●リプレイ本文
●戦闘前
智覇からの依頼を受けた総勢12名の傭兵達――。
現在は街の酒場で戦闘前の打ち合わせを行っている最中である。
「今回は、無理はしても無茶はしなかったようだな。良い判断だ」
天馬のジャケットを身に纏った青年が白い歯を光らせ、爽やかな微笑を浮かべる。
彼の名は白鐘剣一郎(
ga0184)。数多の戦場を潜り抜けたエースクラスの傭兵だ。
「キメラの特徴で他に気付いた事はあるか? 例えば飛翔高度がどの程度か、とか」
その様に尋ねる剣一郎。智覇は知りうる限りのキメラの情報を皆に話した。
「‥‥ふむ。ならば跳ぶ前なら脚を潰す方が効果的か。空を自由に飛ぶ鳥であろうと、翼の力だけで空に上がれる訳ではないからな。飛ばれた場合は打ち合わせ通り翼を集中的に叩いて落とそう」
剣一郎は顎に手を当て、皆に向かって提案する。頷く一同。
(「大型キメラ‥‥か。最近、この手の依頼が増えた感じです。そして‥‥智覇さんでしたか。噂の通り、随分と無理をする方みたいですね」)
「智覇さんお久〜。って、相変わらず傷だらけね。珠のお肌が勿体無い」
長身の少女の両隣に佇む着物姿の美女二人。双方とも艶やかな長い黒髪をしている。
ちらりと智覇の包帯を巻いた腕に目をやったのは鳴神 伊織(
ga0421)。
伊織はきりりとした瞳に、ぴんと張った糸のような雰囲気を持つ女性。
絆創膏の貼られた智覇の頬に頬擦りするのは皇 千糸(
ga0843)。
千糸は雅な雰囲気ながらも柔和でフレンドリーな感じ。
二人には外見的な共通点があるが、纏う雰囲気はそれぞれ違っている。
「およ? カチューシャが焦げちゃってる。よーし、じゃ代わりに良い物をあげよう」
千糸はいつもと違う友人の様子に気付き、懐からごそごそと何かを取り出す。そして智覇の手に握らせた。きょとんとする智覇。
「それ予備だし、遠慮しなくていいわよ。それとも私とお揃いじゃ‥‥嫌?」
智覇の掌の上にあったのは『鈴の髪飾り』であった。
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます」
微笑み、智覇は髪飾りを千糸と同じ位置につけて見せた。
「にしても‥‥酷い傷ね‥‥。そんな身体で戦って大丈夫なの? って言って、大人しく養生してくれる訳は無いか」
智覇の身体を満遍なく舐める様に見回し、ファルル・キーリア(
ga4815)が言った。
「大丈夫です。問題ありません」
と、智覇は答える。傷は大した事ないらしい。彼女の基準では、だが。
おいおい! DFのアイドル智覇ちゃんが助けを求めてるって?
だったら元DFの自分が参上しねー訳にはいかないっしょ!!
「お呼びとあらば即参上! イケメンのデリバリーに参りましたッス!」
そんな感じでガイアが囁いている系の男、植松・カルマ(
ga8288)はテンション高めだ。
「にゅ‥‥また智覇お姉ちゃんが怪我していますの‥‥行く時は繭華達に声かけて欲しいですの‥‥」
幼い容姿と身体つきに似合わぬビッグバストの持ち主、来栖・繭華(
gc0021)。彼女は智覇の方を見てしゅんとしている。繭華の視線に気付いた智覇は「すみません」と、繭華の頭を易しく撫でた。
「久しぶりだな、智覇殿。約束通りお互い生きて再会できて何よりだ。今回の戦いもよろしく頼む」
シクル・ハーツ(
gc1986)が智覇に握手を求める。快く応じる智覇。
ちなみにシクルも伊織や千糸と同じく着物姿だ。髪は黒ではなく月光の様な銀髪だが。
「話を聞く限り、件のキメラは相当な火力の様ですね‥‥。僕だと1、2発貰ったら川の向こうに旅立ちそうな気が‥‥」
「最近、何かデカいのばっかり相手にしてる気がすげぇするんだが‥‥」
汗を垂らすJEの新居・やすかず(
ga1891)とAAの砕牙 九郎(
ga7366)。
ワームとも互角に渡り合える打撃力を持つ上級クラス。しかし防御面はそうでもない。守りに特化したGDは別だが。
「やれやれ、恐竜に続いて始祖鳥とは‥‥お次はマンモスとでも戦うのですかね、僕は」
苦笑する斑鳩・八雲(
ga8672)。彼は近頃、太古の生物系のキメラの相手ばかりしている様だ。
「新しい力と私の可能性‥‥どこまでいけるか試させてもらうよ!」
やる気‥‥いや、殺る気まんまんのアセット・アナスタシア(
gb0694)。
めらめらと闘志を燃やしている。
「鳥型のキメラ‥‥鳥、可愛くない鳥、ヤマアラシの様に武装しているとは、品性が感じられません」
(「まぁ、わたくしも品性があるとは言えない手合いですが」)
色白のきめ細やかな肌に、膝まで届く長い黒髪をした少女、二条 更紗(
gb1862)は何やらぶつぶつと呟いている。
「しかし、私達以外は見事に皆、上級クラスばっかりね」
ふと、ファルルが言った。今回は上級クラス‥‥特にAAが多い。
ファルルが気になったのはAAという表記。UPC本部で依頼を受けた際に表示されるエースアサルトの略称。
‥‥これを見ていると無性に悲しくなる。自分だけじゃない筈‥‥。胸囲的な意味で。
ファルルは千糸や更紗、智覇に目をやった。その後、アセットや繭華の方を見て凹む。
Aが1つ足りないのではないか? という突っ込みは勘弁してあげよう。
●キメラハント1
街を出発した傭兵達。ジャングルの中を進み‥‥暫くすると開けた場所に出る。
我が物顔で闊歩している二体の始祖鳥型キメラを発見。
「あれが例のキメラ‥‥。う〜ん、確かに重武装ね‥‥。まぁ、ワームを相手にするよりはマシかしら?」
「まあ防御面はワーム程じゃなさそうなのが救いと考えておきましょう」
ファルルの言葉に答えるやすかず。耐久力がどれ程なのかは戦ってみなければ判らない。
一同が近づこうとした瞬間、二体のキメラがこちらを向いた。口を開く。収束する光。
「!!?」
放たれる極太の光条。プロトン砲。予想外の射程距離。一同は散開して何とか避ける。
一息つく間もなく、今度はミサイルと機関砲弾が飛んできた。爆音が轟く。
しかもミサイルはクラスター弾だった。広範囲に爆発が巻き起こる。
傭兵達は少なからずダメージを受けながら爆炎の中を駆け抜ける! 一気に距離を詰めなければ危険だ‥‥!
――接近に成功した一同。しかしそれまでに爆風や破片による被害を被った。
また、これからこの二体を分断しなければならない。
一同は武器を構え、始祖鳥型キメラA・Bそれぞれに攻撃を加える。
銃弾や音速波により傷つき、怒り狂って突進してくる二体のキメラ。
傭兵達は二方向に分かれて誘導を開始。ほどなく分断に成功!
B班――こちらは少人数で、もう片方のA班がキメラ1体を倒すまで引き付ける役割である。
樹木に身を隠し、銃で射撃する伊織。
だがすぐに捕捉され、砲弾が飛んでくる。その度に隠れる木を移す。
伊織は仲間に警告後、閃光手榴弾を投擲! フラッシュ!
閃光に目をやられたキメラの動きが鈍る。その隙に距離を詰めて懐に潜り込み、猛撃を使用した刀で斬り付ける。羽毛と鮮血が散った。続けてもう一撃! と、思うが‥‥翼下に装備された砲塔が旋回。掃射を行ってきた。
「‥‥っ」
攻撃を中止し一旦下がる伊織。
「倒せるなら、それに越した事はありませんが‥‥」
目的はあくまで時間稼ぎである。今、無茶をする必要はない。
八雲は散弾銃で射撃しつつ、刀から音速波を飛ばして牽制を行う。
「確かに倒してしまっても文句は出ない‥‥と思いますが、や、難しいかもしれませんね」
武装部分を狙って攻撃しているが‥‥目立った効果は見られない。
相当頑丈に作られている様だ。狙いを翼に変更。また音速波を飛ばす。
「やぁっ!」
SMGで弾幕を張るやすかず。物ともせずにキメラが接近。
別の銃に持ち替え、左右の脚に射撃。もう一度射撃。今度は部位狙いのスキルを使用。
銃弾は確かに突き刺さり、キメラの歩行速度が下がった。これを好機と見たやすかずは再度SMGに持ち替え、ペイント弾の弾倉に交換しキメラの目を狙って射撃。目潰しだ。
だが――ミサイルと砲弾が飛んでくる。
「‥‥!?」
慌てて樹木に身を隠すやすかず。樹木はミサイルの直撃を受け爆発炎上。やすかずも転倒してしまう。砲弾が肩を掠め、鮮血が散る。
「ぐぅっ!」
ミサイルとバルカンの照準はキメラの目に依存しておらず、別にセンサーがあるらしい。
肩を抑え、やすかずはよろよろと身を起こす。
「大丈夫か?! くっ‥‥! 武器が危険すぎる!」
やすかずとキメラの間に割って入るシクル。空刃を飛ばし、牽制。やすかずの手を引き、距離を取る。
少人数で当たるのは厳しい相手だった‥‥。
●キメラハント2
A班――こちらは多人数で掛かり、一気にキメラ1体を倒すという役割。
手間取ればそれだけB班の危険が増す。速やかに処理しなければならない。
「智覇、今回前衛は俺たちが引き受ける。援護射撃を頼むぞ」
剣一郎が言った。「了解です」と答える智覇。
「にゅ、い、行きますの」
ガトリング砲を構える智覇の隣で練成弱体を使用する繭華。
刀を携え、剣一郎は駆け出す。バルカン砲の猛射を括り抜け、懐に踏み入る。
そして刀を両手で握り締め――猛撃と急所突きを使用。
「その脚、貰った‥‥! 天都神影流、斬鋼閃・裂破!」
豪剣一閃! キメラの逞しい脚部に深々と斬痕を刻む。斬り落とすまではいかないものの大ダメージを与えた。キメラは痛みに、けたたましい鳴き声を上げる。
「智覇さん、いくわよ」
「はい」
千糸はSMGと知覚銃、智覇はガトリング砲で前衛を援護射撃。翼を狙う。
「射抜くわ‥‥!」
ファルル、即射を使用。知覚弓を4度射る。全て命中。矢がキメラの身体に突き刺さる。
貫通弾を銃に装填し、九郎は側面からキメラを銃撃。武装を狙う。しかし八雲と同じくあまり効果は見られない。表面を傷つけた程度だ。機械化されている部分の耐久力は高い。
「なら、直接食らわせてやるまで!」
豪力発現を使用。樹木を利用しての三角飛び。キメラの上へ出る! そのまま刀を振り上げ、豪破斬撃を重ね、翼を斬り落とすつもりで唐竹割りを叩き込む!
「コイツで! どうだあああっ!!」
命中。鋭い斬撃音。キメラの翼から鮮血が飛び散るが‥‥斬り落とすには至らなかった。
「ちっ‥‥」
着地する九郎。そこへキメラの鉤爪の攻撃が来る。避けようとするが胸を引き裂かれる。続いて脚部の鉤爪。今度は腹を裂かれた。そして蹴りが入る。吹き飛ばされる九郎の身体。先程利用した樹木に叩きつけられた。キメラが口を開く。プロトン砲が放たれ、九郎を包み込んだ‥‥。
「ぐ‥‥は‥‥」
身体から煙を上げ、がくりと膝を付く九郎。これが新米能力者であったなら‥‥消し飛んでいたかもしれない‥‥。
「九郎さん‥‥?! くっ、委細構わず突貫、刺し、穿ち、貫け!」
リンドヴルムを装着した更紗が竜の角と翼を使用して突撃を掛け、キメラの全身に知覚槍を突き立てまくる!
「いくよコンユンクシオ、私達の敵は強敵だ‥‥!」
大剣を振り上げ、アセットも吶喊。
「足止めの人達の行動が無駄にならない為にも、ここは一気に決める‥‥。強靭、無敵、最強‥‥そんな敵はいないんだから、切り崩せる隙はある!」
跳躍。スマッシュと強刃を使用。
「一撃必殺! チェストぉぉぉ!」
大剣を思いっきり、力いっぱい振り下ろす。その切っ先はキメラの身体に食い込み、胸元から腹部まで斬り裂いた。血飛沫が上がる。
「おぉっと! これはチャンスじゃねぇッスか?」
キメラがよろめいた隙に接近、脚部に剣を叩き込むカルマ。
致命的なダメージに、絶叫を上げるキメラ。翼を広げ、駆け出し、飛翔しようとする。
それを逃す剣一郎ではない。仲間に注意を促した後、閃光手榴弾を投擲。フラッシュ! 妨害を行う。更にそこへ――
「うっとおしいから墜ちろ!」
竜の翼で更紗が肉薄。咆哮を打ち込み、地面に叩き付ける。
「飛べない鳥の仲間入りだ、無様に這い蹲れ」
その上で更紗は落下の力を利用し、槍を翼に突き刺した。すぐに引き抜き、後退する。
キメラはもう瀕死である‥‥。
「タイミングを合わせて一斉攻撃だ。行けるか?」
剣一郎が言った。頷くA班の一同。
銃と弓と剣と槍の一斉攻撃がキメラを襲い、そして――
全スキルを使用した剣一郎、渾身の一撃。
「‥‥‥‥天都神影流『秘奥義』神鳴斬」
剣一郎が言うと、キメラは力を失い、動かなくなった。
●キメラハント3
飛翔するキメラB。爆弾が投下される風切り音の後、爆音。広範囲に爆炎が上がる。
こちらもクラスター弾だった。とても避け切れる物ではなく、B班の面々はじわじわとダメージを受けてゆく。だが‥‥
「待たせたな。では化鳥退治の幕引きと行こうか」
剣一郎の声。A班が合流。
「遅かったじゃないですか」
焼け焦げた着物をぽんぽんと叩く八雲。
「すまない。手こずってしまった」
苦笑いを浮かべる剣一郎。
「では、全力で行きますか」
八雲は刀を構え直し、飛翔しているキメラへ向かう。
九郎がやった様に樹木を使った三角飛びで高度を取り、天地撃を使用。
「さて、大人しく地面に這い蹲って頂きましょう。――斑鳩流、彗星三式」
飛翔中のキメラを強引に地面へ叩きつけた! その後、閃光手榴弾を投擲。
「ふにゅ。一気に畳み掛けますの」
繭華は練成弱体を使用。
「シャドウオーブの攻撃は物凄く痛いですの!」
その後、超機械からエネルギー弾を飛ばして攻撃。
キメラは痛みにもがきつつ、ミサイルを発射してきた。標的は――智覇。
「!?」
この近距離では避け切れない!
――そのピンチを救ったのは友人である千糸だった。
千糸は撃ち落しでミサイルを迎撃。爆風から智覇を庇って一緒に地面に倒れ込む。
「うひゃー‥‥ハードね、全く」
「ありがとうございます、千糸さん」
「ふふん、これが上級クラスパゥワァよ」
互いの吐息が感じられそうな距離で密着したまま、千糸は不敵に微笑んだ。
「一気に参ります! やあぁっ!!」
両断剣・絶を使用し、舞う様に斬り付ける伊織。
「これ以上の反撃はさせません!」
SMGによる制圧射撃で身動きを取らせ無い様にするやすかず。
「これで‥‥!」
抜刀・瞬を使用。忍刀でキメラの喉首を掻き切るシクル。
「っしゃー! トドメは頂きッス!!」
両断剣・絶を使用したカルマ。直刀を振い、キメラの頭部をかち割った。
色々な物を飛び散らせ、キメラは生命活動を停止する。
こうして、傭兵達は苦戦しながらも依頼を完了。
繭華は帰り道、ずっと智覇と手を繋いでいた。
街へ戻った一行。酒場。
「そういえば、智覇さんは転職なさらないのですか?」
八雲が思い出したように尋ねてみる。すると智覇はこのように答えた。
「‥‥私はDFである事に誇りを持っています。暫くは、転職する事は無いでしょう」
「もしするとすれば、それは――」
智覇は楽しそうに会話する千糸や繭華の顔を見て、少し笑みを浮かべた。