タイトル:ミカガミ改良プランマスター:対馬正治

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 21 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/29 19:46

●オープニング本文


 12枚の翼を持つ高性能万能機、クルメタル社の新型KV・CD−016「シュテルン」の発売は各国メガコーポレーションに大きな衝撃を与えた。
 ここ日本の銀河重工も例外ではない。
 搭乗権370万Cという高級機にもかかわらずシュテルンの売り上げは発売直後より急速に伸びており、このままでは同社の主力商品である重装甲・重武装KV「雷電」のシェアまで奪われかねない。
 とはいえ銀河経営陣としては現状で「雷電」の改造バージョンをロールアウトすることはさらなる価格上昇を招き得策ではないと判断、そこで白羽の矢を立てられたのが「雷電」に次ぐ主力KV「ミカガミ」であった。

 元々UPC側から要請された「対シェイド用戦闘機開発コンペ」の一環として開発されたミカガミは高い運動性と命中率、陸上挌闘戦に特化した機体スキルや「内蔵雪村」を標準装備するなどユニークなKVであるが、同時に防御や装備量等を犠牲にせざるを得ず、一部では「初心者パイロットには扱いにくい機体」という声があるのも事実だ。
 そこで銀河社内ではミカガミ改良のための特別プロジェクトチーム、通称「プロジェクトM」を立ち上げ、同機の性能向上へと乗り出すこととなった。

 だが、始まったばかりの「プロジェクトM」で早くもチーム内の意見が割れた。
「現状、ミカガミのネックは防御や装備力の不足から生じる空戦での力不足ですな。ここは同価格帯の他社KVに比べて見劣りする性能を底上げし、より多くの能力者が扱いやすい汎用戦闘機へと方向転換しては?」
「いや! 仮にも『対シェイド』をコンセプトとしたミカガミです。むしろ現在の機体特殊性能の改良・強化こそ優先すべきでしょう」
 他にも議論が沸騰し、なかなかプロジェクトとしての方向性が定まらない。

 そこでUPC軍トップエースの1人であるチェラル・ウィリン(gz0027)を始め、現場のユーザーである能力者パイロット達を招聘し、彼らからも広く意見を聞いてみようということになった。

●参加者一覧

/ 緑川 安則(ga0157) / 雪野 氷冥(ga0216) / 雪ノ下正和(ga0219) / 香原 唯(ga0401) / 鯨井昼寝(ga0488) / 黒川丈一朗(ga0776) / 須佐 武流(ga1461) / リチャード・ガーランド(ga1631) / 刃金 仁(ga3052) / 終夜・無月(ga3084) / 鐘依 透(ga6282) / イリアス・ニーベルング(ga6358) / アンジェリナ・ルヴァン(ga6940) / 井出 一真(ga6977) / 榊 刑部(ga7524) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 守原有希(ga8582) / フェンリス・ヴォルフ(gb2517) / 蒼河 拓人(gb2873) / 堺・清四郎(gb3564) / 鹿島 綾(gb4549

●リプレイ本文

●銀河重工本社ビル〜会議室
 奇しくも1年前、対シェイド用の「新型機開発プロジェクト」会議が催された同じ部屋で、同プロジェクトから誕生したXF−08A「ミカガミ」改良のための新たな会合が開かれようとしていた。

 当初議論の焦点になると予想されていた2つの改良方針、

 A案:現在の欠点を強化して汎用機へ転換する 
 B案:機体特殊性能などを改良し、近接挌闘戦機としての性能をより特化させる

 上記2案からの選択については、意外なことに開会後10分も経たぬうちに結論が出た。
 すなわち、会議に参加した20名に及ぶ傭兵達のほぼ全員が、B案の「挌闘戦性能特化」を推したためである。

「さて、言いたいことは山ほどあるんですけどね‥‥重装甲、高積載と追加スラスターによる機動力確保‥‥私が出した案は雷電に食われてますしね」
 1年前、ミカガミ誕生のきっかけとなったあのプロジェクト参加者の一人でもあった雪野 氷冥(ga0216)は、やや厳しい表情で銀河重工技術陣を見渡した。
「コレだけは譲れません。半端な妥協ならいりません」
 続いて彼女は、現在各メガコーポで販売中の主要KVとその特徴を例として挙げた。

 高水準の汎用性:シュテルン
 前線に立てる電子戦闘機:ウーフー
 重火力・高積載:雷電
 知覚特化:アンジェリカ
 高機動四足歩行:ワイバーン
 火力強化:ディアブロ
 破格の低価格:岩龍

「いずれも、個々の特色に関して『妥協していない』と言え、故に支持がある。と考えます」
 強化で汎用性を高めた半端な性能より、むしろミカガミの特性を伸ばした方が得策――との観点から、氷冥は以下のプランを提唱した。

 ・フレーム強化と各人口筋肉の強化・増設

「この方法なら、運動性能の低下を防ぎつつ積載量を増やせると思う。以前、格闘用外部フレームのテストに参加した時の感じからすれば、同時に攻撃力と防御力も向上が図れるかと」

 ・脚部に追加車輪を装着し、機動性の向上を図る

「陸上に限定するなら、補助輪による機動性向上(回避向上)はレッグドリルで立証されてますしね」
 また、今回の「プロジェクトM」がミカガミ改良のためである事を強調したうえで、別プロジェクトとして『雪村』強化プロジェクトの立ち上げを進言した。
「今回も結構『雪村強化・改造』を言ってる方が多いみたいですしね」

 とりあえず「汎用化」に関する議論については、この時点で結論が出たといってよい。

「それじゃー、まだ時間もあるし‥‥他のみんなからも、色々意見を聞かせてもらえるかな?」
 正規軍からオブザーバーとして参加しているチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹が促し、他の傭兵達も順次席を立ち、各々の所感や提案を述べ始める。

「ミカガミの売り上げが伸び悩んでる理由のひとつって、そもそも『対シェイド』ってコンセプトに問題があるんじゃないの?」
 そう断言するのは鯨井昼寝(ga0488)。
「これがどうにも『強敵に立ち向かう新鋭機』というニュアンスに繋がっておらず、ちぐはぐな印象のマイナスイメージばかりが強くなってしまっていると思うのよね」
「まあ‥‥例の『対シェイド用KV開発コンペ』じたい、もう1年前の話ですしねえ‥‥」
 当時のプロジェクトにも参加した同じ銀河社員の一人が、ひどく遠い目で呟く。
 そもそも件のコンペ自体、(辛うじて撃退したとはいえ)名古屋防衛戦で猛威を振るったシェイドの影に脅え、肝心の敵機体に関する情報さえ殆ど不明の状況でスタートさせた経緯がある。
 あれから1年――人類側も様々な新型KVを送り出したものの、敵のバグアもまたステアー、FRなど新鋭機を次々と繰り出し、彼我の戦力差が逆転したとはお世辞にも言い難い。
 一部ではFRを撃墜するという戦果も報告されつつあるが、シェイド及びステアーは未だ人類軍にとって大きな脅威だ。
 今後、改良ミカガミの販売を促進するのであれば、「対シェイド」のコンセプトから脱却し、イメージチェンジを図る必要があるのではないか――というのが昼寝の見解だった。
「どう転んでもバージョンアップ程度でミカガミがシェイドに対抗する機体とならないのは、目に見えてるでしょ? であればこそ、既存のコンセプトに固執せず、新たなキャッチコピーを与える方が、新規の顧客獲得に繋がると考えるわ」
 高額機体ばかりではなく、中堅機体に力を入れて欲しいという声は依然として多い。
 そのサンプルケースとして、昼寝は順調に売り上げを伸ばすイビルアイズを挙げた。
 そこで彼女が提案したミカガミ改の新たなコピーは「戦場のソードダンサー」だ。
 防御型の重戦士とは真逆の戦い方をする、速さと軽やかさをもった舞踏剣士。
 向上させたい部分は、移動力、行動力といった足回りの部分。
「テンタクルスのように陸上のみプラス1という形でも良いのよ。難しいなら回避や命中値の上昇を。機体能力の接近仕様マニューバも、練力消費量を上げた上昇率の高いものに出来ればそれらしいわ」

「はっきりいえば、今のミカガミは中途半端だからな。仕方ないか」
 かつて雷電、ハヤブサ、ナイチンゲールと各社KVの試験テストに関わってきた緑川 安則(ga0157)は、半ばため息まじりで語った。
「はっきりいってミカガミは搭載力皆無。そして軽量な白兵戦用知覚系武装が少ない。これでミカガミの特性を生かせと言うほうが無理だ。今はせいぜい軽戦闘機として防衛線強化や小型ワームの掃討戦に使える軽騎兵役だろう」
 たとえば低改造のミカガミに標準的なKV兵装である高分子レーザー砲、バルカン砲を搭載した場合、それ以外に遠距離兵器の対空ミサイルを積もうとするとその時点で行動力が落ちてしまう。まあ元のコンセプトが「陸上挌闘戦用機」だから仕方のないことかもしれないが。
「私は思うのだが‥‥対エース専用機として考えるならば、すでにドロームではアンジェリカで知覚強化型機が完成しているわけだから、それの応用で知覚をアンジェリカなみとはいわん。強化できないか? 後、マニューバを空でも若干生かせないかなと思うのだが贅沢か?」
「知覚強化については上に進言してみますが‥‥マニューバはどうですかねえ? 元々陸戦想定で設計した機体特性ですし」
 少し難しい顔で、銀河側技術者が応えた。
「戦術的運用としては雷電が強襲降下を仕掛け、拠点確保。第二陣でミカガミ降下、楯となる雷電の陰から一気に突撃を仕掛け、敵防衛網に混乱を起こす。その後追撃してきた雷電の打撃力で敵を撃滅。銀河重工が考えていたプランはそういうものだろうな。というか我が隊ならそういうプランは考える」
「仰るとおり、雷電との連携は効果的でしょうな。むしろ雷電の方がそのために開発されたような機体ですし」
「あと、商売としては既に売れ筋は決まっている。ダークファイターはディアブロ、フェンサーはR01Eという風にな。だがドラグーンは乗れる機体が少ない。AU−KVに対応させれば売れるはずだ。ドラグーンに支給される機体も使いにくいしな」
 実はこの『AU−KV対応化案』には他の傭兵にも賛同者が多く、安則以外にも須佐 武流(ga1461)、リチャード・ガーランド(ga1631)、井出 一真(ga6977)、守原有希(ga8582)らからも同様の意見が寄せられていた。

 新機体乗り換えにあたってミカガミかディアブロか最後まで迷い、結局ディアブロにした雪ノ下正和(ga0219)は、それでも一度は候補に考えたミカガミをより理想のKVに近づけるべく会議に参加していた。
「近接格闘するものとしてはR−01等みたいな、攻撃力上昇のスキルが欲しいです。後は消費練力を低めで」
 経験と己の戦闘スタイルから欲しいスキルについて希望を述べた後、
「ロボットへ変形後の頭部を、ロボットアニメの主役機みたいな人の顔のようなデザインにして欲しいです」
 とデザイン面へもリクエストを出してみた。
 実はディアブロを選んだ理由も、このあたりが大きかったのだ。
「左腕からも雪村を出せるようにして、雪村の二刀流ができたり両手を合わせて強力な一本の雪村を出せるようにして、剣術格闘のバリエーションの幅を広げて欲しいです」
 この辺は剣術を学ぶ者ならではの意見である。
「防御力と命中力を上げて欲しいです、当らなければどうと言うことはないってのよりはある程度被弾しても平気な感じの方が好きですね」
「装甲の薄さについてはネックの1つと認識しておりますが‥‥この辺りは運動性との兼ね合いもありますからね」
 初期に発売されたハヤブサに見られる通り、「高回避・低装甲」はある意味で銀河製KVの伝統ともいえる。その意味では、むしろ雷電が異色の機体であるわけだが。
「機体使用権の購入価格は、安い方がいいです。性能が良くても、値段が高いと手が届きません」
 と最後に傭兵側としては切実な希望を述べ、正和は席に座った。

「ミカガミは今‥‥生まれ変ろうとしています‥‥」
 自ら兵舎で「ミカガミ同盟」を設立し、ミカガミ性能向上を積極的に呼びかける終夜・無月(ga3084)は静かに、しかし熱の籠もる口調で告げた。
 自ら敵新鋭機との交戦データ、自機の装備兵装に機体性能や経験談等をデータとして提供した後、現在の内蔵雪村の改良――新たな内蔵練剣『水鏡』を提唱。
「真の対シェイド用練剣『水鏡』‥‥加えて自装備知覚兵装との同時使用可能化を提案します」
「『水鏡』の持つ知覚に自装備の知覚を合わせ、瞬間的に二刀決殺の一撃を生み出す‥‥今回推奨の必要理由は、幾度の新鋭機戦闘に独自強化した雪村一振りで既に戦ってきた経験から感じた事柄です」
 現状の内蔵錬剣単体の強化だけでは対シェイドに遠く及ばない。喩え届かせても機体が耐えれず、故に装備兵装と力を合わせるという発想だ。
「方法はマニューバの限定機能解除や錬剣自体を同時使用可能に調整‥‥是等は知覚兵装使用時のみと限定とします。また逆にマニューバ不使用や錬剣普通使用で単体での平常使用を可能にできませんか? 二刀剣(クローストソーズ)を機の推奨装備としたり、双子の機刀(双羽)を生産したりとミカガミや銀河重工の技術や傾向としても二刀一撃機能は十分可能だと思います」
 その上で終夜は現在の接近戦マニューバの限定機能が解除、及び能力修正値のアップ、また練力消費と引き替えに移動と攻撃を同時に行える新機能などの追加を提案した。
 彼としてはこの新しい特殊性能に「明鏡止水」と名付けたかったが、残念ながらその名称は先に発売された生身用の剣に使用されてしまった。
 その他の改善案としてアクセサリスロット増設と共に装備量の増強、移動力・攻撃・知覚(特に知覚)等の必要性を付け加え、終夜は説明を終えた。

「私自身が日本人ということもあり、どことなく和風なKVという理由でミカガミを購入したのですが、改良によってもっとサムライらしさが出ると嬉しく思います」
 と前置きした香原 唯(ga0401)は、正和同様にまず命中率の向上を希望した。
「対シェイドには攻撃力も大事ですが、必殺の一撃でもかわされたら悲しいので『この速さならシェイドに一撃お見舞いできる!』くらいの正確さが欲しいです」
 また独自のアイデアとして同じ戦場に複数のミカガミが存在した場合に機能する「共鳴システム」を提案。
「例えば、ミカガミ同士の気合(?)が水の波紋のように広まって(?)互いの攻撃力がアップするとか‥‥これはミカガミに限らず、規格が同じ銀河重工製のKVに適応することができれば魅力になりそうな気もします」
 何かを特化させると、どうしてもバランスが崩れて使い勝手が悪くなる。
「機体単体の性能を上げるというより、『集団で連携してこそ真価を発揮するKVにしたらどうでしょう?』というのをひとつの提案として挙げておきますね」

「今の性能から汎用機を目指したんじゃ、あまり高性能は望めんしな。それより特化した方が戦いやすい。練剣向きだしな」
 ちょうど新型機への乗り換えを検討中に、今回のプロジェクトを聞いて参加した黒川丈一朗(ga0776)がいった。
「とはいえ、陸戦だけでも練剣なしで十分な基本性能が無いとな」

 ・長期戦に対応しマニューバの燃費向上
 ・競合他機の群を抜く回避力と高いレベルの攻撃(知覚)力

 この2点を要求した後、移動力についても言及した。
 仮にヘビーガトリングを装備した友軍機の背後にミカガミがいたとする。
「もしミカガミに今以上の移動力があれば、味方を盾にヒットアンドアウェイが出来るんだ。防御の低さが補えるかもな」
「防御と受防、抵抗は、耐えるより避けろと言うのがミカガミという気がするな。知覚と攻撃だが、今手に入りやすい武器で格闘できる知覚武器が見あたらないのがちょっと気にかかる。高水準にしやすいのも攻撃かな?」
「確かに、現在ショップ販売している挌闘用の知覚武器は限られますね。性能上、量産するにはコストがかかりすぎるという事情もありますが」
 丈一郎は再び練剣へと話題を戻し、
「そもそも何度も振るうものじゃない。一撃でいいんだ。練剣部分を使い捨てにして一発振ったら排除する。それなら出力を一気に上げれないか? それと練力が尽きたら振るえないのが欠点だな。エネルギーパックをつけられないか? コンデンサーとか‥‥」
「エネルギーパックですか‥‥それはむしろ、外付けのアクセサリということになりますね‥‥」
「優れた剣術の技には『〜の太刀』みたいに名前がついてるだろう?終夜の案とあわせて
『練秘剣・水鏡(ミズカガミ)の太刀』というのはどうだ」

「確かに、ミカガミは対シェイドという触れ込みで出てきたわけだが‥‥正直に言おう‥‥この性能じゃあHWやゴーレムと互角に戦えるか疑問だ」
 ズバリと指摘する須佐武流。その上で強化プランとして彼が提案したのは、

1:回避、命中、知覚、移動力の強化。
2:内蔵雪村の消費練力を下げる。

「ミカガミは接近戦を重視したコンセプトで、攻撃、命中、回避に重きが置かれているのはわかる。だが、機体依存能力の内蔵雪村‥‥知覚攻撃による攻撃武器が搭載されているにもかかわらず知覚攻撃力が低いのは、いまいち能力を生かせているといえない」
 武流のいうとおり、ミカガミ本体の知覚は飛び抜けて高いとは言い難い。
「そして、接近戦用の機体なのに移動力が並程度では低い。これでは接近する前にやられるのがオチだ‥‥正直話にならん」
 そこで本来長所として持つ能力を上げつつ、さらに上を目指していけるような強化プラントして武流が提唱したのは『近接マニューバーの強化』であった。
「これもミカガミの生命線だ。敵への接近戦を行うときに使う以上、必要になる」
 続けて、彼は理想とする命中・回避・移動力の性能アップについて具体的な数値を述べた。

「やっぱりミカガミはいいよねえ‥‥ジャパニーズアニメのデザインだよ‥‥これで弱いなんて許せない!」
 アニメファンにして現役ミカガミ乗りとして、リチャード・ガーランド(ga1631)は熱弁を振るった。
「ミカガミは搭載力無理やり改造したから一応空戦はこなせるようにした、改造費がすごくかかった。後知り合いからソードウィングトレードしてもらったから使えるようになったけど、辛すぎる‥‥」
 カスタマイズした自機のカタログスペックを示しつつ、リチャードはこぼす。
「極端な話、雪村は一発しか使えなくてもいいと思うんだけど。というか実際には錬力の初期数値から見てそう思うんだ。だからやるならカートリッジ、マガジン方式にしてみるのはどうかな?」
「それも、やはり機体アクセサリになりますなぁ‥‥現在の練力タンクでは重量や練力量の問題で難しいですが」
「後、雪村の射程距離、高機動化を図るというのであれば射程距離を落としてでも威力と命中率を徹底的にあげて、それこそ零距離で叩きこむぐらいの根性を見せた鋭いセッティングしないとミカガミらしくないんだと思うんだ」
 資料画像として日本製アニメの高機動型ロボットの格闘シーンのDVDを会議室のモニターで再生しつつ、リチャードは説明を続けた。
「現実はこんなに格好良くないのはわかるよ。だけど、ミカガミのデザインと運用目的、高機動突撃による強力な一撃。そういうコンセプトを推し進めたいなあ」

「汎用化するには、能力値をある程度フラットに持って行かねばならない為、色々と敷居が高い。碌でもない機体に終わるのが目に見えておる」
 自らもかつて工場経営者だった刃金 仁(ga3052)が苦言を呈した。
「本気で売れる機体が欲しいなら1から開発しなおすのが1番。下手に手間を省こうとするから、碌な結果にならんのだ」
「いやー、それは重々、承知しておるのですが‥‥」
 プロジェクトリーダーの開発主任が、申し訳なさそうに頭を下げる。
「予算や人員の問題で、いま新機体を開発をする余裕はとてもないんですよ‥‥元々うちはドロームさんほどの余裕もないですし、そのうえ先のアジア決戦で各地の支社や私兵部隊が大損害を受けて‥‥本当に、ご勘弁下さい」
「ならば仕方ないな。では、他の案と被るかもしれんが‥‥」
 と、仁が挙げたのが以下のプラン。

 1.錬力UP、内臓雪村の効率化・強化。
   内臓雪村への使用出来る錬力上限を上げ、錬力を注ぎ込んだだけ威力を上げる。
   瞬間最大火力を得る。

 2.空中でもソードウィングの様に内蔵雪村を展開して使用できるようにする。

「折角の内蔵雪村、飛行形態でも使用出来れば売りにはなると思うが」

 さらに「トンデモ案」と断った上で、

 3.ミカガミ自身を一つの変形型武器ユニットにする。

「この場合、超大型雪村発生器KVとでも言えばいいか。搭乗員は剣部分のコントロールを行い、他の大型KVに使ってもらうとかな」
「‥‥合体ロボットみたいですねえ」

 4.ミカガミの全体能力強化の支援強化ユニット案。
  ミカガミをコアとして後部に接続する増加装甲・燃料タンク・エンジンユニット統合したもの。全体能力・錬力・搭載量増加、ミカガミの生存性向上が見られる。
  このままでも人型に変形できる事。

「ま、まあ‥‥将来、UKみたいな超巨大戦艦でも建造する機会があれば、検討してみましょう。いつの事になるかは判りませんが‥‥」

「外付けでは決して得られない一品モノに‥‥対シェイドの看板とするのは如何でしょう?」
 鐘依 透(ga6282)が提案したのは、機体得能「内蔵雪村」の改良だった。
「僕の傭兵仲間に、今の内蔵雪村について意見を求めてみたんですが‥‥」

 曰く――。
「どう考えても内蔵雪村は不要」
「内蔵雪村を無視して試作型を積みたくなる」
「存在意義を疑う」

 まさに歯に衣着せぬ言葉であるが、ミカガミを「選ばなかった層」から見ればこれが本音なのだから仕方がない。
「理由はスペック上の数値ですよ。内蔵雪村より試作型雪村の方が数値上性能が高い‥‥これは顧客からすれば、大きく解り易いマイナス点です」
 現状の認識を「不要」から「欲しい!」に変えることがミカガミを売る為の一案――透は主張する。
「そういう意味で『一品モノ』です。他では真似できないミカガミだけの剣として‥‥磨いで欲しい。個人的には威力強化に重点を置いて」
 さらに全般的な改善点として透が挙げたのは、

○移動力
「接近戦特化機としては通常より上がないとおかしい。踏み込みの速度は重要です」

○回避
「接近戦だがパワー勝負ではない。身軽さを活かし如何に立ち回り易いかが重要。移動力と合わせ強化できれば効果的ですね」

○知覚
「他機体と比べてもスペック上低いです。雪村の威力も活かし切れない‥‥推奨武器の殆どが知覚兵装なので矛盾しませんか?」

○マニューバ
「効果が微々で使用を躊躇いますね。消費増でも効果を上げないと安心して使えない。接近戦機としての大きなアピールもここになるし、改良の御一考を」

 イリアス・ニーベルング(ga6358)の意見も、また「内蔵雪村」の改良であった。
「そもそもミカガミは『対シェイド』を開発思想に完成を見た機体です。『雪村』を以てして『対シェイド』の回答とするなら、これの強化は必然と言えるでしょう。私はこれの出力向上による威力強化を推したいと考えます‥‥その結果、例え出力が強過ぎて一撃しか武装自体が耐えられないとしても。そもそも『雪村』は弐の太刀を臨める武装ではありません。膨大な練力消費による一撃必殺は、生身で言うなら己が全身全霊を込めた魂の一撃と同義です」
 透けるような白い肌と対照的な漆黒の軍装を身に纏い、美貌の女傭兵は淡々と語った。
「出力向上による練力消費の増大には、例えば‥‥そう、店に売られている『小型燃料タンク』の様な物を補助カートリッジとして使うのは如何でしょうか? 練力消費の全てを此方で賄うのが理想ですが、『超大型燃料タンク』でさえ50です。カートリッジで練力消費を抑えつつ、現状の練力消費のまま出力向上を目指せれば十分かと考えます。またカートリッジを使う事によって使用回数を制限される事になったとしても大きな問題は無い筈です。先ほど述べた様に、練剣は弐の太刀を望める物ではないのですから」
「カートリッジ方式ですか‥‥他の傭兵さんからも、同じ意見が出ていますね」
 実はエネルギーカートリッジ自体は、既に高分子レーザー砲の薬莢代りとして実用化されている。練剣ほどの大威力を叩き出すとなると、また別問題だが。
「元々、ミカガミを使う能力者達に『内蔵雪村は不要』と思われるのは、試作の雪村と同等の威力ながら試作よりも消耗が激しい事にあると思われます」
 この問題も、既に複数の傭兵が指摘する所である。
「ならば、試作よりも価値を見出せる点があるならば――? この『内蔵雪村』は、試作や完成版とは違った価値が生まれる筈です」

「ミカガミは多くの面で正直未完成と言うべき機体だった‥‥だが、それ故にこうして鍛え直す機会が生まれた。‥‥それには感謝しなくてはならない」
 アンジェリナ(ga6940)は席を立つと銀河側技術者達に一礼し、話を始めた。
「私たちが命を預ける機体‥‥多くの者の手を踏まえ、きっと業物の域へ鍛え直してやろう」
 彼女は手始めに「基本性能の向上案」として、まず優先的に

 ・知覚
 ・装備
 ・アクセサリスロット

 さらに「次点」として、

 ・回避
 ・錬力
 ・移動値

「既に他の者もいっていると思うが、装備力向上とアクセサリスロットは特に切望する。錬剣装備にも関わらず知覚がそれ程高くないと言うネックも解消したい」
 接近仕様マニューバについては、
「今までのような能力上昇ではなく、各フレームの駆動を高速化させる事による移動値の向上。そしてマニューバ使用時、腕部フレームの駆動強化による内蔵練剣の二段撃化(他の近接武装と同時使用)を提案したい」
 これは先に終夜が提案した「二刀一撃化」案に近いが、より現実的な補助案ともいえた。
「他にも挙がっているであろうが、雪村に囚われずミカガミ専用の内蔵錬剣をコンセプトに性能見直すべきだろう」

 第1案:射程を減らし、その分のエネルギーを出力向上に回すこと。店売りの試作以上の性能が無ければ恐らくミカガミの売りにならない。

 第2案:錬剣の使用を錬力消費ではなくカートリッジ式(装弾数1、リロード不可)にすること。カートリッジ式にする事で機体への負担を減らし、カートリッジ内燃力を出来るだけ大きくすることで威力の向上も狙う。
 アンジェリナもまた、内蔵練剣の練力源としてカートリッジ方式を推した。

「ミカガミの苦戦は、機体の性能傾向と、特殊能力のミスマッチに一因があると考えます」
 同じ銀河重工の阿修羅を愛機とする井出一真がいった。
 物理攻撃に長けた性能を持ちながら、最大の武器は知覚攻撃。上手く使えば物理・知覚共に大きな打撃力を得ることも可能だが、使う側からすればどちらかに絞りたい。
「内蔵雪村を活かすのであれば、攻撃と知覚をそっくり入れ替えるくらいの仕様変更を望みたいところですね」
 また欠点の1つとして拡張性の低さを挙げた。
「大型の機体なのにあの装備力とスロット数は、かなりのマイナス点です。また、ある程度のアクセサリ搭載を望めないとなると、強化のみでは上げにくい回避や命中といった『ミカガミ』の武器である能力の数値も頭打ちになります。装備力とアクセサリスロットを拡張し、アクセサリ類による弱点補完や長所増幅が見込めるよう改良すべきと考えます」
 自らが登場する阿修羅のスペックデータを公開、高出力ブースター×2を搭載した場合とブースターなしの場合の回避力のデータ。アクセサリの有無でこれだけ差が出る資料として提示する。
 試作型に比べても見劣りする「内蔵雪村」の問題、AU−KV対応化案については、既に他の傭兵達も指摘する所であった。

「今更汎用機を目指してもシュテルンという大きな壁がある以上、傭兵からの支持は受けれないと考えます。ならばいっそのこと、ミカガミらしさを特化させる方が支持を受けられると考えます」
 と、榊 刑部(ga7524)。彼の改造案としては、

 1.基本的性能の底上げ:「雪村」を当てる為の機体と割り切るのならば、命中と知覚の底上げは優先的に、更に回避と攻撃も上げるべきである。

 2.接近仕様マニューバの改造:現在の機能では中途半端であるので、使用練力を倍にする代わりに上昇幅を引き上げる。

 3.アクセサリスロットの増設:装備力の少なさを補う意味合いから人工筋肉を装備する者も多い。その為貴重なスロットが塞がる形になる。その為にも増設は望ましい。

「ミカガミ改良案は別の人達に任せる」と考えたヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)はプロジェクトスタッフの中に雷電開発スタッフがいないかと捜し回った。
 以前雷電に搭乗していた彼は、この機会に雷電の改良プランを銀河重工スタッフに直訴するべくこの依頼に紛れ込んだのだ。
 だが残念ながら銀河重工本社も広い。
 雷電開発に関わったスタッフは、この会議室にいなかった。
「ごめんね。今日は、ミカガミ改良のための会合だから‥‥」
 チェラル軍曹から窘められ、やむなく持ち込んだプランを引っ込めざるをえなかった。
 いずれは雷電にもバージョンアップの話は出るかもしれないが、それはまた別件であろう。

「研究員の称号を持つ者として奮起せぬ道理はなかですね」
 守原有希が、やや緊張気味に長崎弁で呟く。
 基本的にB案支持の彼だが、A案も一部取込み限定的汎用性の獲得を含む改良案を検討していた。
 有希の念頭には現在他社メガコーポで開発中の某KVがあった。知覚だけ上げても、件の新型に食われる怖れがあるからだ。
「やけん能力は命中・回避・積載増加を重視。同時に物理・知覚を物理>知覚のバランスのまま双方強化、攻撃面限定で汎用にし軽量格闘武器は全て使える高機動格闘機ば目指すべきです」
 特殊機能については、既に終夜やアンジェリナが提案したプランに同意。
 またAU−KV対応化案も他に複数の賛同者が出ている。
 最後に指摘した問題点は、店舗流通に推奨兵装が少なく機体に合う武器が買えないことであった。
 シュテルンの脅威は「性能+武器が豊富で買い易い事」故に推奨武装の充実&店舗流通強化は必須である。
 そのため彼は格闘の牽制用に軽量短機関銃・光学銃を提案。
 加えてなるべく再装填可・店舗流通を目標にすべきと主張した。

「機体性能として同等額のディアブロやディスタンと贔屓目に見ても殆ど遜色ある現状に、下位機である筈のナイチンゲールにも基本同等か其れ以下な性能の改善を」
 フェンリス・ヴォルフ(gb2517)が問題点として指摘したのは、まず「基本性能の改善」であった。
 価格だけ見ればでは上位機の筈なのに、試作型雪村を他の機体に持たせた場合、性能面で同等か負けてしまう結果となる中途半端さ。
 まずは推奨武器の殆どが知覚兵器であるにもかかわらず低すぎる知覚の大幅向上。
 攻撃もせめてナイチンゲールを越える程度に。
「ミカガミは近接戦闘機なのですし両方多少は持っていて然るべきかと。命中と回避は可能なら強化を‥‥それと積載力のなさは出切ればカバーして欲しいです。兵装も良いですがアクセサリの追加と、出来れば其れ相応の装備力の強化を――可能なら両方で。後は近接戦闘機にも関わらず其の移動力の低さも、何とか改善して欲しいですね」
 特殊性能に関しては、基本的に終夜の「二刀一撃化」案を支持。
「対シェイドの目標は素晴らしいと思います。是非伸ばすべきです、そうすれば一等星も陰る事でしょう」

「ミカガミのウリはその運動性と雪村による一撃だ、わざわざ汎用機に改修したらそれが目立たなくなり誰も見向きしなくなるぞ?」
 堺・清四郎(gb3564)が銀河側スタッフの弱気を一喝した。
 自らミカガミ搭乗者である彼としては、この際愛機の改良・発展のためどんどん意見していこうという心境である。
「この機体は回避専門の機体だ、だったら装甲は最小限でも構わんだろう」
 そう言い切る彼の改善案は、回避=命中>知覚>練力と優先順位をつけた性能向上。
 さらに内蔵雪村の強化。それらのためなら、現在の防御をさらに下げても構わないと言うほどの意気込みである。
「あの化け物についていくためにもっと運動性がほしいな」
 内蔵雪村の威力向上と燃費改善のため、彼もまた他の傭兵達が推すエネルギーカートリッジの開発を提案した。

「ミカガミか。嫌いじゃない、むしろ好きな方の機体なんだけどね。問題点は山積み‥こりゃ遣り甲斐があるわ」
 資料として配付された機体カタログに目を通しつつ、鹿島 綾(gb4549)は呟いた。
「もし、これで良い機体になったら‥‥買わせて貰うよ?」
 現在はディアブロ乗りである彼女の改善案は、

 1:内蔵雪村の簡易化による機体への負担の軽減、及びに信頼性の向上
「雪村の負担、でかすきじゃーないの? 雪村が良くても、機体がダメなら意味が無いだろ」

 2:マニューバの強化
「さて。雪村を簡易化する代わりに、こっちを強化してみようか。外部タンクを増設し。その中の練力を一気に消費することで、瞬間的な性能強化をするってーのはどうよ? エンジンに叩き込んで移動力強化、機体制御に回して命中力強化、残りを雪村にブチ込んで、雪村自体の威力増加‥‥どうだ、必殺っぽいだろ?」
 行動力を消費することで移動に+修正。即座に移動し「内蔵雪村」による攻撃を行う事が出来る。その際、命中増加・雪村の知覚力修正増加――というプランである。
「ああ、ついでにマニューバの名称案も。『草薙』ってどうよ? バグアという名の草を薙いで、侵略という名の火を払うって意味を込めてさ」

 3:非物理系兵器への適応性の強化(知覚強化)
「ここを強化すれば、結果的に雪村は威力を出せるし。他の非物理系兵器でだって威力が出せるようになるだろ?」

 4:機体構造の見直し(生命強化)
「んでラスト。あの脆さはどーにかならんの? 強力な兵器って狙われやすいだろ‥‥避ければいい? 戦場に絶対なんてもんは存在しないよ?」

 本日出席の傭兵、ことにミカガミ搭乗者達とは若干異なるが、ある意味で他機ユーザーらしい意見ではある。

 さて、一通り意見が出尽くした所で――。
「本日は貴重なご意見を賜りまして、誠に有り難うございました。皆様の声を拝聴したことで、現在『ミカガミ』が抱える問題点、有るべき改良の方向性もおぼろげながら見えて参りましたし‥‥次は、我々技術陣が少しでも皆様のご希望を実現すべく粉骨砕身する番です」
 プロジェクトリーダーを始め、銀河側スタッフ一同が席を立ち、深々と頭を下げる。
 彼ら技術者を励ますべく、唯はオリジナルの応援歌『〜飛び出せ!銀河重工〜』をアカペラで熱唱した。

 大和に昇る朝日を仰ぐ 乱世に生まれしサムライよ
 熱き血潮と誠を胸に 雲海突き抜け軌跡を描け
 渦巻く闇を銀に彩り 飛び出せギンギン♪ 煌けギンギン♪

 かくして傭兵達からのリサーチを兼ねた会合は無事終了し、「プロジェクトM」はその第1歩を踏み出した。
 XF−08Aの愛称「ミカガミ」の由来は、人を食らう黄泉の妖を退ける神器からとったという。生まれ変わったミカガミが、名前通りバグアという妖を退ける神器として輝くか――それは、まだ誰にも判らない。

<了>