タイトル:乙女分隊・救出マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/15 15:00

●オープニング本文


 季節はもう冬。雪に変わる間近の雨は残酷なまでに冷たい。
 雪と違って直接身を濡らすため、余計に、だ。
「先生‥‥なんで‥‥」
 質素な校舎の屋根の激しく雨が打ちつける。
「どうして‥‥先生‥‥」
 誰もいない教室で少女は机に突っ伏し、頭を抱え、涙を流していた。

 保健室――
「先生の容態は?」
 つり目の、近寄り難さを感じるほどに整った容姿の少女が尋ねる。
「血は、止まりました。でも‥ちゃんとしたお医者さんに診せないと‥このままじゃ‥」
 看護をしていた別の‥‥こちらは背も小さく、幼さすら残る少女が泣きそうな顔で答える。
「‥‥そうか」
 白いベッドには頭と腹部に包帯を巻かれた女性が寝かされている。荒い息が痛々しかった。
 そのとき、乱暴に扉が開かれ、日焼けした肌の活発そうな少女が入ってきた。
「おい! どうすんだよ! 外はキメラだらけだぞ!」
「解ってる」
「このままじゃ持たねぇよ!」
「解ってる。でも、救援を待つしか方法は無い」
「ぐっ!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! うう‥私にもっと力があれば‥治すことが出来るのに‥」
 先ほどの背の小さな少女が繰り返し何度も何度も頭を下げた。
「お前だけのせいじゃねぇ! くそっ、くそっ! ちくしょう! 先生ぇっ! 目を開けてくれよぉっ!」
「‥‥」
 つり目の少女は窓の外を見た。暗雲が立ち込め、雨が降りしきる。
 それは、この絶望的な状況を物語っているかのようだった。

 教室――
「先生‥‥なんで‥‥あたしなんか助けたの‥‥先生‥‥」
 少女は、ただ力なく泣き続けていた。


 所は変わってラストホープ。
「孤立した分隊を救出してもらいたい」
 画面に映るUPCの女性士官が口を開いた。
「場所は日本、九州中部のバグアによって占領された村だ。分隊の現在位置は不明だが、偵察によれば敵は分校を集中的に包囲しているようだ。恐らくそこに立て篭もっているものと思われる。しかしながら連絡が付かない故、何らかのトラブルに見舞われた可能性がある。急がねばならん。どうか、よろしく頼む」
 女性士官はふう、と息を吐いた。
「それから、これは直接依頼には関係無いことだが諸君らには知っておいて欲しい。今回の救出対象は、私が試験的に組織した、能力者のみによって構成された分隊だ。名をα−01部隊。訓練期間中だったのだが九州戦線の戦況悪化に伴い早々に実戦投入された。‥‥その結果がこれだ! そもそも編成されてまだ2週間足らずだったのだ! くっ、九州総軍め‥‥!」
 女性士官はそれまで冷静だった表情を怒りにゆがめ、拳を握り締めた。
「‥‥失礼した、話を続けよう。分隊には熟練の教官をつけていたので安心していた。しかしこの状況から察するに彼女に何かあったと見て間違いない。そちらのほうもお願いできないだろうか。‥‥これは個人的なことだ。だが、心に留めておいてくれると嬉しい」

●参加者一覧

シア・エルミナール(ga2453
19歳・♀・SN
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
風間・夕姫(ga8525
25歳・♀・DF
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

●包囲突破
 暗雲に覆われた空の下――
 冷たい雨の降りしきる中、集まった傭兵達は各々で用意した防寒具に身を包み、バグアに占領された村を見渡していた‥。
 小刻みなエンジン音と共に一台のバイク‥正確にはAU−KVミカエルに跨った夏目 リョウ(gb2267)が姿を現す。
 ドラグーンである彼は機動力を活かし先行偵察に赴いていたのだ。
「どうでした? 様子は」
 防寒ポンチョを纏った蒼河 拓人(gb2873)が興味深そうに尋ねる。
「ダメだな、情報どおり分校の周りは完全に包囲されてる」
 リョウは分校がある丘の手前まで行ったのだが、それ以上は敵に発見される可能性があったので近づけなかった。双眼鏡でも確認してみたが分校の中の様子までは見えなかったらしい。
「でも敵は分校に集中しているから他はまばらだったな」
「それでは、行きましょう。人命と、将来有望な新人を失うわけにはいきません。この寒さです、教官の方がもし怪我をしているなら相当消耗しているはずです。尚更急がねばなりません」
 青いメッシュの入った黒髪の少女、シア・エルミナール(ga2453)が口を開いた。実に真剣な表情である。
「同感。乙女の危機を見過ごすわけにゃあいくまい。囚われの姫を救い出すのは、いつだって騎士の役目だろ?」
 百瀬 香澄(ga4089)が飄々とした口調で言う。本人は至って真面目だ。
「救える命があるなら‥やることは一つだけだよ。急ごう!」
「ええ」
 拓人の言葉にシアを初めとした全員が頷き、水溜りを蹴って走り出した。

 数分後――
 傭兵達はリョウが偵察した最短ルートを通り分校の手前まで辿り着いた。途中、何度かビートルと出くわしたが単独だったので苦もなく倒す事が出来た。
「これは‥キモいな」
 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)が顔をしかめる。
「さすがにこれだけ数が居るとな‥」
 セージ(ga3997)も口元を引きつらせた。
 分校がある丘の周囲はリョウの説明通りビートルでびっしりと覆われていた。上へ向かってジリジリと迫っている。中には巨大な個体――ラージビートルも確認できる。世にもおぞましい光景だ。
「どうも軍には能力者の力を過剰評価する人が多いみたいですね‥いくら能力者でも訓練期間も終わらせずに戦力になる訳がないです。しかもこんな大群の中にいきなり放り込むなんて‥」
 リリィ・スノー(gb2996)が微かに‥その可憐な容姿に似つかわしくない怒りの色を浮かべる。
「だ、ね。まったく。訓練が終わってないんじゃ、肉体的には違っても精神的には普通の女の子とそう変わらない。そんなのに頼るとは‥‥九州総軍が聞いて呆れるってもんだ」
 溜息をつく香澄。しかしそんなものにまで頼らなければならないUPC軍の切迫した実情も窺えた。
 そのとき、分校のほうから銃声が連続して響いた。
「乙女分隊の奴らが抵抗しているようだな‥‥」
 落ちついた女性の声。
「急ぎましょう!」
 シアが叫ぶ。
「じゃ、打ち合わせの通りに」
 拓人の指示で、傭兵達は駆け足で配置に付く。

 まず動いたのは前衛右翼、囮を引き受けた香澄であった。
 ビートルの群れへ突撃しつつ覚醒。瞳が金色に変化し、雨を払うように彼女の周りに風が巻き起こる。瞳と同じ色の髪がなびいた。
「穿つことこそ槍の本懐…道を開けろッ!」
 楽園の名を冠した槍を振るい、ビートル数体を貫き、薙ぎ払う。
「さて、往くとするかね」
 次に動いたのは黒いレザーのジャケットを着こなし、ベルトのチョーカーを巻いた女性。
 クロムブレイドでビートルを斬りつけ、挑発する。
 すると、二人に引き寄せられ、敵陣の中央が若干薄くなった。
「集中砲火だ!」
 そこへ後衛のシア、拓人、リリィが激しい銃撃を加える。
 両手の小銃S−01を交互に放つシア。
 M−121ガトリング砲の弾丸をばら撒く拓人。
 その華奢な体躯に不釣合いな大口径ガトリング砲を構え、撃ちまくるリリィ。火器マスタリーの名は伊達ではない。
 火線が集中し、射線上に居たビートルたちはその身を引き裂かれ、そして‥‥一筋の道が開いた。
「今です!」
「おう!」
 拓人の声にリョウが答えた。彼はAU−KVミカエルに跨り、タンデムシートの後ろに医療キットを背負った衛生兵を乗せている。
「安全運転というわけにはいかないんで、そこは我慢してくれよ」
「分かりました」
 リョウの腰に手を回す衛生兵(女性)。リョウは背中に柔らかい物が当たって一瞬動揺するが、ぶんぶん首を振ってすぐに気を引き締め直す。
「(もうこれ以上、誰も死なせやしないって、そう誓ったから‥彼女を守りきれなかった、あの時に‥)」
 ハンドルを強く握る。
「GO! 騎煌!!」
 リョウはAU−KVミカエルに『騎煌(きこう)』と名付けていた。フルスロットルで突撃。ビートルの骸を踏み潰しながら一気に校舎へ向かう。それにセージとヴァレスも追随。
 ――そして、到達。
 機を逃さず敵が体勢を立て直す前に、他の傭兵達も続いて校舎になだれ込んだ。

●乙女分隊
「治療を始めます。皆さんは外でお持ち下さい」
 乙女分隊と合流を果たした傭兵達であったが、負傷した教官の治療に集中する為、保健室から追い出されてしまった。仕方なく職員室で待つ事にする一同。
「ゆっくりは出来ないが凍えた体じゃ戦えないからな。とりあえず、これで温まってくれ」
 給湯室から戻ってきたセージが年長組にはキリマンジャロ・コーヒー、年少組にはあったかココアを振舞った。
「それで、自己紹介といきたいところだが‥‥」
「救援、感謝します。私はエキスパートの九条・冴。上等兵です」
 つり目の少女がコーヒーを口にしながら言った。
「あたしは‥‥神楽坂・有栖。クラスはファイター。一等兵だ。有栖ちゃんなんて呼ぶんじゃねぇぞ!」
 日焼けした肌の、活発そうな少女が続く。
「そ、それにこのココアは‥あ、あたしはコーヒーでも良かったんだけどなっ!」
 聞かれてもいないことを口走る有栖。
「有栖ちゃん、甘いの好きだからねー」
 背の小さい可愛らしい少女はくすくすと笑った。
「て、てめー! それは言わない約束‥」
「いいから次」
 冴が話を進める。
「えっと、私は舞浜・ちずるといいます。サイエンティストで‥衛生兵の卵です。階級は同じく一等兵です。助けに来てくれて本当にありがとうございました!」
 ちみっこい可憐な少女‥‥ちずるはぺこりと頭を下げた。
「あたしは犬飼・歴だよ〜。ビーストマンなんだよ〜。階級は同じく一等兵なんだよ〜。それより食べ物はないの〜? お腹が空いたんだよ〜」
 ウェーブ髪の少女がのんびりとした口調言った。
「す、すまんな。あいにく食糧は持ってきてない」
 セージは困った表情で答える。
「そっか〜残念〜」
「お前は食いすぎだ! レーションほとんど食いやがって!」
「い、痛いのだ〜」
 有栖が歴に思いっきり拳骨を食らわす。歴はたまらず頭を抑えてへたり込む。
「‥‥坂城・慧子。グラップラー。階級は一等兵」
 腕にメタルナックルを装着した長身の少女が淡々と告げる。そして職員室から出て行こうとした。
「君、どこへ?」
 それを拓人が引き止める。
「‥入り口の手伝い」
 それだけ言うと、慧子はすたすたと歩いて行ってしまった。
「あ‥‥」
 ぽかんとする拓人。
「いいんです、彼女は。普段からあんな感じですから。‥あと、三人いるのですが‥」

 校舎入り口――
 シアとリリィは入り口に陣取り、警護をしていた。
 たまに寄ってくるビートルに銃撃を加える。
 その横で、アサルトライフルを乱射する幼い少女の姿があった。
「一匹倒したよ! 早苗ちゃん!」
 またその横で、バトルアクスを振るいビートルの頭を叩き潰す幼い少女。
「こっちも一匹やっつけたよ香苗ちゃん!」
 そっくりな容姿をしたツインテールとポニーテールの双子の少女は嬉しそうに互いの名を呼び合った。
 姉でスナイパーの三門・香苗と、妹でダークファイターの三門・早苗である。
「もっと倒そう! もっと!」
「そうだね! もっともーっと倒さなきゃ!」
 きゃっきゃと笑う香苗と早苗。
「‥あなた達は怖くないんですか?」
 怪訝そうな顔のシアが尋ねる。
「どうして? すごく楽しいのに」
「そうだよ、それにこうやってバグアをやっつけると、真っ白なお洋服のおじさんが褒めてくれるんだ」
 不思議そうに首をかしげる三門姉妹。
「(この子たち‥)」
 その様子を横目で見ながら、リリィはガトリング砲のトリガーを引いた。

 職員室――
 一通り自己紹介が済んだ所で、セージが切り出す。
「そうだ、君が分隊長だよね。ここでの出会いも何かの縁だ。是非、握手をしてくれないかな?」
 冴に握手を求めるセージ。しかし‥
「いえ、私は‥違います」
「へ? じゃあ分隊長は誰‥」
「隣の教室に‥‥」

 教室――
 机に突っ伏している青い髪の少女の隣にヴァレスが腰掛けた。
「俺達が来たからにはもう大丈夫! 心配する事はないさ」
「‥‥」
「君達の教官さんも、衛生兵のお姉さんがなんとかしてくれるって!」
「‥‥」
 しかし反応は無い。
「‥なんで君がこうしているのか、理由を聞かせてくれないかな?」
「歩美先生‥片瀬教官が‥」
「ん?」
「私を庇って、キメラにやられて‥大怪我をしちゃったんだよ! 私の所為だ‥私の所為で‥先生は‥死にそうになって‥ううっ‥」
 嗚咽を漏らす青い髪の少女。
「そっか。でも、先生なら生徒を守るのは当然だと思うな」
「でもっ!!」
「君がもし先生の立場だったら、どうしていたかな?」
「‥‥」
「簡単なことさ。‥だから、気に病む必要は無いんだよ」
 少女の肩に、ぽんと手を乗せるヴァレス。

 職員室――
 ヴァレスに連れられて、青い髪の少女が入ってきた。
「え、えーと‥」
「ほらほら」
 ヴァレスに促されて少女は口を開く。
「私が分隊長の早乙女・美咲です。クラスはエクセレンター。階級は兵長であります!」
 びしっと敬礼する美咲であったが‥‥
 どっと笑い声が起こった。
「分隊長‥その顔で敬礼されても、威厳の欠片もありませんよ」
 冴が笑いを堪えながら言った。
「えっ?」
 美咲の顔は泣き腫らしていて目は真っ赤、頬には涙の跡がくっきり浮かび、酷い物であった。
「でも良かった。立ち直られたみたいですね」
 冴が微笑む。‥そのとき、衛生兵がやって来た。
「処置が終わりました。保健室へどうぞ」

 保健室――
 一旦入り口を警護していたシアやリリィ達も呼び戻された。
 乙女分隊の教官、片瀬・歩美軍曹の寝かされているベッドの周りに皆が集まっている。
 しばらくして‥‥歩美がゆっくりと目を開いた。
「先生!!」
 乙女分隊の面々が駆け寄り、美咲が泣きながらすがりつく。
「お前達‥‥あなた方は?」
「ULTから派遣された傭兵です。救援に来ました」
 拓人が胸を張り、答える。
「そう‥救援、感謝します」
「先生! 先生! 良かった! 良かった!」
 泣きじゃくる美咲。
「こら、早乙女。教官殿と呼べ。それにお前は分隊長だ。場を弁えろ」
「は、はい! ‥先生、ごめんなさい、私の所為で‥」
「気にするな。教え子を守るのは当然の事だ。お前は皆を率い、引っ張っていく身‥これくらいのことで‥動揺してどうする‥んっ」
 歩美は頭を抑えた。
「先生!」
「傭兵の方々、申し訳ないが、後のことは頼みます‥この子達を‥どうか‥」
 再び目を閉じる歩美。
「先生!?」
 傭兵達にも緊張が走る。まさか――
「大丈夫です。薬が効いてきて眠っただけですよ」
 衛生兵が穏やかな表情で言った。
 安堵する一同。

「それで、脱出プランなんだけど‥‥」
 拓人が乙女分隊、それから確認の為に傭兵達の前で説明を始める。
 そして説明が終了し――
「教官は俺に任せてくれ、だから君達は無事に脱出する事を第一に考えるんだ‥大丈夫、君達も教官も俺達が守ってみせるさ」
「ありがとうございます。でも、保健室には担架があるので夏目さんが抱えるよりこちらを使ったほうが良いかと。私と坂城で運びます。夏目さんには護衛をお願いしたい」
 冴が慧子に目をやった。頷く慧子。
 リョウも頷く。
「お前達はもう護られるだけの乙女じゃいられない。そうだ、戦女神隊とでも名乗るか?」
 そう言ったのはセージだ。
「戦女神‥まだ、私達には不釣合いかな‥でもいずれ‥そうなりたい」
 美咲はぎゅっと拳を握った。

●脱出
「それじゃ、いくぜ!」
 入り口の扉を開けると同時に、ヴァレスが閃光手榴弾を放り投げる。一拍おいて、フラッシュ!
 敵が怯んだ隙に傭兵と乙女分隊は突破を図る。
「行くぞ騎煌‥武装変!」
 リョウはミカエルを装着。その姿はまさに騎士。
 傭兵達は乙女分隊を囲むような陣形を取り、一気に突き進む。
「邪魔だ」
 覚醒し、漆黒の翼を生やしたヴァレスが大鎌「戮魂幡」でビートルの攻撃を受け流し、その返しの刃で薙ぎ払う。
「ここで挫ければ教官も、貴方たちもここで死んでしまうわ。それが嫌なら前を向きなさい。そうすれば、少なくとも生き残ることは出来る。‥死なせません。私の力が及ぶ限り、誰も死なせません‥!」
 二連射でビートルを次々に撃ち抜きながら、シアが必死に走る乙女分隊の面々を叱咤する。
「ぐぅっ、きゃあっ!」
 後ろでロングスピアを振るっていた美咲に、突破してきたラージビートルが迫る。が、そこへセージが強引に割り込んだ。
「つっ!‥大丈夫か? 諦めるな。生ある限り最善を尽くせ! 教官が命がけで護ったものを侮辱する気か?」
 額から血を流しつつセージが叫ぶ。
「いくぜぇ! このデカブツがぁ!」
 5mほどもある巨体に向かって刀を振り上げるセージ。
「無神流――『侘』」
 流し斬りによる一撃。
「同じく――『寂』」
 豪覇斬撃による一撃。
「無神流――『黄昏』」
 蛍火と機械剣αでの二段撃。
 その舞うような動きはまさに‥ソードダンス。
「敵を断つのは力でも技でも刃でも無ねぇ、斬ると決めた心の在りよう――即ち覚悟」
 鈍い音を響かせて倒れるラージビートル。
 そうして――傭兵と乙女分隊は、無事脱出を果たした。

●これから
 脱出に成功した一行。
 歩美は村の外で待機していた救急車で搬送されていった。
「よく頑張ったな、お疲れさん」
 疲れ果て座り込んでいる美咲の頭をぽんぽんと叩く香澄。
「今日はありがとう。先生を、皆を、助けてくれて本当にありがとう」
 傭兵達に向かって精一杯のお礼を述べる美咲。
 生き延びたことで、これから更に厳しい戦場に投入されるであろう彼女達。
 だが、今回で確実に成長した。
 そんなことを考えつつ、紫煙を吐き出す。
「あっ!」
 空を見上げていたリリィが声を上げた。今まで降っていた雨が‥雪へと変わり、舞い降りてくる。
「えへへ〜初雪〜♪」
 嬉しそうにくるくる回るリリィ。それは、まるで淡雪の妖精のよう。
 その幻想的な姿に見とれつつ、依頼が無事に成功した事をしみじみと実感する傭兵達であった‥‥。