タイトル:姉と妹マスター:遠野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/25 20:02

●オープニング本文


 その姉妹は二人とも傭兵をやっていた。二人は幼い頃からなにをするのも一緒で、遊ぶ時も、買い物に行くときも、旅行に行く時も、幼稚園、小学校、中学校、高校も一緒だった。好きな映画、、好きな音楽も一緒だった。それは二人が20歳になった今でも変わらない。

「ただいま、リンカお姉ちゃん」
妹の呼び声に姉――リンカは読んでいた本から目を上げた。
 リンカは美人といって差し支えない容姿だ。気の強そうなきりっとした目、薄い唇、腰まで流れ落ちる艶やかな黒髪、きゅっとしまった腰元と、魅力的である。
「ああ、アンナ‥‥遅かったわね」
妹――アンナは「ごめん、ごめん」と言いながら家に入って来る。
 アンナの容姿は姉のようにハッとするような美人ではない。一人でいる時なら、かわいらしく見えるのだが大体の場合、近くに姉がいるためどうしても比べられてしまい、地味に見えてしまうのだった。しかし、それでもアンナにとっては周りの目はどうでもよく、純粋に姉のことが大好きで尊敬していた。いや、崇拝していたと言ってもいい。
「‥‥お姉ちゃんと一緒に行く依頼を選んでいたら遅くなっちゃった」
リンカはフン、と鼻をならす。
「依頼なんてなんでもいいじゃない、私が負けるわけ無いし」
アンナは微笑を浮かべた。
「‥‥そうよね、お姉ちゃんが負けたことことなんてないもんね。なにをするにも‥‥どんなことでも」
リンカは当然よ、とばかりに胸を張る。彼女は負けん気が強い、何事も勝たねば気が済まぬ気質だった。
「で? 相手はなんなの」
アンナは答える。
「‥‥体長三メートルのゴーレムのキメラ。それから機銃みたいなものを背負った狼のキメラが8体いるって――」
「楽勝ね」
即答するリンカに、アンナは苦笑した。
「‥‥うん、でも油断しちゃだめよ?」


 二人は、キメラがいるという草原に到着した。
「あ、いたいた」
見晴らしのいい場所だ、問題のキメラはすぐに見つかった。こちらに気づいた素振りは無く、ゴーレムの周りを狼達が徘徊している。
「‥‥あれは?」
アンナはゴーレムの中央を指差す。見ると、ゴーレムの中央に妖しく、赤く煌く宝石のような物があった。
「さぁ? まぁどうでもいいじゃない、行くわよ!」
リンカは言うなり刀の柄に手をかけ、駆け出す。
と、その時ゴーレムの中央の石が一瞬キラッと輝く。
(? なに――)
次の瞬間、赤い石から先ほどとは比べ物にならないほどの強烈な光が溢れ出した。
「きゃああああああああああ!!」
真正面から光を見てしまったリンカは目を押さえ、地面をのたうち回る。
「お姉ちゃん大丈夫!?」
閃光を食らわなかったらしいアンナの声がして、パタパタと足音が近づいてくる。
「あ、あぁ‥‥アンナ‥‥たすけ――」
ほっとして、目を押さえていた手をどけた瞬間、
「――っあああああああああああああ!!」
左側の顔面に激痛が走った、反射的に顔をおさえると、なにか暖かいモノがどくどくと流れ出していた。そのまま目の前が真っ暗になる。

流れ出したものが血だということに気がついたのは病院のベットの上だった。


「うそ‥‥」
診察室で、向かいに座った医者から聞いた説明にリンカは絶句した。
「視力は戻らない‥‥ですか?」
アンナが恐る恐る聞くと、医者は頷いた。アンナはあの後、キメラの猛攻を受けながらも傷ついたリンカを何とか連れて、その場から退却したのだ。
「はい‥‥傷の自体はある程度消せるでしょうが‥‥眼球までは‥‥」
リンカは脇に立てかけてある鏡を見た。
そこに映っていたのは、顔の左半分を覆い隠すように包帯でグルグルに巻かれていた姿だった。左目が見えないのは包帯だけのせいではないと今、知ってしまう。
「‥‥じゃない」
「え?」
リンカが体を震わせたと思ったら、急にキッと顔を上げた。片目には涙を浮かべている。
「冗談じゃないわ!!」
椅子を蹴って立ち上がり、そのまま病室を飛び出してしまった。


 息を切らして自宅に駆け戻ったリンカは包帯を乱暴にほどき鏡の前に立つ。やはり、狼に攻撃されたのだろう顔の左側に爪で引っ掻いたような、深い後が残ってしまっていた。
「くそ!!」
リンカは拳で鏡面を叩き割る。彼女にとって顔を傷つけられたこともショックだったが、なにより負けたと言う事がショックだった。
「‥‥絶対に許さない」
リンカは武器を手にすると家を飛び出した。今度こそ勝利をもぎとるために。


「助けてください!!」
アンナはまだ癒えていない体を引きずるようにして、オペレーターに詰め寄った。
「ど、どうしました?」
「お、お姉ちゃんが‥‥お姉ちゃんが‥‥」
アンナの話をまとめると、姉が行方不明になったらしい事、そして恐らく行き場所はキメラが出没する草原だということだった。
「‥‥多少、無鉄砲でも私の大事なお姉ちゃんなんです! どうか助けてください!! ‥‥ほんとに大事な人なんです――」
 職員は泣き崩れてしまったアンナを介抱しつつ、同僚に依頼を出すようお願いした。

●参加者一覧

狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
カズキ・S・玖珂(gc5095
23歳・♂・EL
大神 哉目(gc7784
17歳・♀・PN
柊 美月(gc7930
16歳・♀・FC
真下 輝樹(gc8156
22歳・♂・CA

●リプレイ本文

 傭兵達は草原を走っていた。そのまま現場まで高速艇に乗って急行してもよかったのだが、もしかしたらリンカが戦闘に入る前に合流できるかもしれない、そしてあわよくばリンカを説得できるかもしれないと考えたからだ。
「いくら初見だったとはいえ、一度やられた相手により不利な状態で挑もうとか、完全に頭に血が上ってるわねー」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)が呆れたようにに呟いた。
「下手に刺激すると面倒なことになりそう」
 リンカを心配するフローラにカズキ・S・玖珂(gc5095)が淡々と言う。
「己を過信する兵士は生き残れない。彼女は死ななかっただけ幸運だ。」
 そしてサングラスを中指でクイッと上げて、
「まあ、せっかく拾った命だ。助けるさ」
 もっとカズキは説得を自分がするつもりはなかった。女のヒステリーは怖い、自分ではとても無理だと判断したのだ。
「あれ〜、あの方リンカさんじゃないですか〜?」
 ふんわりと間延びした口調で言って、柊 美月(gc7930)は前方を指差した。
 見ると、、前方に体を引きずるようにして歩くリンカの姿があった。
早速フローラが近づき、横に並んで話しかけた。
「あなたが、リンカさん? 事情は知っているわ。協力してもいいかしら?」
 リンカはきっ、とフローラを睨みつけた。片目には生生しい傷跡が残っている。
「よ・け・い・な・お世話よ!! 私一人でも十分倒せるわ! 私の獲物に手を出さないで!」
「ふーん、最初は二人がかりで倒されたのに?」
 いつにまにか、大神 哉目(gc7784)が横に来てぽそっと言った。動揺するリンカ。
「あ、あれはたまたまよ‥‥そ、そうよ! あの時はアンナがいたから気にして実力が発揮できなかったのよ! 私が弱いからじゃないわ‥‥絶対そうよ」
「きみねぇ‥‥」
 あくまで自分の非を認めようとしないリンカに大神はあきれ返った。普通ここまでコテンパンにやられたら気づきそうな物だが。
「‥‥わかりました。リンカさん」
 見かねた真下 輝樹(gc8156)が言う。
「では僕達に助力させてください。バグアが憎いという感情、出所は違えど俺も同じです。ですから、連れ戻すためではなく敵を倒すためにリンカさんに助力します」
 光輝も自分の兄を戦争で失っている、敵が憎いと言う感情は痛い程知っていた。そして、リンカにも妹がいる、同じ悲劇を引き起こしたくなかった。
「‥‥足手まといにはならないでよね」
 しばし考えたのち、リンカは渋々承諾した。
 と、その時リンカがはっとして前方をみる。前方に敵の群れを発見したのだ。事前に聞いていた通り、胸中央に赤い宝石のようなものが付いている石巨人、その周りを狼がウロウロしている。
「いた! 私の顔に傷をつけたこと、後悔するといいわ!!」
 そう吠えると、リンカは敵の群れに突っ込んで行く。
「ちょ、リンカ殿!?」
 ラサ・ジェネシス(gc2273)があわあわしながら後を追う。
「敵、発見総員、戦闘用意」
 カズキは皆に告げ、SMGのチャージングレバーを引いて初弾を装填する。
「‥‥無茶をなさる方ですね」
 狭霧 雷(ga6900)も苦笑しながら、扇型の超機械を一振りした。すると、竜巻が発生しリンカに飛び掛ろうとした狼の群れを牽制する。しかし、当のリンカは周りの様子など一切目に入っていないようでまっすぐに石巨人に突っ込んで行く。
「こいつさえ‥‥!! こいつさえいなければ‥‥私は負けなかったのに!!」
 なかば半狂乱になり、憎悪に任せ刀を振り上げようとした。しかし、元々かなり重傷の状態。疲れから脚がもつれ前のめり倒れる。
「あっ‥‥!」
 石巨人の腕が振り上げられる。瞬間、死を覚悟した、が。
「片目をうしのうたくらいで己まで失うとは何事か、恥を知れ。」
 間に入った美具・ザム・ツバイ(gc0857)が盾を構え、石巨人の重い一撃を受け止める。そうしてリンカに目を向けた。
「冷静になるがいい、この痴れ者め。命を粗末にするなど、妹が悲しむとは考えんのかや」
 冬の晴れ渡った空のような、澄み切った青い瞳がリンカを冷たく見下ろす。
「な、なによ‥‥」
 リンカはややたじろきつつも、なんとか立ち上がり再び刀を構える。
「あんたに妹の事なんて関係ないじゃない!」
「美具には関係なくても、リンカ殿には関係あるじゃろ」
 ぐっと言葉に詰まるリンカ。
「美具にもたくさんの姉妹が居る。だからこそどれだけ姉妹を心配するか、手に取るようにわかる」
 リンカ殿にはわからないか、とリンカを見つめる美具。リンカは顔を背ける。
「‥‥ゴーレムはあんたに任せてあげるわよ!」
 逃げるように、狼の群れに向かうリンカにため息をつき、美具は石巨人に向き合う。
「さて、というわけでお前の相手はこの美具じゃ、覚悟いたせよ?」
 そう言うと同時に、美具の全身から空気が重くなるほどの威圧感があふれ出した。


(私が悪いの‥‥? 妹? アンナはどう考えて‥‥)
「リンカさん危ない!!」
 真下の叫びにはっとして、左側を見た。狼の銃口がこちらを向いている。潰れた目の死角になっていた性もあり気づくのが遅れた。彼女の左側が死角になるのではないかと思っていた真下は迅速に行動し、リンカの間に入り間一髪銃弾を盾で受け止めた。
「大丈夫ですか!?」
 狼が飛びかかってきた。真下はそれを盾ではじき返し、刀で切りつける。
「師匠より習いし盾操術、そう簡単に抜けると思わないことです!」
 そこでリンカはようやく周りの状況を飲み込めた。
「あ、ありがと‥‥って、余計なことすんじゃないわよ!」
 再びリンカが群れに突っ込もうとした時、歌が聞こえた。とても穏やかな歌でリンカは急激に睡魔に襲われ、ふらりとゆれる。
「あっ‥‥」
 地面に倒れる直前、狭霧がリンカを受け止めた。
「おっと危ない」
 そしてフローラを見て苦笑した。
「‥‥わざとですか?」
 フローラは小さく舌を出してウィンク。
「わざとじゃないわよ? でも自分から飛び込んできた人にまでは責任、もてないわねー」
「ま、そういうことにしときましょうか」
 そう言ってリンカをおんぶして安全圏まで運んでいく。しかし狼もこれを見逃さない。
「ワオオオオオオオオン!」
 一声吠えて銃を乱射、瞬速縮地で移動し直撃を避け、行く手を遮る狼を雷槍で吹き飛ばす。
 さらに大神もそれを援護する。
「ま、面倒くさいけどリンカの救出も依頼のうちに入っちゃってるんだよね」
 若干うんざりしつつも大神はランダムステップで狼の銃撃を避けていく。焦れて飛び掛ってくる狼の横っ面に、トンファーの鋭い一撃を食らわせる。さらにひるんだ狼をトンファーで往復殴打、とどめに脳天に思い切りきつい一撃を入れ沈める。
「ん〜、あの銃はじゃまですね〜」
 柊も狼が撃つ銃弾の弾幕を、まるで舞うようにかわしながら狼に近づき、目にも止まらぬ一撃で回避させる余裕も与えず切り伏せていく。

「まずは、あの発光部分を使用不能にする」
 カズキは狙撃眼を発動しSMGの照準を、石巨人の宝石のような部分に合わせる。
 カズキからはやや離れた場所でジェネシスも同じ場所を狙う。
「頼むから当たってくれヨ‥‥」
 美具が石巨人の注意を引いているお陰で、こちらにはまだ気づいていない。そして、二人はペイント弾を撃ち込む。なんとか命中し発光部分がベタベタに塗りつぶされる。
「ヤッタ! この調子で!」
 勢いづいたジェネシスが、連続で銃弾を撃ち込む。相手は動かないも同然の的、しかし防御が硬いのか、なかなか崩れない。
「鎧袖一食‥‥ってワケにはいかないカ」
 カズキも頭部を中心に弾丸をぶち込んでいく。ジェネシスが銃をリロードしている間にカズキが攻撃するようにして隙をなくす、反対にカズキがリロードする間はジェネシスが攻撃、というように地道ではあるが、着実にダメージを蓄積させていく。
 さらに大神が、石巨人の股下を通りぬき様に、石巨人の膝裏に眼にも留まらぬ速さで鋭い一撃。ぐらりと石巨人がゆれた所に、さらに超機械で追撃。もともとダメージが蓄積していた石巨人はたまらず膝をつく。
「これで終わりだ」
 カズキが超機械に持ち替え、強力な電磁波を浴びせると石巨人は痙攣し、弾けとんでだだの石になった。

「‥‥うーん」
 リンカが目を覚ますと狭霧が、こちらを見下ろしていた、というか所謂お姫様だっこの状態で持ち運ばれていた。
「なっ‥‥!」
「おや、お目覚めですか」
 自分の置かれた状況が飲み込めて、かあっと顔を赤らめる。
「お、降ろせ!! 今すぐ降ろせ!! これじゃ赤ちゃんみたいじゃない!」
「文句は怪我を治してからにしてくださいね」
 にべも無く言い捨てて、そのまま運ぶ。リンカにも抵抗するだけの力は残っていない。

 結局、アンナの所に行くまでずっと文句を言っていた


「皆さん、本当にありがとうございます!!」
 アンナは傭兵達に深々と頭を下げた。目には涙が浮かんでいる。リンカはふて腐れているのか、ムスッとそっぽを向いている。
「‥‥キツい敵だった。二人で挑むなど、やはり正気ではない」
 カズキのチクリと刺すような皮肉に、アンナはしゅんとなりリンカはますます頬を膨らませる。
「す、すみません。少々‥‥いえ、かなり無謀な事でした」
「リンカさんはアンナさんのことが好きですか?」
 柊がリンカに声をかけると、暫しの沈黙の後。
「‥‥嫌いじゃないわよ」
 蚊の鳴くような声で返答が返ってきた。柊はたおやかな微笑を浮かべる。
「でしたらあまり無茶はしないであげてください。負けることが嫌なのかもしれないですけど、どんなに強い人でも簡単に負けることだってあると思いますよ〜?」
「まだ負けてないわよ」
 大きな声で訂正するリンカに大神は言う。
「突っ走るのも良いけどさ、あんまり無茶してるといつか自分だけじゃなく一緒にいる人も巻き込む事になるかもよ?」
 そして、ふっと寂しげな笑顔を浮かべる。
「自分のせいで他人に怪我させるのって、結構重いからさ‥‥」
「‥‥え?」
 リンカは少し顔を大神に向け、聞き返したが大神はもうなにも言わなかった。
「心配してくれる家族がいるということはいい事だよ。報酬はいらないからゆっくり休みナ」
 ジェネシスは孤児だ。しかしだからこそ家族の重みがだれよりも理解できた。
「いえ、それはいけません」
 アンナはゆるゆると首を振った。
「私にとって姉は掛け替えない大事な姉です。姉を救ってくれた方になにも渡さないなどと言う不義理はできませんわ」
 そしてニコッと笑う、もう涙は見えない。その笑顔をみて、ジェネシスも安心して満面の笑顔で答えた。
「バグアが憎いという感情、俺も理解出来ます。ですが、今回は少し無謀でしたね。妹さんが悲しみますよ?」
「‥‥わかったわよ。ちゃんとすればいいんでしょ‥‥もう」
 散々な目にあい、色々言われていじけてしまったリンカに真下はさらに言った。
「‥‥それにしても、美人な方ですね。顔に傷はあれど、それがまたアウトローな魅力になっている。元が良いのですね。思わず息を呑みますよ」
「えっ‥‥そ、そう? って当然よ!! な、なにを当たり前の事を‥‥」
 明らかに頬を赤らめ、動揺するリンカを見て、真下はくすりと笑った。

 そして姉妹が無事で本当に良かったと思った。