●オープニング本文
前回のリプレイを見る 九州のどこか。森に囲まれた山間の街――。
UPC軍駐屯所。通信機の前で、難しい顔をしている老人、竹中・宗司の姿がある。
『悪いが何度言われても軍を動かすことは出来ん』
「そこをなんとかしてもらえませんかのぅ」
『無理だと言っている。前回の作戦で我々は多大な損害を受けた。それに、たった一人の少女ために貴重な兵の命を危険に晒すわけには――』
「女子一人の命など見捨てても良いと仰るか!」
『‥‥そうは言わん。我々も苦しいのだ。わかってくれ。すまんな』
相手が謝罪の言葉を告げると、通信が切れた。
「‥‥」
黙り込む竹中。通話していた相手はUPC軍九州方面隊参謀部のお偉いさんであった。
牧原・蝶子を救出するために、再度軍の出動を要請したのだが‥‥断られるばかり。
だがそれも仕方が無い。前回の作戦で軍はKV1個中隊と歩兵1個中隊をほぼ壊滅に追い込まれ、特殊部隊を一つ、全滅させられてしまったのだ。
誘拐事件はやはり、芳賀・鞠子によるUPC軍の戦力を消耗させるための罠だった‥‥。人質の救出には成功したものの、手痛い打撃である。
「竹中じいさん、どうだった?」
そこへ、深森・達矢がやってくる。
――目を瞑り、首を横に振る竹中。
「そうか‥‥ダメか‥‥」
見るからに落ち込んだ様子の達矢。だがこれでも良くなった方だ。
芳賀・鞠子の妨害により蝶子の救出を断念し、撤退、帰還したときはもっと酷かった。
「‥‥」
その様子を見て竹中は思案する。
苦境に陥っている若者のために、この老いぼれが出来ることは‥‥。
竹中は一人頷き、達矢の前まで歩いていき、彼の肩を乱暴に叩く。
「しゃきっとせい坊主! ワシがなんとかしてやる!」
「なんとかって‥‥軍曹くらいの権限でなんとかなるのかよ。小隊も動かせないんだろ」
説得力の無い言葉に達矢は不安な様子。
「ワシらには心強い味方がおる」
「なんだよそれ‥‥まさか、ULT‥‥傭兵の奴らに頼むのか?」
「そのまさかじゃ」
ニカッと笑う竹中。
「でも、報酬はどうすんだよ。俺、そんな金無いよ!」
「だからワシに任せておけと言っておる。蓄えはあるんじゃ。少しじゃがな」
老後のために取っておいた退職金だが‥‥妻を先に亡くし、老い先短い自分には必要ないだろう。
未来を作るのは老人ではない。若者だ。そのためなら惜しむまい。
「竹中じいさん‥‥」
「気にするな、坊主。お前はあの女子を助けることだけ考えればいい」
竹中は再び笑った。
UPC軍呼称・キメラプラント乙27号、最深部――
手術台に乗せられ、手枷と足枷を付けられ、拘束されている牧原・蝶子の姿。
「‥‥っ!」
「はぁい、今日の実験はこれでおしまい。ん? 痛かった〜?」
「‥‥」
「安心しなさい。ただの栄養剤よ」
注射器を弄び、薄ら笑う芳賀・鞠子。
「‥‥」
蝶子は黙ったままだ。
「‥‥その反攻的な目、気に入らないのよね」
鞠子は蝶子の顎を掴み、顔を寄せる。
「きゃっ!」
「でも‥‥容姿は美しく、素晴らしい頭脳を持つ‥‥素材としては最高」
真っ赤な舌でねっとりと蝶子の頬を舐め上げる鞠子。
蝶子は怯え、震えるのみ。
「近々、お前を春日基地に送るわ」
「‥‥!」
「お前ならきっと、良いヨリシロになるでしょうねぇ。くくく、あははは!!」
手術室に鞠子の高笑いが響く。
蝶子はバグアへの貢物にされようとしている‥‥。時間は、あまり残されていなかった‥‥。
●リプレイ本文
●最後のチャンス
キメラプラント乙27号に突入した傭兵達、そして達矢、宗司。
囚われた蝶子を救出するべく、一丸となって最下層を目指し、通路を突き進む――。
「前回の依頼のやり残したことをするために此処へきました。蝶子さんを必ず救出しましょう。‥‥達矢くん、キミが本命だよ。『お姫様』を連れ出したら、絶対放さないでね」
「周りのお邪魔なのは僕達がなんとかするから。自分の役割をきっちりと、ね? 白馬の王子様としてしっかり助けてあげなきゃ」
ノエル・アレノア(
ga0237)と神崎・子虎(
ga0513)が駆けながら言う。達矢は少しだけ頷いて見せた。
「何があろうとも冷静にいつも通りの対応よ」
遠石 一千風(
ga3970)は達矢に注意した後――
「願ってもないチャンスを頂けてありがとうございます。‥‥今度こそ、必ず」
宗司に頭を下げ、再び正面を向き、真っ直ぐ前を見つめる。
「ゆっちー、がんばろうぜ!」
リュウセイ(
ga8181)はゆっちーこと雪待月(
gb5235)を守るべく息巻いている様子。
「ええ、死力を尽くします」
と雪待月は答え、胸に手を当てた。
(「蝶子さん‥‥皆で行くまで、どうかご無事で」)
心の中で、静かに願う。
「これが最後のチャンス‥‥必ず助け出してみせる」
冴城 アスカ(
gb4188)は呟き、きつく拳を握り締める。
彼女の心中にも固い決意があった。
「達矢さんは蝶子さんを助け出すこと、それだけに集中して下さい。ボクたちが必ずチャンスを作ってみせます‥‥!」
声を上げたのはティリア=シルフィード(
gb4903)。
重装甲のAU−KV、バハムートを身に纏ったフィルト=リンク(
gb5706)も皆に続く。
1〜2階層――
「当たらないっ!」
通路をジグザグに走り抜け、天井に設置されたタレットの銃撃を避けるノエル。
「雑魚に構ってる暇はない! 僕たちの目的は一つだけなんだから!」
子虎が跳躍。大剣を振り被り、叩き潰す。火花を散らし爆発を起こすタレット。
ノエルが囮となり、子虎が破壊。そのように対処していった。
「リュウセイアイは探査力! また罠とかないだろうなぁ?」
探査の眼を発動し、罠などが無いかチェックしていくリュウセイ。
すると‥‥ある物を発見。
「ったく、こんなもんまで」
それはワイヤートラップとクレイモア地雷を組み合わせた物だった。
至る所に仕掛けられていたそれを、リュウセイは片っ端から解除していく。
3〜4階層――
通路に群れる‥‥黄色や赤の巨大な蝶々。
波動や炎が飛んでくる中、一千風とアスカが同時に前へ出る。
「お前達に構ってはいられない‥‥邪魔よっ!」
「時間を割いている余裕はないわ。一気に行くわよ!」
二人は連携して剣や短剣を振るい、多数の蝶キメラを薙ぎ払う。
5階層――
前回の作戦時、生徒達が囚われていた場所に差し掛かる。
そこには‥‥多数の狼キメラで犇いていた。牙を剥き、一斉に飛び掛ってくる。
「こんな所で足止めされるわけにはいかないんだ!」
「援護します、ティリアさん!」
二刀小太刀で切り伏せてゆくティリア。二挺のSMGで掃射するフィルト。
ほどなく、狼キメラは全滅し、一行は奥‥‥最下層へ通ずる階段へと向かう。
●奪還
最下層――
広めの通路を抜け、扉を開け放つと、そこにはやはり‥‥
「遅かったわねぇ。待ちくたびれたわ」
芳賀・鞠子と、シルフィード5体が待ち構えていた。蝶子の姿は――ない。
傭兵達は薄ら笑う鞠子に注意を向けつつ、部屋を見渡す。
‥‥部屋の奥に手術室らしき扉を発見。蝶子が囚われているのは恐らくあそこだ!
視線で合図し、傭兵達は武器を構え、鞠子らに向かって床を蹴った。
シルフィード1体を相手にしているノエルと子虎。
「先手必勝、まずは一撃当てる!」
子虎が先手必勝を用い、一発打ち込む。
「やあああっ!」
子虎はすぐ下がり、そこへノエルが飛び込んだ。
限界突破と急所突きを使用。爪で連続の斬撃を繰り出す。
「‥‥この全身に想いを重ねて、我の力は限り無く!」
ノエルの腕から黄金の燐光が流れる‥‥。
怒涛の先制攻撃にシルフィードは怯んだ様子であったが、光弾で反撃してきた。
左右に分かれて避ける二人。
「僕とノエルンの愛の連携はこの程度じゃ破れないんだよ!」
再び子虎が大剣を構え、シルフィードに向かう。
「そう、想いを踏みにじる奴なんかに、僕達は負けない!」
ノエルも続く。
シルフィード2体を相手にするのは一千風、リュウセイ、雪待月。
「2体っていうのは厳しいけど‥‥こっちだって半端な気持ちじゃないのよ!」
急所突きと二連撃を使用して接近戦を仕掛ける一千風。
(「何としても食い止めます‥‥!」)
超機械を連射し、相手の連携を分断する雪待月。
「ゆっちーは俺が守る! 絶対にだ!」
盾を構え、その雪待月をガッツリガードするリュウセイ。
残るシルフィード2体はフィルト、宗司、達矢の担当である。
「宗司さん!」
フィルトの声に答え、刀でシルフィードに斬りかかる宗司。
SMGで援護射撃を行うフィルト。
達矢は二人のフォローに回る。
鞠子の相手は‥‥アスカとティリアであった。
帯電する鞭が振るわれる。アスカは横っ飛びに回避。
鞭をしならせ、続いてティリアに攻撃。ティリアは仰け反ってギリギリ避けた。
この武器は‥‥まずい。少し触れただけで大ダメージを受けてしまう。
アスカとティリアの頬に汗が伝った‥‥。
「つまらないわね。終わりにしましょうか」
再び鞭を振るおうとする鞠子。
「‥‥っ!」
そこへアスカが瞬天速を使用し一瞬で距離を詰め、スライディングと共に蹴りを見舞う。
「!?」
体勢を崩した鞠子に、中段の回り蹴りを放つ。だがこれは受け止められた。
アスカは構わず更に連続で蹴りを繰り出し、鞠子を横に弾き飛ばす。
「‥‥何が、つまらないって?」
蹴りを放った態勢のまま、不敵な笑みを浮かべるアスカ。
「はあああっ!!」
その隙を見逃すティリアではない。二刀小太刀で斬りかかる。鞠子は起き上がって鞭の柄で受けた。
「くっ!」
――そこで、アスカが動いた。奥の扉に向かい、強引に突破を図る。
勿論、鞠子はその妨害に出る。だがそれは‥‥傭兵達の思惑通りだった。
ティリアは閃光手榴弾を投擲しようと、腰のポシェットに手をやるが――無い。
‥‥不覚にも、装備の確認を忘れてしまったようだ。
本来ならここで閃光を使って怯ませる筈なのに‥‥!
その様子に気付いたリュウセイは反射的に行動に出た。盾を構え、鞠子に向かって吶喊。
無理矢理妨害。鞭による激しい攻撃を受けながら、リュウセイが叫ぶ。
「ここで迷うな! 男だったら自分を貫け! 蝶子だってお前を信じているはずだ! 達矢ぁぁぁっ!!」
その魂の声を受け、達矢は駆け出す。迅雷を用いて一気に突破し、手術室の扉を破壊して侵入。
追おうとするシルフィード達に向けて、フィルトがSMGを掃射して妨害する。
(「一度目は街で取り逃がした事、二度目は読みの甘さから蝶子さんを救えなかった事、三度目、ここで失敗してはまるで道化ではないですか」)
フィルトは力一杯引き金を引き続けた。
「この先へは行かせません、絶対に」
傭兵達は全力で、敵を足止めする‥‥。
手術室に入ると――達矢は手術台に寝かされ、拘束された蝶子の姿を見つけた。
拘束具を破壊し、蝶子を抱き起こす。気を失ってはいるが‥‥怪我などは無い様子。
「蝶子! 蝶子!」
「‥‥たっ‥‥ちゃん?」
病衣を着せられた蝶子が目を開ける。
「そうだ! 助けに来たぞ!」
「‥‥たっちゃん! 必ず来てくれるって、信じてた!」
蝶子は達矢の胸に抱き付く。
「当たり前だろ。約束したからな」
蝶子の頭を撫でてやる達矢。
「でも今は‥‥脱出が先決だ。皆が頑張ってくれてる。蝶子、歩けるか?」
「うん、大丈夫」
達矢は蝶子の手を引き、手術室を出る。
達矢と蝶子が手術室から出てくるのを確認すると、傭兵達は更に足止めに力を入れる。
素材を奪還されまいと、二人に飛び掛らんとする鞠子であったが‥‥
「そう何度も、何度も! お前の好きに‥‥させるかぁッ!!」
気を取り直したティリアが阻止する。その瞳には涙が浮かんでいた。
今は落ち込んでいる場合じゃない、やれることをやらねば!
そして傭兵達は徐々に後退し、部屋を後にする。
●ゲームオーバー
最下層の通路。ここからは殿を務めるリュウセイ、アスカ、雪待月、フィルトを残し、他は達矢と蝶子を護衛して地上を目指す。
「大丈夫、貴方なら出来ます。蝶子さんを、しっかり守って差し上げて下さい。良い上司を持たれましたね」
雪待月が達矢の耳元で囁き、微笑んだ。それに達矢は思わず頬を染めてしまう。
「どうしたの、たっちゃん?」
不審がる蝶子。「な、なんでもない」と達矢は答える。
「さ、ここは私達に任せて、早く」
アスカが言った。
「何があろうと自分のやろうとしていることを貫けよ。後悔したくたって遅いんだからな。いけっ! 達矢!」
傷だらけのリュウセイが言い放つ。
「わかった」
達矢はそれだけ言うと、蝶子の手を引き先頭を行く4人の後に続いた。背後は宗司が守る。
数分後――
当然の如く、大量の追っ手が押し寄せた。
最下層と5階層を繋ぐ階段や、狭い通路を利用して追撃を阻止する殿組だったが次第に敵が増え、追い詰められていく‥‥。
「ゆっちー、閃光手榴弾があったよな」
通路の曲がり角。壁に身を隠しながら応戦する4人。リュウセイが雪待月に尋ねた。
「はい、ありますよ」
超機械を撃ちながら答える雪待月。
「なら、それを使ってから逃げろ。アスカとフィルトも、だ」
「何故‥‥!」
「‥‥シルフィードが近づいてきてる。俺は後で行くから、先に行ってくれ」
「でも!」
「いいから行け! ‥‥女の子を死なせたくねぇんだ」
リュウセイの切なる願いに、仕方なく頷く3人。
「1・2・3だ。そしたら閃光弾を投げて走れ」
「わかりました」
雪待月は落ち着いた口調で答えた。
「1」
シルフィードが接近する。
「2」
蝶キメラを引き連れて。
「3」
リュウセイは自分の鼓動が高鳴るのを感じた。
閃光手榴弾が投擲される。
「走れ!」
一拍置いて、フラッシュ。
リュウセイも駆け出す。しかし女性陣とは逆方向。敵に向かって走る。
「うおおおっ!!」
機械剣を抜き放ち、閃光で怯んでいるシルフィードに、体当たりと共に突き刺した。
だが敵は倒れない。ゼロ距離で光弾を喰らう。構わず更に深く突き刺す。
‥‥鮮血を噴出し、敵が崩れ落ちる。
「ぐは‥‥」
リュウセイも倒れた。回復を試みるが、ダメージが大きい‥‥。
「ちっ‥‥かっこつけすぎたか?」
ぶっ倒れたままで言う。蝶キメラが自分の周りに集まってきていた。
(「ここで散ったとしても後悔はしねぇな‥‥」)
静かに、目を閉じる。
「リュウセイさん」
声が聞こえた。聞き慣れた声。大好きな声。
目を開けてみる。‥‥目の前に、手が差し出されていた。
視線を上げてみる。そこには、雪待月の姿があった。
「ゆっちー‥‥」
「行きましょう」
雪待月はリュウセイに肩を貸し、歩き出した。
リュウセイ達が合流し、地上を目指す一行。しかし突然、進行方向の通路の壁を破って、シルフィード数体が現れた。運が悪いのか、それとも敵の思惑通りなのか、そこへ鞠子らも追いつき、挟み撃ちにされてしまう。
光弾と波動の一斉攻撃を受け、武器を弾き落とされ、生命力を削られる。‥‥一瞬の出来事だった。
全員が蹲るか、倒れ込んでいる。
「残念だったわねぇ」
鞠子が余裕の笑みを浮かべ、近づいてきた。伏せている一千風を足蹴にする。
「何故‥‥ここまで蝶子さんに執着する‥‥」
倒れたまま、一千風が問う。
「ふん、あんた達なんかに冥土の土産もくれてやらないわよ」
鞠子は帯電した鞭を振るった。一千風の身体を打ち付け、バチバチと音が鳴る。
「アァァァッ!!?」
その衝撃と苦痛に、一千風は悲鳴を上げる。
「あら、いい声で啼くじゃない。殺すのは勿体無いかしら。容姿も中々美しいし」
鞠子はまた笑う。
「‥‥」
その会話を聞いている宗司。‥‥足をやられて動けないが‥‥懐に拳銃を持っていた。
しかし陰になっていて射線が取れない。宗司は達矢の方を見る。達矢なら鞠子を狙える!
気づけ‥‥! 宗司は願った。‥‥達矢がこちらを向いた。
指で銃の形を作り、目で、合図をする。達矢は頷く。
――宗司は懐から拳銃を取り出し、床を滑らせ、達矢の方へやった。
――達矢はそれを受け取り、構えて、撃った。
――装填されていた貫通弾が、鞠子の心臓付近に命中し、鞠子はよろける。
「今じゃ!!」
宗司が声を張り上げる。
咄嗟に反応したティリアが二刀小太刀を拾い上げ、迅雷で接近し、鞠子の腹に突き刺した。
続いて他の者も銃器を拾い、一斉に攻撃を加える。
「ごぶっ‥‥!」
吐血し、倒れる鞠子。
「もう一度聞く‥‥! 芳賀・鞠子、お前が蝶子さんにここまで拘る理由は、何だっ!?」
「‥‥あはは、くくく、教えて‥‥あげなぁい‥‥」
鞠子はそう吐き捨てた後、動かなくなった。
指揮官を失った為かシルフィード達は混乱した様子。
一行はこれに乗じてプラントから脱出。陽動部隊の支援を受け、安全圏まで脱出するのだった‥‥。
●エピローグ
救出作戦から数日後――
検査を終えて病院から退院する蝶子。健康状態に問題はなかった。
蝶子には達矢が寄り添っている。周りには、傭兵達。宗司の姿もある。
「あの‥‥蝶子、バタバタしてて言えなかったけど、俺、能力者になったんだ」
達矢が重そうに口を開く。
「だから、もう前みたいな生活には戻れない。約束は‥‥守れそうに無い」
俯く達矢。
「何言ってるの? たっちゃん、私ね‥‥実はね‥‥検査で、能力者の適正があることがわかったんだ」
蝶子はにっこり笑う。驚く一同。
「私も、能力者になる。だから、たっちゃんの傍に居させて。お願い」
真剣な眼差しを向ける。
「で、でも‥‥」
戸惑う達矢。
「達矢くん、男に二言は無いよね?」
「そうだよそうだよ!」
ノエルと子虎が茶化す。
「ダメですよ、責任を取ってあげないと」
雪待月も言う。
「皆‥‥。わかった、じゃあ、蝶子‥‥ずっと俺の傍に居ろ!」
「うん!」
抱き締め合う二人。
わっと、歓声が上がった。
「達矢くん‥‥いい面構えになったと思わない?」
「ふふ、まだまだじゃな」
アスカと宗司も微笑む。
その様子を見ながらティリアは考える。
鞠子が蝶子に固執した理由‥‥それは美しい容姿をし、頭脳明晰で、能力者の適正まであったからかもしれない‥‥。
聞けば、蝶子は中学生にして上位大学レベルの学力があるという。
しかし‥‥ティリアはぶんぶんと首を振った。散った敵のことを考えるのは止めよう。
自分達は、この笑顔を取り戻せたのだから。