タイトル:【KM】女神の舞う空マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/24 00:58

●オープニング本文


●東南アジア・カメル共和国上空
「α−1より各機へ。間もなくカメル領空内に侵入する。今の所CWのジャミングは感知されず。2機の機影が接近しているが、これはカメル空軍の在来型機だ。攻撃されない限り無視しろ。オーバー」
 隊長機を務めるウーフーから、僚機のKV7機に無線連絡。間を置かず、各機から「ラジャー」の返信が入った。

 オーストラリア北西海上の島国、カメル共和国がバグア軍の武力侵攻に屈服し、事実上の「親バグア国家」と化してからおよそ半月。
 クーデターによって成立し表向きの「中立」を宣言したカメル現政権をUPCは承認せず、「武力介入も辞さず」との強硬姿勢を崩していない。もっとも先のアジア決戦において勝利の代償として多くの兵力を消耗したUPC東アジア軍にカメル本土を奪回するだけの余力はなく、現在はインドネシア、ニューギニア方面に監視部隊を置き、海を挟んだにらみ合いの状況が続いているが。
 今の所大規模な戦闘こそ発生していないものの、油断はできない。現在バグア軍がカメル国内で建設を急いでいると思われる前進基地が完成した場合、インド洋から日本までを結ぶ海上交通路、さらには東南アジアの資源地帯までが敵の脅威に晒されるのは確実であろう。
 そのためUPCはULTに依頼、バグア・カメル軍基地の建設状況を探るべく、能力者傭兵のKV8機からなる偵察部隊を派遣した。

「とにかくFRには警戒しろ。もし襲撃されたら、この数ではとても敵わん」
「α−4よりα−1へ。心配するな、FRが何だってんだ!」
 露払いとして先頭を飛ぶ雷電のパイロットから、強気の応答が返った。
「俺の愛機はそこいらの雷電とは違うぜ。何せ、金をふんだんに注ぎ込んで機体強化してあるしな」
 彼の言葉も単なるハッタリではない。ただでさえ重装甲の雷電を、L・Hでの機体改造により抵抗まで大幅に高めているのだから。
「タートルワームの対空砲火にだってビクともしないぜ? FRが来たって返り討ちにしてやる! ワハハハ!」
 豪快に笑うα−4のパイロットだけではない。敵地上空に侵入しての危険任務だけに、今回の偵察部隊は隊長機のウーフーを始め護衛の雷電×2、ディスタン×2、バイパー改×3と特に防御力に優れたKVによって編成され、各機が独自のカスタマイズで大幅に機体を強化した精鋭部隊であった。

 カメル領空に侵入して間もなく、同国空軍の戦闘機が飛来し、形ばかりの「退避勧告」を告げてきた。が、傭兵達が無視していると、すぐに機首を翻して本土の方へ引き返していった。
「けっ。バグアに尻尾を振る腰抜けどもめ‥‥」
「α1より各機へ! 首都方面より高速移動物体を確認。数は10。この動きは――慣性制御だ!」
「CWか?」
「いや、それにしちゃ例の頭痛が来ないぞ? レーダーも正常に作動している‥‥」
「とすると、HW!?」
 ついにバグア機出現。傭兵達の間に緊張が走る。
 だが数分後、彼らの視界に入ったのは予想外の「敵機」だった。
 長い髪をなびかせ、見た目は少女人形の様なボディに黄色い鎧をまとい、白い翼を広げた人型のワーム。
「女神型ワーム‥‥例の電子戦機か?」
「似ているが、違うな‥‥報告に比べてだいぶ小さいぞ」
 隊長機からの通信どおり、外見こそ似ているが、先の友軍救出戦を妨害した白い女神型ワーム「モリグー」に比べると半分ほどの大きさで、幼い外観は「女神」というより「幼天使」とでも呼んだ方が相応しい。
 武器らしいものは装備していないが、代りにその機体とほぼ同じ大きさの盾を構えている。盾の表面は、あたかも鏡のごとく磨き抜かれていた。
「シールドらしいが‥‥まるで鏡だな。あれでレーザーを反射するつもりか?」
「まさかとは思うが‥‥」
 それでも用心のため、前衛のKV部隊が物理兵器のスナイパーライフル、AAM等で攻撃を試みた。
 実体弾による攻撃は「鏡の盾」を呆気なく突き破り、黄色い女神1機が脆くも撃墜された。
「なんだ。口ほどにもない‥‥」
「前方10時の方向より、小型HW3機の接近を確認!」
「よし、そちらから先に叩く!」
 何をするでもなく、編隊の周囲をフワフワ漂う「黄色い女神」は無視して、KV各機はHWへと機首を向ける。
 まず先頭の雷電がSライフルによる先制攻撃をかけようとした、その刹那。
 小型HWの機体から淡い紅色の光線が発射され――次の瞬間、それは全く予想外の方向から真紅の閃光と化して雷電を直撃していた。
「なっ‥‥!?」
 隊長機も、その他のKVパイロットも言葉を失った。
 防御・抵抗を大幅に高めたはずの強化雷電はコクピット付近に大穴を穿たれ、真っ二つになって眼下のカメル領海へ墜落していった。
 再び、HWがプロトン砲を発射する。
 能力者の傭兵達は、今度こそ何が起こっているかを理解した。
 HWから放たれたプロトン砲の光条がKV編隊を取り巻く女神達の「鏡の盾」に数回反射され――おそらくその過程で威力を増幅され――前衛にいたディスタンを、やはり1撃で葬り去る。
「いかん! 撤退だ!」
 後方の隊長機が慌てて指示を下している間にも、さらにバイパー改1機が犠牲となっていた。

「本日午前10:20、我が国の領空を侵犯したUPC所属と思われる戦闘機8機をバグア駐留軍の新鋭機『エリン』が迎撃。3機を撃墜し領空より撃退しました。この事態に鑑み、臨時政府主席・ゲラン元帥閣下は我が国の主権を脅かすUPCの侵略行為に対して強く抗議するコメントを――」
 UPC加盟国にも流されるカメル国営放送の番組で、女性アナウンサーが感情を押し殺したような棒読み口調でニュースを読み上げる。

 そしてその三日後、報復のごとくバグアの小型HW群がインドネシア国内のUPC軍レーダーサイトを襲った。
 あの「黄色い女神」達に導かれるように――。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
神鳥 歩夢(ga8600
15歳・♂・DF

●リプレイ本文

「先日の兵士救助以来ですね、カメルに関わるのは。今回は新型を含む敵の殲滅、ですか」
「駆け出しの時にあの地を踏んでもう一年、か。色々と縁の深い国になったもんだ、カメルも。‥‥おっと。感傷に浸るのは後回しだね!」
 叢雲(ga2494)からの通信に、新条 拓那(ga1294)が応える。
 もっとも同じディアブロを操縦する彼らが向かう先はカメル本土ではなく、その近隣――インドネシア領内にあるUPC軍レーダーサイトだ。
 カメルを占領したバグア軍を監視するため臨時に設置された同基地からSOSの通信を受けて、既に30分が過ぎようとしている。
「エリンのアンプシールドはHWのプロトン砲の反射増幅能力を持つ。つまりHWとの連携で思わぬ方向からの増幅プロトン砲を食らう危険性がある。作戦はHWとエリンの連携を断つ。これしかないだろう」
 雷電の機上から、緑川 安則(ga0157)は僚機に作戦方針を確認した。
「軍の話じゃ、改造強化した雷電が一発で撃墜されたそうだしな‥‥」
 霧島 亜夜(ga3511)が改めて気を引き締める。赤くペイントされたウーフー、愛機「緋閃」も改造により防御と抵抗を強化しているが、油断は禁物だ。
「プロトン砲を反射増幅かぁ‥‥」
 明星 那由他(ga4081)はサイエンティストとして、噂の新兵器について興味と不安を同時に抱いていた。
「もし‥‥シェイドやギガワームのものを増幅されたら‥‥増幅限界が低いレベルに留まってるといいな」
「黄色い女神、エリンですか――」
 まだ現物を見たわけではないが、事前に目を通した偵察部隊のレポートを思い返し、神鳥 歩夢(ga8600)はその姿をぼんやり想像していた。
 女難の相とでもいうのか、どういうわけか彼は過去の依頼で女性型キメラに酷い目に遭わされた経験が多い。まあエリンの場合ワームなので、外見はどうあれ男も女もないわけだが。
「‥‥ですが、この試練に打ち勝ってみせましょう」
 と、気を取り直して拳をぐっ、と握る。


 目的地であるレーダーサイト上空に到達したとき、予想以上の被害の大きさに傭兵達は目を見張った。
 地上のレーダー施設はほぼ破壊され、基地を守備していた正規軍のKVも全て撃墜されたらしく、周囲の森のあちこちから炎と煙が上がっている。
「‥‥招かざる客はお帰り願いましょう。尤も‥‥ここまで仲間を傷付けられて穏便に帰らす程、俺達は甘くありませんよ」
 リヒト・グラオベン(ga2826)が静かな憤りを口にする。
 しかし、肝心のバグア軍が見あたらない。
 亜夜のウーフーと那由他の岩龍改がレーダーによる索敵を行ったところ、10kmほど南方の空に小型HWらしき機影を5つ、さらにその半分くらいの小さな影を5つ捉えた。
 直後、能力者達を激しい頭痛が襲うと共に、KVのレーダースクリーンが大きく乱れる。
「CWか――!」
 同時に、5機の小型HWがデルタ型の編隊を組み、急速に距離を詰めてきた。
 後方に配置したCW5機から発せられる怪音波と電子ジャミング。そして小型HWの突撃――ここまでは、最近のバグア航空戦力の常套手段だ。
 亜夜と那由他は異なる電子戦機によるジャミング中和の増幅でCWを抑え込もうと図ったが、5機分で増幅された敵の怪音波のパワーが圧倒的で、辛うじてノイズ混じりの通信を維持するのが精一杯だった。
 目も眩むような頭痛に耐えつつ、HW迎撃の態勢に入ろうとしたKV部隊の目前に――。
 それまで眼下の森に潜んでいたのか、音もなく黄色い影が舞い上がってきた。
 エリンだ。その数は、やはり5機。
「またあの女神様のお仲間か‥‥最近のバグアは益々メルヘンチックだな」
 ディスタンの機上で、リディス(ga0022)がぼやく。
 その言葉通り、姿を現わしたエリンは彼女が幾度か戦った「女神型ワーム」の派生タイプと思われる。ただしワームとしては小型にあたる人型ボディは翼を生やした幼い少女の様で、鏡のように磨き抜かれた盾一つを構えた姿は、女神というより幼天使と呼ぶに相応しい。
 もっとも、最近別依頼で妻のアンジェリカにしてやられらた亜夜にとっては、「天使(アンジェ)型」というだけで却って腹立たしかったが。
「天使の面した悪魔め、本性暴いてやるぜ!」
 傭兵達のKV10機は、直前に入手した敵の位置情報を元に、各々対HW・対エリンと二手に分かれ、応戦を開始した。
「さあ、歓迎の花火と行こうか。Stecker bei!」
 安則は雷電の超伝導アクチュエータを起動、KV部隊を取り囲むように展開した5機のエリンをマルチロックオン、先手必勝とばかりK−01ミサイルを発射する。
 だがスキル併用で命中を上げたにもかかわらず、「女神」達は小型ミサイルの嵐を易々とかわした。
 エリンの回避が高いというより、CW5機によるジャミング増幅効果だろう。
 近頃は人類側もミサイルに赤外線誘導や重力波検知などCWの影響を受けにくい誘導方式を採用しつつあるが、5機も束になってかかられるとKVのアビオニクス全体が狂わされるので、やはり命中率ダウンは免れない。
「くそっ。やはりCWを始末しないうちは無駄弾か‥‥」
 報復の様にエリン達がアンプ・シールドをかかげ、小型HWがプロトン砲を放った。
 淡紅色の光条が2度反射され、より増幅された真紅の閃光となって雷電を直撃する。
「うぉっ!?」
 この一撃で、機体生命の半分近くを持って行かれた。もう何度か反射回数が多ければ、それこそ偵察隊の雷電と同じ運命を辿っていたに違いない。
「火力を生かした連携戦闘、バグアも戦術論を理解している人がいて嬉しいねえ。ただ、これがゲームであればもっと最高なのだが」
 理想としている戦術論とリアルな戦闘の違いに、思わず嘆きを覚える安則。
 再びHW編隊がプロトン砲を発射、エリン達のアンプ・シールドに光線を反射・増幅させ、傭兵達のKVから容赦なく機体生命を削っていく。
 まさに鏡の牢獄だ。
「反射なんて‥‥面倒に考えずに‥‥、HWと同じだと思えばいいんだ‥‥」
 那由他はSライフルで正面のエリンを狙ったが、1反射の増幅光線で一気に5割近いダメージを受けたため、すかさずブーストオンで「女神」の包囲から離脱した。
「個々の力は弱くとも、連携することによってその力を何倍にもする‥‥魅かれるものがありますね、そういうの」
 新居・やすかず(ga1891)は窮地のさなかにもかかわらず、バグアの新戦術に奇妙な感心さえ覚えていた。
「もっとも、敵にやられるのは複雑ですが」
「アテナとメデューサ、アイギスの名を冠しなかった事に関しては褒めてあげるべきかしら?」
 増幅プロトン砲の衝撃で大きく揺れるワイバーンのコクピットで、葵 宙華(ga4067
もふと場違いな感想を抱いていた。
「女神の盾というとアイギスだけど、実質的にはアテナが一番怖いのよね、普通の女じゃ此処まではしないわ」
 鏡の盾といえば有名なのはギリシア神話でメデューサを退治した勇者ペルセウスであるが、元は美しかったメデューサを怪物に変えたのも、その退治法を勇者に教えたのも、実は同じ女神アテナだといわれている。
 ともあれ、このまま手をこまねいてはレーダー基地守備隊の二の舞だ。
 亜夜、歩夢、宙華、安則の4機がエリンを。リディス、拓那、やすかず、リヒト、那由他の6機がプロトン砲の発射元である小型HW要撃に向かった。
「多方面攻撃故に避け難いのでしたら‥‥その面を潰すまでです!」
 リヒトは加速最大で急降下し、超低空飛行で機体下部への射線を封じようと図る。
 だがその直後、真下からの激しい衝撃で機体バランスを大きく崩した。
「なっ――!?」
 慌てて眼下の森を見下ろすと、頭上に盾を構えた黄色い影が、木々の間を素早く走り抜けていく。
「なるほど‥‥あの形態のまま、陸戦も可能というわけですか」
 森に潜むエリンの存在を対エリン班へ伝えると、再び地上から反射された増幅光線を間一髪、ブーストでかわしてリヒトはそのままHWを目指した。

 高性能ラージフレアを展開した歩夢は手近のエリンへギリギリまで接近し、127mm2連装ロケット弾ランチャーを連射して離脱。零距離射撃で立て続けに撃ち込まれたロケット弾はアンプ・シールドを呆気なく貫通し、煙を噴いて墜落したエリンは森の上で自爆した。
 エリンの盾から反射される光線を不規則なマニューバで回避しつつ――それでも何発かは痛いのを食らってしまうが――亜夜は反撃の糸口をつかむべく、短距離AAM、ロケットランチャー、長距離バルカンと物理攻撃メインでひたすら攻撃を続けた。
「く、どこから撃って来るかわからない緊張感はいいが、当たったら洒落になんないのがな‥‥」
 CWのジャミングで命中率を下げられているものの、弾幕を張る事じたいでエリンの連携を乱し、反射光線を撃たせない効果はあった。
 バルカン砲弾である程度ダメージを与えたアンプ・シールドが機能するかも観察してみたが、結局反撃のプロトン砲を受けてしまう。
 どうやら「鏡面による光学的な反射」などという単純なものではなさそうだ。
 初手のダメージから何とか機体を立て直した安則は、歩夢に習って至近距離からK−01を、撃ち尽くせばロケットランチャーへと切替え、やはりひたすら撃ちまくる。
「これぞ空中戦だろう!? 緑川サーカスというところか!」
 エリン自体が脆弱なこと、弾数の多さが幸いし、1機、また1機と「女神」の数を減らしていった。
 宙華は一見鏡の様なアンプ・シールドにペイント弾を発射、染料により反射・増幅を減衰できるか試みた。一瞬、エリンの盾が赤く染め上げられるも、ジュッという音と共に染料は蒸発。彼方から放たれた光条を反射しワイバーンの機体を穿った。
 ペイント弾など当てている余裕があるなら、実弾で撃破した方が早い――痛みと引き替えに教訓を得た宙華は、続けざまに反射された光線を緊急ブースターで回避。
「最強を語れる程の器はないが‥‥蒼狼蝶姫、いざまいる!」
 気を取り直し、改めてスラスターライフルによるエリン駆逐を開始した。

 そこからわずかに南の空域では――。
「さぁパーティの始まりだ、各機自分のダンスパートナーは見失うなよ!」
 編隊長・リディスの号令と共に、対HW班6機も交戦に突入していた。
 デルタ型編隊を組んだ小型HWを左舷より1〜5とナンバリングし、各機が1対1でHWにドッグファイトを挑む。
「HWが連携なんざ小賢しいんだよ‥‥分断さえしちまえば‥‥っ! 大丈夫。何てこたない! ただのヘナチョコ弾だってーの!」
 拓那の言葉通り、この段階ではHWの撃破そのものより、最大の脅威であるエリンが駆逐されるまで敵に大元のプロトン砲を撃たせない事が狙いである。
 後方のエリンとHWの間に割って入った拓那のディアブロは、あえて反射攻撃を封じるため敵のプロトン砲を正面から受け止めた。
 無傷とはいかないが、例の反射光線に比べれば損害はまだ少ない。
 相方の御守りを握り締めると、立て続けにトリガーを引いて反撃の高分子レーザーを叩き込んだ。
 S−01Hのやすかずは、ライフル、マシンガンでまず攻撃し、敵の回避行動を読んで次の射撃につなげる2段、3段構えの攻撃でHWに挑んだ。
 慣性誘導で回避しつつ反撃の機会をうかがうHWの、さらに死角に回り込んで至近距離からの攻撃。
 業を煮やしたようにFFを強化したHWが、赤光を放って体当たりをかけてきた。
 戦闘中、HW本体から受けたプロトン砲の被害を、エリンからの反射光線のそれと比較し、頭の中でざっと計算してみる。
 ――どうやら、1反射につき2倍ずつ増幅されているようだ。
(「幾何級数的増幅‥‥これはシャレになりませんね」)
 まだ数が少ないからいいものの、もしこのワームがCW並に大量投入されてきたら――やすかずは思わずゾッとした。
「では、当初の予定通りに。私の担当は‥‥こいつですね。」
 叢雲はラージフレアで敵の索敵を妨害しつつ、やはり間合いを詰めての挌闘戦に持ち込んでいた。
 距離をとろうとするHWに対してロケット弾で牽制。一瞬回避に気を取られた敵の軌道を読み、Aフォース併用でUK−10AAMを放つ。
「Aフォース起動。全弾持って行きなさい‥‥!」
 HWの機体にFFの赤光と爆炎が閃き、グラリとバランスを崩す。
 ちょうどそのとき、対エリン班の亜夜から「上空のエリンを全機撃墜」との通信が入った。地上の森の中にまだ1、2機潜んでいるようだが、これは後回しにしてもよいだろう。
「エリン片付け終わったって? サンキュー! 一つ貸しが出来たね。それじゃ、こっちも早いとこケリをつけよう。ホントの連携を見せてやろうぜ!」
「紛い物の女神様ではご加護はないようだな。勝利の女神様はこちらに微笑んだ、というわけだ」
 拓那とリディスが相次いで返信し、対HW班は一機に逆襲へと転じた。
 エリンの支援を失ったHW群に対し、リディス機、リヒト機がソードウィングで斬り込んでいく。間もなくHW2機が大きく高度を下げ、低空で自ら爆散した。
 また対エリン班4機が合流したことで、戦力に余裕が出たKV隊はHWの前衛を突破し後方のCW駆逐にかかる。

『もうそのへんでいいわ。引上げよ』

 ふいに生き残りのHW3機、CW2機が慣性制御で方向転換。南方のカメル方面へ向け撤退を開始した。
 復旧したレーダーの索敵圏にモニター機と思しき黒い中型HWを確認した宙華は追撃をかけようとしたが、自機の損傷が大きくやむなく断念。
 また、地上に隠れていたエリン2機がフワリと舞い上がり逃走を図るが、KV全機による集中砲火を浴びせて粉砕された。
 このとき亜夜は試しにG放電を使用してみたが、アンプ・シールドに反射されることもなく普通にエリンにダメージを与えた。どうやら、例の盾が反射できるのはバグア側の知覚兵器のみのようだ。


「‥‥こちら傭兵部隊所属の白狼です。敵の掃討は完了したので救助部隊の派遣を要請します」
 司令部で待機する松本・権座(gz0088)少佐に、リヒトが任務終了の通信を送る。
 地上に降りた那由他は基地のシェルターに避難していた友軍兵を発見、重傷の者を優先に錬成治療を施してやった。
 できれば自爆したエリンの一部だけでも回収したい所だが、木っ端微塵に爆散した破片からアンプ・シールドの構造まで分析できるかは何ともいえない。
 またもや「女性型の敵」によってボロボロにされた愛機を見上げ、
「もっと立派な男にならないと――」
 ため息をつく歩夢のすぐ傍らでは、やはり大破寸前のウーフーから降りた亜夜が、
「さて、喧嘩中の俺の女神様とはどう仲直りしたもんかな〜」
 と、帰還後に控えた問題に頭を悩ませるのだった。

<了>