリアティスを用い、進路を塞ぐビートルをどかすセシル。身体で遠心力を生み出し極力大降りにならないように注意する。
 ‥そうして進んでゆくと、小さなホールのような場所に辿り着く。
「ここが‥プラント‥」
 セシルは息を呑んだ。
 ホールの壁面にびっしりと培養カプセルが敷き詰められおり、その中で無数のビートルの幼生と思われるものが蠢いている。‥生理的嫌悪を催す、不気味な空間‥。
「キメラは、こうやって作られていたのか‥」
 勇輝が呟く。
「それよりも、早く破壊しましょう! 外の方々が心配です!」
 叫ぶ雨音。そしてスコーピオンの弾をばら撒き、培養カプセルを穴だらけにする。
 培養液が漏れ出し足元を濡らしていく。幼生のギィギィという断末魔が非常に耳障りだ。
 雨音に続き他の3人も破壊活動を開始。
「これ以上好きにはさせない‥こんなもの、全部壊してやるんだからなっ! その企みを、刈り取れ紫苑!」
 大鎌で数個の培養カプセルを一気に破壊する凛。
「斬って斬って斬りまくる!」
 勇輝は情報を取れないか調べたが端末のようなものは発見できなかったのでひたすら斬りつけることにした。
 セシルも槍を突き刺して破壊の限りを尽くす。
 数分後――
「このくらいで十分ですね」
 雨音が言った。培養カプセルの破壊は7割がたといったところである。
 そして‥ポシェットからC4爆薬を取り出して丁寧に壁に設置する雨音。
 培養カプセルにはFFが発生していたが、壁には発生していないようだった。
 上手くすれば発破して埋め立ててしまうことができるかもしれない。
 雨音は出発前にC4の扱い方を軍の爆発物のスペシャリストから入念に説明を受けていたのだ。
「‥設置、完了です。脱出しましょう」
「了解。みんな、こっちだっ!」
 雨音の言葉に答える凛。彼は獣突で群がるビートルを弾き飛ばして道を切り開いていた。
 再び駆け出し、来た道を戻るB班。
 勇輝はウォッカとライターで火をつけようとしたが「C4は火をつけても燃えるだけですが一応危険な爆発物ですので」と雨音に止められた。

●ハイブリッドバグズ
「ぐぅっ!!」
 クロムブレイドでバグズSの蹴りを受ける緑。これで何度目か‥バグズSはそのまま跳躍し、踵落としを放ってくる。その連続攻撃に緑はガードを弾かれてしまう。追撃の回し蹴りをまともに食らってしまった。
「がはぁっ!?」
 胃液と、血が混ざり合ったものを吐き出す。
「はあ‥はあ‥」
 少し距離を取り、即座に活性化を使用し生命力を回復させる。練力はもう‥残り少ない。
 何度も使用したためだ。バグズSもところどころ焼け焦げたり傷を負っていたりしているが‥こちらのほうが‥分が悪い。
「ちくしょう!」
 エネルギーガンを連続で放つ緑。避けるバグズS。幸い、攻撃系のスキルは使用せず活性化のみに絞っていたため、もうしばらくは戦えそうだ‥。だが‥見れば周りのビートルの数が増大しているではないか。このままでは‥。
「こっちも‥厳しいかもな‥」
 機械剣でなんとかバグズAと渡り合っていた一人であったが、AU−KVミカエルの装甲はもうボロボロだ。砕けたヘルメットの隙間から素顔が覗いている。AはSに比べると遅いが、一撃一撃が重い。一人は味方の盾になるように動いていたため、尚更ダメージが大きい。
「うじゃうじゃと‥!」
 覚羅は群れるビートルを二刀流で薙ぎ払う。
 こちらも‥ダメージが大きい。前半でスキルを多用したため、活性化に使う分の練力があまり無かったのだ。
「きゃうっ!!?」
「アルジェ君!!」
 ビートルの排除で一瞬目を離していた緑、一人、覚羅の3人。その隙を突いてバグズSがアルジェに蹴りを食らわせたのだ。その小さな体が宙を舞う。なんとか受身を取るアルジェに向かって追撃をかけるバグズ2体。蹴りと打撃が襲う――かと思われたが‥‥
 目を瞑っていたアルジェの前にあったのは、一人と覚羅の姿だった。
「かずと‥? かぐら‥?」
「仲間を守れないで‥どうするよ」
「そうです‥戦士として‥当然のこと」
 攻撃をまともに受けた二人は膝をつく。
「かずと‥! かぐら‥! うわあああ!!」
 自分を守るために大切な仲間二人が傷ついてしまった。思わずぽろぽろと涙をこぼすアルジェ。いくら強がっていても、いくら技術があっても、能力者としての力があっても、10歳の少女であることに変わりは無い。
「くそっ! そろそろやべえぞ!」
 緑が必至に2体を食い止める。
「皆さん!!」
 そこへ戻ってくるB班の4人。凛、雨音、セシルが応戦に加わる。
「戻ってきたか‥任務は遂行できたようだね‥。あと、アルジェ君、泣かないで。君は強いはずだ。それに俺はまだ、死んじゃいない」
 微笑む覚羅に向かってうん、うん、と頷くアルジェ。
「俺もだぜ」
 一人も立ち上がる。勇輝の治療を受け、少し回復したのだ。
「殲滅は無理ですね‥任務は達成しました。撤退しましょう」
 雨音の言葉に、皆頷いた。
 一人がAU−KVを脱ぎ、バイク形態に変形させ、跨った。後部座席にアルジェを乗っける。
「ちゃんと掴まってろよ!」
「わかった‥」
 こくりと頷くアルジェ。
「‥借りはいつか反す、今は目を瞑ってな!!」
 勇輝がバグズ2体に向かって閃光手榴弾を投げつけ、ついでに顔面に照明銃を発射して目潰しする。
 それが合図となって、傭兵達は後退を開始した。
 ――安全圏まで離れた後、C4の起爆スイッチを押す雨音。
 爆音と共に黒煙が高々と昇る。それに‥‥依頼の、一応の成功を見る傭兵達であった。