●リプレイ本文
●合宿!
軍用トラックでキャンプ場にやって来た傭兵達と乙女中隊、引率の片瀬・歩美大尉。
(「さてと、いい機会なので修行と洒落込もう。いつまでも苦手でいる訳にもいかんしな‥‥克服していくには御誂え向きだ」)
高ノ宮少佐が居れば場繋ぎにまたいくつか質問しても良かったかもしれない。
しかし、居ないものは仕方が無い。居たとしても質問が思いついていたかどうか分からない。
そのように思考をめぐらせる、女性が苦手な体質を改善すべく参加した時任 絃也(
ga0983)。
「ん〜、最近こういったバカンスばかりで体が鈍ってしまうな。‥‥キメラはいるようだから、運動にはなるか」
漸 王零(
ga2930)は首をこきこきと鳴らす。
(「うーむ‥‥乙女中隊とは前回、任務を共にしたくらいだな‥‥」)
まあ、初めは誰もがそんなものだろう。これから親しくなっていけば良い。
そういえば‥‥自分は中隊のメンバーに自己紹介していなかったような?
「改めまして、知ってるかどうか判らないので自己紹介を。我は漸 王零‥‥蟹座との誓約者だ」
「蟹座と誓約者‥‥? あっ! 知っています! ゾディアックの蟹座を撃墜した傭兵さんですよね! すごいなぁ!」
などと、乙女中隊のメンバーから一時もみくちゃになる。
「今回は合宿だな。よろしく頼むぜ」
皆に挨拶するセージ(
ga3997)。今から楽しみだ。
「本当に今年は暑いね‥‥うだるような、ってのは正にこのことだ」
今年の夏はハンパなく暑い。百瀬 香澄(
ga4089)は燦燦と降り注ぐ日差しを手で遮る。
「まぁでも、キャンプするんだったら寒いよりは暑いほうが雰囲気あっていいし、悪くはない。秋が来る前に、夏の涼を味わおうじゃないか」
「そうですね。せっかく少佐が用意してくださった機会ですから」
香澄の言葉に九条・冴が頷く。
「中隊、か‥‥。見ない間に立派になったな」
夜十字・信人(
ga8235)は乙女中隊の面々と約8ヶ月ぶり‥‥クリスマス以来の再会となる。
最後に会った彼女らと今では、全然違っていた。人数も増えているし。
「1回戦闘したら1回休みが入ってる気がしない事も無いけど、気ぃ張り続ける事も無い。たっぷり楽しんじゃおう♪」
そう言ったのはヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)。
乙女中隊――α−01部隊は何も1回の任務ごとに休んでいるわけではない。
毎日訓練を行っているし、ULTに依頼されない(傭兵の力を借りない)小規模の出撃もある。
このように息抜きや思い出作りをするのは、部隊の創設者である高ノ宮少佐の意向だ。
「結婚して姓変わったけどこれからもよろしくね。カナ、サナ」
三門姉妹に挨拶する瑞姫・イェーガー(
ga9347)。
「毎度の事ながら‥‥御招き感謝ですよ」
休暇をこの様な形で取れて良かった。米本 剛(
gb0843)はそう思う。
そして休養兼思い出作りとは別に‥‥密なる決意を胸に秘めていた。
「皆こんにちは。楽しい思い出を作ろうぜ」
爽やかな笑みを浮かべる夏目 リョウ(
gb2267)。
彼は恋人である早乙女・美咲との素敵な夏の思い出を作るために参加したのだった。
「また一緒に遊びに来れましたね。今回も思いっきり楽しんでたくさん思い出を作りましょう」
「はいっ。いっぱい遊びましょうっ」
リリィ・スノー(
gb2996)と舞浜・ちずるはさっそくはしゃいでいる。
「キャンプ場に出たのは西瓜キメラと鮎キメラ‥‥なんか都合が良すぎる気がする‥‥けど、ま、いっか」
タイミングよく食べられるキメラが出るなんて‥‥と思う雪代 蛍(
gb3625)だったが、気にしないことにした。
「確か‥‥この前の大規模作戦の時は、中隊の皆さんとお花見をして、そして今回は合宿‥‥。ふふ、何だかこうして集まるのが大規模作戦前の恒例行事みたいになりつつありますね」
ティリア=シルフィード(
gb4903)はにこやかな笑みを浮かべる。
「とはいえ、キメラ退治の任務もあることですし‥‥まずはそれからですね」
一行はまずテントを設営し、中に荷物を置く。
「‥‥」
米本は羽根の栞を胸のポケットにそっと忍ばせた。
「お前も撮ってこい」
二つ用意したデジカメのうち一つをヴァレスに渡す信人。
「了解♪」
ヴァレスはぐっと親指を立てる。
●キメラ狩り!
森へやってきた西瓜キメラ討伐隊。
メンバーはヴァレス、米本、リョウ、蛍、ティリア、美咲、冴、慧子、森ノ宮姉妹、歩美。
一行はそこら中にごろごろ転がっている西瓜キメラをナイフや剣や槍でスパスパと両断していく。
蔓による抵抗を受けるが‥‥まったく問題にならない。弱い。
(「最近のキメラって、一部の品種は能力者さえいればあまり害が無いんじゃ?」)
などと思ってしまうヴァレス。
キメラという存在は人類を殺傷する為に生み出された兵器であり、害があまりないキメラは稀である。
「きゃっ!」
「むうう! やらせませんぞ!」
米本は歩美に蔓を伸ばしたキメラを二刀でバラバラに斬り裂く。見事に八等分にされた。
「悪いが、美咲にお障りは校則違反だ‥‥今だ美咲! スイカ割りをっ!」
「わかった! えいやぁ!」
リョウは美咲と協力して西瓜キメラ狩り。
「AU−KVは全然必要なかったね」
蛍もぽこぽこ西瓜キメラを割ってゆく。
「やあああっ!!」
ティリアは森ノ宮姉妹と連携し、二刀小太刀で蔓を斬り捨て、本体も綺麗に両断していく。
川へやってきた鮎キメラ討伐隊。
メンバーは絃也、王零、セージ、香澄、信人、瑞姫、リリィ、冴、有栖、歴、ちずる、香苗、早苗。
絃也は釣竿を用意して釣りを行ってみるが‥‥餌だけ食べられるばかり。
そもそも、キメラにはフォースフィールドがあるので通常の釣り針には引っ掛からない。
SES搭載の釣竿などがあれば話は別だが。
絃也は釣りを諦め、脚甲と爪を使って陸に跳ね上げることにした。
鮭を獲る熊のような感じとなる。
「やぁ。そこにいる‥‥えっと、犬飼・歴? だったかな。汝、暇そうだからこっちの手伝いを頼む」
「OKなのだ〜」
のんびりとした口調で答える歴。
「おお‥‥いっぱい居るね。ん〜、どうするか‥‥我は川に入って適当に打ち上げるか斬り捨てるか‥‥汝はどうする?」
「早く食べたいのだ〜」
王零は歴と一緒に行動を共にする。しばらく鮎キメラ狩りを行うが‥‥途中で歴のお腹の虫がぐうう〜と盛大に鳴いた。
とりあえずお腹を空かせていた歴のために、一足先に「良い塩加減を見つける」と称して、火を熾して鮎キメラを数匹焼いてやる。
「美味しいのだ〜美味しいのだ〜」
歴はとても美味しそうにはぐはぐと食べる。
セージは当初銃を使おうとしたが冴に「川が汚れてしまうので、出来れば‥‥」とお願いされ、刀を使うことに。
それは見るものを魅了するソードダンス。
イメージは風――時には優しく凪ぎ――時には激しく荒れ狂う――。
しかし、今回の目的は鮎キメラ獲り。ある意味滑稽であった。
「一丁上がり! ‥‥って、焼くんだったら三枚下ろしは不味かったか?」
「さあ? 鮎の刺身って美味いのかな?」
と有栖は首をかしげる。
香澄は槍を手にし、冴と一緒に取りこぼしを防ぐため、下流から上流に上がっていく。
「仕事と夏休みの宿題は手早く済ますに限るね‥‥っと、そこだっ!」
「香澄さんは優等生タイプだったんですね。意外です」
「それはどういう意味かなぁ? 冴ぇ」
「うふ、冗談ですよ、冗談」
会話を楽しみながら狩りを続ける二人。
「無頭の塩焼きは少し嫌だが、曲がりなりにもキメラだからな」
信人はアロンダイトで鮎キメラの首を切り落としていく。
瑞姫も刀を振るって手伝う。
「雑魚相手じゃつまんないなぁ‥‥手応えがない」
その様子をぽけーっと眺めている三門姉妹。
「二人もやってみるといい。簡単だぞ」
信人の言葉で、三門姉妹も川に入って狩りを始めた。
「むぅ‥‥なかなか素早いですね」
リリィは鮎キメラを弓で射る。しかしスナイパーは伊達ではない。確実にしとめる。
「がんばってくださいっ!」
それを応援するちずる。
鮎キメラを完全に狩り終わった頃、西瓜キメラのほうに行っていたメンバーが合流。
バーベーキューが始まる。
●お楽しみ!
獲った鮎キメラは皆で内臓を取り出して塩焼きに。
半分に切られた西瓜キメラはネットに入れて、川の水で冷やしておく。
予め用意されていた食材と自腹を切って持参した海産物を捌いていく米本。ティリアも手伝う。
それを片っ端から焼いていくヴァレス。いい匂いが漂ってくる‥‥。
キメラ退治でお腹が空いた皆はガツガツと食べまくる! たくさんあった食材がみるみるうちに消費されていく!
瑞姫は大食いな歴のためにレーションを使ってカレーを作ってあげた。美味しそうに平らげる歴。
「まだ入るのか‥‥」
「歴ってどんな胃袋してんの」
呆れた様子の王零と蛍。
セージは有栖と一緒に食べる。
「美味いなー。なんで外で食べるとこうも美味いんだろうな」
香澄は冴と一緒に。
「そっちはまだ生焼け。この辺とか良い具合だぞ」
「あ、すみません。とても美味しいので、つい」
冴の皿に丁度良く焼けたお肉を乗せてやる。
リョウは美咲と一緒に。
「すごく美味しいな‥‥。美咲と一緒に食べているからかな」
「皆とわいわい食べてるからだと思うよ?」
信人は野菜中心だが、肉や野菜もそこそこ食べる。
絃也は信人の隣で鮎キメラの塩焼きを黙々と食べる。
「何気にキメラっておいしいの多いですよね‥‥」
「ですねー。不思議ですー」
リリィは自分で獲った鮎キメラの塩焼きと、冷えた西瓜キメラをちずると一緒に食べる。
食事を終えた一同は、食後の運動も兼ねて、水着に着替えて川で水遊び。
絃也は少し離れたところで岩の上に座り、釣りをしながら瞑想という名のイメージトレーニングを行う。
香澄はビキニを着て冴とキャッキャウフフ。
「冴ー! こら待てー!」
「香澄さーん! ほら、捕まえてくださーい!」
信人は迷彩柄の水着で、首にはクリスマスに香苗から貰ったドッグタグを提げる。
瑞姫と一緒にエアーソフト剣でポコポコやりあったり、水をかけあったりして三門姉妹と遊ぶ。
「飛び込むくらいの深さがあるところはあるかな?」
「ちょっと遠いけど、上流‥‥橋の上からなら飛び込みも出来るはず」
冴から聞いた話をする慧子。
「おぉ! じゃあいこっか♪」
しばらく歩いて橋に着いたヴァレスと慧子は川に飛び込んで遊ぶ。
トランクスタイプの水着を穿いた米本は適当に泳いだ後、パラソルを立て、シートを敷いてまったり昼寝を‥‥するふり。
水浴びをする水着姿の歩美をちらちらと見る。
彼女が着ているのは背中の開いた白のワンピース水着。実にセクシーだ。
本当は堂々と見たいが、ジロジロ見るのは不謹慎なので我慢。
「眩しい‥‥ですね」
それは夏の日差しか、はたまた‥‥。
リョウは美咲と水遊び。
「どんな川かと思っていたが、水着を持ってきて正解だったな。その水着、よく似合っているね」
「そう? えへへ、良かった」
美咲の水着は青のビキニ。リョウに見てもらいたくてちょっと張り切ってみたのだった。
水を掛け合ったりして楽しむ二人。
リョウは‥‥表面上は平静を装っているものの、内心はかなりドキドキ。心臓バクンバクン。
美咲は意外と胸が大きく、スタイルも良い‥‥。ごくりと唾を飲み込む。
いかん! 自分は特殊風紀委員だ! 理性と煩悩の間で揺れ動くリョウの心。
「舞浜さん、いきますよ! そーれ!」
「きゃっ!? やりましたねっ! お返しですっ!」
リリィもちずると水遊び。
「皆、楽しそうだなぁ‥‥」
羨ましそうにみんなの様子を見て体育座りしている蛍。
「どうしたの? ほら、一緒に遊びましょ」
「え? う、うん」
歩美に手を引かれて蛍は川に入る。
ティリアは自分が一人っ子で、家族と上手く行っていなかったこともあり、兄弟姉妹というものに興味と憧れを抱いていた。
仲が良い森ノ宮姉妹の様子を見ながら自分にもあんな風に姉妹がいたら‥‥と、ぼんやり思い描く。
「この前できなかった挨拶と‥‥仲良くしたいから。改めて‥‥宜しくね」
森ノ宮姉妹に挨拶。
「私は柚葉。よろしく」
「瑞葉と申します。よろしくお願いしますね」
「え、えと‥‥紅葉、です」
「あたしは双葉だよ。よろしくね!」
その後、5人は水に入ってキャッキャと遊んだ。
自由行動。
釣りを堪能した絃也は木陰で読書の後、昼寝。
遠くから乙女のはしゃぐ声が聞こえるが‥‥問題ない。
以前は、このような状態では眠ることも出来なかったが、今では多少慣れた。
王零はハンモックの上に横になり、前回の戦闘データの検証を行う。
敵エースに良い様にやられてしまった為だ‥‥。次は前回の様にはいかない。
セージは有栖と一緒に川原を散策。前回戦った敵エースについて振り返る。
「この前の奴はキツかったな‥‥俺なんて手も足も出ずに病院送りにされちまった。だが、今度は俺が奴を病院に叩き込んでやるよ」
「でも‥‥あたしが言うのもなんだけど‥‥あんまり無茶するなよ。し、死なれちゃ困るからな!」
「ははは、わかってるさ」
苦笑するセージ。
香澄は冴を連れて森へ散歩に行く。
「空気は綺麗で風は涼しく、やるべきことは特になし。‥‥たまにはこういう時間がないと、な」
「ええ。私にとって香澄さんと共に過ごせる時間は何よりも貴重です」
「そう言ってくれると嬉しいな。‥‥ちょっと、照れるけど」
「うふふ」
二人は腕を組んで歩く。香澄の肩に頭を預ける冴。
リリィとちずるも香澄達と同様に森を散歩。
「舞浜さん、一緒に散策に行きませんか? 自然豊かですし、リスとかいるかもしれません」
「リスですかっ! いますかねー」
ゆったりと散歩を楽しむ二人。
「たまには森林浴もいいですよねぇ」
(「舞浜さん動物好きでしたよね‥‥。見つかるといいなぁ」)
結局小動物は見つからなかったが、十分にリラックス出来、楽しめた。
暗くなってきたら皆で集まって花火とキャンプファイヤー。
その前に‥‥
「夏と西瓜と花火と言えば、是だ」
持ってきた浴衣を三門姉妹に渡す信人。
「本当は人数分持って来たかったんだが‥‥。大尉、彼女らの着替えをお願いしても?」
「ええ、任せて」
しばらくして、浴衣姿ではしゃぎながら現れる三門姉妹。
信人はそれをデジカメで撮りまくる。
その後、ぎっしり花火が詰まった花火セットを提供。
信人が持ってきた物だけで十分そうだ。
セージは線香花火をしながら、研究所で強化済みの日本酒を振舞う。
「今宵は飲もうぜ。銀河を杯にして――なんてな」
「お、すまんな」
「ありがたい」
絃也や王零と杯を交わす。
ほろ酔い気分になったら、昼間の残りの冷えた西瓜を有栖に勧めてみる。
「食うか? ‥‥甘いぞ?」
「うん、食べる」
セージの横で西瓜に齧り付く有栖。
「来年もまたこうやって皆で騒げるといいな」
「‥‥そうだな」
夜空を見上げる二人。
超線香花火をしながらお喋りをする香澄と冴。
「風流ですね‥‥」
「ああ‥‥。そういえば三門姉妹の浴衣姿、可愛いな。冴の浴衣姿も見てみたい」
「では、また今度」
花火を楽しむリョウと美咲。
「5連ロケット花火ー!」
「もう、危ないよ。リョウくん!」
(「あの救出作戦から長いこと付き合って、乙女分隊も今や中隊。最近では強敵も出てきた‥‥これからも皆無事でいてほしいな」)
ヴァレスは少し離れたところで線香花火をしながらそんなことを考える。
少し疲れたので、リリィは腰掛けてジュースを飲みながら煌びやかな光を放つ花火を楽しむ皆の姿を眺める。
「リリィさんもやりましょうよっ!」
「はい、もちろん」
蛍は隅っこのほうでパチパチと鳴る線香花火を眺めている。
「はぁ‥‥流石に一人で線香花火はつまらないな‥‥」
「みずきのとこにでも‥‥ダメか。邪魔するわけにもいかないし」
三門姉妹と花火を楽しむ瑞姫を見て、うな垂れる。
そこへ森ノ宮姉妹とティリアがやって来て、蛍を混ぜて花火をやる。
●とある漢の大胆告白<アイ・ラブ・ユー>
花火が終わったらお風呂タイム。
絃也と王零はシャワーで済ませる。
「今日は疲れたな‥‥なんというか‥‥戦闘以上に」
「汝もそう思うか。我もなんだよ。いや、我は女性の扱いに関しては慣れているつもりだったが‥‥年頃の女子が集まるとああもパワフルになるのか‥‥」
「まったくだ」
でも少しは苦手を克服できたかもしれない。と思う絃也。
女性陣は全員露天風呂。
「ところで美咲ー、最近どうよ?」
「な、何のことですか?!」
「‥‥何って、皆まで言う?」
などと、香澄がニヤニヤ笑う。
「リョウくんはいつもかっこよくて‥‥私の騎士っていうか‥‥」
惚気話をする美咲。キャッキャと騒ぐ乙女達。
セージ、信人、ヴァレス、米本、リョウは隣の露天風呂に浸かっている。
乙女達の会話は丸聞えだ。リョウは顔が真っ赤になる。
風呂上りの一同はテントの中で歓談をしたり、もう一度外に出てみたり。
絃也は自前のテントを張って寝ようと考えていたが‥‥王零がやってくる。
「どうした? 一人で寝るつもりか」
「ああ、そのつもりだ」
「ふむ。しかしそれでは寂しいだろう。我は寝ずに見張りというか、番をするつもりだ。付き合わないか?」
非常に弱かったが、キメラが出ていたため一応、だ。寝込みを襲われる可能性も無い訳ではない。
「‥‥付き合おう」
そうして二人は一晩中、KVの動きを生身で再現し、来るべき対エース戦に備えた。
セージとヴァレスは――。
「合宿が終わればまた慌しい毎日の始まりか。今度はどこで暴れようか?」
「次は南米‥‥。また暑そうだね」
吊るしたランタンの灯りの下でこれからについて語り合う。
信人と米本はキャンプファイヤーの残り火の近くで酒の杯を片手に大人の時間を楽しむ。
「野外で飲む酒も悪くない。さ、旦那、どんどんやってくれ」
「おっとっと、ありがとうございます」
米本の杯に酒を注いでやる信人。自分は川で冷やしたワインやコーヒーを煽る。
「‥‥旦那よ。片瀬大尉のこと、気になっているだろう?」
唐突に信人が切り出す。米本はあからさまにびくぅん! となる。
「あっちも旦那を気にかけているんじゃないか」
α−01部隊が分隊だった頃の研修旅行‥‥歩美と飲みに行ったときのことを思い出す。
「大尉は、寂しそうに見える時がある。旦那みたいな男に、近くにいて欲しいんじゃないかな?」
余計な御世話かな? とも思うが。信人は友人の背中を押してやりたかった。
「ええ‥‥。夜十字さんの仰るとおり。自分は片瀬さんのことが好きです」
「やはりな‥‥」
信人は微苦笑を浮かべる。
「もしかして、バレバレでしたかな?」
「それはもう」
「はっはっはっはっ‥‥」
乾いた笑い。米本はちょっと汗を垂らすが‥‥すぐに男の顔になった。
「実は、既に覚悟を決めていたのですよ。今晩、片瀬さんに想いを伝えようと」
女性陣が風呂から出るのを待って、歩美にあとで二人で会えないかとお願いしていた。
「おお‥‥!」
「さて、そろそろ時間ですな。行って参ります」
そう言って米本は立ち上がる。
「幸運を」
信人は不敵に笑い、敬礼して米本を見送った。
香澄と冴――。
二人はテントの中、寝袋の上に横になっている。
「夜更かしは美容の大敵‥‥とは言え、今は寝てる時間がもったいない。もう少し付き合ってくれないか、冴」
「もちろんです。‥‥でも、お話だけ、ですか? せっかく二人きりなのに」
「ふふ、そんなわけないじゃないか。今夜は寝かせないよ」
冴に顔を寄せて、頬に口付ける香澄。
「香澄さん‥‥」
「冴‥‥」
テントの外側。二人の影が重なる‥‥。
瑞姫と三門姉妹――。
「すぴー‥‥」
「むにゃむにゃ‥‥」
遊び疲れたお子様二人は寝袋に入って、ミノムシ状態で爆睡中。
「コレにチェーンを通してっと」
瑞姫は何やらごそごそと作業中。
「よし、完成。‥‥喜んでくれると良いな」
掌の上で光る二つの物と三門姉妹の寝顔を交互に見て、少しだけ笑みを浮かべる。
リョウと美咲は外に出て、星空を眺めていた‥‥。
「バグアが現れてから、空は恐怖が降りてくるものになった。けれどこうやって見上げれば、星達はあんなに綺麗に輝いている‥‥。取り戻したいよな、誰もが安心して星空を眺めて、その美しさを喜べる世界を」
瞬く星々。しかし夜空に浮かぶ赤い月――バグア本星が邪魔をする。
リョウは憎憎しげにそれを睨み付けた後、ふう‥‥と、息を吐く。
「私、頑張るよ。絶対、絶対、バグアをこの日本から‥‥ううん、地球から追い出すんだ」
キッとした表情を浮かべる美咲。リョウはその顔をしっかり見つめ――彼女の身体を抱き寄せ、口付けを交わす。
「二人の大切な思い出にしような」
そう、耳元で囁く。
「うん‥‥」
二人はそのまましばらく、ぎゅっと抱き締め合った。
リリィとちずる――。
こちらの二人は眠くなるまでずっとお喋り。
「えっと、あの‥‥舞浜さん。これからは『ちずるさん』って呼んでいいですか?」
ドキドキしながら尋ねてみるリリィ。
「OKですっ。全然OKですっ。だって、私も『リリィさん』って名前で呼んでますしっ」
「あ、そうでした。うふふ」
「あはは、今まで苗字で呼ばれていたのが不思議なくらいです。リリィさん‥‥クリスマスのとき、私のこと、親友って言ってくれましたよね?」
「ええ、そうですけど」
「親友なら、遠慮は不要ですっ。これからも仲良くしてくださいね、リリィさんっ!」
「はいっ! わかりました、ちずるさんっ!」
にこにこ笑みを浮かべ、笑い合う少女達だった。
蛍と森ノ宮姉妹――。
5人はお菓子をつまんだり、ジュースを飲んだりしながらずぅーっと話し込んでいた。
「良いな、あたしなんか一人っ子だったから、何だか羨ましいな」
「よく羨ましがられるけど‥‥4人姉妹って色々面倒だよ。あっ、でも瑞葉ねえさまは別ー!」
ぎゅーっと瑞葉に抱き付く双葉。彼女は甘えん坊なのであった。
「あぁ! ずるい‥‥私も‥‥!」
紅葉も瑞葉にぴたりとくっ付く。
「ちょっと二人とも、そんなにべったりしたら暑いわ」
苦笑する瑞葉。
「やっぱり羨ましい‥‥」
ぷうと頬を膨らませる蛍。
「まあ、今夜は蛍さんもうちの姉妹の一人になったと思えばいい」
「そうですよ、うふふ」
蛍の頭を撫でてやる柚葉。微笑む瑞葉。
「ありがと‥‥」
こくりと頷く蛍。少し、涙が出た。
川辺に佇む一人の女性――。
「すみません。待ちましたかな?」
額に汗を浮かべ、早歩きで米本がやって来た。
「いえ、さっき来たばかりです。‥‥私に話って、なんですか?」
彼を待っていたのは、片瀬・歩美大尉だった。
「何と言いましょうか‥‥‥‥う、上手く言えないのですが‥‥‥‥」
口篭る米本。正直言って前線で命を張って戦っているほうがマシなくらいに、ガッチガチに緊張していた。
だがしかし、ここははっきり打ち明けなければ。男として!
「じ、自分は‥‥か、片瀬さんが大好きです! 宜しければ御付き合い‥‥御願いします!!」
目を瞑り、大声で言い放った。玉砕覚悟!!
「‥‥そう、ですか」
はあ、と一息つく歩美。表情はいたって普通。動揺も見られない。
しばしの沈黙‥‥。米本にはこの間が永遠のようにも感じられた。
「私‥‥好きな人が居るんです」
「えっ!!?」
ハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃を受ける米本。
「‥‥嘘。過去形です。好きな人が『居た』んです」
「そ、それは‥‥恋人さん‥‥ですか‥‥?」
その場を逃げ出したかったが、米本は決死の覚悟で尋ねてみる。
‥‥こくりと頷く歩美。そして口を開く。
「彼は軍のパイロットで、戦闘機に乗っていました。もう何年も前の話です」
歩美は首から提げたロケットを握り締める。
「彼はバグアとの戦いで撃墜され、戦死しました」
「‥‥‥‥」
言葉を探すが見つからず、米本は黙って聞いている。
「私は彼のことが未だに忘れられません。‥‥米本さん、あなたは‥‥忘れさせてくれますか?」
歩美は真剣な‥‥少し悲しそうな表情で、米本の顔を見つめる。
「じ、自信はあります!」
「この私の心にぽっかり空いた穴を、埋めてくれますか?」
「埋めます! 埋めてみせます! 片瀬さんの心を満たしてみせます!」
「‥‥私、米本さんより年上だけど、いいですか?」
「全く問題ありません!」
「‥‥私、自分でも重い女だと思いますけど、いいですか?」
「構いません! 自分で良ければ、きっちり受け止めます!」
「‥‥私、仕事が忙しくて、あんまり会えないと思いますけど、いいですか?」
「‥‥それは、最低月1くらいでお願いします!」
「‥‥‥‥ふふっ」
今までの真剣な表情を崩し、くすっと笑う歩美。そして――
「えーい!!」
首に提げていたロケットを外し、川に向かって放り投げた。ちゃぽんという音が聞こえる。
「米本さんの気持ち、確かに伝わりました。これから‥‥よろしくお願いしますね」
「そそそそそれは‥‥! OKということでう、ことですかな?!!」
思わず噛んでしまう。
「ええ」
頷き、にこりと笑う歩美。
「はあああ〜‥‥」
その言葉を聞くと一気に力が抜け、へなへなとその場にへたり込む。
「大丈夫?」
「はい‥‥すみません」
歩美に手を引いてもらい、立ち上がる米本。
「あはは、そんなに緊張していたのね」
「お恥ずかしながら‥‥。自分、こういったことは初めてだったもので」
頬を染めて照れ笑いする。
二人はその後、しばらくの間、水面に映る月を眺めた‥‥。
「そ、そういえば‥‥『歩美さん』とお呼びしても宜しいですかな?」
ものはついでだ! ということで聞いてみる。
「構わないわ。じゃあ、私も『剛さん』と呼ぶわね」
「はは‥‥ははは‥‥」
幸せすぎて、気がどうにかなりそうだった。
米本 剛26歳。やや遅い春の到来である。
ティリアのテントに戻ってきた歩美――。
「おかえりなさい」
「あら、まだ起きてたの?」
「はい。大尉ともう少し、お話がしたかったので」
えへへと笑うティリア。歩美もつられて笑う。
「‥‥大尉、どこへ行っていたんですか? あと、なにか良い事でも?」
「うふふ、内緒」
それからティリアは歩美のことについて色々聞いてみた。
郷里のことや家族のこと、美咲達のこと。
‥‥そして、自分に好きな人が出来たことを、こっそりと打ち明ける。
「ま、まだ‥‥返事は、聞いていませんけど‥‥その、えと‥‥が、頑張ってきます‥‥!」
「良い返事がもらえるといいわね。応援しているわ。実は、私もね――」
そんなこんなで夜が更けてゆく‥‥。
一夜明けて、朝。
「み、美咲ー! 待ってくれー!」
「リョウくん! 遅いよ! 何やってるの!」
森の中に、そのような声が響く。
‥‥リョウが美咲の早朝ランニングに付き合っていたのだった。
さすがに毎日走っているだけあって、美咲は速い。持久力もある。
だがここは‥‥意地でもついていく。彼氏として!
「うおおおおお!!」
ダッシュを開始するリョウ。一気に間を詰める。
「お、やるね! でも負けないんだからっ!」
一方で、キャンプ場に新たなキメラが出現していた!
‥‥否。訂正しよう。『キメラスーツ「バフォメット」』を着用した瑞姫が三門姉妹と早朝訓練を行っているのだ。
「さぁ、掛かってこい! 我に力を見せてみろ!」
キメラになりきって襲い掛かる瑞姫。
‥‥まあ、キメラは基本的に喋らないのだが。
きゃーきゃー言いながら逃げ回る三門姉妹。‥‥訓練になっていない。
そして――
「「とぉりゃー!!」」
という掛け声と共に、三門姉妹がタイミングを合わせて瑞姫キメラにドロップキックを食らわす。
「ぶほっ!?」
派手に吹っ飛ぶ瑞姫。‥‥訓練終了。
「げほげほっ」
スーツを脱いで咳き込む。
「ごめんねー」
「やりすぎちゃったー」
しゅんとして謝る三門姉妹。
「いや、いいよ。‥‥コレからも大変だろうけど、頑張って」
瑞姫は微笑んで、二人の手に昨日作った、幸運のメダルを二つに分けたアクセサリを握らせる。
「「わー! ありがとー!」」
そんなことをしているうちに、帰る時間となる。
一同は楽しい思い出を胸に、軍用トラックに乗り込んでキャンプ場を去るのだった‥‥。