タイトル:【Or】決戦・筑後上空マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/08 18:27

●オープニング本文


●宮崎県・UPC新田原基地
「えっ!? ボク、伊万里に行くんじゃないの!?」
 愛機ミカガミのコクピットで、UPC軍曹チェラル・ウィリン(gz0027)は意外そうに叫んだ。

 間もなくUPC佐世保基地と福岡バグア軍春日基地の中間にあたる伊万里近郊で、ゾディアック「牡牛座」ダム・ダルのFRを迎え撃つ特別作戦「オリオン」が発動される。
 UPCきってのエースチーム「ブルーファントム」の1人であるチェラルもまた、伊万里での戦闘に参加するべくここ新田原基地へ招集されていたのだ。
『まぁその予定だったんだが‥‥ちょいと状況が変わってな』
 現在、佐世保基地から作戦の指揮を執るUPC軍少佐、松本・権座(gz0088)の声がKVの無線機から響いた。
「何でー!? ボクだって、ゾディアックと戦いたいよっ!」
 不満そうにほっぺを膨らませるチェラル。
 彼女自身は別にダム・ダルに遺恨や因縁があるわけでないが、純粋にKV乗りの1人としてバグア側エースとやりあってみたかったのだ。
『偵察機の報告によれば、ついさっき春日基地から大型HWを主力にした大部隊が発進したらしい。ただし進路は伊万里じゃなく熊本方面‥‥バグアの連中、どうやらこっちがFRにかまけてる隙をついて本陣を狙って来やがった』
 FR殲滅のため、現在伊万里周辺には正規軍・ULT傭兵、あげくは民間軍事企業SIVAからの増援も含め計100機を超すKVや在来型戦闘機が展開している。
 この状況を逆手に取り、バグア軍は九州方面隊が司令部を置く北熊本攻略を目指し一気に大部隊を送り込んできたのだ。
「ダム・ダルは囮にされたのかぁ‥‥彼はそれ知ってるのかな?」
『おいおい、敵のエースに同情してる場合かよ? とにかく、FRを撃墜できても司令部を落とされちまっちゃ意味がねえ。そういうわけで、おまえさんは新田原で動ける連中と一緒に熊本防衛の方へ回ってくれ』
「‥‥分かったよ」
 通信を終えた後、チェラルは素早くKVのコンピュータを操作し、現在この基地からスクランブルをかけられる稼働戦力を確認した。
 今すぐ出撃可能なのは、正規軍がKV20機、F−15GJなど在来型機が30機余り。ただしKVはS−01改など初期型機体が中心だ。
「う〜ん。いまいち、厳しいかなぁ‥‥?」
 頼りになるのは、彼女と同じくL・Hから派遣されてきた傭兵達。本来なら対FR戦のため招集された戦力である。
「‥‥でも、やるっきゃないか!」
 両手でパンッ! と自分の頬を叩いて気合いを入れると、チェラルはハンガーで待機する傭兵達への通信回線を開いた。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD

●リプレイ本文

●宮崎県〜UPC軍新田原基地
『バグア軍春日基地よりHWの大部隊が発進、熊本方面へ侵攻』
 偵察機からの至急電を受け、基地内に第1級警戒体制とスクランブルを告げる甲高いサイレンが鳴り渡る。
 この事態に、特別作戦「オリオン」に基づきゾディアック「牡牛座」FR迎撃のため招集されていた傭兵達のKV12機も出撃先を変更、正規軍部隊と共に筑後方面へ向かう事となった。

「『オリオン』の隙を突いてくるとはな‥‥こっちの考えてることはお見通しってわけか」
 雷電の武骨な機体を滑走路に移動させつつ、ブレイズ・カーディナル(ga1851)が悔しげに舌打ちした。
「こうなっては俺たちでなんとかするしかないな。『オリオン』に参加できないのは残念だが、向こうは隊長らに任せるか」
 現在は伊万里で待機しているはずの所属小隊リーダーの事を思い、独りごちる。
 彼のみならず、本来ならFR迎撃の増援に向かうはずだった彼ら、彼女らの胸中にはそれぞれ複雑なものがあった。
「あっちは囮と言う事ですか‥‥」
 と夕凪 春花(ga3152)。
「敵も然る者。『機を見るに敏』と、言う訳か‥‥」
 煉条トヲイ(ga0236)もまた、雷電の操縦席で呟く。
 かねて北九州一帯におけるバグア軍の攻勢が強まっていることは周知の件であるが、大型HWも含む今回の大規模侵攻は、明らかにUPC側「オリオン」作戦の裏を掻いた動きといえるだろう。
「あからさまにダム・ダル(gz0119)を捨て駒にした訳だが――彼はそんな事など百も承知なのだろうな‥‥」
 大規模作戦を含め、過去幾度も遭遇したバグア軍エース。敵ながら天晴れと思える真っ直ぐな戦士。そんな彼を罠に嵌める形となってしまった事に心が痛むも、かくなる上は是非もない。
「――願わくば、彼が望む強者との純粋な命の遣り取りが全う出来る事を」
「むぅ‥‥ダルをダシに使ったのか‥‥それともダルを助けるための動きなのか‥‥」
 やはり幾度となく矛を交えた宿敵との、最後の決戦の機を逸した漸 王零(ga2930)も、内心忸怩たるものを感じていた。
 戦う時と相手を自らの意志で選べないのも、また戦争のままならぬ一面とはいえ。
「どちらにせよ‥‥今はやるべきことをやらねば‥‥」
「エースっていっても‥‥作戦の決定に参加できることなんて稀で‥‥、その実情は一兵卒、囮に使われるなんて‥‥、バグアでもそれは同じ‥‥なのかな‥‥?」
「そーかもしれないねえ。ゾディアックがどうかは知らないけど、ボクなんかせいぜい下士官相当の軍属だし。しょっちゅう招集されて仕事はしんどい割に、冬のボーナス下げられちゃったしなぁ‥‥って関係ないか。テヘっ」
 明星 那由他(ga4081)の疑問に、UPC側エースの1人であるチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹から、どこかピントのズレた返信が入る。
 かくいう彼女も突然の命令変更により、今回は指揮官ではなく1パイロットとして傭兵達と同じ飛行小隊に編入されていた。
「打倒FRの重要性は解りますが、この状況は『戦士』を‥‥『決闘』を罠にした仇なのですかねぇ?」
 黒・灰・白の都市迷彩を施したウーフー、TACネーム「黄水仙」に搭乗のヨネモトタケシ(gb0843)が渋い顔つきでいう。祖国・日本防衛のためとはせ参じたものの、今回の「オリオン」作戦そのものに対しては、いささか納得しかねる様子だった。
(「まあ、そう考える自分が甘いのかもしれませんが‥‥」)
「大きな作戦ですね、牡牛座迎撃に向かった人達は無事でしょうか?」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)は伊万里でFRと戦う友軍部隊を心配する。
「ま、ゾディアックと戦うよりはこちらの方が気が楽です」
 鋼 蒼志(ga0165)の様にバグア側エースとの戦いにはさほど拘らない者もいたが、こちらの敵も大型HWを中心とした大部隊。けっして容易な相手ではない。
「雷神と剣神に抗し切った天津甕星(みかぼし)の名を借りた以上、無様をするわけにはいかんな」
 最新鋭KV「シュテルン」を日本神話にちなみ「ミカボシ」と命名した御山・アキラ(ga0532)は、新たな愛機での出撃に武者震いしていた。
 たとえFRを撃墜しても、九州方面隊司令部がある北熊本を落とされるような事があれば、今後の九州戦線において人類側が著しく不利になるのは明らかだ。
「バグアどもにこれ以上の侵攻を許してなるものか。それに、ここで奴らに大打撃を与えれば逆に人類側のチャンスとなるかもしれない――今年最後の働きだ。みんな、気合を入れて掛かろう」
 レティ・クリムゾン(ga8679)が僚機に激励の通信を飛ばす。

 間もなく、チェラルを含めた13機の傭兵KV部隊は滑走路を離れ、先に離陸した正規軍部隊と共に筑後方面へ進路を取った。

●全機、突入せよ!
 UPC司令部が設定した防衛ラインは筑肥山地上空。ここを突破されると市街地上空の戦闘となり、たとえ敵HWを撃墜しても一般市民に多大な被害を出す怖れがある。
 早くも蒼空に目視できるバグア航空兵力は直径百メートルに及ぶ大型HWを中心に、CW、小型HW、飛行キメラの順に輪形陣を描いた計70近く。
 その威容はまさに「空の艦隊」と呼ぶに相応しい。
 迎え撃つUPC側も正規軍・傭兵合わせて60余機となるが、その半数はF−15GJ等の在来型戦闘機。またチェラルのミカガミを別にすれば、正規軍KVにはS−01改など初期型機体が多く、数の上では辛うじて互角といえ厳しい戦いとなることは想像に難くない。

 戦力の中核をなす傭兵部隊は、まずチェラルを通して正規軍航空部隊へ連絡を取り、KVおよそ20機、在来機30機の混成部隊を後方へ幅広く展開してもらい、空戦のバックアップを要請した。これは討ちもらした小型HWや飛行キメラが熊本方面へ突破を図った場合の用心でもある。
 同時に、傭兵部隊も本格的な交戦に備え、素早く編隊を整えた。

・対小型HW・飛行キメラ班
 ヨネモト(管制役)、夕凪、鋼、須磨井 礼二(gb2034)、御山
・対CW班
 レティ、明星、ブレイズ、チェラル
・対大型HW班
 漸、榊兵衛(ga0388)、煉条、霞澄

 ※この班分けは暫定的なもの。戦況に合わせ、臨機応変に他班を援護する。

「今回は一点突破作戦ですね」
 礼二の言葉通り、質量共に圧倒的優勢な敵の陣形を突き崩すため、傭兵達が選択したのは「旗艦」ともいうべき大型HWを狙っての1点攻撃だった。
 シンプルかつ古典的な戦法であるが、そのためにはCW・小型HW・飛行キメラにより形成された3重の防衛網を突破し、大型HW攻撃への血路を切り開く必要がある。
 露払いの役を務めるのは、対小型HW班、対CW班の9機。ただしタケシのウーフーはアンチジャミングと同時に、正規軍の岩龍改、E−2C改ともデータリンクし、全軍の電子支援、および情報管制役をも担当する。
 
 敵編隊に接近するにつれ、CWによる怪音波がKVの電子機器を狂わせ、同時に能力者達を激しい頭痛で苛んだ。タケシのウーフーと正規軍の岩龍改がジャミング中和で対抗するが、30機近いCWから発信される怪音波の前には焼け石に水だ。
「かなりの数だな‥‥これの相手は骨が折れそうだ‥‥とはいえ‥‥我が前に現れたことを後悔させてやろう‥‥いくぞ、闇天雷!!」
 漆黒の雷電、愛機「闇天雷」に王零が呼びかける。
 戦闘の火蓋を切ったのは、数km後方に展開したF−15GJ、F−2改など在来型機からの長射程AAM攻撃だった。
『FOX2、ファイアー!』
 友軍機への警告と共に、30機近い戦闘機から計100発を超すサイドワインダー・ミサイルが、長い白煙を牽いて敵ワーム編隊へと槍衾のごとく殺到する。
 FFと慣性制御を備えたHWには殆ど効果がないとされる通常兵器のAAMだが、実はある重要なメリットがある。赤外線誘導による打ち放し方式のため、CWの電子ジャミングによる影響を殆ど受けずに済むのだ。むろん回避されてしまえばそれまでだが、凄まじい飽和攻撃が密集した敵編隊、特に慣性制御も高度なAIも保たない飛行キメラに与えた混乱は少なくなかった。
 FFにより通常兵器の効果を90%近くガードしているといえ、対キメラ用に火力を強化した軍用ミサイルの直撃を受ければ無傷では済まない。
 一端高度を上げて味方のミサイル群をやり過ごした後、傭兵達のKVはそれぞれ対小型HW班、対CW班、そして対大型HW班の順にVフォーメーションを取り、友軍ミサイルに紛れるような形でブーストをかけ突撃を開始。
 小型HW群から一斉にプロトン砲が放たれるが、その大半は先に発射されたAAMの迎撃に費やされ、結果として傭兵部隊の突入を許す事となった。
 かくして後に「北九州攻防戦」と名付けられる一連の戦いの序曲となる大空戦が、その幕を開けたのだった。

 バグア側の輪形陣が変化し、「護衛艦」ともいうべき小型HW、翼竜のような姿の飛行キメラが前面に集まってくる。
「弾ならいくらでもあるからな。沈むまで叩き込んでやろう!」
 蒼志は敵HW・キメラ群が有効射程に入るなり弾幕を展開した。
 基本的に回避は行わず、前方に位置する敵機を狙い、目標により兵装を変えつつひたすら攻撃を叩き込む。重装甲KV・雷電だからこそ可能な強襲戦法といえる。
 UK−10AAMの直撃を浴びたキメラの1匹が、全身から赤い体液をふりまき悲鳴を上げて脱落していった。
 CWによる怪音波は相変わらず鬱陶しいが、そこはなるべく距離を詰め、超伝導アクチュエータで命中を上げて8式螺旋弾やHミサイルD−01で小型HWを狙う。もとより短期決戦覚悟のため、スキル使用も出し惜しみなしだ。
 敵HWもプロトン砲で反撃してくるが、機体強化で抵抗をも上げた蒼志の雷電にさしたる被害を与えることもできぬうち、ドリル型弾頭のミサイルに機体を穿たれあえなく爆散した。
 小型HWを狙い突入した春花のシュテルンの前に、翼を広げたキメラが炎ブレスを吐き付けてきた。
「なら、あなた達から先に叩きますっ!」
 HミサイルD−02を食らった10mの翼竜が、黒こげの肉塊となって眼下の山岳へ墜ちていく。キメラ相手には少々もったいないくらいの武器だが、装備力の高いシュテルンには他にも対HW用の兵装を多数搭載している。
 なるべく間合いをおいた中・長距離戦を意識していた春花であるが、いよいよ敵味方が入り乱れる乱戦に突入すると、覚醒変化で碧く染まった瞳を光らせ、レーザー砲により近距離から小型HWを墜としにかかった。
 ドラグーンである礼二にとって、AU−KV対応のシュテルンはまさに待望の新型機であった。友軍ミサイルを追う形で敵編隊に接近した礼二はまず煙幕装置を発射、煙に紛れて一気に距離を詰めるや、まずは群がってくるキメラどもをスラスターライフルで掃射した。
 続いて射程内の小型HWに対して「グランツ」を放つ。着弾と同時に発生した強力な放電に内部機構を狂わされ、一瞬制御を失ったHWを接近してのレーザー砲撃で撃破。
「スマイル、スマイラー、スマイレージ! 笑顔を貯めて幸せに!」
 戦闘のさなかにあっても笑顔を絶やさぬ礼二である。
 PRMシステムで抵抗を上げると、2度目のブーストをかけて敵防衛網の中央突破を図るも、さすがに大型HW付近に近づくと敵の砲火も凄まじく、やむなく目標を周囲のHW・キメラの排除に切替えた。
 CWのジャミング下、バグア軍の分厚い防衛陣はなかなか突き破れない。
 アンジェリカ搭乗の霞澄は命中率の低下を補うためG放電装置を射出。一見ミサイルにも似た装置から紫の放電光が迸り、小型HWを包み込んだ。
 アキラ搭乗のシュテルンも、行く手を塞ぐキメラと小型HWを相手に「ミカボシ」の名に恥じぬ奮戦ぶりを示していた。
 進路上の敵に対しレーザー砲、螺旋弾頭で攻撃。ただし後半戦に備え螺旋弾頭の使用は3発まで。
 シュテルン最大の特徴である12枚の可変翼を巧みに制御、飛行方向はそのままにヨーリングとローリングを駆使しつつ離れた敵はSライフルR、近くの敵はレーザー砲で容赦なく駆逐していく。
「まずは、CWが片付くのを待つか‥‥」
 同時に突入する対CW班を援護するためHWを引きつける一方、後方の正規軍に向かう敵機は優先的にSライフルで狙撃する。ダメージを負ったHWに友軍のS−01改がシュバルム編隊でとどめを刺しに行くのをちらっと確認し、再び前方の敵機へ視線を戻す。
「さて、行きますよ『黄水仙』」
 タケシは己の愛機ウーフーに呼びかけた。
 正規軍と連携して情報管制を行いつつ、自ら対小型HW班として戦闘にも参加している。初撃のミサイル斉射と共に突入後、上空から降下する形でHW群に突撃。電子戦機ながら、高い防御を誇るウーフーならではの攻撃である。
「どれ‥‥手合わせ願いましょうか!」
 充分引きつけてから螺旋弾頭を発射、小型HWの機体を穿つ。
 ダメージを負った敵機にとどめを刺すべくソードウィングで斬りつけるが、慣性制御でかわされてしまう。だが、これはいわばフェイント攻撃だ。
「傷の入った場所を撃ち抜けば‥‥!」
 さらに機体を捻りこみ接近、螺旋弾頭で開けた損傷箇所を狙いデルタレイによるピンポイント射撃。高出力のレーザーガンに傷口を射抜かれたワームがまた1機、空の藻屑と化した。
 慣性制御は未だ人類にとって未知の技術であるが、少なくとも敵が無人機の場合、AIのクセを読み取ることにより、ある程度敵の回避軌道を予測することは不可能ではなかった。

 交戦開始から数分間の戦闘で、傭兵側KVは小型HW・飛行キメラのおよそ2割を撃破していた。バグア側も初撃でこれほどの損害を被るとは予想していなかっただろう。
 ことに福岡バグア軍には未だに名古屋防衛戦の記憶――小型HWと人類側KVのキルレート1:3という優位の印象が根強く残っている。わずか1年という期間に急速に進化したKV、そして実戦経験を積んだ能力者達を甘く見ていたのだ。
 とはいえ、敵もそう簡単には撤退しない。大型HWを取り巻くように展開していたCW群が前面に集結、怪音波を増幅させるとKVの機能が大幅に低下、能力者パイロット達をさらに激しい頭痛で痛めつける。そこへ、さらに大型HWから連射される大口径プロトン砲の光条が追い打ちをかけた。
 形勢は逆転、そのままバグア軍が防衛線を突破するかにみえたが――。

「アイタタ‥‥こいつだけはいい加減勘弁して欲しいなぁ。さぁーて、いっくぞーっ!」
 額に冷えシップ(別に効果はないが)を張ったチェラルが、同じ対CW班のブレイズに威勢よく声を掛けた。
「今度はしっかり見られそうだね、エースの実力を」
「まっかせて♪ ベオグラードの対EQ戦じゃ本調子じゃなかったしね」
「もちろんただ大人しく見てる気はないけどね、俺だって負けてらんないしな!」
「アハハ、その意気で頼むよ。レティ君、明星君もヨロシク!」
 能力的にはUPC軍でもトップクラスのエースと噂されるチェラルだが、あいにく彼女の搭乗機ミカガミは予算の都合上あまり高レベルの改造ができず、兵装もレーザー砲に突撃バルカンと正規軍の標準的な仕様だ。そのため、今回のような大規模な空戦では友軍KVとの連携が不可欠となる。
 まずはブレイズの雷電が斬り込み役となり、行く手を塞ぐHWやキメラをヘビーガトリングとミサイルで蹴散らしていく。それでも食い下がる敵機はソードウィングで切り刻み、CWを攻撃可能な位置まで一気に路を切り開いた。
 那由他のイビルアイズが飛行キメラの翼の根元を狙いガトリングの砲弾を叩き込む。
 4機のKVは互いに死角を補い合い、HWやキメラの妨害、大型HWからの対空砲火を回避しつつ前方に密集したCW群目がけて突入していく。
「向こうが囮だとしても、全ての戦力を割いた訳ではない。戦力分散の愚、犯したのはどちらだったかはっきりさせよう。作戦は失敗してもらうぞ。バグア」
 長射程の兵装を持たないチェラル機が突出しないよう注意しつつ、レティはディアブロの有効射程に入ったCWからロケット弾や長距離バルカンで掃討を開始した。
 那由他も2連装ロケットランチャー×2、合計40発に及ぶ127mmロケットを発射し命中よりも物量による攻撃でCWを圧倒していく。
 その間、ブレイズは妨害のため群がってくるHWやキメラに対する盾となって僚機を援護した。
 いよいよCW編隊の至近距離まで近づいたとき、レティの視界の隅で何かが閃いた。
 チェラルのミカガミが青い翼を太陽に光らせ、ブーストオンでCW群のど真ん中へと突入していったのだ。
 挌闘戦機ミカガミの性能をフルに引き出し、生身のグラップラーさながらの軽快さで飛び込んだと見るや、零距離からのレーザーやガトリング砲撃で次々とCWを屠っていく。
「これが、ブルーファントム‥‥エースの腕前か」
 思わず驚愕の言葉が洩れるが、レティとて負けてはいられない。引き続き近接用のスラスターライフルでCW掃討を続行。
 妨害のHWとキメラをあらかた片付けたブレイズも加わり、HWに比べれば回避の鈍いCW目がけてヘビーガトリングの弾幕を張る。
 能力者達をあれだけ悩ませていた怪音波の効果が、みるみる軽減していく。
 間もなく30機近くいたCWは、1機残らず空から姿を消していた。

「あれが万全な状態のチェラル・ウィリンか‥‥流石という他無いな」
 感嘆の言葉を呟きつつ、アキラは本来の機能を取り戻した「ミカボシ」のPRMシステムを発動。機体練力を知覚上昇へ注ぎ込み、M−12帯電粒子加速砲を手近の小型HWへ立て続けに発射。2条のビームに貫かれたワームは黒煙を上げてふらついたが、数秒後に爆発し筑肥山に破片をまき散らした。
『これより重力波ジャミング開始します!』
 那由他が僚機に連絡後、敵HWの密集空域へと移動、そこでイビルアイズのBRキャンセラーを発動した。
 1回で約十秒といえ、人類側から初のジャミング攻撃を受け、周辺のHWから発射される光線の命中率がにわかに鈍る。その機を逃さず、傭兵達のKVは群狼のごとくHWへと食らいついていった。

●空の戦艦
 この時点で既にバグア側はCWが全滅、小型HW、飛行キメラもほぼ4割を喪失。
 先行部隊が切り崩した敵の防衛網を突破し、いよいよ王零、トヲイ、兵衛、霞澄の4機が敵の「旗艦」――大型HWへ向けてブーストオンで突撃した。
「デカブツには早々にお引き取り頂かないと後が苦しくなるからな。何としてもここで落としておこうか」
 兵衛の言葉通り、直径百m前後と推定されるバグアの巨大円盤は、ギガワームを別格とすれば常識外れの大きさである。それでいて運動性は中小型HWと大差ないというのだからますます厄介だ。
 名古屋防衛戦で初の勝利を得るまで、人類側は辛うじて小型HW撃墜の実績はあっても、この大型HWに対しては全く為す術をもたなかった。
 ――だが、あれから1年経った現在ではどうか?
「いかに大型といえど、落とせぬほど難攻不落ではない。俺たちの戦果になって貰おうか」
「忠勝」と命名した愛機・雷電の機首を巨大円盤に向けると、兵衛はとりあえず84mmロケット、次いでスラスターライフルによる牽制攻撃を試みる。
 だが敵も然る者、多少の被弾にはビクともせず、反撃のプロトン砲を立て続けに浴びせてきた。
「流石は大型HW。性能は伊達では無いか‥‥だが、これはどうだ!!」
 トヲイは雷電の超伝導アクチュエータを起動、搭載していた螺旋弾頭ミサイル8発を全弾発射。うち4発は慣性制御で外されるも、残り4発は命中、FFと外部装甲を貫通した所で炸裂した。
「大きい分だけ当てやすいはずです!」
 知覚攻撃を担当する霞澄のアンジェリカがブーストで一気に距離を詰め、強化を施した高分子レーザー砲をSESエンハンサー併用で照射する。覚醒変化により背中から3対の白い翼状のオーラを伸ばした彼女の姿も相まって、それはあたかも天使が放つ光の矢だ。
 CW掃討の任務を終えて応援にかけつけたレティとブレイズも、それぞれAフォース、超伝導アクチュエータ併用のUK−10AAMをふんだんに叩き込んだ。
 巨大円盤は相変わらずしぶとくプロトン砲やフェザー砲を放って反撃するが、機体の各所から煙を吐きつつ回避を続けるその姿は、あたかも洋上で雷撃機の攻撃から逃げ惑う、満身創痍の巨大戦艦を思わせる。
「所詮、墜ちない戦闘機などないということか‥‥」
 兵衛の「忠勝」が温存していたG放電装置、各種ミサイルを発射。トヲイは近接してのリニア砲とソードウィングによる一撃離脱攻撃を繰り返し、のたうち回る空の怪物にさらなるダメージを与える。
 そのとき王零の「闇天雷」が突如機体全体をローリング(横回転)させ、四連ブースターを吹かしてそれ自体ライフル弾のごとく突撃を開始した。
「これで風穴を開けてやる!! ‥‥止めれるものなら止めてみろ!!」
 対大型HWに考案した特殊戦技【F.B.A】――そのまま超伝導アクチュエータ起動、KA−01試作型エネルギー集積砲発射。
 大口径の空対空エネルギー砲に貫かれた直後、大型HWの巨体が震え、間もなく機体各所で小爆発が発生し炎と黒煙の尾を引いて大きく旋回を開始した。
 もはや慣性制御も効かなくなったらしく、先刻とは打って変わった鈍重な動きで180度方向転換すると、そのままなりふり構わず春日方面への撤退を開始する。
 だが急速に高度を下げたと思うや、春日の遙か手前、バグア占領地域にあたる山中に墜落。巨大な火柱が上がった。
「帰ったらソフトドリンクで乾杯ですね」
 大任を果たした霞澄が、安堵したように僚機へ通信を送った。

●傭兵達の凱歌
 主力の大型HWを失い総崩れとなったHWと飛行キメラに対し、壮絶な追撃・掃討戦が繰り広げられていた。
「鋼鉄の暴風の名に恥じぬ弾幕を見せてやるよ!」
 傷ついたキメラの始末は数で勝る正規軍機に任せ、蒼志が小型HWを狙いヘビーガトリングの猛射を加える。対エース戦よりは、こうした弾幕の張り合いの方が彼の好みなのだ。
 大型HWの墜落を確認した春花は、シュテルンのPRMシステムを起動し3回分に分けて知覚を上げた。
「モードセレクト。必殺・紫電の舞!!」
 その名のごとくG放電装置の3連射を浴びた残存HWがまた1機、機能を停止し山中で自爆する。
 やがて数機にまで減った小型HWがよろめくように春日方面へ撤退し、バグア侵攻部隊はほぼ全滅した。
 対する人類側は、中破クラスの被弾機はあれど墜落機0。
 1年前、名古屋防衛戦に先だって行われた福岡上空の航空戦を思えば、信じがたいほどの圧勝であった。
「ふぅ‥‥何とか勝てたようだな。っと、そういや『オリオン』は!? 向こうはどうなった?」
 ブレイズが急ぎ、新田原基地に問い合わせの通信を入れる。

 そして彼らは、伊万里での戦闘結果を知らされた。

「何はともあれ、勝利後の一杯‥‥如何ですかなぁ?」
 新田原基地帰還後、タケシがパイロット待機所で冷やしておいたシャンパンを取り上げ、仲間達に進めた。
「成功祝いの酒か、良いな。俺も一杯もらうぜ」
「うむ。皆無事に帰還できて、何よりだ」
 ブレイズや兵衛が喜んで盃を受ける。
「美味しいお酒は笑顔の源。もちろんいただきます♪」
 AU−KVを脱いだ礼二も顔を綻ばせて酒宴に参加。
 もっとも同じ傭兵でも霞澄やアキラのような未成年者はソフトドリンク。
「飲み物もいいけど、お腹減ったよねえ。エビチリ炒飯、頼んじゃおっか?」
 コーラの缶をプシュっと開けながら、チェラルが笑う。
 もっとも成人でも蒼志の様に、
「あ、シャンパンはノンアルコールなら頂きます」
 という者もいたが。
 何はともあれ、暮れの仕事納めも兼ねたささやかな祝勝会である。
「来年が皆にとって良い年になりますよう」
 グラスを差し上げた霞澄が、にっこりと微笑んだ。
 そんな中で、トヲイは仲間達の酒宴に加わりつつも、ダム・ダルの事を思い1人浮かない顔だった。
(「――酒が、苦い‥‥」)
 そこでふと、基地への帰還直後までは一緒にいたはずの、王零の姿が見えない事に気づいた。

 同じ頃、那由他はハンガーに赴き、自ら申し出て仲間達のKVを修理・点検する正規軍整備班を手伝っていた。
 ――特にシュテルンとか、シュテルンとか、シュテルンとか。
「‥‥、12本もあるんだから‥‥、1本くらいばらして中身見られないかなぁ」
「さすがにそれはなぁ‥‥クルメタル社の工場にでも行って、直接見せてもらったらどうだい?」
 整備兵の1人が、苦笑しながらいった。

●伊万里湾上空
(「やはり、ここが奴の最後の地となったか‥‥」)
 基地司令の許可を取り、1人「闇天雷」に乗り伊万里まで飛んだ王零は、風防越しに海上から立ち上る黒煙を見つめていた。
 FR撃墜。熊本防衛に成功――「オリオン」作戦は大成功を収めた。
 ――が、あの誇り高き「牡牛座」の戦士も、もはやこの世にいない。
「‥‥」
 短く黙祷を捧げると、「闇天雷」は機首を翻し、再び新田原基地へと飛び去っていった。

<了>