●リプレイ本文
●囚われのイカル
爽やかな浜風が吹き込む村へ到着した傭兵達。
「イカルくんたら、またごっついキメラに攫われてもうたんやねぇ‥‥アレか、やっぱ可愛ぇのが罪っちゅうヤツやろか?」
相沢 仁奈(
ga0099)が言う。彼女の小麦色の肌は南国の島によく似合う。
「最初、イルカだと思ったのは秘密」
ぼそりと言う瓜生 巴(
ga5119)。
救出対象の名前はイカルです。月日星・イカルくんです。
「この何とも言えないアレな気分は暑さのせいだろうか」
おっかしいなあ。なんでこの依頼受けたんだろう。気の迷いか。
頭に手を当てている時枝・悠(
ga8810)。
「一人きりでキメラに立ち向かおうなんて、無茶するぜ、まったく。最悪な状態になる前にきっちり助け出してやろうぜ」
琥珀色の瞳が特徴的な美少年、Anbar(
ga9009)が言った。
最悪な状態とは‥‥アレでアレな事だろうか。
「ミノタウロスに捕まったイカルくんが大事な何かを失う前に助けて欲しいという依頼だけど‥‥それを失う展開も面白そうよね」
レイミア(
gb4209)はさり気に酷い事を考えている様だ。
「今回は男を見せて差し上げましょう!」
また今回も張り切っている弧磁魔(
gb5248)。
彼が何を考えているのかは‥‥伏せておこう。
「依頼の目的は月日星・イカルさんの救出とキメラ退治ですね」
加賀 円(
gb5429)は笑顔でピースしているイカルの写真に目をやる。
「遺跡に住み着いているというミノタウロスキメラ‥‥行動原理がよくわかりません。作ったバグアは何を考えているのでしょうか。いえ、まぁ、ただ暴れている普通のキメラと違うからこそ、今回は助かっているんですが、それでも謎です‥‥」
キメラの生態についてうむむと悩む。
「人を攫うキメラ‥‥何が目的なんだ‥‥?」
これから起こる悲惨な(?)出来事を、シクル・ハーツ(
gc1986)は知る由も無かった。
●作戦開始
遺跡の近くまでやって来た一行。
「到着、と」
先頭になって進んできた巴。手には何やら紙を持っている。
「これ? 村長さんからもらった島の地図。遺跡も大雑把に描いてある」
仲間の視線に気付くと、ぺらっと広げて見せた。
「遺跡は観光客向けに公開を検討された事もあったみたいです。地図はその時に作られた物。古いけど‥‥たぶん大丈夫」
村長から聞いた事を説明。
遺跡と言っても石造りの柱や建物の残骸が点在しているだけで、所謂ダンジョンの様な物ではない。
「さて、これからイカルを救出する訳だが、生きていれば良いんだよな。具体的にどうでなきゃいけないって言われなかったものな。テキトーでOKという事で。多少の間違いが起きたって関与しないぞ、私は」
言ったのは悠。間違いとはなんだろう! なんだろう!
「最悪、俺が囮役として変装しなくてはならないかと思っていたんだが、正真正銘の女性が名乗り出てくれて助かったぜ」
安堵するAnbar。女性3名が自ら犠牲――ではなく、囮を買って出てくれた為、彼の女装は回避された。
でもそれはそれで見てみたかった気もする。
「シクルさんはメイド服を着るのを嫌がっていたけど、とても似合っていて可愛いですね」
微笑むレイミア。Anbarは「ああ」と答える。
「そういえば、あのメイド服はAnbarさんの持ち物ですよね? 何故あの様な物を?」
「うっ‥‥それは‥‥。誰にだって一つや二つ秘密があるもんさ‥‥」
レイミアに尋ねられ、Anbarは遠い目をしながら誤魔化した。
彼は過去、依頼で何度かメイド服を着た事があったのだ。
そのシクル達、囮組は少し離れた場所で待機。
「今回の囮装備はコレや!」
仁奈の衣装は真っ赤なバニースーツ。
豊満な肉体を惜しげもなく披露。特にFカップの膨らみが視線を誘う。
彼女がセクシーポーズを取ると、張りの良い双丘がぷるんと揺れる。
網タイツを穿いた、すらりとした美脚も忘れてはならない。なんとも艶かしい。
‥‥非常に目立つ格好だ。囮として最適と言っていい。
円の衣装は戦闘用ドレス。カプロイア製品だけあって気品に溢れており、淑やかな雰囲気の円の魅力を引き出している。
「これで‥‥大丈夫ですよね」
スカートの裾を持ち上げてくるりと回ってみる。実に美しい。
「ただ、私がキメラのお眼鏡に叶うかどうかは賭けですが。‥‥いっそスルーされた方が私としては安心ではありますけど」
ぼそぼそと呟く円。ちなみにAU−KVは囮をする際に警戒される可能性があるので村に置いてきた。
シクルの衣装は先にも述べたようにAnbarから借り受けたメイド服だ。
シンプルなデザインながらもフリルが多めで、白と黒を基調としている。
武器の大太刀は箒に偽装しておいた。
「なぜ私がこんな格好をしなければならないんだ‥‥」
そんな彼女は頬を染めてもじもじしている。
どこか儚げなメイドさん‥‥彼女はこれからミノタウロスの――となる運命にあった。
「イカルさん‥‥必ず助けてみせます!」
一方で気合を入れている弧磁魔。
女性3名がミノタウロスを惹き付けている隙に彼がイカルを救出する手筈だ。
だが彼の本当の目的は‥‥まだ伏せておこう。
「‥‥よし、ほなウチは健康的なお色気でミノタウロスを誘ったろやないか!」
ぐっと拳を握って声を上げる仁奈。
そうして囮班が先行し、遺跡内を進む。
●VSミノタウロス
暫く歩くと、先行する4名が石柱に荒縄でぐるぐる巻きに縛られているイカルを発見。
意識を失っている様だ。仁奈が本隊(巴、悠、Anbar、レイミア)に無線で連絡。
巴から「了解。程々にね」との返答。
目で合図をして、物陰から飛び出す囮3人!
「牛さん牛さん、こっちにおいで〜」
仁奈はぷりっとしたお尻をふりふり。
「わ、私達と楽しい事しませんか〜‥‥?」
円は恥ずかしげに豊満な胸をたゆんと揺らす。
「えっと‥‥こ、こっちに来てくれない‥‥か‥‥?」
シクルも恥ずかしそうにスカートをひらひらさせてぎこちなく言う。
ミノタウロスに近づき、3人が誘惑。
それに見事引っ掛かり、牛頭の獣人が向かってくる。
撒かない程度に走って逃げる3人。
「‥‥」
弧磁魔は物陰に隠れて待機。
仁奈は遺跡の外縁部を走って逃げ、行き止まりになっている所まで誘い込んだ。
ビリヤードキュー状の武器を放り投げ、胸元を肌蹴させ、本格的に誘惑を開始。
「ええんよ‥‥来て‥‥」
上目遣い。甘えた声。
「ブモー! ブモー!」
興奮し、飛び掛ってくるミノタウロス。受け入れる仁奈。
「すごっ‥‥こないに大きいなんて‥‥」
仁奈は胸を押し付けながらミノタウロスの毛の生えていない逞しい胸板を手で摩ったり、ぺろぺろと舌を這わせたりした。
もう一方。イカルからミノタウロスを引き離す事に成功した円とシクル。
次は救出までの間、時間を稼ぐ必要がある。足を止めて振り返ると‥‥
そこへ突進してくるミノタウロス1体。
「えっ? ‥‥きゃー!!」
巨体に押し倒される円。そのまま抱き締められ、身体を弄られる。
「いやぁ‥‥! いやぁぁぁ‥‥!!」
怯え、されるがままになる円。
「円‥‥円‥‥」
見ている事しか出来ないシクル。こちらも恐怖で足が動かない。
シクルに迫るもう1体のミノタウロス。
「うっ‥‥」
(「思っていたよりも気持ち悪い‥‥!」)
異形の化け物に生理的な嫌悪感を抱く。
「く、来るな! 来るなぁ!」
しかしミノタウロスは止まらない。一気に距離を詰め、襲い掛かってきた。
円と同様にシクルも押し倒された。
生臭いぬらぬらとした舌でべろりと首筋から頬までを舐め上げられる。
びくびくと震えるシクル。その後、ミノタウロスの太い両腕が――
「なっ‥‥そこはダメだ‥‥ダメっ‥‥あぁ‥‥あぁぁぁっ!!」
乙女の悲鳴が響く。
その頃。弧磁魔は縄を解いてイカルを救出。
「イカルさん、もう大丈夫です」
ぺちぺちと頬を叩く。ゆっくりと目を開けるイカル。
「弧磁魔‥‥さん‥‥? 僕‥‥ミノタウロスに攫われて‥‥色々されて‥‥うわぁぁ」
「大丈夫、大丈夫。怖がらなくて良いから」
混乱するイカルの華奢な身体を抱き締める弧磁魔。
「でも‥‥僕‥‥汚されちゃった‥‥」
「そんなの関係ありません。イカルさんはイカルさんです」
頬をハンカチで拭ってやる。
「‥‥弧磁魔さん‥‥」
弧磁魔の腕の中で、イカルはぽろぽろと涙を流した。
仁奈の元へ駆けつけた巴。
あんな事やそんな事をしているミノタウロスを見て「軽薄」と呟く。
そして機械剣αを抜いて背中をばっさり。
怒ったミノタウロスが迫るが「趣味じゃないし」と、二つの意味で斬り捨てる。
「‥‥もうちょっとやったのにー!」
残念そうな仁奈。
悠、Anbar、レイミアは円とシクルの元へ。
だが――2体のミノタウロスは未だ2人にあんな事やそんな事をしており、2人の瞳からは光が失われ、無抵抗となっていた。
「酷い‥‥」
口元を押さえるレイミア。
「くっ、一足遅かったか‥‥!」
悔しそうなAnbar。
「‥‥」
無言の悠。
ミノタウロス2体はお楽しみを邪魔された事に腹を立てた様で、斧を振り上げて襲い掛かってくる。3人は武器を手に迎撃。
「武器を強化しました! 頑張って!!」
レイミアが練成強化を悠とAnbarの武器に付加。
「そろそろ良いか。良いよな。よし、潰そう」
悠は「紅炎」と「月詠」の二刀を抜き放ち、連続で斬撃を加え、円を襲っていたミノタウロスを血祭りに上げた。
「もう充分楽しんだろ? あの世へ逝きな」
Anbar、強弾撃を使用。SMGの引き金を引き、シクルを弄んでいたミノタウロスを蜂の巣にする。
戦闘後。
「治療を開始します。心の傷は‥‥治せるか判りませんが」
レイミアが気を失っている2人の少女に練成治療を施す。
その後、7人が合流。
悠とAnbarが円とシクルを村まで運び、仁奈と巴とレイミアは弧磁魔とイカルの所へ向かう事となった。
弧磁魔とイカル。
「少し‥‥落ち着きました。ありがとうございます、弧磁魔さん」
「いえ、お役に立てたのなら幸いです」
よく見れば、イカルの服は前回同様ボロボロで白い肌が大きく露出しているではないか。
ごくりと生唾を飲み込む弧磁魔。
「弧磁魔さん‥‥?」
首をかしげるイカル。
「‥‥イカルさんっ!!」
両手でがばっとイカルの肩を掴む。そこへ――
「こんなとこでなにやってんですか」
呆れたような声が割り込んできた。振り向けば巴、仁奈、レイミアの姿。
弧磁魔は心の中で舌打ちする。
レイミアは「お邪魔だったのでは」と巴に耳打ちするが「これ以上は色々まずい」と巴が答えた。
「あの、皆さんは‥‥」
状況が呑み込めずにおろおろしているイカル。
「はは、イカルくんを助けに来たんよ」
バニーコスの仁奈が笑う。
「さ、帰ろ。な」
イカルの手を引く。そして一行は村に帰還。
●海遊び
イカルの救出に無事(?)成功した傭兵達。
「まだ時間があるから皆で海水浴しない?」
両手を合わせ、レイミアが提案。
「私は遠慮しておく」
「俺も」
悠とAnbarは断るが‥‥
「折角ですし、いいじゃないですか。ほら、水着のレンタルもしているみたいですよ」
「「ちょ、まっ」」
強引に水着に着替えさせられてしまう。遊ばなければ損だ。
「‥‥あ、イカルくんにも必要そうやね。ならコレや!」
「僕もですか? って、ええっ!?」
仁奈が取り出したのは濃紺の旧スク。胸の白い部分には『いかる』と太い字で書かれている。
そんな訳で海遊び開始。
「酷い目に‥‥遭ったな‥‥」
「そうですね‥‥」
砂の上にシートを敷いて座り、遠い目で青く透き通った海を眺めているシクルと円。
水着は2人とも控えめなワンピースタイプ。‥‥精神的ダメージは大きい様だ。
「とりあえず助かって良かったな。これからは自分を過信しない事を勧めるぜ。次も救援が間に合うとは限らないし」
「はい、そうします‥‥」
Anbarの言葉にイカルは苦笑いを浮かべる。
「うう、なんで私まで‥‥」
恥ずかしそうにしている悠。水着は緑と白のタンキニ。
「悠ちゃん、すっごい似合ってる!」
競泳水着姿の仁奈が言う。
「そ、そうかな‥‥?」
「うん。せやからじっとしとらんで一緒に遊ぼ!」
仁奈が悠を連れて海に入り、水かけっこを始めた。
「ふあ〜」
水に浸かってぽけーっとしているイカル。
その近くでばしゃばしゃと泳ぎ回っていた巴がふと、動きを止める。
「大丈夫ですか? 疲れてない?」
イカルを気遣う言葉をかけた。
「はは。大丈夫、ですよ」
どこか気の抜けた返答に巴は「ハア」と溜息をつく。まあいっか。
「水中写真は、撮らないの?」
「‥‥機材がないか。色々面白いものがいますよ。ホオジロザメとか」
一人で喋る巴。イカルは耳を傾けている。
「良かったら、一緒にどうです?」
「えっ‥‥」
「冗談だけど」
驚いた様子のイカルにそっけなく言った後、巴は泳ぎを再開した。
日暮れ。
イカルは浜辺で、水平線に沈み行く夕陽を眺めていた。
そこへ弧磁魔がやってくる。
「すみません、待ちました?」
弧磁魔がイカルを呼び出していたのだ。
「いえ。それで、僕に話ってなんですか?」
「‥‥」
イカルの顔をじっと見つめる弧磁魔。
風にそよぐサラサラの長い黒髪。くりくりとした大きな瞳。すっと通った鼻筋。少しぷっくりとした薄紅色の唇。
すーはーと深呼吸をし、弧磁魔は思い切って口を開いた。
「イカルさん‥‥前に逢った時からずっと‥‥愛してましたっ! 一目惚れです! 私の嫁になって下さい!」
「‥‥‥‥」
沈黙。
「‥‥はぁっ? 僕、男の子ですよっ?!」
激しく動揺するイカル。どこで勘違いされてしまったのか。
「貴女が男‥‥? 冗談はやめて下さい! 私は本気なんです!」
「冗談じゃないです! ほら、胸だってありませんし!」
スク水姿‥‥『いかる』と書かれた胸を張る。確かに説得力は無い。
「つるぺたはご褒美です!」
「なぁっ!? そういう意味じゃなくて!」
「では貴女が男だという証拠を見せて下さい!」
証拠‥‥証拠‥‥一番手っ取り早いのは‥‥?
「――見せられるわけ無いじゃないですか! やだー!!」
イカルはダッシュで逃亡を図った。
「あ! 待って下さい! 私と愛に向かって羽ばたきましょう!」
「いやぁーーーっ!!」
夕陽をバックにして浜辺で始まる地獄の追いかけっこ。
それを遠くから、生暖かい目で見つめる他のメンバーだった。