●リプレイ本文
●長崎県〜橘湾沿岸
バラバラバラ‥‥
ローター音を響かせ、正規軍の対潜ヘリ部隊が湾内上空を飛行しつつ、次々とソノブイを投下していく。
護衛に付くのは傭兵達が駆る4機のKVだ。
「日本を護る上でも大事な戦いですね。大きな被害が出る前に敵の上陸を防がなくては‥‥」
アンジェリカの機上からヘリと海面を見つめ、石動 小夜子(
ga0121)は呟いた。
今の所上空にHWや飛行キメラは確認されていないが、油断は出来ない。侵入が確認されたバグア軍兵力の中には、水中と空中を自在に行き来できるマンタ・ワームもいると予測されているからだ。
ただでさえ低速の対潜ヘリなど、海面から奇襲を受けたらひとたまりもない。
「今回の作戦は絶対防衛だ。ここを抜かれれば日本の西側に拠点を取られてしまう。最終的には首都大阪が標的となるだろう」
雷電を操縦する緑川 安則(
ga0157)が僚機に通信を送った。
西日本の敵戦力としては最大規模になる福岡バグア軍――あの名古屋防衛戦以来、不気味な沈黙を守ってきた彼らが、今や北九州各地において積極攻勢を開始している。
福岡のみならず、沖縄バグア軍からもビッグフィッシュで輸送された増援部隊が薩南諸島から五島列島にかけてを席巻し、加えて那覇基地からは鹵獲ニミッツ級空母を旗艦とする機動部隊まで出撃したという。
「断固死守! 友軍は空母狩りに出かけているほどの大規模作戦だ。いくぞ!」
空戦班としてヘリを守っているのは彼らの他に御影・朔夜(
ga0240)のシュテルン、守原有希(
ga8582)のイビルアイズ。
「対潜ヘリ」とはいっても一般人兵士の操縦する在来機では歯が立たないため、ワーム発見の際はやはり彼ら能力者のKVが対応することになる。
実に十数年ぶりの帰郷となる有希は、眼下に広がる故郷の海と大地を感慨深そうに見やっていた。
同じ頃、陸戦班として海岸で待機する傭兵達も、協同作戦を取る正規軍の現場指揮官と挨拶を兼ねての打ち合わせに入っていた。
「はじめましてー。クリア・サーレク(
ga4864)だよ。よろしくねっ♪」
「風光明媚な土地を、戦場にはしたくないものです。その為には、この水際で食い止める事が重要‥‥全力で参りましょう」
と、ラルス・フェルセン(
ga5133)。
「それでは、僭越ながら以上の様によろしくお願いします。なるべく皆さんが楽できるように、我々も頑張りますので!」
新条 拓那(
ga1294)が頭を下げると、
「大村からの増援が到着するまで、自分達はあなた方の指示に従うよう命令を受けております。こちらこそ、よろしくお願いします」
正規軍側の指揮官となるUPC軍士官が背筋を伸ばして敬礼した。
現在、彼らがいる場所は矢上大橋の西側、ペンギンで有名な某水族館からは東寄りになる倉庫街の前。
全体的に山がちな海岸の多い湾内でもこの一帯は数少ない平地、しかもすぐ近くには長崎市街へと続く主要幹線道路も集まっている。防衛側としては、間違っても敵に渡せない場所だ。
UPCもその点を重視し陸軍1個大隊からなる守備隊を配置していたが、彼らの火力ではキメラ程度ならともかく、水陸両用ワームにはとても対抗できない。そのため佐世保基地から指揮を執るUPC軍少佐、松本・権座(gz0088)の判断により、正規軍KV部隊が到着するまでの間、傭兵部隊に現場指揮を委ねるという異例の措置がとられていた。
兵力が多いのに越したことはないが、狭い戦域に歩兵、戦車、KV等異なる兵種が集中し同士討ちを引き起こす事態は避けたい。そこで正規軍部隊はおよそ百名ごとに部隊を分け主要道に沿って間隔をおいて配置。戦闘車両は道路の封鎖、歩兵は建物の陰に隠れ携行火器によるゲリラ戦を担当する事となった。
先にヘリ部隊が投下したソノブイから、湾内海底の状況を示すソナー情報が地上の指揮車両へも刻々と伝えられてくる。
海中を移動する大型移動物体8。それ以外にも、大きな魚群の様な影がまっすぐこちらを目指し接近してくる。
予想通り、奴らはこの場所を上陸地点として狙ってきたのだ。
「総員、乗車! 戦闘配置に付けーっ!」
指揮官の号令を受け、一斉に戦車や装甲車へと駆け出す兵士達。
同様に、傭兵達も各自のKVへと乗り込んだ。
「『木偶』は私らが食い止めるよ。キメラは宜しくね☆」
愛機ディアブロの操縦席から身を乗り出し、聖・真琴(
ga1622)がサムズアップした。
「敵は何処まで来ているでしょうか‥‥」
最後のポイントにソノブイを投下するヘリの周囲を旋回しつつ小夜子が眼下に目をやると、複数箇所の海面が白く泡だったかと見るや、水柱を上げて4つの黒い影が飛び上がった。
通常のHWに比べるとやや扁平な、エイを思わせるマンタ・ワームだ。
「‥‥!」
小夜子はすかさず高度を下げ、ヘリを狙ってプロトン砲を放とうとしたマンタの1機を試作G放電装置で足止め、次いでHミサイルで狙い撃つ。
「知覚攻撃の方が効きそうですね。ここで手間取るわけにはいきません‥‥」
ダメージを与えたマンタまでギリギリまで距離を詰め、再度G放電の雷をお見舞いする。
他のKV3機も、ほぼ同時に応戦を開始していた。
「対空戦闘能力としては弱いが役に立つだろう」
安則は長距離バルカンでマンタを牽制しつつ、目標が回避した先を狙いG−01ミサイルを発射。
「参ります、此処は穢させません」
目標をヘリからKVに変え、プロトン砲で反撃してくるマンタ4機に対し、有希はRキャンセラーによる重力波ジャミングを浴びせる。
マンタから撃ち返される光線の命中率が目に見えて落ちた。
「さて‥‥新型の性能、貴様達で確かめさせて貰うか」
朔夜のシュテルンがSライフルで狙撃、さらに接近してスラスターライフルの砲弾を雨あられと浴びせた。
1分足らずの交戦でまずマンタ1機を撃墜。分が悪いと見たか、残り3機のワームは再び海中に逃げ込もうと急降下する。
「魔眼は伊達じゃなか、おっちゃくるで済まんぞ!」
予めその動きを読んでいた有希はやはり急降下し、MSIバルカンを掃射。
さらに1機を墜とすも、残り2機はダメージを負ったまま海中に突入した。
その時には、既にソナー情報により敵水中軍の位置も空戦班に伝えられていた。
各機はいったん高度を上げて編隊を組み直し、ヘリ部隊の離脱を確認後、海中を移動する敵影を狙い順次空対潜「爆雷」を投下。
「挨拶代わりの爆雷だ。本当はフレア弾も積んでみたかったがねえ」
安則が投下ボタンを押して数瞬の後、矢上大橋沖合付近の海上に巨大な水柱が上がり、海底火山の噴火のごとく海面が沸き返った。
水中を走る衝撃波がビリビリと操縦席を揺らす。
爆雷の全弾爆発を確認後、水中用KVに乗って八郎川河口付近で待機していたゴールドラッシュ(
ga3170)とアイリス(
ga3942)も行動を開始した。
今回、水中戦班は2機と少ない。これは空中からの爆雷攻撃が主体であること、また敵に「水中戦力はいない」と油断させ不意打ちする効果も見越した作戦である。
爆雷による水泡が収まり、改めてセンサーで確認すると、数百m離れた海中にゴーレムらしき人型の影を4つ、そして数知れぬ中型キメラの群を感知した。
「マンタがいない‥‥今の爆雷で吹き飛んだようね」
「あのキメラ、気持ち悪いですよ〜」
W−01のモニター画面でキメラの姿を確認したアイリスが、うわずった声を上げる。
無理もない。そいつらは体長2mほど、フナムシを巨大化させたような怪物だった。
牧島を襲ったのと同じタイプ、コードネーム「デス・リギア」と命名された水陸両用キメラだ。
ただでさえグロテスクなキメラが――爆雷攻撃でだいぶ数を削ったといえ――マグロのごとく群れをなして泳いでいるのだから、気色悪い事このうえない。
水中型ゴーレムもこちらに気づいたのか、プロトン砲らしき光線を撃ち込んできた。
「水中でも減衰しないなんて、いったいどういう原理なのかしらね? バグアの知覚兵器って」
ぼやきながらもビーストソウル(BS)から長射程の熱源感知Hミサイルを放ち反撃するゴールドラッシュ。アイリスも魚雷を発射するが、やはり2対4では分が悪い。
「やっぱり、2機で押さえ込むのは無理そうなのですよ」
ミサイルと魚雷を撃ち尽くすと、2人は兵装をガウスガンに切替え、キメラを掃射すると共に、ゴーレム隊を友軍の陸戦班待機ポイントまで誘導するよう図った。
「こいつらだけでも、上陸前に少しでも減らしておかなきゃね」
敵もまた上陸作戦を優先するつもりだろう。やがて水中用KVとの交戦は打ち切り、キメラ群を率いて陸地の方へ泳ぎ去った。
「小夜ちゃん達、上手くやったみたいだね。流石♪」
マンタ2機の撃墜、次いで海上に爆雷の水柱が相次いで上がるのを確認し、拓那はパチンと指を鳴らした。相方である小夜子の御守りはいつも通り身につけているが、今日は彼女自身と共に戦える事が何より心強い。
「こっちも負けてらんないな。ここが踏ん張り所だよ!」
沿岸の倉庫街付近に陸戦形態で待機するKV4機も、各自の兵装を構えて臨戦態勢を取る。
間もなくコンクリート岸壁のすぐ先の海上から水飛沫が上がり、4機のゴーレムが海中から跳躍するや陸上へと着地した。
その足元から、わらわらと蟻のごとくはい上がってくるデス・リギアの群。
1匹1匹は非力でも、大群で市街地に侵入されては正規軍も苦戦は免れないだろう。
「絶対市街地には侵攻させないんだよ! 一匹残らず片付ける!」
「さて、どこまで削れるでしょうか‥‥」
クリアのシュテルン、ラルスのワイバーンがグレネードランチャーを構え、それぞれ目標ををずらして発射。広範囲に炸裂した榴弾がゴーレムの装甲表面を焼き、キメラの群を木の葉のごとく消し飛ばす。
この時点で上陸していたキメラは殆ど始末できたが、わずかに遅れて上陸してきた数十匹を残してしまった。
やむなく後方の正規軍にキメラ対応を任せ、傭兵達は目前のゴーレムに備える。
外観は陸戦型と殆ど変わらぬ水陸両用の人型ワームは、半月刀に似た近接兵装を振りかざすや、ずんぐりしたボディに似合わぬ素早さで白兵戦を挑んできた。
ちょうど1対1の戦闘だ。
「機体が変わるなら戦い方も変えてみなきゃ。こういうのはどうだいデクの棒? 全システム稼動! 叩ぁっ斬れぇ!」
バルカン砲で牽制を加えつつ、拓那もまたヒートディフェンダーで敵に斬りかかる。
シュテルンの4連バーニアを吹かして高々とジャンプ、PRMシステム発動で命中を上げると、落下の勢いを乗せてゴーレムの機体に切っ先を突き立てた。
真琴はディアブロの各部スラスターを巧みに吹かし、バグア側のお株を奪った様な慣性制御まがいの機動でゴーレムに挑んだ。
見かけは同じといえ、なまじ水中戦機能に特化しているためか、敵の動きは純陸戦タイプに比べて明らかに鈍い。
「アタシの敵は、手前ぇ等みてぇな『雑魚』じゃねンだよ‥‥逝っちまいな☆」
ライトニングファングによるヒット&アウェイでゴーレムの装甲を削り、弱らせたところで一気にラッシュをかける。
突進してくるゴーレムに対しガトリング砲で応戦していたクリアは、いよいよ距離が詰まると機盾「レグルス」で敵の半月刀を受け流し、真ツインブレイドで反撃した。
敵ワームの間接や装甲の薄そうな部位を狙い、両端が刃となったロングソードを振り下ろす。逆手で切り返し、さらに平突きで叩き込む。
拓那と真琴が突撃した後、しばらくSライフルD−03による援護射撃を行っていたラルスは、後方へ迂回突破を図ったゴーレムの前に4脚のワイバーンで立ちはだかった。
「まずは脚を斬り裂いて差し上げましょう」
Mブーストを起動、機体の低さを利してソードウィングでゴーレムの片脚に立て続けの斬撃。
「――そして頭。スクラップにおなりなさい」
機動を削いだ敵ワームの頭部と胸部を狙い、容赦なくレーザー砲を照射する。
頭と胸に大穴を開けられたゴーレムが、被弾箇所から煙を噴きつつもしぶとく半月刀を振り上げたとき。
背後から人型変形して降下してきた朔夜のシュテルンが、着陸と同時に【OR】フォルテアルムの手刀でゴーレムの背中を貫いた。
湾内にマンタが生き残っていない事を確認した空戦班が、援軍として駆けつけてきたのだ。
さらに八郎川の岸辺からはアイリスとゴールドラッシュの機体も上陸し、それぞれガウスガンと突撃ガトリングで支援の弾幕を張る。
「此処に希望ば有らしめる為にうちは来た!」
上空からは有希がRキャンセラーによるジャミングで援護。
「雷電の得意技、本来の目的は敵前での強襲降下だ。見せてやろう! 銀河重工の夢の結晶をな!!」
レッドマントを翻して降下した安則が「黒竜」で吶喊。
「貫け! 撃ち抜け! 一撃必殺!」
雷電の騎槍が火花を散らしてゴーレムを貫き、最後の1機にとどめを刺した。
ゴーレム殲滅後、傭兵達は国道方面でデス・リギア掃討に当たる正規軍部隊を援護し、内陸部への侵入を許すことなくフナムシ型キメラを全滅させた。
戦闘後、互いの無事を確かめ合い、改めて喜びを分かち合う拓那と小夜子。
そんな2人を横目で見ながら、朔夜は軽くため息をもらす。
新機体による勝利――にもかかわらず、やはり例の既知感を覚えてしまうからだ。
「同じ結果とは言え、成果が上々なら言う事はない‥‥か」
「ペンギンさんが居るですか。アイリスも見てみたいのですよ〜」
大村から到着した正規軍KV部隊に湾岸警備を引き継いだ後、傭兵達は水族館を見物し、その後は長崎出身である有希の案内で坂本町の山王神社へ参拝した。
「上手く言えんし無理に誘わんけど、皆にも見て貰えれば‥‥」
20世紀の悲惨な戦災を逞しく生き延びた楠や片足鳥居を、仲間達に紹介しながら眩しげに見上げる有希。
「有希て名ならお前達位目指さんとね」
<了>