タイトル:蟲喰い3マスター:とりる

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/28 21:26

●オープニング本文


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 相川小隊駐屯地。ブリーフィングルームにて。
 長い黒髪を後ろでお団子状に纏め、赤いフレームのメガネをかけた知的な女性を、皆が囲んでいた。
「里美さん、昇進おめでとうございます」
 相川小隊の隊長、相川・俊一少尉がにこやかな笑みを浮かべて言った。
「ありがとうございます、隊長」
 赤いメガネの女性――米谷・里美少尉(元准尉)が照れくさそうに、でもすごく嬉しそうに答える。
 他の隊員達からも「おめでとうございます!」との声が次々と上がる。
「ははは。階級で並ばれてしまいましたね。これではどちらが隊長なのやら」
「いえ! 隊長のほうが先任ですから! ‥‥これからも、よろしくお願いします。私は、隊長の下で働きたいので」
 里美少尉はにっこり微笑んだ後、ぽっと頬を染めた。
「‥‥? ええ、こちらこそよろしくお願いします。里美さんのような優秀な部下が居てくれると僕も心強いですよ」
「そんな! 隊長、褒めすぎです‥‥!」
 里美少尉の顔がまた赤くなった。
(ほほう、これは‥‥)
 里美少尉が分隊長を務める第4分隊所属、衛生官の牧原・蝶子がにやりと笑う。
「どうした? 蝶子?」
 蝶子の恋人であり、幼馴染でもある第2分隊長、深森・達矢がジュースを飲みながら尋ねてくる。
「もう、たっちゃんにはわからないの? 里美さんはきっと――」
「??」
 達矢は首をかしげるのみ。
「わっはっはっ。青春じゃのう‥‥。こういう話を聞くだけで若返るわい」
 豪快に笑う老人。第3分隊長兼戦闘技術教官の竹中・宗司軍曹。
「さて――皆さん」
 和やかな雰囲気の中、俊一少尉が隊員の皆を見回し、口を開いた。
「里美さんの昇進を祝ってパーティー‥‥!」
 小隊の一同から「おぉ〜!」と声が上がる。
 ちなみに小隊の隊員達は18歳に満たない少年少女が大半である。
「――と、言いたいところですが、残念。任務のお話です」
「えぇ〜!」
 思わず達矢が不満の声を漏らした。
「たっちゃん!」
「あ、すみません‥‥」
 蝶子に言われ、達矢は頭を下げる。
「いえ。期待させるようなことを言って申し訳ない。ご存知の通り九州戦線も大詰めです。すみませんが、皆さんにはもうしばらく我慢してもらうことになります」
 真剣な表情で俊一少尉が言った。
「では次の任務を説明します。――目標はUPC軍呼称『キメラプラント乙10号』」
 ホワイトボードに貼られた地図を俊一少尉がポインターで指し示す。
「これまでで最大規模のプラントですね。当然敵の抵抗も激しいでしょう」
 『乙○号』と呼称されるキメラプラントは数字が小さくなるほど規模が大きい。
 数字が大きいほうから順に攻略してきたのだから「これまでで最大規模」となるのは当然なのだが。
「今回も傭兵との共同作戦になります。決して気を抜かないように」
「了解!」
 敬礼する相川小隊の隊員一同であった。


 キメラプラント乙10号・研究室――。
 用途不明の機材と、青白く発光する培養カプセルが大量に並べられた室内――。
 一般的な小学校の教室よりも少し広いくらいだろうか‥‥。天井はかなり高い。
 1つの培養カプセルの前に、白衣を纏った初老の男性が佇んでいた。
「ついに完成した‥‥」
 培養カプセルの中に浮かぶのは――人型キメラ。
「鞠子‥‥お前は生まれ変わったのだ‥‥」
 それは人間の女性の肉体と蛾を混ぜ合わせたような不気味な美しさを持ったキメラ。
 目は複眼であり、顔の上半分は虫のものとなっている。
 背中には大きな蛾の羽根が1対‥‥羽根の中心には目玉のような模様――ではない。
 本物の巨大な人間の目玉が付いていた。その目玉が動き、ぎょろりと初老の男性を見る。
「おお、鞠子。わかるかい? 父さんだよ」
 キメラに語りかける初老の男性‥‥。異様な光景‥‥。キメラは何も音を発しなかった。
「鞠子、お前はその完全となった姿で、お前を死に追いやった傭兵どもを蹴散らすのだ!」
 人型キメラがぴくりと動いた――ような気がした。
「くくく! ははは!!」
 初老の男性の高笑いが室内に響く――‥‥。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
神崎・子虎(ga0513
15歳・♂・DF
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

●胸騒ぎ
 相川小隊駐屯地で相川小隊と合流した傭兵達――。
 ブリーフィングルームで最後の打ち合わせをしたり、雑談をしたりしている。
(‥‥鞠子はあのプラントと最後を共にした。もう会うこともない‥‥はず、なのに‥‥)
 ティリア=シルフィード(gb4903)は作戦前だと言うのに表情を曇らせていた。
 鞠子というのは強化人間の芳賀・鞠子。これまで何度も傭兵達を苦しめてきたが‥‥
 前回の戦闘で倒したはず‥‥である。しかし――
(どうしてだろう‥‥胸の奥の嫌な予感が晴れない‥‥ボクの考え過ぎだったらいいんだけど‥‥)
「どうしました、ティリアさん。浮かない顔だけど。緊張してます?」
 そこへ恋人のノエル・アレノア(ga0237)がやって来て、ティリアの顔を覗き込んだ。
「いえ‥‥何か、胸騒ぎがするんです‥‥」
 ティリアは俯いたまま言う。
「そうですか‥‥絶対大丈夫とか、気安く言えないけど、僕はティリアさんの傍に居ますから」
 ノエルはティリアの手を両手でぎゅっと握り締め、瞳を見つめた。
「ノエルさん‥‥ありがとうございます」
 最愛の恋人の励ましにより、ティリアの表情が少しだけや和らぐ。
 と、そこへ――
「うわっ!?」
 ノエルの声が上がる。
「達矢くん達、今回もよろしくなのだ♪」
 神崎・子虎(ga0513)が背後からノエルに抱き付きつつ、相川小隊の達矢達へ挨拶。
「よろしくな」
「よろしくお願いします」
 にっと笑う達矢と、ぺこりとお辞儀をする蝶子。
 そして今度は――
「ハァイ♪ 里美さん、昇進したらしいじゃない♪ おめでとう♪」
 冴城 アスカ(gb4188)が里美少尉にハグしようとするが‥‥ひらりと避けられた。
「ありがとうございます。でも残念ながら私にはそっちの趣味はありませんので」
 にこりと微笑む里美少尉。
「あら、いけず。‥‥しかし、達矢君と蝶子ちゃんは相変わらず仲いいわねぇ」
 にやにやと笑みを浮かべるアスカ。
「!?」
 達矢は思わずばっと蝶子から離れるが、蝶子は達矢の手を握って引き戻した。
「もう離さないって言ってくれたでしょ? 男に二言は無いの!」
「そ、それは‥‥」
 顔をぼっと赤くする達矢。
「ほんと、お熱いわねぇ」
 アスカはちょっぴり苦笑するのだった。その隣では――
(まだまだ達矢くん達には負けないわ‥‥)
 達矢達の様子を横目で見つつも、精神集中を行っている遠石 一千風(ga3970)。
 彼女は相川小隊の力になりたいと考え、依頼に参加した次第。

「小さな研究所とかならともかく、こういう大きいのは初めてだなぁ。気合、入れてかからないと」
 キメラプラントの攻略作戦は初体験な旭(ga6764)は装備のチェックを入念に行う。
 全身に纏った堅牢な装甲。動きに支障が無いか確かめる。

「プラント攻略もこれで3箇所目か‥‥」
 相川小隊と共にキメラプラントの攻略を行うのはこれが3度目。
 今度はどんな強敵が待ち受けているのか‥‥。
 アンジェリナ・ルヴァン(ga6940)はそのように考える。

「虫相手に良い思い出はねぇんだが‥‥やるしかねぇか」
 ぼやく砕牙 九郎(ga7366)。
 彼は過去、ハイブリッドバグズとの戦闘で手痛い目に遭ったことがある。

(張り詰めた糸じゃ駄目‥‥。芯は強くてもしなやかで無いと)
(これで、いけるかな‥‥。みんなを、自分を信じれば)
 柿原 錬(gb1931)と雪代 蛍(gb3625)は心の中で小さく呟く。
 張り詰めた糸では簡単に切れてしまう‥‥。
 仲間を信頼しなければ作戦は成り立たない‥‥。
 2人は自分自身に言い聞かせた。

「前回の雪辱を晴らしたいところですが‥‥」
 ラナ・ヴェクサー(gc1748)は前回の作戦でハイブリッドバグズ相手に苦戦を強いられた。
 今回は対策を考えてきたが‥‥果たしてどうなるか‥‥。

「キメラプラントか‥‥。さっさと潰しておくに限る」
 秋月 愁矢(gc1971)が言った。キメラの生産施設などはさっさと破壊するに限る。
(だが、敵にとっても重要な拠点だろうから、かなりの抵抗が考えられる‥‥気を引き締めていかないとやばそうだ)
 口元をきゅっと結ぶ愁矢。
(相川小隊‥‥かなりの実力らしいな。色々と参考にさせて貰おう)
 愁矢は相川小隊の面々をぐるりと見回した。
 大半が少年少女‥‥。しかし気迫に満ちている。士気も高いようだ。

「さて、そろそろ時間ですね」
 相川小隊の隊長、相川・俊一少尉が皆のほうを向いて伝える。
「それじゃあ‥‥行こうか! 今回も皆無事に作戦を成功させよう!」
 言ったのは子虎。「おー!」との声が上がり、一行は外へ出て軍用トラックへ乗り込んだ。

●VSビートルタイプ
 一行は軍用トラックに揺られ、山間部までやって来る。
 トラックを降りると1時間ほど歩き――プラントに到着。
 入り口周辺をうろうろしていたビートルを素早く始末すると、一行はプラントへ突入。
 内部は10名ほどが横に並んで走っても大丈夫なほどの広さだった。
 天井も高く‥‥壁は不気味に青白く発光している‥‥。
「さてと、私達が囮になって焙り出して見るわ」
「皆は私達の後ろを」
 アスカと一千風が【瞬天速】で先頭を走る。
 トラップの類を警戒していたが‥‥特にそのようなものは見当たらなかった。

 通路をしばらく進むと――大量のシルバービートルと、多数のタイラントビートルが出現。
 一同は迎撃態勢。銃を構える。
「総員、目標、前方ビートルタイプ群。撃てっ!」
 俊一少尉の合図で相川小隊全員が、SMG・突撃銃・軽機関銃で弾幕を展開。

 傭兵部隊も攻撃を開始。
「しつこい! 数ばかり多くたって!」
 一千風は迫るSビートルを純白の爪・エーデルワイスと拳銃『NG−DM』で叩き落す。
「道を開くわよ! 一千風!」
 短剣・蛇剋でSビートルの甲殻を斬りつけるアスカ。
 2人は連携してビートルタイプの排除に当たる。

「ノエルさん、援護します!」
 M−121ガトリング砲で弾幕を張るティリア。
「ありがとう! はあああっ!!」
 ノエルは突破してくるSビートルをエクリュの爪で切り裂く。
「今回は遅れを取らないようにしないとね。――せやぁっ!!」
 覚醒し、銀色の髪をなびかせた子虎がTビートルの甲殻に大剣を振り下ろす。

(スキルは援護を重視、と。みんなの無事のために、支援もしっかりとやらなくちゃ)
 旭は突破してきたSビートルの突撃をプロテクトシールドで防ぎつつ、ガラティーンで斬りつけていく。

「ったく、嫌になるねぇ。わらわらと」
 九郎はアラスカ454とSMG『ターミネーター』で射撃し、次々と迫るSビートルを撃ち落していく。

「前よりも力が弱くなっちゃってる‥‥。でも‥‥!」
 ハーモナーにクラスチェンジしていた蛍。
 以前より攻撃力は低下してしまっているかもしれない‥‥しかし‥‥。
 彼女はSMG『スコール』で必死に弾幕を張る。

 ラナと愁矢はSMG『ターミネーター』で弾幕を展開。
「リロード、チェック」
 愁矢は手際よく弾倉を交換して、再度攻撃。
 ラナとリロードのタイミングが被らないように注意しながら戦闘を行う。

 相川小隊の旺盛な射撃。そして今回はきちんと対策を立ててきた傭兵部隊。
 それによりビートルタイプの亡骸はみるみる積み重なっていくが‥‥まだ数は衰えない。
「皆さん! 【騎龍突撃】で道を開きます! 援護をお願いします!」
 錬が声を上げ、バイク形態のAU−KVに騎乗。
「了解しました。総員、左右に弾幕を集中!」
 俊一少尉の指示が飛ぶ。
 錬は弾幕の援護を受けつつ【騎龍突撃】を使用し敵の密集地点へ。
「イグニッション・ファイア!!」
 AU−KVの正面カウル基点に発生する衝撃波。弾き飛ばされる多数のSビートル。
 突撃を終えると、錬はまた叫んだ。
「アンジェリナさん!」
「了解した。――はぁっ!!」
 アンジェリナが駆け、敵群の中心部で【十字撃】を使用。範囲攻撃。敵を薙ぎ払う。
「道はそこに有るものじゃない‥‥切り開くものだ」
 アンジェリナの言葉どおり、道は開いた。一行は奥へ走る。

●VSハイブリッドバグズM2型
 通路を進む傭兵部隊と相川小隊。
 先ほどの敵群を突破してからは、大きな抵抗は受けていない。
 そのとき、里美少尉が口を開いた。
「隊長、熱反応です。この先が動力炉と思われます」
 里美少尉が小型モニターを俊一少尉に見せる。サーマルセンサーが表示されていた。
「そうですか‥‥」
 俊一少尉はあごに手を当てた後、振り返って皆を見回した。
「傭兵の皆さん、これから我々は動力炉の破壊へ向います。ここで一旦お別れですね。もう片方の道を進めば‥‥恐らくは培養施設へ行き当たるはずです。頼みましたよ」
「わかった。武運を」
 アンジェリナが答えた。
 相川小隊の隊員達は敬礼し、脇道へ入って行った。
 傭兵部隊はそのまま真っ直ぐ奥へと進む――。

「待て!」
 通路を走る皆を九郎が静止した。一同は足を止める。
「何か居るぞ‥‥」
 すると――天井から次々と何かが落ちてきた。それは――人型だった。立ち上がる。
「ハイブリッドバグズ‥‥M2型‥‥」
 ノエルが小さく言った。
 コオロギのような全身を甲殻で覆われ、頭部を持った人型キメラ。
 ハイブリッドバグズM2型が10体出現。すぐさま傭兵達と交戦状態となる。

 ノエル、ティリア、子虎――。
 ハイブリッドバグズM2型2体と戦闘を行う。
 駆けながら両手握り締めた二刀小太刀『永劫回帰』を振るうティリア。
 同じくHBバグズの周りを駆けながら爪の攻撃を繰り出すノエル。
「動きさえ止まれば僕でも!」
 ペネトレーターであるノエルとティリアが素早く動き回り、M2型2体を撹乱。
 隙が出来たところへ子虎が重い一撃を打ち込む。
「せぇぇぇいっ!!」
 ガチン! と重い音。大剣の刀身を、両手をクロスさせて受けたM2型。
 ぴきっと腕の甲殻にひびが入る。
「‥‥っ!」
 子虎が柄を握り締める手に力を加えようとしたとき。腹に衝撃。
 子虎の身体が吹き飛ばされる。‥‥M2型が蹴りを繰り出したのだ。
「くっ、かはぁ‥‥」
 苦しそうに悶えつつも立ち上がる子虎。
「子虎くん! このぉ!」
 強酸のブレスで追撃を行おうとしていたM2型の頭部を殴りつけるノエル。
「大丈夫?!」
「このくらい‥‥まだまだ‥‥だよ」
 大剣を構え直す子虎の横では、ティリアが二刀小太刀で何度もM2型に斬撃を見舞っていた。

 一千風、アスカ――。
 ハイブリッドバグズM2型2体と戦闘中。
「相変わらず硬い‥‥!」
 拳銃で何度も射撃。それは命中するが赤い壁に阻まれて威力が減衰。
 見る間に、一千風の前の前まで接近。
(そして速い――!)
 繰り出される拳。一千風は爪で迎撃した。
「とうっ! やあああっ!!」
 M2型1体に対し、脚甲『ペルシュロン』と脚甲『グラスホッパー』で蹴り技を繰り出すアスカ。
 甲殻に亀裂が入っていく。
「もう一発!」
 ハイキック。M2型を蹴り上げた。M2型は羽根を展開。飛翔。
 その勢いのまま滑空しつつアスカへと蹴りを放ってくる。
「――!?」
 アスカは凄まじい蹴りを胴体に受けてしまい、吹き飛ばされて床に転がった。
「ぐ‥‥はあ‥‥はあ‥‥。やるじゃないの」
 よろよろと立ち上がり、ファイティングポーズを取る。
 互いの実力は今のところ拮抗していた。

 旭――。
 ハイブリッドバグズM2型1体と戦闘中。
「たあっ!」
 ガラティーンの刃がM2型の甲殻に食い込む。
「重装甲? でも、斬れないこともないね」
 傷口から体液が滴る‥‥。M2型はそのまま口部を開いた。
「なにを‥‥まさか‥‥!?」
 慌てて離れようとするが剣が食い込んで抜けない。
 M2型は強酸のブレスを発射。
「ぐあああああっ!!?」
 旭はまともに受けてしまった。
 強酸に肌を焼かれる痛みに耐えつつ、剣を握り締めてM2型を思い切り蹴りつける。
 剣が抜けた。‥‥先ほどのように力任せではなく甲殻の隙間を狙うように突きを繰り出す。剣が腕に突き刺さり、M2型はもだえた。
「‥‥っ。痛いなぁ‥‥」
 旭の全身を覆う装甲は強酸のブレスを受け、腐食。ボロボロになってしまっていた。
 油断は出来ない相手だ‥‥。旭の額から汗が垂れる。

 アンジェリナ、九郎――。
 ハイブリッドバグズM2型3体と戦闘中。
「‥‥っ。やあっ!!」
 刀・蝉時雨でM2型の甲殻に斬撃を加え、斬り裂くアンジェリナ。
 九郎は大立ち回りをするアンジェリナを援護すべく拳銃とSMGで射撃。
 敵の動きを阻害して、敵に同時攻撃をさせないようにする。
「くっ、2対3はキツくねぇか?」
 汗を垂らしながら九郎が言う。
「キツかろうがキツくなかろうが、やるしかない。それにこのくらいならば望むところだ」
 アンジェリナはそう答える。
「やあああああっ!!」
 刃が一閃。M2型1体の腕1本が飛んだ。体液が噴出す。
「奴に止めを刺す。援護を頼む」
「おうさ!」
 突撃していくアンジェリナに援護射撃を行う九郎。
 アンジェリナは腕を切り落としたM2型に再度甲殻の継ぎ目を狙って斬りつける。
 もう1本の腕が宙を待った。今度は刀を構えて突進。M2型の腹部に突き刺す。
 びくびくと痙攣するM2型。最後の抵抗、強酸のブレスが来る。
「――!?」
 咄嗟に刀を引き抜き、後退するアンジェリナ。
「‥‥っ」
 少し喰らってしまった。頬がヒリヒリする。
 再び踏み込むと、両腕を失ったM2型を袈裟斬りにして撃破した。
 もう2体のM2型は九郎が射撃で抑えている。

 錬、蛍――。
 ハイブリッドバグズM2型1体と戦闘中。
「くぅっ‥‥やあっ! はあっ!」
 錬はM2型の打撃を受けつつも、機械剣『莫邪宝剣』を振るって反撃を行う。
 一閃された機械剣がM2型の甲殻を少し焼き焦がした。
 錬が身に纏っているAU−KV・LL−011『アスタロト』の装甲はもうベコベコに凹んでいる。‥‥これ以上のダメージは不味い。この後の先頭に支障が出る‥‥。
「蛍‥‥ごめん。援護をお願い‥‥!」
「了解‥‥!」
 錬としては蛍を前に出したくは無かったのだが、仕方が無い。
 蛍はSMGで射撃し、弾幕を張る。
「いけっ!!」
 その隙に錬が超機械『ラミエル』で電磁波攻撃を行う。
 M2型の口が開いた。――強酸のブレスだ!
 錬は慌てて蛍の前に立ち両手を広げて庇う。ブレスが来る。
 装甲が融解し、内部にもダメージ。
「くぅっ‥‥」
 膝を突く錬。
「錬!?」
 蛍が心配そうに駆け寄ってくる。
「大丈夫‥‥。今はこいつを‥‥!」
「わかった」
 蛍は再びSMGで射撃。
 錬は機械剣を抜き、装輪走行で吶喊。
「はあああああっ!!」
 M2型の腹に機械剣を思い切り突き立てた‥‥。

 ラナ、愁矢――。
 ハイブリッドバグズM2型1体と戦闘中。
 ラナはSMGで射撃しつつ爪・イオフィエルで斬撃を加える。
 愁矢は打撃を盾で受ける。ずしんと重い衝撃。
 若干後退させられつつも、イアリスで斬りつける。甲殻が少し傷ついた。
 M2型の攻撃。連続の打撃がラナを襲う。頬に拳をもらい、ラナは血を吐いて後退した。
「くふぅ‥‥別々に攻撃しても埒が明きません。同時攻撃を」
「了解です」
 ラナが言い、愁矢が答えた。
 まずラナがM2型の腹を狙ってSMGで射撃。続いて愁矢がイアリスで突きを繰り出す。
 甲殻にわずかな亀裂が走った。そこへ今度はラナが爪で突き刺す。体液が散った。
 ラナが離れると、SMGに持ち替えた愁矢が、ラナが傷つけた部分へ集中射撃。
 甲殻が割れる。ラナもSMGで射撃。M2型がよろめく。
 愁矢が再びイアリスにも誓え、ラナは爪を構える。
 ――2人は息を合わせると、同時に傷口へ近接攻撃を繰り出した。
 腹に大きな傷をつけられ、M2型1体は体液を噴出して倒れた。

 傭兵達は苦戦しつつも、ほどなく、ハイブリッドバグズM2型10体を撃破。
 傷の手当てを含めた小休止の後、更に奥へ向う。

●VSハイブリッドバグズG型+F型
 キメラプラント乙10号の最深部、培養施設へ到達した傭兵達――。
 辺りにはごうんごうんと稼動中の機材が置かれており、青白く発光する培養カプセルが大量に並べられている。
 天井はすごく高い。傭兵達が周りの様子を調べていると――
 背中にカゲロウのような羽根が生えたハイブリッドバグズF型4体が出現。
 そして――蛾と、人間の女性を混ぜ合わせたような、不気味な美しさを持つ人型キメラが姿を現した。顔の上半分は虫のものとなっており、目は複眼。
 背中には大きな蛾の羽根。そしてその中心にはギョロリと巨大な目玉が付いている‥‥。
「こいつが‥‥うぐっ」
 その美しくも気味の悪い容姿に生理的嫌悪を感じ、吐き気を催す錬。
 身構える傭兵達だったが、ハイブリッドバグズは何故か攻撃をしてこない。
 すると――その後ろから白衣を着た初老の男性が現れる。
「‥‥あ、あなたは、何者?」
 子虎が問う。ここはプラントの最深部。敵なのは間違いなかったが‥‥。
「ごきげんよう、傭兵の諸君。私はプロフェッサー・芳賀。芳賀教授と呼ばれている。どうだったかね? 私の虫達は」
 芳賀教授は楽しそうに尋ねてきた。
「とんでもなく厄介だったわよ。よくもあんなものを量産して‥‥」
 アスカが怒りの篭った口調で言った。
「そうか。それは良かった。素材が優秀だったのかな?」
「素材‥‥とはなんだ」
 今度はティリアが問う。
「聞かなくても見当は付いているだろう。ハイブリッドバグズの材料は人間だよ」
「‥‥っ。貴様‥‥っ!!」
「ティリアさん!!」
 ティリアは思わず踏み出そうとするが、ノエルに止められた。
 相手は恐らく一連の事件の首謀者――どれほどの力を持っているのか分からないうちに飛び出すのは危険すぎる。
「さて、長話もなんだ、相手をしてやりなさい、私の虫達」
 芳賀教授が言うと――ハイブリッドバグズ達が襲い掛かってきた!

 蛾と人間の女性を混ぜ合わせたようなキメラ――ハイブリッドバグズG型。
 それは両手から波動を放ち、ティリア、一千風、アスカに攻撃を行う。
 そして両の羽根の目玉から熱線を放射。とてつもない熱量が解き放たれ、二直線の破壊がもたらされた。直線上にあった機材やら培養カプセルやらは融解している。幸い傭兵には攻撃は及ばなかったが。
「‥‥そんな‥‥まさか‥‥!?」
「この新手の動き。もしかして‥‥」
「アレは‥‥まさか‥‥!」
 驚きの表情を浮かべるティリア、一千風、アスカ。
「くくく。どうだ?」
 愉快そうに、邪悪な笑みを浮かべる芳賀教授。
「なかなかだろう、完全体となった私の娘は。存分に恨みを晴らしなさい、鞠子」
 その声と共に、ハイブリッドバグズG型が再び襲い掛かってきた。
「‥‥どこまで、弄ぶんだ。これが娘に対する愛故の行為だというのなら‥‥僕はその歪んだ創造を、この身の光輝で薙ぎ払うッ!」
 ノエルが叫び、光る拳でG型に打撃を与えてゆく。
「‥‥‥‥死体を弄ぶなんて結構な趣味ね。反吐が出るわ」
 芳賀教授をギロリと睨みつけるアスカ。
「鞠子‥‥化けて出てくるなんていい度胸じゃない。地獄に送り返してあげるわ!」
 G型に対して蹴り技を繰り出す。
「強化人間の最後はいつもこんなだっ。‥‥結局まともな死すら与えられない。なら、私が終わらせる」
 一千風は『尊い思い出』の花言葉を持つエーデルワイスの名を冠した爪を振るう。

 F型1体と戦闘を行う子虎、旭――。
「こんなことって! こんな悲しい、酷いことを平気でするなんて! 自分の娘なのに!」
 子虎は叫びながら武器を天剣『ウラノス』に持ち替える。
 【豪破斬撃】と【流し斬り】を使用して、F型に斬撃を加える。
 旭はF型の波動を盾で防御する。防ぎきれず生命力が削られるが、ぐっと堪える。
(何で人を傷つけるものを生み出すためにこんなに熱心になれるんだ。そんなくだらない研究の成果物、まとめて叩き斬ってやる)
 その想いと共に、剣を振るって斬撃を繰り出す。

 F型1体と戦闘を行うアンジェリナ、九郎――。
 アンジェリナは熱線を警戒しつつ、羽根を狙って刀で斬りつける。
 身をそらして甲殻で防ぐF型。九郎の銃撃。赤い壁が発生。威力が減衰。
「こいつはまたキツイな‥‥」
「私は前回こいつとタイマンだった。それよりは遥にマシだ」
 アンジェリナは九郎の言葉に答えつつ両手で柄を握り、刀を振るう。
「そりゃ違いねぇ‥‥」
 九郎は頭を下げつつ銃撃を行う。そのとき、F型の両手を前に突き出すモーション。
「――っ。来るぞ。避けろ!」
「!?」
 熱線の放射。2人は回避運動。しかし完全には避けられない。
 アンジェリナは鎧の一部が融解。九郎は腕が赤く焼け爛れている‥‥。
「くぅっ。くそっ‥‥」

 F型1体と戦闘を行う錬、蛍――。
「蛍は絶対近づかないで! 援護射撃だけお願い!」
「わかった。けど、死なないでよ‥‥」
「たぶんね‥‥!」
 ギリギリで熱線を避ける錬。だが肩の装甲が持っていかれた。
 錬は波動による攻撃で大ダメージを受けつつも肉薄し、機械剣で何度も斬りつける。
 蛍の側面からの援護射撃も有効に働いている。
 更に接近する錬。貫通弾を込めた小銃『バロック』に持ち替え、ゼロ距離射撃。
「やあぁぁっ!! 喰らえぇぇっ!!」
 F型の体が揺らぐ。

 F型1体と戦闘を行うラナ、愁矢――。
 愁矢が剣で斬撃を見舞う。愁矢に気を取られているところで、ラナが背後へ回り込み、羽根部分を狙って【急所突き】を使用、爪で攻撃。
 F型はラナを振り払うように肘打ちをしてきた。
「こいつ――格闘も?」
 愁矢は波動の攻撃を受け続けたためにダメージが大きい。
「ラナさん‥‥腕を‥‥狙いましょう‥‥。熱線は手が無ければ出せないはず‥‥」
「‥‥わかりました。先に行きます!」
 愁矢の提案にラナが頷き、SMGでF型の腕を狙って射撃しつつ接近。爪で突きを繰り出す。続いて愁矢の攻撃。斬撃がF型の腕に食い込んだ。もう一押し‥‥!
 ラナは爪でその部分を切り裂く。さすがに限界に達したのか、F型の右腕がぼたりと落ちた。しかし――F型は左手を2人へ向けて突き出す。熱線が来た。
「ぐううう‥‥」
「があああ‥‥片手でも‥‥熱線を出せるのか‥‥」
 しかし、威力は低下したようだった。愁矢の判断は間違っていない。

 G型と交戦中のノエル、ティリア、一千風、アスカ。
 それなりにダメージを負っている様子のG型だったが――
 急に羽根を大きく広げ、羽ばたかせた。鱗粉が舞い、黒と金の粒子が室内を満たす。
「なんだ‥‥?」
「手足が‥‥いや‥‥身体が‥‥」
「動かない‥‥!?」
 ノエル、ティリア、子虎は身体を痙攣させ、床に倒れ込む。
「これは‥‥」
「身体が‥‥石に‥‥?!」
「きゃあああ」
 一千風、アンジェリナ、アスカは身体が石化してしまい、彫像のようになる。
「うっ‥‥」
「眩暈が‥‥」
「立って‥‥いられない‥‥」
「なんですか‥‥これは‥‥」
「視界が揺れるっ‥‥」
 旭、九郎、錬、ラナ、愁矢は朦朧のバッドステータスを負ってしまう。
 ――唯一無事だったのは離れていた蛍のみ。
「みんな‥‥! みんなぁ‥‥!!」
 蛍は懸命に叫ぶ。目に映るのは動かない仲間と、石化した仲間と、倒れこむ仲間。
「くぅっ‥‥」
 一体どうすれば‥‥蛍は泣きながら頭を抱える。
 ふと――思い当たる。自分は、なんのためにハーモナーへとクラスチェンジしたのか。
 このような場合に、仲間を救うためではないのか?!
 蛍は涙を拭い、懸命に【ひまわりの唄】を歌った。
 その澄んだ温かな歌声により、全員がバッドステータスから回復。
「蛍‥‥ありがとう」
 錬は手を蛍の頭に乗せる。
「これくらいしか‥‥できないから‥‥」

 全員はG型のほうを向く。F型は既に撃破していた。残るは、こいつのみ!
 G型の羽根の目玉が動く熱線の放射。一同散開。避けきれずにダメージを受けるが、再度鱗粉散布攻撃を喰らえば勝ち目は無い。この攻撃に、全てをかける。

「いくよ、ノエルン」
「ああ」
 ノエルは頷くと、跳躍。【急所突き】と【鋭刃】を使用。光輝を纏った拳を叩き込む。
 続いて子虎。【豪破斬撃】と【流し斬り】を使用しての斬撃。
「こんな実験はもう‥‥!」
 旭は【迅雷】で接近。斬撃を放つ。
「強化人間よ‥‥眠れ」
 アンジェリナは【剣劇】と【流し斬り】を併用。連続斬りを繰り出す。
 両方の羽根が斬り落とされ、G型が墜落した。
「とんでもねぇ怪物にされちまったみてぇだな‥‥情けをかける義理はねぇが‥‥もう終わりにしようぜ」
 九郎は狙いを定め、拳銃とSMGで撃ちまくる。
「守り切って見せるからね、蛍」
 超機械で電磁波攻撃を行う錬。
「わかってる、錬‥‥!」
 SMGで弾幕を張る蛍。
「これで‥‥本当に最後だ‥‥!!」
 二刀小太刀で渾身の斬撃を繰り出すティリア。
 ラナは【瞬天速】で接近。【急所突き】と【瞬即撃】使用してG型の身体の中心部に攻撃。
「利用されたあげく‥‥ですか。同情はしますよ」
 アーミーナイフを投擲して【瞬天速】で離脱。
(俺はよく知らないけど‥‥普通に人間として生きていれば綺麗な人だったんだろうな‥‥)
 SMGで射撃する愁矢。
「さよなら、芳賀・鞠子」
 一千風は【真燕貫突】を使用。爪での連続攻撃を繰り出す。
「今楽にしてあげるわ‥‥! 鞠子‥‥!!」
 続いてアスカ。【真燕貫突】使用。一撃目は打ち上げるような蹴り。二撃目は渾身の踵落とし。
 G型は勢いよく床に叩きつけられ、完全に機能を停止した‥‥。

 傭兵達は激戦の末、ハイブリッドバグズG型を撃破。
 そのときには――芳賀教授は姿を消していた。

「これで掃討完了かな? 後はプラントを破壊して脱出だね」
 子虎が言う。
 傭兵達は小休止の後、培養施設を完全に、徹底的に破壊した。
 別行動を取っていた相川小隊も動力炉の破壊に成功。作戦は無事、完了となった。