●リプレイ本文
●フェルマータへようこそ!
「いらっしゃいませ。ご主人様、お嬢様。本日はようこそおいでくださいました!」
「いらっしゃ〜い。歓迎するわぁ〜ん。今日は楽しんでいってねぇ〜ん♪」
メイド喫茶フェルマータを訪れたノエル・アレノア(
ga0237)、神崎・子虎(
ga0513)、皆城 乙姫(
gb0047)、篠ノ頭 すず(
gb0337)の4人は店に入るなり、メイドのミカと店長から熱烈な歓迎を受けた。二人とも怖いぐらいにニッコニコ笑顔である。
「えーっと、4名様でよろしいですね」
「あらん、2組のカップルさんね。羨ましいわぁん」
栗色の長い髪を揺らしながらメイドのミカが確認し、店長がくねくねしながら羨ましそうに4人を見つめる。ちなみにこの店長はオネエ言葉を使っているが立派な男性‥‥というかオカマちゃんだ!
そしてミカと店長は最初、男女のカップルが2組だと思ったようだが‥‥よく見ると子虎はノエルにぴったりと密着しており、乙姫はすずの腕に抱きついていた。
「もしかして‥‥皆さんは‥‥」
「はい! 私とすずは恋人同士、熱愛同棲中です!」
「こ、こら乙姫、そんなに大声で‥‥!」
乙姫がにっこり笑顔で答えた。すずは恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「そうだよ。僕とノエルンも仲良しカップルなのだ☆」
子虎も元気に答える。
「ちょ、ちょっと待って! カップルって!?」
ノエルは慌て気味。確かに仲良しではあるが‥‥こちらはまだ、そういう関係ではないらしい。まだ。(大事なことなので二回言いました)
つまるところ、同性同士のカップル×2(ノエルと子虎は親友以上恋人未満?)だったのである。
「そうでしたか。申し訳ありません」
ミカはぺこりと頭を下げる。
「あらぁん。そうだったのぉ〜ん。ごめんなさいねぇ〜。でも、それも愛の形の一つだから、素晴らしいわぁ〜ん。やっぱり、愛っていいわよねぇん」
またくねくねしながら自分を抱き締めてトリップする店長。オカマちゃんだけあってその辺は寛大のようだ。
「あ、愛‥‥」
ちょっぴり身の危険を感じるノエル。
「どうしたの? ノエルン?」
「な、なんでもないよ」
覗き込んでくる子虎に笑顔を向けるノエル。しかし内心は――
(「さっきから色々誤解されてる気がするけど、気のせいだよね、うん。きっと疲れてるんだ‥‥疲れた時は甘いもの、だったっけ。子虎くんが癒してくれるって言うけど、何をされるのかわからない‥‥」)
誘ってくれたのは嬉しいけれど、嫌な予感がしてたまらないノエルであった。
「うふふ〜♪ ノエルンとデーt‥‥もとい、一緒の依頼〜♪ 美味しいケーキ作ろうね☆ 甘いケーキ(と、イロイロ)でノエルンを癒してあげるのだ♪」
そんなことなど露知らず、ノリノリな子虎。かなりはりきっている様子だ。
「あはは‥‥ははは‥‥」
ノエルの乾いた笑いが響く。
「んふふ〜、すずと一緒にバレンタインチョコ作り! うれしいなっ!」
すずにすりすりしている乙姫。
「だ、だから乙姫、人前ではあんまりくっつくな‥‥」
さっきより顔が赤らんでいるすず。どちらのカップルも相方は照れ屋さんらしい。
そんなことをしていると――
「それでは、ご案内いたします♪」
メイドのミカの案内で店内を進んでいく4人。その後に店長もスキップしながら続く。
そうして、チョコレートを使ったお菓子作りが始まった。
●紅薔薇の時
「えへっ。どうかな、ノエルン☆ 似合う?」
くるりと回ってフリルいっぱいのエプロンドレスをはためかせるメイド服姿の子虎。
「ぶっ!? 子虎君‥‥それ、女の子の服じゃないの?!」
「そうだよ♪ だってせっかくメイド喫茶に来たんだもん。メイド服を着なきゃ損でしょ☆ それより、似・合・う??」
ずいずいっと問い詰めてくる子虎。‥‥確かによく似合っている。しかし子虎は男の子だ。ここはなんと言うべきか‥‥
「に、似合うんじゃないかな?」
「やったー♪」
ノエルに思いっきり抱き付く子虎。
「うわわっ!?」
びっくりして頬を染めるノエル。
「じゃ、ノエルンはこっちを着けてね」
続いて子虎は女物のふりふりエプロンを差し出してきた。
「へっ?」
きょとんとするノエル。
「これからお料理をするんだもん。エプロンは着けなきゃダメだよ☆」
「‥‥」
「ねっ?」
念を押されてしまった。またも頬を赤らめつつ仕方なくふりふりエプロンを着用するノエル。
「さて、店長さんからもらったレシピ通りにさっそく作ってみよう☆ ノエルンには僕が手取り足取りナニ取り教えてあ・げ・る♪」
「ナニ取りって何さ!?」
当然のツッコミを入れるノエルであった。
「僕はスポンジケーキを焼くから、ノエルンはコーティングに使うチョコを刻んでね♪ 分からないことがあったらなんでも聞いて♪」
「うん、了解」
チョコケーキ作りに取り掛かる二人。
ノエルは言われた通り板チョコを刻んでいくが、その手つきはどうも危なっかしい。
そして――
「痛っ!」
案の定、包丁で指の先をちょこっと切ってしまった。
「ああっ! 大丈夫? ノエルン??」
子虎が駆け寄ってくる。
「大丈夫だよ。少し切っただけだから」
「だーめ、ばい菌が入ったら大変。ちょっと見せて」
ノエルは子虎に指を見せる。真っ赤な血がぽつぽつと滲む。子虎はそれを‥‥
ぱくっ。
「!?」
咥えてしまった。ちゅーちゅー指を吸ってくる。舌の感触がなんとも――
ちゅぱっと指を離した子虎はポケットから取り出した絆創膏を丁寧に貼ってくれた。
「これで大丈夫。ノエルンの血、美味しかった☆」
「怖いこと言わないでよ!?」
「あはは♪ でも気をつけなきゃダメだよ。包丁を使うときは、押さえる手を猫の手にしないと」
「わかった。‥‥ありがとう。子虎君」
微笑み合う二人。
しばらくして、スポンジケーキが焼きあがり、少し冷ましてから湯煎したチョコレートをパレットナイフでコーティングしていく子虎。
「ふふ〜ん♪ 僕が焼いたスポンジにノエルンが刻んで湯煎したチョコを塗る‥‥これって愛の共同作業だよね☆」
「なに言ってるのさ!!」
またあせあせするノエル。彼の言葉にはいちいち危険を感じてしまう。
「よっし、あとはデコレーションだね♪」
子虎はケーキの真ん中にマジパンで作った人形を二つ乗っけた。‥‥それはノエルと子虎に酷似しており、しかも顔を寄せ合いキスをしている。
「‥‥いつの間にこんなものを‥‥」
「あはっ♪ スポンジを焼いてる最中暇だったから。そっくりでしょ☆」
ウィンクする子虎。この屈託のない笑顔はどうにも責められない。
「最後に仕上げ〜♪」
ホワイトチョコで何かを書いていく子虎。それは――『ノエルン・ラブ♪』という文字。
「‥‥」
無言になるノエル。
「やった〜☆ 完成〜♪」
そんなノエルのことは気にせず、はしゃぐ子虎であった。
●白百合の時
乙姫はせっかくの機会なのでフェルマータのメイド服を借り、着用していた。フェルマータのメイド服は白と黒を基調としたヴィクトリアンメイドで、装飾の少ないシンプルなデザインだ。パフスリーブで長袖。もちろんロングスカート。フリルたっぷりの純白のエプロンドレスとカチューシャは標準装備。
乙姫はすずにスカート裾を持ち上げて見せた。
「えへへ、どう? 似合うかな?」
「うむ、似合っているぞ」
それはもう、直視できないくらいに可愛い。可愛すぎる。若干恋人補正も入っているが。
「うふ、すずにそう言ってもらえると嬉しいよ♪」
満面の笑みを浮かべる乙姫。
‥‥さて、今回二人が作るのはチョコ味の生キャラメルと生チョコプリンだ。
乙姫がてきぱきと作業をする中――
「あ、ピーンときたぞ! 似た色をしているんだからカレー混ぜたらどうかな?」
すずは生キャラメルの鍋にカレーのルーを入れようとしていた。
「わー!? ダメだってばー!!」
乙姫が慌てて止める。一体どうやったらそういう考えに行き着くのか。
「むう、いいアイディアだと思ったのだが」
(「まったく、気を抜くといつクリティカルな一品になるかわからないし‥‥すずには悪いけど警戒しなくちゃね」)
どうやら一時たりとも目を離してはいけないようだ。
「じゃあすずはチョコを溶かして」
「わかった」
そういってすずはチョコを直火で溶かそうとした。
「‥‥何故だ、これだとチョコが溶けて落ちてしまう‥‥」
「きゃー!? なにやってるのー?! チョコは鍋に入れればいいんだよー!!」
乙姫の悲鳴。見守っている店長とミカも不安げな様子だ。
「すまん‥‥」
しょんぼりするすず。
「い、いいの。気にしないで」
「代わりといってはなんだが‥‥食べるか?」
チョコレートの欠片を口に咥え、乙姫に顔を寄せるすず。
「‥‥う、うん」
乙姫はすずのチョコを受け取る。
「えへ、美味しいよ」
「‥‥そ、それは良かった」
赤くなる二人。
そんなこんなで順調に作業は進んでいたが――
またすずが動き出したのだ。
「む、この舌を刺激するぴりりとした味。チョコに入れれば風味が増すはず!」
そんなことを言いながら、乙姫が一瞬目を離した隙に黒色の粉末を生キャラメルの鍋にさらさらと投入。すると――
どっかーん!!!!
「な、なにごと!?」
揺れる店内。慌てる店長。
なんと、鍋が爆発したのだ。
「な、何故だ‥‥何故、我が料理しようとするといつも‥‥」
身体中チョコレート塗れになってがっくりと膝をつくすず。
「だ、大丈夫? すず?」
乙姫が駆け寄る。
「ううっ、我はダメな女だ‥‥」
「そんなこと言わないで! 失敗は誰にでもあるもん!」
慰めながらすずの頬についたチョコを丁寧に舌で舐め取る乙姫。
「乙姫‥‥」
「私がすずを綺麗にしてあげるからね」
ぺろぺろと腕などを舐め上げてゆく。ぬめった舌の感触に震えるすず。
そして綺麗になった後――見詰め合う二人。
乙姫のほうから唇を重ねる。
「うふっ、元気出た?」
「ああ、ありがとう。乙姫」
結局、生キャラメルは作り直すはめになったが、二人は楽しそうだった。
●試食タイム
お菓子が出来上がった後は、お待ちかねの試食である。
「皆、上手にできたわね。さっそく試食してみましょう♪」
店長の声と共に子虎がハート型のチョコケーキを切り分けて二つの皿に乗せる。
「はいノエルン、あーんして☆」
ケーキをフォークですくってノエルに差し出す子虎。
「ええっ!? そんなことできないよ」
「あーんしてくれなきゃ、ノエルンが寝ている隙にあんなことやこんなことしちゃうぞ☆」
「!!?」
さり気にすごいことを言う子虎。仕方なくノエルは口を開いた。
「あーん、ぱくっ‥‥もぐもぐ」
「どう? 美味しい?」
「これは‥‥すごく美味しいよ!」
「やったー♪ さすが二人の愛の結晶だね☆」
喜ぶ子虎と、むせるノエルであった。
一方、乙姫とすずは――
「ふむ、このプリンは美味しいな。乙姫にはいつも感心させられる」
「すずが手伝ってくれたからだよ」
生チョコプリンは素晴しい出来だった。頬がとろけそうなほどのまろやかな味わい。
「次は生キャラメルいってみる?」
「そうだな‥‥」
すずは少し考えた後、ハート型のチョコ味の生キャラメルを口に含んだ。
乙姫に顔を近づけて‥‥口移しする。
「ん、んふう‥‥」
うっとりとした表情になる乙姫。
「すずの‥‥味がするよ‥‥」
「では、今度は乙姫が――」
空が夕焼けに染まる頃、4人を見送るミカと店長。
「今日はありがとうございました。‥‥お店、繁盛するといいですね。あんなに美味しいケーキですもの、きっと大丈夫です」
にっこり微笑むノエル。
「ありがとう! ノエルくん! 私、大感激!!」
滝のような涙を流す店長。
「今日は面白かったね♪ また一緒に依頼入ろうね☆」
そして、ノエルと子虎は仲良く手を繋いで帰っていった。どうやら最初の恥ずかしさはどこかへ飛んでいったようだ。
「今日は世話になった。感謝を」
「今日はすっごく楽しかったです♪」
「いえ、こちらこそ。お越しいただいてありがとうございました!」
礼を言うすずと乙姫にニッコリ微笑み返すメイドのミカ。
――そうして、すずは乙姫をお姫様抱っこして去っていった。
「楽しんでもらえてよかったわね、ミカちゃん!」
「はい! 明日からもまた頑張りましょう、店長!」
ハイタッチを決める二人。
メイド喫茶フェルマータは、ご主人様とお嬢様のお帰りをお待ちしております☆