●オープニング本文
前回のリプレイを見る 相川小隊駐屯基地――。
小隊の分隊長4名と、第4分隊所属衛生官の牧原・蝶子曹長が会議室に集まり、
バグアへの対策会議が開かれようとしていた。
「全員揃いましたね。では‥‥会議を始めます」
まず口を開いたのは相川小隊の隊長、そして第1分隊長を兼ねる相川・俊一少尉。
「前回の敗北は大変手痛いものでした‥‥」
「死者が出なかったのが不幸中の幸いですね‥‥くそ!」
第2分隊長、深森・達矢兵長が拳を握り締め、テーブルを叩く。
「たっちゃん、落ち着いて。‥‥皆、酷い怪我だったけど、もう大丈夫だから。
戦線復帰出来るから。今回の作戦には参加出来るから」
蝶子は両手で隣に座る‥‥恋人である達矢の硬い拳を包み込む。
仲間想いの達矢は‥‥仲間が傷つくのが何よりもつらい。
そのことを蝶子はよく理解していた。
「蝶子‥‥ごめん。ありがとう」
「うん」
硬く握られた拳が解かれ、達矢は蝶子の手を優しく握り返す。
蝶子は頷き、にこりと微笑んだ。
「死者が出なかったのは早期に撤退を決めた隊長の判断のおかげですね」
「あのままでは確実にやられておったわい」
第4分隊長、米谷・里美少尉と、第3分隊長、竹中・宗司軍曹が言う。
「‥‥我々は、傭兵に頼り過ぎていました。
彼らが悪いわけでも、彼らを責めるわけでもありません。
むしろ傭兵に頼り切りだった私に責任があると言えます」
「そんな、隊長は‥‥いつも俺たちのことを‥‥!」
達矢が庇おうとするが、それは遮られた。
「いえ、達矢くん。事実ですから。
‥‥今はキメラプラントを攻略するのが先決。
そしてその、最大の障害となっているのは、敵幹部3名」
テーブルの上に3枚の写真が置かれる。前回の作戦時に隊員が撮影したものだ。
蟲の部位を持った異形の人型‥‥改造強化人間。
「これらの敵幹部対応を傭兵にお願いすることには変わりありませんが、
我々も敵幹部と戦闘を行うことを想定しておかなければなりません。
それゆえに、この対策会議というわけです。‥‥では、里美さん、お願いします」
「はい、隊長」
俊一少尉に促され、第4分隊――医療・情報解析担当――を束ねる里美少尉が説明を始める。
「まずは舞と呼ばれる改造強化人間。飛行タイプですね。
攻撃手段は連射可能な光弾、そして強力な熱線が確認されています。格闘能力は不明です。
遠距離攻撃が主体と判断して良いでしょう。対応策は‥‥接近することが困難である以上、
こちらも相応の重火器を以って集中攻撃を行う他ありません」
里美少尉は2枚目の写真をポインターで指す。
「次に玄と呼ばれる改造強化人間。近接格闘タイプ。
しかしながら‥‥鋏による攻撃はかなりのリーチがあります。
更に2つの刀からは、能力者で言えばソニックブームのようなものを放ってきます。
中距離にも十分対応可能と判断します。
対応策は‥‥この敵の皮膚はかなりの硬度を持つらしく、生半可な銃撃では効果が確認出来ません。
複数で接近し、強力な近接攻撃を加えるのが一番と思われます。
敵が近接戦を得意とするため‥‥かなりの危険を伴いますが‥‥」
里美少尉は3枚目の写真をポインターで指す。
「そして‥‥この翔と呼ばれる改造強化人間。高機動タイプ。
その高い機動力で引き撃ち‥‥後退しながらの射撃を主体とし、
複数の火器を自在に操り、高い格闘能力を持つ‥‥。
その外見と言動から油断しがちですが、高い判断力を持っていると思われ、
敵幹部の中でもリーダー格と目されます。最も脅威度が高いと言えるでしょう。
対応策は‥‥あの広い最深部で戦うとなると‥‥現在のところありません。
申し訳ありません、隊長」
里美少尉は俊一少尉に向かって頭を下げる。
「いえ、謝る必要はありません。要するに里美さんはこの改造強化人間の翔を‥‥
どうにかして狭い空間に誘き寄せる必要があるというわけですね」
「はい‥‥。機動力を削がなければ恐らく我々に勝ち目は無いでしょう‥‥。
傭兵ならばわかりませんが‥‥前回の結果を見るに‥‥。
翔は舞のことを『姉』と呼んでいるそうですが、そこを利用出来れば‥‥」
里美少尉はそこまで言って、赤いフレームのメガネに中指を当てて口をつぐんだ。
情を利用するというのは、相手が敵でも躊躇してしまう‥‥。
しかし、そこを利用せざるを得ないほどに敵は強力なのだ‥‥。
「わかりました。ありがとうございます、里美さん」
少しだけ笑みを浮かべ、里美少尉の顔をじっと見つめる俊一少尉。
里美少尉は俯き、ぽっと頬を染めた。
俊一少尉はそのしぐさに気づかすに、改めてこの場に居る全員を見回す。
「以上が我々に出来うる最善の策です。
ハイブリッドバグズや甲虫型キメラはこれまでの戦法で構わないと判断します。
今度こそ、キメラプラント乙3号を落としましょう」
「了解!!」
達矢、蝶子、宗司軍曹、里美少尉は力強く声を揃えた。
●リプレイ本文
●第2次キメラプラント乙3号攻略作戦
相川小隊駐屯基地。ブリーフィングルーム――。
依頼を受け、集まった12名の傭兵達と相川小隊総員32名が出撃準備を整えていた。
「前回は完全にやられちゃったし、今回はリベンジ出来るといいんだけどな‥‥」
ショートカットの茶色の髪にぱっちりとした大きな黒曜石のような瞳、
愛らしい容姿をしたセーラー服姿の男の子‥‥男の娘の神崎・子虎(
ga0513)。
しかし――今回ばかりは、厳しい表情をしていた。
前回の作戦、第1次キメラプラント乙3号攻略作戦は失敗‥‥。
参加した傭兵達は全員負傷し、相川小隊も含め、撤退を余儀なくされた。
「今回は今まで以上にしっかりとしないと。相川小隊の人達もよろしく」
きゅっと口元を引き締め、真剣な表情をし、子虎は相川小隊の面々に挨拶する。
(前回作戦の失敗は悔しい‥‥。自分の不甲斐なさに腹が立つ‥‥)
長身で豊満な体型の、赤髪の美人‥‥遠石 一千風(
ga3970)は、
心の中でそのように強く思いつつも、それらは内に秘めていつも通り冷静に振る舞う。
「達矢くん達は‥‥思ったより落ち着いているようね」
深森・達矢のほうを向き、呟く。彼の隣には牧原・蝶子の姿がある。
一千風の声と視線に気づき、達矢は一千風のほうへ歩み寄り、口を開いた。
「ああ、敵幹部‥‥奴ら改造強化人間のおかげで仲間は皆傷を負った‥‥。
だけど、焦ったって状況が好転するどころか返って悪化するだけだってのは分かってる」
「うん。気を急いても勝てる相手じゃない。それに‥‥私も悔しいんだ」
一千風と達矢‥‥いや、ここにいる傭兵と相川小隊のメンバーのほとんどが同じ気持ちだろう。
「キメラプラント‥‥今度は自分が突入する番ですか‥‥」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)は端末を開き、
キメラプラント乙3号の内部構造が記されたデータに目を通しつつ、振り返る。
彼は過去‥‥現在の相川小隊第3分隊長、竹中・宗司からの依頼で、
強化人間、芳賀・鞠子に囚われた牧原・蝶子の救出作戦に携わったことがあった。
もっともその時はKVに搭乗しての戦闘、陽動作戦であり、
今回のようにプラントに突入しての直接的な攻略作戦ではなかったが。
生身での戦闘‥‥。さて、どこまでやれるかな? と宗太郎は思う。
「‥‥‥‥」
床に正座し、目を閉じ――
作戦前の精神集中を行っているアンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)。
キメラプラントの攻略作戦前は恒例となっているこの光景だが――
今回は違う。彼女の周りの空気がピリピリと張り詰めている。
やはり前回の失敗が胸に内に響いているのだろう。
‥‥凛とし、美麗であり、武人としての風格を持つアンジェリナ。
いつもならば相川小隊の少年少女が見物に集まるのだが、
その空気に気圧されたのか、今回は皆、各々の準備に集中している‥‥。
「さて‥‥こういう時こそ落ち着いて、慎重にいかねぇとな」
砕牙 九郎(
ga7366)。こちらはいつものように、
数々の戦場を共に潜り抜けた愛銃をきゅっきゅと磨いている。
‥‥前回は敵幹部3名に大敗を喫した。彼自身も負傷した。今回失敗することは許されない。
しかし‥‥焦っても仕方がない。九郎は『いつも通り』を心がけた。
艶やかな長い黒髪をさらりと揺らし、遠倉 雨音(
gb0338)は薄い唇を動かす。
「前回の攻略作戦では敵の激しい抵抗に遭い、かなりの被害が出たと聞きました。
改造強化人間の3人とは私も交戦したことがありますが、
本気で戦っていなかったあの時でも脅威だったのに、それが本気になったとすれば‥‥。
‥‥とにかく、何とかして攻略の糸口を掴みたいですね」
改造強化人間の、本当の力――それと真っ向からぶつかった結果は‥‥傭兵全員が負傷。
敵の戦闘能力は紛れもなく本物。力押しだけではどうにもならない‥‥。
事前に入念な作戦の相談を行い、先程のブリーフィングで相川小隊にも内容を伝えたが、
それが通用するかどうかは実際にやってみなければ分からない。
柿原 錬(
gb1931)は腹の中でふつふつと怒りを煮えたぎらせていた。
(よくも姉さんを‥‥)
前回の作戦で改造強化人間の舞と交戦した姉夫婦は両名ともに負傷。大怪我を負ってしまった。
姉想いの錬‥‥今回彼ははその仕返しをすべく、参戦した次第。
‥‥メインウェポンであるエネルギーガンを、きつく握り締める。
「‥‥‥‥」
ヨグ=ニグラス(
gb1949)は作戦前のカロリー補給と称して大量のプリンを黙々と食している。
普段は元気で天真爛漫な少年である彼だが‥‥やはり前回の敗北は悔しかったようだ。
(‥‥前回の戦いは、完膚なきまでに叩きのめされてしまいました。
ボク自身もあっさりやられてしまって‥‥
それに、ノエルさんに無用の悲しみを背負わせてしまって‥‥
自分自身の不甲斐なさが情けない‥‥!)
心の中で決意を固めるティリア=シルフィード(
gb4903)。
自分が敵の力量を図れずに、敵の凶弾に倒れてしまったことで、
大好きな人に多大な心配をかけてしまった‥‥。すごく‥‥心苦しい‥‥。
彼にはもうそんな思いはさせたくない。
「今回は、失敗は許されません。前回の借り‥‥必ず返してみせる!」
「‥‥大丈夫。前回のようにはならないから。そんなことにはさせないから。
絶対に壊せない壁なんて、無いんだ」
ティリアの力強い言葉を受け止めつつ、ノエル・アレノア(
ga0237)が言った。
ノエルは恋人の手を優しく握る。
確かに感じる温もり‥‥。ノエルはこれを無くすまいと、固く心に誓う。
「‥‥ノエルさん‥‥」
ノエルの顔を見つめるティリア。
その視線を感じ、ノエルは微笑んでみせる。
「やってやりましょう。教えてやりましょう。
あんな奴らなんかに、僕らの想いを打ち砕くことなど出来ないということを」
ティリアはそれを聞き、ゆっくりと頷いた。
(イイ加減ウチの地元‥‥九州も平穏にしてやりてェんだがな‥‥。
まァいい、いくら来ようが何度でもぶっ壊すだけよ)
天原大地(
gb5927)は愛刀と愛銃の手入れをしつつ、そのように考える。
九州バグア軍の最大拠点である春日基地が陥落したことで、
九州地方におけるバグアの活動は沈静化しつつあるが‥‥
蟲型キメラ事件の首謀者、芳賀教授のように地下に篭り、
未だにUPC軍に対し、抵抗を続けるバグアもまた、存在する。
「失敗出来ない? 元々する気も無いんでね」
今回の作戦が『失敗出来ないもの』と聞いた那月 ケイ(
gc4469)の返答は、それだった。
飄々とした態度の彼。キメラプラント攻略に参加するのは初めてだが‥‥
その態度とは裏腹に、彼なりに敵の戦力や戦術を分析しているようである。
だが――若干楽観視している感があることは否めない。
ほどなく出撃時刻となり、全員が装備を整え、基地を出発した。
***
キメラプラント乙3号付近に到着。傭兵部隊と相川小隊は装甲兵員輸送車から降車。
「今回も入り口周辺に敵影は無し‥‥ですか」
ノエルは顎に手を当てる。
「内部の敵戦力がどの程度回復しているかが問題ですね‥‥。
培養施設の修復具合も‥‥」
ティリアも思案の表情を浮かべる。
「そうね‥‥甲虫型キメラも厄介だけど、それよりも厄介なハイブリッドバグズ‥‥。
これがどの程度の数、再生産されているか‥‥」
一千風は既に警戒態勢。
前回多数のキメラを撃破したが‥‥あれから時間が経っている。
こちらが回復したように、敵も戦力を回復させているはずだ。
「とにかく、前回と同じ轍を踏むのだけは避けないといけない」
言ったのは子虎。覚醒し、髪が銀に、瞳が赤に変わり、真面目‥‥本気モードだ。
「その通り。敵がいくら戦力を回復させていようが、撃破し、進むだけだ」
腰に刀を差したアンジェリナが首肯する。
「最優先目標は動力炉の破壊‥‥最低でもこれだけでは達成しないといけませんね‥‥」
雨音が言う。前回はハイブリッドバグズと敵幹部3名の激しい抵抗を受け、
動力炉の破壊に失敗している‥‥。だが‥‥動力炉さえ破壊すれば、キメラプラントはその機能を失う。
「情報にあった玄って改造強化人間‥‥二刀流、か。一戦本気でやってみてぇとこだが‥‥」
覚醒し、風貌と性格が一変した宗太郎がそんなことを口にする。
(‥‥ま、次の機会だなそんなのより、貫かなきゃならねぇもんがある)
(必ず改造強化人間に‥‥一矢報いてみせる)
AU−KV・LL−011『アスタロト』を装着した錬。気合を入れる。
「‥‥戻って来ました」
キメラプラント乙3号の入り口に目をやり、
AU−KV・PR893『パイドロス』を装着したヨグがぽつりと言う。
(まさかこの僕が。こうまでメラメラフツフツになろうとはっ。
今度は勝って本部で偉い顔をするのですっ)
少年の心はメラメラとリベンジの炎に燃えているようである。
「頼んだぜ、相棒」
ヨグに対し、九郎が言葉をかけた。ヨグの背中をバン!
と叩くが、AU−KVを装着しているので硬い。痛い。
「大丈夫です?」
「ははは‥‥。ともかく気張らねぇとな」
苦笑いをする九郎。
動力炉の破壊は‥‥自分とヨグの担当だ。
今回の作戦目標上、最重要と言って良い役割である。
「バッタ野郎に、蝶々のゴス女に、ハサミムシの筋肉ダルマ‥‥進路上に出て来る可能性もあるんだよな‥‥」
「その場合はその都度、こちらの全戦力を持って各個撃破していけば良いだけです」
大地の言葉にケイが答えた。
「だがなぁ‥‥」
大地はこめかみに指を当て考えをめぐらせてみる。
進路上に敵幹部が出たら出たで、相当に厄介な気もする。
今回の最優先目標はプラントの最深部に存在する動力炉の破壊だ。
特に玄の硬さは半端ではない。狭い通路で待ち伏せされでもしたら――
(‥‥まぁ、全力でぶつかるだけだ)
と、そこで思考を打ち切る大地。
作戦の手順の最終確認をしたのち、
傭兵部隊と相川小隊はキメラプラント乙3号へ突入を開始した‥‥。
●リベンジ
プラント内部に突入後、分かれ道に出た。
前回の作戦と同様に相川小隊は右の通路へ進み、傭兵部隊は直進する。
点在する甲虫型キメラを撃破しつつ、一気に通路を駆け抜け、1つ目のドーム空間に到達。
そこには――大量のブリットビートルとレイビートルが犇めいていた‥‥。
「これほどの数を‥‥」
「やはり、培養施設は修復されているようですね」
ノエルは機械剣βを構え、ティリアは二刀小太刀『永劫回帰』を両手に構える。
傭兵達を確認すると、ブリットビートルとレイビートルは無数の砲弾と光線を放ってきた。
「新しい力でどこまでやれるか‥‥行くよ!」
ファイターからダークファイターにクラスチェンジした子虎。前へ出る。
両手にしっかりと握り締めた天剣『ウラノス』を振り被り、甲虫型キメラの甲殻に叩き付ける。
「雑魚に構っている暇は‥‥!」
「ここまで戦力を回復させているとはな‥‥。――だが!」
一千風は刀・神斬、アンジェリナは刀・蝉時雨で、
甲虫型キメラの主兵装の砲身となっている角を切り落としてゆく。
こうすれば攻撃能力を奪ったに等しい。残る敵の攻撃手段は体当たりくらいだ。
「‥‥っ!」
角を失ってもなお突進して来る甲虫型キメラ。
そういった敵は、刀を打ち付け頭部を破壊して完全に無力化する。
「くそっ、この弾幕‥‥うざいったらありゃしねぇ」
個々の威力はそれほどでもないが、受け続ければ確実に生命力を削られてしまう。
草々に排除しなければ危ない。ハイブリッドバグズすらまだ姿を見せていないというのに‥‥
こんなところで足止めされるわけには‥‥!
宗太郎は小銃『シエルクライン』の引き金を引き、射撃しつつ、
接近して来る敵には片手を覆うガントレット・プレッツェルでの打撃を加える。
「俺達は支援優先だな。基本は大事、っと」
「ええ。敵は砲撃主体ですから‥‥」
SMG『ターミネーター』で弾幕を張りつつ、合間にアラスカ454で射撃し、
確実に甲虫型キメラを仕留めていく九郎。
そして拳銃『スキンファクシ』によるピンポイントの精密射撃で、
1体1体、甲虫型キメラを確実に処理してゆく雨音。
「生体機関砲もプロトン砲も、貰ってやらない‥‥!」
錬は集中攻撃を受けぬように位置取りをしつつ、知覚銃で射撃を行う。
回避優先‥‥しかし、それでも敵の弾幕は濃密で‥‥AU−KVの装甲がじりじりと削られる‥‥。
「今日は絶対ぶっ壊すんだっ」
ヨグはエネルギーキャノンMk−IIを構え、砲撃。
光条が奔り、甲虫型キメラの甲殻をぶち抜いた。
(待ってるです動力炉ッ!!)
その後も確実に1体ずつ潰していく。
こんなところは早く突破して、動力炉を破壊しなければ‥‥!
「‥‥っ」
甲虫型キメラの砲撃を鎧で受け止めつつ、大地は接近し、
敵の関節を狙って刀・血桜の斬撃を見舞う。
傷口から体液を吹き出して1体が沈黙。‥‥だが、敵の弾幕は衰えない。
砲撃を受け、じりじりと生命力を削られてゆく。
「くっ‥‥。はあああっ!」
大地は次の目標へ接近し、斬撃を放つ。
「多いなぁ‥‥奥にはもっと、いるんだろうな」
プロテクトシールドで敵の攻撃を防ぎつつ、隙を見て小銃S−01で射撃するケイ。
「自分の火力が低いのは承知の上」
仲間を狙っている甲虫型キメラを重点的に狙って射撃し、注意をこちらに向けさせる。
彼は敵の牽制や仲間の支援に重点を置いていた。
‥‥しばらくして、甲虫型キメラの殲滅を完了。
修復されたキメラの培養施設を完全に、今度は修復不可能なまでに破壊。
そののちに傷の手当てを行い、傭兵達は先を急いだ。
***
傭兵達は通路を進み、大型ドーム空間に到達――。
そこに待ち構えていたのは‥‥M3型が12体。
「M3型がこんなに‥‥こちらと同数だなんて‥‥」
(でも――ここで立ち止まってなんかいられない!)
真っ先に飛び出したのはノエル。
M3型は非常に素早い――【瞬天速】を用いた高機動戦闘を開始。
その動きに合わせて12体のM3型は散開。傭兵達に襲い掛かった。
「やあっ!!」
純白の爪・エーデルワイスを装備した拳を繰り出すノエル。
同時にM3型も拳を繰り出す。‥‥拳と拳が、激しくぶつかり合った。
「ノエルンが動いた‥‥僕も‥‥! と、言いたいところだけど‥‥」
あの動き‥‥素早さには付いて行けない。
ならば‥‥やることは1つ。子虎は大剣を構える。
ジグザグに高速で移動し、接近して来るM3型。その拳が子虎に迫った――。
「――そこだ!!」
相手の攻撃とほぼ同時に、大剣を振り下ろす。それは命中し、敵の甲殻に傷を付けた。
「ふぅ‥‥はぁ‥‥」
受けた傷は【活性化】を使用し、回復する。
「また新型か‥‥。でもこれくらいで止まるわけには‥‥」
一千風は【疾風脚】と【瞬天速】を使用し、ノエルと同じように高機動戦闘を行う。
高速で移動しながらの、刀と刃による鍔迫り合い。
一千風のほうがリーチで勝っているが――
「‥‥っ」
微量の鮮血が舞う。M3型は手数で押して来る。
やはりHB‥‥簡単には勝たせてくれない。
「ちっ‥‥こいつ‥‥!」
宗太郎はM3型に対し口部、脚部、羽根を撃ち抜くべく銃撃を行うが‥‥
全く捉えることが出来ずにいた。
「速ぇんだよ!」
銃弾は虚しく空を切るのみ。照準が追い付かない‥‥! そして――
「‥‥っ!!」
M3型がすぐ横を通り過ぎたかと思うと――血飛沫が上がった。
「‥‥っ?!」
自分の血だった。遅れて激痛が襲って来る。
ハイブリッドバグズM3型は全身から刃が生えている。
加えてこの高速性。機動力。移動そのものが『斬撃』となるのだ。
掠めただけでもこのダメージ。数が多い‥‥量産型だからと言って油断していると極めて危険。
「‥‥‥‥ならよぉッ!!」
宗太郎は武器をランス『エクスプロード』に持ち替えた。――M3型が突進して来る。
先程見た子虎のように‥‥敵が攻撃して来る瞬間ならば‥‥。
M3型と激突するかと思われた瞬間、宗太郎は突撃槍を思い切り突き出した。爆発。
(S3型やB3型の姿が見えない‥‥)
刀を構えつつ、アンジェリナは考える。
M3型の、すれ違いざまの斬撃。刀の角度を変えて受け流す。
(‥‥M3型ばかり12体。生産性‥‥数を優先したか‥‥?)
再び敵の攻撃。それと同時に刀を振るう。多少のダメージは覚悟の上だった。
「速い奴には弾幕ってね」
九郎はSMGを乱射してM3型の動きを阻害。
スピードが鈍ったところへ拳銃の強力な銃弾を撃ち込む。
「喰らえ!!」
命中。敵の甲殻がひび割れる。
「‥‥っ」
純粋な射撃型である雨音は‥‥苦戦を強いられていた。
精密射撃‥‥凄まじいスピードを誇る敵にも当てることは出来るが‥‥
ほとんどの銃弾は掠めるのみ。
既に彼女は、身体のあちこちに傷を貰っていた。
(でも‥‥負けるわけには‥‥!)
瞳の前に浮かぶガンレティクルに神経を集中する雨音。
少しずつでも‥‥ダメージを与えることが出来れば‥‥。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
息を荒げている錬。彼も苦戦を強いられていた。
HBと一対一の戦闘である。仕方がない。
「‥‥!」
敵が迫る瞬間、知覚銃を構え、連射。命中。敵の攻撃もこちらに命中。
AU−KVの装甲ごと切り裂かれ、赤い液体が散る。
苦戦しているのはヨグも同じだった。
仲間と連携しての戦闘ならともかく、知覚砲がメインウェポンの彼は‥‥
素早い敵とは相性が悪い。だが、だからと言って退くわけにはいかなかった。
「負けませんっ。動力炉を壊すまではっ」
敵の攻撃が来る。拳が鳩尾に入る。装甲越しでもかなりのダメージ。
「‥‥!」
拳を受けたまま、知覚砲の砲口を敵に押し付けるヨグ。
そして――トリガーを引いた。
(ノエルさん‥‥皆も頑張ってる‥‥ボクだって‥‥!)
【疾風】と【迅雷】を用いて高速戦闘を行っているティリア。
二刀小太刀を敵の刃と刃の隙間に捻じ込み、突き刺す。
大地はSMGによる射撃を主体にして戦っていた。
弾幕が敵の甲殻を削る‥‥が、致命傷には至らない。
後には敵幹部との戦闘が控えている。生命力や練力は温存しておきたい‥‥。
しかし敵の移動による斬撃によって生命力は削られていた。
「仕方ねぇ‥‥」
大地は刀を抜く。突っ込んで来る敵。刀を一閃――。
血と、体液が飛ぶ。
「‥‥っ。だから嫌なんだよ」
双方にダメージ。大地はM3型の関節部に斬撃を叩き込んでいた。
「これは‥‥持久戦だね‥‥」
ケイもかなり苦戦中。銃で射撃するも、なかなか命中しない。
ガーディアンだけに、ケイの防御力はそれなりであるが‥‥
じわじわと生命力を削られている‥‥。
結局、先にM3型を撃破したアンジェリナがケイに加勢し、敵を撃破。
それから数の優位を得た傭兵達は、なし崩し的に勝利、大型ドーム空間のM3型を全て撃破した。
しかし‥‥受けたダメージは全体的に見てかなり大きい‥‥。
傷の手当てを行い、傭兵達は最深部を目指す――。
●VS改造強化人間・前
傭兵部隊は相川小隊と連絡を取り、タイミングを合わせて同時に最深部へ突入。
その際、ティリアは閃光手榴弾を使用。
前回、敗北し、撤退を余儀なくされたこの場所に、彼らは再び戻ってきた。
ドーム状の広い空間には既に照明が灯っており、敵陣の様子が確認出来る。
‥‥甲虫型キメラ、大量。HB・M3型、多数。そして――
「また来やがったのかァ? なんだァそのなりは。ボロボロじゃねェか、テメェら」
バッタの脚部を持つ、改造強化人間の翔。
「性懲りもなく、またやって来たのね。いけない子達。おしおきが必要ね」
クロアゲハの羽根を持つ、改造強化人間の舞。
「ふん。その意気や良し」
ハサミムシの尾を持つ、改造強化人間の玄。
‥‥敵幹部3名。
翔の言ったように、手当はしたものの、傭兵部隊、相川小隊共にダメージは大きかった。
相川小隊もここへ到達するまでに大量の甲虫型キメラと、多数のM3型と交戦していた。
やはり、培養施設はかなり修復されていたらしい。
傭兵部隊と相川小隊は事前の打ち合わせで決めた作戦通りに、即座に展開する。
動力炉破壊を担当するのは――
「オラオラ、道を開けろっての」
「こっちは任せてっ」
九郎とヨグ。2名は相川小隊と協力し、動力炉の破壊を目指す。
だが動力炉周辺は大量の甲虫型キメラが固めており、射線が取れない。
まずはこれらを排除する必要がある‥‥。
翔の相手を担当するのは――
「これでも多少の距離なら対応出来るんだぞ!」
(しかしこのバッタ野郎‥‥こないだァ人の女に好き勝手やったらしいな。
その借りは返させて貰うぜ?)
(相手は引き撃ちが主体‥‥それを利用出来れば‥‥)
子虎、大地、ケイの3名。
「やあっ!」
子虎が【ソニックブーム】を放つ。翔は後退して回避。
「当たらねェよォ! 喰らえや! オラァ!!」
反撃の軽機関銃による弾幕が飛ぶ。
舞の相手を担当するのは――
「素早く戦闘不能に出来れば他へ回る人の負担も減ります‥‥頑張りましょう」
「そうですね‥‥舞の遠距離攻撃をどうにか出来れば‥‥
爪を装備した拳を構えるノエル。二刀小太刀のクロスさせて構えるティリア。
「いくぜ‥‥ショータイムだ!」
宗太郎はまず、銃撃で牽制を行う。
「姉さんを傷つけた奴‥‥絶対に許さない」
錬も知覚銃で銃撃。
「遠距離攻撃が主体なら‥‥相性は悪くないはず‥‥」
雨音も銃撃。正確な射撃――舞は空中にてひらひらとその名の通りに舞い、回避運動。
「あらあら、血の気の多い人達ねぇ」
そののちに光弾を連射してきた。
今回傭兵達は舞へと戦力を集中させている――。
玄の相手を担当するのは――
「付き合ってもらおう。興味を無くしたとは言わせない」
一千風は刀の切っ先を玄に向ける。
「ようやくお相手願えるか‥‥」
刀を抜くアンジェリナ。
今回はB3型の姿は無い。M3型も相川小隊が抑えてくれている。
(‥‥前回は不覚を取ったが力量は見極められた。
悔しいがその実力は認める。
数人程度の連携では倒せないことも‥‥。
だが同時にそれでも時間を稼ぐことは可能であることも推し量った)
刀の柄を両手で握り、構える。
(今回は『倒すつもりはない』。全力で他の強化人間と分断、足止めをさせて貰う‥‥!)
アンジェリナは一気に踏み込み、玄へ斬り掛かった。
‥‥玄は腰から瞬時に二刀を抜刀。受け止める。硬い金属音が響いた。
「俺の相手はお前達2人か‥‥女2人だからと、侮りはせん。実力は先刻承知。
楽しませてくれよ‥‥!」
2つの鋭い斬撃が一千風とアンジェリナを襲う。
●VS改造強化人間・後
「やあああああっ!!」
「はあああああっ!!」
一千風とアンジェリナは手傷を負いながらも、近距離で玄と全力で刀を打ち合う。
下手に離れても空刃や鋏の攻撃が飛んで来るだけだからだ。
特にアンジェリナの武器は刀一本。前回はそのために、B3型に足止めされてしまった。
しかし――今回はこちらが足止めをするほうである。
2人は交互、または同時に玄へと斬りかかる。
そのことごとくが受け止められてしまうが‥‥
「――っ!!」
一千風は、アンジェリナが正面から仕掛けている隙に【瞬天速】を使用。
玄の背後に回り込み、尾の鋏へ向けて【真燕貫突】を使用しての、連続の斬撃を加える。
だが――傷を付けることには成功したものの、大ダメージとまでは行かず。
反撃の鋏が来る。一千風は避けようとするが脇腹を裂かれてしまった。
「‥‥っ!?」
血が噴き出す。傷を押さえつつ、アンジェリナの元へ戻る。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
「傷は?」
「そこまで深くは無いわ‥‥」
そうは言うものの、一千風の顔色は良くない。少し血を出し過ぎたらしい。
「ならば‥‥!」
アンジェリナが踏み込む。
玄は即座に反応。二刀と鋏による攻撃が来る。
全力で回避を行うアンジェリナ。しかし避け切れず鎧ごと身体を切り裂かれる。
そのまま歯を食いしばり、刀による一撃を尾の鋏へ――打ち込むが、玄は咄嗟に尾を引っ込めた。
刀の先が尾を少し切ったのみ。
「やはり尾を狙うか‥‥」
「ぐっ‥‥」
傷を抑えるアンジェリナと、一千風。
玄の相手をするには、2人では厳しい。しかし、足を止めることは出来ていた。
***
回り込むように動き、銃撃を行う宗太郎。易々と回避する舞。
「そんな甘い狙いじゃ当たらないわよ〜?」
「‥‥そうかな?」
続いて仲間の銃撃が飛ぶ。舞は回避運動。
その隙を突いて宗太郎が【瞬天速】を使用して一気に接近。
武器を突撃槍に持ち替え、跳躍。舞へ向けて突き出す。
舞は両腕をクロスさせて防御。赤い壁が発生。爆発。
「きゃあっ!?」
舞は少なからずダメージを受けた様子。
「‥‥力押しで、どうにかなっちまうかもな?」
インパクト後、着地し、にやりと笑みを浮かべる宗太郎。
「その言葉‥‥聞き捨てならないわねぇ!!」
怒りの表情を浮かべる舞。両手を前へ出し、宗太郎へ光弾を猛射。
「ぐうううううっ!?」
光弾の雨に晒される宗太郎。
「まだまだ!!」
続いて、巻き起こされる波動の嵐。
「ぐあああああっ!!」
宗太郎の生命力が大きく削られる。
「これで最後。死になさい」
舞の両手から二条の熱線が放たれる――。
それを至近距離でまともに受けた宗太郎は全身を焼かれ‥‥その場に倒れ伏した。
しかし――
「宗太郎さん‥‥くっ‥‥。ティリアさん、じゃあ‥‥いくよっ!」
「了解です! ノエルさん!」
移動スキルを使用したノエルとティリアが舞の左右の側面から回り込んでいた。
攻撃を宗太郎へ集中させたために出来た大きな隙――。
「やあああああっ!!」
「そのままッ! 墜ちろォッ!!」
2人は跳躍。
ノエルは【限界突破】と【急所突き】を使用。爪による連続攻撃を繰り出す。
ティリアも二刀小太刀による連続の斬撃を繰り出す。
両側面からの攻撃により、舞は羽根をズタズタに切り裂かれ、落下した。
舞本体へもかなりのダメージを与えている。
そこへ間髪入れずに錬と雨音が射撃による集中砲火。
「これは姉さんの分だ! 喰らえええええ!!」
「これで‥‥終わりにします!!」
そして――
「翔‥‥ちゃん‥‥」
その言葉を残し、舞は床の上に倒れたまま、動かなくなった。
舞の身体から流れ出した血液が‥‥血だまりを作る‥‥。
***
「なっ‥‥! そんな‥‥! 姉貴‥‥?!」
子虎、大地、ケイと戦闘中の翔。その動きが一瞬止まった。
「宗太郎達がやったか? 今だ!!」
「隙あり! ですね!」
引き撃ちを利用して通路へ誘い込もうとしていた大地とケイであったが、それは失敗。
『見え見えなんだよォ!!』と猛烈な銃撃を受け、苦戦していた矢先の好機である。
大地は刀を抜き、全スキルを使用。斬りかかる。ケイも剣に持ち替え、同様に斬りかかる。
が――
「‥‥‥‥ああああああああああああああああああああっ!!!!」
翔の絶叫。
「邪魔だァァァァァッ!! 退けェェェェェッ!!」
大地の斬撃は身体を捻って回避。蹴りを喰らわせ、床に叩き付ける。
ケイの攻撃はそのまま肘で受け止め、同じく蹴り飛ばす。
そののちに対物ライフルを連射。軽機関銃を乱射。ロケットランチャーを発射。
全弾使い切ると、銃器を放り捨て、翔は舞の元へ跳躍して行った。
「大地さん! ケイさん!」
少し離れた場所からソニックブームで攻撃していた子虎が駆け寄る。
‥‥火器による過剰とも言える攻撃を受けた大地とケイは、既に戦闘不能になっていた‥‥。
***
「射線上の甲虫型キメラを排除完了! よろしくお願いします!」
俊一少尉が声を上げる。
「やっちまえ! ヨグさん!」
「了解っ!」
九郎の言葉に答え、知覚砲を構えるヨグ。
「射線クリア、照準OK。これで――吹っ飛べっ!!」
光条を発射。――それは動力炉を見事撃ち抜いた。黒煙を上げて停止する動力炉。
「動力炉の破壊を確認! さっさと逃げるよ! 相川小隊の皆! 負傷者の搬送を手伝って!」
子虎が叫ぶ。
そうして傭兵部隊と相川小隊は即座に撤退を開始した。追撃は‥‥無かった。
***
「姉貴‥‥姉貴‥‥」
床にへたり込み、冷たくなった舞の亡骸を抱き、
涙に顔をぐしゃぐしゃにして嗚咽を漏らす翔。
「‥‥」
その様子を玄は黙って見つめる。
「‥‥‥‥傭兵ども‥‥‥‥許さねェ‥‥‥‥」
翔は舞の真っ赤な血に塗れた手を、頬に当てる。
「殺す‥‥殺す‥‥殺す‥‥コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
「‥‥!」
玄は翔の涙と血に塗れた顔に、ぞっとした。
‥‥翔は虚ろな目で、傭兵達の去った入り口を見つめる‥‥。
「コロシテヤル」