●リプレイ本文
●砂漠の地で
インド北西部。某都市。UPC軍駐屯地。ブリーフィングルーム――。
残党キメラ掃討の依頼を受けてやって来た8名の傭兵と智覇が一堂に会し、
作戦開始前の打ち合わせを行っていた。
(智覇と顔を合わせるのは久し振りになるな)
「相変わらず怪我が絶えないようだが‥‥ともあれ無事で何よりだ」
言ったのは天馬のジャケットを身に纏った威風堂々たる青年、歴戦のエース、白鐘剣一郎(
ga0184)。
「俺達はある程度役割を分担して敵に当たるので、
智覇は全体を見渡した上で必要と思われる所への支援を頼めるか」
剣一郎は傭兵の作戦方針を簡単に智覇に説明。
智覇は一度だけ首肯する。
「これ以上、この地上でバグアの好きにはさせないんだからなっ!」
長い髪を後ろで纏めた美少女‥‥いや、それと見紛う美少年が声を上げる。
彼の名は勇姫 凛(
ga5063)。アイドル傭兵である。
(‥‥それに智覇は傷だらけになってまで頑張ってるみたいだから、
同じ傭兵として力にならないといけない気がする‥‥。
正直、智覇は温泉で会った印象しかないんだけど‥‥普段はどんな感じなんだろう‥‥?)
ちらりと智覇の顔を見たのち、
「こんにちは智覇、確か大分前に温泉で会って以来だよね、今回はよろしく」
挨拶する。‥‥智覇は少し間を置いて「よろしくお願いします」とだけ言った。
(位置を掴んだ敵は速やかに叩く‥‥。
もたもたしていて被害が出てから後悔しても遅いってとこか。
確かにその通りではあるが‥‥。
いつもあんな調子なんだとしたら何かの弾みでいつか壊れるんじゃないか、あの娘)
同じく智覇へ視線を向ける男が1人。
「ま、人の心配が出来るほど俺は強くはない‥‥か」
男はカウボーイハットのつばをくいっと引き、目元を隠す。
「今回は砂漠で、はぐれキメラの掃討ね。確か前は極寒の地ではぐれワーム退治だったな」
男の名はゲシュペンスト(
ga5579)。亡霊騎士と呼ばれているらしい。
「そういえば智覇さんと一緒にまともな戦闘って久しぶりだね〜♪
お互い頑張ろうなのだ♪」
元気いっぱいに挨拶する小麦色の肌のちみっこ‥‥もとい、小柄な少女、香坂・光(
ga8414)。
彼女は智覇の温泉仲間だ。智覇は「全力を尽くします」とだけ無表情に言う。
「智覇さん、ご無沙汰しております。
先生は‥‥姿は見えませんが、お変わりありませんか?」
続いて智覇に声をかけたのは斑鳩・八雲(
ga8672)。
いつも一緒に居るはずの、智覇の主治医の姿が見当たらないのできょろきょろと辺りを見回す。
智覇は「変わりはありません。いつも通りです。彼女は宿に詰めています」と答えた。
光と同じくらい小柄で幼い容姿をしているが、
本人の話によれば成人しているらしいソーニャ(
gb5824)は――
他のメンバーと同じく‥‥もしくはそれ以上に、智覇に興味を持っているようで、
端末を弄って傭兵向けに公開されているULTのデータベースにアクセス。
過去、智覇が参加した依頼の報告書を片っ端から閲覧していた。
(にゅ、今回は敵さんいっぱい居るみたいで大変ですけど、
智覇お姉ちゃんと一緒に頑張りますの)
こちらも小柄‥‥愛らしい容姿‥‥しかし――
規格外のスーパーバストを持つ美少女、来栖・繭華(
gc0021)。
「にゅ、お久しぶりですの。今回もよろしくお願いします、智覇お姉ちゃん」
ぺこりとお辞儀して智覇に挨拶。
「こんにちは、繭華さん。こちらこそよろしくお願いします」
智覇は少しだけ微笑み、繭華の頭を撫でる。
繭華はくすぐったそうに、嬉しそうに豊満な身体を振るわせた。
スーパーバストがゆさりと揺れる‥‥。
(機械化したキメラとの戦闘は初めてだが、どんなものだろうか‥‥)
露出の多い服装をした、引き締まった肉体の女性、クティラ=ゾシーク(
gc3347)は思案。
機械化キメラとは有機物と無機物を融合させた‥‥通常のキメラよりも更に異形の生物‥‥。
フェザー砲やプロトン砲などが装備されていることが多い。
「私はクティラ=ゾシークという。よろしくな」
ともあれ、一度思考と中断し、彼女は皆に挨拶をした。
しばらくして――出撃。
●VS残党キメラ1
だだっ広い砂漠を駆ける9機のKV――。
「今回は敵の数が多い。敵の連携は出来るだけ寸断し、
こちらが個別撃破されぬよう注意して当たろう」
剣一郎の機体はシュテルン・G『流星皇』。
「了解です、剣一郎さん。‥‥通常の依頼は随分と久々ですねぇ、ディアブロ」
八雲の機体はVU処理の行われていないノーマルのディアブロ。
「凛、頑張るよっ。亀キメラのプロトン砲で、遠距離支援なんてさせないんだからなっ!」
凛の機体はハヤテ。
「ちゃっちゃと片付けでお風呂に入りたいところだねー。でもお風呂ってあるのかな?」
光の機体はペインブラッド改。
「シャワーならあります」
と、灰と黒に塗られたシラヌイ改に搭乗する智覇から通信。
‥‥間もなく敵群を捕捉。
「結構居るな‥‥。一体何処から沸いて出たのか‥‥」
ゲシュペンストの機体はスレイヤー『ゲシュペンスト・フレスベルグ』。
繭華の機体、ピュアホワイトXmas仕様『アルテミス』のカメラが動く。
敵にマーカーを付け、ナンバリングを開始。
「繭華は智覇お姉ちゃんと一緒に行動しますの。
智覇お姉ちゃんが孤立しないようにサポートするですの。
それに、皆が戦い易いようにしっかり支援しますの」
「頼りにしています」
と、智覇から短く通信。
「ピュアホワイト‥‥最新鋭機のはずが、妙に懐かしいですね。
ふふ、僕も遂に焼きが回りましたか」
八雲は繭華機にカメラを向け、口元を綻ばせる。
ソーニャの機体はロビン改『エルシアン』。
「データリンク構築確認。虎型10体、巨人型5体、亀型5体‥‥だね」
クティラの機体はラスヴィエート『輝2号』。
「あれが機械化虎キメラか‥‥」
モニターに映る敵を見据え、目を細めるクティラ。
***
接敵。まず動いたのはゲシュペンスト機。
「喰らえ!!」
ゲシュペンストがトリガーを思い切り引く。
G−44グレネードランチャーを敵の密集地点に発射、先制の一撃を加える。
‥‥榴弾が炸裂。爆炎と砂煙が舞い上がる。
グレネードの着弾を確認後、光機は【強化型SES増幅装置『ブラックハーツ』】を使用。
「続いてあたしもいくよ! 褌の力を借りて――必殺の、真雷光破!!」
視界は効かない‥‥繭華機からの位置情報を頼りに、
【真雷光破<ヴォルテックスマッシャー>】で範囲攻撃を行う。
「道を切り開くのは任せろー」
G放電装置の雷撃がバリバリと奔る。
‥‥レーダーに映る敵機の赤いマーカーが数個消えた。
今のグレネードと真雷光破で数体撃破したらしい。
(飛び道具が投擲武器だけなら、射程を考えれば必然的に前衛に出てくるはず。
巨人を押さえれば、亀や虎などを叩くにもリスクは減らせるだろう)
「まずは露払いからだな。行くぞ、流星皇!」
気合の篭った叫びと共に剣一郎機はブーストを使用。
機刀『獅子王』を抜き、緋色に輝く刀身を煌めかせ、
CA−04Sチェーンガンの砲弾をばら撒きながら前進。先陣を切る。
それから他の傭兵達も各対応班に分かれて行動を開始した。
***
虎型キメラ対応班――
光機はヘビーガトリング砲で弾幕を展開。
無理矢理突破してきた敵に対してはすれ違いざまにソードウィングで斬り付ける。
「ふっふー、隙あり♪ 耐久力は低くても白兵戦だって出来るんだぞ♪」
だが――敵も一方的にやられているばかりではない。
フェザー砲が飛んできて光機の装甲を焼き焦がす。
「くぅ‥‥でもこのくらい! 智覇さん、援護するよ! 一気にやっちゃおう〜!」
「了解です」
との返答。智覇機もガトリング砲で弾幕を張りつつ、接近した敵は刀で始末していた。
クティラ機は――【照準最適化機能】を使用。
2つの90mm連装機関砲で猛烈な弾幕を張り、敵の足を止める。
そののちにガトリング砲『嵐』の集中砲火でトドメを刺していった。
「足さえ止めれば後はどうとでもなる」
しかし、やはり突破してきた敵が牙と爪による攻撃を繰り出してくる。
咄嗟にクティラは【受防最適化機能】を使用し、受ける。
敵の攻撃は装甲を浅く抉ったのみ。
「こいつは頑丈なんだよ、多少のことじゃあ、やられない。根性見せろよ、輝2号」
反撃の弾幕を放つ。
「2人とも、そろそろ止めの一発いくよ♪」
クティラ機と智覇機が両側面からの砲撃で敵を誘導。
「皆纏めてどっかーん、なのさ♪」
そこへ光機がブラックハーツ使用の真雷光破を放ち、高熱量と雷撃で焼き払う。
‥‥動く敵は極僅かとなった。
「ふう、粗方片付けたかな? それじゃあ残りの掃討にいこうなのだ☆」
「まったく、害獣駆除も大変だぜ」
「‥‥」
3機は虎型キメラの掃討に入った――。
***
支援班――
ソーニャ機は【アリスシステム】を常時起動。
「ターゲットロック、砲撃支援開始するよ」
中距離からレーザーライフルWR−01Cとショルダー・レーザーキャノンで砲撃。
「司令官っぽいキメラさん、探してみますの、見つけたらご連絡しますの」
各機に連絡。繭華機は管制と戦況の把握に徹していた。
突破してくる敵が居ればプラズマライフルで攻撃。
「司令塔かぁ‥‥居るのかな? 居るとしたら攻撃してこないヤツかな」
ソーニャはレーダーやモニターで探してみるが‥‥それらしきものは見当たらなかった。
それは繭華も同様。やはり敵は残党。寄せ集めの有象無象らしい。
「‥‥死んだら守りたいものも守れないよ」
ソーニャは司令塔の索敵を止め、さり気なく、虎型キメラと近接戦を行う智覇機を援護。
マイクは切ってあった。
「亀さんがプロトン砲の発射態勢に入りましたの、注意してくださいですの。
回避運動、よろしくですの」
その後も繭華機は味方を支援する。
●VS残党キメラ2
巨人型キメラ対応班――
「数で勝る敵と戦うには頭を潰すか囲んで袋叩くか‥‥」
ゲシュペンスト機は機盾『アルデバラン』を構え、
試作型『スラスターライフル』で弾幕を張りながら前進。
――砲弾は巨人の棍棒によって防がれる。
「チッ。‥‥どの戦法で行くにしろ時間は掛けたくないな」
思考を巡らす。普通に考えれば後者。
「相手がキメラなら頭部を潰せば!!」
接近し、機杭『白龍』で巨人の頭を狙う‥‥!
しかし、またも棍棒で防がれるが‥‥棍棒は耐久力が限界に達したのか、砕けた。
巨人はダガーを投擲してくる。ゲシュペンスト機は回避運動。
剣一郎機も同様に巨人と交戦。
巨人は棍棒を振り下ろす。剣一郎機は回避。
棍棒は地面に打ち付けられ、激しく砂が舞いあがる。
「なるほど、威力があるようだが、当たらなければ意味はあるまいっ」
カウンター。機刀『獅子王』を一閃。
棍棒を持った巨人の腕がすっぱりと断ち切られ、地面に転がる。
「‥‥! やらせはしない」
背後から迫っていたもう1体の巨人に対し、剣一郎機はブーストを使用。
疑似慣性制御により、方向を急転換。
練剣『オートクレール』で、一刀のもとに斬り伏せる。
ゲシュペンスト機はスラスターライフルの射撃で牽制し、敵が怯んだところへ――跳躍。
「究極! フレスベルグキィィィック!!」
脚部に装備したレッグドリルで蹴りを見舞う。それは命中し、巨人の腹を抉った。
***
亀型キメラ対応班――
「さて、ロートルに付き合っていただきましょう。‥‥ディアブロ、突貫」
八雲機は敵の射線に入らぬよう、細かく移動しながらスラスターライフルで射撃。
敵の堅牢な甲羅を徐々にだが、削ってゆく。
亀型キメラは八雲機を捉えるべく、旋回を繰り返す。
その隙に八雲機はライト・ディフェンダーで連続の斬撃を加え、ドリルで頭部を攻撃。
大ダメージを受け、がむしゃらに重機関銃を発砲する亀型キメラに対し、
八雲機は【アグレッシブ・フォース】を使用。
「これでトドメです」
ソードウィング側面から深く斬り裂く。‥‥体液を噴出し、亀型キメラ1体が沈黙。
「どんなに分厚い装甲だって、ただ刺し貫くだけなんだぞっ!」
凛機は【CRブースター】に点火して一気に距離を詰める。
その上で【アサルト・アクセラレータ】を起動。
凄まじい速度から、練機槍『旋』によるチャージアタックを仕掛ける。
――それは深々と亀型キメラの甲羅を貫いた。キメラはぴくぴくと痙攣。
槍を引き抜き、再度一撃。キメラは動かなくなる。
そこへ――繭華からの警告。ほぼ同時に警告音が鳴り響く。
別の亀型キメラのプロトン砲の砲口が凛機を狙っていた。
今からでは避け切れない――!
「電磁装甲ON! 弾け、ハヤテ!」
【超伝導AEC】で防御。威力は大きく減じられ、表面装甲が融解したのみ。
「仲間を撃たせはしないんだからなっ!」
態勢を立て直すと、凛機は再び攻撃。
「そんな遅い動きで振り切れると思うなっ! リニアカノン――シュートッ!!」
照準。試作型リニア砲を発射。‥‥亀型キメラの砲塔が爆発。
‥‥ほどなく、残党キメラ群は全滅した。
●智覇という人物
UPC軍の駐屯地へ帰還した傭兵達は各々で休息を取る。
光と繭華は智覇を誘って一緒にシャワールームへ。
「わぁー‥‥やっぱり繭華さんはおっきいのだー‥‥」
「‥‥EXクラスですね」
「2人とも‥‥どうしたん‥‥ですの?」
「‥‥」
「‥‥」
「光さん? 智覇お姉ちゃん?」
「うりゃー!!」
「‥‥」
「ひゃああ‥‥あああん!!」
「ああもう、どうすればここまで‥‥なんかむかついてきたのだ‥‥」
「エミタの神秘ですかね‥‥」
「ダメですのぉ‥‥! そんなに揉んだらダメですのぉ‥‥!」
などという乙女達の嬌声がシャワールームに響いていたそうな。
***
ソーニャは‥‥わざわざ宿まで智覇の主治医を呼びに行き、事情を話し、
身分証明書まで見せて、主治医を近くの酒場へ誘って来ていた。
ちなみに主治医はお酒は飲まないそうなので、2人ともジュースである。
「女の子はお喋りがあればジュースで一晩過ごせるんだよ」
そうしてソーニャは語り始める。
「智覇のあの戦い方は衝動なんだろうね。
守りたい、助けたい、それが智覇の全てを満たしている。
自分や自分に寄せられる想いにさえ気付かないほどに。
熱くて優しい。感情が溢れすぎて表現出来ないタイプかな?」
それが、ソーニャが導き出した智覇の人間像だった。
メガネをかけた知的な雰囲気の女性に目をやるソーニャ。
だが‥‥返答は無し。ソーニャはそのまま続ける。
「自分を、周りを一切顧みない優しさ‥‥。
そんな彼女に寄り添うのは覚悟が必要だね。
女医さんって意外につわものなんだね」
「そうかもしれないわね‥‥」
主治医はそれだけ言った。
こうして、依頼は無事完了。夜が更けていく‥‥。