タイトル:武士の魂マスター:とりる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/06 13:22

●オープニング本文


 銀河重工本社。KV開発室――。
 白衣を纏った、無精ひげを生やした長身の男がコーヒーを啜りながら報告書に目を通していた。
(D型の生産ラインは順調に稼動中か‥‥)
 彼の名は草壁・誠十郎。シラヌイの開発主任を勤めていた男である。


・まめちしき
●GFA−01D シラヌイ改
 銀河重工製汎用型KV、GFA−01『シラヌイ』の正規軍向けの改良型。
 シラヌイD型がC型と異なる点は、機体構造を見直す際に部品を徹底的に規格化したことにある。
 生産性・整備性を追及しているため、性能はC型よりも若干劣る。
 しかし、C型同様に完成型の超伝導AECが搭載されており、防御性能は損なわれていない。
 部品の徹底的な規格化によるコスト低減には、ドローム社のCOPKVに対抗するという思惑もあると思われる。
 コストパフォーマンスが優秀であるため、現在の正規軍向けのシラヌイの新規生産はD型のみに切り替えられている。


「主任、お疲れ様です」
 そこへ、ドアが開き、白衣を着た童顔の女性がやってくる。
「ああ」
 誠十郎は女性をちらりと見るが、すぐに視線を報告書に戻した。
 女性の名は南川・遥。誠十郎の部下であり、補佐を勤めている。
「すみません、あまり手伝えなくて‥‥」
 遥がぺこりと頭を下げた。彼女はここ1週間ほど、とある事情で各部署を駆け回っている。
「いや、そっちこそご苦労」
「ありがとうございます。XGSS−03A――『シコン』の開発状況はどうなっていますか?」
「順調‥‥と言えるだろう。試作機のデータは完成している」
 誠十郎がPCのキーボードを叩くと、モニターにデータが表示された――。


●XGSS−03A シコン

 移動5
 副兵装スロット4(固定武装込み)
 アクセサリスロット4

 固定武装:
○高出力レーザー砲(仮)
 雪村系の超濃縮レーザーブレード技術を転用し、高出力レーザー砲として再設計、開発された兵器。
 射程は10程度。装弾数1発。リロード不可。一度の使用で練力50を消費。
 射程内、一直線上に位置する全ての敵に対して攻撃を行う。

・プランA
 範囲攻撃あり。上記の通り。

・プランB
 範囲攻撃を排除。プランAよりも威力が上昇。
 (AとBは二者択一)

 機体特殊能力:
○ストライク・アクセラレータ
 攻撃+100、知覚+100、移動+2 練力消費50 効果時間:1ターン

 同社製KV、XF−09B竜牙の「オフェンス・アクセラセレータ」を応用した攻撃補助システム。
 敵の懐に飛び込み、強烈な打撃を与えることを目的としている。

○超伝導AEC Type.B
 抵抗+200 使用可能回数3 効果時間:一瞬

 既存のAECをエネルギーカートリッジ式に変更し、消費練力を無くしたタイプ。

○超伝導アクチュエータ Ver.4
 命中+50、回避+50 練力消費20 効果時間:1ターン

 雷電・シラヌイで技術を確立させた超伝導アクチュエータの練力効率を更に高めたもの。

 機体解説:
 『シコン(士魂)』という名の通り、武士の魂を具現化したKV。
 XF−09B竜牙に迫る攻撃力(想定)を有している。
 歩行形態では鎧武者のような外見。頭部上部の2本のアンテナブレードと
 機体後部にある9本のテールスタビライザーが大きな外見的特徴。

 シラヌイS2型・甲に改造を加えた「シラヌイS2型・丙」をベースとして開発中の機体。
 (純粋な戦闘用KVであるためC4I能力強化はオミットされている)
 雷電で培った装甲材技術を用い、ベース機に比べ大幅に防御力を強化。見込みでは雷電以上。
 攻撃システムは竜牙のオフェンス・アクセラレータを応用したストライク・アクセラレータを採用。
 防御システムは効率を優先し、DC(ディフェンス・コーティング)ではなく
 AEC(アンチ・エネルギー・コーティング)を採用。
 物理攻撃は堅牢な装甲で防ぎ、非物理攻撃への防御はAECで補う予定(抵抗は平均程度)。
 回避性能も決して低くは無く、最新版の超伝導アクチュエータを搭載。

 元々回避型であるシラヌイS2型(丙)をベースに、機動力を落さずに重装甲を施したため
 機体バランスが低下しているが、9本のテールスタビライザーでそれを補う形となっている。

 固定武装として雪村系の技術を転用した高出力レーザー砲の搭載を検討中。
 現時点で銀河重工が持ち得る技術を結集した機体と言える。
 (技術実証機という意味合いも持つ。そのため型番に『X』の文字がある)


 ――概要は以上。というわけで誠十郎は現在、XGSS−03Aシコンの開発主任を担当している。
 銀河重工の技術を集結させた機体なので、遥は関係部署への挨拶やらで駆け回っている次第。
 ‥‥開発部署間には対抗心というかライバル心というか、当然そのようなものが存在する。
 それゆえにシコン開発の統括を任された誠十郎は頭を悩ませていた。
「まず解決すべき問題は高出力レーザー砲(仮)と‥‥」
「ストライク・アクセラレータですね」
「その通りだ」
 遥の言葉に誠十郎は頷く。
 この2つは正直、シコンの開発スタッフの中でも意見が割れていた。
「やはり傭兵の意見を聞くべきだな」
「ええ、それがよろしいかと」
 そのとき――ドアがノックされ、白衣姿の女性が姿を現す。外見年齢は誠十郎と同程度。
「‥‥随分楽しそうにお話していたようだけれど、機体の開発は進んでいるのかしら?」
 中指で黒いフレームのメガネをくいっと直しつつ、嫌味の篭った口調で女性が言う。
「機体の話をしていたところだ。‥‥君こそ、レーザー砲はどうなっている?」
「全く問題ないわ。私のレーザー砲は完璧。そちらの要望通り、数パターンの設計データを用意しておきました。――もっとも、載せる機体がダメでは話になりませんが」
 またも嫌味たっぷり‥‥。
「最善を尽くすよ」
「‥‥ふん、精精頑張ることね」
 言い捨てると、女性は部屋から出て行った。
「‥‥‥‥なんだったんでしょう?」
「さあ。‥‥それより話を戻そう。ULTへ依頼だ。シミュレーターでのテストもやってしまおう」
「わかりました!」
 遥はやる気まんまんに、ぐっと拳を握った。


 コツコツとヒールの音を立てて廊下を歩くメガネをかけた白衣の女性――。
(誠十郎はプロジェクトリーダー‥‥出世の道を歩んでいる‥‥。それなのに私は未だに一介の研究員‥‥)
 この女性は誠十郎と同期であり、大学時代からの知り合いでもあった。
(それにあの女‥‥いつも誠十郎の近くに‥‥。女房気取りで‥‥!)
 自分の技術が買われ、シコンの開発プロジェクトに参加できたことは嬉しい。
 しかし、そこで見せ付けられたのは誠十郎と遥の仲睦まじい姿!
 誠十郎は常にそっけない態度を取っているが、ずっとあの女を傍に置いている。
 気付いていないのは本人くらいだ。女性はギリリと奥歯を噛み締める。
(あの2人‥‥いつか‥‥!)

●参加者一覧

龍零鳳(ga2816
20歳・♂・CA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
九条・嶺(gb4288
16歳・♀・PN
賢木 幸介(gb5011
12歳・♂・EL
日野 竜彦(gb6596
18歳・♂・HD
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ナスル・アフマド(gc5101
34歳・♂・AA
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

●XGSS−03A シコン
 銀河重工本社へやってきた傭兵達――。
「テールスタビライザー付きか。9本となると『九尾武者』といった所か? 飛行形態が気になるな」
 依頼文には飛行形態についての記述がなかったため、色々と妄想する龍零鳳(ga2816)。
「士の魂に火縄銃は邪道、か‥‥だが、かの小島に伝わり、現地で生産されたそれに付いた銘は『種子島』。土地の名前を銘にするのは刀鍛冶の名残‥‥しかし同時にこれは士が銃を新たな魂の1つとして認めたという事でもあると私は思っている」
 アンジェリナ・ルヴァン(ga6940)は銀河重工の新型機に熱い思いを巡らせる。
「これはまた、特盛りというか全部乗せっつーか、凄すぎて一般発売無理っぽい?」
 龍深城・我斬(ga8283)が言った。
 決してそのようなことはない。スタッフは傭兵への貸与を前提に機体の開発を進めている。
「シコンか。シラヌイを使う身としては弱点である防御関係が強化された機体というのは有り難いぜ。良い機体になるように俺も頑張らせて貰うな」
 シラヌイドライバーの称号を持つAnbar(ga9009)はやる気十分な様子。
「‥‥シラヌイの後継機、士魂か‥‥なんともそそる名だ」
 なにやら呟いている堺・清四郎(gb3564)。名前が気になるらしい。
 日野 竜彦(gb6596)は高速移動艇を降りるなり、真っ先に研究室へ向おうとしたのだが――
 受付で止められてしまっていた。仕方なく他のメンバーが来るのを待つ。
「新兵器のシミュレーターでのテストか‥‥商売道具に関してのことなんだ、協力させてもらいますぜ」
 やってきたスタッフに挨拶するナスル・アフマド(gc5101)。

 傭兵達はシミュレータールームへと通された。
 説明を受けた後、KVのコクピットを再現したシミュレーターに搭乗。
「機体の方向性が定まっていないように感じるのですが、どういう機体に仕上げるのを想定しているのでしょうか? とりあえず短期戦機として扱ってみますね」
 九条・嶺(gb4288)は機体の運用法について考えているようだ。
「んじゃ、新型ってやつを拝んでやるか」
「銀河の新型の力、見せてもらうよ」
 賢木 幸介(gb5011)と山下・美千子(gb7775)が言った。
「さて、まぁこっちとしては勝っても負けても問題ないわけで。気楽なもんだ」
 ジャック・ジェリア(gc0672)は特に気張らず、リラックスした様子。
「さて、お手並み拝見、ですね」
 立花 零次(gc6227)はジャックとは逆に、やるからには負けるつもりはない! という気持ちでいた。

●テスト・前半戦
 シコンに搭乗するのは龍、アンジェリナ、我斬、Anbar、嶺、竜彦。
 アグレッサーとして雷電改には清四郎、幸介、零次。竜牙には美千子、ジャック、ナスルが搭乗。

 そして模擬戦開始――。
「行くとしますか」
 我斬機、ブーストを使用。前進。3.2cm高分子レーザー砲で清四郎機に攻撃。命中。
 清四郎機、中程度のダメージ。
「慣れん機体だが‥‥そう簡単には落とされてやらんぞ!」
 清四郎が闘志の篭った声を上げる。

(この配置は‥‥!)
 アンジェリナはあることに気付く。我斬機は既に移動したが開始直後は敵味方共に、マップの両端、縦一列に配置されていた。
 アンジェリナ機、ブーストとストライク・アクセラレータを併用。一気に敵陣側面へ移動。
「――先制攻撃を仕掛ける!」
 思い切りトリガーを引き、高出力レーザー砲を発射。
 敵全機‥‥清四郎機、ジャック機、零次機、美千子機、幸介機、ナスル機に攻撃、命中。
「くううう!」
 美千子機は試作型DCを使用。アグレッサー班、全機中程度のダメージ。

 清四郎機、前進。我斬機に向けてディフェンダーで連続攻撃。
「やるな‥‥さて、殴り合いに付き合ってもらうぞ!」
 しかし我斬機は回避。

 Anbar機、SA使用と超伝導アクチュエータVer.2を併用。
 前進。高出力レーザー砲で幸介機に攻撃。
「いけぇ!」
 命中。幸介機、中程度のダメージ。

 ジャック機、前進。旋回。突出してきたAnbar機に接近。
「いきなりやってくれるね」

 零次機、旋回、スナイパーライフルでアンジェリナ機を狙撃、命中。ダメージは軽微。
 Sライフルをリロード。

 龍機、ブーストを使用。前進。
「じゃぁせっかくだし、こいつの威力‥‥試させてもらおうぞ!」
 高出力レーザー砲を発射。ジャック機、美千子機に攻撃、命中。
 更に高分子レーザー砲でジャック機へ追撃を掛ける。命中。ジャック機、大ダメージ。
 美千子機、中程度のダメージ。

 嶺機、ブーストとSAを併用。アンジェリナとは反対側の敵側面へ移動。
 零次機、幸介機、美千子機、ナスル機に攻撃、命中。
 零次機、中程度のダメージ。幸介機、美千子機、ナスル機、大ダメージ。
「‥‥やっぱり厄介だな‥‥敵として見たら、ああいう長物は」
 ナスルは苦い顔をする。

 美千子機、前進。ディフェンダーでAnbar機に連続で斬りかかる。
 Anbar機は素早く回避運動。命中せず。

 竜彦機、ブーストとSAを併用。
 高出力レーザー砲をパージしようとするが、固定武装のパージは機能的に無理だった。
 機体を前進させるが――
「同じシラヌイの系譜のはずなのに‥‥くっ」
 シコンがベースとしているのはS2型(丙)であり、安定性を最優先した通常型のシラヌイとは特性が異なる。
 つまり、パイロットの技量が試されるということ。
 高分子レーザー砲をナスル機に連続照射、命中。ナスル機、致命的なダメージ。

 幸介機、ブーストと超伝導アクチュエータVer.3を併用。
 前進。高分子レーザー砲をアンジェリナ機に連続照射、命中。
 幸介は超伝導AECを使用させることを狙ったが、雷電の知覚は低くないが高くもない。
 アンジェリナ機はAECを使用せずディフェンダーで防御。ダメージは極軽微。

 ナスル機、スナイパーライフルで竜彦機を狙撃。
 しかし砲弾は逸れてしまい、命中せず。リロード。前進。

●テスト・後半戦
 アグレッサー班の狙いは敵を分断させることだったが、シコン班は最初から分散してきた。
 しかも高出力レーザー砲の連打を浴び‥‥かなり不利な状況に追い込まれてしまっている。
 突出した敵機を竜牙で集中攻撃するという作戦もこのままでは‥‥。

 我斬機、アクチュエータ使用。高分子レーザー砲を美千子機に連即照射、命中。
 美千子機、致命的なダメージ。

 アンジェリナ機、前進。高分子レーザー砲を清四郎機に連続照射、命中。
 清四郎機、大ダメージ。

 清四郎機、ディフェンダーで我斬機に連続で斬りかかるが――
 アクチュエータを起動した我斬機には命中しなかった。

 Anbar機、移動。高分子レーザー砲を幸介機に連続照射、命中。
 幸介機、致命的なダメージ。

 ジャック機、前進。オフェンス・アクセラレータ使用し、ディノファングで我斬機に連続攻撃。
「食らい付け!」
 しかし清四郎機と同じく命中せず。

 零次機、旋回、高分子レーザー砲をAnbar機に連続照射。
「足を止めることが出来れば‥‥」
 機動力を奪うべく、脚部を狙うが‥‥Anbar機は回避。

 龍機、前進。清四郎機に高分子レーザー砲を連続照射、命中。
 清四郎機、大ダメージ。
「はっはっは‥‥何とか動きがイメージできる!」
 パワーのある機体であるため、振り回され気味だが‥‥龍は何とか踏ん張る。

 嶺機、高分子レーザー砲を零次機に連続照射、命中。零次機、大ダメージ。

 美千子機、高分子レーザー砲を我斬機に連続で照射するも、我斬機を捉えることは出来ない。

 竜彦機、高分子レーザー砲をナスル機に連続照射、命中。ナスル機を撃破。
「やった!」
 移動、ジャック機の側面に付く。

 幸介機、ブーストを使用。アンジェリナ機の背後を取る。
「もらったぜ!」
「――当たらん!」
 高分子レーザー砲をアンジェリナ機に連続照射するが命中せず。

 我斬機、アクチュエータ使用。高分子レーザー砲を美千子機に連続照射、命中。
 美千子機を撃破。リロード。

 アンジェリナ機、旋回。幸介機に反撃。
「今度はこちらの番だ」
 高分子レーザー砲を連続照射、命中。幸介機を撃破。
「ぐ、ここまでかよ‥‥」

 清四郎機、尚もディフェンダーで我斬機に攻撃を繰り出すが、我斬機は回避。
「鎧を纏ってもここまでの運動性だと‥‥?」

 Anbar機、高分子レーザー砲を零次機に連続照射、命中。零次機を撃破。

 ジャック機、OAを使用してファングで我斬機に連続で攻撃を繰り出すも、命中せず。

 龍機、高分子レーザー砲を清四郎機に連続照射、命中。清四郎機、致命的なダメージ。
「ちっ、さすがは新型といったところか!?」

 嶺機、移動。ジャック機の後方に付く。高分子レーザー砲でジャックに連即照射、命中。
 ジャック機、致命的なダメージ。
「このままではやばいな」
 竜彦機、ジャック機に肉薄し、ディフェンダーを振るって連続で斬りつける。
「やあああああっ!!」
「‥‥! だが‥‥!」
 ジャック機はDCを使用して防御。しかし耐久力は限界に達した。撃破。

 我斬機、アクチュエータ使用。高分子レーザー砲を清四郎機に連続照射、命中。
 清四郎機を撃破。
「くっ‥‥新型の性能は確かなようだな‥‥」
「ふう、終わったか」

 アグレッサー班全滅。シコン班は全機健在、完全勝利となった。

●性能評価
 会議室に場所を移した傭兵達――。
「結果はシコン班の完全勝利か‥‥よくやってくれた。まあ、そうでなくては困るんだが」
「お疲れ様でした。アグレッサー班の方々も」
 開発主任である草壁・誠十郎とその補佐である南川・遥も同席。
 全員に飲み物が行き渡ると、意見聴取が始まった。

「はは‥‥一方的にやられてしまったな」
 ジャックは苦笑をしている。気楽とは言ったものの、やはり負ければ少し悔しい。
「運動性も上々だ。超伝導アクチュエータは地味だが確実に進化しているな」
 Anbarは一度も被弾しなかった。装甲強化による運動性の低下は許容範囲内であるらしい。
「通常型のシラヌイに比べると操縦が難しいですね‥‥」
 竜彦は少しだけ表情を曇らせている‥‥。

 議題は固定武装の高出力レーザー砲(仮)へ――。
「俺個人の意見だが士魂のレーザーはプランA・B共に、ちと扱い難そうだな‥‥」
 言ったのは清四郎。
「高出力レーザー、敵側では実に厄介だったが‥‥自分で使うとどうなんだ? 流石に1発限りじゃ色々厳しいと俺は思うぜ」
 ナスルが重ねる。
「単品でならいい武器だと思うけど、シコンには蛇足だと思う」
 簡潔に意見を述べる美千子。
「中途半端な装備なら不要です。雪村並の威力が欲しかったのですけれど‥‥」
 嶺は威力を期待していたようだ。
「それは技術的に不可能だ。射程が延びれば威力が落ちるのは仕方がない」
 誠十郎が言った。威力・射程・重量――KVの知覚武器には課題が多い。
「俺は、威力は高くなくても機体の素の性能でカバーできる範囲ならそれでもいいと思う」
 幸介は嶺らとは逆に、肯定的な意見を述べる。
「いやー、固定武装のレーザー砲はスカッとしたなぁ」
 清清しい表情を浮かべている龍。
 高出力レーザー砲の範囲攻撃に成功したことが嬉しいようだ。
「確かに手応えはあった。シコンは高出力レーザー砲を扱うための機体なのだろう。刃だけでも拵だけでも刀は成り立たない」
 続いて口を開いたのはアンジェリナ。
「ドロームの新型機のそれが『固定砲台』であるのに対し、こちらは『移動砲台』であることは非常に有用」
 そのように続ける。実際に模擬戦で試してみた結果、彼女は確信していた。
「常に範囲攻撃を念頭に戦える、機動力のある機体なら俺も支持できる」
 頷く幸介。
「使い勝手は悪くありませんでしたね‥‥」
 嶺はあごに手を当てて首をかしげている。

「やっぱさあ、こういう万能機を作るなら流用じゃなくて1からベース機を専用に開発するべきだよ。バランス悪くて9個もスタビライザーが要るとかそれはそれで結構な弱点だから」
 そこで我斬が話題を切り替えた。それに対し誠十郎は――
「フレームから新規開発するには時間も予算も掛かる。それに、テールスタビライザーは自転車でいう補助輪のようなものだ。失えばバランスは低下するが‥‥パイロットの腕でカバーすることは十分可能」
 我斬の目を見て、答える。
「元々通常型のシラヌイに比べ、安定性が低下しているS2型をベースとしているんだ。熟練パイロット向けの機体と言えるだろう」

「コンセプトに沿った能力なのか、能力に見合ったコンセプトなのかがはっきりしない感じで、使い方の軸が定まってない技術一辺倒な機体に見えるかな。実際技術や能力の説明ばっかりで使い方の説明なかったし」
 美千子は尚も辛口である。
「技術実証機という意味合いもあるからね。そう見えるのも仕方がない。シコンは機体性能と特殊能力の性質上、万能機というべきか。つまり、戦い方は使い手‥‥パイロット次第と言うことだ」
 誠十郎は落ち着いた口調で答えた。
 美千子はちらりと誠十郎を上目遣いで見て――また口を開く。
「このままで行くなら汎用機より強襲機じゃないかな。レーザーで道を切り開いて、SAで敵陣に飛び込むっていう」
「ああ。それに関しては模擬戦のデータを見るに、アンジェリナ君と嶺君の運用法が有効だろう。ブーストとSAを併用、絶妙な位置取りをし、範囲攻撃を行う。アンジェリナ君の言う移動砲台ならぬ『機動砲台』といったところか」
 美千子にそう返した誠十郎はコーヒーを一口飲み‥‥傭兵全員を見回す。
「要するに、斬り込み役に適している。まあ、あくまでパイロット次第だがね。シコンは万能機だ」
 シコンに対する思いを込めて、シコンの開発主任として、誠十郎は言った。
「良い機体が出来そうですね。楽しみです」
 零次がにこやかに微笑む。‥‥そしてその場はお開きとなる。
 帰り際、傭兵達には粗品として銀河重工謹製ボールペンが配られた。

 傭兵達を見送った誠十郎と遥――。
「‥‥ふむ。これからだな」
 誠十郎は難しい顔をしている。
「そうですね。がんばりましょう!」
「‥‥ああ」
 ぐっと拳を握る遥を見て、誠十郎は少しだけ顔を緩める。
 固定武装のレーザー砲は予想以上の性能を示した――シミュレーターでのテストではあるが――。
『私のレーザー砲は完璧』
 ‥‥誠十郎は設計者の顔を思い浮かべる。
「主任、どうされました?」
「‥‥いや、なんでもない。それより開発室に戻るぞ。やることは山ほどある」
「わかりました!」

 戦闘データの検証の後、シコンは高出力レーザー砲(仮)を搭載する方向で開発が進められることとなった。