タイトル:防御指令マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/26 12:49

●オープニング本文


 九州戦線において、秋に大量発生した虫型キメラ。
 UPC九州総軍の決死の抵抗により数を減らしたが、その勢いは未だ衰えていなかった‥‥

 バグア軍の勢力下にある福岡と、UPC九州総軍の司令部が置かれている熊本との県境。
 そこに構築された防御陣地――
「弾だ! 弾をもってこい!」
「弾幕を薄めるな! 取り付かれたら終わりだ!」
 激しい銃声と、怒号と、グレネード弾による爆音が響く。
「なんだってんだよ‥もう12月だぞ‥虫の癖に‥さっさと冬眠しろよ!」
 塹壕に身を潜め、青葉・茂軍曹(25歳)は悪態をつく。
 陣地には大量のキメラアントが‥‥川を流れる水のようにとめどなく押し寄せていた。
 左右に設置された二基のトーチカが火を噴く。陣地から機銃弾が降り注ぐ。
 吹き飛ばされ、ズタズタに切り裂かれる‥が、それでも尚、キメラアントの波は止まらない。
 そしてそのうち、ついに一角が突破されてしまう。
「ぎゃあああああっ!!」
「うわあああ! 来るな! 来るなああ!!」
 あちこちで悲鳴があがる。塹壕内に侵入を許してしまったようだ。
 ごろん。
 青葉軍曹の目の前に、何かが転がってきた。
 よく見るとそれは‥ヘルメットを被った、人間の頭部。
 その表情は恐怖に怯え目を見開いたままであった。
 驚く間もなく青葉軍曹にシャキンシャキンと鋭い顎を鳴らしてキメラアントが迫る。
 きっとこれもコイツの仕業。取り付かれ、その顎で首を掻き切られたのだろう。
「‥‥ちぃくしょおおおおっ!!!!」
 青葉軍曹は、叫びながら小銃をフルオートで乱射した――

「陣地の防衛に協力してもらいたい」
 そんな依頼がULTに届いた。依頼主は秋にブラインドビートル退治を依頼してきたUPC将校である。
「熊本を守る防御陣地の一つにキメラアントの大群が押し寄せているのだ。またこのような依頼で申し訳ない。しかし事態は緊急を要する。上層部では傭兵の力に頼りすぎることを懸念する声も上がっているが、それどころではない。どうか、頼む。君達しかおらんのだ‥」
 中年のUPC将校は、深く頭を下げた。
「それから、キメラアントの中には大型の個体も確認されている。注意してくれ」

●参加者一覧

寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
優(ga8480
23歳・♀・DF
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

●AM6:00
 まだ薄暗く夜も明けきらぬ頃、兵員輸送用のトラックで陣地に到着した傭兵達。
 辺りにはひっきりなしに銃声が響き、今現在も激しい戦闘が行われていることが解る。すぐにでも出撃したいところではあったが、要請したいこともあるので、まずは陣地の指揮官に挨拶をすることにした。
 しばらくして、傭兵達は地下に作られた執務室に通された。‥どうやらこの陣地の重要施設は全て地下にあるらしい。地上から見るよりも規模は大きいようだ。
「‥君達が傭兵かね?」
 硬そうな椅子に腰掛けた指揮官は不機嫌そうに口を開いた。その眉間には深く皺が寄っており、ひどくやつれた様子である。‥ちなみに、依頼主のUPC将校とは違う人物だ。
 頷く傭兵達。
「正直に言おう、私は傭兵が好かん。我が強く協調性の無い‥組織にそのようなものは不必要だ。が、そんなものにまで頼らねばならんのが軍の現状だ」
 指揮官は溜息をついた。
「千人に一人、エミタに適合し、SES搭載武器を操り、あの忌々しいバグアのフォースフィールドをものともしない、人類の希望。能力者。‥そんなものが存在しても、前線では日々次々と兵士が命を落としていく‥!!」
 指揮官の拳が質素なデスクを叩いた。
「‥最後の希望を名乗るなら、相応の結果を出せ。‥要請は聞く。情報もやろう。弾薬費もこちらで負担しよう。だが我々、軍には指揮系統という物が存在する。正規兵ではない傭兵の指示に従えないのは至極当然のことだ。‥用件が済んだら早く出ていってくれ‥」
 嫌悪を真正面からぶつけられ複雑な気持ちを抱きつつ、傭兵達は足早に執務室を立ち去る。そして事前の打ち合わせ通り3班に分かれ、ローテーションを組んで配置に付くのだった。

 α班――
「ふぅ、凄い数だなぁ」
 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)が迫り来るキメラアントの群れを見渡して言った。
「なるほど。情報どおり、かなり切迫した状況みたいですね」
「防衛戦は敵との我慢比べ‥‥長丁場が予想されます。お二人とも、頑張りましょう」
 それに美環 響(gb2863)と遠倉 雨音(gb0338)が続く。
「さて、お仕事お仕事っと!」
「ええ、始めましょう」
「命がけの害虫駆除を‥‥」
 そうして三人は、行動を開始した――
「いくぜ!」
 気合いと共にヴァレスは覚醒。髪と瞳が深紅に染まり、背に漆黒の翼が現れ、目付きが変わる。
「‥‥」
 塹壕内では取り回しに難があるメインウェポンの大鎌「戮魂幡」を地面に突き刺し、ホルスターからハンドガンを抜く。
「目標、排除開始」
 キメラアントに狙いを定め、連続して放つ。3発目で1匹が伏した。
 それを確認するとヴァレスはすぐさま次の獲物に銃口を向ける。
「ろくに狙わなくても当たるのは助かりますが‥‥うんざりしますね、この数は」
「まだ始まったばかりですよ」
 雨音はアサルトライフルの3点射、響は小銃S−01で次々と仕留めていく。
 愚痴をこぼす雨音であったが、響の微笑みに諭されて頷いた。そう、まだ始まったばかりなのだ‥
 その横でヴァレスはアーミーナイフを振るう。
 数十分が経過した頃――
「雨音さん!」
「っ!?」
 突破してきたキメラアントが雨音に飛び掛る。雨音は反射的に身を逸らして避け、イアリスに持ち替えた響が1、2撃を加えて倒した。
「ありがとうございます。気をつけないといけませんね」
「いえ。集中力を保つのは難しいですから‥」
 二人の長い艶やかな黒髪が風になびいた。
 男装の麗人を思わせる外見の雨音と、優美な雰囲気を纏う少女のような容姿の響。‥この二人、もしかしたら似ているのかもしれない。

 傭兵達が投入されたことで、戦況は一変。これまで防戦一方であったUPC軍側が優勢となる。
 あれほどの数の第一波は2時間ほどで消滅した。
 この事実は指揮官も認めざるを得ないだろう。

●AM9:00
 傭兵達の活躍により一旦敵の波が途切れたが、すぐに第二波がやってきた。
 傭兵達は二度目の防戦を開始する。

 β班――
 優(ga8480)、イスル・イェーガー(gb0925)、堺・清四郎(gb3564)の三人は高台の監視兵からの情報を元にキメラの集中しているポイントや塹壕に侵入を許したポイント、または突破されそうなポイントを重点的に、遊撃に回っていた。
「全員無事で作戦を達成できるとは思いませんが、死力を尽くさねばなりませんね‥‥」
 優は迫り来るキメラアントを月詠で一刀のもとに斬り捨てる。
「これで何匹目か‥‥」
 しかし数えていても仕方が無い。今は目の前の敵に集中するのみ。
「敵集団の接近を確認‥‥援護します」
 その背後でイスルはひたすらライフルで狙撃。
 スコープを覗くオッドアイが光る。その表情はまさしくスナイパーのそれであり、小さな目標に、確実に命中させていく。
「1つ‥‥2つ‥‥3つ‥‥くっ、弾切れか。リロードします!」
「了解、カバーに入る」
 ライフルに弾を込めるイスルの横に清四郎がついた。
「ふん、見渡す限り敵だらけ‥狙いを定めるまでも無い」
 無骨で大ぶりな真デヴァステイターを豪快に片手で構える清四郎。
「さあ、こい! 鉛玉でたっぷり歓迎してやるぜ!!」
 重い銃身から撃ち出される弾丸に、身をごっそり削られるキメラアント達。
 最後によろよろと抜けてきた一匹の頭部に蛍火を突き刺す。
「掃討完了!」
「了解。次のポイントへ向かいましょう」
 無線機で連絡を受けていた優の言葉に頷き、駆け出す三人。
 塹壕を進んでいくと、多数のキメラアントに群がられている兵士達の姿があった。
「ひぃぃぃっ!!」
「た、助けてくれぇぇ!!」
「ぎゃああああ!!!!」
 悲痛な叫びが上がる。
「待ってろ! すぐそいつらを引っぺがしてやる!!」
「こいつら‥‥!」
「やらせません!」
 清四郎は蛍火、イスルはアーミーナイフ、優は月詠を使って兵士に取り付いていたキメラアントを引き剥がし、頭部を潰す。
「大丈夫か?!」
 急いで兵士達の様子を確認するが‥‥既に一人は事切れていた。顎で心臓を食い破られたようだ。他の二人も傷を負っている。すぐに救急セットで応急処置を始める優。
「くっ‥‥!」
「遅かったか!」
 奥歯を噛み締めるイスルと清四郎。
「これが‥‥前線なのですね‥‥」
 生き残った兵士に止血を施しながら、優は呟いた。

●PM0:00
 第二波を退けた頃、太陽は真上に達していた。
 しかしまたすぐに第三波がやってくる。激しさを増す敵の攻勢。
 負傷者も加速度的に増えている。
 θ班――
 本来なら休憩に入る時間だったが、寿 源次(ga3427)は負傷した兵士の治療に奮闘していた。
 そしてそれを護衛する智久 百合歌(ga4980)。
「よし、一応は大丈夫だ。後は美人の看護婦さんにでも治して貰え」
 処置が完了した兵士の背中をバンと叩く源次。
「痛ってぇよ傭兵さん! でも助かったぜ、ありがとな」
 兵士は礼を述べる。
「ご苦労様ですね」
 辺りを警戒しつつ百合歌は源次を労った。
「このくらいどうってことないですよ。智久さんが背中を守ってくれるから俺は治療に専念できる。ただ、まともに飯を食う暇も無いのがちょっとね」
 彼女はふんわりとした雰囲気を纏う若々しく見目麗しい美女である。このような泥臭い戦場には似合わない‥‥固形栄養食を頬張りながら、源次はそう思った。
「どうしました? 私の顔に何か付いてます?」
 百合歌は首をかしげた。
「い、いえ。なにも」
 思わずドキッとしてしまう源次。いかんいかん、相手は人妻だ。
 そのとき――
「敵襲ー!!」
 どこからか声が上がった。
「またっ! コイツら無尽蔵か‥‥? 飽きずによくもっ! ここは俺達に任せて怪我している奴らはさっさと退避しろ!!」
「数の力で押されては、つべこべ言っている暇もないわね。頼られたからには此の戦場、しっかり守り抜きましょう」
 源次は超機械ζを、百合歌はエネルギーガンを、それぞれ構えた。

●PM2:00
 三度に渡る敵の進攻を耐え抜いた傭兵達。
 しかし休む間もなく、これまでで最大規模の第四波が迫る――
 打ち上げられる照明銃。即座に傭兵全員が反応した。それは‥‥緊急時の合図。
 休憩していた班も即座に戦闘準備を整える。
「敵! 大型種を多数確認!」
 無線機から監視兵の声が聞こえてくる。今度はラージアントも混じっているらしい。
 対中〜大型キメラ用のトーチカが直ちに起動し、砲撃を開始した。
 だがやはりフォースフィールドによる威力減衰が大きく、中々有効打を与えられない。
 爆音が轟く中、傭兵達は塹壕内を突き進む、兵士を守るため前面に出るのだ。
 規模から考えてこれが最後の攻勢である可能性が高い。ここが正念場だ。
 そのうち重機関銃の射撃音も聞こえてくる。これはキメラアントの群れが射程に入ったということ。ここへ到達するのも間もなくだろう。
 配置に付いた百合歌、優、雨音、響がスコーピオン、アサルトライフル、小銃S−01で弾幕を張る。
「絶対に抜かせないわ。それが私達の仕事だもの‥!」
「少しでも数を減らす‥!」
「一匹ずつの戦闘力は低くても‥これだけ大量に‥しかも使い捨て感覚で突っ込んでくるとなると‥‥いえ、泣き言を言っている暇はありませんね。必ず、守り抜いてみせます!」
「ふっ、これだけの数、一体どこから湧いて出たのやら‥でも!」
 一方イスルは――
「っ、でかいヤツ‥‥っ。悪いけど、狙い撃つ‥‥!!」
 強弾撃を使用しライフルでラージアントを全力射撃。
 4発全て命中するものの、倒すには至らない。昆虫型に物理攻撃は効き難いのだ。
 そして、ヴァレスと清四郎は弾幕を抜けてきたキメラアントに対してハンドガンと真デヴァステイターで止めの銃撃を加える。
「その程度で、俺を越えようなど」
「残念だな、ここで行き止まりだ」
 傭兵達と兵士が全力で迎え撃つも、やはり敵の数は多く、キメラアントの群れがなだれ込んできた。塹壕内での乱戦が始まる。
「なっ、しまった!?」
  超機械ζで兵士に取り付かんとするキメラアントを潰して回っていた源次であったが、一瞬の隙を突かれ逆に数匹に取り付かれてしまう。
「ぐ、効くかは判らんが‥」
 源次は覚醒を解き、超機械ζで取り付いているキメラアントに攻撃してみるが‥‥やはり覚醒状態でなければ効果は薄い。
「ダメか‥‥!」
 キメラアントの鋭い顎が迫る!
 ‥が、それは源次の喉を掻き切ることはかった。
「寿さん、油断は禁物ですよ」
 目の前には鬼蛍を構えた百合歌の姿。
「すみません。助かりました」
「いえ、それよりも――」
「ラージアントが突破してきたぞ!!」
 兵士の怒声が聞こえた。振り返ると、3体のラージアントが塹壕内に入り込み、兵士を次々に襲っている。
「智久さん!」
「ええ、急ぎましょう!」
 地を蹴る二人。
「俺がやる。援護を」
 ヴァレスが手にしていたアーミーナイフを投げ捨て、地面に突き刺していた大鎌「戮魂幡」を抜き、吶喊。
「「了解!!」」
 雨音と響の支援射撃で道が開く。
 ラージアントに肉薄したヴァレスは大鎌を振り被りその一撃でその右脚部を叩き切る。
 二撃目、左脚部。
 三撃目、尻部。
 そして――
「これで終わりだ」
 渾身の力を込め、首を刎ねた。
 頭部を失っても尚もがくラージアントであったが、すぐに動かなくなった。
「容赦はせん、焼けろ」
「昆虫型は硬いけど、知覚攻撃には弱かった――わね」
 残りの二体に向かって電磁波と一条の光線が放たれる。
 大ダメージを受け悶え苦しむラージアント。続けて第二射。
 まともに食らった二体のラージアントは‥‥力なく倒れ伏した。
 昆虫型は非物理攻撃に弱い。これまでの経験を生かした、百合歌の見事な攻撃であった。
 源次のほうは相性といったところだろうか。
 
 全てのラージアントが倒された。それはすぐに指揮官に伝わる。指揮官は傭兵の力に驚愕しつつも、確信した。
「勇敢なる兵士諸君! 我々の勝利は見えた! 掃討戦に移行せよ! 人類がバグア如きに滅ぼされる種ではないことを知らしめるのだ!! 繰り返す、掃討戦に移行せよ! 傭兵に続け!!」
 スピーカーから指揮官の声が響く。
 ――兵士達から、歓声が巻き起こった。

 数時間後、全てのキメラアントは排除された。
 夕陽に照らされる陣地‥‥
 傭兵達は必死に戦い、勝利を勝ち取った。彼らの力が無ければ成しえなかっただろう。
 中には練力を使いきり、倒れこむ者もいたが、皆、満足そうであった。
 しかし、少なからず死傷者が出てしまったのは確かである。
「この光景こそが今の僕の限界‥ですが、いつまでもこの光景を見続けるつもりはありませんよ」
 丁寧に回収される兵士の遺体や、重機で片付けられるキメラアントの死骸を見ながら響きは呟く。
「凌ぎ切った事を素直に喜ぼう。こうした勝利の積み重ねや生き残った実感、いいじゃないか?」
 言ったのは源次だ。響の肩に手を乗せる。
「そうですね」
 響は振り返り、夕陽を背にして満面の笑みを浮かべた。

 防御陣地地下・執務室――
「矢張り、自分の目で見なければ判らんということか。これは‥‥傭兵に対する考えを改めなければならんな‥‥」
 指揮官は、口元を微かに綻ばせた。