●リプレイ本文
●ムシギライ
「なんだか皆、疲れてるみたい‥‥」
志烏 都色(
gb2027)が周りを見回しながら言った。
能力者達は問題の村の地図を入手するため、隣村の小隊詰め所を訪れていた。詰め所とはいっても小さな公民館を間借りしただけの貧相な物だ。ちらほらと見かける兵士は皆地面に座り込んでおり、非常に疲弊した様子である。
「虫の対処に追われているんだろうね‥‥。大量に‥‥出現したらしいし‥‥」
幡多野 克(
ga0444)が口を開いた。表情はいつものポーカーフェイス。
「虫‥‥虫‥‥嫌ぁ〜!!」
虫という単語に過敏に反応したのはナレイン・フェルド(
ga0506)。彼女‥‥いや、彼は自他共に認める虫嫌いだ。縮こまってぷるぷると小刻みに震えている。
「ナレイン、大丈夫?」
中性的な雰囲気の女性、ケイ・リヒャルト(
ga0598)が屈んで心配そうに見つめる。しなやかな黒髪が揺れた。
「えと、んと、大丈夫ですよ!きっと克服できるのです!」
ちみっこく可愛らしい少女のような男の子がナレインに駆け寄って励ます。ヨグ=ニグラス(
gb1949)だ。
「ヨグちゃん‥‥うう、がんばってみるわ」
そう答えると、ナレインは力なく立ち上がった。
「虫ねぇ‥‥。私も嫌だけど‥‥そこまでじゃないかな」
「虫ですか。どうも‥‥‥‥ぞっとしませんね」
月宮 空音(
gb2693)がポツリと漏らすと、フェイス(
gb2501)がわざとらしく続いた。
「虫、虫って‥‥皆のいぢわるぅ〜!!」
「あ! ナレイン姉様ー!!」
泣きながら駆け出すナレイン。一体どこへ行くつもりだろう。ヨグがそれを追いかける。
「今日の任務は大暴れできそうですね。俺の力の見せ所だ!」
そんな様子を気に留めることもなく、一人だけハリキリモードなのはところどころメタリックなボディの立浪 光佑(
gb2422)。額のV字アンテナが目を引く。何かのコスプレなのか、それとも覚醒状態で表れた身体の変化なのか‥‥まあ、今は深く考えないでおこう。
「ともかく、地図を受け取りましょう。話はそれからです」
ふっと笑みを浮かべつつフェイスは公民館の中へと足を進めた。後に続く一行。
しかし、公民館の中に依頼主であるUPC将校の姿は無かった。どうやら虫型キメラの対応のため九州戦線の各地を転々としているらしい。部下から村の地図を受け取る事は出来たので問題は無かったが。
能力者達は地図を元に建物の位置などを確認し、いよいよ問題の廃村へ向かうのだった。
●探索開始
村に着いた能力者ご一行。廃村だけに人っ子一人おらずしんと静まり返っている。周囲を背の高い杉の森に囲まれているのでやや薄暗い。ちょっと不気味だ。
「寂しいとこだね‥‥」
「廃村なんてこんなものだと思うよ?」
都色が言うと空音が答えた。雑草が生い茂る荒れ果てた田畑が続き、シダ植物の蔦が絡まった家屋がポツポツと見える‥‥。
「そっけないなあ、もう!」
ぷうと頬を膨らませる都色。
「こういう性格なんだから仕方ないでしょ」
ぷいと横を向く空音。銀の髪が風に揺れる。
「敵はブラインドビートル‥‥だっけ。一匹一匹は弱いと‥‥しても‥‥数でかかられると‥‥厄介だね‥‥。どれほど‥‥ここに潜んでいるのか‥‥分からないけど‥‥。大変な‥‥殲滅戦になるかも‥‥」
克は顎に手を当てる。
「どの辺りに潜んでいるのやら。距離のある段階で見つけたいところです。さて、害虫駆除と行きましょうか」
フェイスの言葉に皆が頷く。そして能力者達は二手に分かれて探索を開始した。
A班が克、ケイ、都色、空音。B班がナレイン、ヨグ、光佑、フェイスという編成である。
‥‥分かれて数分後、B班の面々にいきなり5匹の虫型キメラ‥‥ブラインドビートルが出現、襲い掛かってきた。大きさは20cmほど。キメラとしては超小型に分類される。その小ささのため、接近されるまで気づく事が出来なかった。
「きゃぁぁぁ〜! 出たぁぁぁ〜!!」
ナレインが悲鳴を上げてAU−KVリンドヴルムを装着したヨグの後ろに隠れる。
「え、えと、頑張るですっ!ナレイン姉様が頼りですよっ!」
困った様子のヨグだったがガッションガッション動いて必死にナレインを勇気付ける。
「はうううう‥‥」
その間にも二人をカバーするように光佑とフェイスが迎撃に入る。
「‥‥‥‥‥‥っ!」
覚醒し手の甲に赤い線が浮かび上がったフェイスが強弾撃を発動しアサルトライフルを連続で放つ。
外れ。
命中。
命中。
蜂の巣となったブラインドビートルの1匹が地に落ちた。
「来たか! 虫のバケモノめ!」
続いて光佑が小銃S−01を連射。
命中。
辛うじて命中。
2匹目のブラインドビードルが落ちる。
「ボクもいくです!」
少し出遅れたヨグがハンドガンを構える。敵とはまだ少し距離があるので銃器を選択した。そして発砲。
命中。
命中。
ど真ん中に命中。
3匹目のブラインドビートルを撃破。
「やりましたです!」
「うぅ、やるしかないのねぇ〜」
ヨグのがんばりに背を押されたようだ。覚醒。肌が艶かしい褐色に変わる。震える手で小銃S−01を構え、狙いを定めて発砲。
初弾、外れ。手の震えの所為だろうか。
「にゃうう〜!!」
ムキになりつつ続けて発砲。
今度は命中。
またも命中。
4匹目撃破。
「やったわ〜!」
しかし、最後の1匹がナレインに迫る。
「ナレイン姉様ーっ!!」
ヨグが叫ぶ。ナレインは咄嗟に反応して‥‥
「近付かないでぇ〜!」
刹那の爪による回し蹴りを放った。
八つ裂きになるブラインドビートル。
が――
ビシャッ!!
ブラインドビートルの体液がナレインの顔にかかった。
つんとする臭いが鼻腔を刺激する。
その直後、ナレインの悲鳴が上がったのは言うまでも無い。
「ううっ‥‥」
「もう泣かないでください。ね? ナレイン姉様」
「汚い‥‥くしゃい‥‥」
ナレインはヨグにハンカチで顔を拭き拭きしてもらっていた。
「A班も虫に襲われたようです。もっとも、すぐに倒したようですが」
無線機を片手に連絡を取っていたフェイスがその様子を見て苦笑いする。
「しかし、ブラインドビートルってけっこう硬いんだな。虫の癖に」
腑に落ちない様子の光佑。
「一撃では倒せませんでしたからね。耐久力は低いようですが、けっこう防御力は高い‥‥ん?」
そのとき、A班が敵の増援に襲われたとの報が入った。
●奇襲
少し前――
ブラインドビートルを倒し終えたA班の面々は廃屋の陰で小休止していた。
「まったく、手ごたえの無い相手ね」
物足りない様子のケイ。こちらに出現したブラインドビートルは4匹と少なかったため、数分も掛らずに撃破してしまった。実力の差もあるかもしれないが。‥‥ケイの滑らかな色白の肌は汗一つかいていない。
「そうだね‥‥やはり個々の能力は大したこと‥‥無いらしい‥‥」
月詠にこびりついたブラインドビートルの体液を布で拭いながら頷く克。
「二人とも凄いよねー」
感心した様子の都色。ケイと克はほぼ一撃でブラインドビートルを倒していた。さすがは場数を踏んだ傭兵といったところか。
「まあ、確かに大したことは無かったけど‥‥」
空音が愛銃のフォルトゥナ・マヨールーに弾を込めながら言った。
「そういえばこの廃屋、中はどうなってるのかな」
「知らない。見たくもないし‥‥」
蔦の絡まった空き家に興味を示す都色と、まったく興味なしの空音。
「まぁたそっけない〜! ‥‥このドア、開くかな」
「やめたほうが良いと思うけど」
「よいしょお〜!」
都色が勢い良く錆びかけていた引き戸を引っ張る。
「開いた!」
と、思った途端、物凄い数のブラインドビートルが飛び出してきた!
「きゃー!?」
そう、ブラインドビートルは廃屋を巣にしていたのだった。
慌ててその場を離れる4人。
「いわんこっちゃない‥‥」
「ご、ごめん。でも、潜んでいる場所が分かったから結果オーライってことで!」
「都合良すぎだよ‥‥」
呆れ顔の空音。走りながらそんなやり取りをする二人。
「とにかく一旦ここを離れるわよ。あと、B班に連絡して合流」
「こちらA班‥‥物凄い数のブラインドビートルと遭遇した‥‥。至急応援を求む‥‥」
ケイの言葉に頷きつつ無線機で連絡を取る克。
合流を果たした能力者達はただちに殲滅行動に入る。
まずケイが動き、スコーピオンと小銃S−01で弾幕を張った。
迫り来るブラインドビートルを一撃で落としていく。
「無粋な踊りね‥‥どうせなら‥‥もっと華麗に舞って頂戴」
サディスティックな笑みを浮かべるケイ。
「虫けらは地を這い蹲っていなさい‥‥」
尚も攻撃の手を緩めないケイ。
「うわ‥‥鳥肌ものだね‥‥。それに多い‥‥何匹いるのこれ‥‥」
空音は心底嫌な顔をしながら弾幕を突破してきたブラインドビートルに対してフォルトゥナ・マヨールーで攻撃を加える。
「このっ! 当たれっ!」
拳銃を連続で放つ都色。しかしなかなか落ちない。
「んもー! じれったい!」
都色は拳銃を投げ捨てると、ヴィアとアーミーナイフに持ち替えた。
ブラインドビートルの体当たりを剣で受け流しつつ、反撃に移る。
「叩き斬ります!」
ヴィアとアーミーナイフを巧みに使い連続で斬りつけた。
「‥‥‥‥」
それまでスコーピオンで射撃していた克が、月詠を抜く。
凄まじい速さでブラインドビートル数匹を真っ二つにした。
‥‥ほどなくして、残りのブラインドビートルも能力者の手によって葬られたのだった。
●念には念を
能力者達はあの後、廃屋を一軒一軒チェックして回っていた。
「害虫駆除‥‥終了‥‥。暫く‥‥虫とかあまり‥‥見たくないね‥‥」
この家で最後。さすがに克も、うんざりした様子。
「もう虫嫌い‥‥、二度と見たくないよ。今ならナレインさんの気持ちも解る‥‥」
その場にへたり込む空音。
「ヨグちゃ〜ん‥‥私は疲れ果てたわ‥‥ギュッてさせて?」
ナレインがAU−KVを脱いだヨグに抱き付く。
「はわわ〜ダメですよ〜今は汗臭いですぅ〜」
わたわたと焦るヨグ。しかしナレインは離さない。
「大丈夫よ〜♪ あ〜落ち着くわ〜‥‥」
「はわわ〜」
ナレインにとってヨグは癒しの天使のようだ。
「はあ‥‥あれだけ相手にしても、慣れはしないですね‥‥虫‥‥」
フェイスはさっそく一服していた。
秋を感じさせる涼しげな風を肌に感じる。
夕焼けの空を眺めつつ、紫煙を吐き出す
「腹減った」
そして、光佑の切ないお腹の音が響くのであった‥‥。