●オープニング本文
前回のリプレイを見る 九州のどこか。森に囲まれた山間の町――
深森・達矢は一心不乱に竹刀を振るっていた。
「こら坊主! 腰が入っとらんぞ!!」
その様子を側で見ていた一人の老人が達矢に向かって怒鳴り飛ばす。
(「くっ‥‥このジジイ‥‥!」)
達矢は奥歯を噛むと、竹刀を握る手に力を込めた。汗が、滴り落ちる。
‥‥今二人が居るのはUPC軍の駐屯所。その練兵場である。
とはいっても公民館を間借りしただけの場所であり、至って質素だった。練兵場も名前だけで、ただの庭だ。
これまでに二度、キメラの襲撃を受けたこの街。それを考慮したUPC軍が防衛策として一個歩兵小隊を駐屯させることにしたのだ。
達矢を怒鳴りつけている老人の名は竹中・宗司。退職自衛官であったが能力者の適正があったため軍に志願。現在は専ら新人能力者の指導を任されている。
竹中はこの街の出身だった。能力者――傭兵となった、同郷の少年、達矢のことを気に掛け‥‥自ら指導役を引き受けていた。
「もっと気合を入れんかい! そんなんではバグアは倒せんぞ!」
「うるさい! 俺はフェンサーだ! 力任せのファイターとは違うんだよ!」
つい、口答えをしてしまう達矢。そう‥‥達矢に発現したのはフェンサーの力だった。ちなみに竹中はファイターである。
「フェンサーもファイターも基本は剣術じゃ! ひよっこの癖に生意気な口を利くんじゃないわい!」
そして当然の如くまた怒鳴られる。
(「くそ‥‥!!」)
言い返したい衝動を抑え、達矢は奥歯をギリリと噛み締める。竹中の言っていることは正しかった。自分はまだひよっこだ‥‥。
数時間後――
「はあ‥‥はあ‥‥」
汗だくになり、肩で息をする達矢。
「よし、少し休憩とする。五分後に再開じゃ」
やっと休憩の許しが出た。達矢はタオルで汗を拭きながら公民館の中に入って座り、冷えた麦茶を一気飲みする。
季節はもう秋だが、日中はまだ日差しが強かった。そのとき――
目の前にあるテレビの映りが急に悪くなった。砂嵐状態だ。
「なんだ? 壊れたのか?」
別に見ていたわけではないが‥‥一体なんだろう。兵士達も数人、集まってくる。
少し間があって、テレビの画面に美しい二十代中盤くらいの女性の姿が映し出された。唇に引かれた真っ赤なルージュが艶かしい。
『UPC軍九州方面隊司令官に告げる。私は芳賀・鞠子。バグアだ。○○市、△△高校の生徒達の身柄を預かっている。‥‥生徒の名前はこちらだ』
「‥‥!?」
テレビに、20名ほどの名前が表示される。『牧原・蝶子』の名前もあった。
「なんじゃこれは!」
竹中が怒鳴る。
「軍曹! これはバグアの電波ジャックです! ちょっと待って下さい‥‥数ヶ月前に起こったキメラによる襲撃事件の際に行方不明になった者のリストと‥‥今テレビに表示されている名前が一致しました!」
通信担当の兵士が答えた。
「犯行声明‥‥。人質とは‥‥卑怯な真似をしおる‥‥!」
眉間に皺を寄せる竹中。
『それから‥‥証拠をお見せしよう』
続いてテレビに映し出されたのは、監禁され、怯える生徒達の姿だった。
「‥‥!!?」
その中に、蝶子の姿もあるではないか!
『人質を解放して欲しければ、UPC軍は九州北部から撤退せよ。一週間以内に兵を退け。要求は以上だ。要求に応じなければ、人質の安全は保障しない』
生徒達を囲んでいる狼のようなキメラがじりじりと迫る。悲鳴が上がった。泣き出す者もいた。
『賢い判断を期待する。くくく‥‥あははは‥‥!!』
女性の高笑いが響いた後、映像はプツリと途絶えた。
北熊本・UPC軍九州方面隊司令部――
「電波の発信元、突き止めました!」
「うむ‥‥」
オペレーターの報告に、頷く司令。
「罠である可能性が高いが、人命が最優先だ。救出作戦を決行する! 部隊の編成を急がせよ!」
●リプレイ本文
●陽動
九州某山中――
新たに『乙27号』と呼称されたキメラプラント――
その付近の森林に身を隠し、陽動作戦の開始を待つ傭兵達と深森・達矢。UPC軍の特殊部隊32名の姿もある。しばらくして‥‥
「時間だ」
特殊部隊の隊長が言った。ほどなく、KV部隊による遠距離砲撃が開始された。砲弾がキメラプラントの周囲に着弾し、爆炎が巻き起こる。それに釣られてプラント周辺に設けられた穴から対KVキメラが出現。引き寄せられてゆく。どうやら初期の陽動は成功したようだ。
そして、地響きを感じながらノエル・アレノア(
ga0237)が口を開く。
「達矢くんはもう立ち向かうことを選んだのだから、どんな困難な壁も打ち砕くのみ‥‥だよ」
若干緊張した様子の、達矢への言葉だった。ノエルは真面目な表情で、ぎゅっと拳を握り締める。
「バグアも中々面白いことするよね。それならこっちもそれなりに対応してあげないと」
敵の卑怯なやり方に、神崎・子虎(
ga0513)も今回は最初から真面目モードのようだ。
「それはそれとして‥‥ノエルン、頑張ろうね♪ 達矢くんも焦らず冷静にね?」
子虎はそう言っていつものようにノエルの腕に抱き付く。これは別口らしい。
「うん」
「ああ」
頷く二人。
「達矢君、子虎君も言ってるけど、冷静さを忘れないように。‥‥それに、私がこんなだから、ね。期待してる」
遠石 一千風(
ga3970)が包帯の巻かれた自分の腕を押さえながら言う。彼女は今回、負傷を押しての参加である。
「ゆっちーは無理すんなよ」
続いてリュウセイ(
ga8181)がゆっちーこと雪待月(
gb5235)に気遣いの言葉をかける。
彼は彼女を気にかけているようだが‥‥どういった意味で気にかけているのだろう。一際可憐な雪待月だけに、変に勘ぐってしまう次第である。
雪待月は「はい」と答えた。
「達矢、能力者になったんなら何があっても辞めたいなんて思うなうよ? 引き返せない道に来たんだ。もし、蝶子がキメラになっていたなら倒せよ?」
「‥‥!」
達矢に対し、現実を突きつけるリュウセイ。このような卑劣な手段を用いる敵である‥‥確かに考えられることだ。達矢は、奥歯を噛み締めた。
「リュウセイさん、それくらいで‥‥。悲観しないで下さいね、達矢さん」
優しく語り掛ける雪待月。
(「きっと、助けますから‥‥」)
胸の前で両手を重ね、目を閉じる‥‥。
(「人質を取ってUPCに撤退要求? 何だかストレート過ぎて裏を感じるわね‥‥」)
冴城 アスカ(
gb4188)は敵の目的は別にあるのではないか、と思考する。
(「それにしても達矢くん‥‥能力者になったのね」)
ついこの間までごく普通の中学生だったのに‥‥とアスカは思う。
(「芳賀・鞠子‥‥あいつは『蝶子さんはまだ生きている、けれどいつまで生きているか分からない』って言っていたと聞いた。もしその言葉が今回のことを意味しているのなら、一刻も早く助け出さないと‥‥!」)
危機感を募らせるティリア=シルフィード(
gb4903)。今にも飛び出したい気分だ。
(「人のことは言えないけれど‥‥達矢さん、無茶しなければいいんだけど‥‥」)
ティリアは達矢の横顔を見る。彼は自分以上に飛び出したい気持ちでいっぱいだろう。
「お久しぶり、ですね。さぁ、行きましょう、達矢さん。今日で、全てを終わらせましょう」
フィルト=リンク(
gb5706)が微笑む。しかし‥‥達矢の表情は曇ったままだ。今回の敵の行動は、罠である可能性が高い。すんなり終わればいいのだが――。
そこで特殊部隊の隊長が「第二次陽動も成功したようだ。これより突入を開始する」と言った。地上の対人キメラは粗方、歩兵中隊が引きつけてくれたらしい。
一行は入り口に向かい、前進を開始する‥‥。
●突入
機械化された蟻の巣穴のような入り口から内部に侵入した一行。しばらく進むとそこは幾重にも分岐しており――
「なんだか、蟻の巣みたいね」
一千風の感想である。まさにその通り。このプラントは複雑な階層構造をしているようだ。
「さて、地下もここまで迷路みたいになっているなんて。とりあえず、分かれようか」
言ったのは子虎。ここからは3班に分かれての行動になる。編成は以下の通り。
A班:ノエル、子虎、リュウセイ
B班:アスカ、ティリア、雪待月
C班:一千風、フィルト、達矢
事前の打ち合わせで、傭兵達がキメラを掃討しつつ最深部を目指し、特殊部隊1個分隊8名がそれに追随、残りは退路の確保。という手はずになっている。また、特殊部隊はマッピングも担当。
「皆さん、どうかお気をつけて‥‥」
雪待月が皆を見回し、言った。
「達矢さんも、どうか無茶はなさらないでくださいね‥‥?」
手をそっと握り、瞳を見つめる。達矢は「わかってる」とだけ答えた。
そして一行は各班に分かれる――。
A班――
「リュウセイアイは探査力! 見せてやろうか男の生き様!」
探査の眼を使用し、先頭を走り、罠を警戒するリュウセイ。
「ん? あれは??」
なにかを発見。それは‥‥通路の天井に取り付けられたタレット(機銃)だった。数秒置いてセンサーがリュウセイ達を捕捉。タレットが起動し、弾丸をばら撒いてくる。
リュウセイは即座に盾を構えて防御。先に発見できたのが幸いだった。そのままスコーピオンで応射。
「いまだいけっ! 思いを無駄にできるとおもうなよ!」
リュウセイが叫ぶ。
「了解。いくよ、子虎くん!」
「OK、ノエルン☆」
ノエルと子虎は武器を構えてダッシュ、跳躍。タレットに攻撃を加える。
タレットは火花を散らしながら吹き飛んだ。
B班――
「おっと! そんなノロマな攻撃は当んないわよ?」
レッドキメラバタフライの火炎放射を横っ飛びに避けるアスカ。
「くっ!」
火炎はティリアにも向かう。狭い通路である。どうしても回避ポイントは限られる。しかし――
「ティアさん!」
雪待月がティリアの前に飛び出した。‥‥虚闇黒衣を用いて庇ったのだ。雪待月は火炎をその身に受ける。
「大丈夫ですか?」
「雪さんこそ!」
「私は大丈夫です」
微笑む雪待月。引火した炎を叩いて消す。
「それより今は‥‥」
「ああ、よくもやってくれたね!」
アスカは蛇剋を構えて瞬天速で飛び出す。雪待月は超機械「ブラックホール」で射撃。やや遅れてティリアも二刀小太刀「永劫回帰」を構えて飛び出す。
攻撃を受け、3体のRキメラバタフライが落ちた。
「綺麗な薔薇にはご用心、ってね♪」
妖艶な笑みを浮かべるアスカであった。
C班――
青白く不気味に発光する通路を突き進む3人。これまで何度かキメラに遭遇したがそれほど数は多くない。陽動が上手くいっているのか? それとも‥‥。
そしてまたキメラバタフライ数匹と遭遇。フィルトがすぐさまSMG二挺を構えて掃射。
「攻撃の隙は与えません!」
続いて傷ついたキメラに向けて達矢が飛び出しヴィアを振るう。
「本調子でなくても‥‥これくらいは」
そこへ和弓「梨揺」による一千風の援護が入る。――瞬く間に、数匹のキメラバタフライが落ちた。
再び走り出す3人。
●発見
『第4階層、クリア』
特殊部隊の隊員からの報告。どうやらこの階層の制圧が完了したようだ。しかしまだ人質は発見できていない。
「また、下に降りる必要がありそうね‥‥」
アスカがうんざりした表情で言う。もうかなり深くまで来ている。特殊部隊によるマッピングで、一行はプラントの構造を把握しつつあった。
「そのようですね‥‥」
とティリア。
「では、参りましょう」
と雪待月。もたもたしている暇は無い。3人はなだらかな傾斜がついた通路を降りてゆく‥‥。
第5階層に到達。急に通路の幅が広がった。天井も先程までと比べると高い。
3人は警戒しながら進む。しばらくすると‥‥大きな扉の前に出た。
「うぅ‥‥ひっく」
「お母さぁん‥‥」
人の、少女達のすすり泣く声が聞こえてくる。
「‥‥!」
見れば、扉には窓があった。恐る恐る覗いてみると‥‥狼キメラに囲まれた、制服姿の少女達の姿があった!
「こちらB班、人質を発見」
即座に他班に連絡するアスカ。
数分後、合流を果たした傭兵達はタイミングを合わせ、一斉に人質が監禁されている部屋へ突入。
ノエルとアスカが瞬天速。ティリアと達矢が迅雷で接近し、狼キメラを人質から引き離す。フィルトは竜の翼で接近した後、竜の咆哮で狼キメラ一体を弾き飛ばした。
「躾のなっていない犬にはお仕置きよ!」
人質から離れたのを確認すると、アスカは急所突きを使用した脚甲「ペルシュロン」による踵落としを狼キメラの頭部に叩き込む。ぐしゃりと音を立てて潰れる頭部。
「やあああっ!!」
刹那と円閃を加えた一撃を叩き込むティリア。あとは――殲滅するのみだった。狼キメラは見かけだけで、大して強くは無かったのだ。
「無事かな? 怪我とかした人はいない?」
「怪我は無いみたいだけど‥‥。安心してください。僕達は傭兵です」
「皆さん、助けに来ました。ゆっくりと此方へ」
人質となっていた少女達に声をかける子虎とノエル。一千風。
「もう大丈夫ですからね」
雪待月は手を差し伸べ、一人一人落ち着かせていった。
特殊部隊の隊員が身元を確認して回る。‥‥20数名、確かに行方不明となっていた本人だった。健康状態は悪くは無いが、やはり数ヶ月も監禁されていたのだ。皆、精神的に疲弊している。コインを軽くぶつけ、FFの有無も確認してみたが問題はない。会話も正常に出来、キメラ化や洗脳は無い様だった。
「ちょっと待ってくれ! 蝶子‥‥蝶子がいない!」
安心したのも束の間。達矢が声を上げる。
「蝶子‥‥牧原・蝶子さん‥‥? 牧原さんは‥‥女の人に‥‥奥へ連れて行かれちゃった‥‥私、止めようとしたんだけど‥‥怖くて‥‥」
メガネをかけたおさげの少女が申し訳なさそうに言った。
「なんだって!?」
「‥‥達矢さん!」
雪待月が達矢をなだめる。達矢は今にも掴み掛からん勢いだった。
気持ちは分かるが、この少女も相当に疲弊している。
「うーん、難しいねー」
子虎があごに手を当てる。
「とりあえず、この子達を無事地上まで送り届けるのが先決」
言ったのは一千風。
そして話し合いの末、班を再編成することに決まった。
A班:ノエル、アスカ、ティリア、フィルト、達矢
脱出時のことも考え、移動スキル持ちの5名が更に奥へ。
B班:子虎、リュウセイ、雪待月、一千風
こちらの4名は特殊部隊と共に人質を地上まで護衛。一千風は負傷しているため、こちらの班である。
一行は二手に分かれ、再び行動を開始。
●脱出
人質が囚われていた部屋の奥にあった階段を下り、更に地下へと進むA班。
そこにあったのは一本の通路。5名は走る。通路の端まで来ると、また扉があった。達矢は躊躇せずに開け放つ。そこには――ずっと、会いたかった。ずっと、思い続けてきた少女の姿。
「蝶子っ!!」
「‥‥たっちゃん? なんでたっちゃんがここに?!」
「お前を、蝶子を助けにきたんだ!」
達矢は駆け寄ろうとするが――
「あ〜ら、感動のご対面ねえ」
芳賀・鞠子が姿を現した。
「お前ぇぇ!!」
達矢は敵意を露にし、鞠子にヴィアを突きつける。
「おっと、それ以上は近づかないで頂戴。この子がどうなってもいいの?」
鞠子の手には鞭。ビシィっと地面を叩く。その鞭は、帯電しているようだった。
「‥‥たっちゃん‥‥」
怯える蝶子。彼女は後ろ手に拘束され、足枷がはめられた、なんとも痛ましい姿だ。
「お前はぁっ! どこまで卑怯なんだ!!」
ノエルが叫ぶ。
「答えろ! 蝶子さんを模したシルフィードと言い、今回の拉致監禁と言い‥‥蝶子さんにそうまでして拘る理由は、何だっ!?」
続いて、ティリアも怒った声で問う。
「知りたい? それはね‥‥教えてあげなぁい」
鞠子はそう言ってパチンと指を鳴らす。すると、5体のシルフィードが出現し、5人を包囲してしまった。
「来るとは思ってたけど‥‥厄介なのが出たわね」
汗を垂らすアスカ。
「罠だと知っていて飛び込んでくるなんて、ホントに馬鹿よね。あははは!!」
鞠子の高笑いが、響いた。
人質を護衛し、地上を目指すB班。しかし――異変が起きていた。
駆逐したはずのキメラが再び出現したのだ。それも、大量に。
「もう! なんなのさ!」
子虎が天剣「ウラノス」で敵を薙ぎ払う。
「ちくしょう! 何なんだよ!」
「罠だったとしか考えられない」
スコーピオンを乱射するリュウセイと、弓では追いつかず、小銃S−01と氷雨に持ち替えて応戦する一千風。
「最初、キメラが少なかったのはこの為ですか‥‥!」
雪待月も超機械を連射。
傭兵達が道を切り開き、特殊部隊が人質を庇いながら進んでいた。だが――
キメラの攻撃を受け、隊員達は次々と倒れてゆく。
「‥‥なんだ? 地上部隊との連絡が‥‥」
「どうしました?」
雪待月が特殊部隊の隊長に問う。
「‥‥いや。ところで、聞いてもらいたい事がある」
走りながら、キメラを倒しなら耳を傾ける傭兵達。
「私達がキメラの足止めをする。その間に、君達は人質を連れて地上へ脱出してくれ」
「なっ!? それじゃ、あんた達は――」
「人質の安全が最優先だ!!」
隊長の声が、リュウセイの言葉をかき消す。
「人質を、頼んだぞ」
そう言って、特殊部隊は反転。少しして、後ろからの追撃は‥‥無くなった。
「今回だけでケリにはさせねぇ! させねぇからな!!」
悔しげな声を上げるリュウセイ。特殊部隊に代わって雪待月と一千風が人質の護衛に付いた。傭兵達は振り返らず、足を進める‥‥。
シルフィードに包囲されているA班――
「このままでは‥‥」
ノエルは表情をしかめる。敵はシルフィード5体、そして強化人間と思われる鞠子。
対してこちらは5名。とても――敵わない。
「皆さん、ここは私が‥‥」
フィルトが皆に小声で話す。
「‥‥! なんでだよ! せっかく、せっかく、ここまで来たのに!」
「次の機会を窺うんです! ここで死んでしまっては終わりです!」
フィルトには珍しく、声を荒げる。それほどに切迫した状況ということだ。
「では、いきますっ‥‥!」
フィルトは竜の翼と竜の咆哮を使用し、シルフィードの一体を弾き飛ばす。道が、開いた!
「今です!」
傭兵達は一気に駆け出す。だが達矢は‥‥
「達矢くん! 早く!」
叫ぶノエル。
「くそ‥‥くそ!」
「達矢くん!!」
アスカも声を上げた。
(「目の前に蝶子がいるのに‥‥俺は‥‥俺は‥‥」)
「たっちゃん! 早く逃げて!」
「‥‥必ず、助けに来るから!! 絶対に、助けに来るから!!」
そう言って、達矢も駆け出した。
「うん! 待ってる! 私、待ってる!!」
通路を走る達矢の耳に、蝶子の声が届いた。希望に満ちた声‥‥。
(「蝶子‥‥!!」)