●リプレイ本文
●フェルマータへようこそ!
チョコケーキ作り講座を受けにやって来た能力者達――
「いらっしゃぁ〜い。今日は楽しんで行ってねぇ〜ん」
「ようこそおいでくださいました、ご主人様、お嬢様」
店長とメイドのミカがにこやかに出迎える。
「ふふ‥‥拓那さんと二人で一緒にお料理なんて、楽しみです」
微笑む石動 小夜子(
ga0121)。美しく、淑やかで、穏やかな女性である。
「ああ、俺も楽しみだよ」
彼女と腕を組んだ新条 拓那(
ga1294)が答えた。
「チョコレートケーキはあまり作った事が無いのですけれど‥‥二人で習いながら作れば、きっと大丈夫、ですよね」
「俺は、お菓子作りはからっきしだから。今日はご教授お願いしますよ、先生♪」
「ええ、任せてください」
二人は顔を見合わせ、再び微笑む。
「店長さん、ミカさん、お久しぶりなのだ♪」
チャイナドレスを身に纏った神崎・子虎(
ga0513)が元気よく挨拶する。
「お久しぶりねぇ、子虎ちゃん。そっちの子は?」
店長は子虎の隣に目をやる。
「この人は僕がナンパしてきた優乃お姉さんなのだ☆」
「私は子虎くんに誘われてきたんだけど‥‥ナ、ナンパ?」
子虎の隣にいる女性、弓亜・優乃(
ga0708)は子虎の口から飛び出した「ナンパ」という単語に少し戸惑った様子。
「ふ〜ん、子虎ちゃんもなかなかやるわねぇ」
この子は両刀なのかしら、とか思う店長であった。
「と、いうわけで優乃お姉さん、今日は楽しもうなのだ♪」
「‥‥チョコレートケーキか。わ、私だって‥‥甘い物は心をくすぐられるし‥‥」
優乃は頬を染め、恥ずかしそうにモジモジする。
凛とした彼女も甘いお菓子の誘惑からは逃れられない。れっきとした女の子なのだ。
「私自身、あまりこういうことはしないから。良い機会だと思うからしっかりと学ばせてもらおうかしらね」
こくりと頷く。
「それにしても‥‥」
二人を見回す店長‥‥。
「な、なにか‥‥?」
視線に気付いた優乃が尋ねる。
「子虎ちゃんのほうが、女の子らしいわね」
びきっ。――そんな音が、響いた気がした。
「‥‥それは、どういう意味デスカ‥‥」
ショックを受け、俯く優乃。
「あら、ごめんなさい。子虎ちゃんのほうが可愛らしい、ってことよ。優乃ちゃんはどちらかというと、綺麗系ね。気を悪くしたならごめんね☆」
小指を立てて片目を瞑る店長。
ちょっぴり「イラッ☆」とする優乃だったそうな。
まあ綺麗と言われて悪い気はしないが‥‥。
(「日頃‥‥冬無にも、麗華にも‥‥世話になっている故‥‥感謝の意、と共に‥‥贈物、したい‥‥」)
(「このアサルトメイド。悪戯心は忘れず行きますです。フラグ、二本纏めて立てにいきますですよ!」)
(「しかしケーキ作りなんて初めてですわね。大丈夫ですかしら」)
L3・ヴァサーゴ(
ga7281)、伊万里 冬無(
ga8209)、大鳥居・麗華(
gb0839)の三人組はそれぞれ思考をめぐらす。
大人しそうで守ってあげたくなるようなヴァサーゴ、露出の多い派手なメイド服に着こなす冬無、ゴージャスな雰囲気のお嬢様、麗華。三人とも個性的だ。
冬無はなにやら、企んでいるようだが‥‥。
「は、始めてのお菓子作り頑張るですの。よ、よろしくお願いしますの」
最後におずおずと口を開いたのは来栖・繭華(
gc0021)。
小柄な身体に不釣合いな――豊満なバストが特徴的である。
「ええ、こちらこそ」
ミカがにっこり笑い、繭華の手を引いた。
一行は店内に入り準備を始める。
●お菓子作りその1
小夜子と拓那は話しながら作業を進める。
時折、同じ調理器具を取ろうとして手と手が触れ合ったり、同じタイミングで話を切り出したりして互いに頬を染めることはあったが、順調だ。
「‥‥? どうされました、拓那さん?」
作業する自分の手を、拓那が見つめていた。
「あ‥‥いや、何でも。小夜子が楽しそうで可愛いなぁって」
「そんな‥‥可愛いだなんて‥‥。確かに、楽しくはありますが‥‥」
ぽっと頬を赤らめる小夜子。
楽しいのは彼と一緒にいるからである。
「それにしても、同じ手順で作ったのにこの違いは何故だろう」
拓那が言った。同じものを作っているのだが、拓那のほうはどこかいびつだ。
「形はどうでもいいんです。気持ちが篭っていれば、それで‥‥」
「あはは、そうかな」
ぽりぽりと頬をかく拓那。‥‥そのまま二人は作業を続けた。
小夜子の鮮やかな手並みに、そして手伝ってくれる度に近づく彼女自身に拓那の胸は自然と高鳴る。
「‥‥拓那さん、味見、お願いできますか?」
「へ?」
生クリームを混ぜたチョコを指の先に乗せ、拓那の方へ差し出してきた。
小夜子の白く美しい指先‥‥。
「お願い、します」
そう言われて、拓那はごくりと唾を飲み込んだ。
「じゃあ、いただきます」
チョコのついた小夜子の指を口に含む。
「んっ‥‥」
かすかに声を上げる小夜子。
「‥‥うん、美味しいよ。丁度いい甘さだ」
「そうですか、良かった」
小夜子は安心したように笑みを浮かべる。
スポンジをチョコでコーティングし終わり、冷蔵庫で冷やす間、拓那は余ったチョコレートでチョコフォンデュを作ることにした。
一方、子虎と優乃は――
(「さてさて、作るか。子虎くんが教えてくれるようだけど、あまり頼りっぱなしも駄目だし、私も自分でできるだけ‥‥ね」)
エプロンを着用した優乃はそんなことを考える。
「せっかくだし優乃お姉さんも作るのだ♪ その方が楽しいよ?」
「うん、そのつもりだけど」
頷く優乃。
「僕がちゃんと教えてあげるのだ♪ 僕にまかせてー♪」
「お願いするわね」
にこりと優乃は笑みを浮かべた。
しかし――
(「人から何かを習うって、何だか嬉しい半分、照れくさい感じもあるよね‥‥何故だろうか」)
とも思う。
‥‥二人が作るのは甘い甘いチョコケーキ。
台もチョコで作り、形は円形。ケーキの上にハート型のチョコを乗せる。
ぎこちない手つきの優乃を子虎がフォローし、作業を進めていった。
●お菓子作りその2
ヴァサーゴと冬無と麗華は一組になりつつも、それぞれ別のケーキを作る。
ナッツとフルーツでデコレートされたチョコケーキのヴァサーゴ。
冬無はビターチョコとブランデーを使用した大人の一口プチチョコケーキ。
麗華はハート型のチョコケーキを作ろうとしているが‥‥。
「然し‥‥我、お菓子作り‥‥殆ど‥‥した事、無い‥‥。故‥‥度々、冬無に‥‥手伝って貰う事に、なりそう‥‥」
不安そうな様子のヴァサーゴ。
「ご心配なく。私が手伝って差し上げますですよ♪」
「冬無‥‥。感謝‥‥」
安堵し、ほっと胸を撫で下ろす。
ヴァサーゴと麗華は料理に不慣れのため、冬無が仕切ることになる――。
「このくらい楽勝ですわ」
さっそく作業に取り掛かる麗華。しかし何を思ったか、板チョコを直火で炙っている!?
このお嬢様は湯銭というものを知らないようだ! 非常に危ないです! 良い子は真似しないように!
‥‥当然チョコはコンロに溶け落ち、焦げ臭い匂いが漂い始める。
「麗華‥‥其れ‥‥違う‥‥」
ヴァサーゴが突っ込む。料理に詳しくない彼女も、流石にこれは危険だと思ったらしい。
麗華の行動を止めようとするヴァサーゴだったが、火に触れてしまい、指を火傷してしまう。
「熱っ‥‥!」
「っ! ヴァサーゴ大丈夫ですの!?」
彼女の手を取り、火傷した部分をぺろぺろと舐める麗華。
「不覚‥‥。って、麗華‥‥何を‥‥!? 大した事‥‥無き故‥‥斯様な事、せずとも‥‥。然し‥‥感謝‥‥」
照れくささと嬉しさが半分半分といった様子のヴァサーゴである。
(「きぃー!」)
その様子を横で見ていた冬無は嫉妬。ハンカチがあれば噛み締めていたところだ。
次の瞬間、彼女は溶かしたチョコに指を突っ込んでいた。
「‥‥きゃふぅん♪ 麗華さぁん、私も火傷しましたです〜♪」
本当は火傷などしていないのだが――。
「伊万里‥‥」
じっとりとした目が冬無を見つめる。
「ああ痛い! 痛いです! 火傷を甘く見ちゃいけないですよ? 痛い痛い!」
わざとらしく声を上げる冬無。
「はあ‥‥まったく、仕方ないですわね」
麗華は冬無の指に付いたチョコを、その下でぺろぺろと舐め取った。
「あぁん♪ 麗華さんの舌、イィ♪」
「ちょっと! 変な声を出さないでくださいます?!」
くねくねする冬無に対し麗華は抗議する。そのとき――
「そこ、火つけっぱなし! ちゃんと消してちょうだい!」
‥‥店長に怒られてしまった。
麗華は慌てて消そうとするが、誤って少し火傷してしまう。
「あぁ、麗華さんまで! これはいけませんです、あむっ♪」
ここぞとばかりに麗華の指を咥える冬無。そしてちゅぱちゅぱと吸う。
「あつっ!? わ、私としたことが‥‥って、伊万里ー!?」
ぬめった舌の感触に、麗華の顔は真っ赤だ。
そんなこんなで、ドタバタしつつも三人は作業を進めていく‥‥。
繭華の方はというと――
「ふにゅ‥‥ど、どっちがグラニュー糖で薄力粉なんですの‥‥」
「こちらですよ」
ミカと一緒にガトーショコラを作っていた。
しかし出来るだけミカの手を借りず、自分で頑張っている。
「うんしょ、うんしょ」
頬に粉をつけて一生懸命に作業するその姿は思わず抱き締めたくなるほど愛しい。
「そ、そういえば‥‥あ、あの、完成したものは‥‥も、持ち帰ってもいいですか?」
一旦手を止め、ミカに尋ねる繭華。
「構いませんよ」
「良かったですの‥‥もっと、頑張りますの‥‥」
繭華はきゅっと口元を引き締める。
「誰かに差し上げるんですか?」
と、ミカが聞いてきた。それに繭華は頬を赤らめ――
「‥‥ち、智覇お姉ちゃんにあげますの」
恥ずかしそうに答えた。
「智覇さん‥‥といいますと、確か傭兵さんでしたか。喜んでもらえるといいですね」
「はい、ですの」
微笑む二人。
その後、生地を型に流し入れ、型を2〜3cmの高さから落とし、中の空気を抜いてから焼成に入る。
●試食会
皆のチョコケーキが完成したら、いよいよ試食会だ。
お茶会も兼ねて、小夜子が持ってきた茶葉と牛乳を使い、ミカがミルクティーを淹れる。
大きなテーブルいっぱいに広げられた、甘いお菓子の数々に拓那は声を上げた。
子虎と優乃は並んで座り、ケーキを口に運ぶ。
「もぐもぐ‥‥」
「どれも美味しいわね」
ぱくぱくと食べる優乃。やはり甘いものが好物のようだ。
「んふふー、僕のケーキの味はどうかな? はい、あーん♪」
優乃に自分が作ったケーキを食べさせる子虎。
「え? あ、あーん」
ぱくっ。
「どう? 美味しい?」
「‥‥うん、美味しい」
「良かった♪ 優乃さんのも食べてあげるのだ♪ どんな味かなー? ‥‥優乃お姉さん食べさせてー♪」
「えぇ? ええ、わかったわ」
優乃は汗を垂らす。自分のは子虎のと比べると形が無骨だ。でも味は‥‥大丈夫なはず!
「はい、あーんして」
「あーん♪」
ぱくっ。
「もぐもぐ‥‥」
「‥‥」
「もぐもぐもぐ‥‥」
「‥‥ど、どうなのよ? 味は」
沈黙に耐え切れず、尋ねてしまう。
「‥‥うん、美味しいよ。ちょっぴりビターだけどっ」
「そ、そう。良かった」
ほっとする優乃。ビターにしたつもりはなかったが、味は良いようで何よりだ。
小夜子と拓那も並んで座り、互いのケーキを食べさせ合っていた。
「はい、あーんしてください、拓那さん」
「あ、あーん‥‥」
フォークですくったケーキを拓那の口に運ぶ。
ぱくっ。
「もぐもぐ‥‥」
「どうです?」
「美味しい、美味しいよ。小夜子のケーキは見た目も味も最高だ」
「うふふ、ありがとうございます」
嬉しそうに笑みを浮かべる彼女。
「じゃあ、今度は俺が‥‥」
拓那は苺のチョコフォンデュを小夜子の口に入れてあげる。
「どう?」
「美味しいですよ、すごく」
また、微笑む。やはり‥‥大好きな人が作ってくれたものは、格別に美味しいのだ。
「もきゅもきゅ‥‥」
ミルクティーを飲みながら、チョコケーキを食べる繭華。
すると――がりっ。なにかが、歯に当たった。
‥‥口から出してみる。それは‥‥
「ケーキから、猫さんが出てきましたの」
「あ、それは私が入れたものですね。当たった方に金運が授かるおまじない、です」
小夜子が言った。
「もらって、いいんですの?」
「ええ」
「ありがとう‥‥ですの」
ちょっぴり幸せ。繭華はそんな気持ちになった。
ヴァサーゴと冬無と麗華は‥‥目の前にある物体について論議中。
その物体とは麗華が作ったチョコケーキであった。
ハート型にするつもりだったのだが――何故か心臓の形になってしまったのだ――。
今にも脈動しそうなリアルな造形‥‥ある意味芸術的である。
「確かに‥‥『ハート型』では‥‥ある‥‥」
ヴァサーゴがぼそりと言った。
「さすが麗華さん、グロテスクで素晴らしいです♪」
冬無はアハハァと笑う。
「グロテスクとはなんですの!!」
ぷんすか怒る麗華。それに対し冬無は――
「まあまあ、そうプンプン怒らずに♪」
自作のプチチョコケーキを麗華の口に突っ込んだ。
「むぐぅ!?」
「ヴァサーゴさんも、はいどうぞ♪ あーんしてください♪」
反射的に口を開けてしまうヴァサーゴ。同じく口にケーキを突っ込まれた。
抗議の声を上げようとする麗華だったが租借するうちに‥‥表情が変わっていった。
そして二人から出た言葉は――
「「美味しい」」
「でしょう♪」
そして――自分のケーキを食べさせることに成功した冬無は二人に対しご褒美を要求。
「出来れば今夜は、三人で添い寝希望です♪ 駄目です?」
「まぁ‥‥此度‥‥冬無に、色々助けられた故‥‥我に出来る事なら‥‥何でも‥‥」
「はぁ‥‥仕方ありませんわね‥‥。今回は助かりましたし、特別ですわ‥‥」
とろんとした表情の二人は、もはや冬無の言いなりである。
‥‥そんな感じで試食会は終了。
帰り際、参加者全員に店長特製のチョコブラウニーが配られた。
子虎と優乃は手を繋いで帰る。
「んふふ、部屋の近くまでは送るのだ♪ 誘った以上、終わったらさよなら、というのも悪いしね♪」
「ありがとう、今日は楽しかった」
小夜子と拓那は来たときと同じ様に、腕を組んで帰っていった。
「拓那さんのケーキとチョコフォンデュが一番美味しかったです」
「俺も、小夜子のケーキが一番美味しかったよ」
冬無はヴァサーゴと麗華をお持ち帰り。
(「アハァ♪ 今夜は楽しめそうです♪」)
二人は冬無に寄り添い、両手に花の状態である。
「き、今日はありがとうございましたの。お、おかげで智覇お姉ちゃんへのプレゼントが出来ましたの」
「よろしければ、またおこしくださいね」
「待ってるわぁ〜ん」
小さく手を振り、去ってゆく繭華。
そして最後の客を送り出した店長とミカは、ハイタッチを決めるのだった。