●リプレイ本文
●初夢
これはご主人様とメイドさん、または執事の物語。
一夜限りの、夢と散る運命(さだめ)の物語。
Dominus(ご主人様)3――
●千糸とメリー
私の名前は皇 千糸(
ga0843)。自慢するわけじゃないけれど、世間的にはお嬢様ということになるのかしら。
そして私にはメイドがいる。名前はメリー。柔和でおしとやかな性格で‥‥胸にはけしからん無駄な脂肪がついていて‥‥実に羨ましい。じゃなくて! とにかく私達は主従関係にありつつも幼い頃から姉妹のように接し、育ってきた。
「わーい、念願の一人暮らしだー」
高級マンションの一室で、ふかふかのソファーに大の字になって寝転がる私。
‥‥そう、今年から心機一転、一人暮らしを始めたのだ。
過保護なお父様を説得するのには苦労した。まったく、いい加減子どもじゃないんだから一人暮らしくらい良いじゃない。
まあ、父親とは娘が心配なものだということはわかるのだが。
とりあえずあの窮屈な屋敷とはおさらばだ!
(「‥‥メリーと離れて暮らすのはちょっと辛いけど、適度な距離を置くのもきっと二人の為なのよ、うん」)
屋敷を出る際に見た、メリーの寂しげな顔を思い出すが‥‥私は自分にそう言い聞かせる。
きっとメリーもわかってくれるはず! 今はこの自由を満喫しよう。
(「どうせ週に一回実家に顔出すことになってるから、全然会えるしね」)
再びうんうんと頷く。
‥‥まあそれはそれとして、さっそくお隣さんにご挨拶だ。
充実した一人暮らしにはご近所との付き合いも大事なのである。
お隣さんの扉の前までやってきた私はピンポーン! とインターホンを押す。
「はじめまして、こんにちは。お隣に越してきた皇と申します。よろしくお願い‥‥します?」
『はい、これからよろしくお願いします、お嬢様』
返って来たのは、聞き覚えがありすぎる声だった。
「‥‥」
『‥‥』
しばしの沈黙。どういうことだ。一体どういうことだ!
「‥‥えっと、メリーさん? なにゆえ私の新居の隣に住んでらっしゃるん?」
『偶然ですね』
さらりと言うメリー。
「いや、どんな天文学的確率よ!?」
とか突っ込みを入れる。しかしメリーはスルーして「立ち話もなんですので」と、中に招き入れてきた。言われるままに上がる私。
「っていうか普段通りメイド服着てバッチリ待ち構えてるじゃん!」
「いえ、これは私服のメイド服です」
頬に手を当て、メリーはうふふと微笑む。
「私服のメイド服って何?! 仕事とプライベートは分けようよ!? そんな冗談みたいな話が通じるとでも‥‥」
私は捲くし立てながらクローゼットをがらりと開けた。そこには――
「‥‥って、ホントにクローゼットの中オールメイド服だよ!」
ハンガーにかけられ、ずらりと並んだ同じデザインのメイド服。
どこからどこまでが仕事着で、どこからどこまでが私服なのか、私の目には判断が付かない‥‥。
「いやん。そんな‥‥いきなり。恥ずかしいです」
唖然とする私の横で、ぽっと頬を赤らめているメイドであった。
それから屋敷に居た時とまったく同じ様に、メリーにお茶を淹れてもらっての歓談‥‥と言う名の事情聴取が始まった。
‥‥やはりお父様の差し金(監視)であり、即断即決で引き受けたそうな。
「はあ‥‥」
思わず溜息が漏れる。そんな私の様子も気にせず、嬉しそうにニコニコしているメリー。
「さて、そろそろ支度を。今夜はお嬢様の新たな門出を祝す意味で、姫始めを‥‥」
メリーは言いながら立ち上がる。
「そこだけ新年ネタ!?」
なんなのだ。一体なんなのだ。監視という立場を利用して、このメイドはやはり毎晩夜這いをしにやってくるつもりなのか! しかも姫始め‥‥相当激しいことになるのだろう。いや、それはそれで‥‥。
ごくりと唾を飲み込む私。
「はい、ふっくらご飯を用意して‥‥あら、お嬢様どうされました?」
「へ?」
私はきょとんとする。
「‥‥うふふ、いやですわ。お嬢様ったら、いけない妄想をしていらしたのですね。では、今夜はそちらのほうも楽しみにしていてくださいね」
メリーは艶っぽい笑みを浮かべると、キッチンへ向かった。
「‥‥」
どうやら墓穴を掘ってしまったらしい。
一人暮らしの幸先の良い? スタートであった。
●ヴァサーゴとヴァプラ
お嬢様のL3・ヴァサーゴ(
ga7281)は、悩みを抱えていた。
その悩みの種とは――メイドのヴァプラのことである。
ヴァプラは20代前半で、目を前髪で隠したミステリアスな雰囲気を纏っており、身長は平均より若干高め、ふっくらとした女性らしい豊満な体型で胸もお尻も大きく、いわゆるボンキュッボンだ。
性格は基本的に温和なのだが、本性は助平かつサディストであり、その上、主人に対しひん曲がった愛情をたぎらせていて、時折暴走してはヴァサーゴにアレな悪戯を仕掛けてくるのである。そこが『大』問題だった。
細身で弱弱しいヴァサーゴの肉体には、ヴァプラの過激な悪戯は負担が大きいのである。
‥‥今日も節々が痛い。
朗らかな日差しの下、ヴァサーゴが庭園にて読書をしつつ寛いでいると――
「お嬢様、お紅茶をお持ち致しました」
ヴァプラがティーセットを運んでやってきた。
彼女の服装はフリルやレースを多用したゴシックロリータ風の装飾が施された長袖の、パフスリーブのメイド服で、腰の大きなリボンが特徴的。スカートはもちろんロングだ。
「ヴァプラ‥‥感謝‥‥」
ヴァサーゴは礼を言い、ヴァプラがお茶の準備をしている様子を見つめる。
「さあ、どうぞ」
目の前に、ティーカップが出された。飴色の液体が揺れている。湯気と共に良い香りがした。しかし――
「‥‥」
ヴァサーゴは動かない。‥‥実は、過去に数度この手で薬を盛られたことがあったのだ。
あのときは、それはもう乱れに乱れて‥‥思い出すのもはばかられる。
ゆえに警戒していたのだが‥‥。
「どうされました? 召し上がらないのですか?」
口元に笑みを浮かべ、落ち着いた物腰のヴァプラがこちらを見つめてくる。
「‥‥いただく」
その穏やかな口調に宥めかされ、結局口にしてしまうヴァサーゴ。
一口飲むと――苦い。やはり、薬が入っていた。
数拍置いて、視界がぐらりと揺れる。身体の芯から、じんじんと熱くなってきた。案の定、媚薬である。
「はぁ‥‥はぁぁ‥‥」
ヴァサーゴは小さくも、艶っぽい声を上げる。表情はとろんとしてしまっていた。
そして自然と指が‥‥いつの間にか濡れそぼっていた聖域へと向かう。
「‥‥あぁぁっ!」
段々と指の動きが激しさを増す。スカートの裾をたくし上げ、口にくわえ、声を抑えているが‥‥それでも漏れてしまう。
「あらあら‥‥お嬢様ったら、獣みたいに盛ってしまわれて‥‥素敵♪」
ヴァプラの言葉と視線が突き刺さる。しかしそれもヴァサーゴの興奮を高めるのみ。
「‥‥んん‥‥んんんっ!!」
そのままヴァサーゴは登りつめ、びくびくと震え身体を反られた後、気を失った。
夜――
「‥‥」
ヴァサーゴは中々寝付けずにいた。
何故かわからないが、夕食をとってからどうにも落ち着かないのだ。
本でも読もうかとナイトランプを点けたとき、扉が開かれヴァプラが現れた。
「あらお嬢様、まだお休みになられていなかったのですね」
‥‥こくりと頷くヴァサーゴ。
するとヴァプラは傍へやってきて、なんと、ベッドに潜り込んできた。
「ヴァプラ‥‥! 何‥‥を‥‥」
身体を摺り寄せてくるヴァプラ。
柔らかな感触と、甘い匂いに劣情を刺激され――ヴァサーゴは思わずヴァプラを押し倒してしまう。その眼は、血走っていた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
そのまま重なってゆく二つの影――。
後から聞いた話によると、やはりその日の夕食には薬が盛られていたそうな。
‥‥ヴァサーゴの悩みが解消されるのはいつの日か。
●冬無と瑞穂
「うんしょ、うんしょ。よいしょ、よいしょ」
一生懸命洗濯物を干しているメイドさんの姿があった。
彼女の名前は瑞穂。小柄で、華奢で、つるぺったん。白と黒を基調としたフリルが多めのメイド服を纏っている。
その仕草の一つ一つが小動物チックで、とても愛らしい。首から提げた兎の手作り人形が彼女の動きに合わせてぴょこぴょこ揺れていた‥‥。
「あぁ。瑞穂、瑞穂‥‥可愛いです。凄く可愛いですよ♪」
その様子を物陰からビデオカメラで撮影しているのは、お嬢様の伊万里 冬無(
ga8209)。
息を荒げて興奮し、恍惚とした表情を浮かべている。
そのとき――瑞穂が足をもつれさせ、べちゃっと顔から転んだ。
「!?」
冬無は顔面蒼白となり、血相を変えて飛び出す。
「瑞穂! 瑞穂! 大丈夫ですね? 怪我はないですね!?」
優しく瑞穂の身体を抱き起こし、メイド服に付いた泥埃を払い、レースのハンカチで顔を丁寧に拭いてあげる。
「は、はい。大丈夫です〜。すみません、お嬢様ぁ〜」
「ふう、良かった。では見ていますから、続けてください」
「はい♪」
にっこりと笑って、干し物を再開する瑞穂。
その様子を、目を細めて見つめる冬無であった。
洗濯物を干し終えた瑞穂は、続いて玄関のお掃除。
頑張って箒を使って掃いているが‥‥小柄な身体に対して箒が大きすぎるらしく、どうにも危なっかしかった。
その様子をまた物陰から、はらはらしながら見守っている冬無。しかし撮影は忘れない。
「瑞穂‥‥瑞穂‥‥なんて愛らしいのでしょう。はぁ‥‥頑張って、頑張って!」
そのとき――びゅ〜と大きな風が吹き、塵などを巻き上げていった。
目を押さえ、うずくまる瑞穂。
「瑞穂!?」
それを見た冬無は先ほどと同じ様に飛び出す。
「どうしました?!」
「ふえ、お嬢様? しゅみません、目にゴミが入ったみたいで〜‥‥」
瑞穂はぐしぐしと目を擦る。
「おやめなさい。ばい菌が入ったら大変。ほら、私に見せて」
目を擦る手をどかして、新しいハンカチを取り出し、瑞穂の目のゴミを取り除いてあげた。
「これでよし♪」
「あ、ありがとうございますぅ〜。すみません、お嬢様。‥‥私、ドジばっかりで、お嬢様にご迷惑をかけてばかり‥‥」
俯き、しゅんとする瑞穂。
「何を言っているんです! ‥‥いいんです、いいんですよ、瑞穂。あなたが居てくれるだけで、私は幸せなのですから」
冬無は優しく語り掛け、瑞穂の頭を撫でてあげる。
「えへへ〜」
嬉しそうな瑞穂。その笑顔に冬無もまた、笑みがこぼれる。
木陰で――後ろから瑞穂を抱き締め、壊れ物を扱うように愛しむ冬無。
離れては消えてしまう――それを恐れるかのように、頬を摺り寄せる。
甘えた表情を浮かべ、子猫のようにごろごろと懐いてくる瑞穂と戯れる。
二人は仲睦まじい姉妹のようであった‥‥。
「瑞穂、私の瑞穂‥‥ずっと、ず〜っと一緒ですから♪」
流されないように、離れないように。
冬無は再びぎゅっと瑞穂の身体を抱いた――。
●麗華と空良
「なかなか美味しいわ。でもまだまだですわね、空良」
「はぃ、申し訳ありません、お嬢様。精進します」
バルコニーで外の景色を眺めながらお茶をしているのはお嬢様の大鳥居・麗華(
gb0839)。
長く美しい金髪にエメラルド色の瞳、そして豊満な身体つきをしている。
その隣でぺこぺこ頭を下げているのは彼女の執事、空良。
身長は低めで体型は華奢、髪はショートカット。その幼い顔立ちから見るに、まだ十代前半だろう。
服装は黒の燕尾服だが、サイズが合っておらずぶかぶか。だらしが無い上に情けなく、仕事にも支障をきたすので本来ならすぐに着替えさせるところだが、麗華はそのままにさせていた。理由は『そのほうがショタっぽいから』だそうな。彼女はその手の趣味なのだ。
‥‥今は空良が入れた紅茶に対し、麗華が評価を下していたところである。
味はまずまずだが、茶葉の蒸らし方が足りない。しかしながら空良はまだ屋敷に来たばかりで執事になりたての新米。‥‥それを考えれば、優秀なのではないだろうか。
「空良、こちらへいらっしゃい」
「はい?」
「こちらへ来なさいと言っているの。もう、要領が悪い子ね」
ぶんぶんと手招きする麗華。
「す、すみません!」
空良はわたわたと麗華の元へ駆け寄る。
「‥‥」
麗華は空良の顔をまじまじと見る。
その表情は「また怒られるのではないか」とびくびくしていた。
「うふふ、がんばりましたわね。褒めて差し上げますわ」
優しく、彼の頭を撫でてやる。
「え‥‥」
驚いた様子の空良。
「また叱られると思いましたの? そんなに怖いかしら、わたくし」
「い、いえ! そんなことは! 麗華お嬢様はお優しいです!」
空良は慌てて否定し、フォローした。
それを見て、くすりと笑う麗華。‥‥お世辞とわかっていても、嬉しかった。
「ふう、あなたは可愛いですわね。あー、もう本当に可愛い♪」
堪らなくなった麗華は思わず彼を抱き締めた。
「うわわわ、お嬢様!?」
「あんっ。暴れないの。そのまま、ね?」
手をバタバタさせる空良を抱き締める手に力を込める。
「!? すみません!」
空良は大人しくなり、その頭を撫でてやる。
この子を選んで良かった‥‥麗華はそう思った。
父から専属の使用人を選べと言われ、煩わしく思いつつも直感で決めたのが空良だった。
仕事に慣れない彼に、最初はイラついていたものの、一緒に過ごしているうちに‥‥段々と愛着が湧いてきたのだ。
「空良、今度はわたくしの膝に座りなさい」
「えぇっ!?」
「何度も言わせるんじゃないの。ほら、主人の言う事は聞くものですわ。私の膝に乗りなさいな♪」
ぽんぽんと、自分の膝を叩く。
「で、では‥‥失礼して‥‥」
空良は赤面しながら、恐る恐る膝に腰掛けてきた。小さなお尻も可愛らしい。
再び彼の頭を撫で始める麗華。そのまましばしの時が流れる――。
「ふわぁぁ、なんだか眠たくなってきましたわ」
あくびを片手で隠し、身体を伸ばす麗華。
「少しお休みになれてはいかがでしょう」
「‥‥そういたしますわ。空良、あなたもいらっしゃい」
「えっ?」
「だから、一緒に寝るのよ」
麗華は空良の手を引き、自室に戻り、ベッドに入る。
「ですが、僕はティーセットの片付けが‥‥」
「後からで結構ですわ。主に添い寝するのも執事の務め。いいですわね?」
そう言って、無理矢理ベッドの中に引きこむ。
(「ふかふかのベッド‥‥お嬢様の匂い‥‥」)
空良はがっちがちに緊張した様子。
「では、おやすみ」
「お、おやすみなさいませ」
麗華は空良の首筋にキスし、目を瞑った。「ひゃあっ!?」という声が聞こえたが気にしない。
空良はそれからしばらくの間、麗華の抱き枕になったらしい‥‥。
●嶺と衛
名家には必ずと言っていいほど奇妙な風習者しきたりがある。
お嬢様の九条・嶺(
gb4288)の実家――九条家もその例に漏れず、後継者候補が争い合い、最後に勝ち残った者が全てを得る、というルールがあった。
嶺は‥‥兄弟姉妹と血で血を洗う激しい争いを繰り広げるが‥‥次々と倒れゆく配下の者達。
そのうち嶺の元に残るのは、メイドの衛のみとなってしまった‥‥。
屋敷に襲撃を受け逃亡し、最後まで抵抗を続けた二人だったが、ついに敗北。拘束され、どこかの廃ビルの地下室に監禁されてしまった。
「衛‥‥大丈夫? 痛くない?」
「お嬢様こそ、お怪我はありませんかぁ?」
今は情けとして拘束を解かれていた。扉はがっちりと閉じられているが‥‥。
一番上の姉が言っていたのは「一晩だけ猶予をあげる」という言葉。権利を放棄すれば命だけは助けてくれるらしい‥‥。
『勝ち残った者が全てを得る』‥‥それはすなわち、敗者は全てを失う、ということに他ならなかった。
「衛‥‥ここまで付き合ってくれてありがとう、ね」
嶺は傷だらけの、衛の脚を撫でる。スカートはボロボロで、下に履いているスパッツもところどころ裂けていた。
「命だけは助けてやる‥‥と言われたけれど、私は引き下がるつもりは無い。明日、奴らが戻ってきた時‥‥私が隙を作るから、衛、あなたはその隙に逃げなさい」
「でも‥‥それじゃあお嬢様が!!」
「いいのよ‥‥あなたには感謝している。だから生きて」
「お嬢様ぁ‥‥嫌ですぅ、だったら私も一緒にぃ! 最後まで一緒にぃ!」
衛はわんわん泣きだし、擦り寄ってくる。
「衛‥‥」
困ったような表情の嶺。
「私はこれまでずっとお嬢様と一緒でしたぁ‥‥今更離れるなんて出来ませぇん!」
「‥‥そう、なら、最後の最後まで付き合って頂戴」
「はいっ!」
びしっと敬礼する衛。
しばらくして――
「冷えてきたわね‥‥衛、寒くない?」
「寒いです‥‥」
「こっちにおいで‥‥」
「はぃ‥‥」
肩を寄せ合う二人。
「こうして二人で過ごすのも、今夜で最後かもしれないわね‥‥」
「そうですね‥‥」
「なら、楽しまない? 最後だし、ね」
「え‥‥はぃ。お嬢様が望まれるのなら‥‥。最後、ですし」
嶺と衛はぽっと頬を赤らめ、微笑む。
‥‥二人は纏っていた衣服を脱ぎ、衛のメイド服を下に敷き、衛の上に跨った嶺が衣服を肩に羽織っている。このまま密着すれば、幾分か温かい。
肌と肌を合わせ、唇を重ね、蜜を交換する‥‥。
うっとりとした表情になる衛。
そして一晩中――互いを求め、愛し合った。
朝――
服を着た二人は敵を待ち受け、一瞬の隙を突いて脱出。
お嬢様とメイドさん、二人の反撃が、今始まる――。
●エリノアとマルセル
私の名前はエリノア・ライスター(
gb8926)だ。今は双子の兄貴の部屋の前。
扉の隙間から見えるのは――メイド服姿で、もじもじしながら鏡を見て、ポーズを取ったりしている兄貴の後ろ姿‥‥。
‥‥少し、違和感を覚える。あのメイド服は見たことがあった。
一度依頼で強制的に着せたこともある代物だ。手渡したのは何を隠そうこの私。
まさか、癖になってしまったのか? いやそんな、兄貴に限ってそんなことは‥‥ない。たぶん、きっと、恐らく。
しばらく聞き耳を立てていると――
「メイド服を着たエリノアだと思えば‥‥これはこれで」
そんなことを呟いていた!
私らは一卵性双生児で容姿がそっくりなのだ。
いや今はそんなことはどうでもいい。とにかくヤバイ。重症だ。
ダメだコイツ、早く何とかしないと!
「どんなんだよ!」
私は声を上げ、扉を壊さん勢いでぶち開ける。
メイド姿の馬鹿兄貴は驚いて飛び上がり、ワンバウンド。
何故か開いていた窓から落ちた。‥‥ちなみにここは二階。
「うわぁぁぁぁぁ〜‥‥」
悲鳴がフェードアウトした直後、ドスンと衝撃が起こり、野犬が一斉に吠え出した‥‥。
「正直スマンかった」
獰猛な野犬に追い回され、ボロ雑巾になった兄貴に一応謝る私。
「あはは‥‥まあ事故だから」
と、兄貴は笑って返してくる。
「兄貴‥‥」
お詫びに私は替えの服‥‥執事服(下は半ズボン)を差し出す。
「兄貴は男の娘じゃなくてショタ路線だと思うんだ」
つい、口から飛び出した言葉。自分でも「何を言っているんだ!」と思ったが、そうしなければならなかったのだ。うん、きっとそうだ。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
少しして、執事服に着替えた兄貴が姿を現す。
‥‥半ズボンを穿いた兄貴は、それはそれは扇情的だった。
短めの半ズボンから伸びるすらりとした艶かしい白い脚がなんとも言えない。
さっきのメイド服とは比べ物にならないほどに色っぺかった。
「もう、そんな目でじっと見つめないでよ、エリノア」
赤面してもじもじし、上目遣いで見つめてくる兄貴。
思わず押し倒してアレやコレやをしたくなる衝動が湧き上がったが、なんとか抑え込む。
いや、これが実の兄貴じゃなかったら速攻襲ってたね。断言できる。
「‥‥あ、エリノア。洋服のボタンが取れそうだよ」
どこからか裁縫セットを取り出し、私の解れたボタンを繕ってくれる兄貴。
胸元に近づいた兄貴の顔を愛しくなって‥‥私は思わずハグする。
「あっ」
‥‥そしたら針が兄貴の頬にぶっすりと刺さっちまったのだった。
またもや悲鳴が上がったのは言うまでも無い‥‥。
●マルセルとヒルデ
唐突だがこの俺、マルセル・ライスター(
gb4909)は狙われていた!
全てはドイツマフィアと因縁深い母親の所為である。
父親と出会い、結婚し、マフィアから足を洗った母親だったが、そう簡単に組織から抜けられるはずもない。
「ヒルデ!」
俺は彼女の名を叫ぶ。
飛び交う怒号と5.56mm弾。ビール樽とヴルストが舞う中を、颯爽と駆け抜ける一人のヴィクトリアンメイド。
ひらりとロングスカートがはためき、俺の周りを囲む悪党どもは彼女の近接格闘術で蹴散らされ、真っ赤な鮮血の花弁を散らせる。
「‥‥若様、ご無事ですか?」
息一つ切らさずにヒルデ――ヒルデガルト・リンデンベルクが尋ねてくる。
歳は二十半ば。おさげ髪で眼鏡が似合う、物静かで礼儀正しく‥‥それでいてどこか温かみを感じさせる、母親のような女性(ひと)だった。
「ありがとう、大丈夫だよ。ヒルデ」
俺がそう返すと、彼女は優しく微笑んだ。
――しかし俺はヒルデが目を離した一瞬の隙を突かれて、悪党どもに捕まってしまった。
今は悪党どものアジト。太い柱に、ロープでぐるぐる巻きにされている。
このまま――殺されてしまうんだろうか。それとも‥‥。
そんなことを考えていると、悪党どもが騒ぎ出した。なんだ‥‥?
次の瞬間、目の前の扉が開かれ――眼鏡を光らせおさげを揺らしたメイドが姿を現す。
(「ヒルデ‥‥!!」)
口を塞がれて声は出せないが、俺は心の中で叫ぶ。
悪党どもは拳銃やライフルを構えるが、それより先に彼女のナイフが煌き、鮮血の花が咲く――。
「若様、申し訳ありません」
「助けに来てくれると思ってたよ、ヒルデ」
「当然です。では、行きましょう」
差し出された彼女の手には血が付着していた――でも俺は気にせず、握る。
ヒルデと共に悪党のアジトから脱出を図る俺だったが‥‥奴らもバカじゃない。
どんどん敵が増え、急速に包囲されつつあった。ピンチだ。
脱出路を探していると、ふいに物陰から悪党が現れ、拳銃から銃弾が放たれた!
狙いは‥‥俺。しかしそれは俺に命中しなかった。‥‥ヒルデが、庇ってくれたのだ。
ヒルデは銃弾を受けつつも、たった今発砲した悪党をナイフで血祭りに上げる。
そして‥‥倒れ伏した。
「ヒルデ!!」
「若様‥‥お逃げ‥‥ください」
「そんなの嫌だよ! ヒルデ! ヒルデ!」
彼女を抱き起こそうとする。そうこうしているうちに、通路に足音が響いた。大人数だ。
「くっ‥‥!」
俺はさきほどの悪党が持っていた拳銃を拾い上げる。だが――血塗れのヒルデに止められた。
「‥‥いけません若様。若様は‥‥世界の全てを憎んでいた私の心を救ってくれました。戦う術しか持たず、人を殺めることだけを教え込まれて生きてきた私に、愛する事を‥‥教えてくれた」
彼女はよろよろと立ち上がる。
「今度は私が‥‥貴方を救う‥‥」
眼鏡を外し、制止を振り切って敵に向かって行く彼女。そして――
『どんなんだよ!』
妹の声で、俺は現実へ引き戻された。
●白亜とアレク
お嬢様の上月 白亜(
gb8300)は館で執事のアレクと共に、穏やかに暮らしていた。
去年の夏の終わりに彼と想いが通じ合って以降、体調も良くなってきている。
やはり病は気から、というところもあるのだろうか。
アレクの強い想いは白亜にとって、生きる力となったのだ。
大晦日――
「ねぇ、アレク、今日は私も料理作るわね?」
お茶の時間、白亜はアレクに提案した。
以前はベッドから出ることもままならなかったが、今は普通にテーブルでお茶が出来るようになった。
「お嬢様‥‥何を仰るかと思えば‥‥。大丈夫なのですか?」
アレクが心配そうに見つめてくる。
「最近。本で勉強しているのよ‥‥? その‥‥好きな人に手料理くらい食べてもらいたいし‥‥」
ぽっと、頬を染める白亜。釣られてアレクも赤くなった。
特に反対する理由はなく、アレクは同意。
「その代わり、私もお手伝いしますからね」
と、アレクは微笑む。
「ええ、お願い。あ、あと、今日は一緒にご飯食べてね‥‥? いつも執事だからって言って一緒に食べた事無いんだから‥‥」
「今日は積極的ですね、お嬢様。‥‥わかりました。ご一緒にお食事をさせていただきます」
積極的‥‥そのように言われて、気が付いた。確かにそうかも。大晦日だからだろうか。
そうして二人は、年越し蕎麦を作ることにする。
麺を打つ力仕事はアレクの役目。白亜は薬味などを刻む。しかし‥‥慣れない為か、その手つきは危なっかしい。
横目で見ていたアレクはハラハラしっぱなしだった。
‥‥蕎麦が完成し、いよいよ二人で食事。
「つるつるしていて美味しい‥‥。お蕎麦って、初めて食べたわ」
「ええ、美味しいです」
テーブルに向かい合って座り、蕎麦を啜る二人。
和やかに語らいながらだと、食も進む。
いつもは小食な白亜も、ゆっくりとだがしっかり完食した。
「美味しかった‥‥。二人で作ると、余計に美味しいわね」
「お嬢様のお蕎麦、とても美味しかったですよ」
「うふふ、作ったのは殆どアレクだけど」
しばらく話していると――日付が変わり新年となる。
「あけましておめでとう。貴方がいるから明日が楽しみなんだから。今年もよろしくね、アレク?」
「私も同じ気持ちです。こちらこそ、よろしくお願いします」
微笑み合う二人。
「ふぁ‥‥少し眠くなっちゃった‥‥」
「もう遅いですからね。そろそろお休みになられてください」
寝巻きに着替え、ベッドに入る白亜。
電気を消して退室しようとするアレクに、白亜は思い切って言ってみる。
「‥‥アレク、その‥‥一緒に‥‥寝ない‥‥?」
「え‥‥? お、お嬢様‥‥それは‥‥」
さすがのアレクも動揺した様子。
「ダメ‥‥?」
真っ赤になった顔を布団で隠しつつ、白亜が問いかける。
「‥‥」
「いいじゃない‥‥。だ、だって‥‥好き同士‥‥なんだし‥‥」
口に出してから耳まで真っ赤になる。アレクも同様。
「‥‥わかりました。今夜はずっと、お嬢様のお傍におります」
「良かった‥‥」
ふう、と安堵する白亜。
アレクは上着を脱ぎ、ベッドに入ってくる。白亜は少し横にずれてスペースを作った。
「不思議‥‥ドキドキするのに‥‥どこか、安心した感じ‥‥」
「そうですか?」
「ええ、そうよ」
白亜は布団の中でアレクの手を握る。
「このまま‥‥このままでいて」
「はい」
アレクはそれだけ答える。
愛する人をすぐ隣に感じながら、二人は眠りに落ちていく。
きっと、心地よい夢を見ることだろう‥‥。
●夢覚めて
現実へ戻っていくご主人様達。一夜限りの夢は如何だっただろうか。
また、このような機会があるかもしれない。それまで‥‥しばしの別れである。