タイトル:【お節】空母釣馬鹿日記マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/17 23:28

●オープニング本文


 UPC本部食堂――それは、軍人、事務職員、傭兵たちのみならず、広く一般にも利用されている、一種の社員食堂である。
 そんな食堂の秩序を守り、纏め上げている人物――それが、飯田 よし江(gz0138)であった。

「いえ、ですから、無理です!」
「無理や無理やってアンタ、上に言うてもおれへんのに、やってみなわからへんやないの!」
 先生だって走り回っちゃう師走のある日、ヒョウ柄のセーターに身を包んだよし江は、UPC本部内の経理の姉さんに詰め寄っていた。
「傭兵の子らだって、今年は戦い通しやったやないの。労ってあげなアカン!」
 迫るヒョウ。タジタジで身を引く経理の姉さん。
「まあ落ち着きなさい。何の騒ぎですか」
 その様子に、偶々通り掛かったハインリッヒ・ブラット(gz0100)准将が、何事かと仲裁に入った。

 〜 中 略 〜

「わかりました。私が承認し、ULTに食材集めの依頼を出しましょう。企画書を回してください」
「ありがとうございます!」

 こうして、ブラット准将の承認のもと、UPC本部食堂より、ULTに新たな依頼がもたらされたのであった。
 『オセチの食材募集。正月グッズ提供歓迎!』

●L・H軍港〜空母「サラスワティ」艦長室
「‥‥で? わらわにどうせよというのじゃ?」
 執務用デスクに片肘を突き、プリネア王女にして「サラスワティ」艦長、ラクスミ・ファラーム(gz0031)が怪訝そうに尋ねた。
「ウン。だからさ、この空母もオセチの食材集めに協力して欲しいんだ☆」
 自らもよく利用する【UPC本部食堂】から出された依頼のコピーをヒラヒラさせ、UPC軍曹、チェラル・ウィリン(gz0027)が屈託ない笑顔を浮かべる。
「食堂に材料を卸してる水産会社の人に聞いたらね、このところ水中キメラや水中ワームの被害が大きくて、L・H全島に供給するための漁獲量が落ち込んでるんだってさ」
 通常の食料なら島内の食料プラントで自給自足できる人工島L・Hであるが、太平洋のど真ん中に浮いていることもあり、こと魚に関しては新鮮な天然魚を調達できるという利点がある。もっとも近年では海中におけるキメラやワーム跳梁により迂闊に漁船が出せず、島内の養殖魚だけではお節料理の分まで回す余裕がない――というのが実情だ。
「でも、この空母ならなまじのキメラやワームもへっちゃらでしょ? だから、この船でお魚を一杯‥‥」
 コホン‥‥。
 ラクスミの傍らに直立不動で控える副長・シンハ中佐が咳払いした。
「あー‥‥チェラル殿は何か勘違いしておられませんか? 本艦は正規の軍艦、しかも我がプリネア王国が威信をかけて建造した最新鋭航空母艦ですぞ? それを釣り船代りに使えというのは、いくら何でも‥‥」
「全くじゃ。それは確かに、航路の問題でグリーランドでの大規模作戦には参加できぬであろうが、じゃからといって――」
「堅いこと言わないで♪ お姫様やこの艦の人達だって、来年のお正月に美味しいオセチ、食べたいでしょ?」
 いいながら、チェラルは資料として持参した料理本『来年はこれで決まり! おうちで作れる特選お節料理』を同席の一同に配る。
「うわぁーっ!」
「美味しそうアル!」
 見開きカラー写真で紹介される色とりどりのお節料理に、まず双子の偵察機パイロット李・海狼(リー・ハイラン)、李・海花(リー・ハイファ)の兄妹が歓声を上げた。
「む‥‥た、確かに美味そうじゃな‥‥」
 グラビアのお節、ことに刺身料理にラクスミの視線が釘付けになる。
 南国出身の彼女には「魚を生で食べる」という習慣がないだけに、却って新鮮に映ったらしい。
 さらに部屋の隅では、
「私、これ‥‥『お肉抜きのベジタブルお重』がいい‥‥」
 プリネア軍少尉、マリア・クールマ(gz0092)がポソッと呟きながら頁に付箋を貼り付けていた。
「‥‥シンハ‥‥」
「‥‥は?」
「ULTに依頼を出せ‥‥それと、出航の準備じゃ」
「あのう‥‥王国の威信は‥‥」
「たわけ! 威信で腹が膨れるかっ!!」

 かくして数日後――。
 ブリッジに巨大な大漁旗をひらめかせた3万tの空母「サラスワティ」は、威風堂々とL・Hから出航したのであった。

●参加者一覧

鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

「繰り返していうが、これは行楽ではない! L・Hの食糧資源を確保するための重要任務と心得よ!」
 長靴にフィッシングウェア。ベストにキャップ――と何処から見ても「日曜に磯釣りに出るお父さん」な出で立ちのラクスミ・ファラーム(gz0031)が、空母「サラスワティ」甲板上で釣り竿を振りかざし檄を飛ばした。
「正月の興廃この一戦にあり! 各員奮励努力せよ!」
 ――が。
 応援の傭兵8名を含め、集合したクルー達には今ひとつ緊張感が見られない。
「うわ‥‥本当についてる‥‥、大漁旗なんてどこで手に入れたんだろう‥‥?」
 明星 那由他(ga4081)は空母のブリッジ上にはためく大旗を見上げ、半ば感心、半ば呆れた様に声を洩らした。
「艦長の本気が見えますねえ。でも大漁旗って、大漁で港に戻った時に掲げるものじゃなかったかな?」
 井出 一真(ga6977)も思わず苦笑い。
「船首に『さらすわてぃ』とか『弁天丸』とか‥‥書かれなかっただけまだまし‥‥なのかな」
「今日は釣り日和なのですよ〜。頑張って、大物を獲るですよ」
 と笑顔で張り切るアイリス(ga3942)。
「美味しい物を食べられる日常では、人は前向きに生きていけるものです。皆が楽しい年を迎えられるように協力させてもらうとしましょう」
 リヒト・グラオベン(ga2826)の様に真面目に頷く者もいたが――。
 実は甲板上に臨時招集されたクルー達の大半は、ラクスミの訓辞を聴いていなかった。
 彼らはいくらか離れた場所に集まり、御坂 美緒(ga0466)をグルリと取り囲んでいたのだ。
「御節準備の為の食材確保に、ぜひ皆さんのご協力が必要なのです♪」
 この夏、艦長のラクスミも知らないうちに有志のクルーで結成された「サラスワティ福利厚生組合」の長を務める美緒は、高らかに宣言した。
「この場を借りて、今年のクリスマスに『セクシーサンタガールズだらけの仮装聖夜祭』実行の署名を集めるです。今日の漁獲量が高ければ、艦長の説得もグンとやりやすくなるのです♪」
 うぉおーーーっ!! と男性クルー達の間から一斉に拍手と歓声が上がった。
 明らかにラクスミの演説より士気高揚に貢献している。
 それにしても謎なのは、美緒と並んで立つチェラル・ウィリン(gz0027)とマリア・クールマ(gz0092)の格好だ。チェラルは引き締まってなおかつ豊満なボディに黒ビキニ、マリアは華奢な肢体に白スク水着、麦わら帽という出で立ち。
 現在地は太平洋上でも比較的南寄りの温暖な海域なので、別に水着姿でも寒くはないのだが、今回の目的は海水浴ではなく漁である。
「‥‥本当に、これじゃなきゃダメなの? 美緒‥‥」
 頬を赤らめおずおず尋ねるマリアに対し、
「サシミの国日本では、美しい女性が陣頭に立つことで大漁が約束されるというジンクスがあるのですよ♪ 皆さんの魅力なら美味しいお魚が大漁間違いなしなのです♪」
 再びクルー一同が嵐のごとく拍手喝采。
 まあ船霊信仰というのもあるくらいだから、美緒の言葉もあながち事実無根ではないのだが‥‥。

 ともあれ早朝のL・Hから出航、朝8時頃には現場海域に到着した「サラスワティ」艦上では、傭兵とプリネア兵達が忙しく漁の支度を開始した。
 基本的には空母から降ろされた大型ボートに分乗して普通に釣る者、水中用KVを使用して海中で直接魚を獲る者の2グループに分かれて行動。
 水中用KVの行動限界深度、また魚の種類によっては浅海でないと獲れないものもあるため、予め那由他がL・H周辺の海底地図を調べ、運良く見つけた岩礁地帯の近傍に艦を停泊させ、各々が魚獲りのため出動することになった。

「さてさて、いったい何を獲ろうかね。折角だからみんなとはちょっと違うモノを手に入れたいよな‥‥」
 自機ディアブロに水中用キットを装着して参加の鷹見 仁(ga0232)は考えた。
「うむむむむむ‥‥海の高級食材といったらフカヒレ! よし! 鮫を捕ろう!」
 ここは男らしく豪快な一本釣りで行くことに決め、空母から取り外した作業用ウィンチに少々手を加えたリール付きKV用釣り竿を準備。
 艦尾のウェル・ドックから海中に出ると、安全のため他の釣り仲間からは距離を置いた岩礁の上に上陸し、釣り針代りのフックに牛肉の塊を刺して海に振り込む。
 待つこと10分ほど。やがてKVでさえ引き込まれそうになるほど強烈なアタリが来た。
「こりゃあ大物だな‥‥とりゃあーっ!」
 気合いと共にフルパワーで釣り上げると、体長5mほどの巨大な鮫が岩礁に叩きつけられ大きく跳ね上がった。最初はホオジロザメかと思ったが、よくよく見れば鮫型キメラだ。
「来やがれ、3枚に卸してやるぜ!」
 BCハープンで牽制しつつ接近し、「氷雨」で斬りかかる。
 生身の人間やボートなら一呑みにしたであろう水中キメラも、相手がKVではひとたまりもなくお陀仏となった。
「こいつのヒレって食えるかな?」
 疑問を覚えつつも、とりあえずの戦果として母艦へと持ち帰った。

「おせちといえば海老らしいのですよ〜」
 W−01搭乗で参加のアイリスの目当ては、ずばり「海老」。できれば御節料理のシンボルともいうべき伊勢海老ならば、なおのこと良し。
「伊勢海老は伊勢湾にしか居ないんでしょうか?」
 イセエビ科の海老は複数存在するが、近縁種も含めれば世界各地の温暖な海に棲息している。問題は、岩礁地帯など浅海の海底でなければ獲れない事だ。
 そこで那由他から提供された海図を頼りに航行形態で付近の岩礁まで移動、水深20mほどの浅瀬まで来たところで改めて人型形態に変形し、空母で借りてきた試作・KV漁網で海老漁を開始した。
「いっぱい獲るですよ〜」
 水中で漁網を広げると他の魚はよく獲れるのだが、なぜか本命の海老がなかなか見つからない。実はイセエビは夜行性なので、海老漁とは本来夜間に行うものなのだ。
 だがそのうち、W−01の水中センサーが接近してくる複数の移動物体を捉えた。
 外部カメラの映像をモニターに呼び出すと、海老に似た姿の水中キメラが群をなしてこちらへ向かってくる。
 2本の大きな鋏を振りかざしたその姿はむしろロブスターに近いが、何となく「同じ海老」ということで食べられそうな気がした。
 UPCの食堂メニューは「キメラ料理でも有名」とも聞く。
 そこでアイリスはレーザークローを起動させ、なるべく本体を傷つけないよう、頭部を狙って中型キメラの群を次々屠っていった。
「これをお土産に持って帰るですよ」

 一真はW−01改にキングフィッシャーとKV用漁網を装備、海中で魚群を待ちかまえ、近づいてきた所を漁網でひと掬い。
「‥‥問題は、この中に食べられる魚がどれくらい入ってるかだなあ‥‥」
 事前にKVのコンピュータにインプットしておいた魚介類データと照合し、食べられない魚(外道)は取り除いていく。
「水中用KV使えば、海底牧場とか出来そうですねえ」
 キメラや水中ワームの存在さえなければ、それも夢物語ではない。もっともKV自体がバグア襲来の副産物なのが皮肉といえば皮肉だが。
 マグロキメラや蛸キメラも密かに狙っていた一真だが、残念ながらこの海域にはいないようだった。

 櫻小路・なでしこ(ga3607)とリヒトは空母搭載の水中用KVビーストソウル(BS)を交代で借りることにした。双方ともBS操縦は初めてなので、経験者のマリアとバディを組んで海中に潜る。
「ラクスミ様や『サラスワティ』の皆様には、何か好物の魚がおありでしょうか?」
「艦長は、『正月に相応しい魚なら何でもいい』って言ってた‥‥」
 なでしこの通信に、マリアが答えた。
 南国育ちのラクスミ、中国内陸部の出身である李兄妹には元々「刺身を食べる」という習慣がない。そしてマリア自身は、能力者になる以前の記憶を殆ど喪失している。
 そこで2人は10mほどの距離を置いてKV用漁網を張り、二艘引きの要領でマグロ・鯛・イカ・蛸等、お節に相応しい「旬の魚」を中心に獲っていく事にした。
 水中用サブアイシステム2連装でセンサーの感度を上げ、マグロらしき魚群を狙い一網打尽にしていく。
 中には不気味なウミウシ型やヒトデ型の水中キメラも混じっていたが、いかにも不味そうなのでこららは「外道」としてガウスガンで始末した。
 漁の最中、なでしこは先頃中国上空でシモン(gz0121)のステアーと交戦した事、非公式の軍使としてカメル共和国を訪れた時の出来事などを話した。
 これらの件はラクスミにも報告済みだ。マリアに話すかどうかはなでしこも迷ったが、やはりシモンやDF計画と深い関わりを持つ彼女には知る権利がある――と思い、あえて包み隠さず打ち明けたのだ。
「‥‥結麻・メイ(gz0120)‥‥その子、私の身代わりになったのかな‥‥?」
 淡々とした中にも、どこか複雑な心境が見え隠れするマリアの言葉。
「でも、なでしこが無事でよかった‥‥あまり、無茶はしないで」
 彼女自身、まだ完全に気持ちの整理がついていないのだろう。マリアはそう言った後、シモンやカメルの件について触れようとはしなかった。

 なでしこと入れ替わりでBSに搭乗したリヒトは、専らWH−114長距離バルカンを使った追い込み漁法を試みた。
 最初のうちこそ慣れないBSの操縦にやや戸惑うが、バディを組んだマリアのコーチもあり、間もなく己の愛機と変わらぬほど自在に海中を動けるようになる。
 水中用バルカンの砲弾が白い航跡を引いて走る度、驚いた魚群が一斉に回頭した所をトライデントで狙う。マグロ等の大物が面白いように獲れる。中には例の鮫型キメラも混じっていた。
「キメラって‥‥食べられるのかな?」
「知人がキメラは食用にも出来て味も良い‥‥と言っていました。百聞は一見にしかずとも言いますから、試しに後で食してみようと思います」

 KV班が海中で奮闘している間、傭兵とプリネア兵からなるボート班は青空と白い雲の下でのんびり釣り糸を垂れている。
 こちらも那由他の提案で、母艦のアクティブ・ソナーを魚群探知機代りに使い絞り込んだスポットへの出漁であった。
 斑鳩・八雲(ga8672)はこの夏、空母を舞台にした映画撮影で世話になったラクスミ以下クルー達に一通り挨拶してからボートへと乗り込んでいた。
「海のど真ん中で釣り、というのは初めてですが‥‥さて、何が釣れるでしょうねぇ」
 同じ船内に居合わせたチェラルに気づき、
「おや、七夕祭以来ですね。ご無沙汰してます」
「お久しぶり♪ ボクも野宿で川魚を獲ったことはあるけど、こんな本格的なフィッシングは初めてなんだ。うまく釣れるかなぁ‥‥?」
「いやいや。釣り糸を垂れたまま何をするでもなく、ぼんやりと浮きと波とを眺めつつ、貴重な時間をじっくりと味わう――これもオツなものですよ。日がな一日太公望、と洒落込みましょう」

 対照的にハイテンションなのは、美緒が率いる「福利厚生組合」ご一行の船団。
 こちらはボートからの投網と、数に任せた一本釣りでひたすら刺身用の鮮魚大量ゲットを狙う。
「皆で海の男の威厳を見せるですよ。大物を釣れば、それだけセクシーサンタさんが近付くと思うのです♪」
「アイアイサーッ!!」
 なぜか目を血走らせたプリネア軍の男達が、鼻息も荒く網を投げ入れ、次々と魚を釣り上げていく。まさに見敵必殺、鬼神もこれを避く勢いである。
 その隣のボートでは、
「今年のXmasパーティーは、久々にフォーマルでシックなムードで行くかのう?」
「御意。仮にも王族主催の艦上パーティーですからなあ」
 何も知らないラクスミとシンハ中佐が、釣り竿を並べて呑気に話し合っていた。
 果たして美緒と組合員達の野望は実現するのか? それは神にすら判らない‥‥。

「そういえば‥‥、プリネアや中国ではお正月に何かするのかな?」
 那由他はボートに同乗した李兄妹に尋ねた。
「僕らの国では、旧正月に花火や爆竹を鳴らしてお祝いするんです」
「うん、それは聞いたことある。でもプリネアのほうは想像もつかないや」
 プリネア軍に所属する李兄妹にしても、まだ肝心のプリネア本国に行った事がないので見当もつかない様子で顔を見合わせる。
 水着姿の3人だが、那由他は上半身にTシャツ、パーカーを羽織っている。水に濡れたときの用心もあるが、過去バグアの攻撃によって受けた背中の傷痕を人に見せたくなかったのだ。
「あ‥‥、そうだ、海花ちゃん海狼くんにいいこと教えてあげる」
 不思議そうに顔を近づける幼い兄妹に、那由他はそっと耳打ちした。
「日本のお正月にはね‥‥、お年玉っていって大人が子どもに一年の成長を願って‥‥お小遣いを上げる習慣があるんだ。艦長や艦の人たちにねだってみたらどうかな?」
「わーい、いいこと聞いたアル♪」
「ほ、本当に貰えるかなあ‥‥?」
 丁度その時、那由他の糸に強烈なアタリが来た。かなりの大物だ。
「よーし、引き負けないぞ!」
 咄嗟に覚醒、瞳の色をエメラルド色に輝かせパワー倍増で竿を引く那由他。
 やがて大きな真鯛がボートの船底に飛び込み、李兄妹が歓声を上げた。

 太陽が西に傾いた頃、作戦終了を告げる照明弾が空母から打ち上げられ、KV組・ボート組はそれぞれ母艦へと帰投した。
 甲板上にはマグロ・カンパチ・鯛・イカ・蛸・小エビetc.旬の魚が山と積まれ、なかなかの大漁である。さらに鮫キメラ、海老キメラもその巨体を甲板にグタっと横たえていた。
 UPC本部食堂へ届ける分、L・Hの魚市場へ無償で寄付する分をより分け、余った分は打ち上げも兼ねた試食会の肴だ。
 そのまま捌いて刺身にしたり炙ったり。
 美緒は小魚やアラをまとめて大鍋で煮込み、なでしこも別に味噌仕立ての魚介鍋をクルー達に振る舞った。
「‥‥ん、ラクスミ艦長は刺身を食べたことはあるのでしょうか?」
「以前、銀河重工の接待で寿司屋に招待された事はあるがのう‥‥」
 リヒトの質問に答えつつ、八雲が鬼包丁で捌いた刺身をワサビ醤油で一口食べるラクスミ。
「――美味い! やはり釣りたては格別じゃのう」
 その傍らでは、マリアも慣れない箸を使いワサビ抜きの刺身を口に運んでいる。
 そんな彼女に箸の使い方を教えてやりながら、
「‥‥こんな平和な任務ばかりなら良いんですけどね」
 一真はしみじみ呟いた。
「やはり釣りは良いものですね。‥‥釣果はさておき」
 慣れた手つきで魚を捌きつつ、八雲も上機嫌に微笑む。
「おお、そうじゃ。丁度本国に申請しておいたアレが届いておったな」
 試食会の最後、ラクスミ王女から参加の傭兵達に『プリネア王国名誉騎士章』が贈られた。
「皆の者には以前の依頼でも度々世話になっておるしな。今後ともよしなに頼むぞ」
 かくしてL・H全島の御節に使っても余りある鮮魚を満載した空母は、大漁旗を翻し意気揚々と港へと帰還したのであった。

<了>