●リプレイ本文
●宴の前に
普段から行動的なエスカテリーナ(gz0489)が、自身の本拠地であろう洋館に傭兵を招く。これにはいささか違和感があった。
そんな彼女と腐れ縁のトゥリム(
gc6022)は、因縁を断ち切るべく愛用の拳銃と盾を構える。
「いつもなら食事会を楽しむところだけどね」
少女に焦りや不安の色はなく、いつものように冷静。それを見たクレミア・ストレイカー(
gb7450)が、満面の笑みで「いい子ねー」と呟く。作戦が成功したら、「それを口実に、思いっきり抱きしめてあげようかしら」と目論んでいる。
そんな彼女の興味は、敵であるエスカテリーナにも及んだ。特徴を知るトゥリムから、容姿や性格などを聞くが、琴線に触れるには至らない。
「性格にかなりの難あり、と見たわ。さすがにそこまでは好みじゃないわね‥‥」
こうしてクレミアのターゲットは、目前にいる銀髪の少女に絞られた。
洋館の偵察は、クレミアとハンフリー(
gc3092)が実施。今は、双眼鏡での偵察に徹している。
突入に先駆け、ハンフリーは先見の目を使い、クレミアと共に洋館に接近。付近を調べ尽くした。玄関前にある庭園の死角、洋館の屋上や窓際は念入りに観察し、正面玄関までのルートを導き出す。その間、敵の奇襲はなく、伏兵も存在しなかった。
「うーん、特にこれといった罠とかはなさそうね」
「わざわざ招待してきたからには、室内でのもてなしに期待していいのかな?」
閃光手榴弾を手にした山下・美千子(
gb7775)は「きっとそうだよ」と明るく答える。
「だって、お食事会だもんね」
言われてみれば、確かにその通り。美千子の言葉にハンフリーは納得の表情を浮かべながら頷く。
その隣には、ミリハナク(
gc4008)が可憐に立っていた。彼女はゴシック風の黒のロングドレスを身に纏い、重機関銃を担いでいる。
「素敵な晩餐になるといいですわね。ま、喰らうのは私たちですけど」
それを聞いた加賀・忍(
gb7519)は「結局は戦闘するんだから」とストレートな考えを口にした。美しい言葉や衣装で着飾っても、今から始まるのは純然たる殺し合い。それが楽しめるのなら、異論はない。大太刀「如来荒神」を担いだ忍は、血路残塊の場にて経験を得て、力の糧とすることしか考えていなかった。
打ち合わせの最後、美千子が閃光手榴弾を投げ入れる手はずを全員に周知。準備が整ったところで、全員が揃って正面玄関へと走り出した。
●前菜
美千子は閃光手榴弾が炸裂するタイミングを逆算し、大きな扉の目前でピンを抜く。そして集団の先頭に立ち、今一度全員の顔を見た。
「じゃあ、よろしくです」
少女がそう言うと同時に、扉を少しだけ開く。その隙間に閃光手榴弾を投げ入れると、また扉を閉め、全員が炸裂の瞬間に備えた。
扉が震えるほどの音が放たれたと知れば、すぐに扉を大開きにして突入。美千子は閃光に目をやられた少女たちに対し、容赦なく十字撃を放つ。雷刃と雷槍から放たれる衝撃波は青く輝き、褐色の肌を焼き切った。
「こんばんはー、ご飯食べに来たよ。どうせ山猫軒的なお食事会なんだろうけど」
食うか食われるかの晩餐は、ここからが本番。1階のエントランスホールには、同じ顔の少女が多数立ち塞がる。2階へと誘う階段の踊り場にはオールバックの執事が直立不動で立っており、傭兵たちに向かって恭しく礼をする。
「皆様、ようこそおいでくださいました。メアリーがお食事の準備をいたしますので、しばらくお待ちください」
「お招きありがとう。まずは手土産を受け取ってくださいな」
ミリハナクは妖艶に微笑むと、ホールの中央に重機関銃を設置。猛撃を駆使し、階段の前に立つメアリーたちに向かってぶっ放す。硝煙に混ざって香る肉の焦げる匂いが充満する。これこそ、戦場でしか味わうことのできぬ珠玉のハーモニー。捌いた量は半端ではない。
「新米のコックが、最高のシェフに勝てるかしら?」
銃を持ったメアリーは目前の「食事」に向かって反撃するも、竜の娘は倍以上の火力で応戦。無論、敵うはずもなく、彼女たちは短い人生を無残に散らした。
美千子とミリハナクが1階のメアリーを料理する間に、他の4人は階段へと急ぐ。ミリハナクが初手で階段への道を開いてくれたが、1階の奥からメアリーがまだまだ出現。行く手を阻む。
「あなたは生きたいの? 死にたいの?」
探査の眼を発揮して万全のトゥリムは、クルメタルで的確に急所を狙い、メアリーを寄せ付けない。しかし内心は、生気の通わぬ目をした敵の扱いに困っていた。エスカテリーナのエゴで生み出された少女らに生死を問うても、明確な答えを持っているはずがない。始末は仲間に任せ、自分は先を目指した。
階段の突破には、執事の行動を阻む必要がある。ここでクレミアが踊り場の前で立ち止まり、拳銃「ヘリオドール」を構える。そして跳弾を用い、戦闘を有利に展開。徒手空拳の執事は弾丸を避けるしかなく、シャツを鮮血で染める。
しかし怯むことなく、軽やかな身のこなしで前へ出た。
「おっと、ここは私が相手だ」
ここで前衛を担うハンフリーが横槍を入れる。彼は執拗に執事の手足を狙って攻撃。閃爪「ラジェーション」で露骨に四肢を狙いつつ、超機械「マジックステッキ」で不意を突く作戦だ。
しかし序盤は、階下から迫るメアリーがちょっかいを出してくるので、そちらに超機械の攻撃を向けざるを得ない。
「その杖は、私がお預かりいたしましょう」
執事の狙いは、超機械。お辞儀のようなアクションから不意打ち気味に強烈な蹴りを放つ。これを「避け切れない」と判断したハンフリーは、反射的に鎧の装甲が厚い部分で攻撃を凌ぎ、武器の紛失を防ぐ。
「来るのがわかっていれば、対応できないことはない」
ここでクレミアが執事に向かって銃撃を繰り出すが、これはあくまでエスカテリーナを狙う忍とトゥリムへのフォロー。ふたりはこの隙に、まんまと執事の横を通り抜けた。
その刹那、トゥリムが執事に問うた。
「なんでこんなになるまで放っておいたの」
真の忠臣は、主の無法を諌めるものだ‥‥それが少女の考えである。
「お嬢様のご意思に背くことこそ、不忠でございます」
あまりにも短絡的で妄信的な執事の物言いに、さすがのハンフリーも呆れた。
「あのクローン‥‥いや、同一個体への改造か。あれを見れば、何を考えているかは一目瞭然。トゥリム殿への返事も、想定の範囲内だな」
「さて、底も知れたことだし。そろそろ本気で行こうかしら?」
クレミアが銃を扱うたび、七色の爪が煌く。それに負けじとハンフリーも深緑のオーラを輝かせた。
●メインディッシュ
2階にもメアリーが存在するが、数は少ない。忍は横壁を蹴り、敵の背後に回って如来荒神による必殺の突きを繰り出す。それをすばやく引き抜き、迫り来るメアリーを返す刀で始末。廊下はどす黒い血と無残な屍で埋まりつつあった。
同じ顔の少女に戸惑いを覚えていたトゥリムも、この場において躊躇することはない。忍に有利な状況を作る攻撃をしながらも、チャンスがあればメアリーの脳天を狙い、確実に動きを封じていく。
「自分で死ねるわけ、ないよね」
造られた存在という点には同情するが、人を襲うとなれば話は別。自我もないから、始末するしかない。構えた盾は、返り血で赤く染まりつつあった。
メアリーを退け、当主への道を開く。しかし一番奥の部屋は、外側から大きな錠がかかっていた。自室を無法者に見せるつもりはない、ということか。
「こういう場合は、執事の部屋を使うものよ」
忍はひとつ手前の部屋まで多角的な動きを駆使して接近し、そのまま扉を蹴って中へ。トゥリムがそれに続く。
そこは飾り気のない殺風景な部屋だった。突き当たりに大きな机があり、その手前にソファー、左側に扉。ここから当主の部屋に入れるのだろう。
しかしエスカテリーナの姿は、この部屋の中央にあった。大きな機械剣を担ぎ、ドレスも戦闘用にあつらえたものだ。
「ごきげんよう。ご機嫌いかが?」
お食事会におしゃべりは付き物とばかりに、彼女はご招待の言葉を述べる。その振る舞いは、高貴というより不遜に見えた。
「大勢は決したのに、まだこんなことするの? 地球が気に入ったようだけど、それは貴女自身の思い? それともヨリシロの意識?」
「何をおっしゃってるの? 私は私。それが答えですわ」
バグアの敗北で激しく動揺し、自暴自棄になった末の行動ではない。あくまで我が道を行く。それが当主たるエスカテリーナの生きる道なのか。少女は一定の理解を済ませ、小さく「うん」と頷いた。
それを合図に、忍が迅雷で肉薄。武器の形状から察するに、遠距離への砲撃が可能だ。自由に使わせるわけにはいかない。
「戦いの腕はどんなものかしら?」
忍の間合いで始まった戦いだが、エスカテリーナはすぐさま対応。巨大な得物を軽々と操り、すぐさま自分のリズムで応戦する。それはまるで舞踏会の主役になれるであろう美しいステップだ。
「このくらいのエレガントさは持ち合わせていますわ」
小柄な体から繰り出される斬撃、そしてパワフルに銃身をぶつける攻撃に忍はやや苦戦。ダメージは最小限に留めるように動くが、序盤は押され気味の展開に。ただ、この傷の痛みが、彼女の奮い立たせる。
「叩き潰し、薙ぎ払い、踏み躙る‥‥」
明らかに異なる性質が、執事の部屋でぶつかり合った。
トゥリムは忍のフォローに回り、牽制の銃撃に徹する。回避や防御、リロードを無難にこなせるよう意識した行動を心がけた。
●食後のデザート
2階奥の交戦を察知した美千子とミリハナクは、メアリー退治のスピードアップを図る。
美千子は、メアリーが湧いて出てくる廊下に到達。ここで多数を相手にすることはない。地の利を活かし、確実に敵を退治した。
一方のメアリーは、狭い通路での戦いが不慣れで、仲間同士で邪魔し合う始末。この時点で、勝負は見えていた。
「もう終わり? メアリーちゃんは小食だね」
甘いものは別腹とばかりに、美千子の雷槍・雷刃がメアリーを食らっていく。攻撃を丁寧に受け止め、すぐさま反撃。それはまるで食事を味わって食べているかのようにも見える。
ホールに残ったミリハナクは、重機関銃で豪快に敵を平らげると、今度は滅斧「ゲヘナ」に持ち替える。こちらは「豪快に食い散らかす」といった感じだ。
「そろそろ数も減ってきたことですし‥‥」
ふと踊り場に視線を向けると、ハンフリーとクレミアが執事と一進一退の攻防を継続している。前衛のハンフリーは重苦しい打撃に耐えつつも、反撃という形でなんとか左腕の動きを鈍らせるほどのダメージを与えた。しかしその後はお互いに決定打がなく、長期戦に。練成治療で傷を癒し、今後の展開を思案している隙を突かれ、執事がターゲットをクレミアに変えた。
「ぜひ、そちらのお嬢様もお楽しみくださいませ」
「それじゃあ、バーベキューにしてあげるわ!」
クレミアは大きなアクションで銃を構え‥‥たかと思いきや、死角でそれを手放し、直刀「鳳仙」にスイッチ。急所突きを発揮し、すばやく脇腹を狙う。バーベキューの串は良質な肉を捉え、すっと刺し込まれた。
「これはこれは、見事なお手前‥‥」
執事は気丈にも称賛するが、口元を伝う血は滝のように迸る。
ハンフリーが、この機を見逃すはずがない。脇腹の傷口を狙い、電波増強で威力を高めた電磁波で肉を焼く。
「レア? いや、ミディアムだ」
執事は下品にならぬ程度の苦悶を響かせた。クレミアは地面に落ちようとする銃を左のかかとで蹴り、再び手中へ。そして貫通弾を込め、部位狙いで頭部を狙う。
「先に逝くといいわ。エスカテリーナは、すぐに後を追わせるわよ」
弔いの言葉もそこそこに、クレミアは引き金を引く。その弾は頭蓋を通り抜け、従順なる男の命を奪い去った。
これを見たミリハナクは、奥の廊下で奮闘する美千子に「ここ、任せていいかしら?」と声をかけた。彼女は相変わらずの明るさで「任せといて」と返事し、竜の娘を2階へと押し上げる。これにクレミアが続いた。
●終焉
援軍が迫る頃には、忍はエスカテリーナのリズムを操るほどにまで慣れていた。戦況は決して有利ではないが、時間稼ぎには十分である。砲撃を使わせない間合いを保ち、その上で一撃離脱を繰り返す。その隙をトゥリムが埋めれば、大崩れはしない。
「その大剣に血を吸わせないわ」
忍が挑発すれば、相手も「それはどうかしら」と意地になる。これでいい。
ところが、そんな彼女が冷静になるチャンスが訪れた。階下で戦っていた2人が扉から押し寄せるのが見えた瞬間、エスカテリーナは武器を構え直す。
突然の砲撃。今まで鳴りを潜めていた強引さを目の当たりにした忍は、反射的に射線から離れた。
「くっ、気まぐれなお嬢様‥‥」
だが、トゥリムはこの事態に備えていた。
彼女はすぐさま盾をエスカテリーナに向かって放り投げ、忍と同じく横っ飛びで射線から離れる。束ねた髪を揺らしながら、瞬時にガトリング砲に持ち替え、影撃ちを駆使した射撃で当主に牙を剥いた。血しぶきが舞い上がる中、最後の一撃は砲塔に向けて発射し、これの破壊に成功。そしてガトリングを引っ込め、予備の盾を構え直し、再び先ほどの戦闘スタイルに戻った。
「くはっ! これが‥‥あなたのとっておき、なのね」
援軍が苦せず、主なき執事の部屋に突入。クレミアが跳弾で牽制しつつ、ペイント弾4発で目を狙う。そのうち1発が左目に命中。エスカテリーナの視界を狭めた。
漆黒のドレスがまぶしいミリハナクは、剣劇を用いて手数で圧倒。その威力で武器を叩き落す。忍が猛撃を駆使した如来荒神の一閃で完全に破壊した。
「まったく、過ぎたおもちゃだ。この武器も、お前自身も」
忍はそう言いながら、強刃を用いた渾身の刺突を繰り出す。腹から背を貫かれ、エスカテリーナの体がビクンと跳ねた。
それと同時にミリハナクは両断剣・絶をゲヘナに纏わせ、袈裟斬りの要領で叩き切る。その威力は半端ではなく、エスカテリーナから生命どころか、その可憐さまでもを奪った。体も魂も、そして傲慢な心さえも断ち切る滅閃である。
「ごちそうさま。楽しい食事会でしたわ」
「く、あ‥‥」
元の姿を失った少女を見て哀れに思ったのか、トゥリムがとっさに銃を構えた。狙いは、エスカテリーナのこめかみ。それは容赦のない略奪の一撃である。
「さようなら」
この瞬間、エスカテリーナは光を失う。奔放な人生の最期は、あまりにも無残であった。
残されたメアリーも、美千子とハンフリーによって討伐完了。洋館は大きな棺となった。はたして、血生臭い晩餐を終えた傭兵たちの気持ちは満たされたのだろうか。
(代筆:村井朋康)