●リプレイ本文
●ブリーフィング
九州某基地――
傭兵達と乙女分隊が作戦前の打ち合わせを行っていた。
「可愛らしい乙女の方々と共同作戦ともなれば、否応なしにもやる気が上がると言うものですわ。是非成功させませんと、ね」
乙女分隊の面々を見回しながら鷹司 小雛(
ga1008)が気合を入れる。彼女は可愛い女の子が大好きなのだ。ゆえにやる気は充分。
「フッ‥。今回は神父の面目を躍如させて貰おう」
巨大な十字架にも見える大剣・クルシフィクスを背にした夜十字・信人(
ga8235)が呟いた。
彼は傭兵家業の合間に神父のボランティアをしている。さしずめ戦う神父さん?
「お守りには物騒だが‥ちゃんと無事に帰って来て、貧乏なお兄さんに返すんだぞ」
信人は乙女分隊の隊員、舞浜・ちずるにフォルトゥナ・マヨールーを手渡す。
「ありがとうございますっ」
にっこり笑う‥ちみっこい少女、ちずる。目を細め、彼女の頭を優しく撫でてやる信人。
「久しぶり〜♪ 元気してたかい?」
乙女分隊の隊長、早乙女・美咲(gz0215)の頭をおもむろに撫でるヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)。
彼と美咲が顔を合わせるのは昨年末以来だ。
「ちょっとヴァレスさん! 子ども扱いしないでください!」
不機嫌な表情になる美咲。自分だってそれなりに実戦を経験してきたのだ。まだ弱いけど‥もう一端の軍人だ。
「あはは、ごめんごめん」
微笑むヴァレス。最初会った頃は泣きべそをかいていたのに‥大分強くなったかな‥?
そのように思う。ついでに彼は近くにいた分隊メンバーの神楽坂・有栖の頭を撫で「なにすんだよ!」と盛大に怒られた。
「それではよろしくお願いします」
「了解」
遠倉 雨音(
gb0338)が蒼河 拓人(
gb2873)に閃光手榴弾を預ける。今回の作戦で使用するためだ。
「多数あるとは分かっていましたが、26箇所‥かなりの数ですね」
雨音が言ったのはキメラプラントのことだ。UPC軍は傭兵と共同でいくつかは潰したが、それでもまだ多く残っている。
(「‥この前戦ったあの2匹のような強敵がいないと助かるのですが‥」)
ハイブリッドバグズ――雨音の脳裏をよぎるバッタの頭部を持った人型キメラの姿。
あれは相当な強敵だった。気を引き締めねば。
そして雨音は美咲に作戦中は無線連絡を密にすることと、冴にスキルを使ってトラップを警戒するよう要請するのだった。
「やぁ、最近の活躍、色々聞いているよ。また宜しくな」
にこっと爽やかな笑みを浮かべる夏目 リョウ(
gb2267)。
今回彼が参加したのは人々の笑顔を守る為‥そして美咲に会いたかったから、である。
「色々と大変そうだけど、一人も欠けることなく帰ってこようね」
拓人は乙女分隊の活躍を聞き喜ばしく思いつつ丁度良く派遣要請を受けた次第だ。
全員無事に帰ってくることを固く心に誓う。
「アスレードやバークレー級と生身で戦うにはまだまだ実力が足りませんわね‥。己を磨き、いつか一騎討ちできるようになりたいですわ」
いつか敵のエースとも対等に渡り合えるようになりたいと意気込むエリザ(
gb3560)。
「ふむ、女性だけの部隊か‥」
郷田 信一郎(
gb5079)はα−01部隊が女性だけの分隊だということで興味を抱いた様である。
しかし決して下心などがあるわけではない。強面で硬派な彼にそんな事があるわけがないのだ!
‥そのような感じで打ち合わせを終えた一同は軍用トラックに乗り込み、現地へと向かう‥。
●突入
キメラプラント乙12号付近に到着した傭兵達と乙女分隊は直ちに展開を開始。
傭兵部隊は西側、乙女分隊は東側から突入を図る。
班分けは‥
A班:信人、ヴァレス、拓人、雨音
B班:小雛、リョウ、エリザ、信一郎
プラント破壊班:雨音、信一郎
‥となっている。
作戦は、キメラの撃破ではなくプラント破壊を最優先にした形だ。
「乙女分隊から連絡。入り口を確保。爆薬の設置が完了したそうだよ」
無線機を片手に拓人が言った。
傭兵部隊も難なく西側の入り口の確保に成功。守備がビートルだけだった為だ。
あちらこちらにビートルの骸が転がっている。
「勢い任せなど、趣味では無いが‥」
信人の背後にはシスター姿の少女の幻影がふよふよと浮かんでいる。
「早乙女達の為にも、出来る限り虫達を引き付けないとな」
AU−KVミカエル『騎煌』を身に纏ったリョウが拳を握る。
「雲行きが怪しいですね‥」
雨音が空を見上げると暗雲が立ち込めていた。嫌な予感がする‥。
「それじゃ、いくよ‥突入!」
拓人の号令で全員が洞窟内に侵入。
しばらくして、拓人の提案に従い、東側の乙女分隊も突入を開始する。
‥傭兵達はプラントへと通ずる通路を進む。壁面は無機質とも有機質とも見て取れる、血管のようなパイプが張り巡らされた不気味な造りであり、青白く発光している。
敵はビートルが点在するのみでさしたる抵抗は見られない。
「ビートル如きに遅れは取りませんわ。‥拍子抜けですわね」
「いや、気を抜くな。いつ強敵が出てくるか判らない」
物足りないと愚痴を零すエリザを信一郎が諭した。二人とも重厚なAU−KVバハムートを装着している。エリザのほうはカスタマイズされており若干外見は異なるが‥。
一方、乙女分隊。
「皆! 邪魔になる敵だけ狙って! 他は相手にしないで!」
美咲の声に「了解!」と答える隊員。
彼女らは進路上の敵のみを倒しつつ突き進む。
しかし‥ビートルの数が多い。
(「さすがに10番代だけある‥でも!」)
必至に槍を振るう美咲。
再び傭兵部隊。
彼らは最短ルートを選んだだけあって最深部近くまで到達していた。
すると――急に通路が広くなる。横幅だけでなく天井も高い。
「ここは‥」
信人は辺りを見回す。そのとき‥ピリピリとした殺気を頬に感じた。
「皆、気をつけろ!」
声が上がった。ヴァレスだ。
それぞれの武器を手に、構える一行。
目の前に姿を現したのは‥トンボのような頭部と羽を持ち、飛行している人型キメラと‥アリのような頭部を持ち、逞しい体格の人型キメラ。
「これは‥! この前戦った‥いえ、それとはまた別の個体‥?」
言ったのは雨音。前回のプラント攻略時に見たものとは違うが‥これは‥間違いない、ハイブリッドバグズだ。
そして当然、二体は侵入者に対し襲い掛かってきた。
●バグズの脅威
傭兵達はバグズ二体を牽制しながら最深部を目指す。
接敵直後に信一郎が閃光手榴弾を使用したのでバグズ二体は一瞬怯んだがすぐに追いついてきた。
信人がクルシフィクスを振り回しビートルを蹴散らして進路を切り開く。同じくヴァレスが大鎌「紫苑」を振るう。拓人はエネルギーガンを放ち、雨音はSMGをばら撒きバグズの接近を許さない。
リョウ、エリザ、信一郎はAU−KVの装輪走行で駆け抜ける。一人生身の小雛はエネルギーガンを射撃しながら置いていかれないように必死に走る。
「AU‥KVの‥機動力は‥すごいですわね‥まったく!」
しばらくして、最深部手前に到達。
「こちら傭兵部隊、最深部手前に到着。そっちは?」
拓人が無線機で美咲に連絡。
『‥こっちはTビートルと遭遇! 現在交戦中! 足止めを食ってる!』
「くっ、了解」
Tビートルの硬さは厄介だ‥仕方が無い。
「雨音さん! 信一郎さん!」
「了解です」
「了解した」
拓人の声に頷く二人。プラント破壊班である二人は先に最深部へと突入した。
残り6人は反転。応戦の体勢に移行。
小雛がバグズIに向けてエネルギーガンを連射。庇うように前に出てくるバグズD。それを見たリョウは‥竜の翼で加速し、猛チャージをかける。竜の咆哮を乗せた斧槍・インサージェントを勢い良く突き出し、バグズDを弾き飛ばす。
「‥早乙女達との模擬戦、俺も得る所は大きかったからね」
模擬戦で美咲を倒した最後の一撃を思い出すリョウ。
バグズ二体の分断に成功した傭兵達は二班に分かれて各個撃破を狙う。
A班――
バグズIの攻撃は熾烈を極めた。次々に飛んでくる光弾、波動による範囲攻撃。
とても避けきれるものではない。みるみるうちにダメージを負っていく3人。
しかもこちらの攻撃は殆ど飛行して回避されてしまう。
「うわっ!?」
拓人に向けて放たれる光弾。だが、それに立ち塞がる者が居た。
「‥よっちーアニキ‥」
信人だ。
「問題はない。念の為に鍛えた胸筋を仕込んである」
ぶっきらぼうに言う。信人の胸元は焼け焦げ、しゅうしゅうと煙が上がっていた。
「まだまだ!」
同じく光弾を受けていたヴァレス。
「「ふんっ!」」
気合いと共に二人は活性化を使用。ダメージを回復する。
B班――
バグズDに向けて攻撃を仕掛けるB班の3人。しかし分厚い甲殻とFFに阻まれる。絶大な威力を誇るエリザの竜斬斧「ベオウルフ」を持ってしても腕に斬り込みが入るだけで斬り落とすまでは至らない。
「強敵‥ですわね‥」
「そのようです‥」
エリザの言葉に小雛が答える。
正面からの殴り合い‥上等だ。
再び斬りかかるエリザ。バグズDは口から強酸を放った。間一髪避けるエリザであったがAU−KVの装甲の一部を溶かされてしまう。
「これは‥」
ますます上等だ。ヘルメットごしにエリザは笑みを浮かべた。
最深部・培養プラント――
雨音と信一郎がカプセルの破壊活動を行う。しかし数が多く中々減らない。そこへ‥
「ごめんなさい! 遅くなりました!」
美咲達、乙女分隊が到着。冴が最終通路にC4を設置。東入り口と同時に爆破!
分隊がやってきた通路が轟音と共に崩れ落ちる。封鎖完了。
警戒に冴と慧子を残し、乙女分隊の隊員がプラント破壊に加わる。
‥格段に効率が上がった。
「蟲どもめ‥!」
100tハンマーで手当たり次第に破壊する信一郎。
雨音もSMGで銃撃。動力パイプらしき物を集中的に狙う。
培養カプセルが敷き詰められた巨大なドーム状の空間にビートルの幼生の断末魔がこだまする‥。
「何度聞いても、聞き慣れませんね‥」
「ほんと‥」
顔をしかめる雨音に美咲が頷いた。
A班――
尚も戦闘は続いていた。
バグズIにはそれなりにダメージを与える事は出来ているものの、損耗が大きい。
「‥信人、拓人、あれをやるぞ」
ヴァレスが口を開いた。
視線を交わす3人。‥心の通い合った仲間である彼らにはそれで充分だった。
そして――拓人が閃光手榴弾を投擲。バグズIを怯ませる。
続いて信人とヴァレスが動いた。
信人がソニックブームを放つ。回避しようと空中に逃れるバグズI。
それを見計らって信人は剣を前方の地面に突き刺し、両手を確保。
信人の手を足場にしたヴァレスをバグズIに向かって放り投げる。
「ヴァレスvsバグズ! 名前の長さはお前の勝ちだ」
一文字違い。本当はバグズIなので‥いや、これは蛇足か。
「はあああっ!!」
大鎌で力いっぱい斬り掛かるヴァレス。それは確かにバグズIを捉えた。
「これで終わりだと思うな!」
そこへ全てのスキルを使用した拓人のアラスカ454による渾身の射撃。
「自分達の本気を受け取れ‥さあ、地に堕ちろっ!」
極光のように煌く瞳が敵を見据える。
まともに受けたバグズIは墜落。更にダッシュで剣を回収した信人の追撃。
‥そうして、ついに動きを止めるバグズI。
地面にへたり込み、3人は拳を突き合わせる。こちらもダメージが大きい。
あとは‥‥
●護りたいもの
B班――
バグズIが倒されたその時、バグズDに変化があった。
護衛対象が次の優先順位へ移ったのだ。それは‥培養プラント。
その鈍重そうな身に似つかわしくない素早さで最深部へ向かう。
「しまった!」
咄嗟のことで反応が遅れた。B班は急いで後を追う。
最深部――
突如現れたバグズDに混乱する破壊班と乙女分隊。
バグズDは一番手前に居た美咲に襲い掛かる。
「早乙女ーーーっ!!」
全速力で追いついてきたリョウが割り込み、美咲を押し倒して庇う。
バグズDから吐き出された強酸がAU−KVの装甲を溶かし、リョウの背中を焼いた。
「‥‥っ!!」
「‥‥リョウ‥‥くん?」
美咲は一瞬、何が起こったか判らなかった。
「やらせない‥俺は‥俺の護りたいものを‥護り切る‥」
先ほどまでの戦闘で損傷し、割れたヘルメットの隙間から、リョウの笑みが覗いた。
その後‥意識を失い、がくりと崩れ落ちるリョウ。
「よくもやってくれましたわね!」
遅れて追いついたエリザがバグズDの背にベオウルフの一撃を叩き込む。
「赦せません! 成敗!」
続いてやってきた小雛が全てのスキルを使用し、トドメを刺す。
「‥‥」
目の前で起こったあまりの出来事に、茫然自失となる美咲。
まただ‥また私の所為で‥仲間が傷ついた‥また‥。
昨年末のトラウマが蘇る。あの時は先生、今度はリョウくん。
私は‥私は‥‥。頭が真っ白になった。
「おい! まだ作戦行動中だ!」
ヴァレスの声ではっと我に返る。A班も追いついたのだ。
そうだ、リョウくんは‥。
見てみると、ちずるの練成治療を受けるリョウの姿が眼に入った。生きてはいる様だ。
「私‥‥私‥‥」
「美咲、君は指揮官だ! 君がしっかりしないでどうする!」
ヴァレスに叱咤され、美咲は思考を取り戻す。そうだ、今は‥‥
分隊のメンバーに指示を出す。脅威は無くなった。ちずるを除いた全員で破壊活動に当たる。傭兵達も加わる。
‥粗方破壊した後、C4を設置する雨音。そして皆は西側から脱出。
リョウは信一郎に担がれていた。
安全圏まで離れた後、雨音は起爆スイッチを押す。爆音。濛々と立ち昇る黒煙。‥いつしか曇り空は雨に変わり、彼女の髪を濡らす。艶やかなそれは、まるで窓を伝う雨だれ。
基地へ帰還した一行。
リョウは医務室に運ばれる。それに付き添う美咲。
中へ入るのは野暮なので、他の者は外で待つことにした。
とりあえず、任務の成功に安堵する一同。
「流石に疲れた。さて、今回は煙草を持ってきたし、一服を‥」
煙草を取り出す信人だったがライターが無いことに気付く。
その上、ちずるに「煙草は喫煙所でお願いしますっ」と怒られてしまった。散々だ。
ちなみにそのちずるは小雛とべたべたしていた。スキンシップだそうな。
‥ナニをやっているんですか貴女達は。
医務室――
「‥んっ‥」
ベッドの上で意識を取り戻すリョウ。
「リョウくん!! 良かった! 良かった!」
それを見てリョウにすがりつき、大泣きする美咲。
「ちょ、どうしたのさ」
「死んじゃうかと思った‥!!」
わんわん泣く美咲に対しリョウは「大丈夫」と微笑んだ後‥
「泣かないで。君は笑顔の方が似合う。‥言ったろ、俺はあの時みたいな、君達の笑顔‥特に美咲、君の笑顔を守る為に戦っているって。でも、泣いている顔も可愛いけどね」
と言った。それ聞いて、耳まで顔を真っ赤にする美咲だったそうな‥。