タイトル:【ODNK】大牟田防衛マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/03 16:26

●オープニング本文


 2008年暮れから開始された福岡バグア軍による北九州各地への侵攻は、年が明けてますますその激しさを増していた。

 空からは小型HWの集団が、また陸上からはゴーレム、タートルワーム、さらに対KV用に半機械化された改造キメラの大軍が南下し佐賀のUPC陸軍補給基地を完全制圧。一部のバグア軍は余勢をかってさらに大川・柳川を占領、有明海沿いの平野部を進撃する。
 これに対しUPC九州方面隊は大牟田近郊に新たな防衛ラインを構築、正規軍、ULT傭兵、さらには民間傭兵派遣会社SIVAへ援軍を要請し、大牟田防衛戦の準備を進めていた。

「万一大牟田を占領された場合、敵地上軍のさらなる南下を許し、熊本侵攻への足がかりとされる怖れがある」
 招集された傭兵達の前で、UPC軍将校が説明する。
「目下、我々正規軍で大牟田市街の防衛体制構築を進めている最中であるが、諸君にはその時間を稼ぐため、柳川方面から南下してくる敵地上部隊を迎撃して欲しい。なお、上空のHW迎撃はSIVA私設兵団のKV部隊が担当する。所属組織が異なる傭兵同士の協同戦線となるが‥‥先方の指揮官とも連絡を取り合い、何とかこの場をしのいでくれたまえ」

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD

●リプレイ本文

 傭兵達のKVが戦場に到着した時、バグア軍の主力は既に矢部川を渡っていた。
 スナイパーライフルらしき武器を構えたゴーレム4機が10mほどの間隔をおいて横並びに前進し、その後方では今まさに渡河を終えたケルベロス4匹が、全身から水を滴らせつつその巨体で川岸にはい上がっている。
 ベースはギリシア神話で有名な「3つ首を持つ地獄の番犬」を思わせる外観の超大型キメラだが、今は左右両側の首が切除され、代りに大口径プロトン砲2門が移植された半機械の異様な姿へと改造されていた。
「‥‥前にも見たなあ、あんな改造キメラ」
 四足歩行の陸戦形態を取った阿修羅の機上からケルベロスの姿を見やり、井出 一真(ga6977)は過去の五大湖解放戦を思い出していた。
「とはいえ、完成度は上がっている筈だ。充分注意しないと」
 あのとき北米で遭遇した奴は、おそらく戦力の穴埋めとして投入された応急兵器。だが最近各地の戦場で目撃される半機械化キメラは、明らかに初めから対KV戦を意識して設計された「新兵器」と推測されている。
「ゴーレムに改造キメラ、なかなか厄介な戦力ですね。ですがこちらも退く訳には行きません、万難を排して迎撃しましょう」
 アンジェリカ搭乗の霞澄 セラフィエル(ga0495)から、やや緊張した声で僚機に通信が届く。
「この前大型HWを落とされたばかりなのに‥‥。本気で‥‥熊本を落としにかかってるなら、まだ‥‥、これだけじゃ終わりそうにない‥‥かな」
 明星 那由他(ga4081)は不安そうに呟きつつ、イビルアイズのレーダーで敵ジャミング機の有無を確認した。
 現在、戦域の上空はSIVAのKV部隊が制空権を握っているためCWも入り込めず、通信状態も良好だが、用心に越したことはない。
 ULT側のKV10機は陸戦班として、矢部川と国道208号線の中間付近に展開している。背後の国道やその他の道路は佐賀方面から流入してくる避難民と正規軍の負傷兵で溢れかえり、それを追ってきた中小型キメラの群に次々と餌食にされていた。
 酷たらしい光景を前に、思わずキメラどもを掃射したくなるが、この状態でKVの火器を使用すれば密集した避難民まで巻き込んでしまうだろう。
 ともあれ、今はゴーレムとケルベロスの大牟田侵攻を阻止するのが先決だ。
「国道より東には行かせない様にしたい所だが、南に下らせては意味が無い」
 ディアブロの操縦席から田畑の多い開けた地勢を見渡し、九条・命(ga0148)が敵の意図を読もうと思案する。
「さて、あちらは突破と戦闘と破壊、何を優先し如何来る?」
 去年の大規模作戦では生身で参加した命にとって、今年初のKV戦である。
「――昨年の埃を落とし今年の汚れに塗れるとするか」

「そちらの状況はどうだ?」
 部隊の後方で、漸 王零(ga2930)はSIVA側指揮官であるラザロ(gz0183) に通信で問い合わせていた。
 本来なら漆黒の雷電「闇天雷」の乗り手として陣頭に立ちたい所だが、あいにく別依頼で負傷してしまったため無理のできない体だ。
 そのため、今回はあえて後方支援、及びSIVA航空部隊から情報を得ながらの戦闘管制役を担当していた。
『ラザロだ。今は大和町上空にいる』
 間もなく、無線機から男の声が響いた。
『柳川まで兵を進めたといえ、敵の足も鈍ってるな。大川周辺でも正規軍の残存部隊がしぶとく抵抗してるようだし』
「先に渡河した連中を片付けたら、何とか矢部川のラインで食い止められそうか?」
『おそらくはね。‥‥おっと、HWだ。俺はちょいと連中と遊んで来るよ』
 後の情報は部下のウーフーに転送させる――そう言い残し、ラザロは無線を切った。
「さて‥‥できることをやるしかないか‥‥」
 王零は呟くと、改めて操縦席のモニターに目を向けた。

 情報管制担当の王零機を別にして、傭兵側KVは9機を4班に分け行動していた。
「今回の依頼の目的は指定された敵を殲滅すること、ってことで問題はないな?」
 鷹見 仁(ga0232)は同じ班を組む那由他とセラ・インフィールド(ga1889)に確認を求めた。
「ええ。大牟田市街の防衛陣構築が完了次第、正規軍も避難民保護の兵力を派遣するそうですから」
 セラからの返信。
 友軍だけでも正規軍、ULT傭兵、SIVAと命令系統の入り乱れた戦域で、全軍の中における己の役割を見失っては取り返しのつかぬ事態となる。
 傭兵達のKVに目を付けたか、早くもゴーレム達がSライフルによる砲撃を開始した。
 悔しいことに、同種の兵器の場合殆どの場合バグア側の方が射程も威力も高い。さらに後方に控える改造ケルベロス達からもプロトン砲の光線が浴びせかけられた。
 Sライフルを1発撃つ度、ゴーレムは素早く前進する。進行方向から判断して、敵の狙いはやはり大牟田市街突入であろう。
「シュテルンのカスタムは間に合いませんでしたが、ディスタンもまだまだ現役です。特に今回のような防衛戦ではシュテルンよりも力を発揮する筈です」
 アウトレンジからの砲撃に晒されつつ、セラはアクセルコーティングを起動しダメージの軽減を図る。
 まずは目前の脅威であるゴーレム撃破を目指し、傭兵側も応戦に移った。
 王零からの情報を元に敵軍との距離を測定、防御の高い機体を先頭に立てて前進しつつ、有効射程に入った段階で各機が一斉に煙幕銃を発射。
 戦場は濛々たる白煙に包まれ、矢部川方向からの砲撃が一瞬途絶える。
「良く考えたら、陸戦って初めてやな‥‥」
 烏谷・小町(gb0765)はディアブロをブーストオン、僚機と共に敵前衛を目指し突撃に移った。彼女の任務は同班の須磨井 礼二(gb2034)と共に敵後衛のケルベロスを潰すことだが、戦力分散のリスクを避けるため、まずは全機でゴーレムを叩く作戦だ。
 セラに続いて煙幕銃を放った那由他は、引き続きイビルアイズのロックオンキャンセラーを起動。重力波ジャミングにより敵兵器の照準をさらに狂わせる。
「これで1分以上は有効な砲撃を阻止できると思うんだけど‥‥」

 煙幕の煙が晴れたとき、4機のゴーレムは既に眼前を塞ぐほど間近に迫っていた。
 敵も懐に飛び込まれた事を悟ったか、兵装をSライフルからバグア式BCアクスに持ち替え、直ちに白兵戦の態勢に移った。
「‥‥データよりも反応速度が速い!? あっちもまたバージョンアップってことか!」
 霞澄と組んでゴーレム1機の相手に回った一真は、以前に戦った同じ量産機のデータとの比較に息を呑んだ。人類側がKVや兵器の改造・強化を行っているように、どうやらバグア側も同じワームの性能を強化しつつあるようだ。
 だが、ここを素通りさせるわけにはいかない。
 高出力ブースター2連装で機動力を上げた阿修羅のフットワークで敵ワームに肉迫すると、一真はバルカンによる弾幕からソードウイング、またバルカンから剣翼と見せかけてサンダーホーンとメリハリをつけた攻撃でゴーレムを翻弄。
 そこで敵が見せた隙を狙い、霞澄が中距離から高分子レーザーを撃ち込む。
「Inti‥‥止めるぞ!」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はインカ太陽神の名を冠した己の雷電に呼びかけた。
 重装甲KVの武骨な機体からM−12強化型帯電粒子加速砲を発射、凶暴な光の槍がゴーレムのボディを貫く。
「黄金の太陽からの、ささやかな挨拶だ」
 KV部隊の集中攻撃により、最初のゴーレムが倒れるのに1分とかからなかった。

「よし、まず1機片付いた。烏谷と須磨井は予定通りケルベロスの方へ向かってくれ」
 後方からSライフル2門による支援砲撃を続けつつ、王零が僚機に指示を下す。
 ちょうど残り3機に減ったゴーレムを3班編制の友軍機に任せ、小町と礼二は両翼から迂回して川岸に布陣する改造キメラを目指し2度目のブーストをかけた。
 急接近するKV2機に気づいてプロトン砲の狙いを変えるキメラども目がけ、再び煙幕弾を発射。立ちこめる白煙の向こうから撃ち込まれてくる淡紅色の光条をかわしつつ、小町と礼二は目標を合わせてそれぞれレーザー砲、Sライフル「稲妻」で有効射程に入ったケルベロスから狙い打ちを始めた。
 さらに距離の詰まったところで、小町は兵装をスラスターライフルに変更。最初にダメージを与えた1匹を蜂の巣に変える。
 地響きを上げて倒れ、四肢を痙攣させる仲間のキメラには目もくれず、残りのケルベロス3匹は2機のKVへ十字砲火を浴びせようと扇状に展開した。
 が、火力はともかく運動性に関しては、所詮キメラベースの移動砲台ではゴーレムに遠く及ばない。
 礼二のリッジウェイ改が真ツインブレイドによる近接攻撃を仕掛ける一方で、側面に回り込んだ小町がスラスターライフルの弾雨を巨獣の横腹にお見舞いし、間もなく2匹目を葬った。
「如何にして攻撃を当てやすくするか‥‥操縦の腕を磨くのも一つやけど、状況の利用も上手くなりたい所やねぇ」

 その間にも、国道方面ではゴーレム3機とKV部隊の死闘が続いていた。
 強化された機動力と知覚攻撃の斧を振り回す陸戦ワームに手を焼きつつも、傭兵側は数の優位を活かして徐々に敵を各個に分断していく。
 仁はハイ・ディフェンダーをメインにゴーレムの1機と挌闘戦を繰り広げていた。
 タートルワーム同様、ゴーレムに対しても知覚攻撃の方が有効――という説もあるが、彼に取ってはこのエース用実体剣の方がなまじの知覚兵器よりよほど頼りになる相棒だ。
 同じゴーレムに対しセラがバルカン砲で牽制しつつ距離を詰め、射程に入った所で機槍グングニルの1撃。
 さらに側面に回り込んだ那由他が下半身を狙い、ヘビーガトリングの一連射50発をお見舞いする。
「‥‥ひとつ残らず‥‥もっていってください」
 蓄積したダメージに足許のふらつきだしたゴーレムに対し、仁は切り札の試作剣「雪村」を実体化させレーザーの刃を突き立てる。
 力尽きたゴーレムが倒れて自爆した瞬間、すかさずAコーティングで身を固めたセラとアブスタナットシールドを掲げた那由他が、身を盾にして国道を埋め尽くす避難民の列を守った。

 命のディアブロは真正面から振りかぶり、直撃コースでハンマーボールをゴーレムに叩きつけた。
 慣性制御により巨大な鉄球を回避したゴーレムに対し、コンビを組むホアキンがすれ違い様にソードウィングで斬撃。
 さらに間合いを詰めた命は零距離からのツインドリルで敵ワームの装甲を穿つ。
 ダメージを負いつつもなお大牟田方面へと突き進もうとするゴーレムに対し、
「抜かれる訳にはいかない!」
 ホアキンのロンゴミニアトが唸り、背後から風穴を開けて引導を渡した。

 最後の1機となったゴーレムに対し、KV部隊の攻撃が集中する。
「SESフルドライブ。ソードウイング、アクティブ!」
 一真の阿修羅がブーストオンで剣翼攻撃をかけ、BCアクスを持った片腕を切り飛ばした。
 専らレーザー砲による中距離支援に徹していた霞澄も、チャンスと見て一気に接近。
「ウイング展開、エンハンサー起動‥‥行きます! 熾天の一撃!!」
 SESエンハンサー併用で試作剣「雪村」を実体化。
 光の切っ先が外部装甲を貫き内部の生体機械まで焼き払うと、さしもの強化ゴーレムも動きを止め、田畑の中に倒れ込んだ後自爆した。

 主力であるゴーレム4機を喪失。満身創痍で生き残った改造ケルベロス2匹は、もはやKV部隊の敵ではなかった。
 そのまま小町達の班に合流。BCアクスでキメラの4足をなぎ払い、とどめの一撃を加えた霞澄は、ふと一抹の哀れを覚えて心の中で呟いた。
(「キメラ達の魂に安息を‥‥」)

 王零は「闇天雷」コクピット内のモニター画面で、ゴーレム4機、ケルベロス4匹の殲滅を確認していた。
 上空のウーフーからの情報によれば、ラザロ率いるSIVA部隊は小型HWの編隊を佐賀方面へ撃退。バグア地上軍の主力は柳川付近で進撃を停止しているという。
「残るは中小型キメラの始末か‥‥」
 これは依頼内容には入っていないものの、目の前で襲われている避難民を放っておくわけにもいかない。
 既に前線では礼二がリッジウェイを車両形態に変形させキャビンへ負傷者や女性、子供の収容を急ぎ、那由他はKVの外部スピーカから呼びかけ避難民の誘導を行うなど自主的に救助活動を始めているが、いかんせんKV10機程度でこの群衆の救出は不可能だ。
 だが、その心配は間もなく杞憂に変わった。
 王零機にUPC軍九州方面隊からの通信が入り、防衛ラインの構築がほぼ完了した事、傭兵達がゴーレムとケルベロスを排除した事で、ようやく正規軍の地上部隊をキメラ排除のため派遣できるという連絡が来たのだ。
 国道の南、大牟田方面より、74式戦車改と装甲車を主力とした機械化歩兵部隊が北上してくる。
 その後傭兵達は正規軍と協力して中小型キメラ駆除と避難民誘導を実施した。
「守りぬけた、か‥‥」
 阿修羅の操縦席から矢部川の川面を見つめ、安堵した様にため息をつく一真。

 UPC軍とバグア軍は、川の両岸を挟んで長い対峙状態に入る事となった。

<了>