●リプレイ本文
●打ち合わせ
キメラプラント乙22号付近。周囲を見渡せる丘――。
作戦開始前の、最後の打ち合わせを行っている傭兵部隊と相川小隊第2・第4分隊。
(「22号‥‥僕にとっては久しぶりの場所かな。このプラント周辺でHBバグズと交戦したことがあったから‥‥」)
見覚えのある風景に、目を細めるノエル・アレノア(
ga0237)。
前にここへ来たのはどのくらい前だったか‥‥。
そしてノエルは皆にHBバグズと交戦した際に得られた情報を出来る限り伝える。
(「相川小隊なら、心配しなくてもきっと大丈夫。前回、達矢くんが随分と強くなった姿を見たし。‥‥いざという時は自分の力で好きな人を守りたいって気持ち、同じ男の子として分かる気がする」)
蝶子と会話する達矢の顔を見て、ノエルはくすりと笑った。
「‥‥?」
達矢は視線に気付き、不思議そうな表情をする。
「達矢くん、尻に敷かれないようにもっとしっかり?」
ノエルに後ろから抱きつきながら、神崎・子虎(
ga0513)が悪戯っぽく言った。
「なななな何を言ってるんだよ!」
「あはは♪」
焦る達矢と、ころころと笑う蝶子。
「久しぶり。また協力するわね、達矢くん‥‥いえ、分隊長」
達矢達に挨拶する遠石 一千風(
ga3970)。
「分隊長はやめてくれよ。よろしくな、一千風さん」
照れくさそうに返してくる達矢。
‥‥達矢や蝶子と出会って1年以上が過ぎ、2人の立派な『兵士』への変化が嬉しくも‥‥悲しい。
本当ならば彼らには平穏な生活を送って欲しかった。
しかし‥‥能力者となる道を選んだからには、戦いは避けられないのか‥‥。
「ハイブリッドバグズ‥‥か」
ノエルの話を聞いた後、アンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)はあごに手を当て思案していた。
かのキメラのことは友人から聞かされたことがある。
非常に強力で危険な人型キメラだとか。中には小型プロトン砲を装備した個体もいるという。
今回攻略するのは以前HBバグズが出現した事例のあるプラント‥‥。
またHBバグズが出てくることは十分に考えられる。
いずれにせよ、気を抜かないようにしなければ。
(「例えどんな敵が出てきたとしても、戦ってやる‥‥。アスタロトの実力を見せてやる‥‥」)
傍らにAU−KV・LL−011『アスタロト』を停めた柿原 錬(
gb1931)は聊か力みすぎている‥‥というか、思い詰めている様子である‥‥。
「さーて、大人の仕事を始めますかねぇ」
冴城 アスカ(
gb4188)は相川小隊隊長、相川・俊一と話をしたかったのだが、彼が率いる相川小隊第1・第3分隊は今回別行動を取り、キメラプラント乙11号の攻略に向っていた。
アスカは前回、彼が言っていたことを思い出す。
(「‥‥子ども達は正に、人類の未来への『最後の希望』。それを守り、導いて行くのが大人の仕事‥‥そうよね?」)
自分自身に問いかけてみる。
「‥‥まるで、蟻の巣の中へ突入する気分だな。さっさと潰して帰りたいものだ」
うんざりした様子の鹿島 綾(
gb4549)。
遠目で見てもプラントの入り口付近に犇く大量のビートルが確認できる。
これからあそこへ向うのだ‥‥。任務を遂行するためには、まずはあの大群を処理しなければならない。
(「鞠子が生きていたなんて‥‥。ボクがあの時ちゃんと止めを刺していれば‥‥!」)
ティリア=シルフィード(
gb4903)は強く拳を握り、奥歯を噛み締める。
あの執念深い女のことだ。きっとまた自分達の前に現れる‥‥そして、必ずまた蝶子さんを狙ってくるはず。
(「‥‥皆に迷惑をかけるけど‥‥今回は、別行動させてもらおう‥‥」)
「我儘を言ってしまってすみません。達矢さんと蝶子さんは必ず守りますから‥‥ノエルさん達も、くれぐれもお気をつけて‥‥」
「ティリアさん‥‥わかりました。お互い最善を尽くしましょう」
ノエルはティリアの両手をぎゅっと握る。
「達矢くん達をよろしくね♪ ‥‥またあの人出るかもしれないし、ね?」
ティリアに向ってそのように言う子虎。ティリアはこくりと頷いた。
「すごい数のキメラ‥‥なるべく重体者などは出したくないところですが‥‥」
救急セットを持ち、仲間の怪我を積極的に回復させるつもりのラナ・ヴェクサー(
gc1748)。
今回は長期戦になりそうなので、回復手段は必須との判断だ。
「昆虫採集だ〜♪」
などと、オルカ・スパイホップ(
gc1882)は無邪気にはしゃいでいる。
「違うわ、オルカくん。今回の任務はプラントの攻略。そんなに甘いものじゃない」
一千風が釘を刺す。
「アレ‥‥? あ、そっか〜。確かメチャ強い蟲がいるかもしれないんだっけ〜? 戦えるの楽しみだなぁ〜♪」
「油断は禁物よ‥‥」
今回は同じ小隊に所属するオルカが一緒のため心強い。しかし余計に気を引き締めなければ。そのように一千風は考える。
「楽しい殺戮場へと遊びに行きますわよ」
真っ赤な舌で唇を舐め上げるミリハナク(
gc4008)。
今回はどんな強敵と出会えるのだろうか。考えるだけでぞくぞくする。
「今度は22号か。よくもまぁ、こんなあちこちに作ったもんだな。ま、いくら作っても全部ぶっ潰してやるけどな!」
威勢良く言い放ったのは空言 凛(
gc4106)。
「よー! オルッチ! せっかくだし、一緒に戦おうぜ」
「おぉ〜凛さん。OKですよ〜」
オルカが答え、ぐっと親指を立てる。
そんなこんなで打ち合わせを済ませた一同は二手に分かれて作戦開始。
●VSビートル
ルート1――東側――傭兵部隊――。
大量のビートルが犇く只中に飛び込んだ傭兵10名。
しかし‥‥たかがビートルと侮っていたのか、具体的な対応策を考えてきた者はおらず、その物量に早くも苦戦し始めていた‥‥。
機械剣βでビートルを切り裂くノエル。だが1匹ずつ潰しても埒が明かない。
「こいつら‥‥」
子虎は天剣『ウラノス』で一気に数匹をなぎ払う。
「倒しても倒しても‥‥」
2人は背中合わせとなった。
「「キリがない‥‥!!」」
群がるビートルの群れ‥‥。2人が同時に攻撃し、ドドーンとビートルが宙を舞った。
一千風は小銃S−01で射撃しつつ、肉薄してきた敵には片手爪で対応している。
「一匹一匹は弱いけれど、なんて数‥‥」
アンジェリナは大太刀・如来荒神を振り被る。
「ふんっ‥‥!」
ミリハナクは小銃『シエルクライン』で射撃し、アンジェリナを援護。
「流石はキメラプラント。虫型キメラが多いですわね。奥には虫のお姫様でも待っているかしら?」
ラナは超機械『シャドウオーブ』の専用グローブから黒色のエネルギー弾を飛ばしてビートルを焼いていく。しかし一向に数が減らない。
「ミリハナクお姉様には近づけさせません!」
錬は超機械『ラミエル』で攻撃しつつ、接近してくる敵は機械剣βで切り裂く。
「虫型キメラなら知覚のレディ――アスタロトと相性は良いはずなんだ‥‥!」
綾のほうは前に出て両の手に持った二つの天槍『ガブリエル』で斬撃と突きを繰り出す。
「なるほど、数だけは多いな‥‥!」
オルカは1.5mほどの細身の剣、暗剣『フェイタリティ』を両手で持って戦闘を行う。
この武器は本来片手装備なのだが、小柄なオルカには大きすぎるためだ。
剣を振り下ろして地面に付く前に脚甲『望天吼』で蹴り上げるなどして、隙を潰す。
「ひゃ〜、うじゃうじゃいる〜」
凛は天拳『アリエル』での打撃を連続で打ち込んでいく。非物理攻撃は基本的に虫型キメラに対して有効だ。
「全部ぶっ飛ばす!」
拳を叩きつけ、ビートルを吹っ飛ばすが、また次々と湧いてきた。
ルート2――西側――相川小隊――。
こちらも同じく大量のビートルと戦闘になっていた。
しかしこちらは組織化された動きで効率的にビートルを排除していく。
能力者16名によるSMGや突撃銃、軽機関銃などの濃密な弾幕により、ビートルの群れは次々に沈黙していく。
元々プラント攻略を目的として設立された小隊。この手のことなら日常茶飯事、お手の物だ。
アスカは拳銃と、脚甲『ペルシュロン』および脚甲『グラスホッパー』を装備した両の脚で攻撃。
「軍隊らしい統率の取れた動きね」
ティリアは二刀小太刀『永劫回帰』で近づくビートルを葬る。
「ええ。彼らは正規軍の能力者部隊ですから」
先にプラント内へ突入したのはやはり相川小隊であった。
傭兵部隊はビートルの排除に手間取り、かなり遅れることとなる。
●VSハイブリッドバグズM2型・C2型
ルート1(傭兵部隊)――。
「やっと突入ー。さて、相川小隊とどっちが早く中枢部に着くか勝負! ‥‥なんちゃってね?」
(「ティリアさん、大丈夫だろうか‥‥」)
まだまだ元気な様子の子虎と、心配そうな様子のノエル。
傭兵部隊はプラント内部を進む。通路は大人5人が並んで歩けるほど広め。天井も高い。
前回のプラント攻略戦の経験上、罠を警戒して進む一行だったが、特にそれらしきものは見当たらなかった。
シルバービートル数体がたまに出現する程度である。
「にしても‥‥どことなく不気味な感じがするな、やはり」
槍をSビートルの死骸から引き抜き、綾がぽつりと呟く。
敵はこれだけではないだろう‥‥。
ある程度進むと――今度は全身を甲殻に覆われコガネムシのような頭部を持った人型キメラと、同じく全身を甲殻に覆われコオロギのような頭部を持った人型キメラが出現。
前者は2体、後者は8体。2種とも、これまでのようなビートルとは明らかに違う。
「何‥‥? 情報に無かったキメラが!」
声を上げ、身構える一千風。
「あれは! ハイブリッドバグズM型‥‥?!」
HBバグズと交戦経験のあるノエルがコオロギ頭の人型キメラに目をやり、言った。
しかしM型とは細部が異なり、四肢も太く、甲殻が分厚くなっているように見える。
「ノエルンが言ってた奴だね‥‥。でも、どんな相手でも負けないよ。邪魔をするなら倒すだけなのだ!」
大剣を構える子虎。臨戦態勢。
(「くそ、恐れるな! 覚悟は出来てるんだ‥‥!」)
未知なる敵への恐れを抑え付け、自分を奮い立たせる錬。
「行くぞ! 先手必勝だ!」
両手に槍を構え、綾が先陣を切る。バグズ達はすぐさま応戦の構え。
アンジェリナ、ミリハナク、ラナはM2型3体の相手。ほぼ1対1の形となる。
「こんな物が居るとはね‥‥腕試しに潰させてもらいますか!」
ラナの言葉からは余裕が感じられるが‥‥。
アンジェリナは急所突きを使用。大太刀で甲殻の隙間を狙って突きを繰り出す、M2型は回避運動。わき腹の甲殻を掠める。
ミリハナクは小銃で援護射撃。これは両腕を交差して防がれた。
ラナはアンジェリナと入れ替わりに接近し、ライトニングクローを突き出すも、赤い壁の抵抗を受けて威力が減衰。
通常の虫型キメラとは違い、非物理攻撃が弱点というわけではないようだ。
「なるほど、回避も防御も優れているのか‥‥」
「素敵な敵さんですわね」
「かなり硬いようです‥‥」
ラナの頬に汗が伝う。
「オルッチ! 行っくぜぇ!」
「了解〜!」
M2型1体に挟撃を行う凛とオルカ。M2型は斬撃と打撃を避ける避ける防ぐ。
「チッ、硬ぇなぁ」
凛が愚痴を零したそのとき――
「凛さん! オルカさん! 避けて!」
ノエルの叫び。M2型は飛翔。凛とオルカは反応が間に合わず、後方から光の粒子が駆け抜け、2人を包み込む。
「く、はぁ〜‥‥!」
「がはっ‥‥!」
全身から煙を噴き上げ、膝を突く凛とオルカ。
光条の飛んできたほうを見ると、コガネムシ頭――HBバグズC2型2体がノエル、子虎、一千風と戦闘を繰り広げていた。
2人はC2型のプロトン砲をまともに喰らってしまったのだ。おかげで生命力をごっそり持っていかれた。
「囮とは‥‥やってくれるね〜」
「虫の癖に‥‥この野郎!」
2人は立ち上がり、再びM2型へ向かう。
綾と錬は連携してM2型3体と戦う。
強酸のブレスを喰らい、アスタロトの装甲が融解。内部の錬に直接ダメージを与えてくる。綾はなんとか回避。
「ぐあああっ!?」
「範囲攻撃だと‥‥?!」
ノエルから聞いた情報とは違う。改良が施されているのか‥‥。それとも別物か‥‥。
打撃を繰り出してくるM2型2体を二つの槍で巧みに牽制する綾。
「くっ、やられてばかりでは‥‥!」
錬も痛みに耐えながら超機械から電磁波を発生させる。
ノエル、子虎、一千風、C2型2体と交戦。
フェザー砲のシャワーを浴び、ダメージを受けながらも肉薄し、近接攻撃を加える。
またプロトン砲を撃たせるわけにはいかない‥‥!
だが――敵の耐久力は非常に高く、このままではこちらが押し負けてしまうだろう‥‥。
一旦距離を取る3人。
「ノエルくん、子虎くん、聞いて。私が1体を抑えるから、その間にもう1体を仕留めて」
「それは危険です!」
「いや、ノエルン、それしかないよ。早くここを突破しないと‥‥」
「くっ、わかった。一千風さん、お願いします」
「了解! 頼んだわよ!」
瞬天速を用いて一気に距離を詰めるノエルと一千風。それに続く子虎。
C2型の右腕から発射された2つのプロトン砲の光条が3人の身体を掠める。
子虎が豪破斬撃を発動し、跳躍。上段からの一撃をプロトン砲と一体化した右腕に叩き込む。
続いてノエルが急所突きを使用。爪を勢いよく繰り出し、フェザー砲と一体化した左腕に突き刺す。
武器を破壊され動きの鈍ったC2型1体。今度は2人同時に胴体へ攻撃し、打ち倒した。
「「次‥‥!」」
休む間もなく、必死にフェザー砲を回避する一千風のほうへ向うノエルと子虎。
アンジェリナ、ミリハナク、ラナ。尚もM2型3体と戦闘中。
こちらの3人もM2型の打撃や強酸のブレスを受け、決して少なくないダメージを受けている。
「‥‥やる。だが‥‥刺し貫く‥‥!!」
急所突きを使用しての大太刀による猛烈なチャージ。それはM2型1体の腹部を貫き、撃破した。
「ああ、楽しい。なんて楽しいのでしょう♪」
ミハリナクはM2型の打撃でつけられた自分の頬の傷から垂れる血を指で拭い、それをぺろりと舐める。
そして炎斧「インフェルノ」を両手で振り上げ、突進。力いっぱい振り下ろし、M2型を肩口から真っ二つに引き裂いた。
「はあ〜‥‥たまりませんわ」
恍惚とした表情を浮かべる。
「げほっ、げほっ‥‥はあ、はあ‥‥」
荒い息をするラナ。これまで何度もM2型の打撃を受けた。
息をするのが辛い状態。でも‥‥!
「負けられません!」
瞬天速で一気に接近し、クローで関節部を狙う。やはり赤い壁の抵抗。
だがダメージは確実に入っているはずだ。――そこで、M2型が掌底を繰り出した。
吹き飛ばされるラナ。敵は凄まじい速さで追撃してくる。踵落としが振り下ろされるかと思った瞬間――
鮮血の花が咲いた。ラナの頬を赤い液体がびしゃりと濡らす。
‥‥ミハリナクがM2型の脳天に斧を叩き込んだのだ。そのままM2型は崩れ落ちる。
「油断は禁物ですわよ♪」
「お姉様‥‥」
ミハリナクは微笑んで、血塗れの手を差し出してきた。
ラナは恐る恐るその手を掴んだ。
残りの1体も凛とオルカの連携攻撃によって撃破された。傭兵部隊は小休止の後、中枢部を目指す。
ルート2(相川小隊)――。
通路を進む相川小隊とアスカ、ティリア。
前方にタイラントビートル5体、シルバービートル20体が出現。
「目標、小型ビートルタイプ! 攻撃開始!」
達矢の合図で射撃が開始され、濃密な弾幕が展開される。
アスカとティリアはそれぞれTビートルへ向う。
「‥‥この子達には指一本触れさせないわよ!」
「やあああっ!!」
突撃を避け、スピードで敵を翻弄するペネトレーターの2人。
ティリアは二刀小太刀で、アスカは蹴り技で攻撃を仕掛ける。
赤い壁の抵抗で威力が減衰。
「ただ図体がデカイだけじゃないようね」
「ならば、手数で押します!」
連続で攻撃を加える。そうして2人と相川小隊は戦闘を有利に展開。
Tビートル3体は達矢、蝶子、第4分隊長――エレクトロリンカーである米谷・里美准尉によって葬られた。
ほどなくSビートルも片付き、相川小隊とアスカ、ティリアは中枢部へと走る。
●VSハイブリッドバグズF型+芳賀・鞠子
中枢部で合流した傭兵部隊と相川小隊(および、それに同行していたアスカとティリア)。
そこにはハイブリッドバグズF型5体、ハイブリッドバグズM2型10体。
そして‥‥芳賀・鞠子が待ち構えていた。鞠子は忌々しそうな表情を浮かべている。
「またあんた達なの‥‥? いい加減にしてもらえないかしら」
「それはこっちの台詞だ! やはりいると思っていた! 今日こそお前に引導を渡す! もう蝶子さんに手出しはさせない!!」
因縁の敵を前にしてティリアが叫ぶ。
「‥‥」
アスカは高性能多目的ツールを用いて弾頭矢を爆弾に仕立てようとしていたが、肝心の弾頭矢を忘れてきてしまっていた。
また、冷静になって考えてみると‥‥そのような手段で爆弾が作れるとは思えない。
作れたとしても、SES搭載武器を介さない弾頭矢では動力炉を守るFFを突破することは不可能だ。
とりあえず、今はそのような状況ではない。敵が動力炉をがっちり固めている以上、爆弾があったとしても仕掛けている暇はないだろう。
「‥‥こっちだって、こんな辺境で死んでやるつもりはないわよ! むしろここをあんた達の墓場にしてあげる! ‥‥やりなさい!」
鞠子のヒステリックな声を合図に、F型が一斉に波動を放ってきた。
傭兵部隊、相川小隊は散開。戦闘開始。
相川小隊がM2型を引き受け、傭兵達がF型と鞠子を相手取る。
「第2分隊! 弾幕を薄めるな! 絶対接近するなよ! 近接戦は俺に任せろ!」
達矢が声を張り上げる。
「たっちゃんは私がサポートします‥‥!」
「蝶子さんを除く第4分隊各員は遠距離から超機械で援護! 敵を侮らないで!」
米谷・里美准尉は赤フレームのメガネを光らせ機械剣を抜き放ち、M2型1体と互角以上の戦いを演じる。
F型1体と戦闘を行うノエルと子虎。
「くうう‥‥!」
「この攻撃‥‥シルフィードよりも強力だ‥‥!」
波動が巻き起こり、2人の生命力が削られる。
ノエルと子虎は同時に攻撃。F型は斬撃と爪を両腕で防ぐ。赤い壁が発生。
「防御力も‥‥!」
「上がっているみたいだね‥‥」
どうやらF型はシルフィードの攻撃力を強化し、更に甲殻を追加したものであるようだ。
量産型ではなく、強化型――?
そのとき、F型が変わった動きを見せた。両手を前に突き出す。その先に居るのは――子虎。
「子虎くん! 避けて!!」
「えっ?」
凄まじい熱量が放たれた‥‥。
「‥‥‥‥うっ。今の、なに? って、ノエルン?!」
「あは‥‥大丈夫みたいだね」
ノエルが子虎の上に覆い被さっていた。攻撃を受ける直前、咄嗟に庇ってくれたらしい。
――ノエルの背中は赤く焼け爛れていた。
「ノエルン! その背中!!」
「このくらい‥‥大丈夫だよ‥‥」
ノエルはよろよろと立ち上がる。
「それより、あれを見て」
ノエルは後方の壁を指差した。
目をやると、そこは焼け焦げ、大きく抉り取られているではないか‥‥。
「プロトン砲とは違うけど、強力な熱線みたいだね‥‥気をつけないと。いくよっ!」
「わかった」
子虎はあえて「ありがとう」や「大丈夫?」とは言わなかった。それはこいつを倒してからだ。
大剣を構え、再びF型へ向う。
アンジェリナはF型と1対1の戦いを繰り広げている‥‥。
先ほど子虎を襲ったように、F型が両手を前に突き出し、熱線を放つ。
「――!!」
咄嗟に身を翻し、避けるアンジェリナ。
「‥‥」
しかし、完全に避けられたわけではなかった。鎧をかすめ、そこが抉られ、肉体にもダメージが及んでいる。傷が焼けるように熱い‥‥。
「‥‥ふっ、相手にとって不足無しだ。いくぞ!!」
大太刀を振り被り、F型の甲殻に叩きつけ、FFの上から無理矢理ダメージを与える。
ミリハナクとラナ、F型1体と戦闘。
「あはは、とんでもない威力ですわね」
「あんなもの、まともに受けたら‥‥」
熱線を警戒しつつ攻撃を行う2人。あれはC2型のプロトン砲以上の威力だ。
しかしプロトン砲に比べると効果範囲が狭いのと、事前の発射モーションが大きいのが唯一の救いだろうか。
「好き嫌いせず、なんでも喰らいますわよ」
波動によって生命力を削られつつも接近し、流し斬りを使用した斧による一撃を叩き込むミリハナク。
「お姉様‥‥あまり無茶は‥‥!」
ラナは疾風脚と瞬天速を用いた速度重視の戦法を取る。
ミリハナクの攻撃に続いて瞬即撃を使用したクローでの斬撃を加え、更に超機械からエネルギー弾を発射。確実にダメージを与えてゆく。
錬と綾、F型1体と戦闘。
「もっと強ければ‥‥皆を守れるのに‥‥!」
必死に機械剣を振う錬。しかしF型は空中へ逃れ、当たらない。
熱線の発射モーション。
「‥‥!!」
横っ飛びに避けるが熱線は脇腹を掠めた。AU−KVの装甲が融解し、生身が露になる。
「ハア‥‥ハァ‥‥僕は‥‥!」
息を荒げながら、錬は竜の翼と猛火の赤龍を使用。ギリギリまで接近し、超機械による電磁波攻撃を行う。
F型の波動の反撃。錬の生命力は危険域まで削られ、彼は意識を失った。
「くっ‥‥!」
綾はソニックブームを放ち、空中のF型を地に落す。
「悪いが、ここらで寝ておけ!!」
剣劇を発動。二本の槍による目にも留まらぬ連続攻撃を繰り出した。
オルカと凛は連携してF型1体と戦闘。
「なに‥‥こいつ〜」
「くぅっ‥‥痛てぇ」
波動による範囲攻撃、光弾の連射、強力な熱線。
これらの大火力に押され、2人は大ダメージを受けてしまっていた。
「でも‥‥まだまだ〜! 諦めない!」
オルカが突進。天地撃を使用。空中にいるF型を床へ叩き落す。
「凛さん、今っ!!」
「おうさ!!」
瞬天速で距離を詰め、急所突きを使用した拳を叩き込む。
F型の甲殻に亀裂が走った‥‥。
一千風、ティリア、アスカの3人は因縁の相手、芳賀・鞠子と激しい攻防を行っていた。
「また、会うなんて思ってなかったわ」
爪の斬撃を繰り出しながら一千風が言った。
「私もよ。ふっ、あんたならいい材料になったでしょうに」
鞭の柄で受ける鞠子。
「こんな物騒な所は綺麗さっぱり消してあげるわ!」
続いてアスカ。蹴り技の連撃。鞠子は回避運動。しかし全ては避け切れない。
「この前はよくもやってくれたわねぇ!」
電磁鞭による反撃。アスカは身を捻ってなんとか避けた。
が、電撃を少し浴びてしまった。電磁鞭にも改良が加えられているらしい。
「はあああっ!! やあああっ!!」
気合いと共に斬りかかるティリア。その瞳には『絶対に敵を倒す』という覚悟が秘められている。
「‥‥っ。やるようになったわね」
鞠子は電磁鞭を振るい、受け流す。
「お前なんかに褒められても嬉しくない!!」
バックステップで一旦距離を取る。
ペネトレーターの3人はそのスピードで鞠子を翻弄しつつ、攻撃を加えていた。
鞠子のほうは電磁鞭と電撃放出による攻撃範囲で対抗している。が――
「やぁっ!」
「せいっ!」
「たぁぁぁっ!!」
「!!?」
3人の一斉攻撃を受け、後退させられる鞠子。
「まだ終わりじゃないわよ!!」
アスカの追撃。蹴りが鞠子の腹部に入る。
「ぐふっ!?」
「厄介な鞭! まずはこれを!!」
ティリアに二刀小太刀の斬撃を見舞い、電磁鞭をバラバラに切り裂いた。
動力炉に叩きつけられ、床に倒れ伏す鞠子。
「観念しろ! これで終わりだ!」
「――!?」
見れば、HBバグズF型全てが遺骸となり、床に転がっていた。
傭兵達も相当なダメージを受け、倒れ込んでいたが‥‥。
M2型は依然相川小隊と交戦を継続しているが、大きく数を減らしている。
「‥‥‥‥いいわ」
鞠子がぽつりと呟く。
「何がだ!」
ティリアが問う。
「私の負けよ‥‥認める」
「今更命乞いか! そんなの――」
「違うわよ!!」
ティリアの声は鞠子の言葉によってかき消された。
「負けを認めるからって、あんた達に降伏するわけじゃないわ。最後の手段‥‥取らせてもらうわよ‥‥くくく、あははは!!」
密かに、後ろ手に動力炉の端末を操作していた鞠子が高笑いを上げる。
すると間もなく、室内に赤く染まり、けたたましい警報が鳴り響いた。
「なに‥‥?」
赤く照らされた室内を見回す一千風。警報とは別に、動力炉が異常な音を発している。
「鞠子! 何をしたの?」
アスカが問いただす。
「ちょっとね‥‥動力炉を弄って、暴走させただけよ。‥‥早く脱出しなくていいの? このプラントごと木っ端微塵になっちゃうわよ? くくく!!」
「貴様ぁ!!」
怒りの表情を浮かべるティリア。
「私にトドメを刺すなら今しかないわね。でもその間に爆発しちゃうかもね。どっちにするぅ? くくく!」
あくまで人を馬鹿にしたような態度を取る鞠子。
「‥‥‥‥皆さん、脱出しましょう! 大至急です!」
少しだけ思案した後、ティリアは声を上げた。
傭兵達や相川小隊が去り、1人残された鞠子‥‥。
「‥‥」
腹部から止め処なく流れ出る血を見ながら、これまでの人生を振り返る。
父に振り回され、バグアに加担し、数々の悪事を働いてきた。
これがその報いか。こんな辺境で一生を終えるのか‥‥。
「悔しいわね‥‥悔しいわねぇ‥‥」
鞠子は腕を額に当てた。その瞳から一筋の涙が零れた。
どうしてこうなってしまったのだろう。そうだ。父が変貌したあの日から――。
そして暴走した動力炉が限界を向え、辺りが真っ白に染まった――。
大爆発が巻き起こり、プラント全てを焼き尽くす。
突入前に集合していた丘――。
既に脱出していた傭兵部隊と相川小隊。皆ボロボロだが、幸いにして死者は無い。
プラントがあった場所は陥没し、黒々とした煙を盛大に噴き上げている。
「‥‥」
ティリアはその光景を眺めながら、死する直前まで悪びれた様子も無かった強化人間の最期の姿を思い浮かべる。
「悲しい人‥‥」
ぽつりと、それだけ呟いた。
傭兵達と相川小隊が撤退した後――
プラント跡に、1人の男の姿があった。何やら掘り起こしている。
男がしばらく掘り返していると、目的のものを見つけた。
それは女性の遺体であった。まだ新しいが、半ば焼け焦げている。
「鞠子よ‥‥死んでしまったのか‥‥」
男は少しだけ悲しげに言った。
「鞠子よ‥‥だがお前にはまだやることがある‥‥」
男は女性の遺体を抱えて、歩き出した。