タイトル:晩餐マスター:遠野

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/21 01:41

●オープニング本文


「お嬢様、本星は崩壊。他の方々も地球から撤退しつつあります」
 男はそこまで言って「いかがなさいますか?」と視線で目の前の少女に問いかけた。
「腰抜けは放っておきなさい」
 にべも無く少女、エスカテリーナは言った。
「私はこの星が気にいったの。こんなにいい星は滅多にないわ」
 そう言って、少女は高級そうな革張りのソファから立ち上がると、部屋の奥にある机に近寄り引き出しから手紙を一通取り出した。
「これを届けてきてくれないかしら」
 男は恭しく手紙を受け取ると懐にしまった。
「それと‥‥帰ってきたら準備をお願い」
「準備ですか?」
 少女はコロコロと喉の奥で笑った
「そう、宴の準備をして頂戴」
 そして、さらに口元を三日月のように大きく吊り上げた。
「メアリーを起こすわ」



●???

とくん。

少女が最初に知覚したのは生ぬるい水と、暗闇。

ああ、自分は水の中にいる。

息苦しくはない。むしろ心地いい。何も考えたくない。

とくん。

と、空が裂けた。水と一緒に少女は冷たい床に叩きつけられる。眩い光に少女は目を瞑る。

「おはよう、メアリー」
 真っ白な世界の奥から幼い声が降って来る。
「やっと会えたわね、私はエスカテリーナ。エリーと呼んでね」
「エ‥‥リー‥‥?」
 メアリーがオウム返しすると、エリーの嬉しそうな、はしゃいだような声が響いた。
「そう! エリーよ! ふふっ、嬉しいわメアリー‥」
 そう言って愛おしそうに抱きしめようとしたが、腕が触れる寸前ピタリと止まる。
「‥‥まずは体を拭かなくちゃね」
 苦笑するエリー。言われて少女は自分の体を見下ろした。一糸纏わぬ、褐色の肌が濡れそぼっている。エリーが手を叩くと音も立てずに執事がすっとエリーに近づき恭しくタオルを差し出した。
 エリーはそれを受け取り丁寧に少女の体をふき取っていく。そしてエリーはおもむろに語りかけた。
「ふふ、メアリー、あなたに紹介したい人がいるの。後ろを見て、そっとね」
 少女は後ろをゆっくり振り向く。そして、少し首を傾げた。

 広い部屋に、人ひとり入れるくらいの丸い水槽のようなものに、同じ容姿の少女がひざを抱えて丸くなりながら水中に沈んでいる。それがずらりと等間隔にならんでいるのは圧巻というより悪寒が走るような光景だった。

 エリーが少女に背後からねっとりと絡みつく。そして耳元で甘く囁く。
「ねえ、お腹減ってない? もうすぐご飯が届くからね」

●UPC本部
「‥‥なんだ? これ?」
 UPC本部の職員は、本部に届いた手紙を眺め、怪訝そうに顔をしかめた。

『拝啓 時下ますますご盛栄のこととお喜び申し上げます。また、我々の同胞と親しくしていただきありがたく厚くお礼申し上げます。

 さて、私としてはお世話になった皆様方へいささかなりとも謝恩の微意を表したく、私の館にてお食事会を 催したく存じます。館への地図と館の見取り図を同封しておきます。

 ご多用中ところまことに恐縮ではございますが、何卒ご参加賜りますようお願い申し上げます。
                                      
                                       エスカテリーナ』

「‥‥ずいぶんあからさまな挑発だな」
 しかもご丁寧に根城までも晒してくれるとは。罠なのか、舐め切っているのか。
「一応調査依頼を出すが‥‥くれぐれも注意して置く様言っておかなければ」

●参加者一覧

クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG

●リプレイ本文

●宴の前に
 普段から行動的なエスカテリーナ(gz0489)が、自身の本拠地であろう洋館に傭兵を招く。これにはいささか違和感があった。
 そんな彼女と腐れ縁のトゥリム(gc6022)は、因縁を断ち切るべく愛用の拳銃と盾を構える。
「いつもなら食事会を楽しむところだけどね」
 少女に焦りや不安の色はなく、いつものように冷静。それを見たクレミア・ストレイカー(gb7450)が、満面の笑みで「いい子ねー」と呟く。作戦が成功したら、「それを口実に、思いっきり抱きしめてあげようかしら」と目論んでいる。
 そんな彼女の興味は、敵であるエスカテリーナにも及んだ。特徴を知るトゥリムから、容姿や性格などを聞くが、琴線に触れるには至らない。
「性格にかなりの難あり、と見たわ。さすがにそこまでは好みじゃないわね‥‥」
 こうしてクレミアのターゲットは、目前にいる銀髪の少女に絞られた。

 洋館の偵察は、クレミアとハンフリー(gc3092)が実施。今は、双眼鏡での偵察に徹している。
 突入に先駆け、ハンフリーは先見の目を使い、クレミアと共に洋館に接近。付近を調べ尽くした。玄関前にある庭園の死角、洋館の屋上や窓際は念入りに観察し、正面玄関までのルートを導き出す。その間、敵の奇襲はなく、伏兵も存在しなかった。
「うーん、特にこれといった罠とかはなさそうね」
「わざわざ招待してきたからには、室内でのもてなしに期待していいのかな?」
 閃光手榴弾を手にした山下・美千子(gb7775)は「きっとそうだよ」と明るく答える。
「だって、お食事会だもんね」
 言われてみれば、確かにその通り。美千子の言葉にハンフリーは納得の表情を浮かべながら頷く。
 その隣には、ミリハナク(gc4008)が可憐に立っていた。彼女はゴシック風の黒のロングドレスを身に纏い、重機関銃を担いでいる。
「素敵な晩餐になるといいですわね。ま、喰らうのは私たちですけど」
 それを聞いた加賀・忍(gb7519)は「結局は戦闘するんだから」とストレートな考えを口にした。美しい言葉や衣装で着飾っても、今から始まるのは純然たる殺し合い。それが楽しめるのなら、異論はない。大太刀「如来荒神」を担いだ忍は、血路残塊の場にて経験を得て、力の糧とすることしか考えていなかった。

 打ち合わせの最後、美千子が閃光手榴弾を投げ入れる手はずを全員に周知。準備が整ったところで、全員が揃って正面玄関へと走り出した。

●前菜
 美千子は閃光手榴弾が炸裂するタイミングを逆算し、大きな扉の目前でピンを抜く。そして集団の先頭に立ち、今一度全員の顔を見た。
「じゃあ、よろしくです」
 少女がそう言うと同時に、扉を少しだけ開く。その隙間に閃光手榴弾を投げ入れると、また扉を閉め、全員が炸裂の瞬間に備えた。
 扉が震えるほどの音が放たれたと知れば、すぐに扉を大開きにして突入。美千子は閃光に目をやられた少女たちに対し、容赦なく十字撃を放つ。雷刃と雷槍から放たれる衝撃波は青く輝き、褐色の肌を焼き切った。
「こんばんはー、ご飯食べに来たよ。どうせ山猫軒的なお食事会なんだろうけど」
 食うか食われるかの晩餐は、ここからが本番。1階のエントランスホールには、同じ顔の少女が多数立ち塞がる。2階へと誘う階段の踊り場にはオールバックの執事が直立不動で立っており、傭兵たちに向かって恭しく礼をする。
「皆様、ようこそおいでくださいました。メアリーがお食事の準備をいたしますので、しばらくお待ちください」
「お招きありがとう。まずは手土産を受け取ってくださいな」
 ミリハナクは妖艶に微笑むと、ホールの中央に重機関銃を設置。猛撃を駆使し、階段の前に立つメアリーたちに向かってぶっ放す。硝煙に混ざって香る肉の焦げる匂いが充満する。これこそ、戦場でしか味わうことのできぬ珠玉のハーモニー。捌いた量は半端ではない。
「新米のコックが、最高のシェフに勝てるかしら?」
 銃を持ったメアリーは目前の「食事」に向かって反撃するも、竜の娘は倍以上の火力で応戦。無論、敵うはずもなく、彼女たちは短い人生を無残に散らした。

 美千子とミリハナクが1階のメアリーを料理する間に、他の4人は階段へと急ぐ。ミリハナクが初手で階段への道を開いてくれたが、1階の奥からメアリーがまだまだ出現。行く手を阻む。
「あなたは生きたいの? 死にたいの?」
 探査の眼を発揮して万全のトゥリムは、クルメタルで的確に急所を狙い、メアリーを寄せ付けない。しかし内心は、生気の通わぬ目をした敵の扱いに困っていた。エスカテリーナのエゴで生み出された少女らに生死を問うても、明確な答えを持っているはずがない。始末は仲間に任せ、自分は先を目指した。
 階段の突破には、執事の行動を阻む必要がある。ここでクレミアが踊り場の前で立ち止まり、拳銃「ヘリオドール」を構える。そして跳弾を用い、戦闘を有利に展開。徒手空拳の執事は弾丸を避けるしかなく、シャツを鮮血で染める。
 しかし怯むことなく、軽やかな身のこなしで前へ出た。
「おっと、ここは私が相手だ」
 ここで前衛を担うハンフリーが横槍を入れる。彼は執拗に執事の手足を狙って攻撃。閃爪「ラジェーション」で露骨に四肢を狙いつつ、超機械「マジックステッキ」で不意を突く作戦だ。
 しかし序盤は、階下から迫るメアリーがちょっかいを出してくるので、そちらに超機械の攻撃を向けざるを得ない。
「その杖は、私がお預かりいたしましょう」
 執事の狙いは、超機械。お辞儀のようなアクションから不意打ち気味に強烈な蹴りを放つ。これを「避け切れない」と判断したハンフリーは、反射的に鎧の装甲が厚い部分で攻撃を凌ぎ、武器の紛失を防ぐ。
「来るのがわかっていれば、対応できないことはない」
 ここでクレミアが執事に向かって銃撃を繰り出すが、これはあくまでエスカテリーナを狙う忍とトゥリムへのフォロー。ふたりはこの隙に、まんまと執事の横を通り抜けた。
 その刹那、トゥリムが執事に問うた。
「なんでこんなになるまで放っておいたの」
 真の忠臣は、主の無法を諌めるものだ‥‥それが少女の考えである。
「お嬢様のご意思に背くことこそ、不忠でございます」
 あまりにも短絡的で妄信的な執事の物言いに、さすがのハンフリーも呆れた。
「あのクローン‥‥いや、同一個体への改造か。あれを見れば、何を考えているかは一目瞭然。トゥリム殿への返事も、想定の範囲内だな」
「さて、底も知れたことだし。そろそろ本気で行こうかしら?」
 クレミアが銃を扱うたび、七色の爪が煌く。それに負けじとハンフリーも深緑のオーラを輝かせた。

●メインディッシュ
 2階にもメアリーが存在するが、数は少ない。忍は横壁を蹴り、敵の背後に回って如来荒神による必殺の突きを繰り出す。それをすばやく引き抜き、迫り来るメアリーを返す刀で始末。廊下はどす黒い血と無残な屍で埋まりつつあった。
 同じ顔の少女に戸惑いを覚えていたトゥリムも、この場において躊躇することはない。忍に有利な状況を作る攻撃をしながらも、チャンスがあればメアリーの脳天を狙い、確実に動きを封じていく。
「自分で死ねるわけ、ないよね」
 造られた存在という点には同情するが、人を襲うとなれば話は別。自我もないから、始末するしかない。構えた盾は、返り血で赤く染まりつつあった。

 メアリーを退け、当主への道を開く。しかし一番奥の部屋は、外側から大きな錠がかかっていた。自室を無法者に見せるつもりはない、ということか。
「こういう場合は、執事の部屋を使うものよ」
 忍はひとつ手前の部屋まで多角的な動きを駆使して接近し、そのまま扉を蹴って中へ。トゥリムがそれに続く。
 そこは飾り気のない殺風景な部屋だった。突き当たりに大きな机があり、その手前にソファー、左側に扉。ここから当主の部屋に入れるのだろう。
 しかしエスカテリーナの姿は、この部屋の中央にあった。大きな機械剣を担ぎ、ドレスも戦闘用にあつらえたものだ。
「ごきげんよう。ご機嫌いかが?」
 お食事会におしゃべりは付き物とばかりに、彼女はご招待の言葉を述べる。その振る舞いは、高貴というより不遜に見えた。
「大勢は決したのに、まだこんなことするの? 地球が気に入ったようだけど、それは貴女自身の思い? それともヨリシロの意識?」
「何をおっしゃってるの? 私は私。それが答えですわ」
 バグアの敗北で激しく動揺し、自暴自棄になった末の行動ではない。あくまで我が道を行く。それが当主たるエスカテリーナの生きる道なのか。少女は一定の理解を済ませ、小さく「うん」と頷いた。
 それを合図に、忍が迅雷で肉薄。武器の形状から察するに、遠距離への砲撃が可能だ。自由に使わせるわけにはいかない。
「戦いの腕はどんなものかしら?」
 忍の間合いで始まった戦いだが、エスカテリーナはすぐさま対応。巨大な得物を軽々と操り、すぐさま自分のリズムで応戦する。それはまるで舞踏会の主役になれるであろう美しいステップだ。
「このくらいのエレガントさは持ち合わせていますわ」
 小柄な体から繰り出される斬撃、そしてパワフルに銃身をぶつける攻撃に忍はやや苦戦。ダメージは最小限に留めるように動くが、序盤は押され気味の展開に。ただ、この傷の痛みが、彼女の奮い立たせる。
「叩き潰し、薙ぎ払い、踏み躙る‥‥」
 明らかに異なる性質が、執事の部屋でぶつかり合った。
 トゥリムは忍のフォローに回り、牽制の銃撃に徹する。回避や防御、リロードを無難にこなせるよう意識した行動を心がけた。

●食後のデザート
 2階奥の交戦を察知した美千子とミリハナクは、メアリー退治のスピードアップを図る。
 美千子は、メアリーが湧いて出てくる廊下に到達。ここで多数を相手にすることはない。地の利を活かし、確実に敵を退治した。
 一方のメアリーは、狭い通路での戦いが不慣れで、仲間同士で邪魔し合う始末。この時点で、勝負は見えていた。
「もう終わり? メアリーちゃんは小食だね」
 甘いものは別腹とばかりに、美千子の雷槍・雷刃がメアリーを食らっていく。攻撃を丁寧に受け止め、すぐさま反撃。それはまるで食事を味わって食べているかのようにも見える。
 ホールに残ったミリハナクは、重機関銃で豪快に敵を平らげると、今度は滅斧「ゲヘナ」に持ち替える。こちらは「豪快に食い散らかす」といった感じだ。
「そろそろ数も減ってきたことですし‥‥」
 ふと踊り場に視線を向けると、ハンフリーとクレミアが執事と一進一退の攻防を継続している。前衛のハンフリーは重苦しい打撃に耐えつつも、反撃という形でなんとか左腕の動きを鈍らせるほどのダメージを与えた。しかしその後はお互いに決定打がなく、長期戦に。練成治療で傷を癒し、今後の展開を思案している隙を突かれ、執事がターゲットをクレミアに変えた。
「ぜひ、そちらのお嬢様もお楽しみくださいませ」
「それじゃあ、バーベキューにしてあげるわ!」
 クレミアは大きなアクションで銃を構え‥‥たかと思いきや、死角でそれを手放し、直刀「鳳仙」にスイッチ。急所突きを発揮し、すばやく脇腹を狙う。バーベキューの串は良質な肉を捉え、すっと刺し込まれた。
「これはこれは、見事なお手前‥‥」
 執事は気丈にも称賛するが、口元を伝う血は滝のように迸る。
 ハンフリーが、この機を見逃すはずがない。脇腹の傷口を狙い、電波増強で威力を高めた電磁波で肉を焼く。
「レア? いや、ミディアムだ」
 執事は下品にならぬ程度の苦悶を響かせた。クレミアは地面に落ちようとする銃を左のかかとで蹴り、再び手中へ。そして貫通弾を込め、部位狙いで頭部を狙う。
「先に逝くといいわ。エスカテリーナは、すぐに後を追わせるわよ」
 弔いの言葉もそこそこに、クレミアは引き金を引く。その弾は頭蓋を通り抜け、従順なる男の命を奪い去った。

 これを見たミリハナクは、奥の廊下で奮闘する美千子に「ここ、任せていいかしら?」と声をかけた。彼女は相変わらずの明るさで「任せといて」と返事し、竜の娘を2階へと押し上げる。これにクレミアが続いた。

●終焉
 援軍が迫る頃には、忍はエスカテリーナのリズムを操るほどにまで慣れていた。戦況は決して有利ではないが、時間稼ぎには十分である。砲撃を使わせない間合いを保ち、その上で一撃離脱を繰り返す。その隙をトゥリムが埋めれば、大崩れはしない。
「その大剣に血を吸わせないわ」
 忍が挑発すれば、相手も「それはどうかしら」と意地になる。これでいい。

 ところが、そんな彼女が冷静になるチャンスが訪れた。階下で戦っていた2人が扉から押し寄せるのが見えた瞬間、エスカテリーナは武器を構え直す。
 突然の砲撃。今まで鳴りを潜めていた強引さを目の当たりにした忍は、反射的に射線から離れた。
「くっ、気まぐれなお嬢様‥‥」
 だが、トゥリムはこの事態に備えていた。
 彼女はすぐさま盾をエスカテリーナに向かって放り投げ、忍と同じく横っ飛びで射線から離れる。束ねた髪を揺らしながら、瞬時にガトリング砲に持ち替え、影撃ちを駆使した射撃で当主に牙を剥いた。血しぶきが舞い上がる中、最後の一撃は砲塔に向けて発射し、これの破壊に成功。そしてガトリングを引っ込め、予備の盾を構え直し、再び先ほどの戦闘スタイルに戻った。
「くはっ! これが‥‥あなたのとっておき、なのね」
 援軍が苦せず、主なき執事の部屋に突入。クレミアが跳弾で牽制しつつ、ペイント弾4発で目を狙う。そのうち1発が左目に命中。エスカテリーナの視界を狭めた。
 漆黒のドレスがまぶしいミリハナクは、剣劇を用いて手数で圧倒。その威力で武器を叩き落す。忍が猛撃を駆使した如来荒神の一閃で完全に破壊した。
「まったく、過ぎたおもちゃだ。この武器も、お前自身も」
 忍はそう言いながら、強刃を用いた渾身の刺突を繰り出す。腹から背を貫かれ、エスカテリーナの体がビクンと跳ねた。
 それと同時にミリハナクは両断剣・絶をゲヘナに纏わせ、袈裟斬りの要領で叩き切る。その威力は半端ではなく、エスカテリーナから生命どころか、その可憐さまでもを奪った。体も魂も、そして傲慢な心さえも断ち切る滅閃である。
「ごちそうさま。楽しい食事会でしたわ」
「く、あ‥‥」
 元の姿を失った少女を見て哀れに思ったのか、トゥリムがとっさに銃を構えた。狙いは、エスカテリーナのこめかみ。それは容赦のない略奪の一撃である。
「さようなら」
 この瞬間、エスカテリーナは光を失う。奔放な人生の最期は、あまりにも無残であった。

 残されたメアリーも、美千子とハンフリーによって討伐完了。洋館は大きな棺となった。はたして、血生臭い晩餐を終えた傭兵たちの気持ちは満たされたのだろうか。

(代筆:村井朋康)