タイトル:銀色の風1マスター:とりる

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/01 00:15

●オープニング本文


 14歳、中学2年生の少年、深森・達矢は夢を見た。
 小学生まで仲良くしていた少女の夢。少女の名は牧原・蝶子。
 同じ町に生まれ、家は隣同士、典型的な幼馴染。
 小さい頃から仲良くしていた二人だが‥‥
 彼女は親の勧めで私立中学に進学。小学校卒業と同時に家族揃って引っ越してしまった。
 最初こそメールや電話をしていたのだが思春期ゆえにどうにも気恥ずかしく、達矢のほうからはあまり連絡を取らなくなり、そのうち疎遠になってしまった。
 それから1年以上が過ぎ、すっかり忘れていた達矢であったが、ある晩、夢を見た。
 彼女が引っ越していったその日の夢。彼女の悲しそうな顔‥‥。
「もう、会えなくなっちゃうね」
「そんなに遠くないんだし、会おうと思えば会えるって」
「‥‥そ、そうだよね。‥‥あの、たっちゃん。たっちゃんは覚えてる? ‥‥昔の約束」
「約束?」
「あたしを、お嫁さんにもらってくれるって約束」
「ぶっ!? お前、そんなこと覚えてたのかよ。幼稚園のときの話だろ」
「約束は約束だよ。ちゃんと守ってね。あたし、帰ってくるから、大学を卒業したら、必ず帰ってくるから。絶対、絶対だよ! 絶対‥‥」
 そこで達矢は目覚める。枕もとの目覚まし時計を見ると‥‥朝5時半。朝食にはまだ早い。達矢は散歩をすることにする。
 山間部の、森の囲まれた小さな町。家から出たらすぐ森だ。そこを歩くのが小さい頃からの日課である。
(「そういえば、昔は蝶子も一緒に散歩したっけ‥‥」)
 森を歩く達矢。進んでいくと‥‥ある光景を目にした。
 大きな、数羽のアゲハチョウに囲まれた‥‥少女‥‥?
 いや、違う。少女の背中からは、アゲハチョウと同じ様な羽が生えている。コスプレ‥‥などではない。
 しかもその少女は何も纏っておらず、裸体だった。遠くからなのでよくは見えないが思わず顔を赤らめる達矢。
 ‥‥だが、落ち着いて考えてみると‥‥あれらはキメラではないだろうか? 見つかったらマズイ。
 達矢は足早に家へと急いだ。家に帰ると、父親の姿。
「おい達矢、どこへ行っていたんだ」
「えーと、散歩」
「回覧板を見たか? どうもこの町にキメラが出たらしい。下手に出歩くな」
 ‥‥キメラ? さっき見たやつか?
「これでは‥‥近々軍か傭兵が来るだろうな。ついにこの町もか」
 溜息をつく父親。
「そういえば、お前知ってるか? 前のお隣さんが引っ越した○○市がバグアの襲撃に遭ったそうだ。無事だといいんだが‥‥」
 どくん。達矢は心臓を掴まれた気がした。‥‥聞けばその市はかなりの被害を受けらしく、死傷者・行方不明者も多いらしい。
「蝶子‥‥」
 久しぶりに口にした幼馴染の少女の名前。なんだ、この胸騒ぎは‥‥。
 嫌な予感を覚えつつも、達矢は今現在何が起こっているのか、知るよしも無かった。

 そして数日後、ULTにキメラの駆除依頼が出されるのだった。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
神崎・子虎(ga0513
15歳・♂・DF
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
雪待月(gb5235
21歳・♀・EL
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
犬神 一夜(gb6521
15歳・♂・DG

●リプレイ本文

●深森・達矢
 キメラ駆除の依頼を受け、森に囲まれた山間の町にやってきた傭兵達――
「綺麗な蝶々をキメラにするなんて‥‥バグアは悪趣味ですね」
 エメラルド色の髪に金色の瞳を持つ美少年、ノエル・アレノア(ga0237)が呟く。
「また一緒の依頼に入れたね、ノエルン♪ がんばろうね〜♪」
 そう言ってノエルに抱き付いたのはセーラー服姿の神崎・子虎(ga0513)。
「うわわっ!?」
 頬を赤らめて焦るノエル。一見するとラブラブなカップルだが、子虎は男の娘である。
「やん♪ 恥ずかしがらなくてもいいじゃない☆ 知らない仲でもないんだし♪」
「何を言ってるの?!」
 ノエルの胸を指でくりくりする子虎。激しく動揺するノエル。
 どうやらノエルは子虎にターゲットロックオンされているようだ‥‥。

「こんな静かな町まで荒らすなんて‥‥」
 迂遠石 一千風(ga3970)は顔をしかめる。今やバグアの魔の手はこんな山奥にまで及んでいるのだ。
「蝶の群れか。綺麗だけど、キメラなら殲滅しなきゃね」
 言ったのは冴城 アスカ(gb4188)。本来、蝶とは美しく、人間に親しまれる存在である。しかし、キメラとなれば別だ。敵だ。殲滅するのみ。
「蝶キメラ‥‥ボクの戦い方だと、飛行タイプのキメラとは相性が悪いんですよね‥‥。他の方に迷惑をかけないように、上手く戦わないと」
 少し不安そうな様子のティリア=シルフィード(gb4903)。蝶キメラというからには飛行しているに違いない。ちゃんと戦えるだろうか‥‥。
「被害が出る前に駆除してしまわないといけませんね」
「ええ、緑豊かな美しいこの町を守らなければ」
 雪待月(gb5235)の言葉に頷くフィルト=リンク(gb5706)。
「よろしくす! 皆、頑張っていきましょ! バグアの好きにはさせないす!」
 犬神 一夜(gb6521)が元気一杯に言ったところで、傭兵達はとりあえず情報収集を開始した。

 聞き込みをして得られたのは、蝶キメラは波動のようなもので広範囲に攻撃を仕掛けてくるということだった。幸い、まだ住民に被害は出ていない。だがそれも時間の問題だ。傭兵達が森へ向かおうとしたところ――
「ちょ、ちょっと待ってくれー!」
 走ってくる足音と共に背後から声。振り返る傭兵達。
「はあ‥‥はあ‥‥。あんた達‥‥傭兵だろ?」
 どこにでもいそうな、ごく普通の少年の姿。顔は中の上(子虎評価)。
 肩で息をしながら少年はそう訪ねてきた。
「はい。そうですが、なにか?」
 フィルトが答える。
「俺も一緒に連れて行って欲しいんだ!」
 少年は突拍子もないことを言い出した。
「森は危険。必ずキメラは全て取り除くから。安心して待っていて」
「キメラはあなたが思っている以上に危険な存在よ? 何故同行しようと思ったの?」
「‥‥え? 森に行きたい‥‥? なんでそんなことを? 危ないよ?」
「どうして一緒に行きたいと言われるのか、理由をお聞かせ願えますか?」
「事情無しで危険な場所へは連れていけません。訳をお聞きしたいところですね」
 一度に口を開く女性陣。一千風にあっさり拒否され、アスカ・ティリア・雪待月・フィルトからは質問攻めにされ、たじたじとなる少年。‥‥一千風とアスカとフィルトは長身の美人。ボーイッシュな魅力のティリア。雪待月は一際可憐。そんな、綺麗な女性達に詰め寄られたらこうなってしまうのも仕方あるまい。思春期の男子なら尚更だ。
「え、えーと‥‥あの‥‥」
 すっかり気圧されてしまった様子の少年‥‥。
「ごめんね、脅しているわけじゃないんだ。キメラはホントに危険。一緒に行きたいっていう、理由を聞かせてもらえるかな」
 そこへノエルが助け舟を出す。なんとか落ち着いた少年は、少し間を置いて話し始めた。
「‥‥俺、森で人型キメラを見たんだ」
「人型キメラ? その話は初耳だね」
 子虎はあごに手を当てる。
「目撃情報は蝶キメラだけの筈す!」
 一夜が補足。
「大人の人には知らせなかったんですか?」
 疑問を口にするティリア。
「ああ。親には言いたくなかった‥‥でも、傭兵さん達には話そうと思って‥‥」
 俯く少年。
「うーん、蝶以外にいるとなると気をつけなきゃ。どんな姿なんだろ?」
 首をかしげる子虎。
「女の子の姿をしてて、背中に蝶の羽が生えてる。遠くから見ただけだからそれ以上は知らない。‥‥なんか、自分でもよく分からないんだけど、気になってしょうがないんだ‥‥!」
 自分の胸を掴む少年。このモヤモヤした気持ちの正体を知りたかった。
「だから、俺も連れて行ってくれ!!」
 切実な願い‥‥。
「‥‥そう、だけどよく聞いて。これから起きる事はあなたの心に大きく傷をつけるかもしれない‥‥それでも行きたい?」
「私達の傍を離れないと、お約束して頂けますか?」
 アスカと雪待月が問う。強く頷く少年。
「わかりました。貴方が見たキメラを見つけられるよう、守らせて下さい」
 優しく微笑む雪待月。ほんの少し頬を赤らめる少年。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったす!」
「あ、ごめん。俺は深森・達矢。中学二年だ」
 一夜の言葉に少年‥‥達矢は少しだけ笑みを見せた。

●キメラバタフライ・1
 傭兵達は森へ入り、二手に分かれて蝶キメラの駆除を開始。
 
 こちらはA班。反時計回りに森を回る。
 メンバーはノエル、子虎、一千風、一夜。
 ノエルは子虎、一千風は一夜とペアを組んで行動。
「ふふふ、ノエルンと一緒に蝶退治〜♪」
 大大大好きなノエルと同じ班になり、ご機嫌な子虎。可愛らしい外見に似合わない大剣を背に、スキップしながら歩いている。
「子虎くん‥‥はしゃぎすぎないでね? 結構依頼を一緒にすることがあるけど、こうして生身で戦うのは初めてかもしれないね」
 釘を刺すノエル。でも、親しい友人と一緒になるのは悪い気はしない。
「ノエルンの背中は僕が守るから♪」
「じゃあ子虎くんの背中は僕が守らせてもらうね」
 微笑み合う二人。
「なんだからあっちの二人はすごく仲が良いみたいす。こっちも仲良く――」
「蝶キメラがいつ出てくるかわからない。ふざけてないで集中して」
 一夜の言葉を遮る一千風。
「ひ、ひどいす!」
 冷たくあしらわれてしまった‥‥。がんばれ、一夜!

 しばらく歩くと――
「む、蝶キメラ発見♪」
 2匹の巨大なアゲハチョウを発見。言ったのは子虎。通常ではあり得ないサイズ。キメラだ。
「さて、戦闘はノエルンと僕とのラブラブ連携でOK?」
「どんな連携なのそれは!」
 ウィンクしてくる子虎に汗を垂らすノエル。
「それじゃ‥‥さっと倒そうか?」
 子虎が覚醒。髪が銀色に、瞳が紅色に染まる。他の3人も覚醒し、一気に距離を詰める。
 4人に気付いたキメラバタフライは波動を放ってくる。4人は2人ずつに分かれて散開して避ける。
 ノエルが疾風脚を使い、1匹の側面に回り込みロエティシアの爪で斬りつける。
「はあっ!」
 隙が出来たところで、子虎が刀身に竜が刻まれた大剣「竜影」を振り被る。
「動きが止まれば僕でも‥‥!」
 その重厚な大剣に身を斬り裂かれ、キメラバタフライは真っ二つになった。
「ッチィ、しゃらくせぇ! てめぇらちょこまかうぜぇよ!」
 M−121ガトリング砲の弾をばら撒く、AU−KVリンドヴルムを装着した一夜。回避方向を限定させる。
「‥‥!」
 そこに待ち構えていた一千風がフェイントを交えつつ動きを止め、紺碧の刀身を持つ剣・オルカで数度斬り付け、トドメを刺した。

 その後もA班は何度か蝶キメラに遭遇したが、大して苦戦はしなかった。
 波動の範囲攻撃は厄介だが耐久力は低いようだった。

●キメラバタフライ・2
 B班。こちらは時計回りに森を回る。
 メンバーはアスカ、ティリア、雪待月、フィルト。そして達矢。
 アスカはティリア、雪待月はフィルトとペアを組んで行動。
 後者は達矢の護衛が優先である。

 森を進んでいく一行。木々は広葉樹がほとんどで、瑞々しい緑の葉が目に優しい。
 息を吸うと、清涼な空気が肺を満たす。梅雨の湿気は多少あったが、全然気にならない。これがキメラ退治でなければ森林浴を楽しんでいたところだが、そうもいかなかった‥‥。B班はこれまで二度、蝶キメラと遭遇していた。最初は3匹。二度目も3匹。そして――
 今度は4匹の蝶キメラを、集中して索敵に当たっていたフィルトが発見。
「雪さんは援護と、達矢さんの護衛、お願いしますね」
 フィルトが雪待月に言った。彼女は頷く。
「了解しました。フィルト姉様」
 そしてアスカとティリアがすぐさま前に出る。
「綺麗なキメラ‥‥退治するのがもったいないわ。でもあの攻撃は厄介。短期決戦でいくわよ」
 覚醒し赤く染まった瞳を揺らめかせ、身体から湯気を立ち昇らせたアスカが波動の射程外から疾風脚で接近し急所突きを使用。拳銃、シルバー・チャリオッツとゴールド・クラウンの銃弾を叩き込み、仰け反ったところで蛇剋に持ち替え、斬り裂く。1匹が落ちた。
 ティリアはアスカの死角をカバーしつつ木々を盾にして接近。
「――ッ! 多少素早くても‥‥その程度!」
 右手に赤、左手に青のオーラを纏わせ、円閃を使用し二刀小太刀「永劫回帰」でキメラバタフライの羽を狙う。4撃ほどで2匹目が落ちた。
 突破してきたキメラバタフライ2匹の波動が雪待月とフィルト、達矢を襲う。
 雪待月は達矢を抱きかかえて庇い、横っ飛びに回避。
「近づくものから叩きます」
 AU−KVリンドヴルムを装着したフィルトが試作銃「グロリア改」を連続で放った。反撃の波動を避けつつ、再度連射。3匹目が落ちた。
 達矢を後ろに下がらせ、和弓「六華」から蛍火に持ち替え、キメラバタフライに斬撃を浴びせる雪待月。だが、まだ落ちない。反撃の波動――
 が来るかと思われたが、横からフィルトが竜の咆哮でキメラバタフライを弾き飛ばす。
「フィルト姉様‥‥ありがとうございます」
「いえ、それより今はキメラを」
「はい!」
 フィルトと雪待月は連携して残る1匹を始末した‥‥。

●風の妖精
 引き続き森の中を散策中のA班。
「‥‥ん?」
 そのとき、子虎が何かに気付いた。遠くをよく見てみると開けた場所があり、その真ん中に人影らしきものが佇んでいた。その背中からは‥‥蝶の羽が生えている‥‥ように見えた。
「人型キメラ‥‥あれのことかな?」
 A班の面々はなるべく足音を立てずに近づく。すると――
「な、ななな! は、裸じゃないすか‥‥」
 リンドヴルムのヘルメットの下で顔を真っ赤にする一夜。
 そこに居たのは、美しい‥‥裸体の少女。きめ細やかな白い肌の肢体。
 ただ‥‥人間と違う点がある。それは、背中から蝶の羽を生やしているということ。作り物ではない。これが達矢の言っていた人型キメラに間違いないだろう。
「しっ、黙って。気付かれたらまずいよ」
 そう言うノエルも頬を赤らめている。
「ともかく、B班に連絡を」
「うん、了解」
 一千風の言葉に頷き、無線機を取り出す子虎。

 しばらくして、B班が到着。
「‥‥!?」
 目の前の光景に、目を見開く達矢。
 茂みに身を隠して様子を窺う一同。
「あれが‥‥あなたの言っていたキメラね?」
「‥‥」
 アスカが尋ねるが、反応は無い。
(「なんで‥‥」)
「達矢さん」
 フィルトも声を掛けてみるが反応は無い。
(「どうして‥‥」)
「達矢さん? どうされました?」
 雪待月が達矢の肩に手を乗せるが同様だ。
(「嘘だ‥‥」)
「達矢さん! 達矢さん!」
 肩を揺さぶる雪待月。
「‥‥‥‥蝶子っ!!!!」
 達矢は立ち上がり、幼馴染の名前を思い切り叫んだ。
 声に反応し、こちらを向く人型キメラ。そして、人型キメラは達矢のほうを見ると、そのまま羽を広げ、飛び去ってしまった‥‥。
「ねぇ、あのキメラ‥‥なにか悲しそう‥‥あの‥‥なんで悲しそうだったんすか?」
 一夜にはそう見えたらしい。
「ところで、蝶子って誰――」
 一夜が言い終わる前に‥‥がくりと、膝から崩れ落ちる達矢。胸騒ぎの原因が、判明した‥‥。

 蝶キメラの駆除を終え、町に戻った傭兵達と、達矢。彼は帰り道もずっと黙ったままだった。
 達矢の家・達矢の部屋――
 膝を抱え、顔を伏せてたままの達矢に、雪待月が優しく気遣いながら問いかける。
「詳しくお話を聞かせていただけますか?」
「‥‥」
 しばらく沈黙が続き‥‥達矢はやっと口を開いた。
 先ほどの人型キメラが、幼馴染の牧原・蝶子という少女にそっくりだったこと。
 蝶子の一家は昨年引っ越してしまい、そしてその引っ越し先の街が最近バグアに襲われたらしいこと。
「俺‥‥もう何がなんだか‥‥わからない‥‥」
 か細い声で、達矢は呟いた。

 達矢の家・一階リビング――
 フィルトは達矢の父親に話を聞いていた。
「牧原・蝶子さんという方はご存知ですね」
「ああ、お隣さんでしたからね。小さい頃からよく達矢と遊んでくれていました」
「その蝶子さんの、引っ越された後の行方をご存知ですか」
「いや、住所くらいしかわからないが‥‥」
「調べておいて下さい。お願いします」
 深く頭を下げるフィルト。深森・達矢‥‥彼の周りで、一体何が起こっているのか‥‥? 謎が多すぎる。このまま放っておくわけにはいかなかった‥‥。