タイトル:【学園】嘘の代償マスター:冬斗

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/07 21:52

●オープニング本文


 九龍国際学校。
 香港特別行政区、九龍半島に位置する教育施設である。

 主にバグアによって居住区を追われた人民で構成された施設である同校は、『国際』の名に違わず多国籍の生徒、教師を内包。
 校風も比較的自由で宗教、思想等の統一もない。
 年齢も幅広く、初等部から大学部までの生徒を在籍させており、生徒総数約5万人のマンモス校。
 九龍学園。
 その多様性から、この学校はそういった呼称をされている。


 シンシア・モリスンは友人を作る事が得意ではない。
 年齢の割には賢い方で、財力もあり、立ち回りも器用な少女であったが、やや人見知りがちな一面はこの学園に来てからは尚色濃いものになっていった。
 とりたてて不満はない。だが楽しい事もない、新しい学園生活。

 その日、シンシアは夜の校舎に入ってきていた。
 理事会に親族のいる彼女は普通生徒の立ち入り出来ない所に入る事もあり、そこでいくつかある裏門の内の一つのIDカードを複製していた。
 勿論、無断でだが。
 そこまでしてでも夜の校舎に来たかった理由は、退屈だったというのも勿論ある。
 だがもう一つ――。

「ここであの人達と逢ったのよね‥‥」

 去年、シンシアはこの学園でキメラに襲われた。
『学園内でキメラを見た』
 自分でも情けなくなるくらい子供じみた嘘だった。
 そして本当になるなんて思わなかった。
 初めて間近に見た、自然ではありえないフォルム。
 ただの猛獣とは一線を画した獣。
 それから守ってくれた背中を今でも覚えてる。
「――ばかみたい」
 なんでこんなことをしているのか、悔しいけれどわかってる。
 逢いたいのだ。
 もう一度。彼らに。
 そんなのは簡単だ。
 休日に外出届を出してラストホープに向かえばいい。
 ULTに依頼として来て貰うという手段もある。
 能力者は芸能人ではない。
 会いたいといえば気軽に会ってくれるだろう。
「―――」
 そんなのは嫌だった。
 それではまるで未知の能力者に子供のような憧れを抱くミーハーではないか。
(「事実、そのとおりじゃない」)
 認めている。
 彼女は寂しいのだ。
 この学園に来てから一年が過ぎ、未だに友達は出来ず。
 思い出すのはあの時の能力者達。

 彼らと友達になれたらどんなに素敵だろう。

 だからこそ嫌だった。
 自分がそんなミーハーなファン扱いされるのは御免だった。
 そうやってつまらないことにこだわる性格が友達を作れない原因だと自覚していても、こればかりはどうしようもない。
(「で、その代わりにしていることが――夜の散歩」)
 またこうして夜の校舎を歩いていれば、
 あの時みたいにキメラが襲ってきて、
 あの時みたいに能力者達が――。
(「あーもー! どこまでお花畑なのよ、私の脳ミソは!!」)
 むしろ出てきて欲しくない。
 こんなみっともないコトをしてるなんて知られたらきっと死にたくなる。
 どうしてこうなるのか。
 ただ、あの時の能力者達に『ありがとう』と言いたいだけなのにそれが言えないで、
 一年近くずっと頭がぐるぐるしてて、今もぐるぐるしてて、
 ぐるぐるしすぎてたから、

『それ』に気付かなかった。

(「――え?」)

 広場が目と鼻の先にある。
 それはいい。
 彼女もそこに向かっていたのだから。
 だが、
 誰もいない筈の広場には、
 夥しい異形が。
(「う――そ、キメラ‥‥!?」)
 一年前に見たものとは違う。
 けれどそれがキメラだとなんとなしに理解出来た。
 そして、キメラ達の中央には男が一人。
 男の足元には転がされた人間の身体が――。
(「――――!!」)

 気がつけばシンシアはその場から逃げ出していた。
 この場を見たのが彼女で幸運だった。
 普通の人間であれば足が竦んで見つかるまで動けないあの光景も、一度キメラに襲われた彼女はなんとか逃げるという行動を選択できたのだから。
 だが、その出来事があったからこそ今ここにいる彼女は、やはり不運なのか。


「――見られたか? 参ったね。こいつらの息遣いがうるさくて気付けなかった」
 学生服を着た少年はさして気にした風でもない。
 こんな話、誰に言ったってそう信じられるものではない。
 この学園でまだ事件は起きていないのだから。
「でも、目立つようなら始末するか。出来るだけ学園の人間は殺したくないんだけれどな」


 キメラに追われていれば捕まっていただろう。
 つまりは追われていないということなのだが、そんなことは関係なくシンシアは必死で逃げる。
 寮まで一歩も止まらずに駆け込み、部屋に鍵をかける。それが無駄な行為だとしても。
(「今‥‥の‥‥!」)
 掠れて声も出ない。
 瞼に焼きついた光景にはキメラに囲まれた男が一人。制服を着ていた気がする。
 キメラに襲われていた――のではない。
(「従えていた‥‥あれは――」)
 ユダ。侵略者バグアに寄生された人間。
 それがこの学園に。
 あのキメラ達は彼が従えていた?
 今も学園内にいるの?
(「知らせなきゃ! でも――」)
 信じてくれるのだろうか。以前、嘘をついた自分を。
 つまらないことだとはわかっていても、そう考えると踏み出せない一歩があった。



 ULTへの新規依頼の中にある学校法人からのものがあった。
「これって以前にキメラ騒ぎのあった‥‥」
「ああ、あの事件以来キメラは見つかってはいないらしいが、この時勢だ。またどっかからキメラが入ってこないとも限らんしな」
 内容は傭兵の学園内での定期検査。
 軍に頼まないのは園内に軍人を入れたくはないという学校体質からくるものか。
「前と同じく、一般生徒には身分をバレないようにだそうだ。まあ要するに安心が欲しい訳だな。
 こっちも仕事になるし、キメラがいれば倒さなきゃならん。いなければそれに越した事はない。こんな依頼なら願ったりだ」

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
リアリア・ハーストン(ga4837
21歳・♀・ER
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
竜王 まり絵(ga5231
21歳・♀・EL
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
ツァディ・クラモト(ga6649
26歳・♂・JG
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN

●リプレイ本文

●動機はそれぞれ
「一年振りの九龍! 学食よ、わたくしは帰って参りましたわ!」
 三度目の学食依頼に意気込む竜王 まり絵(ga5231)。
 潜入仲間の仮染 勇輝(gb1239)とはしゃいでいる。
「仮染様、学園の案内は任せてくださいませ! わたくしこの学園皆勤賞でございますから」
「‥‥皆勤賞というのはそういう意味じゃないと思うんだが‥‥」
 思わず突っ込んでしまう勇輝だが、案内役としては頼もしい。
「あ、竜王センセじゃない?」
「まりっちじゃん、久し振りー。どしたん? また教生? ひょっとしてダブりー?」
「ちっ、違いますわよ! わたくしの大学には二年間の実習期間がありましてですね――」
 既に顔見知りの生徒もいるようだ。
 広大な学園内でたった二度来ただけのまり絵の姿を確認されたのは偶然か、それともそれだけ濃いキャラだったのか。
 しかし、今の言い訳、来年来ることがあったらどうするつもりなのだろう。

「‥‥知覚型KVの新型、高機体同士で棲み分けできないんじゃって意見あるけど
 胸強調機⇒アンジェリカ スレンダーでも全然いけるぜ派⇒ロビンと考えれば
 クルーエルとロビンの棲み分け全然問題ないことが判るわよね」
「うんごめん、何言ってるのか全然判んない」
 こちら、まり絵とはまた違ったテンションのリアリア・ハーストン(ga4837)の講義(?)を渋茶を啜り聞き流す空閑 ハバキ(ga5172)。
「学園潜入の為に講義のデモンストレーションをしているんじゃないの」
「だーかーらー、カンパネラじゃないって言ってんでしょ。一般人に新型KVの話とか引くわ。てゆーか、リアリア確か保険医だったよね?」
「あら、最近の保険医はKV講義くらいは習得して」
「ねーよ!」
 ノリツッコミしてしまうハバキもテンション高め。
 対照的に大人しい柚井 ソラ(ga0187)。大人しいというより思い悩んでいる風でもある。
(『――わかってるわよ! そんなこと――!』)
 去年この学園で出会った少女。
 あの時の自分が間違っていたとは思わない。
 けれど、それであの娘が傷ついていたのだとしたら――。
 ソラの肩を鐘依 透(ga6282)が優しく叩く。
「とーる‥‥」
「大丈夫です。きっと逢える。そうしたら、話しましょう」
 それにセシリア・ディールス(ga0475)も無言で頷いた。
 三人にはこの学園に依頼とは別のもう一つの目的がある。
「シンシア・モリスン――か。仕事に差し支えなければ構わないさ」
 その仕事にしたって防犯目的のものだがな、とツァディ・クラモト(ga6649)。
 油断はしていない。
 だがそれでも今回の仕事は『キメラが現れたから退治してくれ』というものでない分、何も起こらずに済む可能性は充分にある。
「そうだね、後悔だけはしないように、ってね」
「あのですね」
 いい雰囲気でまとめているところ申し訳ないんですが、とまり絵。
「わたくしもシンシア嬢とは御縁もあるしお会いしたいと思っているのですが‥‥」
「ん? すまん、そうだったか」
「あれ? でもまり、今回はどの学食食べようかって話してなかったっけ?」
「空閑様ッ!!」

●捜査はさまざま
「非常勤講師のツァディ・クラモトだ。カウンセリングをやっているので気軽に声をかけて欲しい」
『お悩み相談室』と書かれたプリントを配るツァディ。
 学校が広すぎる為、期間内に全て配りきる事すら出来ないだろうが、やれる事はやっておこうと思った。
 そして勇輝も、
「IDの確認?」
「ええ、不審者がいないかどうかチェックをね」
「不審者って‥‥貴方々にお願いしたのはキメラの捜索の筈ですが‥‥」
 依頼者に交渉するも難色を示す。
 バグアを初め、人の姿をしている者がキメラの背後にいる場合があるのは周知の事実である。
 だが、事情に疎い者からすればそれはあくまで『知識』であって、実感の伴うものではない。
 それに、人間を疑うのはキメラ――猛獣を疑う事より遥かに精神に堪える。
『キメラが出た』となればバグアや強化人間も疑うのが軍人や傭兵達だが、
『キメラが出た』と言われるとそのままキメラだけを警戒してしまうのが一般人の性なのだ。
「仮にキメラが学園内にいるのなら何者かが招きいれた可能性もあります。闇雲に探すよりはIDチェックを行う方が効率がいいかと――」
 勇輝の根気強い説得に一応の納得を見せ、なんとかIDチェックの許可が下りた。立会いの下チェックをするが、人数が多過ぎて流石に絞りきれない。
「――おや?」
 勇輝がそれに気付いたのは傭兵の注意力をもってしても偶然だった。
 毎日でもなく、しかし定期的に、夜間警備にしては遅過ぎる時間に入り、早過ぎる時間に帰る人間が。
「これは‥‥」
「これは外来用IDですね。警備など業者関係が使います」

●ひさびさの風景
 外来用IDは個人名義ではない為に数の誤魔化しが聞き易い。それに生徒の立ち入り禁止区域にも業者扱いで通過出来る為に、シンシアは好んで使っていた。
 現在いる第三校舎屋上もそういった立ち入り禁止区域の一つだ。
 静かな場所は嫌いではない。――尤も、だから友人が少ないのかもしれないが。
 そんな静かなひとときは静かな来訪者によって壊された。
「‥‥お久し振り、です‥‥」
 茶色の髪をした青い瞳の少女がシンシアの視界に現れる。
 昼間なのに夢を見ているのかと彼女は思った。
「‥‥私の事‥‥覚えてますか‥‥?」
 忘れるわけがない。
 忘れてないからこうやって時たま思い出している。
 でも目の前の少女はシンシアの妄想じゃない。
「セシリア‥‥」
「――覚えていてくれたんですね‥‥」
 驚くセシリア。
 だが、シンシアはその何倍にも驚いていた。

「‥‥あれ?」
 一年振りに兎の様子を見に来たハバキ。
 兎小屋の中は空っぽ。
「兎? ああ、今年になってすぐに死んじゃったんだよ」
 みんなで世話してたんだけれどね、と寂しそうに言う生徒はハバキを兎の墓に案内してくれた。
 去年はまだ若く元気だった兎達。三羽いたが皆死んでしまったらしい。
「‥‥兎って一年で死んじゃうものなのかな‥‥」
 一度しか会わなかったけれど、でも一度しか会わなかったからこそ
「また‥‥遊びたかったな‥‥」
 ハバキは泣かなかった。多分、泣くのは兎の死に立ち会ったここの子達の役目だったろうから。

「彼女の方はセシリアさん達に任せました。面識があるようだし、彼女達も話したがってたし――って、何やってるんですかリアリアさん!」
 保健室へ報告に向かった勇輝だったが、そこでは薬剤の棚をいじっているリアリアが。
 棚の瓶が妙に多い気がする。というか絶対に多い。普通、保健室の棚はこんなにゴチャゴチャしてはいない。
「置き土産よ。備えあれば憂いなし。キメラが暴れた時とか普段使わない薬も役に立つでしょう?」
「用途を把握出来てるならね。本当に置いてかないで下さいよ?」
 初日からいきなり保健室が彼女の私室のようになっている事に頭痛を感じずにはいられない勇輝。
「あとさっき男子生徒が出て行きましたけど‥‥」
 挙動不審というか‥‥夢うつつというか‥‥。
「おかしなことはしてないでしょうね?」
「カウンセリングをしただけよ。あと身体にいい薬草ジュースを――」
「問題起きたら俺達の責任になるんですからね」

●仲直りにどきどき
「あの‥‥前は‥‥その、ごめんなさい‥‥」
「ソラ‥‥」
 女子寮棟、シンシアの個室には四人の来客が。
 セシリア、ソラ、透、まり絵。
 四人とも前回の依頼でシンシアと面識のある人間だ。
「シンシアさんの気持ち‥‥考えずに‥‥謝りたくて‥‥」
「もう、別にいいわよ」
 やれやれと溜息をつくシンシア。
「第一、気にしてないしね。嘘ついたのは私なんだし。そんな事で一年も悩んでたわけ? 馬鹿じゃないの?」
 悪態混じりに言い捨てるシンシアだが、ほんの少しだけ瞳が潤んでいるのを透とまり絵は気付いていた。気にしてないのなら自分達の名前を覚えている訳はない。
「本当に馬鹿なんだから‥‥もう、やめやめ。これでおしまい!」
 気にするなとソラをなだめて、
「貴方達が来たって事は――またキメラとか出たんじゃないの? ならさっさとそっちにいきなさいよ。私の事はいいから」
 思ってもいない言葉を口にする。
 ああ、まただ。
 どうして自分はこう素直になれないのだろう。
 嬉しいのに。
 ずっと会いたかった人達が、それも向こうから来てくれたというのに。
「――そう、言われると困っちゃうんだけどな。協力とかして貰っちゃマズい?」
 透が切り出す。本当に困ったように。
「――え?」
「あ、だからさ、今回も依頼なんだけど、案内してくれる人とか欲しいんだ。それで当てにしてたんだけど‥‥」
「‥‥駄目‥‥ですか? 都合いいって事はわかってるんですけど‥‥」
 駄目な訳ない。
 ずっと夢見てた。
 断る理由なんてない。
 それに――、
「わかったわよ!」
 この二人に迫られて断れる筈もない。
「なら他の仲間達とも合流しましょうか。シンシアさんにも紹介いたしますわ」
「賛成、この部屋も悪くないんだけど‥‥その‥‥女の子の部屋っていうのも落ち着かないし‥‥【惑】」
 セシリアの方を意識しながら立ち上がる透。セシリアの方は気にした様子もないのが寂しい。
「私は構わないけど? 女同士で話すのも。でも透にはきついのかしらね、女の子四人に囲まれて」
 と、早速透をからかおうとするシンシア。
「‥‥四人?」
「お、俺、女じゃないですっ!」
「えーーーー!?」
 本気で驚くシンシアにソラは本日一番傷ついたとか。

●わくわく学食
 恒例の学食タイム。
 これをしない事には気が済まないというのは勿論まり絵の弁。
「――って、キメラ本当にいるの!?」
「ハバキ、声が大きい」
 ツァディに窘められ声を潜めるハバキ。
「それで来たのかと思ったんだけど‥‥違ったの?」
「去年二回キメラが発見されましたから。それに最近の情勢もあるでしょ? それで定時点検の第一回ということで――」
『内緒ですわよ?』と教えてくれるまり絵。
 てっきりあのキメラを追ってきたのかと思っていたのに。
 そうではないと彼女らは言う。
 なら、
 これも自分の作り話と考えられるのではないか。
(「私ならきっと信じない――」)
「それで?」
「え?」
「何日前の事ですか‥‥? 詳しく‥‥聞かせて下さい‥‥」
「信じるの‥‥?」
 ネガティブに考えてしまうのはシンシアの悪い癖だ。
 それに対してセシリアはまっすぐな瞳で彼女を見つめて、
「本当‥‥なのでしょう‥‥?」
 口にするまでもないと、
 そしてそれでもなお彼女の為に口にしなければならないと。
 それが限界だった。
 不意打ちにも近い攻撃に、シンシアの目からぽろりと――、
「シ、シンシアさん‥‥大丈夫ですか‥‥?」
 慌てるソラを払いのけてトイレに逃げるくらいが精一杯で。

「――だとすると変だな。
 自分らが調べた限りじゃ今のところキメラの目撃情報は他にない。あ、いや、シンシアの言う事を疑ってるとかじゃなくてね」
 後半部分仲間の何人かに睨まれ慌てて付け足すツァディ。
「なんというか‥‥勘が鋭いんですかね、シンシア様」
「かもしれないが‥‥それだけじゃないだろう。シンシアだってキメラを見たのはその一回なんだろう?」
「ええ」
 しかも一体ではない。
 数える余裕などなかったが、4体以上は確実にいた。
「それと人影か。強化人間って可能性もあるけど、やっぱり――」
「バグアの可能性が高いでしょうね。尤も、強化人間だとしても対応は同じですが」
 ツァディに勇輝が同意する。
「どうやって隠してるかってのが気になりますね。バグアの技術でしょうか」
「わからない。けど、学園内に四匹もキメラがいるってなると‥‥放ってはおけないな」

●夜中どたばた
 シンシアの部屋には護衛としてセシリアが待機。
 今のところ、彼女が唯一の目撃者だ。それがバレている場合、外出していないからといって安心とは言えない。
「透も来てもよかったんだけどなー」
 残念そうなシンシア。
「私では‥‥ご不満ですか‥‥?【友】」
「とんでもない。OKよ。色々聞きたいことあるしね。透のこととか」
「‥‥透さんに興味があるんですか?」
「セシリアに興味があるのよ」


「そっちに行ったぜ、とーる!」
「ナイスです、ツァディさん!」
 機械剣の二刀でキメラを迎撃する透。
「えい!」
 ごつんと分厚い本でキメラをぶん殴るハバキ。
 キメラの矛先がハバキに向かう。
「わわ、俺の愛本が効かない!?」
 いや、効いたから怒ったとも考えられる。というかなんだ『愛本』って。
 だがキメラの牙がハバキに届く前に白銀の矢がキメラの胴体を貫いた。
「気をつけて!」
「サンキュ、ソラ!【愛】」

「仮染様!」
 まり絵を襲うキメラの前に同じく二刀で立ち塞がる勇輝。
「旋――風――刃!!」
 勇輝の雲隠がキメラの命を絶つ。

「――終わったな」
 キメラ五体。
 夜の学園内で調査中の彼らを襲ってきた相手を逃さず叩き潰した。
 一匹も逃してはいない。
 だが、ツァディの顔色は晴れなかった。
「ツァディもそう思う?」
 内心を見透かしたかのように問いかけるリアリア。
「なんだか――倒される為に出てきたみたい」

●ひとまずばいばい
 キメラを倒した事をセシリアとシンシアに報告する。
「バグアは?」
 どうやらこの勘のいい少女は透達と同じ結論に達しているらしい。
「囮――でしょうね。キメラは倒した。だからもう学園は安全。
 そう言いたいんでしょう?」
「そう‥‥だね」
 だがそう考えると行き着く結論がある。
 それを少女には言いたくなくて、皆、結論を話さなかったのだが。
「私がキメラを見た事がバレてるのね」
 でなければ傭兵達の前にキメラを見せる筈がない。
 順当に考えれば警戒心を煽るだけなのに。
「シンシアさん‥‥」
「お疲れ様。ひとまず仕事は終わりよね」
「危険です‥‥! シンシアさんの事もバレてるかもしれないんですよ‥‥!」
 言うか迷っていたがおそらく彼女はもうわかってる。
 だから言った。期間を延長してでも護衛をするべきだと。
「大丈夫よ、ソラ。ここで私になにかあればせっかく片付いた事件を蒸し返す事になるわ。わざわざキメラを犠牲にしておいてそれはないでしょう。
 私を殺す気ならむしろみんなが帰るまで何事もなければいい。キメラを見せて警戒を煽る方がリスクが高いわ」
 それはここに来る前に皆で達した結論だ。
 それでも『だから大丈夫』なんて無責任に言えなかった。
 でも彼女はわかっている。
 彼らの結論も何故それを言わなかったのかも。
 怖くない筈はない。なのに――、
「強いな、君は」
 透が微笑む。
「みんな程じゃないわ」
 笑みで返すシンシア。
「約束よ。また――来て。
 そしたらまた案内してあげるから」
 もう泣かない。
 だって少女はもう一人じゃないから。