タイトル:【少年の戦い】過去マスター:冬斗

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2008/11/04 17:21

●オープニング本文


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「――チクショウ‥‥ッ!!」
 霧条カイナは怒っていた。

 銀河重工第十三研究所の護衛任務は失敗に終わった。
 予告襲撃のキメラの一群は傭兵達の活躍により施設、職員の犠牲をほぼ出すことなく退ける事に成功。
 しかし、犯人側の狙いはそこではなかった。
 傭兵達の中に内通者がいた。
 そいつは傭兵達がキメラと戦闘をし、研究所内の注意が外に向いている中、手薄な研究室からデータを盗み出した。
 更には居合わせた仲間の傭兵達に重傷を負わせ、一人研究所から脱走。
 かくして依頼は痛恨の失敗に終わった訳だが、
 霧条カイナの怒りの理由はそこではなかった。

 現場に倒れていた仲間を介抱し、得られた情報に少年は怒る。
「――じゃあ、何か? 湖南の研究所。アレは全部こっちのデータ盗む為だってのか‥‥?」
 予告襲撃には湖南研究所の前例があった。
 だからこそ銀河重工は大勢の傭兵達を護衛として雇い、結果相手の思惑通りとなってしまった訳だが。
 キメラだけでは研究所の破壊は出来てもデータの奪取は出来ない。
 その為に湖南は襲われた。死者も出た。
「ふざけやがって‥‥!」
 キメラに家族を奪われた少年。
 その双眸は怒りに燃え――。


「手がかりがあるとすればライオネルだろうな」
 別部隊の傭兵達の代表役ファビオは言う。
「――というより、それしかないでしょうね。背後関係も不明。キメラ達は全滅。まあ、捕まえたところでキメラは喋れませんが」
 それくらいは自分でもわかると女剣士。
「バグアでない事だけはわかるんですがね。親バグア派というやつかもしれません」
「? なんでバグアじゃないってわかるんだよ?」
 スナイパーの青年の考察に口を挟むのはカイナ。
「バグアならデータを盗む必要がないからですわ。遺憾ながら彼らの技術はわたくし達のそれを遥かに上回っております。我々が画期的な技術を発明したところで潰せば問題ない話です」
 サイエンティストの女の言う事は正しい。だから、
「まずはライオネルさん――ライオネルから背後の繋がりを突き止める事ですかね。幸いか今までもUPCの依頼を何度も受けているようですからそこから辿れば――」
 少女の言葉に前向きに行動に移す。
 動かないとくじけてしまいそうだったから。
「すみません、私も怪我が治り次第向かいますね」


 ULTの依頼報告書からライオネル・ハーパーの調査は可能だった。
 尤も当然ながら兵舎は引き払われた後だったが。
「依頼履歴があるだけでもよしとしましょうか。
 ここからどう調べるか、後は銀河重工から正式な調査依頼が出てから――カイナさん?」
 年上の少年の怪訝な眼差しの先、カイナは震えていた。
 先刻以上の激情を抱いて。
「‥‥なんでだよ‥‥!」
 ライオネルの関わっていた依頼報告書の一つ。
 それは今回と同じような研究所の護衛依頼。
 被害が大きい事による任務失敗の報告書。
 それに、
「なんで‥‥アイツが‥‥あの時に‥‥!!」
「霧条さん‥‥?」

 奉天北方工業公司第七研究所襲撃事件

 死亡者24名
 霧条暁(39)
 霧条真琴(37)
 霧条命(8)

 重傷者41名
 霧条腕(14)

●参加者一覧

篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF

●リプレイ本文

●傷痕
 一同は再び顔を合わせる。
 新しい面子は二人。その内の一人、戌亥 ユキ(ga3014)は篠崎 美影(ga2512)から事情を聞いていた。
「そうだったんだ。ありがと♪」
「いえ、お安い御用です」
 ユキの明るさに正直救われる。皆がそうだ。後ろから撃たれた心地悪さはそう拭えるものではない。
「まだちょっと‥‥夢だったんじゃないかって、思ってます‥‥」
「ですが彼はもうラストホープにはおらず、研究所の被害も記録として残っている‥‥これが現実です」
 沈痛な面持ちの藤宮紅緒(ga5157)に篠崎 公司(ga2413)はあくまで冷静。
「――でもその人も派手にやったね」
 再びユキ。
 UPCからの正式依頼を裏切ったライオネルにラストホープでの居場所はない。
 いや、そもそもバグア側の人間と認識され、既に手配は回っている事だろう。
「それにエミタのメンテナンスだってもう出来ないかも――」
「――いや、メンテナンスは出来る。本当にバグア側についたのならな」
 答えたのはもう一人の新顔、南雲 莞爾(ga4272)。
「アレは元々向こう側の技術だ。現にバグア側に身をおく能力者は決して少なくはない。技術的な問題ならむしろUPCにいるより都合はいい」
「だけど、それでも問題はあります――というよりは不都合ですか」
 宗太郎=シルエイト(ga4261)が続ける。
「技術的に、金銭的に問題がないとはいえ、バグアは人類の敵です。それに属する事に精神的な安らぎがあるとは思えない。
 少なくともそれまでの人間としての価値観をかなり捨てる事を覚悟しなければならないでしょう」
「ライオネルにそれがあると? その『人間としての価値観』がないからこそヤツらについたのでは?」
 優(ga8480)の態度は厳しい。彼女からすれば能力者でありながらバグア側に味方するものなどにかける情けはない。
「――かも、しれません。しかし私には彼が根っからの悪人とは思えないのも事実です」
「子供の話ですか? 証拠がありません。私は口からでまかせであった可能性も高いと思っています」
「確かにそうかもしれませんが――」
「どっちにしろ裏切ったのは事実だろッ!!」
 叫びが場を一瞬だけ凍らせる。
 それまで黙っていた霧条 カイナ(gz0045)だが、視線は宗太郎を射抜くよう。
『何故あんなヤツに味方するのか』
 カイナの目には宗太郎はそう映り、
「カイナさん‥‥」
 宗太郎は何も言わない。言ったところで少年の心には届かないだろう。
『バグア側につく人間』
 そういった存在は知ってはいる。
 だが、実際に目の当たりにするのが少年には初めてで――。

●たとえ空元気でも
 語気を荒げるカイナに、しかし公司は落ち着いた口調で諭す。
「ライオネルを弁護する訳ではありません。ですが今は感情を抑えて下さい」
 宗太郎の意見には理がある。彼はそう考えていた。
「接近戦では圧倒的に優位にあるにも関わらず、美影は傷を負っただけ。
 しかも種明かしをしてから逃走しています。まるで”俺の跡を追って来い”とでも言うように」
「‥‥だから、なんだって言うんだ」
「――これから言う事は仮説に過ぎません」
 納得は出来ないだろうとは思っていた。
 それでも、話しておかなければならない。
 公司は続ける。
「彼が親バグア派に敵対する二重スパイだったとしたら――。
 外部から連中を倒す事に限界を感じ、味方につく事で内部情報を流す。
 場合によっては自ら諸共連中を根絶やしにする為に――」

 テーブルを叩きつける音。
 部屋を去ろうとする少年。
「霧条さん」
「トイレだよ。すぐに戻る」


「――あの――ッ!」
 廊下のカイナの背を呼び止める紅緒。カイナは応えず、ただ歩みだけ止める。
「私‥‥まだ混乱しているのかもしれません‥‥、ゴメンなさい‥‥年上なのに頼りなくて‥‥」
 気の利いた台詞の一つも出てこない自身を歯痒く思う。
「‥‥でも‥‥みんなで、必ず真実に辿り着きましょう‥‥!」
 それでも、少年を少しでも元気づけてやりたくて、
 だけど、

「――それで、今度は誰がやられるんだ?」
「―――!!」
 少年の言葉は
「次はアンタかもしれないぜ」
 ガラスの破片のようで
「それとも」
 握る自身をも傷つけるような
「また見逃してくれるとか思ってんのか?」

 刹那、優の拳がカイナのガラスを叩き落した。
「―――」

 呆けるカイナの表情は殴られただけによるものではないだろう。
 優は倒れた少年に、
「理由は――説明が要りますか?」
 その視線は厳しくもあり、優しくもあった。

「――いや、
 悪ィ、サイテーになるとこだったよ‥‥サンキュな」
 立ち上がる。
「私も奴は黒だと思っています。ですがそれにしても奴の目的と背後を調べる事は重要です。
 腐っていては――つけ込まれるだけです」
「ああ、目が覚めたよ」
 本当は覚めてなどいない。ただ、みっともない態度を晒すことをやめただけ。
 つまらない見栄だったが、それでも前を向けた結果にだけは感謝しなければならない。
「あ‥‥あの‥‥ッ!
 び、微力ですが‥‥私も精一杯頑張ります‥‥!
 だから――」
 笑みで返す。
 自分を心配してくれる頼りない仲間にも、つまらない見栄を張って――。

●傭兵達の葛藤
 宗太郎はULTでのライオネルの行動記録を調べていた。
 成果は芳しいとは言えない。
「宿舎、KVの貸与などはしていますが、扱いは傭兵ですからね。正規軍人と違って基本的に行動に制限は出来ません」
「まあ、期待はしてませんでしたが‥‥」
 反面、スパイを潜り込ませるメリットも少ない。UPC内部機密などに触れられる機会はそうないからだ。
「メリットがあるとすれば前回のような任務ですか‥‥、順当に考えれば使い捨てと見るのが妥当ですが‥‥」
 引っ掛かる。
「彼ほどの傭兵がそんな取引に応じるでしょうか‥‥相手の思惑に気付かないとも思えませんし‥‥。
 とするとやはり思想からバグア側に‥‥」
 その考えを振り払う。可能性の否定はやってはならない行為だったが、それでも宗太郎は彼の事を信じてみたいと思っていた。
 論理的ではない。子供の話だって嘘かもしれなかったが。
「私は信じたい。
 ‥‥許されるならば、ラストホープに連れ戻したいです」



(「私だってそう思っています」)
 九条院つばめ(ga6530)も同じくライオネルの裏切りに懐疑的だった。
 前回の失敗は彼女の心にも爪痕を残している。
 正直、怖い。
 仲間に裏切られる事が、ではない。
 仲間を信じられなくなってしまう事が、つばめにはなにより怖い。
(「やっぱり‥‥甘いのかな、私‥‥」)
 その気持ちは皆が同じ筈。
 だが、少なくとも目の前の男、公司はそのような素振りはおくびにも出さず神宮寺真理亜の調査レポートに目を通している。
 先日荒れていたカイナも今は調査に集中しているようだ。
 その姿に元気づけられる。
 今は自分に出来る事を。覚悟を決めるのはその後でも遅くない。

「やっほ〜、調査の方どうですか?」
 一仕事終えたらしいユキ。
「少し纏めました。手が空いたのでしたら戌亥さんにはここに書いてある過去依頼を調べてもらえますか?」
 そう言って公司は数枚の調書を手渡す。
「これから九条院さん、霧条さんと現地へ赴きます。ですが一部地域的に回りづらいところがありますのでサポートしてくだされば幸いです」
「もっちろん! そっちも頑張ってね!」
「待てよ、場所が結構あるんだし三人で固まる事もねえだろ。オレも一人で――」
「いやそれは――」
 信用していない訳ではないのだが、今のカイナに冷静な調査を期待するのはやはりやや不安が残る。
 それにユキに頼んだ分はあくまでサポートで主要部分の調査は二、三人で協力した方が効率もいい。一人では見くびられる相手にも三人いれば話が通る。
 けれど、
「んだよ? またガキには任せられないって?」
(「それを説明して納得してくれるかどうか――」)

「ムキになっちゃって〜。そういうトコロがお子様だよねっ!」

「ふにぇっ!?」
 仏頂面の少年の頬を餅のように引っ張り伸ばすのは、
「そ〜んなネガティブオーラ出してると女の子にモテないぞっ」
「ユ、ユキさんっ!?」
「は、はひふんはほっ!?(なにすんだよ)」
「ま、出てなくてもモテないだろうけど♪ ぷぷぷっ」
 言いたい放題言って手を離す。というより振り解かれる。
「テ、テメッ‥‥別にモテたい訳じゃ‥‥」
「あ、怒るのそこなの? ひょっとして気にしてた?
 駄目だよ、つばめちゃんにヘンなコトしちゃ」
「なッ‥‥このォッ!!」
「キャ〜♪ 怒った〜、逃げろっ!」

(「やれやれ‥‥」)
 なし崩し的にカイナの同行が決まる。
(「本当は私がやらなきゃ‥‥その為にも公司さんと一緒に来てるんだし‥‥」)
「――凹んでる暇はないです、ね」

●黒幕は――?
「よしてくれ。別に責任どうこうって訳じゃない」
 銀河重工にて、優は覚悟をしていた。前回の依頼の失敗、その責を受ける覚悟を。
「犯人をはっきりさせたいって意味ではうちも同じだからね。話せる事は話すつもりだ――勿論、守秘義務がある事は話せないが」
「そう言っていただけると――」
 土下座くらいは覚悟していた優はいささか拍子抜けした。
「そうだな。そもそも我々以上に銀河重工にとって彼は敵以外の何者でもない筈で――」
 莞爾は優に向かって話したのだが、返事は研究員の方から返ってきた。
「――いや、そういう訳でもないよ」
「え?」
「正確に言うなら被害にあったのは第八と第十三研究所だ」
 第八は囮に使われた湖南の研究所、十三は優達の護衛した研究所、即ち前回の事件である。
「確かに‥‥では銀河重工本社に被害はないと?」
「ないとは言わない。けれど現場の職員達に比べればないようなものだろうね。俺達にとっては今までの研究がゼロになった事に等しいから」
 それは愚痴のようなものだったのだろう。
 けれど、莞爾はそこになにかひっかかるものを感じていた。

 盗まれたデータの情報についてはあっけないほど簡単に教えて貰えた。
「いいのですか?」
「構わない。どうせ漏洩してしまった時点でこの研究自体の機密の重要性はなくなってしまったんだ」
 忌々しそうに吐き捨てる。
 それでも先を越されないように急ピッチで実装にこぎつけるつもりらしいが、他社が先に発表してくる可能性は低くない。
「まあ、そうなってしまえば逆に犯人がわかるというものなんだが――」
 あからさまな皮肉に、しかし優はまっすぐに応える。
「必ず突き止めます。その前に」
「‥‥わかった。長くて半年、短ければ二ヶ月弱といったところだ。それまでに――」
 優は頷き、質問を再開する。
 ライオネルについて――。

●掴んだ手がかり
 紅緒の担当はラストホープ内の兵舎。
 ライオネルのプライベートから手掛かりを掴むつもりのようなのだが――、
「えと‥‥ら、ライオネルさんには以前依頼でお世話になりまして‥‥」
(「あわわ‥‥これじゃあ私‥‥嫌味を言ってるみたいです‥‥」)
 紅緒の心配は実は全くの杞憂だったりするのだが、
「ライオネル? ああ、あいつUPCを抜けたんだって? その件か?
 なにやらかしたんだ? あんた知ってるのか?」
「え、ええと‥‥」
 質問するつもりが質問責めを受けて混乱してしまう。
 関係者以外に事件の詳細は伏せられてはいるものの、ライオネルの手配は回っている。
 犯罪者扱いの空気を読み取れない傭兵達ではない。
「っと、そうか、詳しくは言えないか‥‥」
「済みません‥‥」
 そしてそこも同業者。事件に対しての気の回りは人一倍利く。
「話せる範囲でなら協力するよ。ただし、あいつが今どこにいるかとかは知らねえ。本当にだ」
 そう言って傭兵達はライオネルの事を話していく。
 評判は悪い人物ではないようだ。面倒見もいいらしい。
 ただ、プライベートについては印象が薄いようだった。
「しっかりしてたっつうか、聞き上手だけど自分の事はあまり話さなかったな」
 悪評はないが、それだけにむしろスパイにはうってつけの人物だとも言える。
(「やはり‥‥黒なのは間違いなさそうですが‥‥」)
 それでも何か事情がある筈。
(「あって欲しい‥‥でしょうね。願望です‥‥」)
「ああ、そういえば――」
 そうして紅緒が聞いた内容は――。



「――『いた』んですね‥‥やっぱり‥‥」
 紅緒が『それ』を兵舎で聞きつけた頃、美影も同時に辿り着いていた。
「ライオネル・ハーパーには――子供がいた」
 ひとりごちる宗太郎。やはり子供はいた。
 自分の推測が当たっていて、そうあって欲しいとも思っていた。
 けれど、
「そんな人が――何故――」
 人一倍優しい二人にはそれが苦痛でならなかった。

●バグアに味方する男
「アレクシス・ハーパー。一年前にラストホープの病院で亡くなっています。享年14歳」
 美影が見つけ出した情報はライオネルに子供がいた事。そして既にこの世にはいない事。そして――、
「難しい病気だったようです。投薬だけで大変なお金がかかってしまうような‥‥」
「傭兵をやっているだけでは足りない治療費、それを稼ぐ為に親バグア派と内通‥‥動機としては充分だな」
「そう‥‥だね‥‥」
 莞爾の推測はおそらくは正しい。
 家族ないし大事な人間が関わっているのではないかとユキもそう思っていた。
(「だってそうじゃなきゃ‥‥」)
 そうでなければあまりに――。
 だが、
「けどっ! もう‥‥亡くなられてるんですよね? ならなんで‥‥!! ひょっとして奥さんが‥‥!」
 つばめに応えるのは宗太郎。
「奥様は5年前に亡くなっています。バグアの攻撃によって」
「――っ!!」
 未だにライオネルを悪く思えないつばめには二の句が告げない。
 しかし、それならば、
「それなら‥‥もうライオネルさんにはバグアに協力する理由は――」
 ない筈だ、と紅緒。
「だけど現に奴はキメラを利用しました。あの手口はバグアとなんらかの関わりがなければ出来ません」
 優の瞳には怒り、それは以前のそれよりも強く、
『バグアに家族を殺された』
 なのに――。

「しかし、彼の背後については未だ掴む事が出来ません。一口に親バグア派といっても色々な組織がありますし」
「――そうだな‥‥」
 莞爾に思うところはあったが、それはまだ淡く、口にすることは出来ず。
 公司は今、話を逸らした。
 それはこれ以上ライオネルの事情を慮っても事態の解決には繋がらないという事もあったが、何より、
「カイナさん‥‥」
 つばめと紅緒が心配し、
「仕方ないっ! とりあえずは報告という事で――!」
 無理にでも空気を明るくしようと振舞うユキ。それに、
「ん、そうだな」
 あっさりと同意するカイナ。

(「――大丈夫‥‥でしょうか‥‥カイナさん‥‥」)
(「‥‥‥」)
 宗太郎の不安に公司は応える事が出来ず、

 そして、
 しばらくして、少年は姿を消した――。